冒険者って便利屋さん?−栗ひろい−
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■ショートシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 48 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:10月08日〜10月14日
リプレイ公開日:2007年10月15日
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●オープニング
●冒険者ギルドINキエフ
広大な森林を有するこの国は、数年前より国王ウラジミール一世の国策で大規模な開拓を行っている。
自称王室顧問のラスプーチンの提案によると言われるこの政策は、ラスプーチンの企てたクーデターが潰え、彼がデビノマニと化した後も‥‥まるで壮大な協奏曲の如く彼の存在を誇示しながら、皮肉にも国民の希望となり支えとなり続けていた。
けれど希望だけではどうにもならないことが多いのも事実──特に、反逆の徒ラスプーチンが姿を消した『暗黒の国』とも呼ばれる広大な森の開拓は、そこに潜む膨大で強大なデビルたちが存在の片鱗を見せた今、従前から森に棲んでいたモノたちとの衝突以上の恐怖を伴うこととなった。
そして、それは終わらない輪舞曲。広き森を抱き開拓へ希望を抱く公国、歴史ある都市を築き上げ開拓の余地のない公国、牽制しあう大公たちの織り成す陰謀の輪は際限なく連なっていく。まるで、それがロシアの業であるとでも言うように。
不穏と不信、陰謀と野望。それらの気配を感じた人々や、それらを抱く人々による冒険者への依頼も増え、皮肉なことに冒険者ギルドは今日も活気に溢れていた。もっとも、夫婦喧嘩の仲裁や、失せ物探し、紛争の戦力要請など種々多様な依頼が並ぶ状況に変わりは無いのだが──‥‥
「たのもー!」
「さっさと顔貸すですよ!」
ギルドの扉から勢い良く飛び込んできたのは瓜二つのシフール。ふわふわした赤毛に揚羽蝶のような羽が何だか豪華である。
そして当然のようにカウンターの上にどっかりと腰を下ろし、三つ編みヒゲのギルド員を見上げた。
「うふふ、今日のおリボンも可愛いよぉ〜♪」
「リリ! おじじのリボンなんてどーでもいーのですよっ!」
にこにこしたお日様のような少女と毒を持っているかのような少女。外見どころか声もそっくりだが、中身はだいぶ違う模様。
口の悪いほうがキキ、おっとりさんがリリ。森の中に暮らす、双子のシフールである。
「なんだ、今回はまた賑やかだの」
「リリとキキちゃん、収穫祭用にお菓子を作るの〜。だから栗を拾いにいくんだけどねぇ」
「栗の木の近くに灰色の熊がでやがるのですよ! 退治に冒険者雇ってやるので喜ぶがいーのです」
「リリたちじゃ退治できないもんねぇ〜」
「こら、リリ! 余計なこと言うんじゃねーですよ!!」
リリを肘で小突くと、キキはギルド員を見上げた。ギルド員は羊皮紙を広げ、さらさらと依頼書を書きあげていく。
「灰色の熊が‥‥1頭?」
「そうなのぉ〜。蜂の巣か何か、近くにあるのかも〜?」
灰色の熊が1頭、と書き込まれる羊皮紙を覗き込んで、リリが追加の注文をつける。
「ついでに、栗ひろいも手伝ってもらうです。キキたちが何往復もするより効率がいいのです」
「まあ、退治した後に拾って運ぶくらいなら問題なく手伝ってくれるだろうな‥‥」
かりかりとペン先を引っかけるリサイクル羊皮紙に悪戦苦闘しながら、ギルド員は栗ひろいをするという追加条件もしっかりと依頼書にしたためたのだった。
●リプレイ本文
●双子のシフール
読書の秋である。だが、食欲の秋でもある。秋の食物の中に栗がある。今回の依頼はそれに関するものだ──ハロルド手記より、一部抜粋
「お久しぶりですが、お元気なようですね‥‥」
「今回はうんとこき使うのです、覚悟しやがれですよ!」
「おうちまで戻ったらぁ、皆の保存食、用意してあるからねぇ〜」
依頼人でもある双子のシフールはふわっと宙を飛び、顔見知りだろうか、苦笑しているミラン・アレテューズ(ec0720)に喚‥‥元気に語りかけた。生命力を輝きとして見ることができたなら、太陽以上に眩しく輝いているに違いない。
「初にお目にかかる。ルザリアという。宜しく頼む」
「キキさん、リリさん、頑張りますので今回はよろしくお願いしますわね☆」
「リリはリリだよぉ〜♪ こっちがキキちゃん、可愛いでしょぉ〜」
「キキとリリは同じなのですよ、自画自賛にしかなってねーですっ」
少し頬を染めたキキはリリを小突く、ついでに初対面の挨拶をしたルザリア・レイバーン(ec1621)の頬をひっぱり、リーナ・メイアル(eb3667)の背に隠れる。どうやら、顔見知りかどうかはこの二人にとってどうでも良いことのようだ。
(「かわいらしい双子さんですね。ちょっと、元気すぎる気も、しますけれど」)
(「賑やかすぎないだろうか‥‥それとも、シフールはこんなものなのだろうか」)
小さく囁いたシェラ・カーライル(ec3646)へ、春日谷上総(ec0591)は同様に声を潜めて返す。
『シフールの特性上、おっとりしている方が珍しい部類なのかもしれない』
隣で耳をそばだてていたのだろうか、ハロルド・ブックマン(ec3272)が記したメモを差し出す。そうなのか、と頷く二人はハロルドとは何度も共に依頼を受けた仲。ゆえにハロルド本人とも彼の書く字の癖とも、すっかり馴染みである。
「‥‥うん、積み忘れはなさそうです。熊との遭遇は半ば運任せですし、皆さん大丈夫でしたらすぐにでも出発しませんか」
しっかりとテントや装備品の確認をしていたヴィルセント・フォイエルバッハ(ec3645)が促すと、緊張の面持ちでイタク(ec3906)が頷いた。見送りに来ていた先輩冒険者のミィナが穏やかに微笑む。
「そんなに緊張しなくても、力を合わせれば充分対処できる敵ですよ」
「いえ、その‥‥ほ、方向音痴なんです‥‥」
消え入るように囁いたイタクに手を差し伸べたのは、ミラン。
「ならば私の馬に一緒に乗りませんか。落ちさえしなければ迷う心配もありませんから」
「あ、ありがとうございますっ」
イタクは嬉しそうに頭を下げた。初めての依頼を済ませて日の浅いシェラとヴィルがそうであるように、イタクもまた、仲間に手を差し伸べられる冒険者になっていくのだろうか。それが解るのは、もう暫く先──‥‥
●双子の家
博識な協力者によると今回の敵はグレイベアらしい。冬眠前の蓄えを集めに動いているのだろうか。
シフールなら丸呑みも出来るかもしれない。共存の道は険しそうだ──ハロルド手記より、一部抜粋
魔法の靴や愛馬などで道中を急ぐこと一日半。往復で1日程の時間を短縮できた計算だ。
「熊さんに遭った場所までは、魔法の靴は使えないよぉ?」
上総の朧月が気に入ったのか、たてがみを滑り降りながらリリがのほほんと言った。
「そうなのか?」
「当たり前なのです。森の中は足場が良い場所ばっかりじゃないのですよ」
「ここまでは、割りとなだらかだったんだけどねぇ〜」
どうやら、足場の悪い場所では魔法の靴も普通の靴と変わらないようだ。「そういうものなのか」と呟く上総に「そういうものなのです」と物知り顔で頷いて、キキは馬から飛び立った。
「それでも1日近く余裕が出来たのは大きいですよ♪ 栗ひろい〜栗ひろい〜♪」
「栗ひろいより熊が先なのですよっ」
でも栗ひろいもお仕事ですから、と言い返す無邪気なイタクの額をキキがぺしっと叩いた。栗を使ったお菓子に思いを馳せていたシェラは、慌てて気を引き締める。そんな光景を微笑ましく見守っていたリーナの肩越しに、羊皮紙がぺろりと差し出される。
『少々、痛めつけて追い出すのがいいか‥‥仕留めてしまうのがいいか』
ハロルドのメモを受け取って双子に尋ねると、キキとリリは顔を見合わせた。退治以外に道があることを知らないという素振りだった。
「熊さん、テレパシーでもお話し聞いてくれなかったからぁ、素直には帰ってくれないと思うの〜」
「でも‥‥殺さなくてすむなら、そっちの方がいいのです。熊には世話になったこともあるです‥‥」
「知り合い‥‥知り熊なんですか?」
「蜂の巣を運ぶときとか、蜂蜜を分ける代わりに手伝ってもらったの〜」
「それなのにテレパシーにも応じないとなると‥‥何か事情があるんでしょうね、巣に小熊がいるとか」
「それとも‥‥冬眠に向けて栗を食べて栄養をつけようとしてる、とか?」
イタクとリーナ、二人のパラが顔を見合わせる。正解に近かったのはリーナのようだ。
「栗もそうだと思うのですが、蜂の巣の方がきっと重要なのです」
熊はしょせん獣。充分に飼いならされたという珍しい熊でもない限り、説得に応じるよりも本能を優先するのは当然だ。
「自ら難易度を上げる必要はないと思うが‥‥依頼人殿がそう望むのなら最善を尽くそう。命を無駄に摘むのはセーラ様も望まれない所だしな」
十字架のネックレスにそっと触れたルザリアは依頼人とセーラの願いを叶える道を選んだ。うるりと瞳を揺らがせて、キキとリリはルザリアの腕にしがみ付いた。
●森の熊さん
意外にも依頼人たちは退治を考えていたようだ。
だが、生かしたいというのが本音ならばと熊の関係を崩さずに追い払うのが我々の仕事──ハロルド手記より、一部抜粋
確かに半日ほど歩きはしたが、双子の案内で栗の木はすぐに見つかった。残念ながら熊の姿はない。
「退治するには見つけねばな」
そう言った上総に全員が同意するが、その手法は様々だったようだ。
ヴィル、上総、ルザリア、ハロルド、イタクは積極的に探すことを選び、ミラン、シェラ、リーナは栗の木の近くに待機することを選んだ。
『私は空から探す』
拾った枝で地面に記し、ハロルドは何の変哲も無い、しかし空を飛ぶ魔法の箒を手にする。
「空飛ぶ箒ですか、素敵ですね‥‥!」
物語の中にしか存在しないと思っていた品を目の当たりにしてシェラが目を輝かせたが、二人乗りには向かないといわれ素直に諦めた。長く冒険者を続けていれば、乗る機会もあるかもしれない、と。
そして飛び立ったハロルドの後を追うようにして、ルザリア・ヴィル組とイタク・上総組もそれぞれ捜索を開始した。
「足跡を辿ればいいはずだが‥‥」
土の柔らかな場所を探す上総。
「都合良く雨でも降れば足跡も残るんでしょうけれど」
そう言ったイタクがしょんぼりと肩を落としたのは、6時間以内に雨は降らないと魔法で知ったから。
「落ち込んでいると置いていくぞ」
「こ、困りますっ」
「私も困る。落ち込む前に見つけねばな」
ふっと笑った上総の、それが応援だったようだ。イタクは深く頷いて、逸れる前にと慌てて上総を追いかけた。
(あれは‥‥)
先ず熊を見つけたのは上空のハロルドだった。
別段目が良いわけではなかったが、熊が遮るもののない場所を歩いているのだから見つけたのは単(ひとえ)に幸運の産物。
親指で弾き上げた水晶のダイスをパシッと掴むと、馬首、もとい箒首を返した。
「ハロルドさん」
空を滑るように戻った仲間に期待の眼差しを向けたリーナ。頷き、掠れた声と指で伝えるのは熊の居場所。
「あちらで遭遇します」
示されたのはルザリアたちの向かった方向。
「急ぎましょう」
指笛が響いたのは、ミランを先頭に移動を開始して程なくのことだった。
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足跡を探していたはずのルザリアが見つけたのは、足跡をではなく木に残された体毛。
「何度も通ったのだろうな」
「ですね、枝がすっかり折れてしまっています」
とすると、蜂蜜ではなく栗が目当てだったのか。熊ではない二人にはわからない。
「気をつけるぞ、鉢合わせて洒落になる相手ではないようだしな」
ルザリアの言葉にヴィルは浅く頷く。ミィナや魁の言葉は胸に刻み込んでいる。一撃を喰らえばルザリアやヴィルですら、軽傷ではすまないだろうことも、承知している。
そして示し合わせて足音を潜め足跡を追う二人は、今まさに栗の木に向かおうという熊を発見した!
『ガアアッ!!』
敵と認識したのだろう、一直線に襲い来る熊の前に身を躍らせたのはルザリア! ヴィルの指笛が警告音となり、鋭く宙を切り裂いた!!
「さぁ、往きますよ!」
1つ目の役目は果たした。後は仲間の方へ誘導し、痛手を負わせるだけ‥‥のはずだった。
「ぐっ!!」
ルザリアの身を抉ろうと爪が振るわれる。
攻撃は鋭く、経験の浅い彼らでは避けることができない‥‥!
防具をつけていてもなお加わる衝撃が身体を痛めつける。
「ルザリアさん、回復を!」
「すまない」
下がったルザリアがリカバーを詠唱する。ヴィルが振るった剣は熊を傷つけるものの、二人だけでは明らかに力不足。
ヴィルの背を冷たい汗が流れる。しかし、気分は心地良いくらいに昂揚していて。
「この緊張感‥‥久しぶりですね」
乾いた唇を舐め、ロングソードを握りなおす。
「──つっ!」
短く漏れた声。爪を受け手がしびれる。
「ヴィルセント!」
「ミランさん!? いえ、全員で──」
「治療します、下がってください!」
鋭い声は、古い友人のもの。優しすぎる彼女の涙を滲ませた強い視線に押されるように、ヴィルはシェラの元へ向かう。駆けつけた応援に胸を撫で下ろしながら、ルザリアはミ短く告げた。
「一撃が大きい、波状攻撃で」
「解りました」
ミランとルザリアの剣が交互に熊を斬り、攻撃を受けたミランは下がってヴィルが入る。そしてシェラは、自らに課した癒し手の役割を──セーラから賜った誰かを支える使命を、担う。
「水よ」
掠れた声の、短い詠唱。ハロルドの作り出した水球が熊へと飛ぶ!
(‥‥着弾場所を選ぶのは無理か。だがウォーターコントロールで操れば‥‥)
しかし、それだけの時間はなかったようだ。背後から響く澄んだ歌声。
♪〜
帰りましょう、我が家へ
夜が来る前に、闇が来る前に
眠りの先には、朝が待つの
傷を癒して、明日のために
退治するのでなければスリープは一時凌ぎ。それならばと、住処に戻りたくなるように‥‥想いを乗せて、メロディーを使った。
イタクと上総が辿り付いた時には、熊は背を向け立ち去ろうとしていた──‥‥
●双子と栗ひろい
栗拾い 投げるな、危険 毬合戦 (字余り)──ハロルド手記より、一部抜粋
熊の姿が見えなくなると何処に隠れていたのかキキとリリが飛び出した☆
「よくやったです! 熊が戻る前に、たっぷりの栗をひろうですよ!」
「毬はいらないの、栗だけでいいからねぇ〜」
そうは言われても、ヴィルや上総は栗ひろいなど初めての経験。
「ヴィルさん、イガで指を刺さないように、気をつけてくださいね」
「イガで指を刺す? ふっ、この私がそんな事をするはずが‥‥いたっ!」
くすくすと笑うシェラをじろりと睨むヴィル。それを見ていた上総は毬を摘んで縋る視線をミランへ向ける。
「‥‥毬のむき方を教えてもらえないだろうか」
「地面に置いて、片足で踏むように押さえて、こう‥‥」
「‥‥おお」
ミランを真似て毬をむく。ちょっと嬉しそうだ。
「他に食べれそうなものはないでしょうか?」
「この季節ならアケビが採れると思いますよ」
リーナとイタクは栗を拾い集めながら周囲も見回す。
「でも、あんまり取らないであげてねぇ。動物さんたちが冬を越しやすいように〜」
リリの注意にもちろんだと頷く。不必要な採集は要らぬトラブルを産むだけなのだから。
「双子さんの家には、チーズはありますか? 栗を混ぜたスィルニキに蜂蜜たっぷりかけたらを、きっと疲れも吹き飛ぶかなって」
楽しそうなシェラ、篭にもバックパックにも栗がぎっしり。
「では、馬に乗せて‥‥馬‥‥」
そこまで話してミランは固まった。籠を載せようと思っていた肝心の愛馬は双子の家でお留守番中なのだ。
「‥‥運ぶか」
双子の家まで半日がやたら遠く感じられる。仰いだ空には茜雲‥‥道中、野営の必要がありそうだった。
●双子のティーパーティー
蜂蜜に栗、どちらの素朴な甘さも平和を感じさせる──ハロルド手記より、一部抜粋
テーブルの中央にリーナのマロンパイ。双子が作った栗を練りこんだパンに蜂蜜煮、シェラご自慢のスィルニキは双子に合わせた一口サイズ。熊肉は手に入らなかったので鶏肉で作った香草焼きはイタクの料理。所狭しと並んだ料理を彩る黄金色の液体──自家製ミードやハーブティーも用意されている。
「本当に食べても良いの、か‥‥?」
あまりのご馳走に気後れした上総が仲間を見回す。そのために作ったんですよ、とシェラが笑いながらスィルニキを取り分けた。
「それじゃ、頂きましょう」
シェラが食べようとした一口サイズのスィルニキをさっと横取り口へ放り込む──一寸した仕返しだろうか。
「うん、美味しいですねぇ」
「もう、ヴィルさんっ」
頬を膨らませたシェラは、少し幼く見えた。
「ん‥‥美味い」
ルザリアが驚いたように片眉を上げた。綻びそうな頬を引き締めているのが愛らしく、ハロルドが声を立てずに笑う。
「わたくしにしては今回は珍しく上手くいきましたわ☆ やはり皆さんとご一緒に作らせて頂くと違いますわね♪」
マロンパイを褒められたリーナは、上機嫌で軽やかに歌い始めた。
♪
栗は弾むよ やわらかぽわぽわ
美味しいロマンを召し上がれ
幸せ湛えて やわらかぽわぽわ
栗色ロマンを召し上がれ
覚えやすいメロディラインだったのだろうか、マロンパイを味わいながらルザリアも鼻で歌う。表情はやや仏頂面だが、機嫌は良さそうで──リリがぽふっと頭に乗った。
「栗、拾ってくれてありがとぉ〜」
「あとは収穫祭のお楽しみなのですよ」
随分と手間が省けたと双子もどうやら上機嫌。ささかな幸せの図式が、小さな空間を満たした。
「あっ」
突然ゆらりと立ち上がったのは、酒の入ったイタク。そして迷わずに、キキの髪を鷲掴んだ!
「あっ、こんなところに新種の薬草発見ですー!」
「な、なな何しやがるですか! 痛、痛い痛い誰か助けるですー!」
「やめろ、イタク!」
「あ、こんなところにも♪」
毟ろうと引っ張るイタクに目を見開いたミランが飛び掛る!
「なかなかに酒癖がイイな、イタク」
目の座ったミランさんとイタクさん、怖いのはどちらでしょうか‥‥と呟きながら、リーナはそっとルザリアの背後に隠れた。
どうやら、ささやかな幸せというのは本当にささやかなものだったようだ──合掌。