【最速の騎士】めげずに娯楽！
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■ショートシナリオ担当：やなぎきいち 対応レベル：フリーｌｖ 難易度：やや易 成功報酬：5 参加人数：8人 サポート参加人数：2人 冒険期間：01月07日〜01月12日 リプレイ公開日：2008年03月16日 |
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●オープニング
大地を白く染めた雪が解けぬ間に新しい雪が降り‥‥深く深く降り積もる。水は凍り、生き物は息を潜める冬がロシア全土を多い尽くした頃に、神の子ジーザスは誕生した。最初のレースはその伝承に倣ったという説がある。三賢人のように、より早く駆けつけることができるように、と。冬季の開拓は苦難が数倍にもなる。開拓のため伐採樹木の搬送もその要因の１つである。運ぶ代わりに数本の木をロープでしっかりと結びつけ、丘の斜面を滑り落とすのは生活の智慧。それに併走するため、割った丸太をソリ代わりにして皆で滑り降りたのが最初だとも伝えられている。
古くからロシア王国に住む人々が、新年の吉凶を占うために動物を争わせたのが最初だと言う者もいるが──実際のところ、どうして始まったのかなど今となっては知る物はいないのだ。
しかし、現実として、聖夜祭時に様々な雪上レースが行われている。
所持金を増やし聖夜祭を楽しむ金を作るために賭ける、賞金を稼いでより良い年を迎えるために参加する、数少ない娯楽として観覧して酒を飲む、緩い懐を狙って様々なものを売る、そんな様々な目的を孕んだ聖夜祭の楽しみの一つとしてロシア王国の長くは無い歴史にしっかりと根付いた。
そして今年も、走りっぷりで新年を占うと称して数々のレースが執り行われることとなった。
現在のロシアは開拓の国だ。森を切り開き、増え続ける人員の入植を進めている。
もちろん、速度は下がっても冬の間とて開拓の手は休まらない──冬が長い土地なのだから、仕方ないだろう。
けれど冬には冬の利点がある。そう、雪の存在だ。山の斜面の木を切り倒し、ロープでしっかりと括り付けたら斜面に向かって押してやる。そうすればあとはソリのようにずーっと下まで滑っていく。重たい大木を運ぶ労力が減るというのは、開拓民にとってとてもありがたいことなのだ。
そんな生活から生まれたレースがある。
「今年はスコップレースはないのかしら？」
「あれセベナージだろ？ デビルに襲撃されて中止なんじゃないのか？」
人々の口の端に乗るスコップレース。お手軽さが人気のスコップレースなのだが‥‥開催していた開拓村も少なからぬ影響を被っていたようで、開催は絶望的だと見られていた。
しかし‥‥一人の男が駆け込んできた！！
「おい、聖夜祭には間に合わないらしいが、やるらしいぜスコップレース！！」
そう、そんなことに負けてたら開拓なんてやってられない！！
その言葉を肯定するように、ギルドへ羊皮紙を抱えた村人が駆け込んできた。
もともとは、大木を滑らせるときに自分も一緒に滑り降りようとした、ただそれだけ。
その男はあいにくスコップを持っていて、丸太にまたがり滑り降りることが困難だった。
だから、スコップをソリ代わりにし、跨って滑り降りた。それを見ていた二人の子供が真似をした──そんな些細なことから発祥したレースである。
ギルドに張ってくれと村人が持ち込んだのは、こんな張り紙である。
☆★☆ スコップレース、出場者募集中！！ ☆★☆
今年一年の厄を振り払うため、あなたも滑り降りてみませんか！？
最下位の人に全ての厄を押し付けろ！！
優勝者には豪華商品も用意しております。
参加費１０Ｃ
他、防寒服はお忘れなく。
スコップをお持ちでない方には、主催者より貸与します。
自前のスコップをお持ちの方は、カスタマイズ可能！！
より早く、より華麗に、馬なんてぶっちぎれ！！
※ なお、例年スピードを重視するあまり防寒服を着ず、凍傷になる参加者が後を絶たないことから、今回より防寒服を着ていない参加者は失格とさせていただきます。
一年の始まりにキエフの人々と盛り上がってみるのも、いい記念になるかもしれない。
●今回の参加者
ea3026 サラサ・フローライト（27歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国）ea3190 真幌葉 京士郎（36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン）
ea6282 クレー・ブラト（33歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国）
ea9128 ミィナ・コヅツミ（24歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国）
ea9909 フィーナ・アクトラス（35歳・♀・クレリック・人間・フランク王国）
eb3232 シャリン・シャラン（24歳・♀・志士・シフール・エジプト）
eb4366 ヌアージュ・ダスティ（37歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国）
eb6993 サイーラ・イズ・ラハル（29歳・♀・バード・ハーフエルフ・イスパニア王国）
●サポート参加者
ゴールド・ストーム（ea3785）／ フィニィ・フォルテン（ea9114）●リプレイ本文
●降り立ちし村「ふぅ‥‥」
馬車から降りたサラサ・フローライト（ea3026）は、大きく伸びをして身体を解した。意外に重いスコップを抱えて歩く羽目にならなかったのは助かったが、乗り合い馬車は往々にして荷馬車に毛が生えた程度、乗り心地はやはり悪かった。
「それにしても、キエフには色んなレースがあるんやな〜」
乗り合わせたキエフの民と言葉を交わしていたクレー・ブラト（ea6282）は、興味深そうに降り立った村を見回した。屋台が並び、人々の行き交う村は‥‥やはり活気に溢れている。
「喪に服していると聞いていたんですけれど‥‥」
「んー、飽きちゃったんじゃない？」
セーラの信徒ミィナ・コヅツミ（ea9128）が首を傾げると、ちょこんと頭に陣取ったシャリン・シャラン（eb3232）がぱちんと片目を瞑って見せた。ミィナは曖昧に笑った。‥‥彼の死に縁の有るミィナとしては複雑だが、現実はそんなものだろう、と。
次期領主たるリュドミール様がアバドンの前に命を散らし、喪に伏そうとも年は明ける。
いかに領主様を敬愛していようとも、顔もうろ覚えな彼等のために泣くことにも飽きる。
黒に沈んだ聖夜祭、新年は白に転ずるべく──というのはただの口実かもしれないが、毎年恒例の吉凶を占うレースとあらば、彼等にとってはやらなきゃ新年が始まらないに違いない。
そして喪などどこへやら、昨年の雪辱に燃える者たちもいた。
「今年こそ優勝はこの手に！！」
「去年の雪辱を果たすべく、夏の間もイメージトレーニングは欠かさなかった。‥‥勝つのは私だ、京士郎殿にも負けぬぞ」
「優勝が目当てではない‥‥最速の先にある物、俺が掴みたいのはそれだけだ」
早くも火花を散らす三勇、ラクス・キャンリーゼ（ez1089）、ヌアージュ・ダスティ（eb4366）、真幌葉京士郎（ea3190）。スコップレースを経験している分、そして身体能力に秀でている分、数歩のリードがある。しかしそれは真っ向勝負に限った話で。
（真っ向勝負は端から諦めてるわ。リタイアしないようにだけ注意して‥‥）
彼等が背負った焔（幻影）の向こうには、小さく、昏く笑うサイーラ・イズ・ラハル（eb6993）の姿があった。妨害も認められたこのレース‥‥やはり今年も、一筋縄ではいきそうにない。
「‥‥さて、あたしも頑張らなくちゃね」
散る火花に闘志を燃やすフィーナ・アクトラス（ea9909）は、歩幅も広く歩いていった。
一目散に目指すは屋台！！ ‥‥って、やっぱりー！？
●思惑交錯する事前工作
実行委員会の置かれている本部にひょっこり顔を出したのはシャリン。随分と薄着のようだが、顔色は良い。
「しふしふ〜☆ ちょっと確認させて貰ってもいいかしら？」『しら？』
彼女はどうやら、自身の行いがルールに抵触しないか確認に訪れたようだ。まあ、シフールにとってスコップは大きいわけで。こればっかりは仕方がないだろうということで、二人乗りは特例として認められることになった。今回の結果如何では、次回以降のレギュレーションにペットに関する項目が追加されるかもしれない。
「だが、防寒服は着てもらわないと困るよ、ギャラリーからも苦情が出ちまう」
「だって、この指輪のおかげで防寒はバッチリなのよ？」『のよ？』
「‥‥そうはいっても、ギャラリーには解んないだろ？ それに‥‥」
何より見ていて寒い、と付け加えた責任者の言葉に頷かざるをえないシャリンだった。
◆
寸暇を惜しんでカスタマーイズ！！ ‥‥中なのは、京士郎とクレーとヌアージュ、そしてサラサ。
「乗りやすい物を選んだつもり、だが‥‥」
生憎、依頼ではないため報告書は存在しなかったが、昨年のレースに関する情報を仕入れたサラサは油を塗り、スコップの滑りを良くする作戦だ。京士郎もどうやら同様の作戦のようだが──サラサは、ちらりと隣を見た。
（なんだ、この殺気は‥‥）
ナイフを手に殺気を漲らせた漢・京士郎は、昨年も共に戦った相棒・雪風に向き合い──やがて滴る汗を拭った。
「今、お前は新たな魂を得た‥‥共に、雪吹きすさぶ斜面を一気に駆け抜けようぞ。今度こそ最速の先に、何かを見つけられると信じて」
昨年刻んだ『雪風』の銘の前に、一際大きな『新』の文字。
「‥‥‥」
視線を転ずれば、角度・反り具合などの微調整を済ませたクレーはお手製のクッションをスコップ部分に取り付けている。
「これならお尻が痛くもならんし、冷たくもないやろ〜」
鼻歌交じりのカスタマイズはオリジナリティもたっぷりだ☆
「‥‥‥」
そしてカスタマイズ用に用意された部屋の角にはヌアージュの姿。スコップへの作業は終えて、なにやら素ン晴らしく慣れた手つきで猛然と針と糸を躍らせている！！
「ヌアージュも改造か？ ‥‥針と糸で？」
「うむ！ ‥‥見るのは駄目だぞ、当日のお楽しみだからな！！」
にかっと笑った笑顔はとてもエエ顔だった。
「‥‥‥」
手元の相棒スコップを見た。何だか、悔しかった。
◆
「ふむふむ‥‥要注意ですね」
すでにまるごとさんを着こんでＭＭＯマスコットとしての責務もばっちり果たし中のミィナがコースの下見を終えて戻ると、今日も今日とてフィーナが屋台を泣かせて歩いていた。いや、お金払ってるんだから笑わせているのかも。その傍らには慣れ親しんだラクスの姿があって、ミィナの悪戯心をちょちょいと刺激した。
ラクスとは反対側に回り込んだミィナは、そっとフィーナに囁いた。
「ラクスさんと賭けしてたりしないですかー？ 負けたらキスしてもイイとかー？」
「‥‥あたしとラクスさんが、何で？」
ミィナの冷やかしにブリヌィを食べる手も止め、きょとんとするフィーナ。
「何でって、いい雰囲気じゃないですか〜‥‥」
一緒に居られるだけで羨ましいのに、とは胸に留めた言葉。託した伝言が想い人に届いたかどうか、それを確認する手段すらミィナは持たない。
「そうかしら？」
嫌いじゃないけどね、と肩を竦めたフィーナ。微妙に惚気られた気分になり、苦笑いを浮かべたミィナは顔を背け溜息を零した。そのとき、ミィナが見たのは見知らぬ男性と睦まじげに歩くサイーラの姿。
「‥‥何してるんでしょうか？」
それが彼女の作戦だとは知らず、ミィナとフィーナは首を傾げた。
●波乱の幕開け
上空に分厚く垂れこめた雪雲からはちらほらと雪が舞い落ちる。
「荒れそうねぇ」『ねぇ』
空を見上げて呟いたシャリンの語尾をフレアが真似た。天候が荒れようともそれを受け入れるレースである、シャリンも天候を操作する気はなかった。考えねばならないのはこの天候を利用する術！
今年のコースコンディションはイエロー。各スコップが一列に並ぶ頃には、風も強まり雪は横へと吹いていた。時折り強く吹き荒れる天気は、視界を狭める。
「しかしレースは待ってくれないからな」
ヌアージュがマントを装着した。全スコップ準備、完了。そして──
‥‥３、‥‥２、‥‥１
「ＧＯ！！」
スタートの合図と共に８台のスコップが飛び出した！！
「これってレースやもんね〜」
スタートと同時に淡い輝きを放ったクレーのコアギュレイトが発動！！ 出発できなかったのは、運悪くクレーの隣に位置していたヌアージュだ！
「離される前に沈んで貰うわ！」
おおっと、サイーラのコンフュージョンが炸裂！ 風除けの鉄仮面ごと京士郎が林に突っ込んだ！！
「ごめんなさいね、勝負は体力だけの問題じゃないから」
妖艶な微笑とウィンクは、京士郎には届かない。
さて、先陣を切るのは大番狂わせ、ＭＭＯトナカイ、じゃなかったマスコットのミィナ！ ニコラウスの群れを率いて雪の中を猛然と突き進む！！
「ふふっ、赤くてツノがつけば通常の３倍速く走れるのですよー♪」
鼻は赤く、スコップには確かに角がついている。いや、そういう問題！？
●激動の中盤
スタート地点の緩やかな坂から段々と斜面は急になり、スコップたちは次々と林のテクニカルゾーンへと飛び込んでいく。
ミィナは順位を落とし３位。１位、２位は編隊を組むように滑るラクスとフィーナ。４位ヌアージュ、５位サラサ、６位シャリン、７位、８位が並んでクレーとサイーラ。それと、どこかに京士郎。
「‥‥ふむ、結構気持ち良い物なんだな」
切り裂く風の音、１つに束ねられた靡く髪、高速ですっ飛んで行く風景。カーブによる緩急は奏でる曲と変わらぬ物で。
「お、新たなフレーズが」
楽しげにリズムを取るサラサの脇を、クレーとサイーラがすり抜けていく。
「‥‥レースに情けは禁物、か」
意を決したサラサ、１０メートルほど離れた前を行くヌアージュへシャドウバインディング！
「おぉぉぉっ！？」
「‥‥すまん、悪く思うな」
ヌアージュ、急停止！！ 小さく謝罪するサラサだったが、しかし！
「しまった」
急停止したヌアージュへ吸い寄せられるようにサラサが突っ込んだ、ＣＲＡＡＡＡＡＳＨ！！
「人を呪わば穴二つ、ってね♪」
防寒服を着てもなお圧倒的な重量不足にスピードが乗り切らぬシャリン。危なげなく事故スコップを避けて先行く者たちを追う！
さて、後方の惨劇など気にも留めず、クレーとサイーラは徐々にスピードに乗り順位を上げていく。ミィナを射程に捉えた！ サイーラの唇が、一瞬、不敵に歪んだ。次の瞬間、一転して悲劇のヒロインへ大変身を遂げる！！
「ま、待って！ キエフには私の優勝を楽しみにしている病気の弟が‥‥」
「‥‥レースには関係ありません」
言ったミィナだが、そのスピードは目に見えて衰える。もちろんそんな都合の良い弟などいるはずもなく、レースまでの数日間で掴んだミィナの性格をちょっぴり利用させてもらっただけ☆ しかし、敬虔なる白の信徒ミィナにはそれでも充分すぎる揺さぶり！
追随するクレー共々順位を上げ、フィーナ・ラクス組を射程に収めた！！
「譲ってくれたら、ご馳走でお礼をさせていただくわ」
「これがタロン様の試練なら、あたしは誘惑に負けないわよ」
意図を察したクレーがスコップを回り込ませながら、更に加える！
「プラス、ラクスさんと２人っきりってのはどうやろか〜？」
「くどいわよ」
小細工の通用しないフィーナ、笑顔で即答！ もとよりノリノリのラクスには交渉の余地などない。サイーラの瞳が昏く燃えた。
「ち‥‥それなら強引な手でいかせて貰うわよ！」
イリュージョン発動！ ラクスの眼前に突如巨大な壁が現れた！
「うわあああ！！」
急旋回で回避したラクス、そのままコースアウト！！
しかしフィーナのスピードは衰えない！
「距離が足りなかった！？」
クレーがコアギュレイトを詠唱し──フィーナが耐えた！
愕然とするサイーラ、ならば真っ向勝負とスピードを乗せる！！
●命懸けの結末
降雪の中、スローペースで展開しているレースだからこそコーナリングも昨年ほどの難度はないように思えた。
操舵に慣れ、徐々に全体のスピードは上がっていく。
「くっ、ここまでか‥‥！」
雪に埋もれたラクスは小さく呟いた。その時、雪煙を立てて眼前に止まった一台のスコップ！
「まだだ、レースはまだ終わっていない！ 諦めるなラクス！！」
リタイアかと想われたスコップレース界の一人仮面舞踏会、華麗に復活！！
「京士郎、追い上げてきたのか！」
「京士郎？ 誰だそれは。私はナイト・シュトルム！！」
「‥‥は？」
首を傾げるラクス。しかしナイト・シュトルムの奇行は留まらない！！
「行くぞラクス！ オーラマックス発動、身体臨界点までカウントスタート！」
「死ぬ気か！？」
「最速の先にあるものをこの手に掴んでやるのさ‥‥駆け抜けろ、新雪風！」
オーラマックスを発動したナイト・シュトルム、増えた手数で神懸かり的なコーナリングを見せる！ 負けじとラクスもスリップストリームにぴたりと付けて追い始めた！！
「まだ諦めない！」
もう一人、猛追を見せる者がいた。──石纏いの闘士ヌアージュだ！ そのスピードに毛皮のマントが大きく靡く！
『新年あけましておめでとう』
茶の毛皮に白い糸で施された刺繍が衆人の注目を集める、しかし文字がちょっと窮屈だ！！
「あけおめだけでいいじゃない！」『ない♪』
「馬鹿者！ 何でも略すな！！」
追い上げられるシャリンの必死の突っ込みに、ヌアージュはクワッと目を見開いた！！
そして──ＣＲＡＡＡＡＡＳＨ！！
「何であたしまでぇぇぇぇ！！」
小柄なシャリンも巻き添えに、ヌアージュは再び盛大にクラッシュした。
そんな２人を余所に、ナイト・シュトルムとラクスは着々と順位を落としていたミィナに迫る！！
「ミィナ、勝負はまだこれからだぞ？」
ラクスの言葉にミィナが事情を語ると、シュトルムは朗々と言い放った！
「キエフで待つＭＭＯはどうでもいいのか、そのトナカイはお飾りか！？」
「‥‥シュトルムさん！！」
そう、ＭＭＯの看板を背負っていたのだ！
俄然闘志を燃やし始めたミィナもまた、スリップストリームに連なった！！ 目の前には、サラサの姿が！
「‥‥ここまで来て、抜かれるわけにはいかない」
例え相手がジェットストリームアタックを決めてこようとも。
──めらり。
サラサの闘志が燃え上がる！
（スピードを出すためには、重心を‥‥前？ む、後ろだったか！？）
「ええい、ままよ！」
ぐいっと重心を後ろに下げた。
そしてサラサは、風になった。
◆
場面は変わって、トップの３人。極力ブレーキをかけずにココまでやってきたクレー、サイーラとの差がじわじわと現れ始めた。しかしフィーナとは一進一退の攻防が続く！
「そんなスピードで大丈夫なの！？」
「‥‥ちょっとは怖いけど、怖いけど、奥さんより怖くないから平気や〜」
笑顔満天、しかしその勢いは何より怖い。そして笑顔もかなり怖い。僅かに滲む余裕に、サイーラが詠唱を開始しようとしたその時──地響きが、身体に響いた。
「「「雪崩だぁぁぁぁ！！」」」
振り返ると、サラサが、シュトルム京士郎が、ラクスが、ミィナが、白い雪崩に巻き込まれていた。彼等のクラッシュが発端などとは誰も思うまい。そして‥‥
「これでも奥さんの方が怖いの！？」
叫んだサイーラにこくこくと頷くクレー、その割には必死で滑っている！ 彼の目には雪崩が愛妻に見えているに違いない！！
「きゃあああ！」
そして、世界は白に染まる──
そもそもトップを滑っていたフィーナがコースを外れ危険地帯に侵入していたことも、雪崩の要因だった。ゴールが雪に埋もれてしまったため今年のレースは無効試合となった。偶然立ち寄ったディックやペットたちの助力もあり、死者・行方不明者共にゼロという結果ではあったが。
「未来は白い地図の上、切り開けば明日は明るい──か」
直撃を免れた村の屋台群で仲間と共にブリヌィを口にしていたサラサは、のんびりと、今年のレースをそう分析したのだった。
