黒い光の謎を解け

■ショートシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 40 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月12日〜03月20日

リプレイ公開日:2005年03月20日

●オープニング

●シュティール領、某村にて。
「うー、目が覚めちゃったよ‥‥」
 その夜、ふと目を覚ました少年は黒い光を目撃した。
「なんだろう、あれ」
 少年は窓の戸板を外し、外の空気を吸おうとしただけなのだが。

 夜の闇の中、黒い光としか表現できない‥‥薄く輝く黒。
 それは村の外れ、ちょうど教会のある辺りで輝いており──‥‥

 黒い光などという、非日常的なものを間近で見てみようなどという好奇心も起きず、しばらく眺めていた少年は、再び訪れた睡魔に抗うこともせず、戸板を戻した。
「ふぁ‥‥‥寝よっと」

 翌朝。
「昨日ね、窓を開けたら黒い光が見えたんだよ」
「また寝惚けたのか」
 朝食をとりながら両親に報告する少年。
 父親は朗らかに笑い、大きな手で少年の頭を撫でた。
「本当だよ! 夜、黒い光がねっ!」
「黒い光なんてあるわけないだろう? 何かあっても、教会の方角なら、司祭様がなんとかしてくれるさ」
 最近赴任してきた司祭は、まだ年も若かったが、自分を向上させるための努力を惜しまない人物で、嘘もつけない人の良さを持っており、深く物を考えないことを除けば尊敬できる人物だ。
 何かあったとしても、彼なら率先して対処に当たってくれるだろう。
「でも‥‥」
「第一、真っ暗な夜にどうして黒い光が見えるんだ。寝惚けたんだよ、ほら、ミルクでも飲め」
 搾りたてのミルクを注いで、父親はそれ以上取り合おうとはしなかった。
「本当なのに‥‥」

 少年の言葉は、村の子供たちに静かに伝播していき‥‥
 夜更けまで起きて自分の目で見よう! という好奇心旺盛な数名の子供も、黒い光を目撃した。
「ねえ、先生なら信じてくれるよね!」
「本当に見たんだよ!」
「はぁ‥‥それでは、きちんと調べてみましょうね〜。原因がわかったら、授業で教えましょう〜」
 相談を受けた村の教師は、薄給から依頼料を捻出し、原因解明をギルドに依頼することにした。
「努力をしておかないと、司祭様も手伝ってくれないもんね」
 冒険者を雇うという案に、子供たちも納得したようだった。
 穏やかな微笑みを浮かべたまま、教師は内心で苦笑いも浮かべた。
(「どちらかというと‥‥授業の方が難しそうですねぇ‥‥。そちらも依頼してしまいましょうか〜」)

●冒険者ギルドINパリ
「調査依頼はないか!?」
 カウンターに怒鳴り込んで来たのは、単細胞のファイター、ラクス・キャンリーゼだ。
「どうかされましたか? また酒場で絡まれたのですか?」
 エルフのギルド員は珍しく苦笑いを浮かべ、ラクスに尋ねた。憤慨して頷くラクス。
「調査モノを受けていないのに、一人前の顔をするなと言われたんだ」
「なるほど。‥‥癖のある依頼ですが、こんなのはどうでしょうか?」
 そういってギルド員の差し出したのは、シュティール領のとある村での調査依頼だった。
「黒い光‥‥こんなものが依頼になるのか?」
「目撃した子供たちへ、原因を分かりやすく教えることまで含めての依頼ですから、難しいと思いますよ」
「難しいのか──よし、引き受けた!」
 ラクスは勢い良く頷いた。

●今回の参加者

 ea6738 ヴィクトル・アルビレオ(38歳・♂・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 ea8286 ビアンカ・ゴドー(33歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 ea8539 セフィナ・プランティエ(27歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea8586 音無 影音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9096 スィニエーク・ラウニアー(28歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9344 ウォルター・バイエルライン(32歳・♂・ナイト・エルフ・ノルマン王国)
 ea9471 アール・ドイル(38歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9909 フィーナ・アクトラス(35歳・♀・クレリック・人間・フランク王国)
 eb0013 ヴェレナ・サークス(21歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb0821 カルナ・デーラ(20歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

ヴィ・ヴィラテイラ(ea5522

●リプレイ本文

 その日、その村はいつもと同じ平穏に包まれていた。
 ただ、いつもと違うことが‥‥ほんの僅か、一握り。
「アンデッドなんて見たこともないなァ」
「墓荒らしもだな。そんなのが出たら司祭様が村長に報告するだろうしな」
「そうですか、墓荒らしもアンデッドも違う‥‥」
 冒険者が壮年の男性相手に聞き込みを行っているのは、『いつもと違うこと』である。
「勘違いだって事、子供たちにしっかり教えてやってくれな」
「えぇ、しっかりと教えましょう」
(「──勘違いでしたらね」)
 頷くと短く礼を述べて、ウォルター・バイエルライン(ea9344)はふむ、と思考を巡らせた。
「どうせ、今回もズゥンビ相手になんだろうなぁ」
 アール・ドイル(ea9471)が戦う甲斐もない相手だ、とつまらなさそうにボヤいた。
「ラクスとの依頼も4回目だね‥‥今回も、アンデットが出たりして‥‥」
「アンデッドを呼ぶ男、ラクス!! おぉ、なんだか良い響きだな」
「‥‥全然。でも、そうだね‥‥もし、本当に出たら‥‥笑ってあげる‥‥くす」
 それは笑ったうちに入らないのか!? と音無 影音(ea8586)と並んで歩きながらラクス・キャンリーゼは喚く。
「本当にズゥンビやアンデッドだったなら、まさに『ラクス殿が歩けばアンデッドに当たる』という感じですな」
 まあ、そんなものばかり相手にしているわけでもないのでしょうけれど‥‥自称『アンデッドを呼ぶ男』にちらりと視線を送り、ウォルターは肩を竦めた。
『黒い光‥‥と申しますと、やはり思い浮かぶのはタロン神にお仕えの方が用いる魔法ですわね』
 アンデッドかどうかはともかく、目撃情報から推察されるのは黒の神聖魔法だというのがセフィナ・プランティエ(ea8539)を始めとする4人の聖職者、そして冒険者たちの共通の見解だった。
「問題は、司祭様が何の為に、夜な夜な魔法を使っているか、ですな」
「それから、その魔法も‥‥ね」
 司祭はそれなりに人望がありそうだが、何を目的に何の魔法を使っているのかがわからない以上、疑念を抱かないわけにもいかない。
 調査ゆえに当然だが、より慎重に行動することを確認し、影音がラクスに念を押すと、アールは教会方面へと足を向けた。

「黒い光って言うと多分黒の神聖魔法でしょうけど‥‥具体的にどの魔法なのかが分からないとちょっとね」
 同刻、小さな目撃者たちの元へ聞き込みに向かった冒険者たちもいた。
「ねえ、ちょっとお話し聞かせてくれるかな?」
 いつもと同じ、不安を感じさせない微笑みを浮かべて、フィーナ・アクトラス(ea9909)はかくれんぼをしていた子供に声をかけた。
 それでも、見慣れない大人に警戒心を抱いたのか、パッと散って物陰に隠れてしまった。
「あぁ、かくれんぼをしていたんですよね。じゃあ、自分がオニになりますねー。いーち、にーい、さーん‥‥」
 カルナ・デーラ(eb0821)が後ろを向いて目を瞑り大きな声で数を数え始めると、大真面目な表情でヴェレナ・サークス(eb0013)は子供と一緒に物陰に身を潜める。
「あの、ヴェレナ様──」
「子供は嫌いではない」
 何か言いかけたビアンカ・ゴドー(ea8286)を手で制し、大丈夫だと頷いて見せるヴェレナ。優しげな微笑みを僅かに引きつらせて、ビアンカは更に言葉を紡ごうと口を開く。
「そうではなくて‥‥」
「しっ、見つかってしまう。早くそちらへ!」
「じゅーく、にじゅう! じゃあ、探しますよー」
 最期まで聞かずに、ビアンカを物陰に隠して息を潜める──にこやかに爽やかに振り返ったカルナ、苦笑いを浮かべていたセフィナ、フィーナと目が合った。
「セフィナさんとフィーナさん、見つけました♪」
「では、わたくしも一緒に探しましょうか」
 子供たちは見つからないように、息を潜めて様子を窺っている──子供と一緒に遊ぶことが情報収集の礎になりそうだと、セフィナもかくれんぼに参戦だ。
「はい、見つけました‥‥あら、可愛い猫さん♪」
「‥‥触る? 引っ掻かないよ」
 見つけた女の子の抱える猫に目を細めるセフィナ。自分たちと歳も変わらないように見えたのか、少年はセフィナに気を許したようだ。
 そうして、全員が見つかる頃には、すっかり子供たちも冒険者に心を開いたようだった。
「黒い光の他には何も見なかったのかしら?」
「そうだよ、フィーナ姉ちゃん」
「窓から見ただけだしなー」
 黒い光の話を信じ、謎を解いてくれるという冒険者たちに、子供たちは惜しげもなく情報も猫も提供してくれた。
「光は‥‥教会の裏手から見えたのですか」
「うん、墓場がある方だったぜ」
「‥‥墓場‥‥ふむ、なるほど」
 頷くヴェレナの言葉に、子供たちにわからないようにセフィナとビアンカは視線を交わした。墓場で使う黒の神聖魔法といえば‥‥
「やっぱりアレよね、カルナさ‥‥カルナさん?」
「カルナ兄ちゃんなら、探しに行ったっきり戻ってきてないよ」
 カルナに相談しようとし、彼がいないことに気付いたフィーナに、にやっと笑って子供が答えた。そういえば、彼は‥‥地図を見ても道に迷う方向音痴だったはず。
「迷ったのだろうな」
「‥‥皆、一緒に探してくれる?」
 ヴェレナの言葉に肩をすくめ、ミイラ取りがミイラにならないように子供たちを巻き込んだ。

「まぁ‥‥同じく偉大なる父を奉じる者故に、司祭殿がおかしなことをしているとは思えないのだが、十中八九、黒の神聖魔法だろうな‥‥」
 スィニエーク・ラウニアー(ea9096)とヴィクトル・アルビレオ(ea6738)は、問題の教会を訪れていた。
「すまぬ、旅の途中なのだがこの後の安全を祈らせてもらえるか」
 黒の司祭ヴィクトル、そして彼の一歩後ろでフードをしっかり被りうつむきがちにしているスィニエークを見て、スィニエークより若く見えるその司祭は、二人を教会へと招きいれた。
「ご夫婦で旅の途中ですか。ご旅行にでも?」
「‥‥ご、夫婦‥‥いいえ、あの、はい‥‥」
 司祭の勘違いに顔を赤らめ否定しようとしたスィニエークだが、当のヴィクトルから後ろ手にやんわりと押し止められ、真っ赤になって更に俯いた。
(「ご夫婦‥‥ハーフエルフでも‥‥いつか、そんな人が‥‥できるのでしょうか‥‥」)
「ほう、これはずいぶん手入れが行き届いているようだ。我らが偉大なる父も喜ばれるだろうな」
「そうあってほしいものです」
 教会は丁寧に手入れが行き届いており、小ぢんまりとしてはいるものの、そこからは勤勉で誠実な司祭の人柄が感じ取れる。
 二人は祈りを捧げるふりをしながら司祭の様子を盗み見る──特にかすり傷などもなく、服装も質素ながら清潔に保たれているようだった。
「最近は物騒ですからね‥‥先日も、領内で凄惨な事件が起きたばかりです」
「‥‥そのようですね‥‥道中で、噂は‥‥‥」
 シュティール領内で起きた凄惨な事件、ハーフエルフのナスカ・グランテが起こした惨劇は‥‥スィニエークの記憶にも新しかった。凶行に走った幼きハーフエルフはスィニエークの友人でもあったから。
「ヴィルヘルム様のご心痛は慮ることしかできませんが、旅の方々もお気をつけください。父は、越えられない試練はお与えになりませんから」
「‥‥えぇ‥‥」
(「‥‥神様‥‥親しき人をも傷つけかねない、この血は私達に架せられた試練なのでしょうか‥‥」)
 ハーフエルフであることを隠しながら、隠すことでは逃れられない現実に、スィニエークは視線を伏せ──与えられた試練に打ち勝てるように祈りを捧げた。
(「願わくは‥‥‥私の先生の教えの‥‥冷静なる心で押えられる日が来る事を‥‥祈ります」)
「司祭殿も、何か試練を?」
「はい、自らに試練を課していますよ」
 ヴィクトルの問いに、当然だと頷く司祭。そして、己の力を磨き上げることが彼自身の試練なのだと語った。
 その後も少し言葉を交わし、二人は教会を後にした。
「‥‥確かに、誠実そうな方でしたね‥‥」
「危険思想もなさそうではあるが──己の力を磨き上げる、か‥‥」
 どうも、仮定の話が現実味を帯びてきたように思えた。


 そして、日は暮れて‥‥教会裏の墓場からは死角になるよう、建物の陰に身を潜めながら、冒険者たちは『黒い光』の具現する刻を待った。
「‥‥まさか、ご自分の向上の為に、ご自身でお倒しになっているのでは無いですわよね‥‥?」
 ランタンからもれる光を、張り込みに支障が出ないよう薄手の布で調整しながら、セフィナは嘆息した。
 一箇所、最近掘り返したような跡がある──アールがもたらした墓場の情報は、黒い光の源をクリエイト・アンデットだと認識するに足りる情報だった。
 セフィナのため息にビアンカの優しげな表情に苦い笑いが混ざる。
「黒は、教義的に向上心が強いですから‥‥」
「時間も、この時間で間違いはないと思うのですが」
 ウォルターは墓場の様子を見ようと身を乗り出し、ラクスに引き戻された。
「見つかるぞ」
「‥‥あれ、ラクス‥‥珍しく、まともなことを。ちょっとだけ‥‥成長?」
 今回は何を切り刻むことになるだろうかと、逸る心を抑えるように刀の柄を押さえながら、影音は目を細めた。押さえなければならないと思っていたが、その必要はないようだ。
 暖かくなってはきたものの、まだまだ夜は冷える。身を震わせながら、カルナは荷物の確認をしてくれた友人を思い出す。
「ヴィラテイラさん、保存食は買えましたけど‥‥防寒服を忘れましたよ」
 防寒服を用意し忘れたヴィクトル、影音、ヴェレナ、カルナが限界を感じ始めたころだった──
「出たぜ、『黒い光』だ」
 アールの声で、冒険者の間に緊張が走る!!
 確かに、今‥‥墓場からほんのりとした黒い光が漏れた。
「いよいよ、謎が解けるんだな」
 無表情のまま淡々と呟くヴェレナに、スィニエークは頷いた。
「さて‥‥じゃ、何が起こってるか、見るとしましょうか」
 黒い光のもとを確認するため、フィーナはそっと墓場へその鋭敏な視線を巡らせた。
「──くす‥‥」
 宣言どおり、影音が小さく笑った。

 そう、そこにいたのは村の司祭と──一体のズゥンビだった。

「無茶はするな」
「わかってンよ」
 ニヤリと笑い、アールと影音、そしてラクスが飛び出した!!
 物音に司祭も冒険者たちの存在に気付き、構えられた武器に悲鳴を上げる!!
「止めてください! ご遺体に傷が!!」
「『ご遺体』を弄んでる奴が、寝言いうんじゃねェよ」
 充分に助走をつけたアールのチャージングが、その隙を突いたスタッキングを目指す影音が、ズゥンビを射程圏内に納めた!!
「‥‥え?」
 しかし、彼らの目の前で、敵が消えた!!
「‥‥効果時間が過ぎたようですね」
「──はあ!?」
 アールの呆れ帰った声に、ヴィクトルが溜息をついた。
 歳若き司祭の魔法は、どうやらまだまだ未熟だったようだ──しかし、教会の敷地から出る程度の時間は充分にあるはず。
「ご自分で倒していたわけではないのですか?」
「私の勝手で起こしているだけのご遺体に、どうして傷をつけなくてはいけないのですか。私はただ‥‥もっと巧く魔法を使いこなせるようになりたいだけです、戦闘能力の向上を計っているわけではありません」
 やっとそれだけ口にしたウォルターに、『ご遺体』を片付けながら胸を張って答える司祭。
「‥‥司祭様には、色々と学んでいただくことがあるように思いますわ」
 ビアンカの可憐で優しげな微笑みが、ラクスには一瞬壮絶なものに見えた──この後、数時間にわたって司祭に懇々と説教をするビアンカの行動を、ラクスにとっては天敵とも言えるこの行動を、本能的に悟ったのかもしれない。
 大事件にも繋がらず、安心と呆れから脱力した仲間たちを励ますようにヴェレナが言った。
「諸君、まだ終っていない。難しい、子供達の授業が」
「勘弁してくれ‥‥ガキ相手は前回でコリゴリだぜ」
 どっと疲れに押し寄せられた彼らを急かすように、空はおだやかに白み始めた。


 依頼人の紹介で、教師役を受け入れたヴィクトル、セフィナ、スィニエーク、ヴェレナの4人は子供たちに囲まれていた。
「司祭様が魔法の練習をしていただけだ」
 これ以上ないほど素っ気なく単刀直入に、ヴェレナは言った。当然ながら沸き立つ、黒い光への「なんで?」と「どうして?」の嵐。
「では、まずこれを見てもらおう」
 そう言ったヴィクトルは、助手を申し出たスィニエークへメタボリズムを唱える。彼が身にまとった黒い光に、子供たちが沸いた。
「それだよ! やっぱり黒い光はあったんだ!」
「僕たち寝惚けてないよね、スィニー姉ちゃん!?」
 興奮した子供たちに揉みくちゃにされる冒険者たち。粗暴な雰囲気から子供に敬遠されがちのヴィクトルまで、子供に群がられてしまっている。
「‥‥毎晩、毎晩、一生懸命‥‥練習をしていたんです‥‥偉いですよね」
 スィニーと呼ばれたスィニエークは恥ずかしそうに、けれど少し嬉しそうにはにかんだ笑みを浮かべて頷いた。
「でも、なんで夜に黒い光が見えたのかなぁ」
「簡単なことですわね」
 昨日の女の子の問いに、連れてきた猫を撫でながらセフィナが答えた。
「あの光は普通の光ではなく、神さまの力の一部だからですわ」
「そうなんだぁ。司祭様、神さまの力で皆を守ってくれるんだね」
「えぇ」
 嬉しそうな少女と微笑みあうと、撫でられる猫がごろごろと喉を鳴らした。
 かすかに聞こえる剣戟は、アールとラクスの模擬戦によるものだ。魔法でこそないが、彼らもまた、日々の努力を怠らない褒められるべき者である。
 そして、この村の司祭は‥‥ビアンカとフィーナ、二人がかりの試練に耐えていることだろう。
 選んだ魔法こそ褒められたものではなかったが、村人に迷惑をかけまいと夜を選び、ズゥンビに命令を与えず、死者を傷つけないように注意を払っていた司祭は、やはり勤勉で誠実な人物であると言えるだろう──鍛錬に使う魔法さえ選びなおせば、村人に尊敬され続ける司祭でいられるはずだ。
 笑みを浮かべ、自分の子と同じ年頃の子供の頭を撫でながら、諭すように穏やかに言う。
「見えないところでの努力や、日々の鍛錬こそが『人』を磨くのだ」
「そう、だから皆、何事も頑張らないといけない」
 フードを押さえながら、ヴェレナも頷いた。
「うん、頑張る! そしたら僕も司祭様みたいになれるよねっ」
「ああ、間違いなくな」
 努力を誓う子供たちに、黒の司祭ヴィクトルは笑みを深くした。
 この村は、司祭とともにこれからも試練を乗り越え、穏やかに時を刻んでいくのだろう‥‥今日のこの陽光のように。