愛し姫に滅ぼされた村
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■ショートシナリオ
担当:八神太陽
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:8人
サポート参加人数:6人
冒険期間:08月25日〜08月30日
リプレイ公開日:2007年08月31日
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●オープニング
神聖暦千と二年と八の月、京都郊外の村に一人の木こりとジャパン語を話せない少女が住んでいた。
二人が出会ってから一月、木こりは少女が少しずつジャパン語を覚えていく様子を一番近くで見つめていた。孤独を好む男だったが、いつしか少女の成長を見守ることが木こりの喜びとなっていた。
そんなある日、木こりは少女の名前を知らないことに気付いた。そして自分も名乗っていない事に気付いた。名前を伝えられる程少女はジャパン語が使えないのも事実だが、それでもいつか名前を言い合えるようになりたいと考えるようにもなっていた。
少女の住んでいたと思われる場所は木こりの家から徒歩で二刻、それほど遠い場所ではない。木こりは時間を見つけて行ってみることにした。
目的地は山の中にあった。
行く途中途中に罠が仕掛けられていたのは気にかかったが、木こりは村の跡地に侵入する。
そこが廃村となったのはつい最近のこと。少女を見かけた時期と一致しており、何か関連があると思っていた。
しかし跡地は山賊と思われる輩が我が物顔で闊歩していた。廃村を都合の良いねぐらとでも思って住み着いたものか。不吉な予感を覚えつつ、木こりは辺りが暗くなるまでじっと待った。
そして夜、周囲を警戒して跡地に残る建物に侵入を試みたが、その前に落とし穴に足を取られた。見晴らしのいい場所だからと足元の警戒を怠った木こりは己の迂闊を恨む。穴の中には既に先客の人骨が、入っていた。
「ひっ」
おもわず声を上げる木こり。その声を聞きつけた山賊達が集る。
木こりはなされるがままに建物の中へ引きづられ、椅子に縛り付けられた。目の前には四人の屈強な男達がいる。身なりは汚いものの装備だけは整えている、山賊の幹部達なのだろう。壁には斧や槍など腕力にものをいわせる武器が立てかけてあった。
「旅人では無いな。見たところ木こりのようだが、お前は何しに来たんだ?」
「・・」
「何か言えよ、コラァ」
木こりの鳩尾に拳が入る。木こりはうめき声を上げたが、山賊の手がやむ事は無い。
「おい、この辺にはジャパンにはない珍しいもんがあると聞いたが、何か知らないか?」
「よく分からん木の彫り物とか書物だとかはあるんだけどね、俺達の狙いは地下通路みたいなやつなんだよ。本も良く燃えるから好きなんだけどな、あひゃひゃひゃ」
木こりは相変わらず答えない。正確には答えを知らないわけだが、山賊は答えないのは理由があると考えた。もしくは、単なる暇つぶしかもしれない。
「とりあえず生爪剥ぐか」
一人が小刀を取り出した。
山賊の尋問に木こりはあえなく気絶。結局情報を得られなかった山賊達は木こりを泳がせる事にした。
「いいのか?」
「わざわざここまで来たって事は、何かある。この村について知っている奴がこの木こりの身近にいる可能性もあるしな。いざとなれば魔法で探し出せばいいし、逆らうなら殺す。家族も家も燃やしてやる」
翌日、木こりは森の中で目を覚ました。
「俺は夢でも見てたのか?」
しかし右手の爪は全て剥がされている。恐怖に身を震わせた木こりは、村には帰らず京都のギルドに足を運ぶことにした。
●リプレイ本文
「ないす、つー、みーちゅー?あいむ・・かりょー・はくよくじ」
将門雅(eb1645)が便宜を図ってくれた新撰組の出張所で、白翼寺花綾(eb4021)は父である白翼寺涼哉(ea9502)から受け取った手紙を少女に読んでいた。しかし見知らぬ顔が多数あるためか少女はしきりに周囲を見回している。将門司(eb3393)の出してくれた食事にも手をつけずにいた。
木こりの帰りを首を長くして待っていた少女の前にリアナ・レジーネス(eb1421)は現れたのは半刻前のことだった。
「これから周囲が騒がしくなりますので、避難しませんか?木こりさんも待ってますから」
「・・?」
顔見知りのリアナに言われるがままにフライングブルームに跨ったが、少女は状況を理解できていなかった。道中聞き覚えのある歌をカンタータ・ドレッドノート(ea9455)が歌ってくれたため遠足か何かと思っていたが、着いた先には肝心の木こりの姿は無い。その上ほとんどが見知らぬ大人達だった。
同年代位の花綾と顔見知りの明王院浄炎(eb2373)のそばで、リアナの渡してくれたエクソシズム・クロスを握り締めていた。
その頃、当の木こりは森の木陰で涼哉の治療を受けていた。
「握れるか?」
木こりは恐る恐る右手を握り締めたが、特に違和感は無い。木こりは大きく頷いた。
「魔法っていうのはすごいな。俺の経験では一月はかかる怪我だったんだが」
「使い方次第だ」
周囲の状況を確認に行ったフィーナ・グリーン(eb2535)が戻ってくるまでの間、涼哉は木こりに状況を説明した。
「・・つまり俺が泳がされていると?」
「可能性の一つだがな」
やがてフィーナが愛犬をつれて姿を現した。
「兎か何かを捕まえるような罠はいくつかありましたが、恐らく山賊のものではないでしょう」
まだ日が高い、堂々と行動することに危険を感じていたフィーナは名言を避けた。だが各種の可能性を考えるのなら手は広げておいた方がいい。
「移動しましょう。昼の間に全く移動しないのも山賊に怪しまれる気がします」
「そうだな」
三人はフィーナの調べた範囲内で移動を開始した。
翌日、夜が明ける前に木こりは迎えに来てくれた雅のおかげもあり、無事出張所まで到達していた。
「何とか間に合ったわ」
一安心する雅、大げさに額の汗を拭う仕草までしている。
「例の女の子に朝起きた時には木こりがいるって約束したさかい、間に合わなかったらどうするか心配で仕方なかったんよ」
「それが迎えに来た理由か?」
涼哉が半分呆れ気味に尋ねると、雅は軽く舌を出して笑った。
「そうでも言わないと少女は寝付いてくれなかったんよ。カンタータさんの魔法でまだ少女の方が狙われてはいないみたいやけど、寝不足で倒れられたら、うち木こりさんに合わせる顔無いで」
「でも、もう大丈夫みたいですよ」
フィーナが感想を漏らす。彼女の視線の先では木こりの帰りに気付いたのか、少女が出張所から飛び出してきていた。
「あとの問題は山賊ですね」
三日後の夜、冒険者達は廃村近くで日が暮れるのを待ちつつ最後の作戦会議を開いていた。山本佳澄(eb1528)とフレア・カーマイン(eb1503)の情報を元に作成した地図を広げ、乱雪華(eb5818)は状況を説明していった。
「あたしのペンデュラムによると怪しいのは中央の建物です」
地図の中央には一回り大きな建物が示されていた。
「恐らく集合所として使われていたのでしょう」
「剣を振るうには十分な広さがある」
備前響耶(eb3824)が乱の言葉を補足した。
「山賊側としても同様のことが言えるがな」
山本が頷いた。
「三日間監視していましたが、二人は常駐しているようです。また同じ場所で睡眠を取っている様子ですので四人ともいる可能性が高いですね」
そこで乱が考えたのが上空から攻撃の行えるリアナと乱の奇襲だった。
「あたしが南から、レジーネスは北から奇襲をかけます。騒ぎに乗じてでてきた四人西からを叩いてください」
室内に直接奇襲という案も無いではなかったが、死者の眠る村である。あまり破壊したくないということで乱の案が採用される事になった。
「それでは後武運を」
「よろしく頼みます」
リアナと乱がそれぞれ上空に舞い上がるのを確認し、六人は村の西側へと向かった。
四半刻後、リアナからのヴェントリラキュイで報告を受けた六人は村の中央目指して走りこんだ。
「よぅ遅かったじゃないか」
中央の建物前では四人が待ち構えていた。
「北と南でも騒いでいるところを見ると合計八人ってとこか。強そうな割に頭数だけは揃えてくるんだね、ご苦労な事で」
四人の内、一人は冒険者を前に笑い出す。釣られて他の三人も笑い始めた。
「随分時間もあったんだ。何かしらお土産は期待してもいいんだろうな、あひゃひゃひゃひゃ」
「貴様等に与えるものは何も無い」
備前が腰に手をかけた。それが全ての始まりだった。
「おもしろいものを見つけたんで試し切りさせてもらうぜ」
四人の得物は槍、斧、素手、ハルバート。始めに突撃してきたのはハルバートだった。
「吹っ飛んじまいな」
「その言葉、そのまま返しましょう」
ハルバートを止めたのはフィーネのホーリーパニッシャーだった。柄の部分に鎖を巻きつけ、敵の動きごと封じにかかる。
「初めて使えるほど、その武器は甘くありません」
「やってみなけりゃわかんないだろうが!」
手にまきついた鎖をハルバート使いは力任せに引き寄せる。単純な力の比べ合いではハルバート使いに軍配が上がった。
しかし今は一対一の戦いでは無い、懐に雅が潜り込むナイフを突き立てる。
「脳味噌筋肉じゃうちらにゃ勝てへんで」
「全員筋肉ってわけでも無いですけどね」
素手が印を結び高速詠唱、自らの鎧を光らせ雅の視界を奪った。
「ただ脳味噌筋肉も結構役に立つんですよ」
「同意見だな」
涼哉が目を隠していた扇を下ろしながら答える。
「だが常に脳味噌筋肉の影に隠れて楽しいか?」
京都での涼哉の調査は空振りに終わった。だが木こりから聞いた話から想像するに敵の陰陽師はプライドが高いのではと涼哉は考えていた。
「自分一人の力で何かできるものはあるのか?」
「だまれ」
素手の男は懐から針のようなものを取り出すと、涼哉目掛けて投げてきた。数は五つ、涼哉には多すぎる。その時、涼哉の前に備前が盾となった。
「涼哉殿、狙いはわかるが流石にやりすぎだ。光があるとはいえ、夜間の飛び道具はほぼ視認できん」
「後で治療してやるよ」
備前は苦笑を浮かべ、素手の男に切りかかる。それを邪魔するように斧使いの斧が備前の日本刀を狙っていた。ぎりぎりで回避しカウンターを狙う備前、しかし半身となったところに槍が伸びてきた。
「あひゃひゃ、対多数戦でのカウンターは命取りだってしらないの?夜間なんだから気をつけないとね」
「あなたもです」
槍使いの腕には山本の日本刀が生えていた。追い込みをかけるようにカンタータがファンタズムを詠唱、地面から怪骨が湧き出す映像を槍使いに送り込ませた。しかし槍使いに変化は無い。
「何しようとしたか知らないが、精神物なら効かないぜ?何たって脳味噌筋肉だからな、あひゃひゃひゃ」
「ならば、これでどうでしょう?」
カンタータはシャドウボムを高速詠唱、槍使いの足元で爆破が起こった。転倒する槍使い、そこに上空から乱が駆けつけた。滑空の勢いのままに槍使いに拳を叩き込む。
「しばらく眠ってもらうよ」
劣勢に立たされた山賊側は散発ながら反撃を試みるも、斧使いが山本に手傷を負わせただけに終わった。涼哉はコアギュレイトで素手の男を拘束に成功し、リアナから部下達の逃亡の報が入ると斧使いとハルバート使いも降伏した。
「降伏するか、意外だったな」
「脳味噌筋肉は訂正だな。損得勘定はできるようだ」
気絶していた槍使いを含めて冒険者達は四人を拘束、備前と涼哉が事情聴取を担当した。
「ではその間、あたし達は本来の目的を済ませることにしましょう」
残りの六人は少女の名前の手がかりとなるものを探しに建物の中へと入っていった。
建物の中はかなり荒らされていた。山賊達が寝床にしていたという話だったが、どこで寝ているのか不思議なほどの状況だった。
「これだから男の人は・・」
率先して入っていく乱。ペンデュラムでも結果を信頼して内部を捜索していると、足元に何かが当たった。
「櫛でしょうか?」
受け取った山本も同意した。埃をかぶっているが綺麗な木目をしている、それなりに値の張るものだろう。
「男しかおらへんみたいやったから化粧道具の良し悪しが分からなかったのかもしれへんな」
「かもしれませんね」
櫛の他にも手鏡や小さな鋏なども落ちている。
「鏡も結構高いのですけどね」
乱が鏡を触る。微妙な違和感を感じた。
「この鏡、膨らんでますね」
「膨らむ?」
そばにいたリアナが鏡を触ると、確かに膨らんでいる。
「もっと光が欲しいところね」
その時だった。窓から激しい光が入ってきた。カンタータが慌てて飛び出すと、先ほど捕まえたはずの四人が燃えていた。
「だれか火を消せる人はいないか?」
涼哉がカンタータを見つけては尋ねてみる。
「素手の男が魔法を使わないように注意していたが、槍使いも精霊魔法を使えたようだ」
槍使いを中心に炎の壁が作り出されている。
「まさか自害用・・」
「可能性はある。が今はそれを考えていても仕方あるまい」
乱は文字の浮かび上がった手鏡を片手に立ち尽くしていた。
翌朝、冒険者達は木こりと少女を迎えに主張所を赴いていた。乱が木こりに鏡を渡す。
「魔鏡、というもののようです。様々な角度から光を当ててみてください」
木こりは言われたとおりに鏡を振り回していると、やがて文字が浮かび上がってきた。
「イギリスの文字です。『母なる大地よ、かの地に眠れる魂に幸あれ。わが子マリアに祝福を』ですね」
「マリア・・」
少女は笑っていた。