冒険者って便利屋さん?−荷物運び−

■ショートシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:10 G 51 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月31日〜04月07日

リプレイ公開日:2007年04月20日

●オープニング

●冒険者ギルドINキエフ
 広大な森林を有するこの国は、数年前より国王ウラジミール一世の国策で大規模な開拓を行っている。
 自称王室顧問のラスプーチンの提案によると言われるこの政策は国民の希望となり支えとなった。
 けれど希望だけではどうにもならないことが多いのも事実──特に、暗黒の国とも呼ばれる広大な森の開拓ともなれば、従前から森に棲んでいたモノたちとの衝突が頻発することも自明の理であろう。そして、そのような厄介ごとはといえば、冒険者ギルドへ持ち込まれるのが常である。
 夫婦喧嘩の仲裁や、失せ物探し、紛争の戦力要請など種々多様な依頼に紛れ、今日も、厄介ごとが持ち込まれていた──‥‥

 多分、その男は10人が見たら10人全員が『開拓民』と呼ぶ外見をしていた。いや、事実彼は開拓民だった。
「木材を出荷したいんだが、護衛をお願いできないだろうか」
 開拓民の収入源は決して多くはない。森を切り開き、その土地に住む。或いはその土地を売る。切り開いた際の木材を売却する。切り開いた土地で農業が営めれば出荷をするが、入植する村を作ることが目的の開拓民は土地を売却することが多いため、ここまで辿り着く者は少ない。
「モンスターでも出ましたか?」
 どこか他人事のように話す新米ギルド員は、今日もどこか他人事のように依頼を聞いていた。
「いや、そんなことはないんだが」
 ハッキリしない男だな‥‥と思いつつ、支払われた料金がギルドの仲介料を差し引いても多額なことに溜飲を下げる。依頼内容から考えると少々料金が多いような気がしなくもないが、くれるというものを拒む道理もあるまい。
「キエフまでの護衛で良いのかな‥‥でしょうか?」
「いや、そこまでは必要ない。キエフから徒歩で一日程度の街まで運んで欲しいんだ。そこで商人に渡すことになっている。貴族が買い上げてくれるらしいんだ」
「だから料金を奮発したんですね」
「ああ、まあ、そうだな」
 煮えきらぬ依頼人が話したところによると、彼の住む開拓村はここから北北西へ3日ほど行った地点にある。運搬先はラティシェフ家の治めるセベナージ地方の外れにあるようだ。徒歩で2日程度だが、重い荷物を運びつつ街道の整備されていない道を通らねばならないので、やはり3日ほど掛かるだろう。依頼の日程としては7日間となる。
 もちろん、日の暮れた場所で休息を取るためテントや防寒具は必須。四月とはいえ夜間は水も凍るような寒さなのだから仕方あるまい。荷物は台車に乗せ馬が引く‥‥荷馬車というべきだろうか。故に、馬が恐怖するような行動やペットは御法度である。
「荷馬車はどれくらいの台数になりますか」
「10台ほどになるだろうか」
「それはまた多いですね」
「大きな仕事なんだ。確実に運搬できるように力を貸してくれる冒険者を頼みたい」
 いささか多すぎるような気がしなくもない荷物。依頼人の求めている力量の冒険者であれば、仕事が運搬の護衛というだけなら、オーグラや冬眠から覚めたばかりの熊、腹をすかせたフロストウルフにでも遭遇しなければ特に引けを取ることもないだろう。
「解りました、冒険者の手配をさせていただきます」
 そう言い、新米ギルド員は羊皮紙に羽ペンを滑らせた。


●某所
 灯りを落とされた部屋に、いくつかの人影があった。
 まるで他人に聞かれるのを恐れるかのように声をひそめ、囁くように言葉を交わす。
「問題の荷物はいつ届くと?」
「数日のうちには届くかと」
「何としても阻止せねば」
「‥‥冒険者を雇ったそうです」
「厄介だな‥‥仕方がない」
 上席に座した男が小さく指示を下した。

 力尽くでも荷物を止めろ、と。

●今回の参加者

 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6320 リュシエンヌ・アルビレオ(38歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea8539 セフィナ・プランティエ(27歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9909 フィーナ・アクトラス(35歳・♀・クレリック・人間・フランク王国)
 eb1052 宮崎 桜花(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb4341 シュテルケ・フェストゥング(22歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

 たまには単純な護衛というのも、初心に帰れていいだろう──
 真幌葉京士郎(ea3190)の心境は、ここにいる皆に少なからず共通するもののようだ。一流の冒険者として、腕利きの戦士や魔法使いとして、二重にも三重にも裏のある仕事や命を賭した仕事こそが昨今彼らに回されていた依頼である。
「こんな依頼でとちったら師匠に笑われちゃうよな」
「お前なら大丈夫だ。俺もついてるしな!」
 両の手で拳を握り、口元を引き締めるシュテルケ・フェストゥング(eb4341)は、師匠であるらしいラクス・キャンリーゼ(ez1089)の言葉に引き締めたばかりの口元を緩め、目を輝かせる。
「師匠も一緒に行くんだ? 久々に一緒の仕事だなっ」
「え? ‥‥あ、いや、俺は行かないぞ」
 急浮上したテンションが急下降。フィーナ・アクトラス(ea9909)がぽんとシュテルケの肩を叩いた。
「大成功させて、ラクスさんに自慢しにきましょう?」
「おう、頑張れよ」
 にかっと笑った兄貴分に胸を張ってキエフを出発した──それが抜けるような晴天だった、二日前の話である。
 反面、今日は曇りがち。そんな天気を模したように以心伝助(ea4744)も表情に陰りを浮かべる。
「‥‥何とか裏を取りたかったんすけど」
「裏? 今日は、荷物の護衛ですわよね?」
 不思議そうに尋ねるセフィナ・プランティエ(ea8539)へ、宮崎桜花(eb1052)が1つ頷いた。
「依頼に対して、不自然に報酬が多すぎます」
「貴族の方からの支払いが多かったと、ギルドでは仰られていましたけれど‥‥」
「どの開拓村でも、お金に余裕はないと聞きます。本当に危険が考えられないのなら、冒険者への報酬を減らして取り分を増やすと思いますよ」
「‥‥そう言われて見ればそうですわね。タメになります‥‥」
 碧の瞳がまじまじと桜花を見つめて感慨深げに頷く。
「裏‥‥んー‥‥、わざと移動を遅くしているのでは、と疑うことは出来ますけれど」
 首を傾げたセフィナの、赤いツインテールが踊る。
「それはなさそうっす」
 雷太を空に放し、伝助は首を振る。今現在、村へと向かっている道は狭く、路面状況も悪い。同程度の道であれば、荷物にもよるが馬車で2日は難いと考えられる。セベナージ地方まで戻ればフロストウルフの目撃情報もあるし、京士郎がオーグラと戦った場所も近いが、ギルドで把握している限りではここ数週間、予定経路周辺で強大なモンスターは目撃されていないようだ。
「‥‥まぁ、有事の際に対応はするが、それまで余計な詮索はすまい」
「ええ、事情がある依頼人の方も多いですしね」
 京士郎の言葉に雨宮零(ea9527)は微笑を浮かべて頷いた。冒険者ギルドに来る依頼人など、多かれ少なかれ事情を抱えている。他人に話したくない事情もあろう。依頼に支障を来たさないのであればそっとしておくことも必要だ。
「馬車10台ともなれば荷物は荷物でも大荷物よね。さて、まずは心をこめて運ぶとしましょうか」
 姿を見せ始めた開拓村を相手に、リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)は含みのある笑みを浮かべた‥‥

「‥‥こんな大きなものの護衛は初めてです‥‥」
 圧倒されて零が頬を引きつらせた。リュシエンヌの言葉ではないが、荷物は荷物でも大荷物、である。
 枝や先端の幹こそ落としてあるものの、切り出した木の長さは10mに近い。それが荷車に山と積まれている。普段目にしている依頼は、大きなものでも、この荷馬車の1〜2台を護衛するような仕事である。
「三日でも厳しいかもしれないっすね‥‥」
 伝助は乾いた笑いを零すは、他の仕事で開拓に関わったことのあるシュテルケは参考にしたいと矢継ぎ早に質問を浴びせかけた。
「馬車10台なんてまたずいぶん切り拓いたな。何人でどれくらいかかったんだ?」
「もともと切り出して乾燥させていた木もあったんが、それでも総出で二ヶ月は優にかかったな。もっとも、他の仕事もしながらだが」
「拓いたら何植えるんだ? 蕎麦? 麦? 野菜?」
 身につまされるのだろうか、快く教えてくれる依頼人や村人。開拓された村の当面の産物は主に野菜や動物の皮などになる。生活が落ち着くと、牛や豚を育てたりする村も出てくるようだ。
「あとは領主次第だな。この辺りはラティシェフ家が治めてるんだが、開拓村は数年間税率を下げたり、補助をしてくれたりするからやりやすいな。その間にどれだけ踏ん張れるか、だぞ」
 彼らが開拓民であることは間違いなさそうだ。
「シュテルケさん、それくらいで。ロープも荷馬車も大丈夫ですし、早々に出発しましょう」
「おっけー。ありがとな、おっちゃん。参考にするぜ!」
「馬は先方からの借り物なんだ、荷物と一緒に守ってやってくれよ!」
 仲間たちと手分けをしてチェックをしていた零は話に花を咲かせるシュテルケへ声を掛け、にかっと笑った少年と共に10台の馬車を預かった。

 実際に出発すると、荷馬車が10台も連なって進むというのは非常に護衛困難な対象である。
 前方を伝助と桜花、中ほどをリュシエンヌとセフィナ、中ほどと後方を兼ねたフィーナに、殿の零。左右の側面の遊撃をそれぞれ京士郎とシュテルケが対応することとなるが‥‥二頭立ての荷馬車が10台、その前と後ろを守ろうというのだから冒険者に与えられた労力も生半可なものではない。
「一見するとかなり単純な依頼なのに、実際はかなり厄介よね」
「中ほどの位置の護衛に立候補したのが、なんだか申し訳なくなってしまいますわね‥‥」
 女性ばかりが集まった真ん中組は前の方と後ろの方の仲間を見遣る。
 先頭では伝助がしゃがみ込んでいるようだ。これで何度目かの罠でもあったのだろう。
「ちょっと、零さんの方を見てくるわね」
「よろしく、フィーナ。もう少しで夜営地点だから、頑張りましょう」
 片手を挙げてリュシエンヌに返しながらフィーナは警戒しながら下がっていく。
「どう? 何か変わったことは?」
「今のところは特に。彼もですね。このまま、今日も何もなければいいですね」
「そうねぇ」
 ちらりと零の背後に視線を流す。付かず離れずの下手な尾行がいることには気付いていた。もっとも、あまりに下手すぎて誰なのかは判明している。相手方の依頼を受けている可能性もあるため気に留めているが‥‥フィーナは「それなら堂々と宣戦布告してくるわよ」とあまり気にしていないようだ。
「もうそろそろ夜営地点ですって、頑張りましょう」
 フィーナが微笑んで、零も笑みを返そうとしたその時──

 前方で、炎の柱が屹立した!
 馬の嘶きが木霊する中、次いで、雷光が空へと放たれる!

「伝助さん、桜花さん!」
 中ほどで、セフィナが悲鳴を上げた。シュテルケと京士郎も前方へと駆け出す!
「アルテイラよ、導いて──!」
 咄嗟に放ったムーンアローはリュシエンヌの願いどおり前方で何かに当たった。見逃さず、桜花が走る!
「さあ、届く範囲から落ち着かせていかないとね」
「お願いいたします、リュシエンヌさん。わたくしは回復に向かいますわね」

♪ 深き森の奥 鏡の如き湖の面 皓た‥‥

 唐突に途切れた歌に、走りかけたセフィナは足を止める。リュシエンヌは喉を押さえていた。必死に口を動かすリュシエンヌ‥‥セフィナは、彼女の身に起きた異常に気がついた。
「いまニュートラルマジックをおかけしますわね」
 セフィナがセーラに祈りを捧げようとしたその時──

 今度は、呼子笛が空気を切り裂いた!

「挟まれたか! やれやれ、人が初心に帰ろうとしている時に、なんとも無粋だな‥‥!」
「俺が後ろに行く、京士郎さんはここを頼む!」
「任せる!」
 前方を襲った賊と剣を交え始めていた京士郎にそう残し、シュテルケは後方へと駆け抜ける!
「あっしで良かったっす。馬車が踏んでいたら‥‥」
 トラップは警戒していた。が、トラップを囮にファイヤートラップが仕掛けてあるとまでは考えなかった。久々に叩き込まれた窮地、煤けた頬もそのままに、両腕の小太刀を振るう。
「くっ!」
 一方を盾が止め、鋭いカウンターの一撃が伝助を見舞う! 仰け反った伝助の鼻先を剣が掠め、赤毛が数本宙に舞う。敵の方が手数が多いようで、次いで胴を薙いだ一撃を避けられたのは単なる幸運だ。
「助太刀する」
「助か‥‥京士郎さん、伏せるっす!!」
 伝助の声に、目の前の戦士への一撃を諦めた京士郎。頭のあった場所を矢が通過した。しかし安堵した京士郎をブラックホーリーが貫く!
「数が多すぎる! こんな荷物の輸送に何故っ!」
 戦士が3人、魔法使いとクレリックと弓使いが1人ずつ‥‥3人ではどうにも不利だ。剣戟の合間に、大地から噴出したマグマの炎が3人の身を焦がしていく。
 一方、セフィナがホーリーフィールドを展開した中盤は一触即発の状況にあった。
「おばちゃんを怒らせたのが失敗よ? 魔法勝負、受けて立ってあげるわ」
 魔法使いに精霊魔法は通用し辛い。リュシエンヌに効果が現れるまで、その男は一体何度サイレンスを唱えただろう。
 リュシエンヌは同じ愚を冒さず、手っ取り早く無力化する道を選んだ。
「月をも嫌う漆黒の帳、闇のヴェール、折り重なりて包み込みなさい──」
 突如、男の周囲が闇に覆われた。大抵の魔法は‥‥少なくともサイレンスは封じた。
「くそ! 貪欲な重き闇、我が頭上に輝け!」
「セーラ様‥‥その白き御手で愛なき者に罰をお与え下さい──」
 一条の光が闇に吸い込まれた。転倒する音や、木に激突したらしい音などが響く。立て続けに二人は攻撃の魔法を放つ! 白き光りと銀の矢が、幾度となく闇を貫いた。しかし、よろめきながら男が姿を見せたとき‥‥そこに二人が与えたはずのダメージが見えない。代わりに頭上に浮かぶ黒き球体、ブラックボール。
「風属性ではありませんの?」
 魔法使いが二人いるのなら、一人と思っている隙を逃すはずがない。一人なら‥‥怪訝そうに眉根を寄せるセフィナに、リュシエンヌは額に汗を浮かべながら小さく告げた。
「地属性のウィザードよ、アイツ。下位属性の風魔法が使えるんだわ‥‥」
 男に関わる魔法は全て呑み込まれる。しかし素手は心許ない。膠着するかに思えた状況は、セフィナが打開した。
「セーラ様‥‥在るべき真の姿を‥‥」
 黒き球体は、術者に関与する魔法を封じるもの。球体に関与する魔法は管轄外。
「‥‥キミ、覚悟は出来てるわよね? セフィナちゃん、とっとと片付けて伝ちゃんたちの手伝いに行くわよ〜」
 平素の言葉遣いが、浮かべた酷薄な笑みを壮絶に彩る。片や、天使の如く満足気な満面の笑みのセフィナ。男が降伏するのは時間の問題のようだ。
 圧され気味の前方、勝利の見えた中盤‥‥後方の戦場は、一進一退の攻防がなされていた。
 間断なく剣戟が響く。こちらの冒険者は身軽な服装を重視し、襲撃者の利点を打ち消していた。回避力の差からシュテルケが度々傷を受けはするものの、冒険者が圧倒的に優勢。だがクレリックと弓使い参戦しており、詠唱こそフィーナが遮断させるものの‥‥全体的には一進一退の攻防が続いていた。
「あなた方は、何故こんな木材を狙うんですか!」
「‥‥運び込ませる訳にはいかないからですよ」
 光の塊を零の足元に打ち込んで、若い男が応えた。他の男たちより若いが、佇まいや所作が洗練された青年──明らかに、騎士。
「運ばなかったら開拓村のおっちゃんたちが困るだろ! 開拓ってな、ほんとに‥‥本ッ当に!! 大変なんだぞ!!」
 シュテルケの一撃が爆発した!!
「引いてください。無益な血は流したくないんです」
「襲撃した人のセリフじゃないわよ?」
 キャッチした魔法のダガーからは、もはや誰のものかも判別のつかぬ血が滴る。夕陽を隠した茜雲と相俟って、それはまるで燃えているようだった。
「桜花、引け!」
「まだいけます!」
「セフィナさんとママさんが来やした、回復を!」
 煤と血と埃に塗れた前衛。マグナブローと随所に仕掛けられたファイヤートラップは唯でさえ倍近い戦力差を更に押し広げていたようだ。聞きなれた友人の名に我に返るとホーリーフィールドを展開したセフィナがはらはらしながら自分の名を呼んでいる。
「すみません、お願いします」
 フェイントで翻弄し、間合いを取った桜花は敵を伝助に回し後退する。癒される傷と暖かな手に、昂ぶっていた精神が和らいだ。下がったついでにライトニングサンダーボルトを見舞って、桜花は京士郎と後退する。
「遅かったな」
「ぎゃあああ!!」
 墜落したグリフォンに押しつぶされる幻影を見せられ、弓使いが気絶した。
 足止めを喰らっていた二人が加わり、一気に形勢は逆転した。
 しかし、後方でも均衡が崩れていた。男たちに比べ強いわけではなかったが、オーラショットの為に魔法攻撃の手が増えたことと、男たちを庇った傷を癒してしまうオーラリカバーはそれほどまでに厄介だった。
「なんだか、冒険者を相手にする山賊の気持ちがわかりますね‥‥わかりたくありませんけど‥‥」
 魔法と遠距離攻撃、近接攻撃を連携させるのは冒険者の十八番。立場が逆転した気分だと考えるどこか冷静な自分を小さく笑って眼前の敵を鋭く薙ぐ。崩れ落ちる男と入れ替わるように、零を矢とブラックホーリーが襲う。そこに、突如場違いな笑い声が響いた。
「はっはっは、俺がいないとやっぱり駄目みたいだな!」
「師匠!?」
 弓使いとの間合いを詰めて鋭く薙いだ男は、留守番中のはずだったラクス。どうやら、タイミングを計っていたようだ。
「ち‥‥ずらかるぞ!」
 弓使いが昏倒し、戦士が地に崩れ落ちると──潮が引くように、襲撃者は引き上げていった。
「遅かったみたいね」
「‥‥恐れをなしたんだ!」
 ラクスはともかく、襲撃者は退散した。
 そして事件はその直ぐ後に起きた──捕らえた襲撃者に、依頼人が止めをさしたのだ。
「殺さなくてもよかったはずです」
 悲しさと非難を浮かべた零の視線が依頼人を見据える。
「不自然さはあえて気にしなかったのだがな‥‥こうなっては仕方ない、奴らが何者か吐いてもらうとしようか」
「積荷が何か、もね」
 二人の言葉に頑として口を割らぬ依頼人。だが、彼の背後で月の輝きを纏ったリュシエンヌが軽く息を吐いた。
「ごめんなさいね、ちょっと頭を覗いたわ‥‥襲撃者はエカテリーナ様かラティシェフ家の手勢で、積荷は武器よ。それこそ、戦争が起こせるほどの‥‥ね」
「‥‥何かを紛れ込ませるのも可能なんじゃないかとは思ってたけど‥‥」
 情報源は、魔法による証拠と認められないものだけ。
 そして、受取人の貴族が大規模な戦を目論んでいるのか、仲介かは解らない。
 せめてギルドに全てを報告することだけを心に留めて──もやもやしたものを抱えながらも、与えられた依頼を遂行した。

 燃えるような茜色の雲が、いつまでも脳裏に焼きついていた。