【Bride War】物資補給&内乱阻止
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■ショートシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 25 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月25日〜05月28日
リプレイ公開日:2007年06月08日
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●オープニング
●状況
例年執り行われる春の宴は、春の訪れと国王ウラジミールと王妃エリザベータ夫妻の結婚記念日を祝う宴でもある。例年、それなりに華やかに開催されるパーティーではあったが、今年は招待客を大幅に増やし冒険者までも招き、例年になくとても華やかなパーティーとなっている。それが国内を漂う不穏な陰を払拭するための華やかさであることは誰の目にも明らかだが、まるでそれがタブーであるかのように、そのことに正面切って触れる者はいなかった。
そこに招待された客の一人がアルトゥール・ラティシェフである。セベナージ領主マルコ・ラティシェフと妻クリスチーヌ・ラティシェフに同行させられた、が正確だろうか。クリスチーヌは妾腹の長男と顔を合わせることすら嫌い、クリスチーヌの異母姉である大公妃エカテリーナはアルトゥールが大のお気に入り。そんな状況下で彼が連れ出されたのは、仕方のないことだろう。
そんなパーティーを目前に、華やかな宴に暗雲が立ち込めた──その抜けるような青空とは対照的に。そう、小領主が反乱などという愚行を犯したのだ。急転した事態の最中パーティーを強行した国王に、ある貴賓は手腕を見届けようと事態を静観した。彼もしくはその側近により命を狙われたある貴賓は不快感を顕に、臨席こそしたものの通り一遍の祝辞を述べるに留まった。
それぞれの思惑が絡み合い、華やかに見えるパーティーは清涼とは程遠い泥沼の様相を呈していた。
●使者
そんな会場に現れたのは黒字に黒糸と銀糸で影のような狐の刺繍を施されたサーコートに身を包んだ青年。腰には差した細身の剣は柄にも鞘にもオーロラを示す螺鈿の装飾が施されていた。それらは全て、青年がエカテリーナ大公妃の近衛であることを示している。
青年が歩み寄ったのは上司である近衛騎士団長グリゴリーの下。二・三言囁くように言葉を交わすとスッと離れ、今度はアルトゥールの下に歩み寄った。
「アルトゥール様‥‥お耳に入れたき議が」
「声をかけるなら控室にしろって言わなかったかい?」
待つこともできないような事態なのだろうと察しながらも、異常を悟られることを嫌い、珍しく嫌味のない微笑みを絶やさずに話を聞く。しかしその表情は否応なしに強張った。
「母上、気分が優れませんので少々風に当たってまいります」
丁寧に頭を下げ、アルトゥールは大広間を辞した。
陽光に照らされて、手入れの行き届いた庭園の木々が青く煌めく。
普段なら目を細め堪能するアルトゥールだが、それらは彼の視界には入っていないようだった。
「事実なのかい?」
「はい。例の物が動きました」
それは、何者かの陰謀か。
それとも、視線を逸らすためか。
それとも、何も考えていなかったのか。
真相は闇の中なれど、10台の荷馬車に積まれた木材に紛れ込ませて大量の武器がセベナージ領──それも大公妃エカテリーナの別邸に近い場所へと運び込まれたことは事実。冒険者たちの調査により、それらを手配したのが怪僧ラスプーチンと親しいと言われている高位文官ユドゥキシンである線が濃厚となっていた。
そして、先日の調査で冒険者が怪僧ラスプーチンと高位文官ユドゥキシンとの『大きな買い物』についての胡散臭い話を耳にしている。
その中で──ラスプーチンは『雪が解ければ遠くに去る狐』について『手負いの獣に虫が湧いている』と叱責し、ユドゥキシンは『早急に対処をいたします』と答えていたという。
「こんなタイミングでか。狙ったとしか思えないな」
動いたのは運び込まれた『戦争が起こせるほど大量の武器』‥‥繋がりを疑うなという方が無理だった。
「ユドゥキシンはパーティーには?」
「ここ三日ほど姿を見せていないようです」
青年を伴い庭に降りたアルトゥールは、庭木に触れた。ラスプーチンが配したのだろう、警備の兵の視線を感じながら思案する。
大公妃に容疑が掛かったとしたら、大きな内乱が勃発することになろう。
ラティシェフ家に容疑が掛かったとしたら、その背後のノブゴロドと国王の属するキエフの諍いとなり、距離が極めて近いチェルニゴフをも巻き込んだ大きな戦へ発展する危険を孕む。どちらも、暗躍するデビルと蛮族の対処に力を注ぎたいアルトゥールにとっては何としても回避したい事態である。
さく、さく、と土を踏む音が背後から近付き、思考の海を漂っていたアルトゥールを現実へと引き戻した。振り返れば、そこには異変を察したのだろう数人の冒険者の姿。
「アルトゥールさん、顔色が優れませんけれど‥‥」
「調子に乗って飲みすぎちゃったんでしょー?」
「‥‥何かあったっすか?」
今日の彼には与えられていない、自由を持った彼ら。
伯母から学んだ策を労する時間はなかった。
そして、手勢を整えるだけの余裕も。
パーティー会場の警護を担当する彼らが信頼に足る人物だということを信じて、アルトゥールは手短に全てを説明し、そしていつもの見下すような笑みを浮かべずに、命じた。
「僕はここから離れられない。正面から僕の紋章を掲げて戦っても構わない。あの大量の武器を、小領主の反乱軍に使わせる前に奪い取るんだ」
●リプレイ本文
●迎撃と追撃の狭間で
ラスプーチンの謀反とクーデターによりロシア王国に激震が走った──かと問われれば、答えは否。もちろん多くの国民にとっては巻き込まれれば命を落としかねぬ寝耳に水の恐ろしい戦乱なのだが、公国の主たちが大きく構えていれば大半の者にとっては対岸の火事。そして大公たちからすれば「胡散臭い」と常々思っていた相手が真実に胡散臭かっただけのことであり、自分の部下や冒険者に護られた状況下で慌てふためくほど愚かしい者はいなかった。
大公たちは認めぬかもしれないが、結果的に、冒険者が防波堤となったことは事実であろう。
「花々との語らいは、充分楽しませて貰った。そろそろ体を動かしたいと思っていた所だ」
貴人の避難した先でアルトゥール・ラティシェフ(ez1098)の言葉を聞いた真幌葉京士郎(ea3190)はにやりと口角を上げた。ラスプーチンの擁するクーデター軍は暗黒の国と呼ばれる深い森に逃げ込み、キエフの街は一先ずの平穏を取り戻してはいる。しかし、あの大量の武器が流れれば多少なりとも勢力を盛り返し、彼に与したという噂が流れればセベナージやノブゴロド公国も戦禍に巻き込まれよう。
私たちは『花』に含まれないのかしら、と肘で突付いた青龍華(ea3665)の表情には、しかしこの緊張を強いられる貴人たちの下から離れる仕事を与えられた喜びが多少なりとも見受けられる。フィーナ・アクトラス(ea9909)にも似たような色が滲んでいるところを見ると、因習や陰謀、格式で彩られた箱庭は、冒険者たちに閉塞感を与えていたようだった。
しかし、決して浮ついた心根だったわけではない。
「戦いが激しくなれば苦しむのは街の人達です‥‥」
「そうっすね、ロシアをジャパンみたいにはさせたくありやせん。ここで絶対阻止しやせんと」
フィニィ・フォルテン(ea9114)と以心伝助(ea4744)の会話に冒険者たちの心情が集約されていた。余裕を秘めた微笑を浮かべたままリュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)はジャパン語で二人に注意を促した。
『トラブルがあったことを悟られてしまうから、動揺を滲ませちゃダメよ』
依頼人が細心の注意を払っているのに冒険者が台無しにするのは宜しくない。このようなデリケートな依頼ならば尚更。雨宮零(ea9527)は生真面目に頷いた。不信感を抱かれても困るが、状況的に多少の緊張感は無いとおかしい。仮面を被らなければならぬ冒険者たちにとって、歓迎できない状況である。
(撒いてしまった火種は回収しませんとね。‥‥多少なりとも挽回の機会が在りましたことに感謝いたします)
試練という形でチャンスを与え給うたセーラとタロンにセフィナ・プランティエ(ea8539)は感謝を捧げ、成功を祈り。
ボロを出す前に荷物を纏め、キエフから出立した。時間に余裕は、ない。
●哨戒戦
ばさばさ、っと羽音を響かせてフィーナの爪が地面を噛む。収まりが悪いのか二度三度身震いするように羽を動かし、擬態を解いた。
「フィーナさん、大丈夫ですか‥‥っ」
着替えの服を用意していたセフィナはトサッと衣服を取り落とした。鷲の姿では判り辛かったが数本の矢が突き刺さっている。とっさにリカバーの詠唱を開始したが、魔力の消費を抑えるために戦闘時に使おうと用意していたリカバーポーションを差し出した。しかし。
「セフィナちゃん、矢を先に抜かないと」
慌てるセフィナを制し、龍華が膝をついた。
「耐えてね、フィーナさん」
「ええ‥‥お願いするわね」
着るはずだった服を噛み、視線をそらす。器用に探し当てた血管を圧しながら、龍華は間髪入れず引き抜いた! ごぼりと溢れる鮮血。それでも応急的な処置に手馴れた龍華だから、これだけで済んだのだろう。
差し出されたポーションを煽ると、傷は内側から盛り上がるように塞がった。
「ごめんなさい、私があんなことを頼まなければ‥‥」
茂みの向こうから聞こえる声に肩を落とすフィニィ。リュシエンヌはその背をぽんと叩いき、零は──言葉を選びながら、そっと励ました。
「ゴールドさんが偵察してくれたからこそ進路の特定ができたんです。間違っていませんよ」
フィニィが友人ゴールドに依頼した偵察。フライングブルームによる上空からの偵察は相手の進路を特定し、襲撃や隠蔽に最適な場所を割り出すという大きな功績を上げた。しかし、その反面──身を隠すもののない上空からの偵察は、警戒していた敵勢力から丸見えで。襲撃を知られるという大きなミスを犯していた。
結果、敵の進度を探りに行ったフィーナが迎撃されるという事態を招いていた。
「ですが‥‥」
愛でていた一輪の花をフィニィの髪に挿して京士郎は笑う。
「襲撃を悟られたとはいえ、この道は一本道。避けて通るわけにはいかぬだろうよ」
「そう、ミスだと思うなら挽回すればいいだけよ。何のために私たち、仲間がいるの?」
二人の言葉に漸くフィニィは頷き──しかし彼女が言の葉を発するより早く、こちらは地面を伝って哨戒に赴いていた伝助の声が一同を刺した。
「車輪の音が聞こえやす、皆さん急いで準備を」
必要な武器を携えて、馬やペットは逃げぬよう荷物と共に待機させ──余談だが、フィニィのユニコーンはこちらの護衛に残った──「ご武運を」と呟いたセフィナに親指を立ててウインクした龍華とひらひらと手を振るリュシエンヌが敵部隊の殿を狙いに、それ以外は前衛を狙うため二手に別れた。
そして、緊張の糸が張り詰める中──数台の馬車を中心にした輸送部隊が現れた。
闘気で己の肉体と精神を高めた赤毛の青年が、長い髪と純白の羽織を靡かせて示現流の型に則り虚空に剣を振るう。
「真幌葉京士郎、押して参る!」
名乗りと共に放たれた衝撃波が戦闘の火蓋を切って落とした!!
●争奪戦『剣戟』
「まずは馬車ね──フンッ!」
気合一献!!
フィーナの投じたブレーメンアックスは馬と馬車の中間‥‥とはいかなかったが、馬車と引き綱の繋ぎ目を分断した。バランス良く加わっていた力が乱れ、馬車はガクンと失速する。
「やっぱり愛斧ね」
結びつけたロープを器用に引き手元に呼び戻した斧。次は護衛に、と振りかぶった瞬間。
「安らぎの眠りよ──」
目標が昏倒した。いや、フィニィの眠りに導かれて倒れたのだ。倒れたのは4名、どうやら抵抗した者もいる模様。その隙を縫ってするすると馬車に近付いた二つの影──零と伝助がぶつりぶつりと引き綱を次々に分断する。
『ヒヒィィィン!!』
嘶いた先頭の馬が護衛を蹴り飛ばして逃げ出した!! 馬を切らずに済んだことに少なからぬ安堵感を抱きつつ次の引き綱を切る。しかし指を咥えてみている敵ではない。
「伝助さん!!」
手加減よりも仲間の命──鋭く薙いだ一撃がゴリッと嫌な音を立てながら武器持つ腕を大きく切り裂いた。噴出した鮮血。肉を絶たれ骨を砕かれ力の篭らなくなった腕がだらりとぶら下がる。
「下がれ、手当てを!」
「すまん‥‥!」
言葉を交わし振り返った男は愕然とするしかなかった。
「混沌の暗闇──」
リュシエンヌの詠唱で、まるでぽっかりと空間が抜け落ちたかのような暗闇が出現していたのだ。
殿から馬車をほぼ2つ納めたそれに、怒号が響いていた。目当ての場所だった中央部が辛うじて闇に呑まれておらず、男はクレリックの下へとほうほうの態で歩み寄る。
「フィニィさんにセーラ様のご加護を──」
「安らぎの眠りよ──」
ならばそのクレリックや周囲の回復役たちをまとめて眠らせてしまおうと、セフィナとフィニィは協力してより強いスリープの魔法を唱えるが‥‥これはまるで何かにかき消されるかのように効力を発しなかった。2度目も同じ。冒険者らが最初から敵中衛に気を配っていれば、セフィナがそうしたように、敵もまたホーリーフィールドを詠唱していたことに気付いたかもしれない。
●争奪戦『爆煙』
闇の向こうで起きていることに殿の二人は気付く余地がない。
「アルテイラの導きよ──」
リュシエンヌのシルバーアローが暗闇に更なる混乱を招く。足音が乱れたが、的確に現在位置を把握していたのだろう数名が今にも暗闇の空間を抜け出そうというとしていることに龍華が気付いた。
「腕が鳴るわね」
緊張を笑い飛ばそうとした龍華は僅かに失敗し、ぎこちない笑みを浮かべて。
それでも右手の龍叱爪で空を掻いた。ひゅっ、と空を切る音が緊張を和らげる。
「龍華!」
「解ってるわ、まっかせて!」
一撃、二撃、そして龍飛翔。決して軽くはない攻撃を立て続けに喰らい、顎に叩き付けられた拳が痛烈な一打となる。拳なら痛烈というだけだろうが、龍叱爪が抉った跡は肉が毟り取られたかの如き傷を残していた。
「残念だったわね、ご苦労様♪」
頭部への衝撃に倒れた男へ今度こそ笑みを浮かべ、龍華は闇を見据える──そこに蠢く敵はまだ多い。
一方、クレリックの存在に気付きながらも為す術のないセフィナとフィニィに、フィーナが気付いた。
「こんな所で反乱軍に流れを取り戻される可能性を作り出される訳にはいかないのよ」
魔法が効かないのならば怪我を負わせてから取り押さえるだけ、と投じた斧が、結界を粉砕した!
「ホーリーフィールドでしたのね‥‥!」
セフィナが臍をかんだ。気付いたとて、二人の手札ではどうにもならなかったのだが‥‥。
しかし再び結界が空間を閉ざすより、フィニィの詠唱の方が早かった。ことん、と眠るクレリック。
端から均衡などはなく、流れは一方的に冒険者たちへと傾いていた。
『ギャン!!』
「助!!」
突如吹き上げたマグマに巻き込まれ悲鳴を上げた愛犬に、引き裂かれるような叫びを上げる伝助。
「助ちゃん!」
飛び出したセフィナが抱きかかえてリカバーを唱える。撫でた手を甘えるように舐め、助は主人の命じた戦場へと舞い戻る。
ネイルアーマーの肩口に傷を作り、返り血で滑る霞刀の柄をしっかりと握り締めながら、零は次の敵へと目標を移し──
●争奪戦『問答』
「貴様ら、自分たちが何をしているのか解っているのか!」
次の瞬間、戦場に甲高い神経質な声が響き渡った。やや猫背気味の三白眼‥‥文官ユドゥキシンである。
敵輸送部隊は指揮官らしい彼の言葉を聞くべく、警戒を解きはしないものの戦を止め。次いで興を殺がれたかのように伝助らも武器を止める。
「どういう意味?」
効果の切れたシャドウフィールドの詠唱を中断し、リュシエンヌは問う。歌い手として鍛えられた声は戦場を抜け、ユドゥキシンの下までしっかりと届いた。
「我々はウラジミール陛下のため、押収したこの武器を戦場へと運ぶ途中。それを邪魔立てするなど、陛下に弓引く行為だ!!」
「どこから押収したのか、伺ってもよろしいですか?」
フィニィの涼やかな声にふんぞり返るかのように胸を張ったユドゥキシンは抜け抜けと言い放った。
「大公妃とラティシェフ家が逆賊ラスプーチンと組んだのだ! 我々はラスプーチン軍へと運び込まれる武器を──」
「‥‥御託は結構っすよ、ユドゥキシンさん」
鼻を鳴らした伝助に敵愾心をむき出しにしたユドゥキシンの視線が降り注ぐ。
「所詮は冒険者、陛下も買い被られた──」
「すいやせんね、『大きな買い物』の邪魔しちゃって」
皆まで言わせず。遮るように言い放った伝助の言葉に、ユドゥキシンは顔色を変えた。
「私たちはそのラティシェフさんの依頼でここにいるのよ。あんたの頭が飾りじゃないなら、どういう意味か判るわよね?」
「ついでに言うと、私たちの何人かがその武器を運んだのよね。そう何度も騙されてあげるほどのお人好しは、ここにはいないわよ」
龍華とリュシエンヌが突き付けた指に、燦然と輝く揃いの指輪が陽光を受けて輝いた。
それはまるで、どちらが正義かを示す天の導のようで──‥‥
「切り捨ててしまえ!!」
「甘い!」
眼前に立ちふさがった男が剣を構えなおすより早く、一刀の下に切り捨てて。
姫切を一振りして伝う血を払うと京士郎は朗々と声を張り上げた。
「命を奪いに来たわけではない、お前達の反乱は失敗に終わった、助かりたい者は荷物を置いてさっさとこの場より立ち去るがいい!」
「この場に残った方には、僕たちは容赦という言葉を持ちません。これが最後のチャンスですよ」
少女のような顔に湛えた笑みは魔性のそれに見えたことだろう。ちゃき、と霞刀が小さな音を立てると、零の視線を正面から受けた男は、剣を棄てて一目散に逃げ出した。修羅と羅刹と呼ぶべきか、この二人の攻撃は避けることも受けることも叶わなかった。彼らに残された手段が逃げる以外にあっただろうか‥‥
気付けば戦場には、幾つかの屍と、逃げることすら叶わぬ傷を負った敵兵が数名。
この戦いで誰の剣も受けなかったのは、零とフィニィのみ。
その二人ですら魔法で受けた傷は少なくない。
そしてより多くの敵を切り捨てたのは京士郎。
しかし、誰が欠けても隠密裏なこの仕事は果たせなかっただろうという思いは共通のもの。
「潜んで奪還を狙ったりはしていなさそうよ」
危険をおしてまでミミクリーで擬態し敗走する輸送部隊を追ったフィーナはそう判断をし、武器を隠すことを提案した。近くに洞窟でもあれば良かったのだろうが、生憎探すほどの時間はなく。返り血と自らの血の区別もつかなくなった烈風の修羅は、同じく二刀の伝助と共に、率先して小分けしロープで縛り付けた武器を森のあちらこちらへと隠した。
「後は結果をアルトゥールさんに報告すれば終了ね」
フィーナが大きく伸びをした。上流階級の儀礼と作法に縛られた緊張とはまた違う、命のやり取りを孕んだ緊張。体を蝕むように蔓延るそれを解すために。
セフィナの手をリカバーの度に塗らした血は赤茶けてこびり付いていた。
龍華の右手も、いや右半身というべきだろうか、紅に染まっていて。
もちろん、斧を投げ続けたフィーナも、伝い落ちる血で手を汚していた。
「‥‥戻る前に水浴びでもしたいわね」
リュシエンヌがそっと皆の手を握ると、白い手に赤い色がこびり付いた。
それは、命を奪った罪は誰の上にも等しく降りかかるのだと‥‥彼女の語らぬ胸の内を示していた。それを悟り、フィニィも自らの手を重ねる。何も語らぬセフィナの目からぽろりと追悼の涙がこぼれた。
貴人の下の緊張よりは戦闘の方が余程マシだけれど。
決して独特の赤に、血の臭いに、そして命のやり取りに‥‥慣れたくはない。