冒険者って便利屋さん?−泥退治−
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■ショートシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月19日〜09月24日
リプレイ公開日:2007年09月26日
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●オープニング
●冒険者ギルドINキエフ
広大な森林を有するこの国は、数年前より国王ウラジミール一世の国策で大規模な開拓を行っている。
自称王室顧問のラスプーチンの提案によると言われるこの政策は、ラスプーチンの企てたクーデターが潰え、彼がデビノマニと化した後も‥‥まるで壮大な協奏曲の如く彼の存在を誇示しながら、皮肉にも国民の希望となり支えとなり続けていた。
けれど希望だけではどうにもならないことが多いのも事実──特に、反逆の徒ラスプーチンが姿を消した『暗黒の国』とも呼ばれる広大な森の開拓は、そこに潜む膨大で強大なデビルたちが存在の片鱗を見せた今、従前から森に棲んでいたモノたちとの衝突以上の恐怖を伴うこととなった。
そして、それは終わらない輪舞曲。広き森を抱き開拓へ希望を抱く公国、歴史ある都市を築き上げ開拓の余地のない公国、牽制しあう大公たちの織り成す陰謀の輪は際限なく連なっていく。まるで、それがロシアの業であるとでも言うように。
不穏と不信、陰謀と野望。それらの気配を感じた人々や、それらを抱く人々による冒険者への依頼も増え、皮肉なことに冒険者ギルドは今日も活気に溢れていた。もっとも、夫婦喧嘩の仲裁や、失せ物探し、紛争の戦力要請など種々多様な依頼が並ぶ状況に変わりは無いのだが──‥‥
●女商人ルシアン・ドゥーベルグ
その日、久しぶりにギルドを訪れたのは女商人のルシアン・ドゥーベルグ。
炎のような赤毛に冷静さを湛えた碧の瞳の彼女は、女だてらにドゥーベルグ商会を双肩に担う。キエフに構える商会はめきめきと規模を大きくしているが、これは支店。本店はノルマン王国パリにあり、それら全てを切り盛りしているのがルシアン。それだけで、商才も計り知れようというものだ。
「久しぶりですね、ルシアンさん」
「三つ編みヒゲのギルド員さんは?」
「休暇中です。いいですよね、ベテランは纏まった休暇が取れて」
今日の新米ギルド員は冷めている上に捻くれているようだ‥‥が、それはさておき。
「そう、じゃあ貴方にお願いしようかしら。依頼を出したいのだけれど」
「もちろんですよ。何がお望みでしょうか?」
尋ねるギルド員へ、ルシアンは手短に状況を説明した。
それはキエフから北に向かう街道‥‥を、途中で西へ少し外れた道。
「春に蒔いた小麦が収穫を迎えるし、収穫祭に備えてそろそろ今年の小麦を運び始めたいんだけど」
口篭りながら彼女が言うには、その辺りはもともと水はけがあまり良くない場所らしい。そこに雨が降ったためか、ぬかるみが点在してしまっているという。
「それだけなら、荷馬車なら通れるし問題はないのよ。でも、ぬかるみの中に1つや2つじゃない数の動物の骨が転がっていてね」
「はあ、ぬかるみに、骨‥‥ですか」
零れ落ちた溜息と共に、結い上げた赤い巻き毛が、はらりと一筋、流れた。
「馬が襲われれば小麦の運搬に影響がでるわ。かといって、指を咥えている間にも時間は経ってしまうものね。収穫祭も近いし、急いで原因を探って、もしモンスターなら退治してきてほしいのよ」
「まあ‥‥冒険者には声を掛けてみますが」
デビルでも大きなモンスターでも有名なモンスターでもなく、新米ギルド員は盛り上がりに欠けると不謹慎な感想を抱いてがっかりしたようだが、依頼は依頼。
しかし、そのやる気の無い小さな文字で記された依頼書に気付くのは、よほど注意深い冒険者だけ、かもしれない。
●リプレイ本文
●街道
読書の秋である。キエフの秋は短い。その短い季節で行われる行事の一つが収穫祭。
恐らく大抵の国にはこの季節、これに類似する祭典があるのではないだろうか。今日はそれに関連する依頼を受けた。────ハロルド手記より、一部抜粋
涼しげな青空にぽつぽつと白い雲が浮かぶ、キエフの秋。
てくてくと街道を歩く冒険者たちは、モンスターの情報共有に勤しんでいるようだ。
「骨だけ‥‥ジェル系のモンスターに襲われると骨だけ残して食われてしまうと聞いたことがありますね。街道に現れたというと、ええと‥‥クレイジェルでしょうか」
記憶の隅に引っかかっていた名前を無理やり引きずり出したミラン・アレテューズ(ec0720)に、ヒムテ(eb5072)はひょいと肩を竦めた。
「溶かされるってことか? 骨だけ残して美味しくいただかれる、なんてゾッとしないね、どうも」
「そうやって軽く言われますけれど、地面とは見分けがつき難く、ブレスセンサーでも発見できず、酸による攻撃は金属製の武具を痛めてしまう、と厄介な相手なのですよ。矢や槍による攻撃は殆ど通じないようですし」
「突き系は駄目か‥‥戦闘方法、考えねぇとな」
馬若飛(ec3237)の言葉に、彼と同じく射撃を得意とするヒムテも頷く。冒険者になってから日も浅く、そんな恐ろしいモンスターがいるなど知らなかったシェラ・カーライル(ec3646)は道中の不安を訴える。
「あの‥‥道中も、野営になるのでしょうか‥‥?」
先達て彼女が受けた依頼では宿泊は全て宿で行ったのだそうだ。共にその依頼を受けていたヴィルセント・フォイエルバッハ(ec3645)は無情にも首を振った。
「いや、あの辺りに集落が密集していただけだと言われましたよ? シェラさんもご存知の通り、ロシアでは村と村の間隔が広いですからね」
セベナージとてそれは例外ではない。セベナージの一区域だけ、他に比べて集落が密集していた、それだけの話。
「野営をする機会も多いからこそ冒険者の出番も多いのだろう、喜ぶべきかどうかは別として。‥‥もっとも、街道沿いだとて安全とは言い切れないが」
ラドルフスキー・ラッセン(ec1182)は細い肩を竦めた。こうして歩いていると他人と会うことは滅多にないが、街道は利用する者も多い。それを狙う盗賊ももちろん出没するし、街道沿いにモンスターが現れることもある。モンスターが活性化してきている昨今、安全な場所など数えるほどしかないのだ。
そんな会話が取り交わされる中、彼らから一歩遅れて道を歩くハロルド・ブックマン(ec3272)は傍らで思索に耽る春日谷上総(ec0591)へ視線を送り、気付いた上総が視線を返す。何か気になることでもあるのかと尋ねているのだろうと判断し、小さく口を開いた。
「ミラン殿の言っているクレイジェルと私の知る情報に齟齬があるようでな。もう少し、戦いやすい敵のはず‥‥矢や槍も通じる、魔法にも掛かる、と記憶しているのだが‥‥」
かりかり、と器用に木片へ炭を走らせ、ハロルドは言葉の代わりに上総へと手渡した。
『情報の相違は混乱を生む。効かないと考えていた方が無難』
「そうだな」
軽く頷き上総は口を閉ざした。結果的に上総の語った正しい知識が手記には記されるのであるが、それは岐路の話となるだろうか。‥‥全てが巧くいけば。
●索敵
収穫物を運送する道中で何物かに溶かされたらしい、奇妙な骨が見つかるという。クレイジェルと言うモンスターの仕業が濃厚らしい。────ハロルド手記より、一部抜粋。
聞いたとおりに道を選び、キエフを発って1日半。
「お、骨があるぜ」
僅かな違いも見逃すまいと注意深く目を凝らしながら近付いたヒムテは骨に触れた。
「土埃がけっこう付いてるな。昨日今日の骨じゃなさそうだ」
「やはり気分の良いものではありませんね」
呟きながらヴィルも目を凝らす。
「擬態なぁ‥‥見破らないと話になんないよな」
油を撒き炎を放つという手段も考えてはいるが、延焼の危険もあり、油も無尽蔵にあるわけではないため、他の手段を試した後に試すつもりだった。実際に推定・クレイジェルを見つけるまでは何が有効打かとも解らぬため、流石の若飛も少々滅入り気味なのだろう。
「温もりよ、我が瞳に映えよ──」
最優先の手段として考えていたインフラビジョンには反応がない。
「‥‥使い続けるのは効率が悪いな」
6分しか持たない魔法となれば、効果的に使う手段を考えなければ息切れしてしまう。ラドルフスキーは溜息を零した。
ジェルを探すのは実際問題、骨が折れる作業だった。ヒムテ、ヴィル、ミラン、上総らは目には自信があったが、ジェルを探すということに関してだけは視力よりも直感が頼りで、彼らは直感にはあまり自信がない。誰が見つけても、あるいは誰も見つけられなくても不思議ではない。
「ちょっと待ってください」
自らの足を止め、仲間の足も止めると、ミランは街道沿いの森に踏み込んだ。何をするのかと見守る前で、手頃な長さの枝を斬り、小枝を落とす。同様の棒を数本作ると、仲間に手渡した。
「これで叩いて進むのはどうでしょう。擬態はしていてもジェルはジェルですし、元手もかかりませんし」
「‥‥なるほど」
目から鱗が落ちるとはこのことだろうか。ありがたく棒を受け取った一行はシェラ、ラドルフスキー、ハロルドを中心に守りつつ、ぺしぺしつんつんと地面を探りながら進む。
「ラドルフスキーさん」
友人の棒の先を指差しながら、シェラが傍らのウィザードへ声をかけた。インフラビジョンを詠唱したラドルフスキーは示された地点を凝視する。
「熱がある‥‥と言われればあるかも、程度か。まるで虫を見ている気分だな」
「まるでも何も、インセクトそのものだ」
右手に霞刀を抜き放った上総が、淡々と告げる。虫は周囲の気温によって温度が変わる。インフラビジョンを使用していても、一目でわかるほどの変化はなかった。
「ふむ‥‥ブレスセンサーも虫程度の呼吸で気付けなかっただけかもな」
ぽつりと呟いたミランもまた、武器を構え一歩進み出た。
擬態を溶かぬまま潜むジェルに若飛が油を掛け、ハロルドが炎の壁を作る。それが開戦の合図となった──!
「効かなくてもこれしか能のない奴でね」
口の端に皮肉気な笑みを浮かべながら、ヒムテは弓を射る。
『──!』
身を捩るジェルを見る限り‥‥
「なんだ。普通に効くな、矢も」
薙ぐように斬るミランの剣も、鋭く貫くように煌いたヴィルの剣も、問題なく効いているようだ。
「大地の怒りに身を焦がせ──!」
詠唱により噴出したマグマがジェルを舐める。
「‥‥‥」
(炎が弱点ではないが普通に効果有り、か‥‥ふむ)
作り出した水晶の剣を若飛に手渡しつつハロルドは冷静に観察を続ける。
苦しげに伸びた体が、間近のミランを飲み込もうと盛り上がる!
「させません!」
その一言を詠唱に代え、シェラの魔法が素早くジェルを拘束し──ジェルが屍になるまで、時間はかからなかった。
「分裂とかしねぇんだな」
零れ落ちた若飛の安堵が、大きく聞こえた。
●野営
依頼人はドゥーベルグ商会の長、ルシアン・ドゥーベルグ氏。ノルマンに本店を構え、キエフでも勢力を急速に拡大しつつある大商人と言える。
収穫祭等の行事は商人にとって稼ぎ時なのだろう。もっとも、それに関連する依頼が増える冒険者もまた、似たようなものだが。────ハロルド手記より、一部抜粋。
9月も半ばを過ぎれば、キエフの朝晩は冷え込む。日によっては防寒服が必要になるほどだ。焚き火を中心に張ったテントを囲むよう、四方にランタンを設置したミランは予備の油の数を確認する。
「使いすぎるなよ、まだ油は試してないからな」
上総や若飛の油も加えつつ発されたラドルフスキーの忠告に頷き、ミランは視野の確保に勤しんだ。
残念ながら、そう都合良く水辺は見つからない。よく乾いた地を選びはしたが、用心はするべきである。
「それにしても‥‥一日注意していると疲れますね」
焚き火の火力を落としながら、ヴィルが身体を伸ばした。
「常に戦闘並みの緊張だからな。慣れるまでは辛いかもしれねえな」
笑う若飛は傭兵としての経歴がそれを鍛えていた。傍らで欠伸をかみ殺したシェラは、仲間達をテントへ促す。
「どうぞ、後はお任せください」
そして緊張を強いられる夜。問題が起きたのは2組目だった。
結果から言えば、野営に便利なようにと草を刈ったのが仇となった。上総とヒムテがクレイジェルに気付いたのは、擬態を解いた瞬間だった。
「きゃぁぁっ!」
短い悲鳴は一瞬の動揺の現れ──ジェルに呑み込まれた上総の動揺だった。
「起きろ、ジェルだ!!」
上総を避けて矢を放ちつつ、ヒムテが声を張り上げる!
飛び出したラドルフスキーとシェラが上総を巻き込みかねない魔法を躊躇う間に、ハロルドは生み出した水晶の剣を若飛に投げた! 受け取った勢いでジェルを分断せんと叩き斬り、上総の腕を引いた!
「上総!」
「‥‥自分の身くらい、自分で守る!」
「守ってから言いやがれ。‥‥預かってろよ」
男に助けられ戸惑う上総に外套を投げる若飛。駆け寄ったシェラがあちこち溶けた服を外套で隠し、傷を癒す。
上総さえ離れれば恐い相手ではない。
暴れる馬たちをミランが宥めるのと、ヴィル・若飛・ヒムテが魔法のバックアップで止めを刺すのは、時間的にそう変わらなかった。
「‥‥助かった」
ぶっきらぼうに呟いた上総から差し出された外套を受け取り、若飛は小さく笑った。
●戦闘
全くの余談だが、随分と目立たない依頼書だった。担当のギルド員が新人だった故だろうか。
目を引く依頼書を書き、志願者を多く募らせるのもギルド員として一つの腕の見せ所なのかもしれない。――――――ハロルド書記より、一部抜粋
テントを離れジェルを探すべく油を撒き火を放つ。
(油、高いのになぁ‥‥)
撒いた油に火を放っても、うっすらと燃えるばかり。ランタン用の油は危険が少なく、長く燃える物が選ばれているのだから当然か。もっとも、油を撒く場所を選ばないといけないのも当然なのだが。
(あんなに使って赤字にならないのかしら‥‥)
まだ金銭感覚が毒されていないシェラは仲間の懐具合を心配しつつ、一歩下がった守られる位置でいくつか小石を拾い上げ、ポンと放る。ころころと転がる石。これで見つかればお金が掛からなくていいのに、という気楽な気持ちだった。
「あら?」
茂みの手前に投じた石が、跳ねない。もう一度投げても、跳ねない。
「どうかしたか?」
再び石を拾い上げたシェラにヒムテが声を掛ける。
「ヒムテさん。あそこ‥‥石が跳ねないんです」
「ふぅん‥‥よし、ちょっと下がってな。ヴィルセント、あんたもちょっといいか?」
実際に石が跳ねないことを確認して梓弓に矢を番えたヒムテは万一に備えて一番近かったヴィルを呼び、矢を放つ。
『──‥‥!』
地面が、揺らいだ!!
「3匹目ですか‥‥多いですね」
ヒムテ目掛けて飛びかかろうとしたジェルを切り、シューシューと煙を立てる剣を握りなおす。再び盛り上がった地面は、仲間が駆けつけるより早くヴィルへ襲い掛かる!!
「やられるわけにはいきません、から!」
寸での所で酸の攻撃をかわし、手応えのない身体に剣を突き立てる!! それでもなお、触手のように身体を伸ばし喰らいつこうとするジェルにヒムテが援護の矢を放つ!
「ヴィルセント、下がれ! 灼熱の怒りよ!」
ラドルフスキーの声にスッと引いたヴィルの眼前に、灼熱のマグマが噴出した。
『──‥‥』
仰け反るように距離を置いたジェル。追い討ちをかけんと武器を握った若飛が柔らかい地面を踏んだ。
「くそっ!」
ジュッ、と靴を服を溶かしながら包み込むように這い上がるジェルを、二本の刀で上総が斬った!
「悪ぃ!」
「気にするな」
ふ、と小さく笑みを浮かべた上総と肩を並べ、若飛は水晶の剣を容赦なく振るう。
「ヴィルセント!」
素に返ったミランが小柄な身体で大柄なヴィルの脇をすり抜け、ジェルを薙いだ!
「危ない!」
ミランの背を守るようにヴィルが剣を縦に振るう! それが止めとなり──ジェルの動きがゆっくりと、止まった。
「あと一匹です‥‥本当に厄介ですね」
「回収できるだけマシだろ?」
刃こぼれの様に少し腐食した剣を見て呟いたヴィルに、ヒムテは肩を竦めて。
「収穫祭、無事に開催できるといいですね」
「させてやろうぜ、俺たちが」
ハロルドの張った炎の壁の下でのたうつジェルに狙いを定めた。
──そして、その言葉通り。程なく4匹目のジェルも動きを止めた。
●報告
一日半の時間を掛けてキエフに戻った冒険者がギルドへ顛末を報告に向かうと、待ちきれなかったのだろう、そこには依頼人ルシアンの姿があり──一同の姿を見ると腰を上げた。
「お疲れ様、どうだったかしら?」
「首尾良く‥‥とはいかないが、何とか見つけられた限りは退治した」
「‥‥‥」
上総の言葉に「ありがとう」と頷くルシアン。ハロルドは懐から取り出した手記を捲り、顛末について簡単に記した覚書きのページを開くとルシアンに手渡した。
「あの‥‥収穫祭は、無事に催されるのでしょうか」
「そうね、麦も無事に運べそうだし‥‥大きな問題がなければ大丈夫ね」
「良かった‥‥」
胸を撫で下ろすシェラ。
「いつ頃になるのでしょうか?」
「10月下旬になるかしら。後日正式に王宮から告知があるはずよ」
ミランの質問にそう答えると、質問は終わりだとばかりにカウンターのスツールへ浅く腰掛ける。
零れた赤毛をかきあげながら受け取った羊皮紙に目を通すと、ルシアンは僅かに目を見開いた。
「随分数が多かったのね。これじゃ報酬が見合っていないかしら」
少し考えて小さな袋を取り出すと、ヒムテへ手渡した。金貨のぶつかる音とその大きさから金額を推測し、若飛は少し意外そうな表情を浮かべる。
「儲かってンだな」
‥‥俺、何か買った事あったっけな。
若飛の思考に気付き、ルシアンは小さく笑う。
「ふふ、うちで主に扱っているのは食料と宝飾品よ。購買層は貴族を始めとした富裕層、仕事で冒険者さんを相手にすることはあまりないもの。趣味ではともかく、ね」
さすがのルシアンも、カーゴ一族やエチゴヤと同じ土俵で争う気はなかったとみえる。それよりもヴィルが気になったのは悪戯っ子のような素顔で付け加えられた一言。
「趣味、ですか?」
「ダンジョン作りが趣味なのよ。探索の話を聞くのも好きだけれどね」
(‥‥変な女だな)
熱くダンジョンを語り始めた依頼人へラドルフスキーが抱いた感想は、恐らく、皆に共通する感想だったに違いない。
後日、その『趣味』の依頼がギルドを彩ることとなるのだが‥‥それはまた別の話である。