【聖夜祭】プレゼントを取り返せ!

■ショートシナリオ&プロモート


担当:やなぎきいち

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月21日〜12月26日

リプレイ公開日:2004年12月29日

●オープニング

───バンッ!!

「し、至急お願いしたい仕事があるんですがっ!」
 ギルドの扉を壊しそうな勢いで開け、けたたましい足音と共に飛び込んできたのは、白いおヒゲを蓄えた老人──ではなく中年の男性でした。結ばれた革紐が解け、立派なヒゲが宙ぶらりん。
「ええと、おヒゲが取れていますよ‥‥?」
 エルフのギルド員が恐る恐る指摘すると、男性は力任せにヒゲを外し、噛みつかんばかりの勢いでギルド員に詰め寄ります。
「お願いです、あの悪魔を退治してください! このままでは、子供たちにプレゼントが渡せません!!」
「まずは、詳しく話していただけますか? ああ、どうぞ座ってください」
 依頼書に代筆の準備をしながら、ギルド員が男性に声をかけます。促されるままに座った男性は、一度深く呼吸をすると、ギルド員に話し始めました。
「うちの村では、毎年、サンタクロースに扮した者が子供にプレゼントをするという習慣があるのです。俺は今年のサンタクロース役を村長から言いつかって、プレゼントと、サンタクロースの衣装を村長から預かったんです。そのプレゼントと衣装が‥‥」
 そこまで言うと、男性は悔しそうに唇を噛んで俯いてしまいました。
「プレゼントと衣装が、どうしましたか?」
「3匹の悪魔に盗まれたんです! あの羽と尻尾は絶対に悪魔だ!! お願いします、プレゼントと衣装を取り戻してください!! 子供たちが、楽しみにしているんです!」
 何とか居場所までは突き止めたものの、3匹の悪魔を前に、男性は引き返してくるしかなかったそうです。
 エルフのギルド員は、さっそく、依頼書を掲示する事にしました──

●今回の参加者

 ea5283 カンター・フスク(25歳・♂・ファイター・エルフ・ロシア王国)
 ea6738 ヴィクトル・アルビレオ(38歳・♂・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 ea7210 姚 天羅(33歳・♂・ファイター・人間・華仙教大国)
 ea8160 アルガノ・シェラード(35歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea8411 近藤 継之介(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9129 ニャミィ・テンダキャー(17歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9457 半身 白(23歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9711 アフラム・ワーティー(41歳・♂・ナイト・パラ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●情報収集
「まったく‥‥子供が楽しみにしているものを奪うとはとんだ不届き者だな」
 カンター・フスク(ea5283)とヴィクトル・アルビレオ(ea6738)は、聖夜祭の準備も大詰めという賑やかな村を一緒に歩いていました。二人は、悪魔退治の前に情報収集をしようと思ったのです。廃屋の間取りは依頼人から聞けたのですが、他にも知りたいことがいっぱいあったみたいです。
「しかし、どうも当初の話通り悪魔のようだな。ならば滅するだけだ」
 もしかしたら、子供の悪戯かも? そんなことを考えていたヴィクトルたちですが、どうやら犯人は本当に悪魔のようです──少なくとも、村人ではなさそうでした。なぜなら、子供も大人も村人は総出で、忙しそうに楽しそうに聖夜祭の準備をしているのですから。プレゼント一晩取りあげの上、ジャパン式に正座して説教だな──などと子供のいたずらへのお仕置きを考えていたようですが、悪魔なら退治するのがクレリックのお仕事です。
『では、早く戻ろう。一刻を争う』
 ゲルマン語を話せない姚 天羅(ea7210)は、通訳をしてくれるヴィクトルを急かしました。アフラム・ワーティー(ea9711)が言っていたのです、悪魔なら昼間のうちに倒すべきだ、と。

 「聖なる夜に向けての日に、悪魔とは良い話ではありませんね。夢を持って待っている子供達の為にも頑張りましょう」
「そうですよね。やはり子供達の笑顔が見たいですし、無事に取り戻したいです」
 秘めた決意を穏やかに語り合うのは、ウィザードのアルガノ・シェラード(ea8160)と小さなナイトのアフラムです。
 情報収集へ向かった3人が戻ったのはもう午後でしたが、日のあるうちに全部の仕度が終わったようです。シルバーナイフを半身 白(ea9457)に貸し、近藤 継之介(ea8411)が立ち上がりました。
「行くか‥‥」
 さあ、いよいよ悪魔退治です。

●廃屋の悪魔
 辿り着いた村はずれの廃屋には、動くものの気配はありません。悪魔は、昼間に眠るのでしょうか。
 依頼人から聞いた話のとおり、廃屋は物置より立派な程度。窓は全て板切れで打ち付けられていて、出入りができそうなのは正面の玄関だけのようです。
「じゃあ、あたしは外で待ってるね。頑張って!」
 姚と近藤にバーニングソードを付与すると、ニャミィ・テンダキャー(ea9129)はにっこり笑いました。ニャミィも一緒に戦いたいのですが、戦闘に身を置いたとき、仲間の迷惑になるのは嫌なのです。
 アフラムも、自分とカンターの武器にオーラパワーを付与しました。戦闘準備は完了です。
 カンターから借りた銀のダガーを手に馴染ませるように何度も握り、白はカンターとヴィクトルに頷きました。
「巴里紅翼華撃団炎組、金の陣風カンター・フスク、行くぞ!」
 その言葉を合図に、カンターと白が扉を蹴破り突入しました!
「寝た子をわざわざ起こすのか」
 やれやれと、肩をすくめてヴィクトルも後を追いました。まず屋敷に侵入するのは、この3人のようです。

 悪魔はすぐに見つかりました。暖炉の先を曲がったら、向こうから襲い掛かってきたのです!
「インプだな、下級悪魔だ。油断するな──白殿、右だ!」
 薄暗い室内、カンターとヴィクトルには動き回る悪魔が見えていますが、白は襲い掛かる悪魔に気付きません。白が戦いやすいようにヴィクトルが声を飛ばします。ハッと見た右手からは、赤い服を着込んだ悪魔が襲い掛かってきます!
「くっ!」
──ギィィン!!
 歯をナイフで押し止め、舌打ちしました。3匹のインプのうち1匹は、なんと、サンタクロースの衣装を着込んでしまっています!
「衣装も、傷付けてはいけなかったな?」
「白、代われ! キミより俺の得物のほうが服を傷付けない!!」
「わかった」
 カンターのレイピアが、オーラエリベイションを使用した白のシルバーナイフが、インプを牽制し‥‥その隙に、ヴィクトルが放置されたプレゼントを奪い返しました。プレゼントの入った白い袋は暗い室内でもよく目立っていたのです。
「持ちこたえてくれ!」
 ヴィクトルは仲間たちの下へプレゼントを持って走ります。玄関の扉を飛び出すと、アルガノに袋ごとプレゼントを押し付けました。アルガノとアフラムが急いで袋を開けると、ラッピングこそボロボロでしたがプレゼントは無事のようです。
「‥‥覚悟はできているな‥‥?」
 ヴィクトルを追って飛び出してきたインプを近藤がスマッシュで迎え撃ちます! アルガノとヴィクトルもすぐに詠唱を開始し──不利を悟ったインプが飛び立とうとした所へ、姚がダガーを投げました!
『倒せるものを逃がすわけにはいかない!』
 ダガーは外れてしまったものの、結び付けてあったロープが皮の羽に絡んだのを確認して、姚は力いっぱいインプを引き摺り落としました。そこへ魔法の集中砲火──そうなってしまえば、後はあっけないものです。
「ううう‥‥」
「──はっ、ニャミィ君!」
 ニャミィとプレゼントを庇っていたアフラムが振り返ると、血のように赤くなったニャミィの瞳が目に飛び込んできました──戦闘に巻き込まれ、狂化してしまったのです!
「う‥‥うわああああ!!」
「止めてください、ニャミィ君! プレゼントが!! くっ!」
 プレゼントに吸い込まれそうになった拳を、アフラムが身を張って止めました!
「あはははは!! 壊れちゃえ!」
──ガッ! ガッ!!
 鎧が音を立てています。アフラムには痛くも痒くもありませんが、彼の小さな体ではプレゼントを守りきれません。
 アフラムはすっかり困ってしまいました。が、その時、姚がニャミィを抱き締めました。
「何するの! 離してよっ!」
『落ち着け。悪魔はもういない』
「離せってば!!」
 ニャミィは渾身の力を込めて姚を殴ります。が、あやされるようにゆっくりと背中を叩かれて、やがてその瞳はいつもの可愛らしい茶色に戻ったのでした。
「そうです、テンダー君と白君がまだ!」
「問題ない」
 オーラエリベイションの反動か、疲れきった表情の白が玄関から出てきました。腕から流れる血が白い服を染めていますが、ヴィクトルが詠唱を開始したので大丈夫でしょう。
「テンダーさんとサンタクロースの衣装は‥‥」
 アルガノの言葉が終わるより先に、誇らしげにサンタクロースの衣装を持ったテンダーが姿を見せました。
「ちょっと破ったけどな、繕えば大丈夫だ」
 こうして、悪魔退治の依頼は成功で幕を閉じたのでした。

●クリスマス・イヴ
 村で一番大きなヒイラギの木は綺麗に飾りつけられて、今はクリスマスツリーに大変身。ヒイラギのある広場では、村人が作ったご馳走とヌーヴォーが振舞われています。
 そんなツリーと広場を、ゆらりゆらりとゆらめく沢山の蝋燭が幻想的に彩って、昼間とは全く違う雰囲気です。
 ジーザスが生まれた12月25日から、ジーザスが洗礼を受けた1月6日までを聖夜祭として祝うのは、どこの街も村も一緒です。そして、生誕の前夜──12月24日は子供達にとってとても楽しみな日なことも。
 そう、赤い服を着たサンタクロースが良い子にプレゼントをくれるのです!
「はい、プレゼントだ。来年もお父さんとお母さんの言うことを聞いて、いい子にするんだよ」
「いい子にしているんだよ」
 ヒイラギのある広場では、赤い服を着たサンタクロースとアフラムが子供たちに囲まれています。サンタクロースがプレゼントを手渡すと、ともすれば子供たちに紛れてしまいそうなアフラムがにこにことケーキを手渡します。砂糖は高くて手に入りませんけれど、ドライフルーツをたっぷり入れたパウンドケーキは、クリスマスを彩る大切なごちそうです。
「あのおじちゃんが作ってくれたんですよ」
「おじちゃ‥‥」
 離れたところに立っていたカンターがちょっと傷ついた顔をしました。けれど、子供が喜んで食べてくれた事がとても嬉しそう。でも、寄り添う恋人たちをみていると、嬉しい気持ちも窄んでしまいます。
「こんな夜にひとりっていうのも‥‥だんだんつらくなってきたな」
「隅にいるから、そう思うんだ‥‥ヴィクターのように、輪に加われば良かろう‥‥」
 同じように一人ポツリと会場の隅に居た近藤が、村人に囲まれながら食事をしているヴィクターを指差します。ジーザスの話でもしているのでしょうか、沢山の村人が熱心にこわもての男性に見入っています。
 そうかもな、と頷いたカンターを送り出し、近藤は広場を背にしました。見上げる空からは白いものが舞い降りて、今も忘れないあの人の面影が浮かび上がりました。今は亡き主の面影へ語りかけるように、言葉を紡ぎました。
「‥‥主‥‥、遠く離れた異国でも雪は降るのですね‥‥。貴方の居るところでは‥‥雪は、降りますか‥‥?」
 ツリーから少し離れて横笛を吹いていたアルガノは、広場を去った近藤に気付いていましたが、声をかけずに後姿を見送ったのでした。そして、一人で佇む白に声をかけました。
「お疲れ様でした。楽しめませんか?」
「私が入っても場がしらけるだけだろう‥‥いや、感傷的になっているだけかもしれないが」
「こんな日に一人でいるからですよ、きっと‥‥そうですね、私から一曲贈らせていただいても?」
 慣れない好意に目を丸めていた白だったが、ぜひ、とぎこちなく頷き──自分のために奏でられる曲に聞き入るのでした。
 広場の反対側で、同じように賑やかな雰囲気を見ながら振舞われたワインを傾けているのは姚です。言葉が通じないので輪の中には入りませんが、楽しい雰囲気は見ているだけでも楽しくなってきてしまいます。
『たまにはこういう場で飲むのも悪くはないな』
「あの、姚さん」
 耳慣れないゲルマン語に自分の名前が入っていたような気がして声がした方を見ると、ニャミィが立っていました。どうしたのかと聞きたいのですが、伝わる言葉がありません。けれどニャミィは気にせず話します。
「さっきは、助かっちゃった。皆に迷惑かけちゃうところだったよ、どうもありがとう」
『気にするな』
 表情から通じるものがあったようです。姚の見せた笑顔にニャミィは姚の隣に座り、にっこりと微笑みました。

 空からは真っ白い雪が舞い降りて、聖夜祭を白く染め上げます。
 純白の心で聖夜祭を迎えられるように──それはきっと、ジーザス様からのプレゼントに違いありません。