●リプレイ本文
●ちまっと探検隊、新隊員!
冒険者街の一角、何だか猫の多い家が並んでいる場所が今回の合宿所。
金髪のエルフが勢いよく扉を開いた。
「やっほー、お邪魔するよー♪」
「雛ちゃんお久しぶりな気がするの〜」
今か今かと玄関で待っていたのだろう、王娘(ea8989)、もとい彼女の抱えるちまにゃんがローサ・アルヴィート(ea5766)の後ろに立っていた雛菊(ez1066)のぷにっとほっぺに抱きついた。
「ちょっとにゃんにゃん、あたしは無視!?」
「なんだローサ、いたのか。つまらん所だがゆっくりして行け‥‥」
随分と扱いに差があるが、ローサはめげない。雛菊を抱きしめ頬擦りだ!
「雛ちゃんもお久しぶりねー」
「さっきもぎゅーってしたなのよ?」
「‥‥くっ」
首を傾げながらも嬉しそうに抱きついた雛菊。ローサの勝ち誇った眼差しに、敗北感を噛み締め悔しそうにちまを抱きしめる娘。相変わらずの二人にセフィナ・プランティエ(ea8539)はくすくす笑う。
「娘さんも、してくればいいですのに」
「できるか‥‥っ!」
ぷいっとそっぽを向き家に入っていく娘の背を微笑ましく見つめながら、友人たちを促して足を踏み入れた。
「本当に猫が多いですね」
驚いたフィニィ・フォルテン(ea9114)の頭には猫を避けてリュミィがしがみ付いている。
「あ、今日はお土産を持ってきたんですよ。休憩の時に皆さんでいただきましょう♪」
リコリスのクッキーやハーブ。休憩時間も楽しみがいっぱい☆
「オー、お気遣いありがとデス。ヘーカはあれで甘い物大好きなのデスよ」
いったいいつから居たのか。すっかり専属メイド状態のシモーヌ・ペドロ(ea9617)はにこにこと土産を受け取った。こちらへドウゾ、と案内するシモーヌは鼻歌交じりで何だか上機嫌。
「? シモーヌさん、楽しそうですね」
フィニィが訊ねると、口元に手を添え笑みを隠しながら振り返った。
「ついにシモーヌめにも、デスヨー」
「‥‥何がですか?」
「何って、ちまデスヨー」
新しいちま仲間が喜んでくれている。それはちまを愛するフィニィにとっても喜ばしいことだった。
「解らないことがあったら、何でも訊いてくださいね♪」
「あぁん、ありがとー!」
よほど嬉しかったのだろう、言葉の装いも忘れてぎゅっと抱きつき、慌てて飛びのいた。
「そういえばキリルはまだか。揃いのちまコート、言い出したのは彼だろう」
今回雛菊や元気の良すぎる女性陣のお守りをすることになるであろうキリル・ファミーリヤ(eb5612)の姿を探すヴィクトルにローサが手を振って答えた。
「なんか拘りがあるみたい。ゴールド君と一緒に材料買いに行ってるよ」
ちなみにシモーヌの友人リチャードと円はシモーヌのちま用の材料を調達すべく奔走中。どうやらちまっと探検隊では、女性のほうが優位にあるようだ。
その頃、当のキリルはといえば。
「薄くて軽い皮がいいんですが‥‥」
頑張って交渉中の模様。
「それを裏地にするのかい? 防水面を考えたら表に使った方がいいよ」
「いえ、表は白くしたいんです」
「うーん。いっそ、毛皮にしちまったらどうだい。収穫期前に狩られたオコジョの毛皮なら、いくつか融通できるよ」
「それ、見せて頂いけやすか」
そうして見せられた白い毛皮。尻尾の先が黒が愛らしい。
「いいんですか?」
目を輝かせたキリルへ、どうせ修繕用に引き取っただけだから、と仕立て屋は柔らかな毛皮を分けてくれた。
この戦果には仲間達も大歓声。
「貫頭衣タイプにすれば、処理もあまり難しくないと思うのですけれど」
毛皮を見せながら考えを伝えるキリルに、頷いて同意を示すヴィクトル。かなり手軽に処理できるはずだ。
毛皮の手触りにほくほくとローサは頬を緩めた。
「毛皮のコートに、ふさふさ襟飾り。防寒完璧で更にセレブ気取りね、セレブちまね」
「ふふ、ろーさちゃんに良くお似合いでしょうね♪」
微笑んだセフィナはハーブティーを傾けた。このカップが空になったら、ちま作りを始めよう。
ちまとちまコート、その他諸々の作成に要した時間はほぼ二日。
途中、マーチが雪(しゅえ)に狙われたり、黒一点のキリルが叩き出されたり、憐れに思ったフィニィが玄関なら‥‥と救いの手を差し伸べたり、その一言が余計に寂寥感を煽ったりと色々なことがあったのだが、それらはすべてちまっと探検隊の想い出の1ページに刻まれている、はず。
●出動、ちまっと探検隊!
「「「ちまっと探検隊、ちまっと探検隊♪」」」
歌いながら森を往くちまっと探検隊、先陣を切るのはいつもと同じ、偵察部隊(と言っても、1人しかいないのですが)隊長のちまろーさ!
「大丈夫、森の中で迷わせはしないから☆」
ちまろーさの世を忍ぶ仮の姿は森の案内人さん、森のことならろーさに任せておけば間違いないのです。今日は、ちまっと探検隊の隊長も兼任しているみたい。
「ちまぱぱのお弁当ももう食べちゃいましたし‥‥頑張らないと、晩ご飯がありませんねぇ」
ふぃにぃちゃんがぽつりと呟きました。
そう、今日はきのこや秋の味覚をげっとしないと、恐ろしいことにご飯抜きになってしまうのです!!
「雛のひなちゃん、がんばる!」
「おなかいっぱい食べれるようにしましょうね、ひなちゃん」
仲良く手を繋ぐひなちゃんとせふぃなちゃん。後ろの雛菊とセフィナもしっかりと手を繋いでいます。その頭には、ローサが着けちゃったお揃いの獣耳ヘアバンドがぴょこぴょこ揺れています。
「ひなちゃんとせふぃなちゃんにも、お耳作ってあげれば良かったねぇ」
ほにゃんと嬉しそうに見上げる雛菊に、セフィナはちょっと照れながら頷きました。キエフで恋人さんが待ってる身としては、ちょっと恥ずかしいのでしょうか。
「ちまにゃんもちょこっとお揃い気分〜☆」
悔しそうな娘はちまにゃんにこっそり猫耳つきフードを被せ、それを見たキリルはマーチに括りつけていたきりるくんから手を離してしまいました。あ、でも今日はマーチも大人しいみたい。くまきちがお隣をのっしのっしと歩いているからかしら?
「今日は、ちまっとマーチっていう曲を作ってきたんですよ♪」
仲良しなお姉さんリュミィと一緒に、自慢げなふぃにぃちゃんは胸を張って歌い始めました。
♪ちまっちまっちまっ いざ進め ちまっと探検隊
わくわくとどきどきの すごい冒険に出発だ ♪
「うわっ! ち、違いますよ、マーチの歌じゃ‥‥うわぁぁっ」
ノリノリのマーチが元気に飛び跳ね、きりるくんはまたしても落っこち──あ、結んだロープで宙ぶらりんです。
「落ちませんデシタね、おめでとうデスよー」
ぽふぽふとちもーぬがお祝いの拍手☆
なぜでしょう、きりるくんを括りなおすキリルの目から、ぽろりと涙が零れました。
さて、そうこうしているうちにも歌の効果──ではないかもしれませんが、1つ目のきのこがみつかったみたいです♪
「きのこ、見つけたのー」
「あ、そうそう。あんまり片っ端から引っこ抜かな‥‥って、行っちゃった」
その程度で足を止めるちまにゃんとふぃにぃちゃんではありません。
「いっぱいありますねー♪」『ねー』
「これ食べられるのかなぁ?」
嬉しそうな3人の声にいそいそと急行したちもーぬは、えいやっときのこを採りました!
「オー、何だか綺麗デスねー。あたしは食べたくないけど」
ぽそっと付け加えられた言葉も当然です、それは何だか、派手な色で禍々しい柄のきのこだから。
「嬉しそうに収穫報告してるところ悪いんだけど、どう見てもそれは無理だと思うのっ」
「えー」
ひなちゃんは、なんだかしょんぼり。そんな時はちまにゃんの出番です!
「食べてみなくちゃ解らないよっ!」
「そうですねぇ‥‥もし毒があるようでしたら、わたくしが責任を持って毒消しまほーを使います!」
引っこ抜こうときのこにしがみ付きながら、満点の笑顔で言ったせふぃなちゃんの言葉こそ、きっと魔法の言葉。だってひなちゃんが嬉しそうだもの。
そんな顔を見たろーさ隊長は何も言えなくて、苦笑いしながら頷いてくれました。
「やったね♪」
ちまにゃん&ひなちゃん、勝利のハイタッチ☆
一方、きりる君は別の物を見つけちゃいました。
「ろーさ隊長、ぜんぽーにウニがありますよ」
「ちっちっち。うにー! って投げることもあるけど、あれは栗よきりるくん!」
ろーさ隊長、ツッコミだけで疲れきってしまいそう。その元気を吸い取ったのか、皆はますます元気いっぱい!
「いがは強敵なの、気をつけなくちゃ!」
ちまにゃんはきのこより栗がいいみたい。すぐに飛んできて、拾った棒でつんつん。当然のようにフェイも一緒につんつん。妖精さんのフェイに名前をくれたちま仲間が持っていたのがつんつんちまだったと思い出して、ちまにゃんはちょっと嬉しくなりました。
「気をつけてくださいね、強敵です」
拾った棒を構えてきりるくんは注意を促します。
その時、びゅうっ!! と強い風が吹いて、いががきりるくん目掛けて転がってきました! 大変です!!
「むむ、とおっ!」
ぱっかーん!!
きりるくんの一撃を受けて、いがが大きく割れました。
「すごいです、きりるさん!」『さん!』
「皆さん、大丈夫ですか」
颯爽と振り返ったきりるくんのちまこーとが、ふわりと広がりました。
「大丈夫でシタ、ありがとゴザイマス」
「それに、ちまコートのおかげで寒くもなかったの〜」
「それは良かったです」
今度こそ、きりるくんも嬉しそうに微笑みました。良かったね。
●ご飯だ、ちまっと探検隊!
そして気付けば、イワンと白雲に括りつけた籠も底がみえないくらい沢山のきのこ・栗・きのこ・栗・きのこ。それからちょっぴりのあけびとプルーン、まだまだすっぱいリンゴ。あと、くまきちからちょっぴり譲ってもらった戦利品の蜂蜜。
「ちょちょいのチョイなのですネ〜♪」
それらをシモーヌがそれぞれの籠へゴミ、キノコ、果物、と手早く分けていく様を興味津々眺めていた雛菊が呟いた。
「ジャパンだとね、茸鍋にするなの」
「お鍋ですか‥‥では代わりに茸シチューなんていかがですか?」
「茸シチューですか、美味しそうですね」
セフィナの提案にキリルも大賛成の様子。
「んー、保存食に干し肉も入ってるし、何とかなると思いマス。かなりスリリングだけどねー」
お料理は任せて、のシモーヌのOKがでて、セフィナと雛菊はやる気満々。ローサだけがちょっと頬を引きつらせているが、生憎と誰も気付かなかったようだ。
ちまたちも、秋の味覚たっぷりのご飯が楽しみの様子。
「栗は栗ごはんにすると美味しいよね〜」
「焼いてもほくほくして美味しいですよね」
ぽわん、と幸せそうに目を細めるのはちまにゃんとせふぃなちゃん。ちまにゃんの後ろの娘はすっかり馴染んだふりふりエプロンをきゅっと締めている。
そしてちまにゃんを傍らに置き、シチューを作るシモーヌの隣で、栗の皮をしっかりと剥き剥き剥き。
「ヘーカがふりふりエプロンでお料理を‥‥すっかり市井の暮らしが板についたのデスね、シモーヌめは嬉しいデス」
よよよ、と目頭を押さえるシモーヌに頬を染めた娘が牙をむき一喝。
「う‥‥うるさい!」
そんな様子にフィニィもキリルも、漏れそうな笑いをぐっと飲み込んだ。
やがて、腹の虫を刺激する匂いがあたり一面に立ち込めはじめて──それはぱちぱちと弾ける焚き火からも、ほんのりと香ってくる。
同じ温もりは数日前にも体験したばかり。あの時は娘の家で、沢山の猫に囲まれ暖炉に当たっていたのだった。
(猫さん‥‥)
思い出しただけで幸せそうな焚き火番のセフィナ。うっとりしすぎて針を指に刺してローサに手当てされたりとか、毛糸で猫達の気を逸らすつもりがすっかり一緒に遊んでしまっていたとか、ちまっと探検隊の想い出の1ページに刻まれたぷちハプニングを思い出して‥‥
「あつっ! ‥‥痛いです‥‥」
ぱちん! と弾けた栗がちまを支える手に直撃! 飛び跳ねたプリュイが逃げ出した!
しかし、直火で熱された栗が次々に元気良く飛び出す!!
「きゃっ!」
「うわっ」
フィニィやキリルも直撃を受けて目を丸くする。その後、じんわりと痛さと熱さが襲ってくるのだ。
「何処から飛んで来るのか分かりません。強敵です‥‥!」
咄嗟に張ったセフィナのホーリーフィールド。けれど敵意のない栗は易々と潜り抜けてくる。
「火に栗を入れたら危ないのよ?」
「す、すみません‥‥フィニィさんもキリルさんも、ごめんなさい」
肩を落とし、粛々とリカバーを施すセフィナを庇う二つの影!
「ローサさん、止めなかったのに苛めちゃ駄目デスよ」
「べ、別に苛めてるわけじゃ‥‥っ」
ぐ、っと息を詰めたローサ。
「ほらほらっ。シチューも焼き栗もできて、栗ご飯もオッケーみたいデスし、ご飯にシマショー♪」
満足したのか舌を引っ込めたシモーヌは、にっこりと笑顔を覗かせて、踵を返し給仕に徹して、ちまっと探検隊の前には湯気の立ち上るシチューに栗ご飯、焼き栗やデザートまであっという間にずらりと勢ぞろい☆ ちなみに、ちょっとぽっちゃりしたちもーぬのご飯は、皆より少し多めによそわれている。
我先にと座り込むと、一斉に手を合わせた。
「「「いっただきまーす♪」」」『まーす』
自分たちで探して収穫した夕飯は野趣に溢れ滋味に富む口福の味。
「料理の腕をあげたわね、にゃんにゃん」
にやっと笑うローサ。しかし、娘も負けてばかりではないのだ。鼻を鳴らしてローサを見た。
「雛菊を喜ばせるために鍛錬を欠かさないからな」
「それならローサさんも頑張らないといけませんよね」『よね〜♪』
「にゃんにゃん! フィニィちゃんも、リュミィが真似してるじゃないっ」
「修行するなら僭越ながらシモーヌめもお手伝いいたシマスよ?」
「雛、美味しかったらいーっぱい味見してあげるなの!」
「これだけ応援されたら、ローサさんも頑張って作るしかありませんわね」
「ちょ、キリル君なんかフォロー!!」
「研鑚の美徳はセーラ様もお認めになられますよ」
秘めた想いが溢れれば諸手を上げて応援する。それが、ここに居る仲間たちで‥‥
「ありがと‥‥頑張る」
真っ赤になって漸くそれだけ呟いたローサの手を、コルサの尻尾がもふりと撫でた。
♪例え転んでも大丈夫 手を引いてくれるキミがいる
力合わせて進もう ボクらちまっと探検隊 ♪
ちまっとマーチが、夜の森に木霊した。
●ちまっと探検隊、おまけ。
ムーンフィールドが解けた朝、テントの回りには気の早い霜柱が立っていた。
朝のお祈りを捧げようとしたセフィナとキリルだけが、その恩恵を享受できた。
「きゃあっ、冷たいです〜」
「未踏の大地をいざ踏破せん♪」
ちまの足元でパキパキと小気味良い音を立てて霜柱が割れる。
「ふふ、ちょっと楽しいですわね♪」
「冬の小さな楽しみの1つですよね」
二人は小さく微笑みあった。