髪の生えた死食鬼
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■ショートシナリオ
担当:八神太陽
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月29日〜09月03日
リプレイ公開日:2007年09月06日
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●オープニング
神聖暦千と二年と八の月、江戸郊外の森の中で二人の狩人が対峙していた。一人は新造、近くの村で一番の狩人と呼ばれる男。一人は信二、常に二位に甘んじていた男だ。
今日二人が森に来たのは狩対決をするをするためである。提案したのは信二、万年二位の汚名を返上するために新造を呼び出したのだった。
狩対決のルールは、より多くの獲物を捕らえたほうが勝ちというだけだ。ただし強い獲物に関しては加点するというルールである。時間は夕暮れまで、二人は思い思いの場所へと向かっていった。
一刻ほど経った頃、信二は新造を発見した。腰には兎や山猫など三匹がくくりつけられている。一方、信二の腰には一匹しかいない。
「‥‥さすがじゃな、新造」
「運が良いだけだ。そうだ、さっき鹿を見つけたが逃げられた。あれを獲った方が勝ちであろうな」
新造の言葉が余裕と聞こえて、信二は腹が煮えた。
「くくっ、だがまだ負けた訳じゃない」
信二がこの森を選んだのには理由があった。この森には大鴉が住んでいると噂を聞いた事があった。どこに住んでいるかは分からないものの、光るものを集める習性があるらしい。賭けだったが、信二は前もって準備していた翡翠を取り出した。
運が向いてきたかと思った。信二の前には大鴉が居る。強敵ではあるが、このために修練してきた。一匹なら倒せない事もない、しかしおまけがついていた。大鴉は死食鬼の頭に乗っていたのだ。
「‥‥死食鬼に髪が生えたみたいだ」
しかしそんな冗談を言っていられる程、信二には余裕がない。いや勝てる訳が無かった。信二は一目散に逃げ出した。
「はぁはぁ‥‥ここまで来れば‥‥」
森を出た信二は、新造の事を思い出した。いくら新造でも死食鬼には勝てない。だが森に戻って知らせる勇気は無かった。気がつけば信二の足は江戸に向かっていた。冒険者ギルドを目指して。
●リプレイ本文
依頼を受けた冒険者達はセブンリーグブーツや韋駄天の草履を使って現場へと急行した。どちらも持っていなかったレイ・カナン(eb8739)は愛馬のあーで追いかけるつもりだったが、シャノン・カスール(eb7700)がブーツを貸し出してくれたため他の冒険者達と足並みをそろえる事にした。
「迷子になられては困るからな」
「失礼ね。人よりちょっとだけ迷子になりやすいだけじゃない」
二人のやり取りを見ていた十六夜りく(eb9708)は苦笑を浮かべながら前を浮かべていた。
「何だか今回の依頼も楽しくなってきたわね」
「そうですね。死食鬼に髪が生えるなんて楽しそうです」
御門魔諭羅(eb1915)がりくに微笑み返す。りくはわずかに頭痛を感じていた。
目的地である森に着くと、眞薙京一朗(eb2408)はまずペットの鷹、静琉を上空に飛ばし空の警戒を開始した。
「これで奇襲だけは回避できるだろう」
空高く駆ける静琉、眞薙の声に答えるように一声力強く声を上げた。
「あとは死食鬼だな」
信二の話によれば死食鬼の大きさは六尺弱、多少大きめの人間と変わりない。逆に言うと、人間が隠れられそうなところなら死食鬼も隠れられるということになる。
「あんまり屈伸運動をしている死食鬼なんか見たく無いんだけど」
といいつつも茂みを一つ一つ丁寧に見回る石動流水(ec1073)。口調こそはおちゃらけているが、前後左右を常に警戒している。
「それじゃ私達は新造さん探しね。今襲われている途中でした、なんてことだったら悔やんでも悔やみきれないしね」
ペットの忍犬らいを伴って進みだす十六夜は森の中に入る。優良視力を持ったレイも同行するした。
「迷子になるかもしれないけど、その時はよろしくね」
「迷子になりにいくようなものだし、細かい事は気にしない方向で行きましょ」
新造の匂いがついているものは残念ながら信二は持っていないらしい、そこで二人は火を起した匂いを頼りに調べる事にした。
新造が見つかったのは翌日、先行偵察をしていたレイと十六夜が襲われている新造を発見した。弓を背中に抱えながらも短刀で空を飛ぶ大鴉を狙っている。まだ死食鬼の姿が無いだけ幸いというものだろうか。
「足痛めているのかしら」
「かもね。誇りだけで生きているようには見えないし」
空を飛ぶ大鴉に弓と短刀どちらが効果的かと言われれば、答えを出すのは難しいだろう。弓にしろ短刀にしろ急所を狙わない限り致命傷を与えるのは難しい。逆説的に言ってしまえば、致命傷を与えられない状況ならば逃げるのが賢明なのだ。しかし新造は逃げようとはしなかった。
「私が魔法で鴉を引き付けるわ。りくはその間に新造をよろしく」
「よろしくされたわ」
レイは大鴉が空に舞い上がるのに合わせてウォーターボムを発動させる。高速詠唱できないためか鴉には避けられてしまったが、動きを止めるだけなら十分だった。
ウォーターボムで動きを止めた大鴉の隙をついて、十六夜は新造の元まで走りこむ。
「大丈夫か?」
「何とかな・・骨の化け物と鴉に挟まれた時は流石に死を覚悟したが、最後にあなたのような女性に会えて俺は幸せ者だな」
「あはは、どうやら大丈夫そうだね」
りくは新造の口にリカバーポーションを突っ込んで飲ませ、無理やり立たせた。
「立てるか?」
「立たせてから聞くなよ。美しいお嬢さん」
「その調子なら走る事も出来そうね」
笑う十六夜、その横ではレイが青筋を立てている。
「笑う暇があるなら手伝ってくれる?」
「それもそうか」
十六夜は手裏剣を投げつけると鴉の翼に命中、鴉はよろけながらどこかへ去っていった。
「これで一安心だね?」
「今の内にあたし達も合流しようかしら」
しかしここでレイの迷子属性が発動、三人は森の中で彷徨う事になってしまった。
シャノンがテレパシーとグリーンワードを駆使し三人を発見したのは一刻後、森の中は既に夕闇に包まれていた。
「一度引きますか?」
信二は提案したが、眞薙は難しい表情を浮かべた。
「依頼条件はほぼ達成した。だがこのままでは森から脱出する事も難しいかもしれん」
シャノン、レイ、十六夜の三人は確かに夜目が効く。一方、鴉は夜目が効くとは考えづらい。逃げようと思えば逃げ切れるかも知れない。しかし死食鬼も夜目が効く可能性が高かった。
「不死者は夜目が利かないというのは楽観的な見方かもしれませんね」
冷静に考えシャノンは呟いた。
「夜明けまで待ちますか」
夜目が利く者が三名いる。交代して見張りに立つ事にし、冒険者達は多少涼しくなった夜を雑魚寝で過ごした。
翌朝、一番始めに以上を察知したのは鷹の静琉だった。
「鴉が来ましたか・・」
石動は確信めいた尋ね方をすると、眞薙は短く「だろうな」と答えた。
「昨日のレイとりくを話しを聞く限り、鴉と死食鬼が連携を取っている可能性は薄い。どちらかを落としてしまえば後は楽になるだろう」
「そうね」
りくが答えた。
「だったら鴉がおすすめかしら。昨日多少なりとも傷を負わせたはずだから、多少は動きが鈍っているはずよ」
「では俺がライトニングサンダーボルトで狙わせてもらおう。本音としてはファイアーバードの方が良かったが、あの鴉は拓けた場所が嫌いらしい」
シャノンがおもむろに巻物を取り出し、フレイムエリベーションを眞薙、十六夜、石動に発動させた。
「足場は悪いがそれは向こうも同じ、人数が多いだけこちらの方が有利だ。鴉を倒すまで引き離しておいてくれ」
「了解だ」
「あとは私のスリープがどの程度効くかと言うことですね」
御門がやや沈痛な表情で話した。
大鴉にスリープが効かないということはない、しかし空を飛んでいる鴉にスリープが効いても落下すれば衝撃で目覚めてしまうのだ。もちろん落下の際にある程度傷を負わせる事はできるだろうが、森の中は下草が生えている場所が多い。それほど大きな傷は期待できないだろう。
「少しの間でも動きが単調になれば隙はつけるから、あんまり深く考えなくてもいいんじゃないのかな?」
レイが御門を励ます。しかし横では十六夜が呆れ顔になっていた。
「迷子になったばかりなのに、呆れるほど前向きね」
「それが私の取り得だからね」
やがて鴉が肉眼でも確認できる距離になると、冒険者達の背後から死食鬼が姿を現した。
「やってくれる」
不意をつかれた形となった冒険者達だが、背後を守っていた石動はエリベイションの効果もあり死食鬼の初撃を見事回避した。
「髪生えてないなんて詐欺だ!」
石動は不満をこぼしながらも反撃、フェイントをからませた攻撃は見事死食鬼に命中したもののあまり手ごたえが感じられない。
「その上固い、厄介な敵だね」
「それほど気にするな。俺達の務めはこいつの足止めだ」
冷静に答える眞薙、愛刀の飛鳥剣を鞘から取り出し死食鬼を睨みつけた。
「さて私達は単独行動をしている髪を先に始末しますか」
御門は試しにスリープを詠唱、見事大鴉の抵抗を破るがやはり予想通り落下させるだけだった。
「だが、それで十分だ」
大鴉が立ち上がる前にシャノンがライトニングサンダーボルト、レイがウォーターボムを発動させる。
「結構効いたんじゃないかな?」
レイの狙い通り、大鴉はもはや動けなくなっている。
「これで終わりですね」
最後とばかりに御門がムーンアロー専門で詠唱、大鴉に止めを刺した。
「後はこちらだけね」
苦笑交じりに呟く十六夜、死食鬼は素早いだけではない想像以上に固かった。火遁の術でダメージを蓄積していくが、まだ死食鬼の動きは衰えない。
「だが向こうが終わったのなら本気で行かせてもらおう」
眞薙が剣を振るう。そこまできてやっと死食鬼の動きに陰りが見えた。再び石動が剣を振るい十六夜が火を吐くと、死食鬼の動きが止まった。
「随分と無茶をしたものだな」
剣を収めながら眞薙は信二に言った。
「一人で勝てると思ったのか?」
「そうね、ちょっと甘く見すぎよ。怪物達に殺された人って少なくないの」
それ以上誰も言えない雰囲気の中、冒険者達は京都へと戻っていった。