ジ・アース特捜隊キエフスキー【聖夜祭号】

■ショートシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月28日〜01月02日

リプレイ公開日:2008年02月24日

●オープニング

●冒険者ギルドINキエフ
 三つ編みヒゲやもっさりした髪に隠れて解り辛いが、三つ編みヒゲのギルド員は複雑な表情で溜息を零した。
 12月15日の月道では更に多くの冒険者がキエフを訪れた。キエフから巨大なトカゲのような生物がいる地へと繋がる月道も開き、冒険者がこの地へ舞い戻った。南欧の国や、キエフとは間逆の常夏の国など‥‥多くの国からの冒険者である。
 そしてまた問題になっているのは、これまた当然ながら生活習慣の違いだったりするわけで。冒険者ギルドのギルド員としては、依頼主とのトラブルともなる齟齬は早々に解消しておきたいのもまた事実だった。
 三つ編みヒゲのギルド員は自慢のヒゲを撫で、考えた。これは、やるしかない。
 そして彼は立ち上がった‥‥
「休暇が欲しいんだが」
 そう、まずはギルドに休暇申請するところから‥‥って、またですかー!?

●キエフスキー本部
 ──来るべき知的月道外生命体(ルビ:ぼうけんしゃ)からの質問に備え、あらゆる謎を調査解明するために組織された調査機関、それがジ・アース特捜隊キエフスキーである!!

 そんなことを突然語りだした三つ編みヒゲのギルド員、絶賛有給休暇中。
「私のことは博士と呼びたまえ」
 それは以前に同様の企画を催したときにも名乗った肩書き。‥‥多分、形から入るタイプ。
「以前、我々はキエフと他国の気温の比較、スィリブローのワインは本当に新酒か疑惑、記録係の生態について取り組んだが‥‥ここにまた、新たな疑惑が浮上した。諸君の力でこれらの謎を解明してもらいたい」
 彼は趣旨に賛同して集まった数名の冒険者へ、またしてもいくつかの指令を出してきた。
 お題を書いて用意してあった羊皮紙を見習いギルド員のオダ・エイディがさっと掲げる!

 ──そのフリップに書かれていた以下の三点が、博士からの指令である。

『キエフの聖夜祭は他国よりカップルが多いか問題』
 ジーザス教徒がいればどこの国でも開催される聖夜祭はジューンブライドやバレンタインの時期と並んで恋人が増殖するイベントとしても知られている。9月時点の調査ではあまり差異のなかった気温であるが、冬ともなればかなり如実な差が見えてこよう。寒い季節には人肌が恋しくなるという‥‥ならばこの時期のキエフが他国よりも寒ければ、他国よりもカップルは多いはずである。気温とカップル割合について、大至急調査せよ!

『キエフのエチゴヤが実はエチゴヤ総本店疑惑』
 冒険者がよく利用しているエチゴヤはどの国にも出店している巨大な店である。だが、よく思い出して欲しい。他国のエチゴヤは、たとえジャパンは江戸の店であろうともキエフのエチゴヤほど大きかっただろうか? それを裏付けるように十数人とも数十人とも言われる、半ば都市伝説と化したエチゴヤ兄弟はジャパン人の面立ちとはかけ離れているではないか。 これらの謎、ぜひ解き明かしてもらいたい。

『ペットの謎を追え!!』
 前述のエチゴヤで好評販売中の福袋。それに封入されている卵や動物たちは冒険者たちの憧れの的である。もちろん動物が半ば虐待的な態勢で封入されているわけではなく、中に入っているのが引換券だというのは有名な話。しかし、それらを引き渡すまで──正確には冒険者のバックパックにサッと突っ込むまでの期間は、ペットたちはどのように過ごしているのか。危険な任務だが、やってもらえるかね?

 さあ、ジ・アース特捜隊キエフスキー、出動せよ!!

「おお、そうじゃそうじゃ、肝心なことを忘れるところじゃった」
 ぽんと手を叩いた博士が追加したのは、スポンサーについてだった。なんと、今回はスポンサーがついているというではないか。
「スポンサーは味には定評のあるレストラン・コーイヌールなのじゃが‥‥スポンサーというからには、の?」
 そう、コマーシャルを入れないといけない。とはいえ、冒険者ギルドへの報告書に広告を記載するわけにはいくまい。
「不自然でも構わぬが、コーイヌールのアピールは忘れずに入れるのじゃぞ」

●今回の参加者

 ea3026 サラサ・フローライト(27歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3665 青 龍華(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3947 双海 一刃(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5604 皇 茗花(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec0550 ラファエル・シルフィード(35歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●朝礼
「来たるべき知的月道外生命体からの質問に備え、あらゆる謎を解明するために組織された機関。それがジ・アース特捜隊キエフスキーである!」

 気合いのこもったナレーションは真幌葉京士郎(ea3190)が担当。それを合図に飾り気の無い無機質な扉が開き、三つ編みヒゲのギルド員‥‥いや、博士が現れた。
「「「おはようございます」」」
「うむ、おはよう」
 博士を敬礼で迎えたのは京士郎とサラサ・フローライト(ea3026)、皇茗花(eb5604)の合計3名。
 鷹揚にうなずいた博士は、こほん、と咳払いをして言葉を綴った。
「今日はまず、新隊員の紹介をしよう。入りたまえ」
「「「失礼します!」」」
 促され入室したのは青龍華(ea3665)、双海一刃(ea3947)、ラファエル・シルフィード(ec0550)の3名。
「そして、諸君らにはキエフスキー隊員であることを示す隊員章を贈ろうと思う。どうだ、嬉しいだろう!」
「正直微妙ね」
「ん、何か言ったかな」
 いいえ、と龍華は首を振って流した。胸を張った博士は、隊員章に負けない働きを期待していると告げ、隊員一同を見回した。
「さて、諸君。諸君は聖夜祭を誰と過ごすのかね?」
「誰って、博士とだが‥‥コーイヌール」
「ん? 茗花は博士のことがそんなに好きか〜。しかし博士は既婚者なのでな、他を当たってくれ」
 この仕事が聖夜祭の真っ最中、しかも年をまたいで行われることは都合良く忘れている模様。
「我々は仕事があるが、恋人と過ごす者が多いだろうな」
 意図を汲んだ一刃の言葉に頷く博士。
「そう、この時期になるとなーぜーかー普段より恋人たちの姿が目立つのだ。見栄か、それとも気候からか、気にならんかね? ──というわけで、最初の調査はこれだ!」
『キエフの聖夜祭は他国よりカップルが多いか問題』
「あっ!!」「ううっ」「‥‥!」
 息を飲む隊員たちに指を突きつけ、声も高らかに命じた!!
「キエフスキー、出動!!」
「「はっ!」」
 再び敬礼し、駿馬型白星ことキエフスキー4号と共に龍華と一刃が飛び出した!

●キエフスキー4号後方
「この時期って、一組見たら三十組は居ると思え、ってぐらい居るわよねぇ‥‥」
「何だか俺には僻みに聞こえるが」
「一刃さん、それもちろん博士に向けての発言よねぇ?」

●検証
「うーん、寒いとカップルが増えるっていうんだから、街中でも比較的寒くない場所と寒い場所でそれぞれ集計しないと駄目よね‥‥」
 龍華の思考を邪魔せぬよう、一刃は静かに佇む──元々静かなのだけれど。龍華に比べれば、大概の人は。
「という訳で、寒い所での調査は嫌‥‥こほん、面倒だから。よろしくね、オダ君」
「え、僕ですか?」
「他に誰がいるのよ! じゃ、頼んだわよ!!」
「あ‥‥はい‥」
 ほんのりとテンションの低いギルド員補佐エイディ・オダ君の肩をぽんと叩きねぎらう一刃の心だけがほんのり暖かく感じられた。
「公園──一番数が多そうなこの調査の肝を託す! それから、時間による体感気温とカップル数の推移もよろしく」
「‥‥」
「不満か?」
「‥いえ」
 眼光鋭い一刃は、なんだか龍華より酷かった。
「じゃ、まずは腹ごしらえよね‥‥保存食支給なんて、博士もなかなか粋よね」
「‥‥スポンサーとか言ってたがな」
 保存食を開ける龍華。一刃の保存食は、寒いのか主にぴたりと張り付いた二匹の妖精さんが興味津々覗き込んでいる。
「食べるか?」
 こくこくと頷く2匹の妖精。ちなみに周囲の人々は遠巻きに眺めている。だって妖精さんなんて可愛いけど何だか怪しいし。でっかい緑の変な雛もいるしね!
「‥‥はっ! こ‥これはっ! なんていう‥なんていうものを食べさせてくれたの、キーラさんっ!!」
 クワッ! と目を見開いた龍華のバックに、その時、超越マグナブローの幻影が見えた! ‥‥様な気がして、通行人AtoZはこしこしと目をこすった。
「‥‥いいか、蓮、沙羅。美味しく食べるんだぞ?」
 広告を括りつけられた妖精たちが保存食をちょこっと貰う姿は可愛かった。が‥‥妖精さんの食べ物とは違ったのか、何とも不思議そうな顔をしていた。
「さて、腹も膨れたことだし、仕事に掛かるか。俺は馬鹿‥‥こほん、カップルに付き合い始めた時期を聞き込むつもりだが、龍華は?」
「シフール飛脚捕まえて、他国の状況を教えてもらうつもり。何かヒントがあるかもしれないものね!」
「そうか‥‥健闘を祈る」
 祈りついでに印を結んだ一刃は人遁の術で女の子に化けて、目に付いたカップルへ突撃していった!!
「あ、ちょっとすみませんけどぉ、アンケートにご協力くださーい。お2人が付き合いはじめた時期はいつですかー?」
「一刃さん‥‥」
 変わりっぷりに唖然とした龍華は、その背中へぐいっと親指を立てた。
「‥‥ぐっじょぶ☆」
 肖像画に使いたいくらい、イイ笑顔だった。

●本部
「ただいま戻りました!」
「うむ、ごくろう。で、どうだった」
「夕方にかけて見かける数が徐々に増える、ピークは夕飯後だな。そして寒さが厳しくなる夜間に向けて激減する。ちなみに聖夜祭のカップルは12月に入って成立した物が多かった」
「カップル数は他国より5割増だれど、異種族が目立つから寒さが原因とは一概には言えないわね。あ、でも花の都パリとは同じくらいですって」
「そうか、もっと明確な差が出ると思ったんだがなぁ」
 がっかりと肩を落とすのは博士だけではない。気付けば皆が肩を落としていた。
「あ、それから博士」
「何だね、龍華君」
「一刃君の女装、すっごく板についてたわ」
「そうかそうかー、博士も見たかったぞー。で、次の調査なんだが」
 本当に興味あるんですか、博士。
「諸君は福袋を知っているかね?」
「良くエチゴヤで大々的に売り出しているな」
「商品をバックパックへ神速で押し込む芸当を売りにしている支店もあると聞くな」
 サラサの言葉に一刃が頷く。
「忍びにも見切れぬ、あれこそ神業だ」
「それでは、福袋の引き換え券と交換で出てくるペット。あれはどこにいるのか‥‥気にならないかね? ──というわけで、次の調査はこれだ!」
『エチゴヤはペットをどこに隠しているのか問題』
「あっ!!」「ううっ」「‥‥!」
 息を飲む隊員たちに指を突きつけ、声も高らかに命じた!!
「キエフスキー、出動!!」
「「はっ!」」
 敬礼し、鴎型鴎ことキエフスキー5号を伴い、サラサと茗花が飛び出した!

●キエフスキー5号と一目散
「しかしキーラ殿も良くキエフスキーに宣伝を任せる気になったものだなコーイヌール」
「そのコーイヌールというのは何とかならんのか、茗花」
「今回は宣伝も仕事だからな。しかし確かにどのように扱われているのか気になるな‥‥コーイヌール」
「万が一劣悪な環境で猫を飼育でもしてようものなら‥‥シャドウボムだコーイヌール」
 感染った。

●検証
 とりあえず二人が向かった先は──エチゴヤで入手した卵から孵化した、茗花の愛しいペットの元。
「で、どうなんだキエフスキー6号」
 月精龍は穏やかな瞳で飼主を見ている。
「‥生まれる前の事は覚えてないと言っているな」
 サラサの通訳に首を傾げる。
「卵はあんなに動くのに、か‥‥そのまま入ってるのではと思う時が‥‥コーイヌール」
 悩みつつ、二人はキエフの外れへと足を伸ばしてみる。オダ君に任せるには、エチゴヤは相手が悪すぎるのだろう。
「では予定通り大型ペットの保管‥‥いや、飼育から当たるか‥」
 しかし赴いた周辺の森には、それらしい場所はない。冷静に考えれば、そんな場所があれば噂のひとつやふたつやみっつやよっつ程度は流れようというもの。謎多きエチゴヤの噂だ、さぞ尾鰭背鰭がついて大きな話になっているに違いない。
 もちろん、エチゴヤのあるキエフの街中にも、そのような場所はなく──‥‥
「ふむ。しかしあまり遠ければさっとバックパックに、とはいかないからな‥‥だがスペースがなければあれだけの動物は‥‥」
 きゅぴーん☆
 サラサの脳裏に素晴らしきネタ、いやいや発想が沸き起こった!
「‥‥まさか、地下‥‥?」
「ふふ、面白い‥‥ではエチゴヤに突撃だ!! コーイヌール!」
 なんか合言葉みたいになってます、茗花さん!!
 まずは外堀から攻めようと、周囲を練り歩く──サラサが男を見つけたのは、そんな折だった。公園の角でガタガタ震えながら羊皮紙に何かを書きとめているひょろりとした男性の姿、それは紛れもなく‥‥
「ん? あれはオダではないか?」
「‥‥寒い所での調査か、龍華殿も一刃殿も容赦がないなコーイヌール」
 言葉とは裏腹に、茗花は楽しそうに笑う。だな、と同意したサラサはつかつかと歩み寄るとオダの肩をぽむっと叩き、保存食を差出した。
「美味いぞ、喰え」
「あ、ありがとうございます」
 ‥‥寒いときにも美味しい、コーイヌールの保存食☆

   ◆

「‥‥背に腹は代えられん、直接尋ねてくる」
 年末年始の特別な福袋販売をじっと観察しても、店の奥から引き換え用のペットをつれてくるだけだった。リュイ自慢の鼻も、幼い頃の匂いまで覚えていなかった。これではペットたちの居場所は掴めない!
「キエフスキーだ、福袋に入ってる動物達が普段どのように生活しているのか伺いたい」
「‥‥はあ? まあ、いいけどさ」

 そして語った内容は──‥‥

「回答に感謝する。‥‥そうそう、コールイーヌの美味い保存食だが、もしここで扱ってくれるなら買うぞ」
「それはキーラさんと交渉中だよ。上客になってくれるなら嬉しいねぇ!」
 にかっと笑った女将の腹の底は、記録係にも見通せない黒さだった。

●本部
「戻りました!」
「おお、おかえり。で、ペットはどうだった」
「エチゴヤの奥に巨大な空間があるようだ。ペットはそこでのびのびと飼育されている。独自の交配まで行っている形跡もある」
「でなければあのような大きな動物は育てられまい。皆性質は良いしコーイヌール」
 多分に贔屓目の入った結論だが、まあ良しとしよう。
「そうか、やはりエチゴヤには未知のゾーンがあるのか〜‥‥キエフスキーにも謎を解明させぬとは、さすがエチゴヤだな」
 冒険者ギルドにもあります、そんなゾーン。俗に言うバックヤード。
「さて、そのエチゴヤだが‥‥諸君はエチゴヤを使ったことがあるかね?」
「冒険者の御用達ですから、もちろん使っていますが」
 ラファエルがこくりと頷く。
「キエフのエチゴヤが他国に比べとても大きいと思ったことは、ないかね?」
「‥それは確かに。ドレスタッドなどほったて小屋のような有様だというのに」
 サラサが眉を寄せる。
「博士はな、キエフのエチゴヤこそが本店ではないのかと気になって昨夜は眠れなかったんだよ。お陰で今日は寝不足なんだ」
 そんな気配の微塵も感じられない顔で言った博士は、カッ! と目を見開いた!
「というわけで、次の指令はこれだ!」
『キエフのエチゴヤ、総本店疑惑』
「あっ!!」「ううっ」「‥‥!」
 息を呑む隊員たちに指を突きつけ、博士は声も高らかに命じた!
「キエフスキー、出動だ!!」
「「はっ!」」
 京士郎とラファエル、グリフォン型飛行獣キエフスキー6号に跨り颯爽と──

 ──‥‥

 待って、さすがにグリフォンは拙いから!!

●キエフスキー6号と心は一緒に
「確かに大きすぎる御店ですよね。それにエチゴヤの方々も人間らし‥‥コホン、ジャパン人らしいとは言えませんしね」
「今、人間らしくないと言いかけなかったか?」
「さあ?」

●検証
 保存食を開きつつボヤく京士郎。
「グリフォンが禁止されるとはな‥‥」
「一般の人たちにはモンスターにしか見えないでしょうからね」
 綺麗なんですけれどねー、と残念そうに呟いたラファエルはエチゴヤの外観を羊皮紙にスケッチしていく。
 その間に保存食を口に運んだ京士郎は、流石だと目を細めた。
「キーラの美味しい保存食、やはり美味だな‥‥コーイヌールは小粋で洒落たレストラン、愛しい人との一時にも最適だ」
「‥‥あっ」
 ぐぅ〜っと鳴った腹に我に返ったラファエルは、照れくさそうに赤面した。エチゴヤだったはずの絵は、いつしか保存食になってしまっていた。
 くしゃくしゃと丸め、保存食を平らげると早々に腰を上げた。
「では攻め込むとするか─本丸へ」
 頷き合うと気を引き締め、エチゴヤの暖簾を潜った。
「こちらのエチゴヤさんは本店なんですか?」
「いや、違──」
「いえ、解っています。話せないに決まってますよね。ならばショージキ竪琴を使うしかありませんね」
 多分、竪琴を使いたいだけだと思う。

【ショージキ竪琴】
 呪文を唱えて弾くことで、聞かされた相手は何故か嘘がつけなくなると思われる。
 記録係は、音が酷いのだろうと推測する。

「とぅるとぅるなトゥルー! ‥‥どうです、話す気になりましたか」
「話すって言ってるだろ?」
 こめかみを押さえた女将の視線がちょっぴり痛い。
「ラファエル、見てみろ!」
 手招きした京士郎は窓の前。開け放たれた窓は大通りとは逆側で──しかしそこには広大な公園、のような空間が広がっていた。ただでさえ広い敷地の中には家が入ってしまう程の広さの池もあるというのに!! そしてそこにいたのは──‥‥
「いったい、ここのエチゴヤは‥‥」
 視線を交わす二人の背後で、肝っ玉女将がからからと笑った。

●本部
「戻りました!」
「うむ! で、どうだった。本店だったか!?」
「大変だ、博士! キエフのエチゴヤだが、実際に所有する土地と家屋は、あの変わった形の建物部分だけだ。他は建物中央の空き地も含めて全て、地上げに失敗している‥‥!」
「何だと!!」
「ですが、失敗したと言われる箇所もペット達の姿が溢れていて、すっかり私有地です。鋭意交渉中とのことですが‥‥」
「また、歩きによる実測では、建物部だけなら他国のエチゴヤとあまり変わらない面積だな。それらの点から、やはりあのエチゴヤもキエフ支店という、巨大なエチゴヤの手足の一つにしか過ぎない、そう結論づけた」
「そうか‥‥エチゴヤもまだまだ、足元が甘いのう!」
 満足げに三つ編みヒゲを撫でた博士へ、ラファエルがぽつりと呟いた。
「別に総本店がどこかなんて隠す必要ないですよね。『エチゴヤ』という言葉が既にジャパン語ですし」
「ばかもーーーーん!!」
 博士の右ストレート炸裂!!
「言葉なんてのはなぁ、言葉なんてのはなぁ!! 勢いで何とかなっちゃうもんなんだよ!!」
「す、すみません博士」
「解ってくれたか、ラファエル。さぁて、調査も終わったことだしコーイヌールで打ち上げといくか! もちろん博士のおごりじゃぞ!」
「やった! 博士、太っ腹!!」
「美味しい保存食を腹いっぱい食べようなぁ!」
「博士、保存食なら店で食べなくてもいいじゃない」
「おお、そうだったな! はっはっは!!」

 ゆけ、キエフスキー。
 負けるな、キエフスキー。
 キエフには、まだまだ沢山の謎が溢れているぞ!!