【魔怪村】レッド・スクリーマー

■ショートシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 10 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月24日〜01月30日

リプレイ公開日:2007年02月02日

●オープニング

●冒険者ギルドINキエフ
 広大な森林を有するこの国は、数年前より国王ウラジミール一世の国策で大規模な開拓を行っている。
 自称王室顧問のラスプーチンの提案によると言われるこの政策は国民の希望となり支えとなった。
 けれど希望だけではどうにもならないことが多いのも事実──特に、暗黒の国とも呼ばれる広大な森の開拓ともなれば、従前から森に棲んでいたモノたちとの衝突が頻発することも自明の理であろう。そして、そのような厄介ごとはといえば、冒険者ギルドへ持ち込まれるのが常である。
 夫婦喧嘩の仲裁や、失せ物探し、紛争の戦力要請など種々多様な依頼に紛れ、今日も、厄介ごとが持ち込まれていた──‥‥

「ぎゃあああああああああ!!」

 突然の叫び声に喧騒渦巻く冒険者ギルドが静まり返った。
 しんとしたギルドを見回し、視線を一身に浴びていることに気付いて、叫んだ男はこほんと咳払いをひとつ。
「と叫ぶわけですよ」
 何もなかったように話を進める男に敢えてつっこむ者もなく、再び喧騒を取り戻す。
「毎晩のように、寝静まったところにやられて、村中すっかり睡眠不足なんですわ、これが」
 よく見ると男の顔にもくっきりとクマが。なんだかやたらハイテンションなのも睡眠不足から来るもののようだ。
「昼間は叫ばれないんです? それなら昼寝をすれば良いのではないですか?」
「貴方はパンの代わりにケーキを食べるんですか」
 じろりと睨まれた新米ギルド員、まあ当然の反応だろう。
「昼間は開拓をしたり畑仕事をしたりするわけですよ。どこかの国では働かざる者喰うべからずというらしいじゃないですか。もっとも、昼間も叫び声は聞こえるんですがね」
「厄介ですね」
 何処までも他人事のようなギルド員。再教育が必要かと見守る幹部の前で、しかしバッドハイの依頼人とは何とか話が進んでいく。
「そうなんだよ、厄介なんだよ。叫び声が聞こえる方に行っても、誰が居るわけでもないし。なんか変なキノコは生えてるし」
「キノコですか?」
「最初は誰か殺されたのかと思ったんだ。血みたいに真っ赤ででっかいキノコが獣道にびっしりと、雪の間から顔を出してるんだぜ」
「気持ち悪いですね」
「全くだ。トナカイやらなにやら、今の時期には貴重な食料なんだが‥‥声もキノコも気持ち悪くて狩りにも行けねえ」
 まあ、寝不足でフラフラした足取りの者に狩られる獣もそうそういないだろう。どちらにしても死活問題のようだ。
「わかりました、冒険者を向かわせましょう。安眠を取り戻してくれますよ」
「ああ、びしっと頼まあ!」
 何処までも他人事な新米ギルド員は幹部の不安を他所に、どうにか初めての依頼を受け付けた。
「ええと、依頼書はどう書くんだったかな‥‥」
 新米どころか半人前のようであるが。

●今回の参加者

 eb5292 エファ・ブルームハルト(29歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb5662 カーシャ・ライヴェン(24歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5797 泡 小麟(26歳・♀・武道家・河童・華仙教大国)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 eb9925 アルーシュ・エジンスキー(32歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec0550 ラファエル・シルフィード(35歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ec0720 ミラン・アレテューズ(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ec0819 イリューシャ・アルフェロフ(22歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

アナスタシア・オリヴァーレス(eb5669

●リプレイ本文

●美観
 その朝は音のない朝だった。しんしんと降り続ける雪が、全てを拒絶するかのように世界を白く染め上げている。
 冒険者ギルドへ救いを求めた魔怪村と呼ばれるその村に向かう道中もまた、しんしんと雪は降り続けていた。
「ロシアは本当によく雪が降るね」
 ファー・マフラーをきつく巻き直し、泡小麟(eb5797)はボヤく。言葉が白く色づいて、ちらつく雪を刹那隠した。
「普段はこんなに降らないのよ、こんな大雪は私も何年ぶりに見るか解らないもの」
 ふふ、と妖艶に目を細めたイリューシャ・アルフェロフ(ec0819)の声は低い。声を潜めているわけではなく、性別不詳な外見の中身がれっきとした男性のためだ。
「それでは、私は運が良いのですね」
 僅かな色も許さぬと言わんばかりの雪、足跡すら白くモノクロームに塗り替えられつつある世界に創作意欲が刺激されたのだろうか、ラファエル・シルフィード(ec0550)のどこか楽しむような言葉にカーシャ・ライヴェン(eb5662)は白い息を吐く。
「良いことばかりでもないのですけれどね」
 縁有る地に思いを馳せ、村人たちの生活が順調であることを願う。雪が降れば不便も増え、作物は駄目になる。
「そう、雪だと乾燥するからまめにお肌も髪もお手入れをしないといけないのよね」
 本当に厄介よね、と少々意味を取り違えたイリューシャが深く同意する。
「お肌のお手入れかぁ‥‥う〜ん、あんまり考えたことないかも」
 口元に人差し指を添えて、エファ・ブルームハルト(eb5292)は首を傾げた。
「だめよ、だめ! 若さはいつまでも続かないのよ! 乙女の命は儚いの、一瞬の油断で息絶えてしまうかもしれないのよ!」
「そうだねぇ」
「いつまでも あるとおもうな ハリとツヤ‥‥か」
 若いという範疇から足やら頭やらが飛び出し、曲がり角を過ぎたこの場の(ほぼ)女性冒険者たち全員にシューティングポイントアタックEXの如くグサグサと突き刺さる言葉を他意なく吐いて、レイア・アローネ(eb8106)は空から落ちてくる雪に手を伸ばした。
「どこかに温泉でもあれば良いのだがな‥‥」
「いいですね、温まりますし、お肌もすべすべになると聞きますし。機会があれば体験してみたいものです」
 何となく会話の勢いに押され気味だったミラン・アレテューズ(ec0720)もこれには頷いた。無愛想というか、クールというか、言葉の少ないミランではあるが、やはり美容の話となれば耳をそばだてずにいられなかったのだろう。
「あの、皆さん。安眠確保が仕事ですからね‥‥?」
 3人集まれば姦しいという女性がその倍もいるのだから、いくら雪の中とはいえ賑やかなことこの上ない。
 呟くように口を挟んだラファエル、何となく疎外感を感じずにはいられなかった。


●美妙
 その村は農業が決して盛んではないロシア王国に於いて、目立って肥沃な土に恵まれていた。肥沃な土が生物を育みすぎるのか、はたまた呪われているのか、蛮族も立ち入らないその周辺には大きな魔物が現れることが多い。
 無知ゆえか、恐いもの知らずか、そんな森を果敢にも開拓している開拓村。自嘲を込めて村人は『魔怪村』と呼んでいた。
「とりあえず、村の方々からもう少しお話を伺いましょう」
「スクリーマーで間違いないとは思うんだけどね」
 ラファエルの提案に微かに不満顔を見せたエファだが、聞き込み自体に反対ではないようだ。

 とりあえず──ぽっちゃり系のおばさんに話を聞いてみた。
「そりゃもう、昼も夜も叫びっぱなし」
「そんなに酷いのですか‥‥」
 ミランは余り動かぬ表情を、珍しく少し翳らせた。
「酷いも酷い、晴れてる日や風の強い日なんて特によく叫ぶね。寒い日は声も良く響くから木霊しちゃってもう、右なんだか左なんだか上なんだか下なんだか」
 下から聞こえたら余程のモンスターである。
 そもそも、下から聞こえる中で生活しているのなら村自体がヘンタ‥‥いやいや、キワモノ‥‥失敬、ツワモノの集団であろう。
「それでは、どちらから聞こえてくるかなどは‥‥解らないのですね」
「あんたたちの来た道と反対側、北西を中心にした広範囲とみてるよ」
「解ってるじゃな‥‥むぐっ」
 ついつい突っ込もうとしたエファの口を後ろから塞ぎ、ミランは礼を言った。
 あの、ミランさん。エファさん窒息してるみたいですよ?

 ──一緒に喋っていた、何だか朦朧としているおばちゃんに話を振ってみた。
「多分ね、発声練習をしてると思うんだよ」
「どなたがですか?」
 心当たりがあるのだろうかと、カーシャは目を輝かせる。
「雪の妖精は吹雪の中で輪になって遊ぶって言うじゃないか。よほど声が大きくないと遊べないだろう?」
「雪の妖精ですか? それはぜひ、一目見てみたいものですね」
 ラファエルの目が猛禽類の光を放つ!
「何を言ってるんだい? ほら、そこにもいるじゃないか」
 寝不足も幻覚やら白昼夢やらを見るようになって、おばちゃん臨界点突破!
「今、暖かいミルクを入れさせていただきますわ。こちらに伺う前に耳栓を作ってみたので、眠れるかどうか、一度横になっていただけません?」
 カーシャとラファエル、視線を交わしのドクターストップ。どっちも医者じゃないけども。

 ──隣家でガシガシと自棄っぱちにパン生地を叩きつけるおばちゃんに聞いてみた。
「ストレス解消は重要だけど、パンの美味しさが逃げちゃうんじゃないかしら?」
 イリューシャの言葉にギラつく目を向ける。その顔面が脂ぎっていて、イリューシャは少々腰が引けてしまった。
「犯人を見つけたらこのパン生地を投げつけておやり!!」
「ええっ?」
 予想の斜め上を行く回答と不必要な大声に、柄にもなくレイアも声を張り上げる。
「麺棒でも鍋でも何でも持っていきな!」
「って、それにどんな意味があるの? ひょっとして、パンが美味しくなる秘訣??」
「悲鳴の上げすぎで喉が破れたらもう叫べないだろう?」
 ふふん、と自慢げに胸を逸らすおばちゃん。尋ねた小麟は満面の笑みを浮かべた。
「なるほど、それは妙案ね♪ ぜひ投げさせてもらうわ」
 小麟、おばちゃんと熱い盟約の握手を交わす!!
「‥‥‥」
 イリューシャとレイアは図らずとも同時に溜息を零した。


●美声
「ますますスクリーマーだね。でも確証がないんだよね‥‥現地調査が必要かな」
 エファの提案に異を唱える者はいない。危険がないことが立証されればスクリーマーの除去に村人の手を借りることもできるだろう。
「先に相手の正体が解るというのは何とも頼もしいですね」
 共闘する仲間が安心して命を預けられる人物だと改めて知り、ラファエルは嬉しそうに笑みをのぞかせる。
「耳栓は言われただけ作りましたけど‥‥」
 何に使うのかさっぱり、と頭上に『?』を浮かべるカーシャ。のらりくらりとはぐらかすエファにますます不思議そうに首を傾げた。
 明るいうちに森に入ることにした一行の目に、ほどなく雪の下に潜む毒々しいまでの赤色が飛び込んできた。
「光の射す純白の世界にポッカリと現れる鮮烈な紅‥‥なかなかの題材ですね。でもこれだけの紅となると、何で色を出すべきか‥‥」
 ラファエルは今にも手にしたスタッフを絵筆に持ち替えんばかりの勢いだ。
「あの紅が『すくりーまー』というものですか?」
 ミランがエファに尋ねると、こくりと頷いた。
「ねえねえカーシャさん、スクリーマーの周辺に危険がないかどうか、ちょっと近くで見てみてくれない?」
 そのまま悪戯な笑みを浮かべて仲間に手を合わせるエファ。
「ええ、解りました。援護はお願いしますね」
(ジャパンのあの方なら喜んでキノコを研究するでしょうけど‥‥)
 独特の笑い声を撒き散らしながら。
 先頃キエフを発った友人を思い出し、小さく笑った。キノコではなく、その周囲を調べるためにキノコに向かう自分も、友人と何だか似ているかもしれない、と。
 もう一歩でキノコに手が届きそうな距離まで迫った、その時。

『ぎゃあああああ!!』
 キノコが叫んだ!!

「きゃあああああぁぁ!!」
 カーシャも叫んだ!!

 重なり合う絶叫に、連れてきたペットが一目散に逃げ出した!

「耳栓してなかったの!?」
 昏倒するカーシャに駆け寄る小麟! レイアがロングソードを横に一閃しキノコを斬ると、唐突に叫び声が止んだ。
「‥‥小さな音も、聞き逃したらいけないと思って‥‥」
 それだけ何とか言い残すと、カーシャはがくりと意識を手放した。
「菌糸にふれなければ叫ばないって話だし、マンドラゴラと違って叫んだところでうるさいだけで実害はないから。気楽に取りましょう?」
 カーシャを村で休ませると、皆はしっかりとキノコ狩り──もとい、スクリーマー狩りに興じるのだった。
『ヒィィィィ!!』
『イヤァァァァァ!!』
 中にはちょっと、独特の叫びを上げる個体もあったりしたけれど♪
「待ってください、何かいます」
 誰よりも早くソレに気付いたのはラファエルだった。
「アレは‥‥トナカイ?」
 雄雄しい角を持つトナカイが獣道を悠然と歩いていた。
「なるほど、トナカイがスクリーマーを踏んだのね」
 小麟がポンと手を打った。
 その時、風が吹き枝葉がゆれ──ドサッ、と雪が落ちた。
『きゃあああああぁぁ!!』
 埋もれたスクリーマーがくぐもった叫びを上げる!
「晴れの日には叫び声が多い、といいましたね。そういえば」
 なるほど、日差しを浴びて滑り落ちた雪ならばスクリーマーを叫ばせるには充分な重量である。
『ぎゃあああああ!!』
『ぎゃあああああ!!』
『ぎゃあああああ!!』
 叫び声に驚いたトナカイが逃げ惑い、スクリーマーを踏み荒らし、叫びが幾重にも巻き起こる!!
「これはかなわないな!」
「赦せ、トナカイ!」
 ミランとレイアが武器を手に飛び出した!! かじかんだ手で拳を握り、小麟も後に続く!
 トナカイがいくら勇猛なオスであろうとも所詮は多勢に無勢、草食動物に冒険者、程なく雪に倒れた‥‥
『ぎゃあああああ!!』
 悲鳴を1つ、巻き起こして。
「あああ! もう限界っ! 暖まってくるわね!!」
 ファー・マフラー以外の防寒対策を練らなかった小麟のタイムリミットは、仲間に比べて随分と短かったようである。
 抜けた小麟の代わりに目覚めたカーシャと村人が加わり、雪かきの人手も大量に確保!!
「ふあ、男手があるってやっぱりいいねー♪」
 キノコ狩りにせいを出すエファ、賑やかな村と村人に朗らかな笑顔を作った。
「教えてくださればよかったのに」
 若干一名、半眼で睨む赤毛のカーシャがいたりするけれど。
「えいっ!」
『ぎゃああああああ!!』
「はあ、何かこの村気に入ってきちゃった☆」
 パン生地ボールを投げつけて、小麟はくしゃくしゃっと無邪気に笑った。


●美味
「寝る前に栄養もしっかり取ったほうがいいですね。明朝までは私達も滞在しますし、その間にゆっくり眠ってもらうのがいいと思うんです」
 村で飼われているヤギと牛に目をつけたラファエルは、仲間たちにそう提案した。悲鳴の元を目に付く限り全て取り除いた結果、大量のスクリーマーとトナカイという食材を入手したのだから、食べない手はないだろう。新鮮なミルクを使ったシチューならば身体も温まり栄養も豊富、疲れた身体にもミルクはなんだか優しそうなイメージである。
「村中回って食器を集めてきます、調理はお願いしてもいいですか?」
「「「もちろん♪」」」
 ほぼ女性陣は声を揃えて頷いた。
「健康な美しさは健康な食生活からよね」
 小麟を師匠に、目下イリューシャ料理修行中☆
 トントントン、とナイフで薄く切っていく──手つきは素人としてはなかなか堂に入ったものだ。
「イリューシャは器用だな」
 そう言い褒めるレイアの手つきも負けてはいない。
「いいお母さんになれるよ、ってよく言われるわ☆」
「いや、それは無理だろう」
 だってイリューシャは男性だから。
「イリューシャの奥さんになるひとは幸せになるだろうとは思うが」
 切ったスクリーマーをまな板の隅に寄せ、次のスクリーマーを刻む。
「‥‥つまんないわね」
 ぽそ、と小麟が呟いた。
「何がですか? ‥‥痛ッ!」
 トトトトトン、と軽やかな音を立てて刻むミランは声の主に目を転じた瞬間、自分の手をさくっと刻んだ。
「待ってください、リカバーをかけますので! だめですよ、料理をしているときに余所見をしたら」
 カーシャが慌てて手を止める。いそいそと治療をする横でミランの刻んだスクリーマーの端を掴んで持ち上げたエファ、綺麗に切れ目の入ったスクリーマーが一つに繋がったまま持ち上がると笑いを押し殺し、そのままシチューの鍋に放り込んだ。
「で、小麟は何がそんなにつまんないの?」
 山のようにあったスクリーマーが着実に姿を減らしていることにちょっと残念な気持ちを覚えつつ、エファも尋ねる。
「‥‥刻むときにも叫んだら料理がもっと楽しいと思うのよね」
「それはちょっとスプラッターじゃないかなぁ? あはぁん♪ とか、うふぅん♪ とか叫ぶならまだしも」
「何だか変態ちっくなスクリーマーだな」
 レイアが笑った。
 やがてラファエルが村中から食器を掻き集め戻ると、沢山の村人たちと共に憎きスクリーマーを最後の一欠けらまできちんと『処分』したのだった。

 其の晩。
「‥‥眠れない‥‥」
 村中から聞こえる高いびきに悩まされ寝返りを打ち続ける冒険者の姿があったとかなかったとか──☆