葡萄農家と土蜘蛛

■ショートシナリオ


担当:八神太陽

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 81 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:08月20日〜08月23日

リプレイ公開日:2007年08月28日

●オープニング

 神聖暦千と二年と八の月、京都郊外の村で一人の少年が祖父の葡萄の収穫を手伝いに来ていた。少年の名前は準吉、祖父であり葡萄作りの名人と呼ばれている茂吉に応援を頼まれていた。

「じいちゃん、どの葡萄なら摘んでいいの?」
 葡萄の木々の前に準吉は立ちすくんでいた。青い実は未成熟なのだろうと予想はつくが、黒い実だからといって採ってはいけないらしい。試しに摘んでみたら茂吉から正義の鉄拳が飛んできた。
「その程度自分で考えろ!」
 それが茂吉の弁だった。もう何が何だか分からない。
「分からないから聞いてるんじゃないかっ」
 落ちていた手ごろな石を拾って準吉は遠くに投げつける。石が見えなくなった頃、どこかで小さな悲鳴が聞こえたような気がした。

 一刻後、準吉は当初の目標である桶一杯に葡萄を摘んで茂吉がいるはずの場所まで戻ってきた。
「じいちゃん、終わったよぅ」
 額の汗を拭きつつ、実際以上に疲れた振りを見せる準吉。しかし当の茂吉の姿が見えない。辺りを見渡すと近くに大きな穴が開いていた。
「じいちゃん、かくれんぼでもしてんの?今日は葡萄狩りするんだろう」
 しかし反応はない。準吉は桶を一旦地面に置き、穴に近付いてみることにした。穴は一丈程あるだろうか、思ったより深く底は暗くて確認ができない。準吉は試しに穴に向かって叫んでみた。
「おーい、じいちゃん。葡萄摘んできたぞ。かくれんぼなら終わりにしよう。」
 準吉はしばらく穴を覗き込んでいると、わずかだが中で何かが光ったような気がした。
「ん、じいちゃん怪我してるのか?」
 穴の周りを確認すると、誰かが滑ったような跡が残っている。大きさから考えると茂吉のもので間違いなさそうだ。
「ちょっと待ってろ、じいちゃん。俺が助け呼んで来るから」
 準吉は急いで村へと戻っていった。

 村に戻った準吉は一軒一軒家を回り助けを求めたが、協力してくれるものはいなかった。始めは乗り気の人もいたが茂吉が怪我した状況を教えると、何故かみんな及び腰になっていた。最後の一軒まで断られると、準吉は思い切って尋ねてみた。
「なんでじいちゃんを助けてくれないんです?口は悪くて頑固で石頭で融通利かないけど、悪い人じゃないはずです」
「んーそれは分かっているんだけどな。俺もまだ死にたくないんだよ」
「死にたく、ない?」
 準吉が聞き返すと、最後の一軒の主人はばつの悪そうな表情を浮かべ小声で教えてくれた。
「この近くには土蜘蛛っていう奴がいるんだよ。やつらは大きな縦穴を掘っては生き物が穴を入るのをずっと待っているんだ。茂吉爺には悪いけどな」
「そんな、じいちゃんが死んでもいいっていうのかよ」
 準吉は自分でも言葉使いが悪くなっている事に気付いていながらも止める事が出来なかった。
「じいちゃんは村一番の葡萄作りの名人なんだろ?村の人達に葡萄の作り方教えたのもじいちゃんなんだろ・・」
 しばらく沈黙の後、最後の家の主人は弱弱しく答えた。
「・・だったら冒険者ギルドに行って見るといい、誰かが助けてくれるかもしれん。金はかかるがな」
 主人は会話終了とばかり玄関を閉めた。
「冒険者ギルド・・」 
 準吉は忘れないように冒険者ギルドという言葉を繰り返しながら京都に向かっていった。

●今回の参加者

 eb3235 建御日 夢尽(34歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3328 水館 わらび(29歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5239 川北 水藻(33歳・♀・忍者・河童・ジャパン)
 eb7213 東郷 琴音(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec2502 結城 弾正(40歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ec2942 香月 三葉(36歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)

●サポート参加者

菊川 響(ea0639)/ 紅林 三太夫(ea4630)/ ナナ・ナナ(ec3026

●リプレイ本文

 準吉に手を引かれる様にして冒険者達は茂吉の葡萄畑へと到着した。多少時期が遅れ気味にはなっているが、多くの葡萄が瑞々しく実っている。
「おいしそうだね」
 水館わらび(eb3328)は実っている葡萄を一房手に取って見る。暑い日が多かったためか多少小ぶりではあるが深い紺の色をしている、ちょうど食べごろだろう。
「でも本当は時期遅れなんだ」
「・・摘み取ってからも葡萄が色づくからですか?」
 植物知識を持っている香月三葉(ec2942)が代わりに答えると、準吉が小さく頷いた。
 まだ解明はされていないが、植物は摘み取ってからもしばらくは育つといわれている。それを考えると、これらの葡萄が店頭に並ぶころには時期が過ぎている可能性がある。そのためにも早く茂吉を助ける必要があった。
 菊川響(ea0639)の助けもあり、急いで現場に駆けつけた冒険者達は次に問題の穴の確認に入った。
「話には聞いていたが、思ったより深いじゃねーか」
「日が高いから一応底まで確認できるっていうのは不幸中の幸いね」
 建御日夢尽(eb3235)、川北水藻(eb5239)が感想を漏らす。穴は一丈程と言う話だったが、真下に伸びているためか距離感が掴みにくくなっている。
「距離に関しては実際に試してみた方が早かろう。それほど時間に余裕があるわけでもない、行動に移ろうか」
「そうね」
 結城弾正(ec2502)の言葉で冒険者達は一斉に救出準備に取り掛かった。

 まずは結城が前もって準備していた縄梯子の端にロープを繋ぎ合わせ、近くの木に結びつける。横では心配そうな顔で準吉が見つめていた。
「葡萄の木ってそれほど頑丈じゃないんだ、地面もあんまり固くないしね。あんまり木を当てにしないでね」
「まかせておけ」
 表情を変えることなく東郷琴音(eb7213)は答えた。淡々とした口調ではあったが、逆に自信あるようにも準吉には聞こえた。
「それとこれを健御日殿の元へ届けておいてくれ」
 東郷は準吉に提灯を手渡した。
「穴の中はまだ暗そうだからな」
「わかった」
 元気良く準吉は走っていった。

 全ての準備を終え、健御日は右手に提灯、左手にロープを握り締め穴へと入っていく。。
「坊、絶っ対ェおまえの爺さん連れ戻してやるからな」
「よろしくお願いします」
 準吉は深く頭を下げた。
「問題はこれからだな」
「ですね。夢尽さん、そちらはどうですか?」
 香月の声に穴の奥から答えが返ってきた。
「爺さんは大丈夫そうだ。多少足をくじいているようだが、回復薬飲ませといたから問題ないだろ」
「・・他に何か見えるか?」
「何もない、な」
 しばらく間をおいて健御日の声が返って来る。
「そちらも注意してくれ」
「分かった」
 水館、川北、東郷の三人は穴を守るように背を合わせ、周囲を警戒を始める。その間に健御日と結城は茂吉を救出するために茂吉にロープを結びつけ、引き上げ作業を開始していた。香月は茂吉を守るために魔法の詠唱を開始している。

「来たか」
 葡萄の木々に隠れながら土蜘蛛が近寄ってきていた。
「あとどれくらいかかるかしら?」
「穴が狭く茂吉さんの足が引っかかっているようだ。もうしばらくかかる」
「了解です」
 香月が距離を保つためにペットのトメキチさんにクリエイトファイアーを詠唱してもらい威嚇を試みる。しかし餌を奪われそうになっていることに気付いているのか土蜘蛛も引いてはくれなかった。
「引いてはくれんか」
「しかたないでしょう、土蜘蛛も生きていますから。だからといって、簡単に食べられるつもりはありませんが」
 それまで間合いを見計らっていた土蜘蛛は跳躍して大きく口を開いてきた。唾液にまみれた二本の牙が鈍く光っている。
「牙に気をつけろ。噛まれれば毒に犯されるぞ」
 土蜘蛛との戦闘経験がある川北が注意を促す。東郷は日本刀で土蜘蛛の牙を受け止め、水館は巻物からウィンドスラッシュを発動させた。傷ついた土蜘蛛は体制を整えるために一度大きく後退する。
「毒は嫌いなんだよね」
「同感。それに時間も稼ぎたい気分でね」
 川北は蜂比礼を大きく振りかざした。
「これでしばらくは大丈夫。爺さんの方、急いどくれ」
「わかった」
 結城は力強く答えた。

 東郷は後退した土蜘蛛にソニックブームで牽制、水館もウィンドスラッシュを発動させて土蜘蛛を傷つけるが致命傷には至らない。そんな二人に背後から声が響いた。
「茂吉は助けた。あとはそいつだけだ」
 茂吉を香月に任せ、結城がハンマーを手に突撃しに行く。後ろに東郷が続いた。
「こんなことは二度とさせない」
 結城のハンマーが土蜘蛛に重傷を与え、東郷の日本刀が二つに裂いた。
「やるもんじゃな」
 茂吉は呟いた。

 その後、茂吉は無事回復。再び葡萄摘みに勤しんでいた。
「じゃが借りは作らん」
 気付け代わりに飲んだリカバーポーションを健御日につき返し、冒険者達には葡萄を振舞っていた。河童に驚かないか川北は心配していたが、それも杞憂に終わった。
「人間でも河童でもエルフでも美味いものを美味いと言える。それが最大の喜びじゃろうが」
「いいこと言うな、爺さん。気に入った」
 隣では香月が葡萄を搾ってジュースを作り、トメキチさんに飲ませている。どうやらトメキチさんにもおいしいらしい。
 
 葡萄に舌鼓を打った後、冒険者達は茂吉、準吉の元を後にすることにした。
「それじゃ準吉、お仕事がんばるんだぞ」
「茂吉殿も気をつけて」
 水館は葡萄の料金を準吉に握らせ、冒険者は京都の街へと戻っていった。