八本足の悪しき神

■ショートシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 75 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月19日〜02月27日

リプレイ公開日:2005年02月28日

●オープニング

●海と山に挟まれた村々の会合──
「グランドスパイダ様が、倒れてしまわれたのか!!」
「それは本当なのか!?」
 グランドスパイダを守り神と崇めている村々の会合は、蜂の巣を突付いたような大騒ぎになっていた。
「我が村へ降りてきたグランドスパイダ様をお沈めするために、ハーフエルフを贄にしようとしたのじゃ‥‥」
「‥‥しかし、ハーフエルフと手伝いの冒険者が巣へ着くと、我らをお護り下さっていた良きグランドスパイダ様は‥‥その血を継ぐ、悪しきグランドスパイダとの戦いで倒れてしまわれていたそうです」
 それぞれの村の村長と長老は、顔を見合わせた。そして囁かれる言葉。

 紅き瞳のハーフエルフから、悪漢から、モンスターから、村人を護ってくれていたグランドスパイダ様。
 その身を滅ぼした存在があるのならば、それは村を襲う存在に違いない。
 そして、グランドスパイダ様の仇を討つことは、グランドスパイダ様の御心に叶うものに違いない。

「どうじゃろう。グランドスパイダ様の仇を、討たんか?」
 先日、ハーフエルフを生贄に差し出した村の長老が、改めて一同に提案し──それは、満場の一致を以って可決された。

 海と山に挟まれた村々は、良くも悪くも、純朴で小心者の集まりであった。

●冒険者ギルドINパリ
 その日、パリの冒険者ギルドでは一人の少女が張り出された依頼に小さな胸を痛めていた。
「グランドスパイダ様の、退治‥‥」
 少女の名は、ナスカ・グランテ。先日、グランドスパイダの生贄になったはずのハーフエルフである。
「‥‥あたしの、代わりに‥‥グランドスパイダ様が‥‥」
 狂化し村人を殺めていたハーフエルフから村を護ったグランドスパイダ様。自分もいつ狂化し、どんなことをするのか分からないのに、それでも生きることを選んでしまった。守り神である土蜘蛛様を踏み台にして──
「ごめんなさい、土蜘蛛様──せめて、最期はあたしの手で‥‥」
 若きハーフエルフは、小さな手をぎゅっと握りしめ、依頼を請けるべくカウンターへ向かった。

●今回の参加者

 ea1770 パーナ・リシア(29歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea6966 アンノウン・フーディス(30歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea9096 スィニエーク・ラウニアー(28歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9508 ブレイン・レオフォード(32歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea9655 レオニス・ティール(33歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb0265 ティファ・フィリス(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0660 鷹杜 紗綾(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0703 リジェナス・フォーディガール(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 eb1014 ファオリエ・フィルガント(31歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb1202 ユスティ・ラスカリス(30歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●ハーフエルフの少女、ナスカ・グランテ
 出発前、ひとときのパートナーとなる冒険者たちは、お互いに名を名乗りあう習慣があるようだ。
「初めまして。イギリス王国より参りました白のクレリックで、パーナ・リシアと申します。皆さん、どうぞよろしくお願いいたします」
 パーナ・リシア(ea1770)が微笑みながら挨拶をすると、ナスカ・グランテもつられて頭を下げた。
「あ、こんにちは。一緒に依頼を受けることになりました、ナスカ・グランテです。よろしくお願いします」
「お久し振りね、ナスカちゃん。来るとは思ったけどやっぱり来たのね」
「久しぶり、元気だった? 今回もよろしくね」
 挨拶をしたリジェナス・フォーディガール(eb0703)とレオニス・ティール(ea9655)はハーフエルフの少女に声をかける。ナスカが冒険者として旅立つことになった、その顛末に関わっていただけに‥‥ナスカのことが気になったのもあって、この依頼を受けることにしたようだ。
 同じ想いを抱くスィニエーク・ラウニアー(ea9096)もまた、彼女なりに声を振り絞ってナスカに声をかけた。
「あ‥‥お久し振りです‥‥‥ナスカさん。‥‥お元気でしたか?」
「レオニスさん、スィニエークさん、お久しぶりです。アンノウンさんも、その節は‥‥ええと、色々お世話になりました」
 少女なりに言葉を選びつつ、改めて以前の依頼の礼を述べる。礼を述べられたアンノウン・フーディス(ea6966)は、気にするなと鷹揚に手を振り、レオニスはフォローするように柔らかく微笑んだ。
「でも、因習により神とあがめ生贄を差し出した怪物を退治する。それを自分達で決めたのはいい傾向だよね。たとえ自分達の身の安全のためであろうとも、さ」
 5人の会話を聞き、ファオリエ・フィルガント(eb1014)は柳眉を潜めた。
「なんだか、色々あったみたいだけど‥‥あたしは面倒くさいことは嫌いなのよね。要は、グランドスパイダを退治すれば良いんでしょ?」
「そうだな、少し複雑な心情の人も居るみたいだ。まあ、なんにしても依頼受けたからには成功を目指すさ!」
 何となく疎外感を感じていたブレイン・レオフォード(ea9508)もファオリエの言葉に頷き、小さな決意を拳で表した。
「で、ナスカ。尋ねるのも心苦しいが、特殊な狂化条件があれば教えてもらえるか? 共に戦う以上、リスクは最小限に止めたいんだが」
 心苦しいと言いながらも顔色一つ変えないアンノウン、依頼を達成することだけを考え出したようだ。
 尋ねられたナスカは、困ったように、どこか寂しさを浮かべて小首を傾げる。
「怒って狂化したことはあるけど‥‥小さい頃に。特殊な条件は、ないと思う‥‥今までなったことがないから、多分‥‥」
「‥‥ナスカちゃん、狂化したら、頑張って止めるからね‥‥」
 同じハーフエルフとして放っておけなかったのだろう、ティファ・フィリス(eb0265)がナスカを励ました。表情はあまり変わらないが、そっと握られた手の温もりを感じてナスカは緊張を解く。
「もし今回狂化しても、それはきっと今後の冒険生活でどう対処していくかのいい経験になると思うよ♪あたしもまだまだ未熟者だし、お互いに頑張ろうね、ナスカ」
 鷹杜 紗綾(eb0660)はニッと笑い、ナスカの頭を撫でた。そう、不安なままでいるよりも、我が身のことならば知っておいて損はないはずだ。
 そして、紗綾はナスカとティファを促した。
「それじゃ、さっそく出発ね」
「「えっ!?」」
 ユスティ・ラスカリス(eb1202)とファオリエは素っ頓狂な声を上げる。今回が依頼初めての依頼になる彼らは、保存食を当日買おうとしていたのだ。ファオリエは頬を染めて視線を逸らした。派手な顔立ちが、妙に子供っぽく、愛らしく見えた。
「だって、面倒だったのよ」
「でも、忘れなくて良かったぜ。ちょっと買いに行ってくる、待っていてくれ」
 ユスティとファオリエとはそう言い残し、保存食を買いに走った。

 ──教訓。買い物はお早めに。

●土蜘蛛の住まう森
「着いたはいいが、敵の数くらいは分からないと話にもならないな」
 アンノウンは周囲の森を見回して息を吐いた。何をそんなに憂うのだろうと、ファオリエは目を瞬く。
「数なんて、ファイヤーボムで吹っ飛ばしちゃえば関係ないわよ」
 面倒がなくて良い、と主張するファオリエに、フードを深く被りながらスィニエークがおずおずと口を挟んだ。
「辺りに燃え移って戦闘どころではなくなっては困りますし‥‥それに火消しも大変ですから‥‥」
「洞窟にものすごく燃えやすい物でもあるの? それなら面倒だからやめるわよ」
 そうではないのだと、リジェナスがファオリエの肩を叩く。
「巣っていうのはね、一番最初のグランドスパイダ様が巣を構えていた洞窟を中心に、子供たちが繁殖した周囲の森を含めて、そう呼ばれているのよ」
「それに、グランドスパイダって、普通は地面に穴を掘って得物を待ち構えるんだよね。だから、一つずつの穴にファイヤーボムをしないと──」
「ああ、それ以上言わないでレオニス。考えるだけで嫌になってきたわ‥‥」
「‥‥じゃあ、わたくし‥‥周辺にグランドスパイダの穴がないか、探してきます‥‥」
「少し待て、ティファ」
 歩き出そうとしたティファを制して、アンノウンはブレスセンサーの呪文を唱えた。
「‥‥20‥‥いや、30はいるな‥‥ほとんど動きのないものばかりだが──集まってきた、来るぞ!!」
「わ、うじゃうじゃいるよ‥‥」
「──ファイヤーボム!!」
 思わず紗綾が絶句するほど集まってきた土蜘蛛たちの中心へ、ファオリエの手から炎の球が飛び出した!! 吹き飛ぶ土蜘蛛たち!!
 炎の球の影響を逃れた土蜘蛛を目がけて、更なる魔法が襲い掛かる!
「──アイスブリザード‥‥」
「──ライトニング‥‥サンダーボルト‥」
 ティファの呟きと共に、扇状に広がりながら吹雪が土蜘蛛たちへ決して軽くないダメージを蓄積していく! そして止めとばかりに、スィニエークのライトニングサンダーボルトが、一直線に蜘蛛たちを貫く!!
 炎と雪と氷の洗礼を受けた上にライトニングサンダーボルトにまで貫かれたグランドスパイダたちはボテボテっと地面に転がり、痙攣して動きを止める。
 守り神と崇めていた土蜘蛛たちの哀れな末路に、ナスカは瞳を潤ませた。
「グランドスパイダ様‥‥」
「ナスカちゃん、頭に叩き込んでおいて。今戦っているのは守り神とかではなくて、ただのモンスター『グランドスパイダ』と言う事‥‥下手に感情を入れて戦うとあなたがやられるわよ」
 ショートボウを引き絞りながら、リジェナスは厳しい口調でナスカに言った。ユスティは向かい来る土蜘蛛をロングソードで斬りながら、少女を気遣った。
「辛いなら、後ろに下がって見ていていいからな?」
「甘やかすな、ユスティ。‥‥お前も冒険者なんだろう? なら依頼を受けた以上、お前にも、無論私達にもそれを遂行する義務がある。似ているからと躊躇している間に『土蜘蛛様』に喰われても、それは自業自得なのだからな‥‥」
「ユスティさん、アンノウンさん、大丈夫です。戦うって、そう決めて、依頼を受けたんだもの。きちんと退治します」
「なら、向こうのフォローに行ってやってくれ」
 同属に触れられる可能性を避けるため、ユスティはブレインへとナスカを託した。
 と、その時。
「ナスカちゃん! きゃああっ!!」
 ナスカと、彼女目がけて飛び掛ったグランドスパイダの間に飛び込んだのはティファだった! その牙を受け、体の自由が利かなくなる!!
「なんて事をっ!! このおっ!!」
「ティファさん!」
 紗綾が土蜘蛛に切りかかり、その隙にパーナが倒れたティファを引き離した。
「──リカバー!」
 リカバーで回復を試みる。が、傷は塞がったものの‥‥ティファが動く気配はない。
「パーナ、これを!!」
 レオニスが懐から取り出した解毒剤を投げた。放物線を描いた解毒剤はパーナの手に収まり、すぐさまティファに投与される。
 ティファの身体が元通りの自由を取り戻したのは、ブレインが最後の土蜘蛛に止めを刺した後だった。
「あとは、穴を掘って潜り込んでる子を探して、退治するだけだね」
 そう言って、紗綾は愛刀に付いた汚れをふき取った。

●弔いの碑
「キミ達に恨みはないけど‥‥第2第3のナスカをつくるわけにはいかないの。ごめんね」
 木の陰に掘られた穴へ剣を突き立て、動かなくなった土蜘蛛へ小さく謝罪する紗綾。茂みの中に穴を見つけ、グランドスパイダを屠ったユスティは大きな溜息を吐いた。
「一体一体確実に潰していくってのも、けっこうしんどいものだな」
 それでも、アンノウンのブレスセンサーと、リジェナス、紗綾のモンスターに対する知識の突合で、土の中の蜘蛛たちも確実に居場所が把握できた分だけ楽だったのだ。手探りで探すことを覚悟していたファオリエなど、面倒が減ったと大喜びだ。
「あとは、あの泉のほとりの一匹で終了だ──ナスカ」
 最後の一匹はナスカの手で‥‥アンノウンとスィニエークは事前にそう主張し、ナスカも諾と頷いていた。
「今までありがとう、グランドスパイダ様。そして──ごめんなさい、さようなら」
 穴の前に立ち──守り神と崇めたグランドスパイダの、その最後の一匹の命の灯を消す。散った体液は、俯いたナスカの頬を濡らし‥‥
「‥‥‥」
 俯いたまま、頬についた体液を指で伸ばす。頬に塗るように、広く、長く。
「‥‥汚れてしまいました、ね‥‥」
 スィニエークはナスカの頬の汚れを、柔らかな布で拭き取った。胸に抱く葛藤でナスカの顔を見れず、年端も行かない少女に縋る。
「これで‥‥‥良かったのですよね‥‥? 助けてもらった事があるとはいえ‥‥グランドスパイダが村の人達をこの先‥‥襲わないとは限らないのですから‥‥‥」
 名前を呼ばれ我に返ったのか、ナスカは凍えたようにわが身を抱きしめながら、こわばった表情で頷いた。
 ナスカの顔をふにっと両手の指でつまんで、自分と同じように笑顔にしてみるパーナ。
「いつも笑顔でいると、誰でもしあわせな気持ちになれるんですよ。悲しい顔をされると、セーラ様も憂いてしまいます。この先色々なことがあるかもしれませんが‥‥あなたが笑顔でいられること、私は強くお祈りいたします」
 ハーフエルフであるナスカだが、その幸せを願うパーナの心からの笑顔に、ナスカも柔らかな微笑みを取り戻した。
「できたぞ」
 ブレインが差し出したのは、何の変哲もない石を拾い、グランドスパイダの形へと細工したもの。精巧なものではなく、どこか無骨であるが、それでも蜘蛛だとわかる石細工だった。
 その石細工は、泉のほとり──木々の開かれた間から空がとてもよく見える場所に建てられた、真新しい碑の前に飾られた。生贄にされた子供たちの為にと、紗綾が提案したのだ。『守り神』のグランドスパイダと共にいるのなら、子供たちの魂も安らかに眠るに違いない。
 パーナとナスカ、そして迫害されしハーフエルフであるスィニエーク、ユスティ、ティファ、リジェナスの4人は、それぞれの想いをこめて──碑に祈りを捧げた。
「さて、この事件にも終止符を打てたか。さっさとイギリス行きの船を取ってこなければな‥‥」
 図らずとも関わってしまった古き因習の結末を見届け、アンノウンは旅立ちを決意した。
 しかし、見上げる空には暗雲が立ち込め──胸をよぎる言い知れぬ不安を拭い去れないのだった。