雛ちゃんと秋の七草

■ショートシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:4

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月20日〜09月25日

リプレイ公開日:2009年03月23日

●オープニング

●十六夜の月
 まぁるい月が少し欠けました
 それを見上げる少女のまぁるい眼がほんの少し細くなったのは、お姉さんになってきた証でしょうか。
 寄り添う二匹の茶色いふわもこの頭を撫でて、月の模様を眺めます。
「お月見、しそこねちゃったねぇ」
 くぅん、とわんこが鳴きました。お月見が何のことかは解りませんが、ご主人様がしょんぼりしているのが悲しかったのでしょう。
 代わりに何かしようと考えましたが、お兄さんが生きていると解った以上、お彼岸はできません。
「それなら、んー、秋の七草を探しにいこっかなぁ」
 秋の七草──萩、尾花、葛、女郎花、藤袴、桔梗、撫子。
 もちろん、ジャパンと同じ秋の七草がこの北の地に生えているとは限りません。
 そうしたら、似たような花で我慢するしかないでしょう。けれど、1人1人が1種類ずつ探せばすぐに見つかってしまうかもしれません! それに、皆で協力する一日は、きっと楽しい秋の記憶になることでしょう。
「‥‥もしかしたら、栗とか茸とか、美味しいものもあるかもしれないのねー♪」
 新しいメニューを考えるなんて、お料理好きの冒険者さんたちは喜んでくれるかもしれません。
「誰か、一緒に遊んでくれるかなぁ‥‥」
 そうして立ち上がった少女、雛菊(ez1066)は冒険者がよく集まっている酒場スィリブローに向かってみることにしたのでした。

●今回の参加者

 ea3665 青 龍華(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6738 ヴィクトル・アルビレオ(38歳・♂・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 ea8539 セフィナ・プランティエ(27歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea9342 ユキ・ヤツシロ(16歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3530 カルル・ゲラー(23歳・♂・神聖騎士・パラ・フランク王国)

●リプレイ本文

「あのね、秋の七草探しに行きたいのー。一緒に行こー?」
 スィリブローで雛菊ちゃん(ez1066)ににっこり誘われてしまったのは、いつもの人達でした。
「秋にも七草なんてあったのね」
 雛ちゃんに言われるまで、そんなことは全然知らなかった青龍華(ea3665)さん。もちろん七草がどういうものかは知りません。
「ふむ、外を出歩くにもいい頃合だ。実りの季節は風も気持ちがいいが、あたりすぎて風邪をひかぬようにな」
 七草のことはやっぱり知りませんが、ヴィクトル・アルビレオ(ea6738)さんは他にも色々気を付ける事を教えてくれます。
「雛ちゃんとお出掛け楽しいな」
「七草、花だけど草なのですね」
 ユキ・ヤツシロ(ea9342)さんとセフィナ・プランティエ(ea8539)さんは、雛ちゃんとお手手を繋ぎたくてうずうずです。右手と左手、それぞれ握れたらいいのですけれど、雛ちゃんの左手はもうちゃっかりとヴィクトルパパが繋いじゃっているのです。
「ピクニックでわくわくするんだ〜」
 カルル・ゲラー(eb3530)くんは、早くもうきうきです。商人のルシアンおば‥‥お姉さんにお願いして譲ってもらったバターと蜂蜜と内緒のものをしっかりとバックパックに詰めました。
「七草でやんすか」
 この中では一人だけ雛ちゃんと同じ国の生まれの以心伝助(ea4744)さんは、色々思い出しているようなお顔です。なにしろ、今必死に『七草ってなんだっけ?』というところから、思い起こしていますから。
「お月見はしそこねちゃったのー。だから七草探しなのよ」
 そう雛ちゃんに言われちゃったら、皆さんお月見だって一緒にやりたいと思ってしまうのです。集まったのは、そういう六人の人達なのでした。
 ところで、七草って何? どんなの?
 雛ちゃんと伝助さんに訊いてみましたけれど‥‥
「萩、尾花、葛、女郎花、藤袴、桔梗、撫子でやんすね。尾花は原っぱに生えてたと思いやすが」
「葛は根っこからお菓子作ると美味しいなのよ。桔梗は桔梗の色なのね」
 撫子は上の方にお花がほわほわ、女郎花は黄色のお花がわーっと‥‥
 七草はジャパンの習慣なので、同じお花があるとは限りません。だから知っている人に聞いて、それをセフィナさんが絵に描いて、皆で探してみようと考えていたのです。でもだけど、肝心のお二人があんまり上手に説明出来ないのでは、いったいどうしたら?
「具体的に、その七草を集めてどうするものなのだ?」
「愛でるんでやんすよ。偉いお人はこの季節に、こういう花が咲いているところを眺めに出掛けて、恋文をやり取りしたりするとかしないとか」
 ちっとも絵に出来ないので、ヴィクトルパパが尋ねてみました。なるほど、綺麗なお花を眺めて楽しむのです。ジャパンの秋は、きっとこの花々が特に綺麗に咲き誇っているのでしょう。
「お菓子を作ると美味しいなんて、どんな花かしら」
 龍華さん、葛は根っこからお菓子の材料を取るのです。お花は愛でるだけ。でも、皆さんとっても気になっているみたい。美味しいお菓子なんて言われたら、それは作ってみたくなってしまうではありませんか。
 だけども、何度お話を聞いてもそれらしいお花はロシアになさそうなので、皆で似たような色のお花を探すことにしました。桔梗の色は、伝助さんに確認しましたとも。
 さあ、七草(みたいなの)を探しに出発です!

 季節は秋、これから来る長い冬の前の実りの季節です。
「ねえねえ、栗の木の葉っぱってどんなのだっけ?」
 栗の実は、もちろん見たら分かるんだけどとカルルくんが首を傾げました。キエフを出る前に、龍華さんと一緒に栗拾いが出来そうなところを市場の人に訊いてみたけど、内緒って教えてもらえなかったのです。確かに市場で栗を売っている人達は、自分の栗の木から拾われたら困るから内緒なのでしょう。
 仕方がないので、皆で拾っても怒られなさそうな場所で栗の木を探さなくてはいけません。こういう時は、何を目印に探したらいいのかな? ヴィクトルさんに葉っぱの形を教えてもらって、生えていそうな林があったらユキさんと伝助さんに道を探してもらいながら、あっちに行ったりこっちに行ったりして探しましょう。
 目的地はドニエプル川。長ぁい川のどこかで釣りをして、釣ったお魚を食べるのです。川のどこかにつけばいいから、急がずゆっくり歩いていきましょう。もちろんお花も探さなくっちゃ。
「雛ちゃん、あのお花はどうですか?」
 ユキさんが見付けたお花を指差すと、雛ちゃんが伸び上がって見ようとします。いっぱい草が生えている中なので、よく見えないから、ヴィクトルパパに肩車して欲しいけど、パパもそろそろおっきくなった雛ちゃんを肩車して歩くのは辛いのです。
 雛ちゃんとユキさんと、もちろんセフィナさんと龍華さんからも『肩車』や『おんぶ』とお目目で訴えられて困っていたら、伝助さんがあっちとこっちを見て分かってくれました。
「たまにはあっしが肩車してあげやしょう」
「あっ、いいなー。高いところだと、遠くまで見えるよね」
 カルルくんが羨ましがっていますが、肩車は雛ちゃんだからしてもらえるのです。もしかするとユキさんも肩車許可年齢かもしれませんが、雛ちゃんが最優先。ユキさんだって、雛ちゃんが皆と楽しく遊んでいるのを見たいですし。
 そんな訳で、雛ちゃんは伝助さんが肩車して、ユキさんとセフィナさんが両脇を歩いてお花を探しては教えてあげます。良さそうなお花は、当然摘みに行くのです。
「雛ちゃん、こちらですわ」
「はぁいなの」
 セフィナさん、雛ちゃんは伝助さんが歩かないと移動出来ません。そんなにあちこちに呼んだら‥‥
「こちらにもありますよ〜」
 あちらでは、ユキさんが呼んでいます。
 伝助さん、お馬さん代わりにはいよ〜です。でも雛ちゃんが喜んでいるから、いいかな。

 ところで、七草(みたいな)お花を探しているだけでは、大変なことになってしまいます。そう、美味しい物だって探さなくては。なにしろ実りの秋ですから。
 栗の木はなかなか見付からないけれど、カルルくんは日陰を歩いてきのこを色々摘んできました。目に付いたものを、一通り全部。それを見て、龍華さんも市場で見たことがあるような気がするきのこを採ってみます。食べられるかどうか? そんなのは分かりません。
 食べられるかどうかを見分けるのは、ヴィクトルパパのお仕事です。とっても一生懸命にきのこ採りをしている二人を一度止めて、絶対に採ったらいけないものを教えました。中には触るのだって良くないものもあるんだから、とっても注意しないといけないのです。
 でも、食べられるきのこと見た目が似ているものは、何回教えてもらったって見分けの付かない龍華さんとカルルくんでした。まあ、一籠分くらいは集まったから、一食分のスープにはなるでしょう。
 実はきのこ採りの合間に葡萄の木を見付けたんですけれど、熟れていそうな実を一つ口に入れたらとっても酸っぱかったので、それは鳥さんにお譲りしました。この分だと、栗の木が見付かっても、もしかしたら渋いかも?
「せっかく服まで持ってきたのに」
 龍華さん、栗拾い用に持ってきたとっときの服があるのに、なかなか出す機会がありません。そのうちにきっとその服が必要になるときが来るのです。そう信じましょう。
 この日は、雛ちゃん達は七草(みたいな)お花をいっぱい集めて、でも栗の木は見付けられませんでした。きのこがたくさん採れたから、それと保存食でご飯なのです。
 皆でわいわいと作るご飯はほっぺたが落ちそうな美味しさ。龍華さんがものすごく熱心に、いっぱい魔法も使って作っていたけど‥‥これって、いつものことですよね。
 カルルくんが出したお醤油を見て、雛ちゃんが焼いたきのこをつけて食べると言ったので、皆で真似をして‥‥明日もやろうと決めたのでした。

 次の日、伝助さんはお馬さんから解放されて、川で釣りをするのです。お荷物番もしています。一人だと熊さんが出た時に危ないから、きつねのすすきと鷹の雷太、ヴィクトルパパのお馬さんが一緒です。
 そうして他の人達は、てくてく川沿いに歩いて、最初に見付けた村の果樹園にお邪魔しました。ヴィクトルパパが牛乳が欲しかったのと、美味しい栗はやっぱり誰かがお世話している気がするのと、ベリーなんかも分けてもらえないかしらとセフィナさんが言ったからです。
 結果!
「蜂蜜はちょっと欲しいねぇ。その保存食も見せてもらおうか」
 気の良さそうなおじいちゃまが、牛の乳はないけどと山羊の乳をくれました。ベリーも食べてしまってもうないけど、林檎は木になっています。バターはおじいちゃまが作ったのとカルルくんが持ってきたのと少しずつ交換して、林檎や山羊乳は皆の保存食やカルルくんの蜂蜜と。
 あと、栗の木もありました。
 おじいちゃまは林檎の収穫が忙しいので、栗拾いをしている時間がありません。そのままにすると、栗の実は虫が付いたり腐ったりしてしまいます。そうならないうちに拾ってくれたら、拾った三分の一はご褒美にくれるって。
 たくさん貰っても食べきれないから、三分の一位がいいのです。というわけで、頑張って拾いましょう。
「この栗さんは、雛の〜」
 龍華さんが、伝助さんを呼びに戻って、ついでにまるごといがぐりを着てきました。雛ちゃんに抱き付かれて、にっこにこです。他の人は、そのあたりでじたばたしているかもしれません。だけどまるごとは下が良く見えないから、栗拾いの時は脱がなくちゃ。
 そうして、雛ちゃん争奪ならぬ、一緒に栗拾いが夕方まで続くのでした。ここまで持ってきた荷物の番をしているペット達は、お手伝いしているフェアリーさん達以外はのんびり、ごろごろです。カルルくんのペットのトカゲさん達は流石に毛布の中。
 拾った栗の実は、ユキさんやカルルくん、雛ちゃんが入りそうな大きな籠に三つ分。ちょっと虫食いのもありそうですが、このうち一籠はもらえるのです。
 栗の実を茹でて裏ごしして、丸めて作ったお菓子。中に焼き栗を入れたりして。
 裏ごしした栗を山羊乳でくつくつ煮込んだポタージュ。
 茹で栗を潰して混ぜたニョッキ。
 ハーブを効かせた野菜のスープにも入れてみたら美味しそう?
 後はお酒に漬けて大人の味に。
 あれもこれも楽しみですが、一日でこんなには食べられません。さあ、どれから作りましょう。
 おじいちゃまの分の栗をお願いされたところに広げて、お日様がいっぱいあたるようにします。こうすると虫食いの栗から、虫が逃げるとヴィクトルパパが言いました。そういうのは穴が開くから、後で取り込む時に悪い栗は豚さんの餌になるのです。
 とりあえず今日食べる分は、皆で良さそうな栗を選んで、茹でたり焼いたりしてみましょう。焼く時には、ちゃんと切れ目を入れてから。
「きゃーっ」
 誰かが悲鳴を上げたのは、焚き火から栗が飛び出したから? それともあんまり美味しいから?
「ひゃー」
「うわあっ」
 パンパン音がするから、切り目の入れ方がちょっと足りなかったみたいです。
 人里から少しでも離れたら、熊さんが出ないように大きな声で歌ったり、お話したり、わんこ達に時々吼えてもらったりしないとねって皆でお話していたけれど‥‥こんなにすごい音がしていたら、どんなにいい匂いがしても熊さんは来なくて安全です。
 でも、次に入れる栗には、ばっちりと切れ目を入れましょうね。皆のお約束です。

 そうして、栗はたんまり、きのこはやっぱり食べられそうなのを採って歩き、半分くらいは『食べられない』とぽいされて、釣りは竿が一本しかないので、やりたい人が順番で試してみて‥‥
「今夜は、魚のすり身のまん丸スープに致しましょう」
 持参の調理道具にふりふりエプロンで万全の態勢のセフィナさんに、お魚を待たれています。釣らなきゃいけません。それもたくさん。だってほら、フェアリーのリアンとリリーはいいけれど、他のペットはお馬さん以外『ご馳走ちょうだい』って目で見ているではありませんか。
 それに、ヴィクトルパパの作るポタージュもニョッキも、龍華さんの作るポトフも栗饅頭色々も茹で栗のミード漬けも、セフィナさんが林檎を入れて作った揚げパンも、大体どれも甘いのです。お魚のすり身団子スープがなかったら、甘いものを心ゆくまで堪能できないではありませんか。
 甘いものいっぱいの時は、しょっぱいものがちょっとあると、余計に美味しいのです。あと、ご飯の気分になるには、焼ききのこの醤油漬けの他に、ハーブや塩味の効いたスープもあると完璧。
 あと、
「まんまるにする競争なの」
「団子は丸めたら蒸すからね」
 龍華さんが、やっぱり持参のお道具と鉄人のナイフで魔法まで使って頑張っているのです。ヴィクトルパパも同じ装備で、こちらは魔法なしでお魚料理を考え中。
 いっぱい釣らなきゃ、いっぱい丸くしなきゃ、いっぱい食べられるきのこを採ってこなくちゃ。
 それからもちろん、おなかいっぱい食べなくては。お空のお月様は満月ではないけれど、お団子はお月様を見ながら食べても美味しいのです。朝ご飯から、夜のおやつまで、美味しいものばっかりです。
「美味しいですか。お月様が綺麗ですね」
 セフィナさんは雛ちゃんと一緒にお月様を見て、雛ちゃんのお兄様の事を考えました。でも、雛ちゃんがわんこと遊んでいたので、言いません。ジャパンの人は、きっと皆、こうしてお月様を見上げるのです。きっと、雛ちゃんのお兄様も同じように。

 そうやって、五日間。
ドニエプル川の近くをあっちに行ったり、こっちに行ったり。
 それからうんとゆっくりキエフまで。
 行く時ものんびり、帰る時もゆっくり。みちみち美味しいものを食べて、綺麗なお花を摘んで。
 七草とは全然違う色のお花もたくさん混じったけれど、雛ちゃんに皆で花冠を作ってあげたら笑顔になってくれて、皆も嬉しかったのです。
 これから先もずっとこんな楽しい時間が続くかわからないけれど、皆で楽しく、仲良く歩いて、食べて、お話した時のことは、きっと忘れる事はないでしょう。

(代筆:龍河流)