ジ・アース特捜隊キエフスキー【春の夢号】
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■ショートシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月07日〜04月12日
リプレイ公開日:2009年04月15日
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●オープニング
●冒険者ギルドINキエフ
春の遅いキエフにもほんのりと春の訪れを感じる昨今‥‥そう、春なのである。
三つ編みヒゲやもっさりした髪がトレードマークのドワーフギルド員、春先に見るにはちょっと爽やかさの足りない彼が今日もひとつ溜息を零す。
デビルにオーガ、モンスターに限らず陰謀策略までが渦巻くこの地ではあるが──キエフはまだ解き明かさねばならない謎に満ち満ちてはいまいか。果たしてこのまま謎を放置してしまって良いのだろうか。
──いや、良いはずがない!!
三つ編みヒゲのギルド員は自慢のヒゲを撫で、考えた。これは、やるしかない。そして彼は三度立ち上がった‥‥
「この時勢にすまんが、休暇をもらう」
そう、まずはギルドに休暇申請するところから‥‥って、またですかー!? しかも決定事項ー!!?
●キエフスキー本部
──来るべき知的月道外生命体(ルビ:ぼうけんしゃ)からの質問に備え、あらゆる謎を調査解明するために組織された調査機関、それがジ・アース特捜隊キエフスキーである!!
そんなことを突然語りだした三つ編みヒゲのギルド員、絶賛有給休暇中。
「私のことは博士と呼びたまえ」
それはもうお決まりの台詞と肩書き‥‥形から入るタイプらしい、ベテランギルド員。いや、博士。
「以前より我々はキエフや酒場、エチゴヤ、記録係と様々な謎の解明へと積極的に取り組んできたが‥‥ここにまた、新たな疑惑が浮上してしまった。諸君の力でこれらの謎を解明してもらいたい」
彼は趣旨に賛同して集まった数名の冒険者へいくつかの指令を提示してきた。
お題を書いてきた羊皮紙を下っ端ギルド員のオダ・エイディがさっと掲げる!
──そのフリップに書かれていた以下の三点が、博士からの指令である。
『レイピアで串焼きを作る』
冒険者といえば、武器防具に保存食、毛布を抱えて旅をするものも多い。しかし、野生の動物を狩って食糧にすることも少なくないはずだ。その時、料理道具を所持していなければ──そう、装備品でどうにかするしかなかろう? できるだけ『料理』に近い形で、例えば串焼きくらいならできるだろうと、博士は思うんだ。盾を使って卵料理を作ったり、ヘルムを使ってシチューを作ったり。果たして、キエフの冒険者にそれだけの柔軟性は、料理技術は、あるのだろうか?
『ドニエプル川を人力で渡る』
ロシアを流れるドニエプル川。その川幅はとても広い。もちろん場所によって差異はあるし、数本の支流が絡んだような川は渡り易い箇所も多い。しかし、常に最善の場所を最善の状態で渡れないのが冒険者である。今回博士が選んだのは川幅650メートルの地点、荷物は通常装備を背負ったままで泳いで渡ってみてほしい。もちろん、手漕ぎボートで渡るのとどちらが早いか‥‥それを調べることも止めない、情報は多いほうが良いのだから!
『春になると変態は増えるのか』
春になると変態が増える──その話の真偽を調べて欲しい。キエフ周辺に変態は生息しているのかどうか。そして、変態は春になると増えるのかどうか。博士は、変態は新種の動物だと考えているのだが‥‥果たして、春になると変態が冬眠から目覚めるのか。繁殖期や発情期が春にあたっているだけなのか、そこはまだ解明できていないんだ。この巨大な謎を、我がキエフスキー隊員たちは解き明かすことができるかね?
さあ、ジ・アース特捜隊キエフスキー、出動せよ!!
●リプレイ本文
●朝礼
「来たるべき知的月道外生命体からの質問に備え、あらゆる謎を解明するために組織された機関。それがジ・アース特捜隊キエフスキーである!」
ナレーションは今日も真幌葉京士郎(ea3190)が担当。
「「「おはようございます!」」」
「うむ、おはよう」
今日も横柄な博士を敬礼で迎えたのは、京士郎に加えサラサ・フローライト(ea3026)、キリル・ファミーリヤ(eb5612)、リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)‥‥歴史の浅いキエフスキーゆえにベテランの域には達せない哀れな4名である。
「さて、まず新入隊員の紹介をしよう。──入りたまえ」
「オッス! 新入隊員ッス! よろしく頼んます!?」
緊張ゆえかいささか力みすぎの感のあるの田原右之助(ea6144)、立派なキエフスキーにならんという志が漲っている。
「し、新入隊員のフィニィ・フォルテンともうします。精一杯頑張りますのでご指導の方よろしくおねがいします」
対照的に、礼儀正しく深々と頭を下げたのはフィニィ・フォルテン(ea9114)である。どちらも博士や先輩隊員を尊敬と憧れの眼差しでみつめていて、控えめなキリルはこそばゆいのか、困ったような笑みを浮かべた。
一列に整列する隊員達をゆるりと見回し、咳払いをした博士は指令を口にした。
「キエフといえばドニエプル川。昨今の情勢から、どんな状況で川を渡るとも限らんのだが‥‥いつも船が手に入るとは限らん。もちろん、橋があると思うのは論外じゃろう‥‥という訳で、最初の調査はこれじゃ!」
『ドニエプル川を人力で渡る』
さっと木片パネルを差し出すオダ・エイディ。
「‥‥キエフスキー、出動!!」
「「はっ!!」」
兎型高速マーチことキエフスキー1号が先陣を切って本部を飛び出した!
●キエフスキー1号後方
「フィニィさん、水泳の経験はあるのでしょうか?」
「泳いだ事はありませんががんばります!」
新人フィニィの恐るべき言葉に、追い詰められたキリルの表情が引き締まる。
●検証
指定された地点へ赴き、まず溺れた場合用の船を確保した二人は‥‥水と風の冷たさに身震いした。
「でも‥‥寒くても泳がないといけないことってありますよね」
フィニィの声が震えている。風邪でもひこうものなら本業に支障が──いや、キエフスキーこそ本業!!
ふるふると頭を振って、そっと水中に足を進める。水を吸った衣服は動きを阻害し、長い髪は水面に広がって‥‥眺めている分にはとても美しい。眺めている分には。
「ああっ! フィニィさん!?」
徐々に沈んでいく彼女を引き上げ、焚き火の近くへと急行するキリル!
「だ、大丈夫、です‥‥」
寒さに青白くなった表情と紫に染まった唇。平気だと美しい声で歌うフィニィの姿はまるでルサールカそのもので──
(「引き上げてよかった‥‥!」)
溺れ死んだら本当にルサールカになりかねないロシアである。
さて、改めてチャレンジするのは先輩格のキリル。その装いは貴族の礼服に聖人の服‥‥しかし腰に差した剣が聖夜祭カラーの派手派手しい一品という辺り、れっきとした隊員である。
「‥‥ところで、キリル先輩。鎧での検証はしないのでしょうか?」
「それは流石に、セーラ様の御許に召されそうなので‥‥」
きらきらと輝く一対の、もとい三対とマーチの瞳。
「でも鎧がありませ──」
「ご用意いたしました」
オダがさっと取り出したのは、京士郎から拝借したジャパニーズ胴丸。
「‥‥解りました。一度だけ、ですよ」
「さすが先輩です♪」
ああ、キリルの運命やいかに──‥‥!
●本部
「ただいま戻りました♪」
すっかり血色の良くなったフィニィの声に、ペットたちの声が重なる。
「どうだった、泳いで渡れたかね?」
「ええと‥‥そもそも泳いだことがない人には、荷物を持って泳ぐのは無理そうです」
「『要人だって渡れるかもしれない』と礼服でも挑戦してみたのですが‥‥マントが無理ですね。僕ならなんとか泳げますが、鍛えていなければ無理でしょう。──鎧を着て泳ぐのは冒険者でも無理です。1m進むのもやっとでした」
「つまり680回連続でチャレンジすれば680mの距離も泳げるというわけだな」
──え?
二人が言葉を返すより、博士が労いの言葉を発する方が早かった。4人の仲間たちも、敬礼!!
「さて、次の調査だが‥‥諸君は調理器具セットなど、持ち歩いているだろうか」
「あったり前だろ!」
──チッ。
当然だと親指を立てた右之助に、誰かがこっそりと舌打ちをした。誰だ。
「まぁ、持ち歩かない人も多いわよね。保存食もあるし」
「そこだよリュシエンヌ。不測の事態で保存食が尽き欠食冒険者となることはまま有ることだろうと思う。だが、調理器具セットを持っていなかったらどうする」
「あるもので何とかするしかないでしょうね」
キリルの言葉に我が意を得たりと胸を張る博士。そしてパッとパネルを取り出すオダ・エイディ!!
『レイピアで串焼きを作る』
「続いてのテーマはこれだ! キエフスキー、出動!!」
「「はっ!!」」
戦闘馬型戦闘馬キエフスキー2号に追随するキエフスキー7号型のりまき。違う、柴犬型のりまきキエフスキー7号と共に、出動!!
●キエフスキー2号&7号の陰で
「え? 何、猟に行くの? 何狩るんだ?」
「ウサギに鳥に‥‥魚も必要かもしれん。キエフの森で手に入るものなら何でも使うべきだろうな」
「そうか‥‥さすが先輩だな、眩しすぎるぜ!」
●検証
狩りに釣りに薪拾いにと、冒険者なのか狩人なのか漁師なのか木こりなのかギルド員なのかも解らなくなる奮闘っぷりで目ぼしい材料を入手したのは、京士郎隊員と右之助隊員である。
「くそう、重いと思ったら‥‥!」
頑張れ〜♪ という応援メッセージと共にバックパックを占拠していたのはレイピアに矢、ヘルムシールドスコップなど、友人クル・リリンが必要だろうと好意で押し込んでいった武器防具。ぶっちゃけ、重い。
「そういえば、今回は料理道具は封印だったよな」
「そう肩を落とすな」
愛用の料理道具を封印することに気落ちする後輩の姿を見て、先輩は内心で拍手喝采だった。落ち込んでいるのに、料理の手は休むこともなく、熱を帯びたヘルムで摘みたてのハーブと肉を煮込む。そして魔力で切れ味の増した剣を取り出すと、いとも簡単に魚を三枚に下ろしてしまう。それでいてしょんぼりと肩を落としているのだからすごい。
(「負けてはおれんな」)
ぶつ切りにした骨付き肉をレイピアで突き刺し、焚き火にかざす──終了。
(「先輩‥‥豪快すぎるだろ、それ!?」)
京士郎の豪快すぎる料理に抱いた感想は言葉にならず、右之助はただただ口をパクパクさせる。
互いに互いを尊敬しあう、それがキエフスキー!! 記録係、今いいこと言いました。
「…なんだ、武器防具が一揃いとしっかりとした腕があれば料理もできるものなのだな」
鉄仮面の肉煮込みやヘルムの香草蒸し焼き、シールドを使った魚のソテー、胴丸を熱した焼き肉に矢鴨。立ち込める芳しい香りに、ぐぅ〜、と京士郎の腹の虫が鳴いた。
この検証のために、キエフスキー隊員歴の長い京士郎は──なんと保存食を抜いているのだ!!
「それでは、試食といくか‥‥」
そして彼らは、身を以って致命的な欠点を知ることとなった。
●本部
「戻りました!」
頬を赤く腫らせて、初調査を終えた右之助が意気揚々と扉を開き、敬礼!
「うむ、ご苦労! で、どうだった、レイピアの串焼きは。旨かったか?」
頬を赤く腫らしながら、相棒を追って本部に姿を現した京士郎が検証結果を報告する。
「レイピアを通った熱が程好く火を通して、誰が作ってもそれなりの味にはなる。が、肉汁が流れ出し、旨いとは言い切れない。ただ‥‥腹ペコで行き倒れかけた冒険者(京士郎)が食べた所、串焼きも本当に美味いと食したのも事実だ」
「つまり、腹が減っていればなんでも旨いということだな」
早々と結論を出そうとする博士の言葉に、右之助が「それは違う」と真顔で首を振る。
「料理の腕があれば、普通の装備でもそれなりの味は出せたぜ。ただ‥‥」
「ただ、なんだ?」
口篭り視線を交わす二人の隊員をせっつく博士。歯切れの悪いのは好みでないのだろう。
「革のパーツがあるのは臭くて駄目だな。使用後の武具の手入れも面倒だ。それから、これは致命的な欠点なんだが‥‥熱したレイピアは熱い。火傷せず食べるのは至難の業じゃねーかな。冷めるまで待つと肉も冷めちまうんだ」
「──それは盲点だったな。キリル、彼らの火傷にリカバーを頼む」
頬を赤く腫らせた、その原因はどうやら熱したレイピアだったようである。
「さて、最後の調査なのだが‥‥春の風物詩について、調査してきてもらいたい」
「風物詩?」
「春になると増えるというだろう」
何がだろうか、と視線を交わす隊員達に、どうしてそんなことも解らないのかとわざとらしく溜息を吐きながら、博士が言い放った言葉は──
「決まってるじゃろう、変態だよ」
「ええっ!?」「まさかっ!」「うわっ!」
『春になると変態は増えるのか』
サッと出されたパネルに踊るのは、まさかまさかの言葉だった!!
「キエフスキー、出動じゃ!!」
「「はっ!!」」
有無を言わさぬ勢いに押され、メリスマ型三毛キエフスキー8号、スズナ型風精キエフスキー9号(?)を伴い、いざ出動!!
●キエフスキー8号、9号(?)と手をつなぎ
「うん、確かに新種の動物‥‥っぽいかもしれないわねぇ」
「しかし‥‥エイディが女装をしないとは、厄介だな」
「仕方ないわよ、何か方法を考えてみましょう、サラサ」
●検証
「変態出没といえば、お日様さんさんのお昼より、だんぜんあやしうこそモノぐるおしけれの夜!」
「‥‥リュシエンヌ。通訳は要るか?」
無表情のツッコミは、親しいリュシエンヌにも冗談か本気かイマイチ解らない。
とりあえずオダ・エイディに地道な聞き込みは任せるとして──彼が後ろ指さされるような事態を招くことは事前に禁じられているため、彼に女装をさせて囮にするという案は成立しない。冒険者には多いが、女装も変人奇人の扱いを受けるもの‥‥暖めていた案は早々に諦め、仲良し姉妹のパトロールに扮することに決めた。
「‥‥ひと口に変態といっても様々だが、一般的に春に増えると言われる変態はどのような変態を指すのだ?」
「春になると暖かくなって脱ぎやすくなる‥‥から、増殖するんじゃないかしら」
祖国の変態対策の為にもと密かに燃えるサラサに触発された訳ではないが、キエフの治安維持のために役立っていると思えば気分も悪くないリュシエンヌ。主の気分に影響されたか、スズナもなんだか上機嫌だ。
だが、現実は厳しい。ひょっとしてとギルドを覗けば、派手な褌で踊る変態集団の退治依頼が掲示されている。どうやら、春と変態に因果関係は存在しそうな気配である。徐々に空が暗くなっても風は身を切る寒さではなくて──残念ながら、春の存在は肌で確りと感じ取れるのだった。
そして──紅のマントと月桂冠、ジャイアントソードを装備した男が出現した。一陣の風が吹けば酒臭い体臭と共にマントがなびき、引き締まった裸体が月光に浮かび上がる!!
「視覚的暴力よ、眠っていなさい!」
すかさずリュシエンヌのスリープ!
しかし、サラサは不服そうにしている!!
「‥‥起こしても構わないだろうか」
「‥‥え?」
この辺りは一般的な依頼と変わりない。作戦はしっかりと立てておかなければ、いざという時に困るのだ。
縛り上げるのも喜ばれたら気持ち悪い。とりあえずゆすり起こしたサラサは、真顔で尋ねた。
「お前は何故春に出てきた? 冬は冬眠していたのか? 他の変態仲間も春が活動期なのか?」
「は?」
きょとんとした男。なんとなく、見覚えがある、ような──ないような。
「あなた‥‥ひょっとして冒険者?」
当たり前だと、彼は頷いた。
呆然としながらも更なる変態を求め郊外まで足を伸ばせば──褌一丁で乾布摩擦をしている謎の集団の姿。
「‥‥春ね」
「‥‥ああ、春だ」
現実はどこまでも厳しく、ただ月だけが美しく輝いていた。
●本部
「‥‥ただいま戻りました」
どんより沈んだ二人の隊員。
「その様子から察するに──変態は見つからなかったのか?」
博士の問いかけに首を振る二人。遭遇してしまったことこそ、ある意味ショックだった。
「事前の聞き込みの統計からすると、増殖する変態は極端に着衣が少ない『脱衣種』のようだった」
「捕獲したのも、鉢合わせしたのも、どちらも脱衣種だったわ。でも‥‥片方は、冒険者で‥‥」
──いや、確かに少しでも装備を軽くし、機動力を確保することは冒険者にとって永遠の命題の1つなのだが。
「灯台下暗しとは正にこのことじゃな」
(「ちょっと違うと思いますが‥‥」)
キリルの心を察知したマーチの健脚が、博士を蹴り飛ばした!!
「しかし‥‥冒険者から変態が発生するなんて考えられ──」
「ばっかもおおおおん!!!」
博士の八つ当たり右ストレートが、右之助を直撃!!
「変態っていうものはなぁ、変態っていうものはなぁ!! 1人見たら30人はいちゃったりするものなんだよ!!」
「悪い、博士。そんなことも知らねーで‥‥!」
「解ってくれたか! それじゃ、博士のおごりで──」
「侘びにはならないかもしれねーが、これ、皆で食べてくれ!!」
レイピアで作った串焼き、どどーんと。
「魔力を帯びたレイピアだ、こちらの方がきっと美味い。レイピアもきっちり冷めているぞ」
「京士郎先輩、それじゃお肉も冷めてしまってますよ‥‥?」
「おお、そうだったな! はっはっは!!」
楽しそうな笑い声が溢れる中、お株を奪われた博士の涙がきらりと光っていた。
ゆけ、キエフスキー!
負けるな、キエフスキー!!
キエフにはまだまだ未知の謎が潜んでいるのだ!!