雪に埋もれた鬼
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■ショートシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 25 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月27日〜04月02日
リプレイ公開日:2005年04月06日
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●オープニング
喧騒渦巻くドレスタットから徒歩二日。小さな山の麓(ふもと)、抱かれた森の際に、小さな村がある。
樹を切り、畑を耕し、食料にする程度の獣を狩り‥‥自然のままに慎ましく暮らしている、どこにでもある平穏な村だ。
そんな小さく平穏な村で、最近人々の口の端に乗る話題があった‥‥村で三番目に幼い少年、キッシュの話題である。
「まだ小さいのに、本当に良い子だねぇ」
「近頃じゃ自分から森へ薪拾いや薬草採りにも行くらしいじゃないか」
「まったく、本当に良い子だよ」
キッシュは、まだ5歳。活発で、悪戯をされても笑って許したくなるような愛嬌があり、村のおばさんたちに大人気だ。遊びたい盛りなのもあるのだろうが、いつも鼻頭や膝小僧にカサブタを作っている。
そんなキッシュが率先して様々な手伝いを始めたとあって、大人たちの好意と関心から何かと話題に上ってはいたのだが‥‥
その日の井戸端会議も、もちろんキッシュの話題で盛り上がっていた。
「本当なのかい?」
「あぁ、差し入れを持っていったユインが見たんだよ。ユインは村から出ることすら怖がっちまって‥‥あたしだって怖いさね」
「まったく、何て恐ろしい子だろうね!」
好意というものは、そして評価というものは、些細なことで地に落ちるもの。そして、キッシュの行動は──残念ながら、『些細なこと』ですらなかった。
ユインというのはキッシュの隣の家に住んでいる、家族同然、姉同然に育ってきた15歳の少女である。彼女が黒パンと少しのチーズ、搾りたてのミルクを持ってキッシュの労を労(ねぎら)いに行ったとき、見てしまったのだ。
薪にする枝を拾うキッシュと、それを手伝う──‥‥
「「「オーガを手懐けるなんて!!」」」
井戸端会議中のおばさんトリオは、ふくよかな体を震え上がらせた。
「そんなバカな話があるわけないだろう?」
「ユインちゃん、きっと繁みがそう見えたんだよ」
そして、噂が蔓延し目を背けられなくなったとき、キッシュとユインの父親が真実を確認しに行ったのだが‥‥そこで見たものは。
(「ま、まさか‥‥!」)
(「キッシュ!?」)
仲良くハーブを摘むキッシュと赤い肌の大きな鬼‥‥オーガ。非常に恐ろしく、また信じ難いことだったが、ユインが見たことは真実だったのだ!
(「助けないと!!」)
(「まて! 子供が心配なのもわかるが、危険はなさそうだ‥‥帰ってくるのを待って目を覚まさせた方がいい」)
(「しかし!」)
がっしりと腕をつかまれ、キッシュの父親が必死の形相で友人を振り返った。しかし友人は首を振るばかりで‥‥手を離そうとはしなかった。
子供は心配だが、相手は凶暴なモンスター。大の大人とはいえ、一般人がたったの二人で太刀打ちできるものではない。
不幸中の幸いというか、モンスターはキッシュに懐いているようで、怪我をさせたり敵意をむき出しにしたりする様子もない。
(「今は、下手に騒いで魔物を刺激する方が危険だ。分かるだろう!?」)
ユインの父親は、キッシュの父親の腕をしっかり掴んで、村へと引き返した。
そうして、ユインの父親はギルドへ依頼を出しに出発した。
ユインの父親がパリのギルドに到着した頃。
「きっしゅ、あぶない!!」
「うわあ!!」
うららかな春の日差しの中で、少年キッシュは赤い肌のオーガに力いっぱい突き飛ばされた!!
突き飛ばされた少年の目の前を流れていくのは、白、白、白、ただ一面の純白──そして、薄れてゆく赤。
赤い肌のオーガは襲い掛かる純白の雪崩からキッシュを庇ったのだ!!
「オーギィ!!」
埋もれゆく赤い肌の友人を、ただ無力に、目を見開いて唖然と眺める少年‥‥やがて、赤い色が白に覆い尽くされた頃。
キッシュはようやく我に返り、村へと駆け出した!!
「た、大変だ‥‥誰か、誰かオーギィを助けて!!」
その想いを胸と眼に溢れさせながら。
●リプレイ本文
依頼を受けた冒険者たちはギルドで依頼人と落ち合った。
「子供と仲良くなってるオーガさんですか‥‥今はいいですけど、何かの拍子に暴れだしたりしたら大変ですね。早めに向かわないと」
依頼人から大筋を聞くとキャプテン・ミストラル(ea2248)は眉間にしわを寄せた。真っ青になった依頼人は、問題のキッシュ少年とは家族ぐるみの付き合いがある男性だ。
「キッシュが危ないということですか‥‥は、早く村へ!」
「はい、そう思って一足先に仲間が村へ向かっています。私たちもこの後すぐ、馬で村へ向かおうと思います」
ティム・ヒルデブラント(ea5118)もいっそ芝居と思えるほど大真面目に頷く。
その言葉に偽りは無く、吉村 謙一郎(ea1899)と源 靖久(eb0254)は愛馬と共に一足早く村へ向かって出発している。
「おじさんはさ、後からゆっくり来るといいよ。大丈夫、おいらたちもプロだからさ、しっかり説得するし♪」
ジム・ヒギンズ(ea9449)は精一杯背伸びして白き駿馬の鬣(たてがみ)を撫でながら、安心させようと笑いかけた。
その小柄だが逞しい笑顔に納得したのか、依頼人も頷いた。
「そうですね‥‥よろしくお願いします。キッシュを、村を、救ってください」
徒歩で移動をするという依頼人に見送られながら、ジムはティムへ言った。
「ティム、さっきのちょっとわざとらしかったと思うよ?」
「そ、そうですか?」
依頼人より先に村へ付きたい──それは依頼を受けた冒険者5人の共通した想いだったのだ。何とか出し抜けたが、ティムの芝居がかった台詞で破綻してしまうところだった。
「バレていないといいですね。まあ、嘘をついているわけではないですけれど」
ミストラルはそう返すと黒い帽子を被りなおし、手綱を強く握った。
──村は、まだ、見えない。
吉村と源は愛馬と共に一足早く村を訪れていた。
専用に調教された馬でない限り、馬は長時間駆け続けることが出来ない。従って、二人は、自分の荷物を極力馬に載せ、馬がばてる寸前まで馬に乗り、回復するまでは馬と共に走るという荒業をこなしたのだった。後から追ってくる仲間達も、同じような行程を踏むことだろう。
「深い森に囲まれた村か‥‥当然自然と共存しているわけだな」
人間がオーガを恐れるのは、人間に狩られる動物が人間に抱く感情と同じなのかもしれない‥‥源はそんなことを思う。生活圏を脅かせば牙を剥く、それは獣もオーガも人間も同じ──至極当たり前の事なのである。
問題は、生活圏を脅かしているのがオーガのオーギィなのか、キッシュ少年なのか、ということで。
「まずは、キッシュ少年から話を聞きださねばな‥‥」
「キィ坊はまだ子供だべ。たまたま通りかかった冒険者というほうが説得する言葉も通じやすいと思うだよ」
馬を労いながら、吉村が改めて提案した。そして二人は、まずキッシュと話をすることにした。
探す労力は必要なく、キッシュ少年はすぐに見つかった。必死の形相でスコップを抱えて走る5歳の少年など、何人もいるわけがない。
「そんなに急いで、どこさ行くんだべか? 時間があるなら、わしらを宿まで案内さしてほしいだ」
「急いでるんだよぉ!」
そう叫び、森へ駆け込もうとするキッシュの行く手を馬で塞ぐ源。
「春先は雪解けの頃。雪崩が起こったり冬眠していた動物が目覚め危険なのだ。一人で森に入ってはいかんぞ」
「でも‥‥! もう、雪崩は起きたんだ! オーギィが巻き込まれて‥‥でも、大人はだれも助けてくれないんだ!」
うう、とつぶらな瞳に大粒の涙を浮かべ──しかし、それが零れることを必死で堪える、男の子らしい一面も供え持つキッシュ。
遠き故郷の我が子と重ね、吉村はその大きな身体で少年を抱きしめた。
「坊は偉いだな‥‥わしらが手伝えば、そのお人も助かるかもしれねえべ。源さ、どうだ?」
「異論はない。少年、案内をしてくれるか?」
降って沸いた幸運に目を見開きしばらく二人のジャパン人を見つめていたキッシュは、大きく頷くと二人の前を走り出した!
「もう出発した後のようですね」
村を一巡したものの、仲間の姿もキッシュらしき少年の姿も見つけられずにティムは仲間を振り返った。
鼻歌を止めることなく、ジムはティムに頷き返す。
「謙さんと靖久さんがついてるんだし、そのオーガが悪いオーガでも、心配はないと思うけどね♪」
「そうですけれど‥‥でも、探さないわけにもいかないでしょう?」
ミストラルは苦笑いを浮かべ、仲間と少年の後を追うべく策を練る。
──と、その時。
「あの‥‥父さんが頼んだ、冒険者の人?」
「ええ、そうです」
にっこり。
ジムが唖然とするほどの笑顔で、女性の声に満面の笑顔で応えるミストラルとティム。
そこに立っていたのは齢15の少女‥‥とはそろそろ呼べなくなる年頃のユインだった。
「お父さんということは、あなたがユインさんですね。キッシュ君がどこにいるか、わかりませんか?」
ティムは彼女を安心させようと、にっこりと微笑んで尋ねた。ユインの銀の髪が、彼女をティムの想い人と重ねさせたのだろう。
「‥‥キッシュは、毎日ひとりでオーガを助けようとしているの。誰も手伝わないのに‥‥たったひとりで」
ユインはオーガに対する恐怖と、キッシュとオーガとの信頼関係の狭間で揺れているようだった。
「ねえ、ユインちゃん。おいらたちがついていくから、キッシュ君の所まで案内してくれないかな。おいらたちだって、オーガに負けないくらい強いんだぞ!」
「そうですよ。キッシュ君が心配なユインさんの気持ちもわかります。大丈夫、ユインさんは私が守りますから」
安心させるようにミストラルがユインに頷いてみせた。
しばしの逡巡の後、ユインは3人を案内することを決意した。
「急がなくっちゃね」
ジムは先行するように馬に跨った。
「キッシュ!!」
「ユイン姉ちゃん! 何でいるの?」
力いっぱい抱きしめられながら、不思議そうにユインを見るキッシュ。こんなところは歳相応の少年だ。
「キッシュ、オーガは怖いのよ。それに、ここは‥‥この間、雪崩が起きたばっかりでまだ危ないわ。帰りましょう、ね、いい子だから」
「やだ! そんなのダメなんだよっ!! オーギィは、僕を助けてくれたんだ! 今度は僕の番なんだよ!!」
腕を掴み引っ張るユインに、両足を踏ん張って対抗するキッシュ。
そんなユインをやんわりと止めたのはジムだった。
「大丈夫、万一の時にはおいらたちがいるからさ。ねっ!」
そう言うと、しっかりと用意してあったスコップを取り出し、ジムやティム、そしてミストラルもオーギィ探索に加わった。
雪には少し詳しい吉村が目星をつけた場所で、それぞれ、埋もれていると思われるオーガを探し始めた。
「さすがに、人数さ増えるとペースもあがるものだすね」
助けたオーガや冒険者達が休むために暖を取るための火をおこし──子供たちに火の番を任せようとした、そのとき。
「いました!!」
「オーガだよ!」
ミストラルとジムが、オーギィと思われるオーガを発見した!!
「雪が深いな‥‥」
作業を容易にするため、源はフレイムエリベイションを唱える。炎の魔力で努力と根性を誘発する魔法だ。
5人の冒険者と5本のスコップが少しずつ雪を除けていき‥‥やがて、ぐったりと生気を失ったオーガが現れた。
「オーギィ!!」
「キッシュ君、これを使ってください」
ティムが毛布を渡すと、キッシュはオーガを暖めようと毛布をかけ、ジムと源は火の傍へとオーギィを移動させた。
「キッシュ! オーガよ、危ないわ!!」
「だが、キッシュにとって大切な友ならば、捨て置くわけにもいかぬだろう」
源の視線が、言葉が、ユインを射抜いた。
「あっ、オーギィが目を開けたよ!」
「きっしゅ‥‥大丈夫? けが、シテナイ‥‥?」
「大丈夫だよ、大丈夫だよ、オーギィが守ってくれたから‥‥ありがと、オーギィ」
目を開けたオーガが、穏やかな瞳で初めに口にした言葉。
その言葉で、冒険者達は意を決した。
「キャー!!!」
「こんなことを頼んだわけじゃないぞ!!」
キッシュ、ユインと共にオーギィを連れて村へ戻った冒険者たちを迎えたのは、絹を裂くような悲鳴と怒号だった。
しかし、冒険者とキッシュは目を逸らさず、村人達へと語りかける。
「オーギィは、僕を助けてくれたんだよ!! ねえ、オーギィを村へ置いて!!」
「人語を解すオーガ、人間と心ば通わすオーガ‥‥ごく稀にだけんど、そういった事例は存在するだよ」
「‥‥オーガを恐ろしいと思う気持ちは分かります。ですが‥‥キッシュ君と一緒に、彼を信じてあげることはできませんか」
小さな身体でオーガを抱きしめ、村人の敵意から友人を守ろうとするキッシュ。
そして、吉村が語る、稀少ではあるが、『いいオーガ』というものが存在するという事実。
懇々と願うミストラルの想い──そうしたものは、村人の混乱を徐々に沈めていった。
「確かに、オーガは恐れられるほどに強いです。ですから、山賊などではまず勝てません。絶対に、いい『番犬』になりますからっ! パリにも同じような境遇のオーガはいるんです」
そのオーガがどれだけ冒険者たちに愛されたか──ティムはここぞとばかりに必死に訴えた。
そして源は、打算的な大人たちを納得させるべく、オーガを受け入れるメリットを語る。
「ユインによれば、付近にオーガの棲み処はないそうだな。ならば、オーギィははぐれオーガ‥‥この村を故郷だと思えば、外敵から村を守ってくれる、充分な戦力になるはずだ」
反対に、ジムはキッシュへと語りかける。
「オーギィはいいやつだけど、オーガは怖いんだぞ!! だから他のオーガには近づいちゃ危ないんだ!! 村の人たちは、キッシュのことを心配してるんだよ!」
「‥‥うん‥‥」
その村人たちの思いは充分にキッシュに届いていたようで、少年は俯いてしまった。
自分達を包み込む春の日差しのように優しく撫で、ミストラルはキッシュにひとつ提案をする。
「キッシュ君、オーギィとお揃いの首飾りとか、何か作ってみませんか? そうすれば他のオーガと間違えることもないですし、村の人たちも安心すると思いますよ」
「お揃いの首飾り‥‥? そうしたら、オーギィを村においてくれる?」
心を揺らす村人たちを後押ししたのは、ミストラルの傍らに立つ少女──ユイン。
「‥‥お願い!! オーギィは、確かに見た目は怖いけど‥‥でも、いいオーガよ!」
まだ怯えを抱きながらもオーガに触れ、オーギィという存在を受け入れたユインに──
「アリガト‥‥ゆいん。おーぎぃ、ゆいんモ‥‥トモダチ、ゆいんモ守ル。アリガト‥‥」
──オーギィが、涙を零した。
群れから逸れ‥‥ただひたすらに怯えられ、敵意を向けられるだけの日々。
オーギィにとって、キッシュは唯一の友人であり、仲間だったのだ。
そして、新たに向けられた温かな想いに、鬼の目から、涙が零れた。
「‥‥わかった、村はずれの小屋を彼のために空けよう」
そう頷いたのは、村長その人であった。
オーガの涙は、村人の頑なな心を溶かしたのだ。
「キッシュ、オーギィ‥‥全ての村人から受け入れられるかどうかは、これからの君たち次第だ」
「ありがとう!! やったね、オーギィ!!」
「ウガ‥‥アリガト‥‥おーぎぃ、ガンバル‥‥」
「あぁ、ほら、泣くな! 男だろう!!」
乱暴に涙を拭ったのは別の村人。
怯えは拭い去れないまでも、オーガ‥‥いや、オーギィという存在を、少しずつでも受け入れようとしているようだった。
「何があろうとも、自分を信じてくれる友を裏切ることだけはするな」
いいたいことはそれだけだ──それはキッシュへ、オーギィへ、源から送られた言葉だった。
春は、誕生と出会いの季節。
オーギィもまた、人々と出会い、彼らの心に何かを生んでゆくのだろう。
この村がどのように変わり、どのような歴史を刻んでゆくのか──それは誰にも分からないが、春の日差しと同じように穏やかなものであるはずだと、誰もが信じ、願ったのだった。