冒険者を目指すキミへ──

■ショートシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月13日〜09月18日

リプレイ公開日:2010年03月12日

●オープニング

●少年の決意
 ニコラという少年がいる。プラチナブロンドが上品な印象の、ハーフエルフだ。
 大事な姉を喪ったという過去が、冒険者に救われたという過去が、彼に道を選ばせた。
「俺は、大事なものを自分で守れる、そんな大人になるんだ」
 そしてニコラ少年は、冒険者への道を志した。

 それから数ヶ月。
 ニコラ少年は、恐ろしい壁に直面していた。


●冒険者ギルドINキエフ
 恰幅の良いドワーフギルド員が、もっさり、もといふっさりとした三つ編みヒゲを撫で下ろした。
「ふむ、街道にゴブリンらしき一団が出ると‥‥」
「ええ。荷馬車を襲われるのよ」
 頷く依頼人は、ドゥーベルグ商会の女社長、ルシアン・ドゥーベルグ。赤毛が目を引く妙齢の女性。
「儂が言うのもなんじゃが‥‥平和だの」
 不謹慎と言うなかれ。
 ギルドに持ち込まれる依頼の数々にデビルの名前が踊らぬ日はない。それも伝説級のデビルばかりとなれば、ゴブリンの被害が平和に思えてしまうのも仕方がないのかもしれない。それも、依頼人が気心知れたルシアンだからこそ漏らした一言に違いはないのだが。
「‥‥平和ね」
 対するルシアンも、しみじみと頷いた。
 船や馬車が襲われることは多いが、デビルが関わらない襲撃ならば自身で雇った護衛でもある程度なら対処できる。
 デビルであれば──身内をも疑わねばならぬ事態に陥ることも少なくない。襲われる方の心境としても、随分気が楽‥‥なのだろうか。
「襲ってきたのは、その容姿だとホブゴブリンを筆頭にゴブリンとコボルト、というところかの。数は解るか?」
「大きいのが1体、犬みたいな顔が2体、小柄なのが5体らしいわ。大きいのと犬顔、小柄なものの中の2匹はいっぱしの装備をしていたらしいわ」
 ふむ、と楽観的だった顔のシワが深まった。オーガ種には戦士と称される、戦闘能力に長けたモノがいる。とすると、多少の作戦を練らねば少々厄介な事態に陥ってしまうかもしれない。
「して、冒険者は護衛をすれば良いのかの?」
「いいえ、これ以上商品を奪われるわけにもいかないわ。探し出して退治してほしいの。必要だったら空の馬車を用意するわ」 
 そう言ったルシアンは、退治のついでに宝飾品だけでも奪還できればボーナスも弾むわね、と付け加え、金貨の詰まった皮袋をテーブルへ置いた。


●少年の逆恨み
 駆け出し冒険者として、初めて冒険者ギルドを訪れたニコラは唖然とした。
 高そうな剣、貴重なマジックアイテム、空飛ぶ箒に妖精、ペガサスや巨大な謎生物。
 金貨の詰まった袋は重そうで、保存食も珍しいものばかり取り揃えている。
 胸の前の輝きはレミエラというヤツだろうか。鍛え上げられた剣は、防具は、エチゴヤで大金をかけて強化したものに違いない。
 ‥‥どんなに金持ちなんだ、冒険者‥‥!!
「冒険者は金をぼったくるのが仕事なのか!?」
 そんなはずはない。
 なけなしの小遣いで雇った冒険者はいい人たちだった。
 いつも親身になって考えてくれた冒険者、その武器は、防具は、そんなに特殊なものだっただろうか。

 ──見る目のなかった過去のニコラには解らない、真相は闇の中。

「‥‥俺の装備で、冒険者として認められる働きができるのか?」
 僅かな疑問が鎌首をもたげる。
 自分の武器防具を揃えるだけで精一杯。保存食を買えば微々たる軍資金しか残るまい。
 そんな自分が足を引っ張らずに戦えるか。
 一人前と言えるのか。
「これだけやって一人前の働きができなかったら情けねーよなー」
 ぽりぽりと頭を掻く。駆け出しに相応しそうな、比較的単純そうな依頼を見繕って。

 ──ニコラは、今、冒険者としての第一歩を踏み出そうとしていた。

●今回の参加者

 ea2307 キット・ファゼータ(22歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea6282 クレー・ブラト(33歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6738 ヴィクトル・アルビレオ(38歳・♂・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 eb3232 シャリン・シャラン(24歳・♀・志士・シフール・エジプト)
 eb3308 レイズ・ニヴァルージュ(16歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4341 シュテルケ・フェストゥング(22歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 eb5669 アナスタシア・オリヴァーレス(39歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ec5071 彩 凛華(32歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ フィニィ・フォルテン(ea9114

●リプレイ本文

 仕事そのものは、さほど難しくはない。武器と防具、ほんの少しの日用品。それだけをもって、ギルドの戸を叩く。そんな事から始まるのだ。
「今はあんなに凄い剣や鎧を装備している人も、最初はあなたと大差のない装備から始めたのよ」
 ニコラにそう告げるアナスタシア・オリヴァーレス(eb5669)。今でも装備はさほど変わらないが。
「駆け出しの頃は、色々難しかったな…。主に荷物の重さとか魔法の種類と腕前の兼ね合いとか。重い物は戦士やナイトに運んでもらったし。馬を買うまでがまた一苦労で、ロバにも中々手が届かないし…」
 苦労したのは年齢のいったヴィクトル・アルビレオ(ea6738)も変わらない。いや、年季が入っている分、その苦労を伝えようと、それを語るにも手順がいるようだ。
「長くなりそうだな。今のうちにちょっと話を聞いてくる」
「あたいもやろうっと。聞くのは、ゴブリンとか襲撃とかあたい達の事で良いよね」
 くどくどと続く話に、辟易するニコラを放り出し、その間にクレー・ブラト(ea6282)は情報収集を開始。シャリン・シャラン(eb3232)がその頭にくっついて行った。聞くのは、コボルト達に襲われた場所や、野営に向いている場所、それを元にフォーノリッジを使うシャリン。それによると、使いやすい野営地は、毎回決まった場所にあるようだ。
「囮なんで、空の木箱や幌で偽装しとかないとな」
「うちの子を使ってくれ。普通の馬よりは何とかなるだろうし」
 シュテルケ・フェストゥング(eb4341)がそう言っているのを見て、ヴィクトルが自身の馬を連れてくる。クロッカスは普通の農耕馬ではあるが、冒険者が連れている分、言う事は聞きやすいだろう。クロッカスを馬車に繋げている間、ニコラは、ヴィクトルにコボルトの戦い方を強制レクチャーさせられていた。
「んと、荷物は中で良いのかな。防寒具は必要でしょうけど」
「バックパックはこの辺に‥‥。お財布は小分けにしないと‥‥」
 アナスタシアも荷物を馬車の中に置き、防寒具のフードをかぶるだけにしている。彩凛華(ec5071)は荷物は片隅によせ、持っていた財布の中身を小袋に分けていた。と、ヴィクトルのレクチャーを逃げ出したニコラが、ひょいとの中身を覗き込む。
「あ、えとこれは‥‥闘技場で頑張っていただけですよ。鍛錬のつもりで通っていたら、いつの間にか貯まっちゃってただけです」
 正直にそう答える彩。それをバックパックの中に入れ、身を軽くしている。
「闘技場ってそんなに儲かるのか‥‥」
「ニコラ〜、これ運んでくれない? か弱いしふしふを助けてよ〜」
 俺も出てみようかなぁと算段を練り始めるニコラの頭を、シャリンが引っ張った。バックパックは誰かに頼まないと動かせないシフールの彼女、かわいらしくウインクをしておねだりしている。
「俺は荷物係じゃねェ!」
「いいじゃないの。それにちょっとお話もしたかったし」
 腕に絡みつくシャリン。ぺたぺたとほっぺを寄せてくる。
「あたいは踊りだけでも十分稼げるし、武闘大会とかで稼いでる人もいるわね。まぁ、稼いでも装備とか整えるので使っちゃうんだけどね」
 確かにシャリンの衣装は、やたらときらきらしていて、動く宝石と言ったところだ。
「それに、便利な装備があれば、ないよりは上手くやれる訳だし。依頼人の為でもあるでしょ」
「そっか。その方が、依頼料増えるかもしれないしな」
 人の為に何かをする事は、お金を稼ぐ手段になる。そう理解するニコラ。それだけではないのだが、それに対する返答は長くなりそうなので、キット・ファゼータ(ea2307)がこう言って促した。
「続きは馬車の中でゆっくり話そうぜ。準備できたみたいだしな」
 何しろ、夜営もしなければならないのだから、講義の時間はたっぷりとある。こうして、臨時の合宿所と化した馬車は、教えられた場所へ向って走り出すのだった。

 御者はクレーが行う事になった。その間、ほろの内側に潜んだ冒険者達は、今まで自分達が経験した事を伝えようと、かわりばんこにニコラへ講義していた。
「いいか。敵に遭遇するまでは、寝て過ごせ。ただし、熟睡しちゃ駄目だぞ」
 キットが、ガラじゃないとか思いつつ、側に張り付いて、小声でそう言っていた。先輩に訓示垂れられて、ニコラはうーんと考え込んでしまう。
「物音を立てないようにして、相手に油断をさせるのが重要なんですよ。あと、時々こうやって周りの様子を確かめるの」
 クレーのすぐ後ろにいたアナスタシアが、そう言いながら、幌に空けられた小窓の布をめくる。しかし、外はまだ一面の銀世界だ。
「私も冒険の経験は浅いですが、前にコボルトとは相対した事があります。レフ、その時の事や臭いは覚えているかい?」
 そう言って、連れていたペットの首筋を撫でているレイズ・ニヴァルージュ(eb3308)。ニフと名付けられた狩猟犬は、くうんと鼻を鳴らして、ご主人に答えていた。まるで、話しかけているような姿に、ニコラは不思議そうに尋ねてくる。
「言っている事わかるのか?」
「絆は、強いですから。異変があったら教えて欲しい」
 言葉ははっきりとは分からなくとも、一緒にいれば、何かを伝えようとしている事位は分かると。
「すげぇな。冒険者って」
「でも最初は、あなたと同じくらいだったんですよ」
 レイズが見せたのは、以前にもらった聖天使救護章だ。
「…これは、僕が黙示録の戦いに赴いた時に頂いたものです」
 マジックアイテムは外しても構わないと思っていたが、それだけは大切に持っていた。
「隊の隊長さんも、周りの皆さんも名だたる方、手に届かない様なレベルの方ばかりで…。僕に出来た事は救護所に行く事態になる前に前線でただリカバーをかけ続ける事だけでした」
 激しい戦いだったとは聞いているらしいニコラは、神妙な顔で、救護章を見つめている。
「でも、僕たちのレベルでも出来る事を精一杯やっていれば見てくれている人はちゃんと居るんだなって。僕がほんの少し誇れる事です」
 自分が、誰かの役にたった。その証として。
「そういうもんなのかなぁ。俺、全然そう言うのないんだけど」
「これもニコラさんには自慢話になってしまうでしょうか? でも、続けていればきっと。諦めないで下さいね」
 不満そうなニコラに、レイズはそう言って話を締めくくった。クレーが「‥‥そろそろ出現場所だよ」と知らせてくれたから。
「地図でもこの辺りみたい。なるほど、オーガが隠れやすそうな場所がたくさんね」
 アナスタシアが聞きこんだ地図とその場所を見比べている。何度も夜営をしたと見え、薪の跡や、雪や雨を避ける為の屋根まで設置されている。オーガが出没するのは、その先にある見通しの悪い空き地のようだった。
「襲撃手口によれば、商人風の奴が襲われるらしいけど、これでそう見えるかな」
 シュテルケがくるりと回ってみせる。話を聞く限り、丸腰の商人等が狙われるようなので、小間使い風にしてみたのだが、いかに金のかかっていない装備とは言え、ナイフ一本では少し心もとない気がした。
「こんな武器で大丈夫なのか?」
「いやー、ちょっと頑張りすぎたかもしれない」
 失敗しないように気をつけようっと、己に言い聞かせるシュテルケ。負けない自信はあったが、気を抜けば、怪我をする可能性はある。
「何とかなりますよ。解毒剤も追加して買いましたし‥‥」
 コボルトは、武器に毒を塗る。そう聞かされていたレイズは、黙示録の戦いで手に入れたモノに加えて、もう一本解毒剤を用意したようだ。
「だんだん寒くなってきたなぁ。雪とか降らないと良いな。降らないようにお祈りしておくね」
 日が暮れると、気温は一気に下がる。寒そうにしているシャリンが、マフラーをぎゅぎゅっと巻き直している姿を見て、レイズは自身が防寒装備をしていなかった事に気付く。
「そうですね。そう言えば忘れていました」
「日が落ちる前に夜営をしておこう。罠張っておく。ニコラさんは、野営初めて?」
 クレーが狩猟用の簡単な罠を、野営地の周りに設置しながら、そう聞いてきた。頷くニコラ。どうやら、彼の予想通り慣れていないらしい。
「テント2張りと馬車内に分かれて体を休めます。前衛1、後衛1のローテーションを組んで、見張り番をするの」
 彩がやり方を説明する。冒険者に取っては、なんでもない事だが、ニコラはげんなりとした表情だった。
「徹夜するんだ‥‥」
「経験を積んだ人が同行しているとはいえ、寝込みを襲われるわけには行きませんものね」
 誰か他の人が教えるかと思ったが、案外当たり前すぎて、誰も気付かなかったのかもしれない。見張りに付く事の大切さを、彼女はそう解説している。
「わかった‥‥。頑張って起きてるよ」
「心配しないで。夜の見張りはこっちでやるからさ」
 諦めた素振りのニコラに、クレーはそう言って毛布をかぶった。先に寝ておいて、夜半から明け方起きていようと言う算段だ。
「俺、ほんと役立たずだな」
「最初はそんなものさ。今はその分、クレーの休み時間を邪魔しないように、見張りに行こうぜ」
 肩を落とすニコラに、キットはそう言って促す。まだ夕刻。ニコラが頑張れる事は他にもたくさんあるから‥‥と。

 事態が動いたのは、クレーが見張りを始めて、しばらくたったころの事だ。モンスターに夜行性が多いのは、獲物の習性を考えれば致し方がないもので、それでもクレーは武器を引き寄せて、警戒を強めている。どうやら、囮として空の荷馬車を置いていた事に反応したようだ。
「では、やる事は打ち合わせどおりに」
 今回、ここで全滅させるわけではない。事前にクレーが話した通りの作戦で動く冒険者達。合図を受けたキットが、疲れて寝ていたニコラをたたき起こす。
「OK。行くぞニコラ」
「んぁ? あ、うん」
 まだ寝ぼけている様子の彼、しばらく目をぱちぱちしている。そこへ、シャリンが頭の上で、フレイムエリベイションをかけてくれた。
「がんばってね☆」
 しかも、詠唱付きのところを見ると、上級のほうでかけてくれたんだろう。彩が解毒剤を持っていないニコラに前もって渡していると、そこへレイズから言われたニフが、くんくんと鼻を摺り寄せて来た。
「こ、これはくいもんじゃねェんだよっ。うわぁぁ、出た〜っ」
 後ろのほうにいたレイズに、ニフを戻そうとしていた所、茂みの向こうにらんらんと光る目。
「落ち着いて。大丈夫、私が牽制するわ」
 思わず悲鳴を上げる彼に代わり、アナスタシアがライトニングサンダーボルトを打ち込んだ。見れば、それ以上近付かないように、レイズもコアギュレイトで足止めしていた。
「魔法を使う人は下がって!」
 彩がそう叫ぶと同時に、武器を持って戦える者が切り込んで行く。ニコラが1対1で戦えるよう気をつけながら、言われた通り下がるアナスタシア。
「近付かれる前に倒さなくてはいかんぞ」
「‥‥わかった。俺も男だ。根性見せてやる!」
 ヴィクトルに言われて頷くニコラ。そこへ、馬車の陰から応援していたシャリンが、「その調子だよ。みんながんばれ〜☆」と応援してくれる。
「カムシン、足止めしろ。これでも食らえっ」
 キットがペットの鷹を差し向けた。カムシンがきしゃあとその爪で獲物を捕らえるように急降下する間、急接近してソニックブームを叩き込む。
「森だと、こう言う方が使いやすいかなっ。えぇいっ」
 クレーがレイピアでポイントアタックを食らわせていた。急所を的確に捉えるその技は、武器の上下限は関係ない。短刀でも同じ事は出来る。
「コボルトを優先しろ。近付かれると面倒だっ」
 ヴィクトルがコボルトを優先して高速詠唱のブラックホーリーをお見舞いする。そのうち何人かが粗末な弓を持ち出してきたのを見て、シュテルケがソニックブームをお見舞いしながら、こう指示してくる。
「ニコラ、馬には近付かせるなっ。アイツの毒にやられたら、大変だぞっ」
「あ、あぶない!」
 ニコラが何とか武器を振り回している最中、シャリンが悲鳴を上げた。見れば、ヴィクトルに2匹ほど詰め寄っている所だ。幸い、ニコラには気付いていない。シュテルケが残るコボルトを近付かせないようソニックブームを打ち込んでいる間、ニコラは武器を握り締めたまま、後ろから体当たりをするようにコボルトへ。
「このっ」
 どすっと音がして、コボルトが崩れ落ちた。
「助かった」
 礼を言うヴィクトル。その一撃を皮切りに、コボルト達は潮が引くように逃げて行く。ニコラ、それを放置するキットに、こう尋ねた。
「それより、あいつら逃げてくけど、いいのか?」
「ああ、ここにいるのは雑魚ばっかりだからな。深追いはしないさ」
 逃げるに任せ、住処を突き止めるのがクレーの考えた作戦だった。
「ちょっと見てくるね」
 その作戦に従い、一番小柄で身軽なしふしふのシャリンが、空を飛んで見つからないようについていく。方角は南の方だった。何匹か残りのコボルトも合流している。どうやらさっきのは先行偵察と言ったところだろう。
「私たちは、馬車で追跡ね」
 彩がそう言って馬車に乗り込む。御者はクレーに代わってシュテルケだった。隠しておいた荷物の中から、ヴィクトルがランタンを持ち出している。そうして準備を整えている間、クレーは猟師の技でもって、コボルトの後を追いかける。踏み荒らした下草と、シャリンの道しるべを追えば、すぐに追いつく事が出来た。
「こっちだな。カムシン、追跡を頼む。巣を見つけたら知らせてくれ」
 キットもまた、カムシンでコボルト達を追いかけさせている。森の中は森の生き物に任せるのが正解だろう。自身も猟師の腕を持つキットは、木々の中をすり抜けて行く愛鷹を追いかけ、程なくして巣へとたどり着く。ちょうどそこへ、シャリンを拾ったクレーも追いついたところだった。
「見つけた。どうやらこの洞穴の奥だな」
「よし、皆周りを囲い込め。追い出すぞ」
 キットが仲間の立ち位置を指示している。そうして、ばたばたとやっていると、気付いたのか中からコボルト達が出てくる。オーガと共に。
「一気に蹴散らすぞっ!」
 オーガは鎧を着込んでいたが、シュテルケはその継ぎ目にポイントアタックを仕掛けた。用心棒だろうオーガが丸太を振り回し応戦する。
「えぇいっ! このっ」
「ていていっ」
 しかし、手馴れた冒険者達は距離を撮り、魔法を撃ち、回避に努めている。毒を受けないよう、避けまくっている彩を狙い、オーガが突進してきた。その間に立ちふさがり、ソニックブームを叩きつけるキット。ぐらりと揺らいだオーガの体。その死角にいたニコラに、キットがこう叫ぶ。
「今だ! ニコラ!」
「わ、わかったっ」
 コボルトの時と同じ様な体当たり。だが、既に致命傷を負っていたオーガに、抵抗する術は残されていなかったのだった。

(代筆:姫野里美)