屍−KABANE−
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■ショートシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 80 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月30日〜11月05日
リプレイ公開日:2007年11月08日
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●オープニング
●セベナージ地方、某所
10月某日。
日差しが燦々と降り注いでも、キエフのこの時期は肌寒い。
髪を揺らす程度の風がうなじを撫でると全身に震えが走る。
「う〜‥‥」
バックパックに入れていた防寒服を取り出してネイルアーマーの上に着込む。晩秋の旅装束としては、こちらが正しい姿だろうか。
襟を立てると男は改めてバックパックを背負いなおした。
「街か村へ出れば、暖かい料理にありつけるよな」
そう一人ごちて足を速め──‥‥
次の瞬間、足を止めた。
鼻を突く、異臭。
「この臭い‥‥久々だが忘れないぜ。アンデッドの臭いだな!」
すらりと剣を抜き放った男が鋭く視線をめぐらせると、迎えるようにのろのろと歩み寄ってくるアンデッドの姿がその目に飛び込んだ!
その数、十数体。
腐肉を狙っているのか、上空には巨大なカラスの姿も見える。
「‥‥お前ら、絶対俺が退治してやるからな。首洗って待ってろよ!!」
抜いた剣を鞘に収め、アンデッドの4倍はあろうという速度で逃げ出した!!
男の名はラクス・キャンリーゼ。馬鹿だが、アンデッド退治に人一倍執念を燃やす謎の戦士である。
●冒険者ギルド IN キエフ
冒険者ギルドのカウンター越しに気合いの入った声を張らせている男が一人。
数日前、セベナージ地方でアンデッドに遭遇したラクス・キャンリーゼ(ez1098)その人である。
「でっかいカラスもいたからな、何人かいないと討ち漏らすだろ? だから人手をだな‥‥」
使命感に目を輝かせて詰め寄るラクスに、半人前のギルド員は冷酷なまでに淡々と、告げた。
「依頼ということなら、依頼料をいただきますけれども」
「そんな金はない!!」
「胸を張って言うことでもないと思いますけれどね」
呆れたように肩を竦めるギルド員。アンデッドを倒すのは確かに冒険者の仕事かもしれないが、依頼料がない依頼に乗る酔狂な冒険者もほとんどいないだろう。かといって、冒険者ギルドで依頼料を用意するのでは筋が違ってしまう。
「それならば、わたくしに依頼料をお支払いさせていただけませんか」
会話に割って入ったのは、涼やかな女性の声。
「お前、誰だ?」
「白宗派の教会のエレオノーラ司祭様ですよ」
お前なんかより断然偉いんだぞ、とずさんなラクスに非難の視線を送りつつ、ギルド員は女性に椅子を勧めた。
彼女の名は紹介されたとおり、エレオノーラという。キエフにある、とある小さな白の教会で責任者を担う女性だ。
「エレオノーラさまには無関係ですが、よろしいのですか?」
(「お前、態度が違いすぎだぜ」)
(「相手に合わせてるんですよ」)
小声で交わされた会話は、どうやら耳に届かなかったようだ。
「迷いし魂の存在を知ってしまった以上、見てみぬ振りはできませんわ。彼らを導くことはセーラ様の御心に適う行いですし、わたくしどもの教会から依頼料をお支払いさせていただきます。小さな教会ですので、お礼はささやかになってしまいますけれど‥‥」
すまなさそうに視線を落とすエレオノーラに慌ててフォローの言葉を投げかけつつ、ギルド員は手早く依頼書を認めた。
「皆さまに、セーラ様のご加護がありますように‥‥」
エレオノーラの祈りは、セーラへと通じるのだろうか──‥‥
●セベナージ地方、開拓村
──ずるり
それは、粘液質な足音。
──ずるり
それは、健の切れた足を引きずる音。
──ずる‥‥
それは、臓腑の零れ落ちる音。
──べしゃ
それは、腐った体液の滴る音。
人知れず死者達が進む先には、小さな村。
「ニコラ、イヴァン、ボリス! もう、いい加減に戻りなさいって、お母さんたちが呼んでるわよ!」
「うるせー!」
「ヘルガは大人の手先だな」
「‥‥でも、お腹すいたし‥‥な?」
ハーフエルフのニコラ、エルフのイヴァン、ジャイアントのボリス。開拓村の悪ガキ三人組とおしゃまなヘルガは仲が悪い。いや、喧嘩するほど仲が良いのか。
「‥‥何か、臭くねぇ?」
「そうか?」
──ばさばさばさっ
それは、カラスの羽ばたく音。
黒い羽が忌まわしき羽音の残像のように、頭上を舞った。
●リプレイ本文
●SELECTED FATE
収穫祭と共に短い秋が終わりを告げ、長い冬がやってくる。ロシアの冬は厳しいが、動きを止める魔物ばかりではないようだ──ハロルド手記より、一部抜粋。
収穫祭の喧騒の中ハロルド・ブックマン(ec3272)は降りかかった急務に言葉なく溜息を零す。
「アンデット退治ねえ‥‥汚れ仕事はあんまり好きじゃないんだけど‥‥」
長い黄金の髪を気だるげにかき上げカナリー・グラス(ea8206)が憂鬱そうに零す。艶やかな彼女に似合う、ワインの香りの残る息。
「ま、放っておくわけにもいかないし、仕方ないわね」
「放置して被害が出ても寝覚めが悪い、協力させていただこう」
続けた言葉に春日谷上総(ec0591)の台詞が被った。女性であることを押し隠すようさらしの巻かれた胸と形良く空を向く胸はどちらも大きく、内に持つ責任感も共通したもの。だが、表層は実直な上総と奔放なカナリー、交わした視線は少々険悪。
「遭遇地点から、地図上で進行方向を辿ると、この開拓村に行き着く、と言う訳なのですね?」
「いや、俺が遭遇した時は俺を獲物と思ってたみたいだから進路は俺に向かってたぜ! 何てったってアンデッドを呼ぶ男だからな!」
自慢気に胸を張るラクス・キャンリーゼ(ez1098)に、質問した相手が悪かったかとミラン・アレテューズ(ec0720)は侮蔑の視線を投げた。
「そのまま追ってきたらキエフに来る可能性もありますが、最寄の集落はその村‥‥」
シェラ・カーライル(ec3646)は柳眉を寄せた。神の摂理に反する不浄なる存在であり、同時に迷える魂を抱く彼らを神の御許へ送るのは末席であろうとも聖職者の務め。しかし神の子らの平穏を乱させぬこともまた聖職者の務め。
「ズゥンビは十数体いたし、でっかい鴉も飛んでたからな。あれを全部相手にするなら──」
「遺憾だが、ズゥンビの追撃と村の防備に分かれるわけにはいかないな」
語られた状況をゼロス・フェンウィック(ec2843)はそう解釈した。戦力的に、手を分ければ遅れを取ることは必至──アウトローであるはずの冒険者も一丸とならざるを得ない。
「どちらも重要ですが、どこへ向かうとも知れないのなら、不慮の被害を食い止めるのが先でしょう」
言葉少なに耳を傾けていたウォルター・ガーラント(ec1051)が、決意をこめた視線で皆を貫く。
「俺は最初からそのつもりだったぜ」
そうのたまうラクスへミランは再び敵愾心の滲んだ視線を向けた。
しかし、多くの者が選び取った追撃の選択肢の前に、無駄な波風を嫌うようにミランは静かに追従した。
●RELIC SEARCH
依頼人はエレオノーラ氏。ロシアの国教は黒のジーザス教だが、白の教会ももちろん存在する。彼女はその一つを任される司祭である。国王が改宗して以来、布教には苦心しているのかもしれない。──ハロルド手記より、一部抜粋。
ある者は愛馬で、ある者は魔法の靴で、ある者はペットと共に精一杯の速度で、ラクスがズゥンビと遭遇したという地点へ向かった。
「さすがに、待っていてはくれぬな」
愛馬ケファの鞍上からひらりと降りたゼロスは言葉とは裏腹に全く期待はしていなかった様子で、肩に捕まる妖精のレインに植物からの情報収集を頼んだ。
「アンデットを呼ぶ男‥‥なんだか臭ってきそうね」
呟くカナリーは優雅に空を見上げる。今にも降り出しそうな厚い雲が頭上を覆っていることを確認し、笑みを漏らした。
しかしその笑みは一瞬の後に消え、不機嫌そうな表情に変わる。
「余計なことしないでもらえるかしら」
『降雪等は追跡に不利』
肩を鷲掴みされたハロルドは、爪先で地面に短く記した。降り出すまえに雨雲を薄くすることは有益、なのだと。晴れればサンワードも使いたいところなのだ。
「戦闘には雨雲があった方がいいのよ」
ハロルドのスクロールを指で弾いたカナリーの言外の主張を感じたのだろう、ハロルドは一度だけ頷いた。
「闇雲に探すのも時間が惜しいですし、万一にも村へと向かっていては困りますから」
そう主張するミランの意見はもっともで、遭遇地点からの追跡は村への最短ルートに重点を置くこととした。
その作戦が功を奏したのだろうか、翌日の朝にウォルターが仲間を呼んだ。
「重いものを引きずったような痕が残っています。そこの枝に引っ掛かっているのは、恐らく髪でしょう」
「ふむ。レイン、植物に死者たちの向かった方向を聞いてくれ」
主であるゼロスの言葉にこくこくと頷いた妖精は、髪の掛かった樹木に魔法で語りかけて主人の下へ舞い戻った。
「どちらに向かった?」『向かった?』
言葉尻を真似ながらレインが指で示したのは、村のある方角──‥‥
「やはり、急がなければならないようですね」
「不測の事態ってやつもあるかもしれねえし、何よりズゥンビ如きに遅れは取れないしな! 急ぐか!」
仲間をも落ち着かせるほどに落ち着いて促すウォルターに、ラクスは気も早く抜き放った剣を肩に担いでニカッと笑った。
「フェンリル」
掠れた声で呼ばれたボーダーコリーが短く吠え、腐臭を追って駆け出した!
「追いましょう!」
急ぎ駆け出したミランを追って、一人、また一人と駆け出す中、ハロルドは上空から追おうと魔法の箒に跨った。
「大鴉もいる。言うまでもなかろうが、充分に注意を」
一度だけ振り返った上総の言葉に小さく笑みを浮かべると、ハロルドは空へと飛び立った。
●DEADMAN‘s March
依頼内容はアンデッド退治。相手は比較的ポピュラーと言える相手となりそうだ。
また、どこかの開拓村が襲撃を受けた際に生み出されたのだろうか。セベナージ地方の状況、未だ回復の兆し見えず――ハロルド手記より、一部抜粋。
常緑樹に覆われたキエフの森では、上空をからの視界はさほど開けていない。
従って空を飛ぶハロルドよりも地を駆けるミランらの方が、此度の追撃に限れば一歩先んじたようだ。
「いました!!」
発見すると同時に戦闘に向かぬ馬から降り、ミランとラクスが走りながら剣を振り上げた! 生者の気配に振り返ったズゥンビたちへ、2本の剣が踊りかかる!
「当てるのは、楽、なのだがな‥‥!」
舌打ちをするミラン、その剣は狙った場所に当たらない。未だ、技術として習得していないのだ。
援護をするはずのウォルターからは矢が飛ばぬ。弾切れを防ぐためにバックパックから取り出した矢を地面へと突き立てているのだ。長期戦を見越したウォルターの傍らから、注意を促す鋭い声が飛ぶ!
「轟け! ライトニングサンダーボルト!」
空気を裂く痛烈な音を響かせながら、雷光が4体のズゥンビを貫いた!! しかし相手はアンデッド、痛みなど感じずにただ生者へと爪を伸ばす。
滑るように空から舞い降りたハロルドのウォーターボムが炸裂する! 怯んだズゥンビをミランが斬る!!
それらの後方では、ほんのりとピンクの輝きを帯びた上総が、自身の身体にオーラを溜める。
傍らでは、地面へと撒いた油へゼロスが火を放つ。しかしランタン用の油は爆発的には燃えず、ほんのりと弱い炎を放つばかり。
「くっ、これでは壁にならないか」
「私が防ぐ」
「牽制は任せてください」
バックパックに括りつけた鳴弦の弓を手早く外しながら、短く言い放ったのは上総。紡いだ言葉を直ぐに実践したのはウォルター。ゼロスが命を賭けるのだから、協力しないという選択肢は存在しない。
「頼りにならないかもしれませんが、私も一緒に支えます」
シェラの言葉に頷いて、預かったハンドベル、降霊の鈴に魔力を込めた!
──りぃん。
涼やかな音色が、波紋のように広がっていく。
──ざわり。
ズゥンビの空虚な視線がゼロスを捕らえた。そして一斉に、ゼロスへと歩み寄り始めた!!
「轟け!」
「水よ」
雷が、水が、次々に襲いかかる! 確かなダメージを与えているはずだが、ズゥンビの足は止まらない。
「好きにはさせぬ」
小さく呟いた上総が鳴弦の弓に魔力を込めてかき鳴らす。神聖なる音色に、ズゥンビの勢いが僅かに殺がれた!!
「不死者たちの動きが鈍っているうちに‥‥ミラン殿、頼む!」
「‥‥任せろ、上総」
ただ一度会っただけのラクスより、何度も共に戦列に加わったミランの名を、呼んだ。
その信頼に応えるため、ミランはしかと言い切った。
ミランの剣が、ズゥンビを袈裟懸けに斬る!!
「そう簡単には通さないぜ!」
鋭く薙いだラクスの一撃が胴を裂く!!
しかし、それでも倒れたズゥンビは未だ半数にも満たぬ。濁りきった爪が肌に突き立ち、肉ごと抉られる‥‥!
「ラクスさん!」
「無茶だ、シェラ君!!」
ゼロスが叫んだ! 前衛の足りぬこの状況で、下がれとはいえない。シェラが前に出るしかないのだ。
「セーラ様の慈愛を!」
「助かる!」
背に触れた癒し手に投げかけられる言葉。同時に伸びた腐臭を倦む腕を、ウォルターの矢が射抜く!!
──ボト。
辛うじて繋がっていた腕が、落ちた。それでもなお腕を振り上げるズゥンビに悲しげな表情を浮かべて、シェラが祈る──
「御許へと続く拘束を──」
シェラの呟きと共に、ズゥンビの動きが止まった。
「避けて!!」
叫んだカナリーの言葉に身を引いた空間を、雷光が駆け抜ける!!
しかし、数の暴力をいつまでも防ぎきれはしなかった。防壁を越えられ、上総が鳴弦の弓を手放した時点でゼロスは宙へと浮かび上がり──叫んだ!
「ジャイアントクロウだ!」
腐肉を狙ったか、血の臭いに惹かれたか──巨大な鴉が、その姿を現したのだ。
途端にウォルターの弓がターゲットを変え、矢が巨体に突き刺さる!!
ズゥンビからジャイアントクロウへと視線を滑らせたカナリーは短く問う。
「ハロルド、出来るわよね?」
彼は行動で返した。元より鈍かった空色だ、彼女の希望に沿うなどハロルドには造作もない。取り出したスクロールに記された精霊文字を目でなぞると、厚い雲から俄かに雨が降り出した。羊皮紙を懐に庇うのと、彼女が口元に不適な笑みを湛えるのはほぼ同時──
「さあ、ショータイムよ。この輝きに酔いなさい‥‥謡え! ヘブンリィライトニング!!」
──轟音と共に、幾筋もの雷が、空を飛ぶ鴉へと降り注ぐ!!
雨と共に、勝敗の天秤は冒険者へと傾いたのだった。
●CROSS LOAD
『星の元に生まれる』と言う表現がある。運命的な何かを背負った者を表現するのに使われる。例えば雨男は雨に降られ、名探偵は事件に出くわす。
今回の依頼に同行するラクス・キャンゼリーゼ氏もある星の元に生まれた存在であるらしい。──ハロルド手記より、一部抜粋。
シェラと上総の希望でズゥンビの身体をしっかりと大地へ埋め、
「セーラ様の御慈悲が、安息へと導いてくださいますように‥‥」
花と祈りを捧げ。
「あとは、村の安全を確認するだけだな」
ゼロスの言葉に頷いて、ズゥンビとの遭遇地点より最寄の村へと足を伸ばした。
しかし、問題の村へと辿り着いても、休息は無い。
「まずは村の安全を確認しなくてはいけませんね」
当然のように周囲を散策するウォルターに、元よりそのつもりだったミランやアンデッドに執着するラクス、生真面目なシェラ、上総、ゼロスらも当然のように従ったからだ。
「あー、疲れた‥‥少し休ませてよ。何かお酒とかないのー?」
「エールならありますよ」
カナリーが願いどおりに酒場に足を運べたのは、もう日も暮れてから。しかし、営業スマイルを浮かべたマスターの言葉がリカバー以上に彼女に生気を取り戻させた。早速エールを注文するカナリーの隣で上総もマスターへ1つだけ尋ねた。
「この先の森にズゥンビが現れ‥‥そちらは退治したのだが、村には被害はないだろうか」
「へえ、物騒ですね。こちらでは特に、ズゥンビの噂も耳にしませんよ」
「それは何よりだ」
返答に頷いたミランは人数分のエールを注文する。
「ラクス」
「何──うわっぷ!! 何するんだ、ミラン!」
注文したエールを、振り向いたラクスにぶちまけた。クールな筈の碧の瞳には怨念にも似た灼熱の怒りが燻っている。
「この単細胞め。村よりもアンデッドが優先と言う訳だな!?」
「ラクス殿だけを責めてくれるな。それが罪というなら、同意した私も同罪だ」
更にぶちまけようとしたジョッキを奪い、上総は自らエールを被る。
珍しく慌てて割って入ったウォルターが、それでも落ち着いた瞳をミランへ向けた。
「ミランさん、落ち着いてください。一番近いのがこの村だというだけで、あの時点ではラクスさんがアンデッドと遭遇した地点へ向かうのが一番良い選択だったでしょう?」
「この男はそんな事など考えていない、ただアンデッドと戦いたいだけだ‥‥!」
(「面倒臭いわねぇ‥‥巧くいったんだからそれで充分じゃないの」)
我関せずを決め込んで、カナリーはエールで喉を潤す。
「あの‥‥それが悪いこと、でしょうか‥‥」
ミランの勢いに怯みながら、おずおずとシェラが口を挟んだ。
「彼らは‥‥安息を乱された迷える魂です。苦しみから逃れるために、間違った方法ですけれど、命を求めて命を摘もうとします。これ以上間違いを犯すまえに倒すことも‥‥命を護ることに、繋がるのではないでしょうか」
俯きがちなシェラの視線とミランの視線が、絡み合う。
温和なシェラの思いもかけぬ強き主張は、末席なりとも聖職にあるという自負から来るものだろうか。
傷付き、それでもまっすぐ見つめる視線から顔を背けたミランの眼前に羊皮紙がそっと差し出される。
『依頼内容:アンデッド退治』
記された、ハロルドの文字。
傭兵だった彼にとって、依頼とはそれ以上でもそれ以下でもない。望まれた事をこなす、それが総て。
ミランにも、騎士として理想もあろう。
それを、義務的に仕事をこなす傭兵や、戦いに明け暮れる戦士や、アウトローである冒険者に求めるのは間違いだ。
冒険者ギルドという同じ組織に属する者たちにすら存在する、埋めることも叶わぬであろう深い溝。
それは、人々が神ではなく自分の意思で生きようとするが故の、業、なのかもしれない。