反逆の逃亡者

■ショートシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:9 G 63 C

参加人数:9人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月02日〜12月08日

リプレイ公開日:2006年12月09日

●オープニング

 その日、冒険者ギルドは不自然なほど静まり返った。原因は、ギルドを訪れた人物──
「ウルスラ殿はおられるか」
「ラスプーチン様‥‥は、はいっ! こちらにお越しください」
 反射的にギルド員の背筋が伸びる。賓客として扱われたその人物は、自称王室顧問ラスプーチンその人であった。
「ラスプーチン様。どうかなさいまして?」
 慌てた係員が貴賓室に通すと仕事を切り上げたギルドマスター、ウルスラ・マクシモアが怪僧の元に現れた。それが一連の騒動の先触れだったことを冒険者が知るのはもう少し先の話だけれども。

   ◆

 依頼人、王室顧問ラスプーチン。その名前に少なからぬ冒険者が依頼書に目を通した。
 酷く物騒な、そしてあっさりと書かれた、その依頼──いや、手配書というべきだろう。

『WANTED』
 逃亡中の貴族ワレリー・コロチンを捕獲せよ。
 生死不問。

 ワレリーはロシアの貴族としては珍しい部類に入る人間で、48歳の男性であるという。
 当然、貴族であるワレリーが単身で逃亡している可能性は低く、部下として側近の騎士や司祭らを連れている可能性が非常に高いが、彼らについても生死不問の捕獲指令が出ている。

「この男が何かしたのか?」
 手配書を斜め読みしていた冒険者が通りかかったギルド員へ尋ねると、記載されている文章を指差しながら簡単に説明してくれた。
「ウラジーミル陛下の施策に不満を抱く貴族たちが結託して一斉蜂起を画策していたらしいんです」
 幸いにも事前にその情報を入手したラスプーチンの指示により赤い毛並みを持つ狐を旗印とするルーリック家直属の騎士団『ロシア炎狐騎士団』やラスプーチンの部下らが隠れ家を突き止めた。そして黒地に銀糸で狐を縫い込んだ旗を持つ銀狐兵団と共に踏み込んだとき──首魁と目される人物らは既に逃亡を図った後だった。
「証拠は充分に押さえたそうなんですが、見逃すには罪が大きすぎると‥‥今回の手配書が出されることになったらしいですよ。ええと、こちらの似顔絵がワレリー・コロチン氏です」
 依頼書には名前と共に宮廷絵師によるワレリーの似顔絵が添付されている。
 白髪の混じった赤毛はゲルマンの血を色濃く現している。意志の強そうな瞳ではあるが、48歳というには老けているように見えた。
「ん? 俺、こいつ見たぜ?」
 冒険者──ラクス・キャンリーゼは見覚えのある似顔絵に目を瞬いた。
「確か‥‥昨日の晩、北に向かう街道の方に‥‥」
 目撃者がいる。
 捕らえられるかどうかは不明だが、賭けてみても面白いかもしれない。
 請け負っている依頼のない冒険者たちが数名、顔を見合わせて頷き合った。

●今回の参加者

 ea1747 荒巻 美影(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6320 リュシエンヌ・アルビレオ(38歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9128 ミィナ・コヅツミ(24歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9909 フィーナ・アクトラス(35歳・♀・クレリック・人間・フランク王国)
 eb0882 シオン・アークライト(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb4341 シュテルケ・フェストゥング(22歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)

●サポート参加者

藺 崔那(eb5183

●リプレイ本文

●廻り途
「遅いわね‥」
 魔獣騎士シオン・アークライト(eb0882)は苛立たしげに呟いた。キエフの外れ、森はすぐそこ。シオンの愛騎テュールから一般市民への影響を考慮し集合場所と定められた場所だが、集った数は全員に程遠い。
「皆も色々手を尽くしてるんだし‥苛立ったらテュールにも伝わっちゃうよ?」
 握り締める手を両手でそっと包み、雨宮零(ea9527)が恋人の顔を覗き込む。間近に不意に現れた顔は悪戯心より照れを優先させたようで、頬を赤らめたシオンはこくりと小さく頷いた。気恥ずかしさが伝播したか、慌てて手を離す零。甘酸っぱい空気にリュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)は在りし日の自分と夫を重ねていた。
「いいわねぇ‥」
 羨むのはその初々しさだ。愛情の深さは決して負けていないと自負している。最も、シオンも譲らぬ所だろう。
 全く雰囲気は違うけれど、目を転じれば他所でも親しげな空気が流れている。
「ラクスさん、先に言っておくけど」
「後衛を守って深追いするな、だろ」
 フィーナ・アクトラス(ea9909)の弁を先に口にし、ラクス・キャンリーゼ(ez1089)はニッと歯を見せた。言うまでもなかったかと笑み返すフィーナ、恋人とは違う積み重ねられた信頼を感じ、ミィナ・コヅツミ(ea9128)は羨望の眼差しを向けた。隣に立つことがこんなに難しいとは──知らず、溜息を零す。そう遠くない未来、再び会えそうな気はしているのだけれど。
「エルンストさんがいらっしゃいました。シュテルケさんも一緒です」
 足早に歩み寄るエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)とシュテルケ・フェストゥング(eb4341)の姿を認め、荒巻美影(ea1747)は居場所を主張し大きく手を振った。しかし現れたエルンストは先のシオン以上に苛立ちと落胆を滲ませていた。
「どうでした?」
「押収した所持品は証拠だから渡せないらしい。ラスプーチン殿の口添えがあれば可能だろうが‥」
「ラスプーチン様が依頼人でしたらよかったのですね」
 エルンストは愛犬ゼロに臭いを追わせるためにワレリーの所持品を入手しようと試みていたのだ。
 手配書を出したラスプーチンは多忙な宰相。いかに依頼人であろうとも、怪僧と怪しまれようと、おいそれと目通りの叶う相手ではない。
「まあ、仕方ないよな。手配人を追う冒険者が全員犬を連れてたら証拠品があっという間に無くなるもんな」
 ポムと手を打ち納得を体現したシュテルケは師匠と仰ぐラクスを振り返った。
「もし1日早く手配書が来てれば師匠は報酬1人占めだったのに惜しかったな」
「いくらラクスさんでも、多勢に無勢じゃ無理よ」
 リュシエンヌは『無謀に突進していく』という言葉を飲み込んで、幼さの残るシュテルケの肩を叩いた。
「遅くなりやした! あっしが最後っすね」
 息せき切らせ、以心伝助(ea4744)が駆け込んできた。
「遅いわよ、伝助」
「すいやせん。でも地図はしっかりと入手してきやしたよ」
 やはり気が急いていたのだろう鋭く声を放ったシオンへ、手にした羊皮紙を掲げて見せる。
「気をつけてね!」
 馬車を手配した藺崔那に見送られ、キエフの街を後にした。


●追走劇
「仮にもロシアの貴族を頭に頂く一団が『道が判らない』なんてことがあるのでしょうか? 部下の一人くらいは知っているはずです」
 愛馬ビュラードの背で美影が思案する。シュテルケの想像通り、早々に街道を逸れて森に入った痕跡が残っていた。しかし、その後数時間が経過しても確たる変化はない。距離が詰まっているという実感も。ゆえに、懸念を抱き続ける者たちもいて──エルンストとリュシエンヌがその代表格である。
「問題は、ラクスが見たのが偽モノだった場合よね‥」
「相手に司祭が混じっているのなら、ミミクリーで擬態する可能性はあるからな」
「でも手がかりはラクスさんの目撃証言しかないわけだし、黒派の司祭なら誰でもミミクリーを使うわけじゃないわよ」
 フィーナの言葉が正論なことは充分承知しているが、より小さな可能性を潰していきたい彼らである。
「木を隠すなら森の中といいます──向こうは次の街には留まらず、より大きなチェルニーゴフを目指すでしょう。つまり、次の街までに追いついたことが確定すれば、後はいくらでも優位に立つことができることになります」
「追うより待ち伏せる方が有利なのは自明の理、か‥他にそれらしい話もないし、賭けるしかないか」
「そもそも、手配書を追う事自体が賭けのような物ですしね」
 美影の言葉に無理やり自分を納得させようと唸るエルンストへ苦笑した零は、愛馬の変調に気付いた。
「すみません、馬が限界のようです。少し休ませていただけますか」
 愛馬の限界が近いことを悟り、ストップをかける。エルンストの駿馬も息がかなり荒い。
「こちらも無理そうだ」
「それでは、休憩にしましょうか」
 徒歩程度の労力で飛ぶように歩けるとはいえ、セブンリーグブーツや韋駄天の草履も疲れないわけではないし腹も空く。手綱を握る者たちがより一層疲れていることは想像に難くない。
「シオン、大丈夫かな‥」
「シオンさんが心配ですか?」
 ミィナの言葉に逡巡しつつ頷く。
「時々、無茶するんです」
「ミミクリーで見てきましょうか?」
「テュールもいますし、大丈夫だとは思うんですけど‥」
 瞳を曇らせる零。しかし、すぐに曇りは拭われた。

 ──バサバサッ!!

 一際大きな羽音がし、ヒポグリフが舞い降りた。トンッ、とその背から身軽に飛び降りたシオンは大切な人と「ただいま」「おかえり」と言葉を交わし、地図を挟んで頭を寄せる伝助らの間に割り込むと地図上の森の一角を滑らかな指で示した。
「ここに焚き火の跡があったわ。多分、昨晩の物だと思う」
「ってことは、半日で相手の丸一日分以上を進んだってことっすね」
 自分たちの現在地よりキエフ側にある地点に、速度を上げて来た甲斐があったと胸を撫で下ろす。
「森を突っ切るのね。このルートだと‥今のペースなら明朝に次の街に着くわね」
 キエフと焚き火の地点を線で結ぶと、延長線上に次の街がある。多少歪曲する街道と違い、彼らの進路は真っ直ぐに森を突っ切るルートのようで、リュシエンヌは次の街へトン、と指を下ろした。そしてススッとシオンの指へ滑らせ、途中で止める。
「ここで街道とかなり近づくわ。ワレリーたちのルートだと高低差があるし、足場の悪い場所が多いから、今のペースならここで接触ができる」
 森を読んで、そう告げる。頷いて同意し、伝助は次の街を示した。
「そこで取り逃がしても、あちらさんが次の街を目指すならもう一度追い抜けやす」
 ロシアの森をいつまでも彷徨うリスクは彼らの方が熟知しているはず。早々に街に潜り込もうとするだろう。
「俺、手配書の男がそっちに向かってるっていう手紙と、貰った手配書を纏めてシフール便で送ったぞ」
「なかなか気が利くな、シュテルケ」
 褒められ嬉しそうに笑うシュテルケは歳相応の幼さを見せた。
「目撃証言は得られませんでしたけどそれに代わるものも出ましたし、街で足が止まるのも確定です。お腹を膨らませたら出発しましょうか」
「賛成♪」
 ミィナの案に一も二もなく賛成したフィーナは皆に腰を下ろすよう勧めるのだった。


●邂逅
 立てた予測を確かめるように街道から森へ踏み入れる。
「こちらだ」
 そして間もなくエルンストが人間大の呼吸を探り当てた! 指示されるまま足早に歩み寄る。呼吸数は、8人分。ワレリー、司祭の他に6名の仲間がいるようだ。
「私が日陰を歩かねばならぬとはな」
 老齢に差し掛かったような声が聞こえる。何某かの団体の側面に出ることができそうだ──リュシエンヌのテレパシーが空を行くシオンに合図を送る。
「何者だっ!!」
 初老に差しかかろうという男を背後に庇い、騎士らしい風体の男が声を荒げる。
 貴族に馬上から語り掛ける非礼を避けるため、騎馬から大地へと降り立つ。その冒険者たちを正面にした男らは不穏な気配に気付く。振り返ると空から降りたヒポグリフの背からも二人の女性、もとい女性と男性が降りた。
「ワレリー・コロチン卿と護衛の騎士殿とお見受けいたします」
「いかにも」
 魔獣に動じず鷹揚と頷く初老の男。薄汚れているが質の良い衣服といい、手配書に良く似た顔といい、本人と断定して良さそうだ──冒険者たちは視線を交し合う。
「周辺諸侯を扇動し、ウラジミール陛下への叛乱を策謀した咎‥‥お認めになり、抵抗せず縛についていただけますか」
「ウラジミール陛下の御為に成した事で縛につく道理なぞないわ!」
 鋭い音を立て、貴族を守り6人の騎士が剣を抜く!
「手荒なことはしたくなかったのだけれど‥仕方ないわね、やっておしまい!」
 どっちが悪人なのか。楽しそうなシオンへそう突っ込みたくなりつつも、フィーナは推定司祭目掛け容赦なく斧を投じる! しかし司祭を守る騎士の持つ盾に防がれ、あっけなく地に落ちた。
「馬たちは任せてください!」
 ミィナの声に安心し、リュシエンヌは銀の輝きを帯びる。
「月の導、銀の矢よ。反逆罪で追われているロシア貴族、ワレリー・コロチンを射抜きなさい!」
 ムーンアローはワレリーを射抜くものの、期待した効果は得られない。
 激しい剣戟が響く!
 右手からのシオン・零、左手からのシュテルケ・美影・伝助とそれぞれ3人の騎士が武器を交える!
 一進一退の攻防は互いの身体を浅く傷付け、剣戟は詠唱を耳から遠ざけて‥
「シュテルケ!!」
「任せてくれ、師匠!」
 勢い良く振るった剣の衝撃と僅かに生じた真空が戦場を駆け抜ける!
「ぐっ!」「チィッ」「うわっ!?」
 少々味方も巻き込んだ一撃。しかし、それはワレリーや司祭へは届かなかった。
「まさか、ホーリーフィールド!?」
 愕然とするミィナの言葉を裏付けるように、戦場をすり抜けて接近した伝助は透明な壁に阻まれる。
「このっ!!」
 決して鈍くは無い、伝助の一撃。しかし依然として透明な壁はそこに在り続けた。
「フォローするわ、シオン! 美影!!」
「はい!」
 リュシエンヌの言葉の通り、イリュージョンを受けた一人が突如闇の幻影に襲われた! 切り掛かる騎士の一撃を飛び込んだ美影が羊守防で防ぎ、鈍い一撃を見舞う。そしてエルンストが、フィーナが、遠方から騎士を足止めする!
「行くわよ!」
 野太刀が結界を粉砕した! 決壊した結界を掻い潜り、シオンが、零が、伝助が、雪崩込んだ!
「失礼します!」
 司祭の腕を捩じ上げる零。苦痛に顔を歪めながらも男は
「大いなる父よ、御力を──」
 小さく呟かれた言葉と共に司祭が黒い光を放つと、彼を捕えていた零の傷が癒えた。
「!? 零さん、逃げて下さい!!」
「距離を取るのよ、馬まで逃げて!!」
 二人の女司祭が叫んだ。そのあまりの剣幕に結界内へ駆け込んだ!!
「大いなる父よ、その御手にか弱き命を摘み給え──」
 抵抗すら許さぬ死の魔法は、絶対的な敵対心故にホーリーフィールドを侵せない。
「これを飲み込め」
「あ‥ありがとうございます」
 エルンストから受け取ったソルフの実を飲み込みながら混沌とした戦場に目を転じると、伝助と美影が次々に峰撃ちを狙った攻撃を繰り出し避けきれぬ司祭が意識を手放したところだった。
「大いなる父よ、我が信心を試されよ──」
 騎士が淡い黒い輝きを帯び、イリュージョンから抜け出す! 憎きリュシエンヌへ振るわれた兇刃をラクスの剣が防いだ!!
「ようやく出番か‥長かったな」
 打ち込んだ拳が騎士の意識を切り捨てた。血の匂いの戦場に気絶した騎士が一人、また一人と転がっていく。
「そこまでだ!」
 色めき立つ騎士らは、響いた幼い声に身を強張らせた。
「ワレリーの命が惜しければ剣を捨てて投降しろ」
 俺は峰撃ちなんかできないぞ──真面目に告げる一言に、ワレリーの取り巻きらは膝をつき、武器を手放した。


●対峙
「一体、どの辺が不満だったのでやすか?」
 悲しげな瞳。庶民の知らぬところで起きた諍いは、必ず庶民を巻き込む。事前に潰えた叛乱も、もし察知されなければ多くの罪なき庶民を巻き込んだはず。
「何を思ってどう行動したらこうなってしまったのか‥教えていただけやせんでしょうか」
「陛下はあの怪僧に惑わされている! ワレリー様の計画は陛下の御為、ひいてはロシア王国全土の為なのだぞ!」
「反逆者は皆そう言うわよね。ラスプーチン殿があの聡明なウラジミール陛下をどうやって惑わすというの」
 腕を押さえた騎士が噛み付くように吼えるのを、シオンは鼻で笑う。ギリッと奥歯をかみ締める音が聞こえる。
「これは謀反ではない。ユドゥキシンの尻尾を掴むための計画だった‥」
 ユドゥキシン、それはキエフの高位文官だ。ここで聞く名ではないとシオンは眉を顰める。
「それなら反逆なんてしなくても良かったのでは?」
「反逆などした覚えはない。信じぬだろうがな」
 腑に落ちないと瞬くミィナの言葉に自嘲するワレリー。
「我らの計画を阻害したこと、いずれ‥いずれ必ず後悔しよう」
 そう吐き捨てると、ワレリーは袖口に仕込んだナイフで自らの喉を切り裂いた!! 主人より先に飛び掛った助が血を浴びつつもナイフを奪う!
「早まってはいけません!」
 とっさに唱えたミィナのリカバーが傷を癒す。噴水と化した血流が徐々に収まり‥徐々にどす黒く変色していく。
「まさか、毒!?」
 気付いた時には既に遅く、即効性のある毒はワレリーの命を奪っていた。
「おっと。全員に自決されるわけにはいかないっす」
「そう易々と‥命を、手放さないでください」
 伝助と零が後を追おうとした騎士たちを押し留めた。紅の片瞳から一筋の涙が滴り落ちる。
「‥縛らせてもらうわね」
 自決を防ぐ意味も兼ね、ブレーメンアックスに繋がれていたロープを解き、罪人たちを後ろ手に縛り上げた。
 そして血まみれで転がるワレリーを見下ろしてシュテルケとラクスが小声を交わす。
「塩でも持ってくれば良かったかな」
「それなら壷もだろ」
「この気温なら一日二日は大丈夫だろう。ただし、帰るのは今晩一晩ゆっくりと休んだ後にさせてもらいたいがな」
 エルンストの言葉に頷き、2人は亡骸を馬車へと積んだ。
「仮にも、貴族ですから‥」
 毛布をかけた美影と共に、大いなる父の下へと旅立ったワレリーへとフィーナは深い祈りを捧げるのだった。

 予定より2日ばかり早くキエフに戻った一行へ、報奨金としてラスプーチン御自ら皮袋を手渡した。
「ウラジミール陛下を、そしてロシアを救ってもらったこと、感謝する」
 金貨の詰まった皮袋は、ずっしりと、冒険者の腕に重く重く感じられた‥‥