【収穫祭】捕獲せよ、肉!

■ショートシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 44 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月06日〜11月09日

リプレイ公開日:2007年11月15日

●オープニング

●収穫祭

 年に数回、キエフがお祭り色に染まる時期がある。
 雪深くなる12月上旬に各地の開拓村で執り行われるレースもそれの1つ。
 12月10日から年明けにかけて行われる聖夜祭もそれの1つ。
 そして、現在絶賛開催中である秋の収穫祭もそれの1つだ。

 他のお祭りと収穫祭との間で圧倒的に違うものは、何といっても屋台の数、振舞われる料理の数。
 パンやクレープから串焼き、異国情緒溢れる料理、果ては誰が食べるのかわからない‥‥しかし一部のチャレンジャーからの熱狂的な支持をうけまくっているゲテモノ料理まで、その種類も豊富。
 そうして、キエフ中の人々が、いやロシア中の人々が全身全霊を傾け収穫を祝っているのだ。

 しかし、収穫祭を歓迎しないモノたちもいた。
 ──誰あろう、食べられる側の動物たち、である。

『ぴぎぃぃぃ!!』
『ゴゲーッ!!』
『メ゛ェェェ!!』

 収穫祭の影で行われる、悪魔の使徒による血塗られた祭典──もとい、肉屋による豪快な解体作業。
 そうしてバラされた肉はもとより、皮から骨まできっちりと売られていく‥‥というのは、今回は関係ないこと。
 牧歌的な情景を経て売られてきた動物たちも、取り巻く異様な雰囲気に末路は同じだと本能的に悟るのだろう。木箱やら檻やらに閉じ込められた豚も兎も仔牛も羊も鴨も鶏も鳩も、それぞれ精一杯暴れている。

 ──ミシミシッ

 どこかで木箱が悲鳴をあげた。

 ──ピシッ

 どこかで檻も悲鳴をあげた。

(チャンス!!)
 キラーン、と目を光らせて、兎は後ろ足で力いっぱい横板を蹴りつけた!!
 弾け飛んだ板に触発されたように、横一列に並んだ羊も檻にタックルをかまし、これをぶち破る!!
(こんなうすっぺらい木で拘束しようなんざ、まだまだ甘いな)
 その隙間からもそもそと茶色の豚が逃げ出していく。
「ま、待て! 逃がすかっ」
 肉屋が慣れた手つきで兎を掴──もうと伸ばした手を掻い潜り向こう脛を蹴り上げて、一目散に兎が逃げる。掴んだと思った手を滑らせて豚が豚なりに駆け抜ける。群を成し突進していく羊の前に敵はない。
「誰か、誰か! 捕まえてくれ!!」
 肉屋の絶叫が轟いた。稼ぎ時で、納期も納品先も決まっているのだから彼らも必死だ。食べられる方が、もっと必死なのだけれど。
 通り掛かったドワーフのギルド員が都合良く依頼として話を受けたが、その間にも動物たちは散っていく。
(お前達だけでも逃げてくれ‥‥)
 羨望と野望と絶望と少しの諦観が混ざった複雑な眼差しが、鳥たちと仔牛から逃げ出した動物たちの背に向けられていた。


※ 現地からの実況について、一部脚色が有ります。

●今回の参加者

 ea9383 マリア・ブラッド(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5604 皇 茗花(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb5669 アナスタシア・オリヴァーレス(39歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb7693 フォン・イエツェラー(20歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec3237 馬 若飛(34歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec3272 ハロルド・ブックマン(34歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●狩るものと、狩られるもの

 収穫祭はまさしく、食欲の秋を体現した祭だ。当然である。食物の収穫を祝う祭なのだから──ハロルド手記より、一部抜粋。

 収穫祭の喧騒を、より賑々しいものに変えている要因があるとすれば、それは此度の依頼人が逃がした──否、依頼人の元から脱走した動物たちの狼藉であろうか。
「奴らも必死みてぇだな。これも本能なのかね」
「確かに、動物たちにはちゃんと感謝してますが、向こうにしたら命がけでしょうからね‥‥事実がどうであれお肉が必要なことには変わりませんけれど」
 依頼人から話を聞いた馬若飛(ec3237)とフォン・イエツェラー(eb7693)の感想は、そんな感じ。これも食物連鎖のヒエラルキーである、感謝はすれど罪悪感は抱けない。動物が生きるのに必死なように、こちらも生きるのに必死なのだから。
「食べられるのは嫌かもしれないけど‥‥美味しく料理してあげるから許してね‥‥」
 だから、でっかい瞳を潤ませながらマリア・ブラッド(ea9383)の言葉も心の底から発された真実のもので。‥‥まあ、そんなことされても動物たちは嬉しくもなんとも無いどころかありがた迷惑だろうが、まあ、立場の違いというやつである。
「あたしは、主にブレスセンサーで探すのと、ライトニングサンダーボルトで追い込む辺りよね」
 アナスタシア・オリヴァーレス(eb5669)の物騒な言葉にセルジオ・ザイツェフ(ez0160)はぎょっと目を見開いた。一瞬の後、取り繕うように微笑んだが、穏やかな面立ちには困惑の色がありありと浮かんでいる。
「キエフの方々は、闘技場で魔法がどれだけ恐ろしいものかを目の当たりにしていますから‥‥あまり賛成はできませんよ」
『魔法は加減が効かない。使いどころを間違えないようにする必要あり』
 セルジオと、彼に同意し板切れにかりかりと記したハロルド・ブックマン(ec3272)の言葉にアンナは頬を膨らませた。
「魔法との付き合いも随分長いんだもの、それくらいあたしも解ってるわよ」
 アンナはそこで口を噤んだのだが‥‥その判断をする理性が効かなくなる事がある、ということだけは語らなかった。酒など、飲まなければ良いのだけなのから。
「茗花さんってのはあんたかい?」
「茗花は私だが」
 確認するように顔をじっと見つめてきた青年に皇茗花(eb5604)が軽く手を上げると、青年は堰を切ったように話し始めた。
「羊の群れが東を走ってる、あんたに伝えればいいんだよな?」
 それは確かに茗花が依頼人を通じ、彼の仕事仲間や知人らへと広めてもらった小さな願いであった。大して期待していなかったのだが、この大きな街ではやはり地元の土地勘や人手の多さがものを言うようだ。
「助かる。見つけ辛い兎も探してもらえれば、さらにありがたい」
 小さく笑みを浮かべると、東地区へ向かって駆け出した!!


●ふわふわでもこもこのメリーさん

 今回の依頼人は肉屋。商品の動物に逃亡されたらしく、それの捕獲が目的である。
 逞しい野生が相手、となると中々に難儀だ。見くびると痛い目を見る。全力を尽くすのが良いだろう──ハロルド手記より、一部抜粋。

 まるごとメリーさんが群れを成している。
 一目でそう思った茗花は立派だ。少なくともMMO部員としては鑑のような存在のはずだ。
「ワン、ワン!」
 ハロルドのフェンリルが主の指示通りに羊を追い立てると、茗花のリュイもそれを真似て羊を追いたて始める。
「すみません、危険ですので道をあけてください! 道をあけてください!!」
 呼び掛けるフォンの声で異常に気付き、人波が割れる。その間をフェンリルや冒険者に誘導されて、羊の群れが突き抜ける。しかし、人々へ呼びかけていたフォンが声を張るのをやめた。
「でもどこへ誘導しましょう?」
「決まっているだろう、人のいない方だ!」
 後方からの叱責は茗花の声。柵など見つける前に羊が見つかってしまったのだから、訊かれても答えようがないのだ。
 フォンが途方に暮れかけたその時。救いの女神の声が天から降ってきた。とはいえ、セーラの声ではない。
「フォンさん、港の倉庫に向かって! マリアさんが一箇所、空き倉庫を確保したのね!」
 空飛ぶ木臼に乗って上空から声を掛けたのはアンナである。馬飛の素早い指示で駆け出したマリアはメイドとして培った人脈を駆使して迅速に空き倉庫を確保したのだ。その姿を見失わなかったのは、早々に空へと飛び立ったアンナの機転。
「了解しました! 皆さん、道をあけてください!」
 そこまで瞬時に悟ったとは思えないが、差し込んだ光明にフォンの瞳は輝きを取り戻す!
 祭の空気故か、いつしか港の倉庫までは花道の如く道が開き、両サイドには群がった手に手に食べ物を持った人々が「頑張れ」「もう少しだ」「逃げるなら今だぞ」など口々に囃し立て始めている。
 そして、賑やかな人垣に気圧されるように‥‥羊たちもいつしか臆病な姿を取り戻していた。
『メェェェ‥‥』
 そして大人しく、倉庫へと吸い込まれていった。
「おー、捕まったのか」
 待っていたのだろう、タイミングよく掛けられたあっけらかんとした声は、姿を消していた若飛の声。
「若飛さん、女性に働かせてどこかで様子を見ていたのかしら?」
「馬鹿言え。Jr.に引かせる台車を借りてきたんだよ。ついでに檻もな」
 長い付き合いで信頼を育んだハロルドは、そんな若飛の言葉に毛ほども表情を変えぬ。黙々と檻の扉を開き、フォンと二人で羊たちを追い込んでいる。
 しかし、一度止まった足は今度はようとして動こうとしない。
「ふわふわもこもこ‥‥毛を刈るだけじゃなくてお肉も食べるんですね。ラムとかマトンとか言うんでしたっけ」
 ふわもこを愛でていたマリアの瞳が、猛禽類のように鋭く変貌した! それは料理人が食材を目の前にした時の変化!!
 ──びくぅ!!
 憐れなほど飛び上がり、羊たちは我先にと荷車に設えられた檻へと逃げ込んでいった。
「一丁上がり、だな」
 茗花とアンナのハイタッチが小気味良い音を立てた。


●らぶりぃ☆うさたん、のターン!

 羊や兎や豚を追う。我々にとっては依頼の1つにすぎないが、周囲の盛り上がりは祭りの出し物にも似た賑わい。
 これも毎年行われる収穫祭にとって馴染みの風景の一部なのだろうか‥‥悪くはない。──ハロルド手記より、一部抜粋。

 兎の捕獲について、多大なる期待を持たれていたものがある。
「それじゃ、やってみるのね。──風の精霊よ」
 アンナがゆっくりと詠唱を開始した。そう、呼吸を感知するブレスセンサーの魔法である。
「あ、あの‥‥随分たくさん反応があるみたいなのね‥‥」
 呼吸から推察できる結論に、アンナは頼り来た仲間へと引きつった笑みを返していた。
 ブレスセンサーは確かに便利な魔法である。が、それは呼吸数が少ない場合の話で、効果範囲内に200人が犇めき合う状況下での侵入者捜索の如く、状況によっては殆ど役に立たぬこともある。今回も似たようなもので、効果範囲に兎程度の呼吸が多いのだ。ましてや、昨今はペットを愛でる冒険者も多い。
「他の人が売ってる兎とか、ペットとか‥‥ううん、兎だけじゃなくて、多分、小さい犬や猫なんかも拾ってるのね」
「それでは、地道に探しましょうか。兎ならそれほど大掛かりな罠にしなくても捕らえられますよね」
「そうなのね。じゃあ、人通りの少ない所を一時的に通行止めにして罠を‥‥」
 フォンの言葉に頷いて思考を切り替えたアンナに、次の待ったが掛けられた。
『それは賛成できない』
 それはハロルドの短い言葉。珍しくキリッと目尻を吊り上げたアンナの頭をポンと若飛が叩いた。
「俺たちがするのは動物の捕獲だ。でも、何をしてでも‥‥って訳じゃねぇだろ?」
「でもっ」
「せっかく盛り上がってる祭の邪魔は野暮ってもんだぜ。罠も、魔法も、考えねぇとな」
 冒険者にとって依頼は確かに全てかもしれない。しかし、状況を踏まえず依頼を最優先すれば結果的に失敗することとてあるのだ。
「人通りの少ない通りもあるはずですから、そちらを利用しましょう」
 にこりと微笑んだフォンが俯くアンナの背をそっと押した。足を止めている時間はないのだ──

   ◆

 しかしいざ探し出してみれば、兎を探すのもさほど時間はかからない。どうやら、茗花が事前に敷いた布石や、若飛やマリアの顔が屋台村での健闘で売れていたことが大きいようだ。範囲が広いため、手分けして兎を追い込んでいく。
「‥‥それにしても円らな瞳が可愛いな」
 もしゃもしゃと食べる様を幸せそうに観察する茗花。隣に潜むフォンが遠慮がちに肩を叩く。
「茗花様、捕まえるんですよ? 解ってますよね?」
「う、うむ、非情にならなくてはな。食欲の前にはもふもふは‥‥もふらせて欲しい‥‥」
「掛かった!」
 夢のように紗が掛かった視界の向こうから聞こえるフォンの声。
「あとは巧く麻袋に入れれば‥‥うわあっ!!」
 僅かに持ち上げた籠の隙間から、茶色の天使が渾身のジャンプ!! 仰け反ったフォンの頭を踏み台に、更にジャンプ!!
「逃がしませんっ!」
 着地点目掛け、豪快なスライディング!! しかし、一度は腕の中へ着地した兎、強靭な足で頬を蹴り飛ばす!!
「兎肉のシチュー、兎肉の串焼き」
 自分を奮い立たせるようにぶつぶつ呟く茗花の言葉がフォンの背をも押した。

 ──やるってのかい?

 そう挑発するかのようにギラリと瞳を光らせる兎に、麻袋を構えてにじり寄っていく──!

   ◆

「見つけたぜ、ウサ吉!」
 若飛が絡め取らんと鞭を振るう! しかし兎も負けていない、華麗なるステップで鞭をかわした!!
 振り返り、円らな瞳で鞍上の若飛を見上げ、鼻と耳をヒクヒクさせると‥‥再び逃げ出した!!
「マジかよ‥‥!」
 愛馬のJr.では駆け辛い狭い道に飛び込まれ、舌打ちした若飛は自らの足で走り出す!
「こっちは、確か──」
 鋭い音を立てて鞭が石畳を叩く。ひょいと軽やかに避けた兎がくるりと向きを変え駆け抜けていく。幾度か鞭が石畳を捉え、兎は弄ぶように軽やかに飛び跳ねて‥‥ふと、その視界が突然、途切れた。
 そう、マリアが担当していた路地だったのだ。鞭の音で仲間に気付いたマリアは身を潜め、兎の神経が若飛に集中する一瞬の隙を突いたのだ!

 ──なんだこれは! 放せ!!

 そう怒鳴る頑固親父のように麻袋を蹴る兎だが、蹴るべき土台が麻布では脚力も大幅減。
「ぴょんぴょん‥‥すばしっこくて捕まえるのが大変そうでしたけど。チームワークの勝利、ですね」
 にこりと微笑むとマリアの大きな胸が軽やかに弾み、若飛は眼福と目を細めながら頷いた。
「だな。この調子なら‥‥ちと数は多いが、兎は何とかなりそうだな」
 バリバリバリッ! ドォォン!!
 遠くから聞こえる音はアンナの魔法か、ハロルドの魔法か。
「派手だな」
「きっと、皆さんもショーを見る気分ですよ」
 ふふ、と悪戯な笑みを浮かべるマリア。派手なパフォーマンスとして触れ込んできたのは、マリアとアンナだけの秘密である。


●美味しそうな栗色の豚さん

 ところでこの依頼、状況説明の文章が随分と臨場感溢れると言うか。
 依頼書、報告書も一つの読み物。今度、ギルドに篭って読み漁って見るのもいいかもしれない――ハロルド手記より、一部抜粋。

 少々梃子摺ったが、兎もクリアし。最後に控えしは大物、栗色の豚。
「ぶひぶひ‥‥豚さんはどこかなー」
 楽しそうなマリアだが、おおよその見当は付いている。そもそも、豚は兎と違い決して小さくない。キエフの住民が味方についている今、見失う事は皆無に等しかった。それよりも問題は捕獲方法と運搬法な訳で──‥‥

「この世は弱肉強食。美味しい肉と生まれたからにはその運命、全うしてくれ。供養は必ずすると誓おう」
 祈りを捧げる間に、豚との距離は縮まっていた。
「右へ!」
「──ライトニングサンダーボルト!!」
 茗花の声に導かれるように、アンナの放った雷光が鋭く地面を抉る!! 巧く右へ誘導されていく豚へ、小さく笑う。
「なるべくならとどめは刺さずに生け捕りにしたいですからね」
「血は見たくありませんし‥‥」
 鞘に収めたままの剣を構えるフォンとマリア。二人が呟いた言葉に、背後で守られる作戦の要・ハロルドが頷いて。
「凍れ」
 掠れた声で呟いた言葉は、短い詠唱。氷の棺に閉ざされる、豚。

 ──邪魔しないでっ!

 とばかりに、偶然近くに居た豚が、ドドドドドと地響きを立ててハロルドへ突っ込んでいく!
「させねぇ!」
 スナップを効かせて振るった鞭が豚さんの後ろ足に絡みつく。カラミティバイパーは、打ち据えた対象を絡め取る魔法の鞭で‥‥絡め取った後ろ足を、グイ、と力いっぱい引いた。全面へ引かれぬように踏ん張る力は強くとも、後ろへ引かれる力への耐性は存外低いものだ。
 バランスを崩された豚は、ドゥン!! と転倒した!!
「はあっ!」
「やあ!!」
 殴打する3本の剣が豚を撃つ! 痛みに怯んだ豚を、再びハロルドが氷に包んだ。あとは荷車へ積み、依頼主の元へ運ぶだけだ。
「お〜、冷てぇ。この季節、氷を持つのはつらいぜ。さっさと荷車に乗せちまおう」
「そうですね‥‥もう少し頑張ってくださいね、Jr.さん」
 手を貸すマリアが労うのは若飛の愛馬。今回の立役者の一人、いや一頭である。
「あと2匹ですね」
 タイミングを逃せぬ緊張からか滲んだ汗を拭うフォン。その柔らかな金髪が、何かに絡まる。
「痛っ。‥‥リセですか、どうしました?」『ました』
 つんつんと髪を引っ張っているのはフォンの飼う妖精リセ。一所懸命髪を引き、南の方を指差している。
「豚さんを見つけてくれたのですか?」『ですか』
 ふわりと浮かんで飛んでいくリセの背を追うフォン。見失わぬよう駆け出す仲間たち。
 アンナだけが、ほんの一時、若飛を振り返った。
「こいつらは任せな。運んだら追いかけるぜ」
「お願いするなのね」

 そして3日間の間に。
 逃亡した全ての動物たちが、依頼人の下へ運ばれたのだった。

「これ、貰ってくれないか。肉のついでに売ろうと思ってた品を加工してみたんだが」
 破顔一笑の依頼人、幾匹かには逃げ切られる事を想定していたのだろう依頼人は、追加報酬として現金と少しばかりの品を提供してくれた。
 羊毛をたっぷりと使った暖かなふわふわ帽子を女性陣に。ふわふわ帽子はちょっと遠慮したいであろう男性陣へは、毛皮の敷物を。美味しく頂き、尚且つロスを出さない。それが動物にとってははた迷惑であろうが、彼らなりの供養なのだ。
「大切にします」
 深く頭を下げて、マリアは帽子を被った。
 心地よい温もりに‥‥ちくんと、少しだけ、胸が痛んだ。
「さて、折角の収穫祭ですし食べ歩きませんか?」
「そうね、報酬も上乗せしてもらったし、美味しくいただきたいところなのよね」

 本当に、ほんの少しだけ。