冒険者って便利屋さん?−収集−
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■ショートシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 48 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月17日〜10月23日
リプレイ公開日:2006年10月27日
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●オープニング
●冒険者ギルドINキエフ
広大な森林を有するこの国は、数年前より国王ウラジミール一世の国策で大規模な開拓を行っている。
自称王室顧問のラスプーチンの提案によると言われるこの政策は国民の希望となり支えとなった。
けれど希望だけではどうにもならないことが多いのも事実──特に、暗黒の国とも呼ばれる広大な森の開拓ともなれば、従前から森に棲んでいたモノたちとの衝突が頻発することも自明の理であろう。そして、そのような厄介ごとはといえば、冒険者ギルドへ持ち込まれるのが常である。
夫婦喧嘩の仲裁や、失せ物探し、紛争の戦力要請など種々多様な依頼に紛れ、今日も、厄介ごとが持ち込まれていた──‥‥
「本気なのか?」
「伊達や酔狂で頼みに来るほど暇じゃないんだけどね」
眉を顰めるドワーフのギルド員の反応に、依頼人は気分を害したようだ。
ひとつ咳払いをして強引に誤魔化し、ドワーフのギルド員は羊皮紙を取り出した。
依頼人は柔らかな茶色の髪を揺らし不機嫌に鼻を鳴らしたが、新米ギルド員がハーブティーを運んでくると新鮮な薬草の香りに表情を和らげた。カップを傾けると喉を湿らせるハーブティーに気を取り直し、片頬を上げた。
「場所は、先ほど言ったとおり、屋敷の裏に広がる森の一角だよ。案内は僕が自らしてあげても構わない」
「それはありがたいことですな」
大仰に喜び手をたたくギルド員。支援者に名を連ねるやもしれぬ貴族の機嫌を取るのも重要な仕事のひとつなのだ。
ベテランともいえるドワーフのギルド員が失態を見せたのには理由がある。その理由こそが今回の仕事の最たるものであった。薬学者を自称する青年が持ち込んだ依頼とは──植生の豊かな森から、とある物を回収して欲しいというものである。いや、回収というのは正しくないだろう。正確には『収集』である。
そして、目的の品は──ビリジアンモールドの胞子、である‥‥。
「ルシアンに清らかな聖水の空いた壷を入手してもらったから、これに回収してもらえるかな。量は多いほど良いけど、モールドの胞子は毒だからね。どこまで踏み込んで回収するかは任せるよ」
手にした籠にずらりと並んでいる壷を示して薄く笑うアル。
「僕が確認したモールドは1メートルくらいに育ったもので、木の枝に生えてたよ。胞子回収のついでに処分するのは構わないけれど、周りには貴重な薬草が生えているから、そちらには絶対に影響を与えないようにね?」
「‥‥気をつけましょう」
「よろしく頼むよ」
微笑んでいるが、目が笑っていない依頼人。周囲の植物に紛れた些細な薬草一本であっても、影響を与えれば機嫌を損ねることが保障されている気がして、ドワーフのギルド員はちょっぴり泣きたくなった。ほんのちょっぴり、だけれども。
「ああ、周辺には大きな穴が沢山開いているからね。上ばかり見ていると足元を救われるかもしれないよ?」
「穴?」
「そう、穴。別に掘ってもいないから動物か何かが掘ったのかもしれないね。パラなんかは当然だけど、人間やエルフ、ハーフエルフなんかもすっぽり嵌っちゃうんじゃないかな?」
そんな雑談もしっかりと羊皮紙に書き留めて、ギルド員は作成した依頼書を掲示した。
●リプレイ本文
●モールドの胞子
乾燥した冬を思わせる乾いた風が道を撫で、土ぼこりを巻き上げる。
「毒の胞子‥‥ですか。でしたら口元に布か何かを当てて吸い込まないようにしなくちゃですね〜」
埃を払いながらそんなことを言う緑の羽のシフール揚白燕(eb5610)。その周りを「ですね〜」と飼い主の言葉を真似ながら虹羽がふよふよと飛び回る。
「ビリジアンモールド、僕は詳しく知らないのですが、よろしければご教授いただけませんか?」
モンスターに分類されるというビリジアンモールド。その胞子を何に使うか問い詰めたくもあったが、キリル・ファミーリヤ(eb5612)は依頼人アルトゥール・ラティシェフの機嫌を損ねる可能性を鑑みてその質問を飲み込んだ。
「ああ、失礼。君たちが植物や毒物に対して僕ほどの知識がないのは当然だね、配慮が足りなかったよ」
「アルさんは色々知ってるんだよね、すごいな〜」
嫌味にも聞こえるアルの言葉を気にも留めず、先頭をスキップしていた李絲静(eb7984)はくるりとターンして依頼人を褒め称える。
「これでもハーフエルフだからね、褒められるほどのことじゃないよ」
李の言葉はアルの自尊心を巧く擽ったようだ。目を細めながらビリジアンモールドについて、少しばかりの知識を披露してくれた。
「大きさによってスモール、ミドル、ラージに分けられているけれど、倒しやすさが違うだけで基本的には同じものだね。今回はスモールがいる。多少の振動でも胞子を撒き散らすのがちょっと厄介だけど、まあ、その辺のモンスターみたいに反撃してくるわけでもないから、それだけならパラのキミでも特に厄介なことはないと思うよ」
「そっかー、それじゃ安心だね」
戦えないことがちょっぴり残念ではあったが、危険は少ないに越したことはない。
「‥‥依頼報酬は高めですけれど、解毒剤を用意したらお金が無くなってしまいまうのですよね」
シーナ・オレアリス(eb7143)は硬貨の入った小さな皮袋へ手を添えた。決して軽くはない財布なのだが、解毒剤は高価な品。人数分などとても用意はできない。シーナたちにできることは胞子を吸わないようにただただ気をつけることだけだ。
「モールドの毒に効く解毒剤が欲しいならあげてもいいよ」
「それは助かる」
5人の中でも一番沢山の解毒剤を用意してきたニセ・アンリィ(eb5758)はそれでも不安が拭えなかったのか、厚意を歓迎し甘えることにしたようだ。
「使う余裕があるかどうか知らないけどね」
「それは、どういう‥‥?」
「ビリジアンモールドの毒は致死性だからさ、事切れる前に飲むのは大変なんじゃないかなと思っただけだよ」
「‥‥‥‥‥‥」
キリルとアンリィ、シーナの足が凍りついた。吸ったら死ぬかもしれない‥‥覚悟していたよりも一歩踏み込んだ毒の効果。けれど一度受けた依頼を今更なかったことにはできない。
「えー、でも吸わなきゃいいんだよね?」
「そうですよ。細かいことは気にしても仕方ないです〜」
「です〜」
李に白燕、小柄な二人は体に似合わぬ寛大な思考回路を持っているようである。
●穴の中には何がいる?
アルの案内で訪れた森の一角。それは領主である父マルコ・ラティシェフの所有する土地であるという。自然な『森』としての形を損なわぬまま、より多くの植物が自生するようにと行き届いた心遣いが感じられる森に李の足取りはますます軽やかな物になっていた。
「あっ、本当に穴が開いてるよ〜」
「‥‥」
お化け変装道具の三角頭巾で口をしっかり覆い隠した白燕のくぐもった声を真似できず、つまらなそうに飛ぶ虹羽に待機を命じ、ついーっと空を滑る。ひとつ、ふたつ、みっつ。すぐ見つかるだけでもそれだけの穴がぽっかりと昏く口を開けている。中は覗かない。一人でいるときに何かあっては困るから。
「あたいは空を飛んでいる限り穴に関しては問題はないけど、中に何か襲ってきたりするものが棲んでいたりしたら厄介かも〜? 皆、気をつけてね〜」
空気すら動かさぬよう、そーっと戻った白燕はそう注意を促した。
「穴‥‥そんな形状の穴を掘るモンスターといえば、グランドスパイダでしょうか」
すり鉢状の穴を掘るのはまた別のモンスターですし‥‥とシーナは首を傾げる。仲間の力量を考えればそう戦い辛い相手ではないが、穴に落ちて1対1になった場合は別。また、振動を与えずに戦うというのも難しい話だろう。
「振動を与えないように戦う‥‥難しいですね。モールドの様子はどうでした?」
「ん、隣同士の木に1個ずつ、あとは数メートルずつ離れた木に1個ずつついてたよ」
「端の1つならあまり胞子を撒くことなく済むかもしれませんね」
「でもね、キリル君。離れてるのの下の方が穴が多いんだよ〜」
「‥‥難しいですねぇ」
白燕の言葉に腕を組むキリル。吸ったら死ぬという胞子である、解毒剤があるとはいえ、そしてしっかりと口をふさぐとはいえ、胞子を吸い込む可能性はできうる限り低くとどめたいところ。
「アイスコフィンで凍らせてしまうのはどうでしょうか?」
「アイスコフィン?」
「ええ。そして凍ったモールドを木から引っぺがして、解凍してから胞子だけ取るんです」
「あ、それはいいかもっ。穴を気にしなくて良くなれば、落ち着いて採取できるもんね」
シーナの案に手を叩く李。幸い、まだ昼間に出る日は暖かい。日当たりの良い場所を選べばアイスコフィンの氷も自然に任せて溶かすことができよう。
「‥‥それが一番無難だな。引っぺがすのはわしがやるべや」
「はい、もともと男子にやってもらうつもりでしたから」
悪びれずにしれっと言うシーナ。正直な反応にアンリィは大口を開けて豪快に笑った。
「じゃあ、作戦も決まったし! 胞子取りにレッツゴーだよ☆」
●いざ、収集!
「全てを封じる氷の棺よ、スモール・ビリジアンモールドをその内に収めて──‥‥」
シーナの詠唱でモールドが凍りつく。彼らが選んだのは穴が多い、けれどすぐ近くにはモールドがない、そちらだった。キリルが木に登ってモールドを氷ごと毛布で包み、落ちないようにしっかり掴む。アンリィは手斧を器用に動かし、削り取るようにモールドを木から剥がしていく。
「他のモールドは大丈夫だよ、その調子その調子〜♪」
白燕の小声の声援。シフールはその身に帯びた魔力で飛ぶのであり羽は関係ないと自身が誰より知ってはいても、緊張するのは否めないのだろう。ゆっくり飛んで、小さく声援。それが何より白燕の、そして彼らの緊張度を示していた。
重いであろう氷漬けのモールドを下から支え、アンリィは最後の手斧を振るう。
──ガッ!
生木が割れる音が響き、アンリィとキリルの腕に確かな重みが加わった。
「よし、取れたゼ!」
「やったあ!」
ガッツポーズで飛び跳ねた李。けれど緊張の糸が解れた直後、彼女の身を不幸が襲った!
──ドシン!!
そう、穴に落下したのだ!!
「はわわ、だ、誰かぁ〜」
小柄なパラはすっぽりと嵌ってしまった模様。登攀もかじった李である、落ち着けば難なく上れる穴なのだが。
「李さん!」
慌てて駆け寄ったシーナが手を伸ばす。差し出された、文字通り救いの手をしっかりと握り締めた李は、次の瞬間目を丸くした!
「な、何かいるぅ!」
チクッと足を刺された。いや、刺された等という生易しい痛みではなかった。
「でっかい蜘蛛がいるよ!」
上から穴を覗きこんだ白燕が声を張り上げた! その言葉にあわあわと慌てる李。
「ふわわわわ〜!?」
下を見ぬままげしげしと蹴れば、確かに土ではない『何か』を蹴る感触が足に伝わってくる。
けれど、それも暫しの間。蹴る足に、シーナの腕を握る手に、身体を支える足に、力が入らなくなってきたのだ。
「な、なに、これ‥‥」
「キリルさん、アンリィさん! 李さんを!!」
「行け、キリル。モールドはわしに任せろ」
「はい!」
キリルも決してひ弱なわけではないが、彼よりアンリィの方が筋力がある。ここでモールドを放り出せば振動が加わり、他のモールドから一斉に胞子が飛び散るだろう。現に、李が穴に落ちた振動でもうっと煙のように胞子が飛び散っているのだから。
足場にしていた太い枝を両手で握り、木の幹を駆けるようにして降りたキリルは小柄な李を抱えるようにして引きずり上げた! その足には獲物を奪われまいと、黄色と黒の縞模様も毒々しい大きな蜘蛛がしがみ付いていた!
自分と同じ大きさのジャイアントスパイダに頬を引きつらせる白燕。
「李さん、失礼します」
「あ‥‥」
言葉も発せられぬ李を地面に横たえると、足を切らぬよう鞘ごと外したクルスソードを横薙ぎに払う!!
「アイスコフィン!」
吹っ飛ばされたジャイアントスパイダを瞬時にシーナが凍らせる!!
「けがは大きくないようですね。ジャイアントスパイダの毒はモールドとは違って、麻痺性のものです。解毒剤は必要でしょうが、命に別状はないはずです」
キリルのリカバーがあれば心配はないとシーナは断言してくれた。
「こいつは埋めとくべ」
氷付けになったジャイアントスパイダを元の穴に戻し、上から土をかぶせる。いずれ春が訪れれば、ジャイアントスパイダも目を覚ますだろう。
「それにしても、李さん‥‥」
声を掛けられ、身動きもままならぬ李が目線をキリルに送る。
「身体が冷え切っています。もうそろそろ防寒服は必需品ですよ」
やむにやまれぬ事情でひと時だけ抱きしめた小さな身体。その冷たさに思わず苦言を呈するキリルであった。
●こんどこど、収集っ☆
モールドは翌日の昼に用意を万全に整えてから、陽光を浴びせてゆっくりと『解凍』した。
「そーっと、そーーっと‥‥」
用意された清らかな聖水の空き壷。その広い口をもこもこしたカビへ近付け、指で軽くつつく。
──もわぁっ
白燕の見守る中、キリルの与えたささやかな振動で散った密度の高い胞子、その大部分が狙い通り壷の中に納まった。
「地味な作業だな」
「でも、木に生えていたときよりは安心して対応できますよ」
アンリィの言葉に苦笑いを返すキリル。木の上に生えていては、ただでさえ足元に気をつけねばならない。しかもモンスターが巣食った穴がいくつもあったのだから論外である。
「命は大事ですしね」
キリルの行動を真似して李もシーナも、白燕さえも、さっそく壷に胞子を貯めている。一歩退いた場所から作業を眺めているアルは、壷を一杯にする必要はないという。
「早く終わらせて水浴びでもしましょう。いえ、お湯があればもっと良いですが」
「用意しておくよ、キリル。ついでにハーブティーとスコーンでも用意させればいいかな?」
「うわっ、あたし俄然頑張っちゃう!」
「あたいはどっちかっていうと、そっちの手伝いがいいなぁ〜」
命が掛かってはいるものの、明るい森の一場面。
その後、冒険者たちはといえば──胞子を採取した後のモールドをきっちりと焼き払って処分し、ささやかなお茶会に招かれたのだった。
「ところでアルさん、胞子は何に使うのかなぁ?」
「毒がなければ解毒剤の研究もできないからね」
スコーンを頬張りながら、キリルが気にしていたことをさらっと尋ねた李へ、依頼人アルはこれまたさらっと答えを返したのだった。
「‥‥‥」
アンリィは無言でキリルの肩をポンと叩いた。
淹れたてのハーブティーの湯気が、なんだか目にしみた。