美しき漢たちのフンドーシ

■ショートシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月24日〜03月01日

リプレイ公開日:2005年03月04日

●オープニング

●パリとモラルとフンドーシの正しい関係。
 冒険者を取りまとめて支援し、一般人の手に余る難題を依頼として仲介をする──それが冒険者ギルドの主な役割である。
 当然、仲介手数料だけでやりくりできるほど小さな組織ではない。
 ではどのように運営されているのか──ギルド員に訊ねれば、余所行きの笑顔でこう答えてくれるだろう。

 冒険者ギルドは、数多くの支援者の皆様によって支えられております──

「パリの冒険者のモラルが下がっていると、支援者から苦情があったわ」
 事の発端は、ギルドマスターのそんな一言。そして、聖夜祭での討論を経て、その原因がフンドーシではないかという意見へと辿り着いたのは、記憶に新しいところだろう。
「パリのモラルを守るために、国交断絶を!!」
 そんな極端な意見はさておき、フンドーシの正しい知識が不足していることは否めまい。

 そのような経緯を経て、パリの冒険者ギルドではフンドーシの講習会を開催することになった──‥‥

●冒険者ギルドINパリ
 冒険者ギルドは、今日もカウンターにギルド員が並んでいる──いつもの光景だ。
 だが、普段と違うのはエルフのギルド員リュナーティアが、真面目な彼女にしては珍しく、隣にいる新米ギルド員フランツ・ボッシュとこそこそと話をしていることだろう。
 ──しかも。
「やはり、フンドーシの正しい知識を身に付けることが第一のようですね‥‥」
 その話題はフンドーシ。
「そうですよねっ。ジャパンの冒険者や、ジャパンかぶれの冒険者ならフンドーシに関する知識は豊富なはずですよ!」
「フランツさん、声が大きすぎませんか」
 やんわりとたしなめるエルフのギルド員。ギルド員がフンドーシなどと大声で言っていたのが支援者の耳に入れば、要らぬ誤解を招きかねない。しかし、フンドーシについて話すのは仕事の一環だった。
 そう、聖夜祭で開催の決まったフンドーシ講習会について、この二人も企画を提出することになったのだ。
 ──カラン‥‥
 未記入の依頼書の脇に積まれた、思いついたことを走り書きしただけの木簡が崩れ、カウンターの内側で軽い音を立てる。
「ギルドマスターから心付けを出す許可はいただきましたし、講師は立候補制が良いでしょうね──ご依頼ですか? こちらへどうぞ」
 一般事務作業の合間を縫って、少しずつ企画を詰めていく。
「フンドーシの種類の説明と、それぞれの歴史なんかがわかると理解が深まりそうですよね」
「フンドーシもジャパンのキモノと同様にお手入れが大変なのでしょうか。美しく保つのは、モラル保持の第一歩かと思いますけれど‥‥」

 そして、二人はフンドーシ講習会について、企画を提出した。
「フンドーシについて正しい知識を身につける講習会です」
 エルフのギルド員は、羊皮紙に記した企画書をギルドマスターに手渡した。

●今回の参加者

 ea8407 神楽 鈴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8936 メロディ・ブルー(22歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0631 ヘルガ・アデナウアー(18歳・♀・バード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb1021 不破 頼道(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●フンドーシ講習会、開催ッ!
「皆様、本日はフンドーシの正しい使い方講習会にご参加くださいまして、ありがとうございます」
 ギルドの一角、いつのまにやら作られた特設ステージで司会を務めるのは、エルフのギルド員リュナーティア。
「講師は、こちらの皆さんです」
 リュナーティアに促され、眉間にしわを寄せながら仮設ステージへ上がるのは、ハーフエルフのヘルガ・アデナウアー(eb0631)とメロディ・ブルー(ea8936)、ジャパン出身の不破 頼道(eb1021)。そして、同じくジャパン出身の──
「うわっ!」
 何もないはずの仮設ステージ上で盛大に足を滑らせ、バランスを崩した神楽 鈴(ea8407)をとっさに不破が抱きとめた。
「駄目じゃない、足元ちゃんと気をつけなくっちゃ」
「気をつけていたんだけどね‥‥危なかった〜、ありがと」
 瑣末なやり取りで緊張が解けたようで、4人はいつもどおりの表情で仮設ステージに並んだ。
 それを確認して、エルフのギルド員は聴衆へ向かって微笑んだ。
「それでは、さっそくですが──パリ冒険者ギルド主催、フンドーシ講習会を始めさせていただきます」

 ──パチパチパチ。

 まばらな拍手と、数多くの好奇の眼差しに晒されながら、フンドーシ講習会はその幕を開けた。

●フンドーシの着用方法
「じゃ、あたいから教えるね。まずはフンドーシの着用方法だよ。近くに見本は行った?」
 普段着用している越中褌の予備を10着ばかり持参した鈴は、それを聴衆に貸した。フンドーシを見たことのない冒険者もいるだろうという、彼女の配慮だ。
 聴衆が近くでフンドーシを見れることを確認して、鈴は手元に残しておいたフンドーシを大きく広げた。細長い、長い布──その片方には細い紐がついている。
 鈴は、布が後ろに行くよう紐を腰にあてて見せ、声を張り上げた。
「まず、こうして布を当ててね。手で左右整っているか触れてみて、左右均一になるようにしっかり調節するのがポイントだよ。そして、ずれないように紐を引くように前に持ってきてしっかり紐を結んでから、ヘソ下あたりで緩めに結ぶ」
 冒険者がパラパラと立ち上がり、鈴が見本に配ったフンドーシを実際に当ててみる。
「前で紐を結んだら後ろの布を、左右の布の端を持ってシワを伸ばすように整えながら前に持ってきてね。ここで、前垂れ布も整えるんだよ」
 背面に垂れ下がっていた布を、両の足の間から正面へ持ってきて、広げるように形を整える講師。講師を見て、同じように冒険者も神妙な面持ちで布を股間に通す。
(「アーマーの上から褌をするのって、すごく妙な光景よね」)
 不破がそんな感想を、傍らのヘルガにもらした。
(「そうよね。フンドーシがどんなものなのか、あとでみっちり聞かせてあげないといけないわね」)
 フンドーシについて、何か強烈な思い入れ──フンドーシの似合う漢(おとこ)に振られたとか、惚れた漢(おとこ)に教え込まれたとか──でもあるのだろうか。ヘルガの眼差しは、惚れた男性を見るとき以上に熱い。
 背後でのそんなやりとりは気にも留めず、鈴は着用方法のレクチャーに心血を注ぐ。
「股間を通した布は、紐の内側を通してね。このときも、布の幅いっぱいに広げて通すようにするのがポイント。締め具合の好みにあわせて、布の両端を持って引く」
 前面に持ってきた布を、腹部に巻いた紐と身体の間に通し、布にしわがないようにきれいに伸ばす──と、しわ一つない美しい前垂れの出来上がりだ。
 試着していた冒険者は、思いの他簡単に、そして美しく装着できたフンドーシを自慢気に周囲の仲間へ見せた。

 ──と、不破のソニックブームが冒険者を襲う!!

「居眠りも駄目だけれど、見せびらかすのもNGなのよね」
「褌はあくまで下着だからね、見せびらかすものじゃないよ?」
 にっこりと釘を刺す鈴。自分は素晴らしいまでの早業で、フンドーシを外し、片付けてしまった。慌てて見本のフンドーシを外す冒険者たち。
 まず、フンドーシの着用方法については講習完了である。

●フンドーシの種類
 鈴と入れ替わりに正面へ出てきたのは、細身で優雅な不破だった。
「皆さん、はじめまして♪ あたしの名前は不破頼道って言うの。今日は褌について紹介していくわね。居眠りしてる人にはソニックブームよ!」
 実際、すでにソニックブームは飛んでいる。興味本位でなんとなく聞いていた冒険者たちも、そんな言い訳が恐らく通じない‥‥どこで巻き込まれるともしれない講習会に、思わず居住まいを正した。
「褌の種類なんだけど‥‥一般的なものだと、やっぱり六尺褌と越中褌が基本よね」
 不破によると、フンドーシは下着であるものの、ジャパンではこれがユニフォームに準じる職業もあるため、選択や締め方、清潔さ次第で漢(おとこ)の魅力大幅アップ! が望めるらしい。彼にとっての魅力──に限定されているわけではない、多分。
 まずは、フンドーシの基本になる『六尺褌』について、その概要を説明する。
「六尺褌はオーソドックスなタイプね。締め方に多少のコツと時間は要るけど、締めたときのフィット感や気持ちの引き締まりには定評があるわ」
 尺というのはジャパン流に物を計る単位のことで、六尺という長さも、過去色んな試みの末に辿り着いた長さなのだそうだ。人間男性の身長よりも長いという、あまりの長さに、冒険者から感嘆の声が上がる──彼らの脳内では、ジャパンのキモノやオビに次いで、1人では装着できないものとしてカウントされているに違いない。
 そして次は、ノルマンでも手に入りやすい、もう一つのフンドーシ──越中褌の紹介に入る。
 このたおやかでどこかなよっとした講師は、意外に博識──そんな尊敬の入り混じった視線が、主にムサ‥‥筋肉質で頼りがいのある男性から集中し、不破はちょっとご満悦。
「越中褌は割と最近『発明』されたものね。六尺褌と比べて絞めやすさと安価さを追求したお得な褌‥‥要するに、普段用の褌なのよね。お手入れも手軽だし、ビギナー向けなんじゃないかしら?」
 にっこりと微笑む。
「下着としてなら、いつもは越中褌を何枚か洗濯しながら着まわして、特別なときなどは六尺褌で漢を上げる。仕事着としてなら、やっぱり白くて清潔な六尺褌が最適ねっ! キリッと締めた褌姿で働くあなたに世の女性陣の目は釘付けよ♪」
(「‥‥‥まァ、いろんな意味で」)
 内心で呟いた、その言葉すらかき消す勢いでヘルガが叫ぶ!!
「外はどんなボロだろうが、綺羅で飾ろうが構わない。だが、フンドーシは男の最後の着衣だ! それだけは己の心の様に輝く白であるべきだ!」
 驚いた聴衆の視線が集中し、不破にまで振り向かれ、ちょっと恥ずかしそうなヘルガ。
「あの‥‥ジャパンでは、戦場で倒れれば、その死体から価値のある鎧とか、武器とかは、戦場泥棒に奪われていくらしいの。残るのはフンドーシくらいのもの。だから、そのフンドーシだけは恥ずかしくないように綺麗なものがいい、というのがサムライの心構えにはあるらしいのよ」
 竪琴をぎゅっと抱き、もじもじしながらも胸の内に秘めた想いを精一杯伝える。まるで、告白シーンのようである。
 彼女曰く、フランク出身の彼女の先祖は、安芸庭奴のサムライとも戦った経験を持つ──らしい。だからこそ、欧州人とは思えないほどの思いいれがあるのかもしれない。
「だから、西陣織の褌だとか、金銀の刺繍が入った褌だとか、そういったものは邪道に違いないわっ。『紫や金の褌をしめた男に何が出来る?』『美しい褌とは、サムライの心のように輝く白!』そういった心意気があったのではないかしら?」
 ‥‥ヘルガの手は握りしめられ、可愛らしい外見と真面目な表情から察される以上に力説しているのが見て取れる。
 しかし、だんだんと、ヘルガの想像が侵食してきたようである。なにぶん、彼女の触れたジャパンというのは今のものではなく、昔の安芸庭奴なのである。彼女自身も自覚しており、その辺を一言付け加えようとし──
(「実情と一致するかはわからないけれどね」)
 漢(おとこ)なら白だ! と不意に盛り上がり始めた冒険者に、付け加えようとした言葉をかき消され、苦笑しながらヘルガは列に戻った。
 フンドーシの種類についても、講習終了である。

●欧州におけるフンドーシの活用法
 最後におどおどと出てきたのは、いつもの大きなクレイモアを布の掛かった肖像画に持ち替えたメロディだった。
「あの‥‥今日は、お友達の代理で来たんだ。フンドーシをそのまま受け入れるだけじゃ意味がないんだって」
 どういうことか、と、急に方向の変わった話題に冒険者の興味が集まる。
「ジャパン文化に欧州が飲み込まれそうな気配もあるし、フンドーシをノルマンで独自に文化に昇華させる努力が必要だって。今回のその考え方のとっかかりだけでも作れたら‥‥‥これが僕に代理を依頼した人の意見だよ」
 こっそり肖像画の額の裏に用意されたカンペを確認すると、意を決して、メロディは講習を開始した。
「えっと‥‥フンドーシは、パリの女性のファッションや生活スタイルを、より華やかでスタイリッシュに、アクティブにする可能性を秘めています‥‥なんだって」
 カンペがバレバレであるが、それは、まあ、ご愛嬌だ。
 そして、これを見て、と肖像画にかけられた布を取り去る。現れたのは、マダム・トゥルバドールと呼ばれる女性がドレスタットからメロディへと貸し出した肖像画。
 マダム・トゥルバドールとウサギの看板の薬師という二人の若い女性が、ケンブリッジ騎士学校の制服を試着している様子が描かれている。
「この用意した絵なんだけど、見ての通り、すごく短い丈のスカートを履いてるよね。こういった丈のスカートは女性冒険者の私服としても散見されるものだよ。で、向かって左の人はスカートの下に何も履いてないんだよ」
 と、服の裾を押さえる薬師を示して説明する。緊張しているのか、肖像画を見ているだけで恥ずかしいのか、メロディは真っ赤になってしまっている。
「それ自体は、この人に限ったことじゃなくてノルマンの当たり前の習俗だよね? でも、それじゃ丈の短いスカートは履けないよね? そこで右の人に注目して。スカートの下にフンドーシを履いておけば、その安心感は倍増ですわ‥‥‥らしいよ?」
 と、今度は服の裾を持ち上げてフンドーシを見せているマダム・トゥルバドールを示して説明する。
「こんな感じに褌の使い方を研究していきたい‥‥‥らしいよ。確かに、短くても長くてもスカートはスカート、下着があると、新しい世界観が広がりそうだよね。ジャパンだと男性の下着らしいけど、女性もつけてみたらいいと思うな♪」
「褌をお洒落に着るんじゃなくて、褌を着ることでお洒落の幅を広げる、か。それならセーフだね」
 デザイナーズフンドーシやレースの褌、ノルマン製フンドーシなど、褌として間違っている! と納得のいかない鈴、『フンドーシをお洒落に着たい』という声があればちょっと脅してやろうと、よからぬことを考えていたらしい。不発で済んで幸いだ。
「ところで、メロディさんは着けてるの?」
 綺麗に纏めたところで、背後からヘルガが尋ねた。恥ずかしそうに頬を染めてメロディが正直に答える。
「ぼ、僕は履いたりなんかしないよ!! もし着けても見せるのは一人だけだし‥‥‥」
「いいですね、若い方は‥‥私なんて‥‥」
 エルフのギルド員が羨ましそうに、でも僅かに嫉妬を滲ませて、こっそりとメロディを見た。
 それに気付いたのは恋多き少女、ヘルガ。
「リュナーティアさんにも、恋を囁いてくれる人が現れれば良いのに‥‥そうだわ!」
 決して悪意があったわけではない、ヘルガの良心的な心遣いだった──たとえひとときでもギルド員に愛を囁く恋人を、と、ちょっとお節介かもしれないが、彼女なりの心遣いだったのである。
(「あの人の姿を映して────イリュージョン」)
「ヨシュアス様‥‥」
 今、頬を染めて表情に恍惚の色を滲ませているエルフのギルド員の目には、甘く愛を囁くヨシュアス・レイン卿が映っているはずである。
 ギルド員はヨシュアス卿の優しく涼やかな表情が眩しくなったのか、そっと視線を伏せて──突如叫びだした!
「ヨシュ‥‥‥いやあああっ!! ヨシュアス様ッッ!! そんなのヨシュアス様ではありませんわぁぁっ!」
 彼女の目に映っていたのは、優しく愛を囁くヨシュアス・レイン卿‥‥ではなく、ブランシェのように真っ白なフンドーシをしっかりと締めた、ちょっと、いやかなり‥‥なぜかマッチョの肉体を持つ、顔だけはいつもどおりの、ヨシュアス・レイン卿だった。
「‥‥‥あれ?」
 遠目に見たヨシュアス卿と、目の前のムサ‥‥筋肉質な聴衆と、飛び交うフンドーシが微妙に混ざったようだ。
「お目を、お目を覚ましてくださいぃぃ!!」
 ‥‥最後の最後で、再びギルドマスターの頬が引きつったが、しっかりとした講師に恵まれ、概ね成功だったようである。

「正しく伝わってる‥‥よね?」
「ええ、大丈夫よ──たぶん」
「どこで混じったのかしら‥‥」
「‥‥僕は、彼に頼まれない限り着けないからね」
 僅かばかりのお礼を受け取ったあと、そんなことを呟いていたとかいないとか──‥‥。