【怪盗と花嫁】蠢く闇
|
■ショートシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:2〜6lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 24 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月05日〜04月11日
リプレイ公開日:2005年04月14日
|
●オープニング
●冒険者ギルドINパリ、ギルドマスター執務室
『花嫁』に率いられたアンデッドの群れが、パリを目掛けて進攻中。
その情報をもたらしたのは、怪盗の仲間ディック・ダイによる一通のシフール便であった。
それは依頼ではなく、ただの『情報』。信じる、信じないはギルドマスターの自由であり、采配でもある。
──マントの街方面からパリの街を目指し、伯爵の増援部隊と疑われるモンスターの大群が森を抜けようとしている。
「情報としては不確定すぎるけれど、本当なら各方面へ恩を売るチャンスね」
ギルドマスター、フロランス・シュトルームの元には、マントの街にいた『花嫁』が偽物であり、伯爵は本物の花嫁を連れてパリに逃亡したとの報告があがってきたばかりだ。怪盗は確かに信用できない存在であるが、デビルと通じていた伯爵はそれに輪をかけて信用できない存在、有り体に言ってしまえば『パリの平和を脅かす敵』である。
しかし、そのシフール便は『依頼』ではなく、ただの『情報』である。依頼として成立させるためには『依頼人』が必要で‥‥
「2度も頼んだから、次は何を言ってくるかしら‥‥」
フロランスは先日依頼を出させた支援者の顔を脳裏に思い描き、深く溜息をついた。支援者はギルドに支援できるほどの財産を持っている。一筋縄でいく相手がそれだけの財を成せるはずもなく、揃いも揃って曲者ばかりだ。
「それでも、今更引き下がれるものでもなし」
この情報が偽物ならギルドの威光に傷がつくかもしれない、フロランスの実績にも傷がつく。しかし、真実であればギルドの評価は跳ね上がる。
ギルドマスター・フロランスは、怪盗に賭けた。
●冒険者ギルドINパリ
「で、そのモンスターの進攻を食い止めればいいんだな!」
案の定、依頼に喰らいついてきたラクス・キャンリーゼの言葉に、エルフのギルド員リュナーティア・アイヴァンは事態に似つかわしくない穏やかな表情で頷いた。
「アンデッドだけではありません。偽の花嫁は伯爵と同様に、デビルと通じているという情報もあります」
「構わないぜ! 選り好みをしているような状況じゃないだろ?」
「そうですが‥‥」
もたらされた情報では、現れたのはアンデッドと悪魔の混成軍。悪魔の大半はインプと思われるが、主なアンデッドは骸骨の戦士──スカルウォリアー。それらを束ねているのが悪魔に魅入られし『花嫁』である。
パリに進攻しようというだけあって、その数も10や20ではない──冒険者が10人で何とかしろというのは無茶な話である。
しかし、伯爵を追いつめる為に人手を割かなければならず、またデビル=アンデッド混成軍だけでなく他のモンスターもパリへ進攻しているとの情報がある以上、一箇所にまわせる人数には限界がある。
与えられた『情報』が真実であるならば、限りなく危険な仕事である。しかし、真実であるならば‥‥命を賭してでも成さねばならない仕事だった。
──パリで暮らす人々のために。
●リプレイ本文
●闇を熟む森
「一連の怪盗騒動‥‥今は最早、悪魔や死霊の一団が人々を脅かす事態へと転じてるわね‥‥」
サトリィン・オーナス(ea7814)は思わず溜息を洩らした。
事の起こりはイギリスからやってきた怪盗ファンタスティックマスカレードによる一通の予告状だったはず。
娶ろうとしていた伯爵は悪魔と通じており、救い出そうとした花嫁は悪魔に魅入られた影武者‥‥今現在、スカルウォリアーや悪魔を率いて、パリ郊外のシュヴァルツ城へと向かっているところである。
「偽の花嫁‥‥? それは人間なのか? それとも悪魔か? まったく、その辺の詳しい情報はないのか?」
森を睨み、苛立たしげに地を蹴ったレイジ・クロゾルム(ea2924)を、アミ・バ(ea5765)が手袋をはめ直しながらちらりと見遣った。
「今、フィーナが偵察中よ。少し落ち着いたらどう?」
「苛立ちは馬やドンキーに伝播しますしね」
ビター・トウェイン(eb0896)の手を借りながら馬の世話をしていたテッド・クラウス(ea8988)も、アミの言葉に頷いた。
馬やドンキーを総動員したため、予定より僅かながら早く森まで辿り着くことが出来たのだが、まだ森のどこに伯爵軍のモンスターがいるのか確認がとれていないのが現実なのだ。
「ああ、戻ってきたみたいね」
人間大の巨大な鷹が少し離れた茂みに下りるのに気付き、ブランカ・ボスロ(ea0245)はフィーナ・アクトラス(ea9909)から預かっていた着替えを持って茂みに向かう。ミミクリーは身体の大きさが変わらないため、服は脱がねば破けてボロボロになってしまう。
そしていつも通りの服に着替えたフィーナが戻った。いつものハンドアックスは、今日は持っていない──
「悪魔には魔法か銀系武器ではないと攻撃が効かないと聞いたわ」
ブランカからそう情報の提供があったからだ。フィーナは悪魔に通じる武器として銀のスリングを準備し、仲間達も事前に武器を融通しあっている。
「このままのペースで森を抜けて行って、辛うじて先回りできるかどうか、っていうところね」
枯れ木で地面にざっと地図を書いて説明するフィーナ。
「作れる罠は作り、できる限りの事はしておきたいですね。落とし穴は、掘れれば幸運‥‥という程度かもしれませんが」
ウォルター・バイエルライン(ea9344)が眉間にしわを寄せた。もう少し近付いたなら先行偵察に出ることにしよう、と内心で決意する。
「で、結局アンデッドとデビル、それから『花嫁』は」
「スカルウォリアーが10数体、鉛色の‥‥ブランカから聞いた『インプ』っていうデビルに似ていたわ、それが2体。あとは『花嫁』なのかしら、馬に乗った女性が1人いたわ」
レイジの質問へ、フィーナは己の目で確認した敵の情報で応えた。
「‥‥そう」
「ああ、ラクス‥‥いくらアンデッドを呼ぶからって、こんなに連れて来なくても‥‥さすがに呼び過ぎ‥‥クスッ‥‥なんてね‥‥」
その数を聞き、スターリナ・ジューコフ(eb0933)は鷹揚に頷いた。その程度の数なら、彼女の唯一にして最強の魔法で対処できると踏んだのだ。この戦いを自らの肥やしにして、更に強くなる──それが、彼女の目標であり、目的だった。スターリナには、強くならなければならない理由があるのだ。
そして音無 影音(ea8586)は小さく嗤う。なんと不利な状況だろう。悪魔に通じる武器は限られているというし、アンデッドは復活の可能性を孕んでいる。対して、こちらの戦力は──考えるだけで頭が痛くなってくる状況に、影音も表情を翳らせる。
「さあ、敵は膨大、勝ち目は薄い‥‥けど、やるしかないなら‥‥」
‥‥やるまでっ!
翳った表情に暗い嗤いを浮かべ、陸奥流の使い手は小柄の柄を握りしめた。
そして、それぞれの想いを抱き、闇を熟む森に足を踏み入れる──‥‥
●夜を産む空
敵の進路が確定的でないため、森の出口で待ち伏せるよりも進路として確定的な場所の近辺で優位な地形を探し、そこに罠を張り、敵を誘い出す方が確実だ──そう判断したアミに従い、馬に跨った遠物見ウォルターと再びミミクリーを使用したフィーナが探し出した地点へと急ぎ移動する。辿り着いてみれば、もう空が赤味を帯び始める時刻だった。やがて紫に染まり、闇に染まってゆく‥‥時間には限りがあるようだった。
「時間が惜しいし、急いで作業をすすめないとね」
「森の中に足や体の一部を引っ掛けられる様にロープを張ったり、落し穴を掘ったり、発見されない様に偽装したり、やれる限りの事はしておきたいですね」
「スコップと、ロープと‥‥使えるものは全部使うぞ、惜しんでいられる状況でもなさそうだ」
アミとウォルターの先導で、簡易的な罠を作成してゆく。レイジ、ビター、影音、テッドの4人が合計で6本ものスコップを所持していたため、あまり大きなものではないが、落とし穴も作成する。こちらは、レイジがプラントコントロールをかければ隠蔽工作も完璧だ。
「ライトニングトラップは‥‥」
アミとスターリナ、そして仲間より兵法の知識の深い影音が、仲間を巻き込まず効率的に使用するため、設置場所を相談しながらライトニングトラップを配置していく。ライトニングトラップは使用方法が限られている分、発生するダメージも大きい。それだけに、設置場所の把握は必須だった。
「敵の進軍を妨げられれば上々でしょうか、ダメージを多少なりとも与えることが出来れば尚良いのですが」
見よう見まねで作った罠を不安そうに眺め、ビターが呟く。しかし、できる限りのことは行った。
覚えたばかりのミミクリーを最大限に活用しているフィーナが、仲間の下へと文字通り舞い戻った。
「そろそろ来るわよ、レイジさん」
「ああ。──バイブレーションセンサー」
仲間達と共に身を潜めるとレイジが呪文を詠唱した。魔法がスカルウォリアーたちの位置を捉える。魔法の効果範囲100m以内の距離まで近付いた敵を更に理想的な場所へおびき寄せるよう、アミが回りこみながら敵へと近付いていった‥‥。
●死を膿む悪意
捉えたのは轟音と閃光、そして耳障りな悲鳴だった。
──バリバリバリバリッッ!!
──バリバリバリバリッッ!!
『グアアアア!!』
落とし穴に仕掛けられたライトニングサンダーボルトが炸裂したのだ!!
二箇所の落とし穴で2体のスカルウォリアーがその体から白い煙を立たせている。そしてコウモリの羽と先端が矢尻のような形をした長い尻尾を持つ醜い悪魔・インプも一匹、右腕を押さえながら憎々しげに周囲を見渡す。
ライトニングトラップの効果範囲は立体的である、どうやら近くを飛んでいたインプも範囲内で巻き込んでいたようだ。
「──ライトニングサンダーボルト!!」
「吹っ飛ばせ! ──グラビティキャノン!!」
ブランカとレイジの魔法が落とし穴で動きの止まった敵へ、一直線に襲い掛かった!! 固まっていたが為に次々と電光に貫かれ、襲い掛かる重力に纏めて転倒するスカルウォリアー、そしてインプ!
(「先生‥‥どうか、私達に加護の力を‥‥」)
(「一番良いのは、依頼を成功させてみんなで無事に帰還すること‥‥ですが、全員が無事に戻ることが困難なら、せめて、仲間たちだけでも」)
そうしている間に、聖なるロザリオを握りしめながら遠き地の師匠へと祈りを捧げたサトリィンと、万一の時の覚悟をも決めたビター、二人の聖職者の呪文詠唱が終了する!!
「私もクレリックの端くれ、これ以上悪魔や死霊をのさばらせる訳にはいかないわ──レジストデビル! スカルウォリアーには突き系の攻撃は効かないわよ、気をつけて!」
「一瞬の奇跡を──グッドラック!!」
茂みに潜む影音を、テッドを、ウォルターを、スターリナを、そしてラクスを──前衛に立つことを選んだ冒険者達を守るべく、聖なる力が包み込んでゆく‥‥
対するデビル・アンデッド混成部隊は剣を抜き、盾を構え、宙に浮いて徐々に散開し警戒を敷いて行く。
「──プラントコントロール!」
レイジの二つ目の呪文が完成し、大木の枝が動く敵を捉えようと意思を持って動き始める。
枝に抱きとめられ、避けようとし、インプやスカルウォリアーの注意が逸れた瞬間、影音が動いた!
「こっちだよ‥‥ふふ、油断大敵‥」
スカルウォリアーの懐に入り込み、シルバーダガーを振るう!! 受けようとした盾は間に合わず、輝く短剣は骨を削った!!
「『アンデッドを呼ぶ男』‥‥渾名が名誉か不名誉はこの際気にしない方が良いのでしょうが‥‥こう言う時は遠ざけて欲しかったですよ‥‥」
「ま、倒せば問題なしっ! だよな?」
──ガッ!!
──ギィン!!
ウォルターとラクスもそれぞれスカルウォリアーに斬りかかる! 片や骨を割り、片や盾に防がれたものの、二人とも僅かに敵より戦闘技術に勝るようだ。
舞うように戦場を駆け抜けるスターリナは回避に専念し敵を引きつけ、遠距離からフィーナがスリングで攻撃を重ねる! 眼窩へ飛び込んだ石はダメージを与え、肋骨の隙間から零れ落ちる。
「うーん、ダメージは当たっているはずなんだけどな‥‥」
苦い笑いを浮かべる。頭蓋で跳ね、勢いを殺がれて転がり落ちる石を見ていると、通っているはずのダメージが無効化されているような感覚に捕らわれる。
飛び出してきた獲物たちを物色する敵の隙を突いて、好機を狙っていたテッドが飛び出した!
「ご遺体でも、人に徒なすつもりならば手加減はしませんよ!」
範囲内にいる敵の数を捕らえ、ルーンソードに全身の力を込めて振り抜いた!! スマッシュの威力を載せた魔法剣の一撃が扇状に広がり、アンデッドに、デビルに、大きなダメージを与える!
「そろそろ、土に還る時間‥‥ふふ」
目の前の敵がテッドの一撃で傾ぐと、薄く笑った影音が銀の探検を一閃した!! その一撃でスカルウォリアーは残された接点をも失い、カラカラと崩れ落ちた。
「でも‥‥骨は土に還るのかな‥‥まあいいや」
与えたダメージ通りの手ごたえを返さない敵に感覚を狂わされながら、それでも冒険者達は一体ずつ、確実に戦力を削っていった。
●従えし花嫁
「‥‥カルロス様のために購入した私の愛の証をモンスターのように扱うなんて、まったく酷い話ね」
黒い馬に跨っているのは、一度は『花嫁』と呼ばれた女性。クラリッサ・ノイエンの姿を写し取った女性だ。頬に残る、まだ癒えきっていない傷跡が、彼女が影武者を勤めた偽の花嫁であると証明していた。
「お前はカルロス伯爵を愛してたのか?」
「愛してい『た』のではなくて、愛してい『る』が正しいわね」
ラクスの問いかけに余裕を見せて応える影武者。彼女の纏う妖艶な雰囲気は、清純な雰囲気を纏う本物のクラリッサにはないものだった。
「──エックスレイビジョン」
小さく唱えた魔法でレイジが見たものは、彼の知る人間の骨と同じように組み立てられた骨。人間の骨だ。
「ちっ、悪魔とは断言できないな」
舌打ちし、小さく洩らしたレイジの次の一手はスクロールだ。手に取り、そこに記された文字を読み解く。
「悪魔とアンデットとを率いる立場の悪魔を射よ! ──ムーンアロー!!」
「きゃあああ!!」
月の光と同色の魔法の矢は弧を描き──影武者を乗せていた馬を貫いた!! 崩れ落ちる馬に女性が悲鳴を上げた!
しかし、彼女が地面に落ちることはなかった。馬の姿からカルロス伯爵に従う山羊の紋章の騎士に姿を変え、悪魔は女性を抱きとめる。不安そうに見上げた女性の洩らした言葉は、その悪魔を示す名前。
「インキュバス‥‥」
安心させるように微笑むその騎士は、彼を見る女性たちには、夢に思い描く理想の男性の姿に映る。
「冒険者ですか、目障りですね。貴女の愛にとって障害にしかなりません」
抱いた女性を地に立たせ、この場の誰にも通じない言語で何かを呟く。そう、それは詠唱のような韻で──
「危ないっ!!」
騎士が自分達を見たような気がして、ビターは全力でサトリィンに体当たりをした!! 吹き飛ぶサトリィン!
そして、ビターの影が爆発した!!
「くっ──シャドウボム!?」
「ビター!!」
慌てて駆け寄り、自分を庇ったビターへリカバーを唱え始めるサトリィン。
「偽花嫁が人間でも、あなた達の好きにさせる気なんて更々無いのよ!」
いざという時の為に、お守り代わりに指に嵌めておいた『誓いの指輪』。聖なる金属で作られた愛を司るその指輪を、スリングに番え、躊躇わずに放つ!!
「ぐうっ!! スカルウォリアー!」
怯むインキュバスの盾になるように、まだ動ける数対のスカルウォリアーが立ちはだかる。
「身代わりは無駄だぜ! ──ムーンアロー!」
「無駄はどちらかな」
スクロールの力を借りた魔法の矢は、インキュバスを傷つけなかった。エボリューション‥‥同じ種類の攻撃で2度目以上のダメージを受けないという、デビル特有の魔法だ。
「2度は効かない」
嗤うインキュバスを、女性が急かした。
「インキュバス、戦うよりも戦力を届けるのよ!」
「どちらが主か勘違いをした人形とは無様だと思いませんか」
場を無視し、黙らせるように口付けたインキュバスの体が黒く光る。デビルの魔法を受けて小さな蛙になった偽花嫁を、インキュバスは躊躇いもなく踏み潰した。人であったはずの生命の火が消える。
「しかし、戦力を届けなければならないのは事実──仕方ないな」
スターリナへ、フィーナへ、ブランカへ、アミへ、影音へ、サトリィンへ──戦場を彩っていた女性達へ、魔性の微笑みを送る。
「私達が逃げるだけの時間をいただきたいのですが」
「ええ、わかったわ」
「わたくしにかかれば、造作もないことね」
「早く行きなさい、インキュバス」
魅了され、僅かに頬を染めた3人の女性に支援され、6体ばかりの傷の浅いスカルウォリアーと2匹のインプを従えて、騎士は姿を消した。
「フィーナ、アミ、ブランカ!! 邪魔だ!」
「レイジ様、少し煩すぎるわ」
蹴りの打撃をソニックブームに乗せ、レイジへスタンアタックを仕掛けるアミ。残されたスカルウォリアーと2匹のインプを打ち倒し、彼女達が正気に返った時には、もう、逃げたインキュバスを追うことはできなかった。
そして、僅かに残されたものはウォルターの手を介してラクスへと預けられる。
「ラクスさん、これを」
「今回は当たりだったんだな」
「‥‥行商人、マントの街まで行ったんだ‥‥フットワーク、軽いよね‥」
残されたもの──そう、それはアンデッドが『行商人』の商品であることを示す、小さなプレートだった。
「打ち洩らしたけれど、とりあえず、任務は成功ね」
サトリィンが呟いた。
夜が、明けようとしていた。