冒険者って便利屋さん?−謎の男−
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■ショートシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 69 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月19日〜08月29日
リプレイ公開日:2007年08月23日
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●オープニング
●冒険者ギルドINキエフ
広大な森林を有するこの国は、数年前より国王ウラジミール一世の国策で大規模な開拓を行っている。
自称王室顧問のラスプーチンの提案によると言われるこの政策は、ラスプーチンの企てたクーデターが潰え、彼がデビノマニと化した後も‥‥まるで壮大な協奏曲の如く彼の存在を誇示しながら、皮肉にも国民の希望となり支えとなり続けていた。
けれど希望だけではどうにもならないことが多いのも事実──特に、反逆の徒ラスプーチンが姿を消した『暗黒の国』とも呼ばれる広大な森の開拓は、そこに潜む膨大で強大なデビルたちが存在の片鱗を見せた今、従前から森に棲んでいたモノたちとの衝突以上の恐怖を伴うこととなった。
そして、それは終わらない輪舞曲。広き森を抱き開拓へ希望を抱く公国、歴史ある都市を築き上げ開拓の余地のない公国、牽制しあう大公たちの織り成す陰謀の輪は際限なく連なっていく。まるで、それがロシアの業であるとでも言うように。
不穏と不信、陰謀と野望。それらの気配を感じた人々や、それらを抱く人々による冒険者への依頼も増え、皮肉なことに冒険者ギルドは今日も活気に溢れていた。もっとも、夫婦喧嘩の仲裁や、失せ物探し、紛争の戦力要請など種々多様な依頼が並ぶ状況に変わりは無いのだが──‥‥
●謎の依頼人
粗末ながらも清潔さを感じさせる衣服を纏った少年──と呼ぶには少々年嵩のある男がギルドのカウンターに腰掛けていた。黒い髪を細かく結い上げているが、線はあまり細くない。そしてロシアの多くがそうであるように、彼もまたハーフエルフのようだ。彼は興味深そうに周囲を見回し、ほう、と感嘆の息を吐いた。
「キエフは本当に人種の坩堝だな。混沌としていて何だか落ち着かないな」
でも活気に満ちているし‥‥この混沌も慣れれば住み良いものなのか。
物珍しそうな表情に悪意は無い。全くキエフに慣れていないだけのようだ。‥‥いや、冒険者という存在に慣れていないだけかもしれない。どちらにしろ、どこかで見たような気がしていたドワーフのギルド員は、引退冒険者という経歴も手伝ったか、言動に好意を抱けなかったようである。
しかし、そこは仕事と割り切って三つ編みのヒゲを撫で、ギルド員は少年に依頼の内容を尋ねた。
「別段大したことでもないんだが、北にある村に向かわなくてはならないのだが、ラティシェフ領は例の怪僧殿の一件以来かなり危険だというからな。先を急ぐ用件ではないのだが、護衛をお願いしたいのだ。依頼料はこれだけあれば良いか?」
単純に童顔なだけなのか、それとも言動が大人びているだけなのか、ギルド員は咄嗟に判断がつかなかったが‥‥決して少なくは無い金貨が入った皮袋をポンと出した辺り、前者なのかもしれない。必要な枚数の金貨を抜いて皮袋を返すと、羊皮紙にペンを滑らせた。
「護衛対象は荷物や別の方ではなく、依頼人ご本人ということでよろしいですかな?」
「そうだ、私の護衛を頼みたい。命を賭しても守りきるというほどの覚悟がある冒険者を頼みたいところだな」
「身を隠す必要がなく時間があるのなら街道を通って行かれるべきですの。セベナージ地方は蛮族だけでなくオーグラやフロストウルフなども生息しているようじゃが、街道沿いならば多少は危険も少なくなるようですからな」
「その辺りは冒険者に任せよう。期間中の食事や寝所についても任せていいと聞いているのだが?」
「お望みでしたら、そのように条件を付けましょうかの」
さらさらと一文を付け加える。
「ああ、そういえばお名前を伺っておりませんでしたの」
「ピ‥‥‥いや、ペトルーハだ」
ドワーフのギルド員の言葉に少年はそう名乗ったが‥‥明らかに言葉を濁していた。どうやら、身元は隠したいようである。
◆
「というわけで護衛を頼みたいのだがな、ラティシェフ家の治めるセベナージ地方は先達てアバドンが確認されたばかり。街道沿いでも下級デビルが確認されているだけでなく、影響されるように盗賊やモンスターの活動も活性化してきている」
ドワーフのギルド員は疲労の滲む溜息を零す。
「どこで聞きつけたのか、何が目的かもわからんが‥‥現地を確認したいらしい。まあ、あそこはノブゴロドの飛び地のようなものだしな、大方どこぞの大公の手の者だろう」
自慢のヒゲを撫でながらの彼の言葉は、幸か不幸か彼の想像にすぎない。行き先は明確ではなく、思いついたように指し示した街道沿いの小さな村。村々の間隔が広いロシアでは珍しく、村と村の間が徒歩で半日から一日程度と比較的密集した個所でもある。訪れてみたいのは村の宿屋や各種商店、セベナージのかなりの範囲を占めるキエフ湖やドニエプル川沿いの市場などであるようだ。
依頼人の目的は掴み辛くあるが、冒険者たちが為すべきことは、依頼通りに依頼人ペトルーハの身を守る。それだけである。
●リプレイ本文
●ピ‥‥じゃなくてペトルーハ
雨など辞書にもなさそうな快晴の下、乾燥した風が吹き抜ける。残暑と初秋に揺れるキエフを幼いロバが跳ねる。
「‥‥‥」
ブッケーセと名付けられたロバの飼主ハロルド・ブックマン(ec3272)は、そんな姿を眺めつつ、ローブのフードを被りなおす。
「‥‥暑くはないのか?」
アフリディ・イントレピッド(ec1997)の言葉に、静かに目を伏せるハロルド。どうやら気にするほどのことではない、らしい。顎に手を当て、トーマス・ブラウン(eb5812)が訳知り顔で二度三度頷いた。
「ジャパンでは心頭滅却すれば火もまた涼し、というでゴザル。暑いと思うから暑いのでゴザルよ。ミーなど、ほら、汗ひとつ‥‥」
「そうは見えないが‥‥ジャパンに詳しいのなら、いろいろご教授願いたい。ああ、私のことはエフと」
アフリディ‥‥エフは頭を下げた。ジャパンの装束に身を包んでいるが、彼女はイギリス人。和服のデザインが好みなのだと語った。本来なら同行しているジャパン人の侍がいるはずだったのだが、生憎、出発に間に合わなかった模様。少々気落ちしていた心をキャプテン・トーマスの存在が明るく照らす。
「冒険者はパラやシフールも多いと聞いていたのだが」
違う意味でがっかりしていたのはペトルーハ。陽を遮る雲の如き表情で肩を落とした彼がいったいどんな偏見を抱いていたのかと、僅かに不快感を覚えながらラファエル・シルフィード(ec0550)は訊ねた。
「冒険者とはどのような者だとお考えだったのですか?」
「礼儀知らずで騒々しい、ならず者の集まりだと聞いていた。‥‥そうでもなさそうで安心しているところだ」
照れ臭そうに笑ったペトルーハがとても幼く見え、シェラ・カーライル(ec3646)はくすくすと笑う。冒険者になって初めての依頼という緊張も程良く解れたのだろう。
「ま、ならず者の集まりってのはあながち外れてねぇよな。ギルドに依頼を出すのは初めてかい?」
顎鬚を弄りつつ、馬若飛(ec3237)はにやりと口角を上げてハロルドと視線を交わす。自分や旧友ハロルドのような傭兵出身者はならず者に含まれるだろう。それを差し引いても、ペトルーハの認識は特段珍しいものではなく、世間一般から見た冒険者のイメージそのものであるが。
「実は、キエフを訪れたのも初めてでな。郷里に住まう者の殆どはハーフエルフとエルフゆえ、目新しいものばかりだった」
どこか嬉しそうなペトルーハの表情。ギルド員から聞いたやりとりといい、どこか世間とズレた感覚の持ち主のようである。予想の1つを肯定されたような気がして、若飛は眉間にシワを寄せた。
(世俗慣れしてない様子といい、大公が調査に寄越す人材としてやや不適当な感を受ける。調査の動機が特殊、あるいは調査が目的ではない可能性もあるだろうか)
思考すら文章のようなハロルド、移動中でなければ羊皮紙にペンを走らせていたに違いない。物足りなげに、手にした分厚い革張りの書物グリモワールへと指を走らせている。
「うーん、あまり妙な事にならなければよいですけどね」
同様の懸念を抱いたのだろう、ヴィルセント・フォイエルバッハ(ec3645)も小さく呟いた。初めての依頼には依頼人の他に大切な友人がいる。適度の緊張感は確かに心地良いが、面倒な事態は御免被りたいところだ。
「どうかしましたか?」
愛らしく首を傾げるシェラに何でもないと首を振り、ヴィルセントは前を見据えた。
──これから歩んでいく、冒険者の道を。
●宿屋と羊皮紙
流石に睨みを利かせる長身の男性4名の迫力は圧巻だったのか、それとも偶然の産物か、宿泊予定地と考えていた村には予定通り到着した。道中、ペトルーハが周囲を物珍しげに眺めていたが、特に森に特攻するわけでも、何かに執着するわけでもなく‥‥
『文字通りの物見遊山という風情ですね』
宿の交渉に向かったヴィルセントは同行したエフに、周囲から直ぐには聞き分けられぬよう大事を取ってイギリス語で語る。
『目的がわかるだけでも、襲撃の可能性を絞ることができるのだがな‥‥』
肩を竦めるエフ。その質問はのらりくらりとはぐらかされてしまったのだ。もっとも、はぐらかしているのがありありと判ってしまうあたり、場数を踏んでいないことが窺える。
『まあ、出没すると言う噂のゴブリンや盗賊などは、ペトルーハ殿の目的に関わりなく現れるときは現れるのだろうな』
『そうですね。それが厄介といえば厄介ですか‥‥』
8名にペットが数頭という大所帯であるが、もともと交易が盛んなセベナージ領である、宿は直ぐに見つかった。
「いや、このご時世でしょう。旅人も行商人もめっきり減ってしまってね、お客さんのような大人数の方はありがたいくらいですよ」
破顔した宿の主人を疑うわけではないが、宿の検分にヴィルセントを残してエフは仲間の下へと戻る。
◆
宿には危険もなく、自らが言い出したじゃんけんに負けた若飛の毒見も幸か不幸か何事もなく済み、一向は疲れを癒すことになった。
「出来るだけ集落の宿屋に泊まりますが、あまり豪華じゃなかったり、日程の都合で野営が混じることもありますから、ご了承くださいね」
事前にシェラが言い含めていた為か、ペトルーハは寝台を与えられたことを素直に喜んだ。
「本当に質素になってしまいました‥‥申し訳ありません」
「いや、固い寝台も慣れれば寝心地が良い。気にするな」
恐縮するシェラに微笑んだペトルーハは、パンパンと枕を叩く。天日で乾かされたカバーが心地良い。
「問題はないかと思いますが、万一の事態がないよう警護に立たせていただきます。部屋を出る際は、誰か一名でもお連れ下さい」
念を押すラファエルの言葉に素直に頷くペトルーハ。そんな扱いに慣れているようで、トーマスはむむむと唸る。
(ご領主の一族に縁のある方でゴザろうか‥‥それにしては注目されていないようでゴザルが)
唸るトーマスの耳に、聞きなれない無機質で掠れた声がふと流れ込んできた。
「氷棺よ、鎖せ」
ハロルドの声である。短い詠唱は部屋に置かれていた花瓶を氷の棺に鎖す。再び言葉を封じたハロルドは花瓶を横にし床に置いた。そして指で示す。
「これがどうしたのだ?」
困惑の依頼人に、通じぬかとため息を漏らし取り出した羊皮紙にさらさらと流麗なゲルマン語を綴る。
──歩きなれていないのでしょう。明日に支障が出ぬよう冷やし疲れを癒しておく方が賢明です。
彼の手記とは違う、口語体で記された言葉。無口で無表情、決して愛想の良くないハロルドであるが、依頼人を慮る気持ちは仲間となんら変わりはしない。
「甘えさせてもらおう」
冒険者たちが辞した後、ペトルーハはそっと靴を脱ぎ、靴擦れで肉刺を作った足を氷に乗せた。
●出会い ⇔ 別れ
初日に比べ幾分ペースに衰えは見えるものの、翌日、翌々日は問題なく過ぎた。
──そう、問題があったのは4日目である。
「風の精霊、隠れた吐息を我が耳に──。‥‥‥!?」
ラファエルのブレスセンサーに反応があったのだ。
「その角の先、それなりの大きさの呼吸が5つあります」
「事前にわかるってのは便利でいいねえ」
若飛がにやりと笑い、一度は失いかけた手と指で大天使の剣を鞘から抜く。ヴィルセント、トーマス、エフもそれぞれの獲物を構え、じりじりと森の角を曲がる‥‥!
「Grrrr!?」
そこにいたのは5体のゴブリン。全く予期していなかったのだろう、摘んでいた木の実を取り落とし腰を抜かしている。
「ミーに任せるでゴザルよ!」
あまりに平和的な光景に躊躇した冒険者たちの中から逸早く踊りだしたのはキャプテン・トーマス!
「とぉぉりゃぁぁぁ!! でゴザルぅぅ!!」
大仰に振り回したロングソードと礼服のアンバランスさ、何よりその怒涛の勢いに押されたのだろう。キィキィと悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように森の中へ消えていった。
「ふう、一件落着でゴザル。サムライは無用な血は流さぬものでゴザルからな!」
「なるほど‥‥勉強になった」
エフが頷く。トーマスが言っている事はハロルドの知識に照らしても間違ってはいないようなのだが。
『キャプテン・トーマス。彼の口を通すと胡散臭く聞こえるのは何故だろうか』
その日のハロルドの手記にはそんな一文があったとか。
◆
ゴブリンとの遭遇が原因とは言い切れぬが、その晩は予定の距離を進むことができず次の村へたどり着くことができなかった。
「街道にテントを張るわけにもいきませんけれど、あまり離れるのも無用心でしょうか‥‥」
仰ぐように──身長差があるため本当に見上げているのだけれど──シェラが若飛を窺う。
「ま、そんなもんじゃねぇの? 街道を良からぬ輩が通らないとは限らねぇしな」
頷かれ安心したようにバックパックを下ろすシェラ。彼らが持つテントは、4人用の物が1張、2人用の物が3張。2人用のうち1張を依頼人ペトルーハが使用し、1張をエフとシェラ、二人の女性が使用する。あとは、それぞれ不寝番に当たっていない者が使用することになった。
「薪を拾いながら周囲を見てきます」
「悪いな。重々気をつけろ」
テント張りに全員で取り掛かる必要はない。周囲の警戒を怠るべきではないだろうと、どちらにしても誰かが行わねばならぬ薪拾いを兼ねてヴィルセントが立ち上がり、エフが見送った。警戒に出たはずのヴィルセントが見つけたのは敵ではなく湧き出る泉だったが、敵を見つけるより余程歓迎された。
「きれいな水があれば、スープが作れますね」
ただの保存食では味気ないですし、とシェラが頬を綻ばせいそいそと保存食を利用したスープを作る。
「冒険者というのは何でもできるのだな。私とは大違いだ」
「冒険者だって、一人では何もできません。私は神に祈ることや多少の家事はできますけれど、ヴィルセントさんやエフさんのように剣を扱うことはできませんし、ラファエルさんやハロルドさんのような魔法が使える訳でもありません」
穏やかに微笑むシェラの言葉に、ペトルーハは神妙な面持ちで耳を傾けていた。語り部がラファエルに変わっても、じっと、全てを記憶せんとばかりに、黙って耳を傾ける。
「お互いに相手が力を活かしきれるよう協力しあうのが冒険者ということです。簡単なことですけれど、この国にいると地位のある方ほど見失いがちなことのようにも思えますね」
──何度も耳にした通り、この辺りでは大型モンスターと思われるモノの襲撃が頻発しており、人々の暮らしは危険と隣りあわせです。しかし、危険と隣あわせなのはこの辺りに限ったことではありません。冒険者ギルドに依頼が掲示され続けることが、全ての証でしょう。
ハロルドの文字も語る。冒険者という根無し草でも、その国やそこに住まう人々を愛し憂うのである。
「‥‥ずいぶん遅くなってしまいましたね。そろそろ休まないと」
か細くなった炎に薪をくべ、ヴィルセントが休息を促した。
名残惜しそうに冷えてしまったスープの最後の一さじを飲み干して、ペトルーハはテントに潜り込んだ。
それを合図に、三々五々、それぞれのテントへと体を休めに潜り込んでいった。
◆
シャッ、シャッ、シャッ‥‥
ラファエルの握る木炭の音だけが耳を打つ。羊皮紙に描かれるのは、夜空。
「巧いものですね」
同じ星空を見上げていたヴィルセントが興味深げに覗き込む。
「下手の横好きですよ。この夜空を無性に描きたくなったのですが‥‥」
「気持ちはとても良くわかります」
星空に視線を移し、深く頷く。どこか近しいものがあるのだろう。
その星空を、不意に何かが横切った。
鉛色の、何か。
ブレスセンサーを詠唱したラファエルは眉を顰めた。
「まだ距離はありますが‥‥囲まれていますね」
「昼間のゴブリンですか?」
「いえ、人間サイズです。盗賊かもしれません」
ヴィルセントはそっと剣を手繰り寄せると、オーラパワーを詠唱した。焚き火の照り返しに淡いピンクの光が誤魔化され、ロングソードがヴィルセントごと魔力を帯びる。そして敵に気付かれぬようテントに小声で呼びかけた。しかし、テリトリーなのだろう。近付く敵の速度が予想より早い──!
「‥‥一思いに起こしましょう。雷よ、我が右手に宿り迸れ──!」
一直線に飛んでいく雷光が、空を切る轟音を響かせる!!
「派手ですね!」
「目も覚めるでしょう?」
小さく笑い、再度の詠唱を開始する。しかし盗賊も気付かれたとあっては身を隠さず踊りかかる!
「くたばれ!」
「させません!」
流派エンペランの得意とする技で、盗賊の握るダガーを落とす!
追い討ちをかけるように、飛来した水球が爆発する!
「出番ですよ」
「待ってたぜ!」
掠れ声に背を押され、二度目の雷光を追うように若飛が飛び出した!
「セーラ様、お力を──!」
シェラの祈りが盗賊の一人を呪縛する!
「あと何人か解るか!?」
「あと3人‥‥後ろです!」
クールな仮面に隠れていた熱い血潮を滾らせ、エフは神々しい剣を一閃する!
「ぐっ!!」
「不届き者相手に手加減するほどお人よしではないぞ!」
不意打ちをかわされた盗賊が重い一撃によろめく。追い討ちをかけるように、氷の棺が盗賊を封じる!
『流セ流セ、血と怒リ‥‥ケッケッケ』
「うわああ!」
耳に届いたペトルーハの悲鳴。トーマスと若飛が振り返ると小柄な人影が二つ、ペトルーハのテントに近付いていた。
「ちっ!」
「囮に使ったつもりでゴザルか!」
人間ではない異形の上で二条の剣筋が交錯する! ざくりと引き裂かれた腹からは一滴の血も流れない‥‥
追い討ちをかけるべく詠唱を続けるラファエルにインプが『命じた』。
「動くな、ニンゲン‥‥!」
「く‥‥っ!」
「ならば語るな、インプ」
ハロルドの短い詠唱がインプの音を封じる。慌てて魔法を使用しようとしたもう一体のインプも、サイレンスの餌食となった。魔法が封じられたインプなど敵ではなく──多少の怪我は負ったものの、問題なく退治に成功した。
主戦力がインプに向いている間にシェラの魔法が盗賊を呪縛していた。効力が切れる前に縛り上げ、盗賊も無事捕らえることができた。ほう、と安堵の息を漏らす仲間たちへ、その表情に自分が怪我を負ったかのような痛みを浮かべてリカバーを施して回った。
「助かった、ありがとう。だけど‥‥これがキエフか‥‥」
感謝を表しながらも、体験した襲撃に、表情を憂いで翳らせるペトルーハ。
「大事なくて良かった。私たちも身体を張った甲斐がある」
エフの言葉に改めて頷いたペトルーハは、それ以外に感謝の表し方を知らないのだと言って──皆に、美しい青に染め上げられたスカーフを手渡した。
今回の体験が彼を変えていくのだが‥‥それは未だ、冒険者たちの知るところではない。