【最速の騎士】開拓民の娯楽
|
■ショートシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月27日〜01月01日
リプレイ公開日:2007年01月04日
|
●オープニング
大地を白く染めた雪が解けぬ間に新しい雪が降り‥‥深く深く降り積もる。水は凍り、生き物は息を潜める冬がロシア全土を多い尽くした頃に、神の子ジーザスは誕生した。最初のレースはその伝承に倣ったという説がある。三賢人のように、より早く駆けつけることができるように、と。
冬季の開拓は苦難が数倍にもなる。開拓のため伐採樹木の搬送もその要因の1つである。運ぶ代わりに数本の木をロープでしっかりと結びつけ、丘の斜面を滑り落とすのは生活の智慧。それに併走するため、割った丸太をソリ代わりにして皆で滑り降りたのが最初だとも伝えられている。
古くからロシア王国に住む人々が、新年の吉凶を占うために動物を争わせたのが最初だと言う者もいるが──実際のところ、どうして始まったのかなど今となっては知る物はいないのだ。
しかし、現実として、聖夜祭時に様々な雪上レースが行われている。
所持金を増やし聖夜祭を楽しむ金を作るために賭ける、賞金を稼いでより良い年を迎えるために参加する、数少ない娯楽として観覧して酒を飲む、緩い懐を狙って様々なものを売る、そんな様々な目的を孕んだ聖夜祭の楽しみの一つとしてロシア王国の長くは無い歴史にしっかりと根付いた。
そして今年も、走りっぷりで新年を占うと称して数々のレースが執り行われることとなった。
現在のロシアは開拓の国だ。森を切り開き、増え続ける人員の入植を進めている。
もちろん、速度は下がっても冬の間とて開拓の手は休まらない──冬が長い土地なのだから、仕方ないだろう。
けれど冬には冬の利点がある。そう、雪の存在だ。山の斜面の木を切り倒し、ロープでしっかりと括り付けたら斜面に向かって押してやる。そうすればあとはソリのようにずーっと下まで滑っていく。重たい大木を運ぶ労力が減るというのは、開拓民にとってとてもありがたいことなのだ。
そんな生活から生まれたレースがある。
「今年もやるらしいぜ、スコップレース」
「お手軽よね。あれなら私にも参加できそう」
そう、お手軽さが人気の秘訣、スコップレース!!
もともとは、大木を滑らせるときに自分も一緒に滑り降りようとした、ただそれだけ。
その男はあいにくスコップを持っていて、丸太にまたがり滑り降りることが困難だった。
だから、スコップをソリ代わりにし、跨って滑り降りた。それを見ていた二人の子供が真似をした──そんな些細なことから発祥したレースである。
ギルドにも、依頼書に埋もれてこんな張り紙がされていたりする。
☆★☆ スコップレース、出場者募集中!! ☆★☆
今年一年の厄を振り払うため、あなたも滑り降りてみませんか!?
最下位の人に全ての厄を押し付けろ!!
優勝者には豪華商品も用意しております。
参加費10C
他、防寒服はお忘れなく。
スコップをお持ちでない方には、主催者より貸与します。
自前のスコップをお持ちの方は、カスタマイズ可能!!
より早く、より華麗に、馬なんてぶっちぎれ!!
※ なお、例年スピードを重視するあまり防寒服を着ず、凍傷になる参加者が後を絶たないことから、今回より防寒服を着ていない参加者は失格とさせていただきます。
今年の締めくくりにキエフの人々と盛り上がってみるのも、いい記念になるかもしれない。
●リプレイ本文
●
空は青く、広く、澄み渡っていた。
「こういう天気をレース日和とでも言うのだろうか」
スコップの反りを確認しながらヌアージュ・ダスティ(eb4366)は楽しげにリン・シュトラウス(eb7760)に声を掛ける。
「ところが、あんまり晴れすぎているのも勝負には向かないんですよね」
「どういう意味だ?」
「ふふ、いまに解りますよ」
無闇に情報を与えるつもりはないようだ。それも作戦かと笑い、ヌアージュはリンの視線を追った。開かれた扉の先ではシュテルケ・フェストゥング(eb4341)とラクス・キャンリーゼ(ez1089)がそり滑りに丁度良さそうな小ぶりな雪山を作って練習中だった。
「元気な男の子って可愛いですよね〜」
その様子を眺めていたらしいリンは、ヌアージュの視線がそちらに向いたことを感じ、うっとりと感想を漏らした。
「ああやって一生懸命練習している姿を見ていると、いい結果がでてほしいと思ってしまいますね」
ざく、ざく、と雪を踏んでウィルシス・ブラックウェル(eb9726)が戻ってきた。
「おかえり、ウィルシス」
「何か良いインスピレーションを受けるものはありました?」
「聖夜祭をこうしてお祭りに仕立ててしまうのは馴染みのない宗教を早く取り入れようとする知恵なんでしょうか。どこを見ても活気があって、胸が熱くなりましたよ」
手にした横笛を愛おしそうに撫でて、ウィルシスは村の様子と感想を口にした。
ジーザス教がロシアに広まったのはウラジミール一世の治世となり、彼がジーザス教[黒]へ改宗した後の話。つまり、この国の様に歴史が浅いのだ。馴染みの浅い宗教の行事をこうしてイベントに仕立て上げてしまうのも仕方の無い話。ジーザス教[黒]の総本山ビザンチン帝国から訪れたウィルシスの目には何とも微笑ましい光景に写っていることだろう。
「前日でこの熱気、明日の盛り上がりが目に浮かぶようで‥‥ふふ、今から楽しみで仕方ないです」
「皆さん、頑張ってくださいね。マルメロ蜂蜜でもいかがですか?」
蜂蜜漬けにしたマルメロを湯で薄めた暖かい飲み物を持ってきた女性からカップを受け取り、ほのぼのと談笑に興じながらスコップの調整を行う‥‥そんな彼らとは別の場所で、前日のこの時間を過ごしている者もいる。刀の手入れの要領で一足先にスコップの調整を終えた真幌葉京士郎(ea3190)もその一人だ。
「故郷では味わえぬ屋台料理というのも、また格別だな」
割高とは知りつつも、その土地の料理を反映する屋台を見て回る。祭りで屋台を眺めずにいられないのはジャパン人の習性かもしれない。「あら、京士郎さん?」と声を掛けてきたのは同じく早々にカスタマイズを終えていたフィーナ・アクトラス(ea9909)である。
「フィーナか。‥‥気に入ったのか?」
カラントのジャムを塗ったブリヌィと、野菜とイクラをたっぷり挟んだブリヌィを左右の手に握っている。
「ブリヌィのお店が多かったから順番に、ね」
「なるほど。俺もそれにしてみるかな」
「そう? それなら面白いお店があるわよ」
連れられて訪れた屋台ではブリヌィに泡立てたバターのようなものを塗っていた。勧められるままに買ったそれは‥‥
「冷たい!?」
「絞りたてのミルクに蜂蜜を混ぜて、泡立てながら冷やした物なんですって」
「寒いときに冷たいものか‥‥面白いな」
口の中に広がる甘みを楽しみながら村の外れへ足を向けた。中央から聞こえてくる高笑いに聞き覚えがあったから。
「このわたくしの華麗な滑りに魅入られるが宜しくてよ! おーっほほほほほほ!!」
「ボクはチュプオンカミクルのイコロって言うんだ。ヨロシクね!」
登録を終え早くも勝利宣言の高笑いをするアミィ・アラミス(ea8955)の後ろから、イコロ(eb5685)が元気に参加表明。
「当然ながらわたくし、ブッ千切り一位でゴールの心算でおりますので」
「ボクは滑るのを楽しむ方を優先したいなぁ〜」
どこまでも突き抜けたプライドのアミィと自然たらんとするイコロ。二人が並ぶことで村人の怯えも緩和されているようだ。これはこれで良い‥‥のかもしれない‥‥?
●
‥‥3、‥‥2、‥‥1
「GO!!」
スタートの合図と共に7台のスコップが飛び出した! 事前に練習を重ねたシュテルケとラクスの師弟コンビが一位・二位で並び機先を制する!
「これは勝負だ、師匠にだって負けないぜ!」
「く、まだまだっ!!」
直ぐ後ろ、三番手には京士郎。そしてフィーナが追いかける!!
「何者だろうと、俺の前は走らせぬ‥‥俺が、示現流の走りの神髄を見せてやろう」
遅れながらも見せた不敵な笑みの通り、シュテルケ・ラクスとのアドバンテージが徐々になくなっていく。そして、テール・トゥ・ノーズで追うフィーナもまた先頭二名との距離を詰めていた。
「凄いなぁ。京士郎のスコップ、とても速いのに」
そう、京士郎は試走から違った。蝋を塗り、エッジを磨き、そして何より‥‥名前が付いているのだ! イコロも油を塗りこんでおり離れず追いかけるのだが、楽しむことを重視した参加らしく、順位はさほど気にしていない模様。
「貴方の背中、見失わないわ!」
ぴったりついて風の抵抗を減らす。これも観戦して学んだ戦術であるが‥‥実にフィーナ向けであった。何故なら、前を走るものがいなくなれば驚異的な方向音痴の彼女はコースすら見失うだろうから。
「わたくしの前を、こんなに‥‥!」
「おばさまの出る幕ではないということですよ〜♪」
「なぁんですってぇぇ!? もう一度言ってみなさい!!」
ハンデをあげますね、と言わんばかりにスタートを遅らせたリンが揚々と併走し、片目を瞑った。人間に換算すればさほど年は代わらぬが、童顔のリンはアミィよりかなり幼く‥‥良く言えば若々しく見える。ギリギリと屈辱に歯軋りするアミィ。プライドの高い彼女にとってこの順位もからかうようなリンの言葉も甘んじて受け入れられるものではなく、強引なまでの攻めの姿勢を貫きつつ虎視眈々と隙を伺う。
「む、出遅れてしまったか」
殿を行くヌアージュはがっしりとした体格と安定性重視で選んだスコップで離され過ぎぬように気を配る。カーブの多い中盤に差し掛かれば、安定性に優れたヌアージュにもチャンスは訪れるはずなのだ。
「勝負は結果。出足は重要なれど、それが全てではないからな」
うむ、と頷き毛皮のマントを靡かせて、リンやアミィと共に徐々に距離を詰めていく。その様子にウィルシスは目を瞬いた。
「なんだか、レースって音楽に似てますね‥‥」
そっと始まり、スピードに乗りテンポ良く曲を奏でるメインの旋律と守り立てるように追いかけていくもう1つのパート。安定感のあるのは打楽器で、どの楽器もどのパートもお互いに出方を伺うように奏でられて──中盤には変化が待っている。
そしてレースも中盤──巨木の連なる連続するカーブに差し掛かる! 観衆がどっと沸いた。
「僕も一緒に滑りたいです‥‥!」
レース参加こそ見送ったものの、流麗な旋律を思わせる仲間たちのレースに、うずうずと沸き立つ何かを抑えられない。取り出した横笛を口に当て、カーブの連続と似通った、アップテンポな曲を奏で始めた──
「減速するわけにはいかないっ!!」
出来るだけ速度を落とさずにアウトからインを抜けアウトへと飛び出そうとするシュテルケ。しかし、ここで大きな誤算があった──巨木の近くには、どっしりした根が待ち構えているのだ!!
「うわっ!?」
躓くようにスコップごと根に乗り上げ、宙に舞う!! そして積もった新雪に落下!!
「うぐ‥‥」
停止したものの滑りだせそうだと判断し救いの手は差し伸べず、ラクス、京士郎、フィーナ、イコロと雪煙を残して飛び込んでいく。しかし、後ろから飛び込んできたのは──アミィだ!!
「アミィ、無茶だ!」「オーバースピードだぞ!」
「今日の為だけにン十Gという改造資金をかけた逸品、これで負けるワケには参りませんわ!」
「そんなに掛かってないでしょうっ!」
声を荒げる京士郎やラクス、思わず突っ込んだリンを猛スピードでパスし、そのままオーバースピードで巨木の並ぶカーブに突入!
ガッ!! と勢い良く巨木を蹴りつけ強引な方向転換が叶ったのも初回のみ。雪の下に潜む太い根が次々にアミィを突き上げる!
「あっ、ん、‥‥くっ!」
このまま飛ばされては天まで昇りかねない。喘ぐように息を漏らしながらも重心を移動させるアミィ。倒れる限界まで体重を移動させ、雪煙を立てる!
「危ない!!」
「はぁ‥っ! まだイきませんわよ!!」
雪の上をテールが滑る! しかし攻めの姿勢を貫くアミィに奇跡が起きた!
「あれは‥‥ドリフト!?」
村の無理無茶無謀の男たちがそう呼ぶ高等テクニックがアミィの身に舞い降りたのだ!
「おーっほほほほほ! わたくしにかかればこの程度のカーぶふぅっ!?」
調子に乗ったアミィ、二度目のカーブで撃沈!
「くそっ!」
アミィに気を取られたラクスも巨木に突っ込む!
「何のっ!!」
蹴り付け方向転換を図るも、反動で樹から振った雪に埋もれ脱落!!
「うわっ、大惨事っ。でも、なんか蝦夷を髣髴とさせるね。真っ白い雪ってやっぱり綺麗だな〜」
そんな様さえ楽しみながら滑るイコロをジャイアントの体格と安定性を活かしたヌアージュがかわしていく。
「ノルマンの赤い星‥‥、とは言われてはないが、このまま逃がすわけにはいかん」
茶色の瞳が捉えているのは馬に乗るようにスコップを駆り先頭を行く京士郎の広い背中──!
当の京士郎はといえば、「スコップでレースなんて、面白い事を考えるものですね‥‥」と張り紙を興味深そうに見ていた友人、沖田光から参加を決めた京士郎へ掛けられた忠告の言葉を思い出していた。
『あっ、でも気を付けてくださいね、僕聞いた事があります、最速の領域の先には何もない‥‥って』
それがどんな意図で与えられた助言なのか知る由もないが、京士郎は覚悟を決めていた。
「だが俺は頂点を極めねばならん‥‥行くぞ雪風、共に速さの頂点を極めようぞ! 最大加速だ!!」
必勝の二文字を記した鉢巻に日光を受け、聖者の槍を構える!
「曲がれぇぇぇっ!!」
ソニックブームを放つ!! 衝撃波で強引に進路を変えようとした試み──視界が真っ白く、輝いた。
「最速の領域の、その先にあるものを、俺は今確かに見ているのかもしれんな‥‥その先には何もないと聞いていたが、さて」
何となく面白そうな笑みを浮かべた京士郎の頭は、新雪に埋もれていた。ソニックブームでの方向転換は反動が得られず失敗、そのまま新雪に突っ込んだのだ。
「ちょっと、京士郎さん!?」
目標を失ったフィーナは進路を見失う。ただひたすら、転倒せぬよう、巨木を避けて滑り続ける。
───♪
「笛の音?」
突然耳に届いたのは横笛の音。音の聞こえる方、木々の隙間から応援席が遠く見えた。ウィルシスがレースに合わせた曲を奏でているのだ。楽しげに、幸せそうに笛を吹く横顔は音楽の女神を思わせ──唐突に悲鳴に変わる!
「やめてください、僕は男です!」
無骨な男たちが取り囲み尻をなで上げたようだ。「は‥‥離してくださいっ!」たおやかな物腰のウィルシスの拒絶は、しかし男たちには通じぬようである。腕を捕まれ、振りほどこうとする姿はどこを見ても上品な女性である。
「‥‥見ちゃったものは仕方がないわね、行く先も解らないし。ってことで‥‥やめなさい!!」
フィーナはコースを逸れ、正義の鉄槌を下しに‥‥否、タロンの試練を押し付けるため、スピード重視のカスタマイズをしたスコップに乗って‥‥風となった!
さて、レースはとうとう終盤に差し掛かった。
体力を温存し堅実に追い上げたヌアージュと雪上には慣れたイコロ、そして目をギラつかせて優勝商品を狙うリン、早々に戦列へ復帰したシュテルケの4人が殆ど差もなく最後の直線へと向かう!
「天国の師匠、見ててくれ!!」
ここでシュテルケ、大胆すぎる大技に出た! 片足を柄に乗せ、片方は刃へ乗せて立ち上がる!!
「させん!」
ヌアージュも体を小さく丸め、スピードを上げる!
「ふふ‥‥秘儀、メロディーを喰らうのです!」
リン、掟破りの魔法使用☆ ライバルの妨害へとお腹の空く歌に魔力を乗せて朗々と歌い──歌に集中し失速、転倒! 魔法はしっかりと集中しないと使えないのだ。普通の魔法なら高速詠唱で唱えられたかもしれないがメロディーは歌わなければならない。しかも、効果範囲は15メートル。失速した瞬間にライバルたちは効果範囲を飛び出してしまっていた。
「そ、ソウテイノハンイガイです‥‥‥」
がくりと崩れ落ちるリンを振り返り、イコロはぷうっと頬を膨らませた。
「ずるいこと考えるからですよ、大自然のお仕置きですっ」
そして直線に目を転じた彼女は、経験からか、それともレース以外にも気を配っていたためか、危機を察して目を瞑る!
「ぬあっ!」「うわっ!」
次の瞬間、ヌアージュ転倒、シュテルケは再び宙を舞う!!
そう、リンが黙っていたレースに向かぬ理由‥‥雪が陽光を反射し目を焼いたのだ!
勝利を確信して確実に滑っていくイコロ。
「ゴォォォォル!!」
高らかに勝利者のゴールを宣言する声が響いた!!
「やったぁ!」
飛び上がるイコロが目を開くと‥‥
「おーーーーーっほほほほほほほほ!!! やはりわたくしの勝利でしたわね!!」
勝利の高笑いが雪山に木霊した。
「え、だって、脱落したのに!?」
「禁止と言われてなければ何でもアリでしょう!?」
「確かに、レース復帰は禁止されていませんでしたね」
フィーナに救われたらしいウィルシスが頷いた。服が乱れているが、大事無かったようだ。救ったフィーナも、それもそうねと肩を竦めた。
「そうね、あなたが勝利者だわ」
「え、ええと‥‥それでは。スコップレース特別枠冒険者レース、優勝はアミィ・アラミス!! 優勝者には商品として来年の幸運を約束するという、水晶のダイスが贈られます!!」
「なんだ、300日の豪華月道旅行じゃなかったの」
つまらなそうにリンが呟いた。
「とは言え、なかなか際どいレースでしたわ‥‥皆さんの滑りも、なかなか素晴らしくてよ」
ダイスを陽光に翳し勝利の高笑いを響かせたアミィの姿に、居合わせたギャラリーからは簒奪者の囁きが送られた。
「僕も、このレースのようにインパクトのある曲を奏でたいです‥‥来年の目標ですね」
はにかんだ笑顔でウィルシスは勝利を祝う曲を吹く。その音色は青く澄んだ空へと高く高く上っていった。
──勝利と結果をもぎ取り運をも掴んだアミィへ、そして冒険者たちへ、来たる年も幸多からん事を!
「き、鬼哭冷気! どこだ!」
新雪飛び込んだ際にペットの雪のようなふわふわした塊を落としたらしい京士郎の声もまた、雪山に木霊していた──