蛇がたくさんいるんです

■ショートシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 53 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月14日〜09月18日

リプレイ公開日:2007年09月24日

●オープニング

●水面の月

 雲ひとつ無い星空に、紅に染まったまるい月が浮かぶ。
 その星空を見上げながら、空の籠を抱えた女性が1人、ゆったりとした足取りで歩いていた。
 ゆったりと流れるドニエプル川の水面は荒ぐこともなく、時間を感じさせるのは頬を撫でる風の音。
「綺麗な月‥‥一緒に見たかったなぁ」
 うっとりと見上げた女性は、ほう、と感嘆の息をもらす。脳裏に描いたのは恋人だろうか。
 不意に、強い風が吹き。ストロベリームーンが水面に揺らぐ。
 ざわざわと揺らぐ茂みの陰から、降り注ぐ月の明かりに負けぬ、時期外れのホタルのようなほんのりとした黄金色が顔をのぞかせる。
 何だか幻想的なその風景にすっかり酔いしれた彼女は、茂みの際に咲く一輪の花に気付き、屈み込んだ。
 白魚の手でぷつんと手折ったその時──足首を何かが撫でた。
「え?」
 四肢のない細長い胴体、ちろちろとのぞく舌、しゅるしゅると足を腕を伝い上がる、樹上からぼとぼとと落ちる‥‥蛇。蛇。蛇。
「き、き‥‥」
 迸りかけた悲鳴は、茂みの向こうから現れた巨大な蛇の前で、引きつった声に変わる。
 腰が抜けへたり込んだ彼女の首に長い胴体が巻きつき‥‥導かれるようにチュニックの襟元から膨らんだ胸元へと進入していく。
 腕に巻きつき、足から這い上がり、座り込んだ彼女を数十匹の蛇が蹂躙していく。
「あっ、ん‥‥だめ‥‥っ」
 徐々に頬には紅が刺しこみ、萎縮していた呼吸は切なく途切れる。巨大な蛇に睨まれながら、彼女は天に昇った。
 薄れ行く意識の中で、ぎらぎらと歪んだ情熱を秘めた舐るような視線に気付いたが‥‥悦楽の彼方へ、全てが消えた。
 手折られた花は風に押され、ドニエプル川に堕ちた。


●風変わりな依頼

「沢山の蛇が出るらしいんですよ」
 羽ペンの羽で自らの頬を撫でながら、新米ギルド員は、他人事のように冒険者へ告げた。
「それで誰かが怪我をしたとか、ましてや死んだとか、そんな話は無いんですけれどね」
 ここ数ヶ月、月が満ちる数日間、ドニエプル川沿いで昏倒している女性が発見されることが相次いでいた。怪我もなく、ただ意識がないだけ。それも、名を呼んだり頬を叩いたりすれば気を取り戻す程度。
「何があったのかと訊ねても、たくさんの蛇が出て、驚いて気絶したと‥‥皆一様にそう言うんだそうです」
 倒れた女性は蕾の如き少女から夜に咲く華まで様々。蛇程度で意識を手放すとは到底思えない者もいた。けれど、主張は一緒──たくさんの蛇が出た、と。
「その蛇の目撃情報も、倒れていた女性たちだけなんですけどね」
 本当に蛇がでるのかどうかも、確信は持てない。気絶して倒れる程度の被害ならば緊急性はない‥‥問題は、それが毒を持つかどうかが解らないという点だった。
「数十匹もまとまって現れる毒蛇なんて、洒落になりませんからね」
 依頼人もドニエプル川を水路として利用する商人ギルドで、依頼料も少ない。
 どうにも緊迫感に欠ける、緊急性の低いものに思えた依頼だが‥‥舞台は幕が下がったままである。


●歪みし我欲

 しゅるしゅるしゅる‥‥木箱の中から蛇と蛇の皮が擦れる音が漏れる。
 嬉しそうに木箱に手を伸ばしたのは女性。いや、小柄な男性か。
 そっと隙間をあけ、数匹のカエルを押し込んで、それは暗く笑った。
「もうすぐ、明るくなる‥‥また、いい声で鳴かせてあげようね‥‥」
 脳裏に焼きついたいくつもの美しき女性達の痴態を思い浮かべ、薄い唇を歪めて、木箱を閉じた。
 足元を這う巨大な蛇を愛しげに撫でると、月を見上げた。

 もうすぐ、そう、もうすぐ‥‥月が、満ちる。

●今回の参加者

 eb5655 魁 豪瞬(30歳・♂・ナイト・河童・華仙教大国)
 eb5669 アナスタシア・オリヴァーレス(39歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb5900 ローザ・ウラージェロ(25歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb7789 アクエリア・ルティス(25歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb8226 レア・クラウス(19歳・♀・ジプシー・エルフ・ノルマン王国)
 eb9703 ラヴァド・ガルザークス(26歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec1500 マリオン・ブラッドレイ(20歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

イリューシャ・グリフ(ec1876

●リプレイ本文

●巡る思索

「なんともまぁ同じ女性としては嫌な事件よね」
 レア・クラウス(eb8226)はそう溜息を漏らし、天を仰ぐ。
「季節的なもの‥‥でもないのよね?」
 確認するよう訊ねたマリオン・ブラッドレイ(ec1500)の言葉に頷くレア‥‥もちろん、もっと暖かい国の密林などでない限り、そんな数で人間を襲ったという話も聞いたことはない。
「うーん‥‥」
 頭を悩ませているのはローザ・ウラージェロ(eb5900)。
「大量の蛇が現れるとは、やはり不自然な気がしますね」
「ええ、何だか、人為的な気がするのね‥‥魔法かしら?」
 猫耳アンナことアナスタシア・オリヴァーレス(eb5669)も首を傾げる。
「女性達に何の被害も無かったのは腑に落ちませんが、蛇使いの暴行魔でも居ると考えるのが妥当でしょうか」
 さらっと発言したローザの言葉に、魁豪瞬(eb5655)は正義の炎をたぎらせる。
「そのような事、野放しして看過できる事ではない!!」
「だから俺たちが集まったのだろう?」
 対照的にクールなラヴァド・ガルザークス(eb9703)がひょいと肩を竦める。しかし、刻々と強くなりつつある嫌な予感に、その胸中は必ずしも穏やかではない。そして古今東西多くの者が口にしている通り、嫌な予感というのは的中するもので──マリオンがつまらなさそうに呟いた。
「毒蛇かどうかも解らないし、実際に見に行って確かめるしかないかしら」
「確かめるって、どうやって? この人数相手にのこのこ出てくるはずないじゃない」
「それくらい解ってるわよ。被害者が女性ばかりなら、女性が囮になればいいだけでしょ」
 空気が凍りつく。いや、それが手っ取り早いと誰もが思っていたのだが‥‥ラヴァドも魁も、自分達が言い出さねば女性たち自身の口からその言葉が出てくるとは思っていなかったのだ。
「‥‥私は嫌よ」
 案の定、レアがきっぱりと断る。
「あたりまえでしょ、これでも花も恥らう乙女なんだしっ」
 しかし、決意を秘めて凛々しく表情を引き締めたアクアことアクエリア・ルティス(eb7789)、アンナ、ローザの3人を見たその瞳は驚愕に見開かれることと相成った。
「アクアやるの? それにローザにアナスタシアも」
 レアの震える声に、アクアは強く頷いた。
「もちろん、尽くせる手段は全て尽くしてからよ?」
 色々な意味で危険なのだから、まあ、当然である。
 そして、最も合理的と思われるその手段が男性陣の反対を押し切る形で認可されたのも、また、当然なのだろう。
(言い出したら聞かないからな、アクアは‥‥)
 ラヴァドの視線には、諦めとともに‥‥それでも湧き出す愛しさが仄かに燈っていた。


●交わる言の葉

 しかし、アクアは最初のステップで大きく躓いた。
「まって、え、女性同士でも駄目なの?」
「ええ。被害女性たちが、自分達が被害者だと知られるのを恐れていますから」
(取り付く島もないとはこのことね‥‥仕方ない、気をつけていきましょう)
 小さく溜息を漏らす。しかし、その強硬な態度で確信したものもある。そこまでして隠しとおしたい、周知されたくもない事実の存在を。口にするのも憚られるその確たる疑念があるからこそ、被害女性たちへの接触はなおいっそう拒まれるのだろう。
「それと、蛇の大きさってどれくらいなのかはギルドでも聞いているのかしら?」
「普通の‥‥そうだな、70センチ程度の蛇だと聞いている。大きいほうは、人間を丸呑みにできるくらいの大きさらしい。冒険者がよく飼っているジャイアントパイソンくらいだな」
「それって‥‥ただの蛇じゃないじゃない!」
 叫んだとて後の祭り。最愛のラヴァドが、そして仲間達が、きっと背中を守ってくれる──背を預けし戦乙女はそう信じ、自ら選び取った道に踏み出した。

   ◆

 その頃、ラヴァドは川沿いを歩いていた。広い広いドニエプル川は対岸まで泳ぐことも叶わぬのではないかと思うほど、川幅が広い。そして水面は今日も、荒れることを知らぬかの如く、静かにたゆたうばかり。
「この辺りも、か‥‥?」
 似たような茂みばかりだと思うたラヴァドの感想は、まあ概ね的を射ていたようで。あちらにもこちらにも、蛇が這った──と思しき痕跡が残されていた。
(──ん?)
 その傍らに残る足跡に気付き、膝をつく。柔らかな土に残された足跡、その大きさから連想されるのは‥‥
「男、か‥‥」
 ぎり、と歯が軋んだ音を立てる。と同時に、僅かに哀れみを覚えた。
(‥‥ただでは済まされないぞ?)
 依頼を受けた女傑たちを思い出し、役に立たねば犯人ともども痛い目に遭いかねない自分と魁の弱い立場に溜息を零す。
「手は、抜かないからな‥‥」
 自分達の身の安全のためにも。

   ◆

 一方、踊り子に扮し酒場で情報収集に奔走していたレアの前に、エールの泡の残るジョッキが投げつけられた!
「くそっ!!」
「あらお兄さん、荒れてるわね。どうしたのよ?」
「どうもこうもあるか!」
 聞けば、何の説明もなく一方的に婚約を破棄されたのだという。もちろん、相手は貴族などではなく一般人だ。
「他所に男を作ったに違いねぇんだ! 川辺で気絶? はン、どうせどっかの男と寝てたんだろ」
 レアの瞳が鋭く光る。ギルド員らがいくら情報を秘匿しても、人の口に戸は立てられぬもの‥‥
「あの人の婚約者って?」
 酒場のウェイトレスからそっと情報を引き出し、報酬として乞われるままに、酒場にしては些か庶民的な踊りを披露した。


●迫る脅威

 日々満ちる上弦の月が真円になろうという晩。相変わらず凪いだドニエプル川沿いを三人の女性が歩いていた。一般人に扮したアンナ、アクア、ローザである。
 くすくす笑いあったり、物憂げに空を見上げたり、ちょっと頬を染めたり。それはまるで恋物語に興じる少女たちのようでもあり‥‥
 その間も、ラヴァドと魁は周囲に神経を張り巡らせる。レアが調べ上げた『真の被害』の存在から、蛇の相手は囮の三人とレア、マリオンが担当することになったからだ。
 そんな平穏な時間がどれほど続いただろうか。足元で、何かが動いた。
 それは蛇。しかも、十数匹はいる。
「‥‥きゃあああ、蛇よ!!」
 精一杯吸い込んだ空気を腹の底から吐き出して、仲間に報せるべく悲鳴を上げるアクア。
「「きゃあああ!」」
 次いで、ローザとアンナの悲鳴が迸る! それは演技──のはずだったが、二人の表情に余裕は感じられない。『真の被害』と、現れた蛇がバイパーと呼ばれる毒蛇だという事実が余裕を吹き消していたのだ。
 しかし、理性は残っている。そう、囮として犯人の注意をひきつけておかねばならないのだ‥‥!
『どこじゃ!?』
 視線を走らせる魁。しかし犯人の姿はどこにもない。
『変態の覗き魔だ‥‥囮が見える程度には近くにいるはずだ』
 小声で答えたラヴァドの視界にも、しかし犯人の姿は無い。
 蛇の魔手からギリギリで逃れ続けようと考えていたアンナが、まず毒牙に掛かった。あまり俊敏でなく、アクアと違い回避力を鍛えていないアンナが真っ先に掴まったのは道理である。
「いや‥‥っ!」
 足首に絡みついた蛇を伝い、数匹の蛇がするすると長いスカートの下を進んでいく。
 下手に動けば毒を持った鋭い牙が柔肌に突きたてられる。それは倒れても同じこと。
 蛇を侮ったアンナは瞬く間に自由を奪われ、蛇たちは我が物顔で素肌を這い回る。
「きゃうっ!?」
 身体が跳ねる。

『‥‥何も聞こえん、見えん‥‥気のせいだ‥‥』
 犯人が見つからないと、囮を守っての反撃もできない。頑張れ、ラヴァド君っ♪

 次の瞬間、アクアの背に匿われていたローザが再び悲鳴を上げた。
「きゃあああ!」
 茂みを縫うようにして、ジャイアントパイソンがその大きな姿を現したのだ!!
 腰を抜かしたように尻餅をつくローザ、その袖口から、足元から、妖しく身をくねらせながら蛇がローザへ襲い掛かる。
 小柄ながら豊満な肉体の稜線を毒蛇が進む。
「あ、んん‥‥っ」
 腰を撫でた蛇腹に、悩ましげな吐息を漏らすローザ。そう、彼女の選んだ道は犯人の望む通りの姿で視線をひきつける──もっとも危険な道。
「はふ‥‥くぅんっ!」
(勝負です‥‥!)
 調子付いた蛇の猛攻に嬌声を上げながらも心で拳を握るローザ、いったい何と戦っているのか。

(えーっと‥‥頑張って! 骨は拾って上げるわっ)
 囮を辞退したレア、仲間たちの奮闘振りに涙を流しながら小さくスネークチャームを詠唱する。
(‥‥ん?)
 蛇が魅了されない。失敗したかと、再び詠唱するが、やはり囮を威嚇する姿勢は崩さない。何かが、おかしい。

 一方、恋人の前ゆえか必死で蛇の猛攻から逃げ続けていたアクアにも年貢の納め時が。
「ナニよ!?」
 肩を叩かれ振り返ったアクアと目が合ったのは、頭上の枝から落下してきた1匹の蛇。肩を叩いたのではなく落下したわずかな衝撃だったのかと驚嘆する間にも、襟元からするりと不届きな侵入を果たす。意外にさらりとした蛇腹が存在感のありすぎる胸を絡め取る様が、服の上からでも見て取れた。
「ちょっ‥‥んんっ!」
 その間隙を突いて、一匹がするりと美脚に絡まりながら上っていく。
「や、何を‥‥‥ああんっ」
 蛇ごときに声を漏らさせられたという羞恥が、アクアの頬を染めあげる。
「‥‥いやあああ、そこは、そこだけはダメなのぉぉ!! うわ〜ん、ラヴァド〜、レア〜! オヨメにいけなくなっちゃうよォォ〜!!」
 そう泣く彼女であるが、将来を誓い合った恋人としてラヴァドと教会に名を刻んでいる‥‥そういう問題でもないか。
「くっ! ‥‥全く、世話の焼ける‥‥」
 僅かに逡巡したラヴァドだが、選択したのは最愛の人を救う道。
「アクア!!」
 投じたナイフが服を裂き、胸元に纏わりついていた蛇を貫く! 反撃とばかりに、蛇がアクアに牙を立てた。
 それが、開戦の合図だった。
「風よ、舞いなさい!!」
 蛇に身を委ねたまま、ローザは眼前の大蛇へ風の刃を放つ!
「私を運んで、風──!」
 リトルフライで宙へ逃げたアンナは牙を突きたてる蛇を引き剥がす!
「これを使うのじゃ!」「ありがとっ!」
 下方から魁が投じた解毒剤を飲み干し、目を凝らす。
「あんたたち、油断してない!? 炎よ、薙ぎ払え!!」
 気位の高いお嬢様、マリオンが高い声で唱えたファイヤーボムが向かったのは、頭上。爆風に煽られ、身を潜めていた十匹ほどの蛇がぼとぼとと落下する。
「少しは考えなさいってば、そっちの茂みよ!!」
 叱咤する少女が示すのは、蛇たちの背後の茂み。注意して見てみれば、確かに蛇たちはその茂みを庇っている。
「そこなのねっ!!」
 呼吸を探ったアンナの雷光が一角を貫くと、『ぎゃあああ!!』と野太い叫び声がした。
「まさか、インビジブル!? 卑怯者!!」
 心当たりに叫んだレア、再びスネークチャームを唱えると今度は巧く魅了できた様子。何が違うのだろうと考えれば、蛇と自分の状況は戦闘に突入した以外は何も変わっていない、時間が過ぎただけ──時間?
「あなた、スネークチャームを使ってたのね!」
「うるさい!」
 再び男の声がした。次の瞬間、何も無かった場所に茂みにもぐりこんだ男の姿が現れた。あわあわと呪文を唱えようとするが、慌てているため集中できないようだ。
 雄々しい眉毛に相応しく仁王立ちした魁。好色で不届きだと誤解されやすいらしい一族の名誉回復のため──そんな動機は怒りで消し飛んでいた。
「ミーの皿が潤ってるウチはユーのような変態の好きにはさせんのぢゃ!」
 左右の腕には塗した泥がはげて輝きを覗かせるヌァザの銀の腕、いざ仕留めんと勢いよく振り上げる!
「ぎゃああ、も、モンスター!!」
「あぁ? 誰がモンスターじゃとくぉら?!」
 あ、キレた。
 ──ズゴッ!!
 主を守らんと蛇のたかるレザーローブを脱ぎ捨てて、文字通りの鉄拳制裁!!
「あ、た、助け‥‥」
「あんたのせいで、危うくオヨメにいけなく‥‥!!」
 助けを求めた先は、不幸にもアクアだった。大天使の剣──は取り上げられていたので、その鞘でぶん殴る。
 ──ガス! ガス! ゴッ!!
「嫁にいけなくはならないから、その辺にしておけ」
 流石に同情したラヴァドが抱き締め、落ち着かせる。
「さあ、きりきり吐きなさい。何でこんなことをしたの? どんな女性を襲ってきたのかしら?」
 能面のローザが血まみれの犯人を締め上げる。が、恐怖で口を閉ざし、犯人は首を横に振るばかり。
「ねぇ‥‥自分がどんな事をしてきたのか、同じ目にあわないと判らないかしら?」
 レアに魅了された蛇が、ズボンの裾からするすると侵入していく。
「あ、いや、それだけは‥‥!」
 冷や汗が頬を伝うが、般若面をつけたようなレアの笑顔は揺るがない。
「俺は男なんだ、だ、から、そこ、だけは‥‥だめだ!」
「うるさい☆」
「きゃあああ!」
 散った菊の赤い花弁に笑みを漏らす。恐いです、レアさん!!
「話す気になったかしら?」
「は、はひ‥‥」
 女性にモテない腹いせに、40匹にも及ぶペットの蛇たちにスネークチャームを掛けて女性を辱めていたこと。(余談だが、レアのスネークチャームが巧く働かなかったように見えていたのは、多数の魅了下にあった蛇がより理に叶った飼い主の命を聞いていた、だけのようだ)
 そして、インビジブルで姿を消し‥‥あるときは茂みから、あるときは大胆にも間近で、堕ちていく様を眺めて自分を慰めたのだと。
 それだけでも十分に変態を通り越して普通に性犯罪者なのだが。
 エックスレイビジョンで服を透かされていたという新たな事実で、事態は急転した。
「こンの、変態!!」
 マリオンのファイヤーボールが蛇を巻き込み至近距離で炸裂!!
「こんなケダモノ、これじゃまだまだ足りないわよ」
 きゅう、と意識を手放した男に哀れみの視線を向ける者も、マリオンを責める者もいませんでしたとさ。


●後の会話

 縛り上げた犯人と、生け捕りにした分の蛇を官憲に引き渡した魁は、アンナと共に仲間へと報告に戻るのだが‥‥
 その道中。ふと思い出した感想を、親切心から告げた。
「そうそう、アンナさんはもう少し下着に気をつかった方が良いと思うの‥‥」
 魁の親切心。ただの親切心。しかし‥‥そう、欧州同様、キエフにも下着を着ける風習は──ない。
 頬を染め目には涙を浮かべて、わなわなと肩を震わせたアンナ。失言に気付いたのは、その瞳がキッと魁を射抜いた時だった。
「って、ぁ‥‥や、ちょっ!?」
「どこ見てたのよーー!!」
 アンナのスナップの効いた平手が魁の頬を豪快に張った!
「あべし!!」
 頬に散った椛に涙を流す魁。
 どうやら、魁が一族の名誉を回復させるのは、まだまだ当分先の話であるようだ‥‥。

 ローザの『アフターケア』やレアの所業で百合や薔薇の花咲く道が拓かれるなど、様々な結果も生んでいたのだが──それは彼らの知るところではない。