屋根裏の結婚式

■ショートシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや易

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:04月22日〜04月27日

リプレイ公開日:2005年05月01日

●オープニング

 それは日差しの気持ち良い、あたたかな日の午後でした。どれくらい気持ち良いかというと、猫さんが居眠りをしてしまうくらいです。
『ふにゃ!?』
 大きな木の枝で居眠りをしていた猫さんはズリッと落ちそうになって、慌てて前足で枝を掴みました。青みがかった黒い毛並みの美しい、でもちょっとぽっちゃりした猫さんです。何とか枝によじ登ったその猫さんが二本足で立ったのは見間違いかもしれません。猫さんは四本足ですものね。
 さて、その猫さんが居眠りをしている大きな木は、ある家の庭に生えています。その家はとてもおめでたいことに、一人息子さんがお嫁さんを貰うことになったようです。村長さんでもなんでもない、普通の村人さんなのですが‥‥小さな村ですから、結婚式は村を挙げてのお祝いごとです。
 でも、その家のお父さんと村長さんはなんだか困り顔。どうしてしまったのでしょうか。
「うーん。あれが無くなってしまうとはなあ‥‥」
 その村は小さくて、教会がありません。司祭様もいらっしゃいません。結婚式は司祭様の代理もしている村長さんの大事なお仕事なのです。
 そして、この村の結婚式に欠かせないのは銀の燭台です。この燭台に火を灯し、結婚式の前夜から式をする家を清めるのが、この村の習わしなのです。
「よりによって、こんな大事な時にのう‥‥」
 抱えていた灰色の猫を撫でながら大きな溜息をついた村長さんに、お父さんが首を傾げました。
「村長、銀の燭台が無くなることが時々あるのか?」
「うむ、春先に半月ほど行方不明になる時期があるんじゃ。半月できっちり戻るので、悪戯好きの妖精の仕業じゃろうと思っておったのじゃが」
 どうやら、今年はいつもの年より早く行方不明になってしまったらしいのです。早く暖かくなったのが原因でしょうか。
 待てば返ってくるとはいえ、結婚式まで日がありません。村の人たちもお祝いの準備に大忙し、万が一にも延期なんてできません。
「パリの冒険者ギルドにお願いしてみるのはどうだろう」
 お父さんが意を決したように言いました。しばらく悩んだのは、お金のことでしょうか。冒険者ギルドにお願いするとお金がかかります。それは気軽に頼むにはちょっと躊躇ってしまう金額なのです。結婚式で色々と入用なのに冒険者をお願いするのは、ちょっと、財政的に悩んでしまうのも仕方ありません。
「ふむ、燭台を持ち出されたのはわしの落ち度、依頼料はわしも少し持とう」
 頭を寄せ合ってこそこそと依頼料の相談を始めました。このくらいの金額で、いや食費をもつというのも、祝いの間は飲み食いが、まて宿はどうする──冒険者を頼むとなると、依頼するほうも大変みたいです。
 村長のひざの上で灰色の猫が、退屈したように『にゃあ』と鳴きました。そして、扉から覗いている愛らしい白い猫に気付くと、村長のひざから降りました。
『にゃあ』
『にゃあ』
 そして白い猫と灰色の猫は、一度鼻を擦り付けあうと寄り添うようにして外へ出て行ってしまいました。
 村長が愛猫がいないことに気付くのは、話し合いが終わった後になることでしょう。

 その夜。
 ──キシ
 刻々と迫り来る一世一代の大仕事の緊張で眠りが浅かったのでしょうか、新郎は、板の軋む音で目を覚ましました。
 ──キシ
 どうやら、天井裏に何かがいるようです。ネズミでも入り込んだのでしょう。
「もう、この家も古いからな」
 ──にゃあ‥‥
「なんだ、猫か」
 僅かに天井から聞こえる声は、確かに猫の鳴き声です。小さく笑って、新郎はまた眠りに入りました。もし彼がしっかり聞いていたのなら、猫が一匹ではないことに気付いたでしょう。
 彼が天井裏を確認したのなら、そこに沢山の猫に囲まれた銀の燭台があることに気付いたかもしれません。
 銀の燭台の前にいるのは、村長の飼っている灰色の猫と愛らしい白い猫。寄り添う姿はまるで新郎新婦です。
 明け方になると猫たちは屋根裏から消えてゆきました。
 そして銀の燭台を咥えて運ぶのは、大きな枝で居眠りをしていた、ぽっちゃりとした黒猫でした。
『にゃあ』
 ──ゴト。
 一鳴きした弾みに咥えていた燭台を落とし、慌てて拾い上げると駆け出して行きました。前足で燭台を抱えて、二本足で走って行ったのは‥‥今度は、見間違いではないでしょう。
 残念ながら、誰も見てはいませんでしたけれど。

●今回の参加者

 ea4816 遊士 燠巫(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8539 セフィナ・プランティエ(27歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea8989 王 娘(18歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9909 フィーナ・アクトラス(35歳・♀・クレリック・人間・フランク王国)
 ea9960 リュヴィア・グラナート(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb0660 鷹杜 紗綾(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1502 サーシャ・ムーンライト(19歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1966 玖珂 鷹明(35歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ヴィグ・カノス(ea0294)/ バルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)/ 秋 静蕾(ea9982)/ 涼守 桜夜(eb1786)/ 神哭月 凛(eb1987)/ セリオス・ムーンライト(eb1993

●リプレイ本文

 ぽかぽかと気持ちのいい日差しを浴びながら依頼の村へと向かっているのは、冒険者達です。
「犯人は何者だろうな」
「村長さんは、妖精の仕業と思っているようですわね」
「パリで相談したジャパン人の友人は、ジャパンでは子供の姿をした妖精がそういうことをすると教えてくれたぞ。幸運の運び手だそうだ」
 その通りならば浪漫だな!! とリュヴィア・グラナート(ea9960)さんはやる気を溢れさせます。そんな彼女に微笑むセフィナ・プランティエ(ea8539)さん。
「この村でしたら、妖精さんも快適にお暮らしでしょうね」
 妖精さんが犯人だという村長さんの意見は、セフィナさんの心を射止めていました。けれど、セフィナさんの心を占めているのは何よりも猫さんなのです。
「結婚式に欠かせない物が無い、って言うのは拙いわよね。何が犯人でも、頑張って探さなくちゃね」
 フィーナ・アクトラス(ea9909)さんはにっこりと笑いました。フィーナさんの目当ては猫でも美味しいご馳走でもないのです。得意なものは普通の司祭様とは違いますけれど、今回は司祭様らしく、結婚式を無事に挙げさせてあげたくてやってきたのです。サーシャ・ムーンライト(eb1502)さんもその通りだと大きく頷きました。
「絶対見つけて差し上げなくちゃ。──あっ‥」
 そんなお話をしている間にも村は目の前、そして目に映る一匹の猫さん。サーシャさんの目はとろんと蕩けてしまいました。
 鷹杜 紗綾(eb0660)さんに至っては、いつのまにか猫さんを触っています。
「にゃんこさんだ‥‥はにゃ〜」
「紗綾殿、仕事だろう」
 あ、リュヴィアさんに引き戻されました。
「あうう、もっと遊びたいよぅ‥‥依頼じゃなかったらな。ねぇキミ達、銀の燭台しらない? って、知らないかぁ‥‥うにゃー」
 未練たらたらの紗綾さんをちらりと一瞥し、猫さんはくるりと向きを変えて歩き出してしまいました。逃げるほど早足ではなくて、まるで案内をしているかのようにゆっくりとゆっくりと歩きます。
 そして到着した村には──
「猫がいっぱいだ‥‥」
 一瞬緩んだ頬を咄嗟に引き締めて、けれど視線は猫さんたちを追い続けてしまっている王 娘(ea8989)さんは油断すると頬がまた緩みそうになるので必死のようです。
「まずは依頼人から何か情報が無いか聞くか‥‥どうだ?」
「そうだね、それが手軽にできることかもしれない」
 遊士 燠巫(ea4816)さんの提案に玖珂 鷹明(eb1966)さんの同意が出ると、早速行動開始です!


 遊士さんたち6人は村長さんのお家にご挨拶と情報収集に行きました。年長者の遊士さんが代表でご挨拶です。
「今回、パリの冒険者ギルドから派遣されてきた冒険者の遊士だ」
 そして一人ひとりを紹介するという至極簡単なご挨拶をして、早速本題を切り出します。まずは娘さんのようです。
「早く燭台を探し出す為にも村人に事情を話して協力を得たい」
「事情を話して、か‥‥ふむ‥‥」
 村長さん、これには即答ができません。犯人は妖精さんでなければ当然村人でしょう。もし村人が犯人だった場合、毎年無断で持ち出しているのが知られているとわかれば燭台を返しにくくなるでしょう。そして、何も知らなかった村人は犯人を糾弾してしまうかもしれないのです。
 村長さんは、それだけは絶対に嫌だったのです。
「例年運び出されているということだけは伏せていただけますかの? それなら、村人に多少の事情を話すのは構わないのじゃが」
 その回答に頷くと、聞きたいことだけ聞いた娘さんは早々に村長の家を出てしまいました。


 一方、新郎宅へ向かっていたのはサーシャさんと紗綾さんです。
『にゃあ』
『にゃあ〜‥』
「す、す、素敵です‥‥! 猫さんの湧く泉でも在るのでしょうか? それとも、猫さんの王国やご領地でもお在りですの!?」
「うわ、また猫さんだ! はにゃ、遊びたいよ〜‥‥にゃ〜」
『‥‥にゃ〜』
「「きゃー! 可愛いー!」」
 この二人にとっては、まず、新郎の家に辿り着くことこそが、この依頼最大の難所であるようです。


 村長の家に残った5人は、現場検証をするようです。
「その燭台は、どんな形をしているの? それから、どんな場所を探したの?」
 フィーナさんが尋ねると、村長は灰色の愛猫を撫でながら三叉になった銀の燭台だ、と答えました。
「探した場所は、わしの家の中と周辺、新郎と新婦の家の周辺。村人の家以外の考えられる場所は探したつもりじゃ」
 戻ってくればお咎めなしという大らかな村長、必死に探したのは初めて無くなった10数年前以来のことのようです。
「普段は何処に燭台を保管しているんだ?」
「タンスの上に、箱に入れて置いてあるんじゃ」
 そのタンスは、2階の寝室にありました。タンスは大人の背丈より高く、タンスの上に置かれた木箱は、質問をした遊士さんが手を伸ばして取るような高さです。
「誰でも簡単に持ち出せる状況ではなかったわけですね」
 サーシャさんの身長では、箱に辛うじて手が届く程度です。踏み台になるような物を持って入れば大きな音がしますし、村長が寝ていても気付くでしょう。
「燭台の価値はどれくらいなのでしょうか‥‥欲しがっている人や、外部から訪れた方はいらっしゃいましたか?」
「ふむ、相応の値段じゃろうな。高いものや貴重なものではないはすじゃ。‥‥祭儀に使うものじゃし、欲しがる者もおらんかったのう。村の外から来たのは、この数ヶ月ではあんたたちくらいじゃ」
「そうですか‥‥」
 サーシャさんが首を傾げました。それでは村の人たちは盗む理由がないことになりますが、村の人以外の犯人も存在しないことになってしまいます。本当に妖精の仕業としか思えません。
「例年決まった時期に燭台が消えてるって話だし、今年に限らずその時期に何か変った事がなかったか思い出せないかな。特に燭台がなくなる晩と、燭台が戻ってくる晩、何でも良いから気に掛かる事がなかったか、よーく思い出してもらいたいんだけど」
 これには村長も頭を抱えました。気付くと消えていて、気付くと戻っているのです。盗まれた晩のことなんてもちろん解りませんし、戻ってきた晩のこともよく覚えていません。
 うーんうーんと頭を悩ませる村長に愛猫が頭を摺り寄せると、村長は窓の外に目を転じました。
「少なくとも、戻ってくるのは月が綺麗で天気の良い晩ですじゃ。窓を開けて眠りますからのう」
 その窓は今も開けられています。窓に嵌められた板を持ち上げて、つっかえ棒をしてあります。大きさは、板を外してしまえば小柄な人間が抜けられそうなのですが、小柄な人間では踏み台を持ってこなくては木箱から燭台を盗むことができません。けれど、体の大きな人間では入ることはできません。
「あー、じゃあアレだ、犯人は猫だよ。な」
 帰ってきた答えに、玖珂さんはちょっと投げやりです。
「うーん、やっぱりないわねぇ」
 ミミクリーで足を伸ばしたフィーナさんがタンスの上をしっかりと探しますが、やはり見当たらないようです。
「ダメ、猫の足跡しかないわ」
 村長はすっかり腰を抜かしてしまいましたが、フィーナさんは気にしません。サーシャさんは、足が長くなったことでスカートが短くなってしまって、自分のことではないのに頬を桜色に染めてハラハラドキドキしてしまいました。
「ついでだから、家の中で高い場所っていうのも見てくるわね」
 すらっとした長すぎる足を惜しげもなく晒しながらフィーナさんは部屋をでます。そして、窓から外を眺めていたリュヴィアさんも、何故か一緒に部屋を出てしまいました。


 村のはずれで燭台探しをしていた娘さんは、猫の集団を見かけると我慢できずに、撫でようと歩み寄りました。
『‥‥‥』
 避けるように身を捩る猫たちに、娘さんは最後の手段に出ることにしました。パリで大きな友人にもらった丸ごと猫かぶりを着込んだのです!
「ほら、仲間だよ、おいで〜‥‥。にゃ〜ん、にゃにゃー♪」
 穂のついたような形をした雑草を手折り、猫をじゃれつかせます。誰も見ていないと気が緩んだのでしょう、普段の娘さんからは思いも付かないような、穏やかな笑顔です。
 少し慣れたのか、一匹、また一匹と懐くように擦り寄ってきた猫たちを次々と抱き上げ、頬を摺り寄せ唇を寄せました。
「にゃんこ‥‥可愛いにゃ〜」
「‥‥あんた、何やってるんだ?」
「──なっ‥‥!」
 不意にかけられた声は、玖珂さんのものでした。ばふっと真っ赤になった娘さんは茂みに飛び込みました。そして顔を出し、玖珂さんを威嚇します。
「み‥‥みたな‥‥! 誰にも言うなよ‥‥!!」
「わかったわかった、内緒にしておくよ。俺とあんたの秘密だ、ならいいだろ?」
 まだ抱いていた白猫が一緒に顔を出しているので威嚇もとても愛らしく、玖珂さんは思わず噴き出してしまったのでした。


 セフィナさんと紗綾さんは、やっと新郎の家に辿り着きました。
 なんだか手の甲に引っかかれた痕が残っていたりしますが、その表情からは幸せしか感じ取れません。
「っと、猫さんも重要だけど、その前にお仕事しなくちゃね」
 紗綾さんの言葉にひとつだけ頷いて、新郎のお父さんを訪ねました。
 新郎のお父さんは冒険者の二人を快く迎えてくれ、ハーブティーを出して歓迎してくれました。二人がお嬢さんだったからでしょうか。
「あやしい物音や人影をみたり聞いたりはしなかった? 今回以外に村の内外で婚礼があって燭台を使ったとか」
「いや、人物についても婚礼についても、まったく聞いたことがないが」
 紗綾さんはがくりと肩を落としましたが、二人はそんなことではへこたれません。この事件を解決すれば、猫さんと心行くまで遊べるのですもの!!
「では、最近何か変わったことはありませんでした? どんな些細なことでも宜しいので」
 二人のお嬢さんは代わる代わるに質問を繰り返します。
 首を傾げていた父親は、やがてぽつりと洩らしました。
「そういえば、息子が‥‥最近、屋根裏に猫が入り込んでいるとか何とか。一匹ではなく、複数だったようだが‥‥関係ないだろうな」
「猫さんのふりをした犯人だったかも知れません! それこそ、妖精さんですとか!」
 セフィナさん、いつもと目の色が違います。そうかもしれないね! と拳を握る紗綾さんも、いつもよりなんだか気合いが満ち満ちているような‥‥きっと気のせいですね、いつも真面目な二人ですものね。
「屋根裏、見せてもらってもいいかな?」
 了承を貰って覗いた屋根裏は、猫の足跡が沢山ありました。けれど、狭くて入り込めないそのスペースでは細かい調査ができません。
「フィーナさん呼んでこようか」
「そうですわね」
 煤だらけの顔で頷き合うと、二人は一端合流しようと新郎の家を出ました。
 そしてやってきたフィーナさんが今度は首を伸ばして屋根裏を調べてくれました。
「うーん、猫が車座になっていた痕があるわ。それから、真ん中に何か丸い痕があるわね」
「きっとそれですわ!」
 その丸い痕は、燭台の台座の形とピッタリ一致したのでした。


 窓の下で、リュヴィアさんがグリーンワードを唱えました。
「燭台を持っていったのはどの位の大きさの者だったかわかるか?」
 けれど、その木は答えました。
『しょくだいってなに』
 そう、外に生えている木は燭台を知らなかったのです。
「銀色で、先が三つに別れていて‥‥」
 説明に説明を重ねて、引き出せた情報は、リュヴィアさんをびっくりさせました。
『くろい2ほんあしのねこがもっていった』
「2本足の猫!?」
 木の枝で眠っていたぽっちゃりとした黒い猫が、眠たそうな眼でリュヴィアさんを見て、また眠りに落ちてゆきました。


 そしてその夜、新郎の家には冒険者達が集まりました。そして‥‥沢山の猫たちも。
 ──キシ
 ──キシ
 天井の板が音を立てます。
『にゃあ』
「猫さんがいっぱいですわ♪」
「でも、まさか猫さんが犯人なんて‥‥」
 セフィナさんとサーシャさんは並んで天井を覗いています。そこには沢山の猫たちがいて、その真ん中に銀の燭台があります。さすがに蝋燭は立っていませんし、火もついていませんけれど。
 燭台の前にいるのは、村長の灰色の愛猫と愛らしい白い猫、まるで新郎新婦のように寄り添っています。そして燭台の隣に司祭様のように座っているのは、リュヴィアさんが昼間見た、あのぽっちゃりとした黒猫です。
「奪うのは簡単なんだけどなぁ」
 玖珂さんも、少し悩んでしまいます。猫を見ていた遊士さんは溜息を洩らし、目を逸らしました。遊士さんは結婚をしていますが、結婚式を挙げていないのです。寄り添う猫たちを見ていると、なんだか罪悪感を覚えてしまいます。
「友人からテレパシーのスクロールを借りたのだが、リュヴィアは使えたな。交渉を頼んでも良いか?」
「娘殿‥‥それはありがたい」
 少しでも混乱を起こさないために猫たちが解散するまで様子を見ていた冒険者たちですが、明け方になって猫たちが減り始めると、リュヴィアがスクロールを広げました。テレパシーの発動です。
『猫殿。その燭台を渡してはくれないか』
 突然話しかけられてビクッッ!! と立ち上がり、二本足で立つと燭台に抱きつきました! よほど驚いたのでしょう。
 そして二本足で立った猫を見て、紗綾さんは呟きました。
(「猫の妖精、ケット・シーだよ。初めて見た‥」)
 猫はしばらくリュヴィアを見つめていましたが、ボソッと答えました。言葉というより単語のイメージで送られてきます。
『これは我輩の。あげない』
『渡してもらわなければ困る人がいるのだ』
 知らない、と黒猫はツンとそっぽを向きました。困ったリュヴィアは悲しそうに告げます。
『それでは、村の人たちは猫たちのことを嫌いになってしまうかもしれない』
『‥‥』
『一緒に使ってくれたら、猫たちのことがもっと好きになるだろうに。ご飯もきっと、いっぱいくれるに違いないのだが』
 じゅるり、と黒猫はよだれをたらしました。好いてくれるのなら、猫の妖精としては望むところ。しかもご飯をくれるのですから、この猫にはたまりません。
 一緒に使う、というイメージを送りながら、猫の妖精ケット・シーはトテトテと歩き、うっとりと眺めていたサーシャさんに燭台を預けると、ぺこりと頭を下げ、猫のように四足で駆け出しました。
 サーシャさんは、娘さんと紗綾さん、そしてセフィナさんから羨望の眼差しでジトーッと見つめられたのでした。


 翌日。
 結婚式の会場には人が溢れ、そしてあちらこちらに猫の姿が見えています。
 幸せ溢れる花嫁さんと会場の隅で寄り添う2匹の猫、そして沢山のご馳走に、冒険者たちは頬を緩めるのでした。

●ピンナップ

王 娘(ea8989


PCシングルピンナップ
Illusted by 雪野吹雪