愛の投球、琵琶語り

■ショートシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月30日〜05月05日

リプレイ公開日:2005年05月08日

●オープニング

 パリから徒歩で2日ほどの場所に村がある。
 街道沿いという以外には大きな特色もない宿場町だが、街道沿いというだけあって人の出入りは多い。けれど、隣に大きな宿場町があるためにあまり滞在するひともいない‥‥そんな村だった。
 その村には大きな宿が1つあり、村人の多くはその宿で働いている。
 その宿から、パリの冒険者ギルドに依頼が届いた。

「何があったのですか?」
 エルフのギルド員、リュナーティア・アイヴァン嬢が尋ねた。嫁き遅れの感があるが、ギルドに出入りする冒険者も多くが晩婚であることからあまり目立たない。しかし、女性ギルド員たちに対して、嫁き遅れという単語はタブーである。
 さて、ギルドに訪れた依頼人の代理人──依頼人は宿の主であるため、宿から離れられないという──は険しい表情を浮かべた。
「営業妨害があるのです。いえ、営業妨害というほど酷いものではないのですが‥‥これがとても酷くて」
「ええと‥‥‥‥」
 混乱した物言いに一瞬混乱が伝播したリュナーティアだったが、なんとか立ち直ると話を整理する。
「つまり、営業妨害という程の悪意はないものの、充分に営業を妨害されている、ということでしょうか‥‥」
 うんうんと大きく頷く代理人。
「本人たちはしゃがれ声の歌い手と琵琶奏者の二人組みという、ただの吟遊詩人なのです。ちょっと‥‥その‥‥うるさ、いえ、賑やか過ぎるだけで‥」
 リュナーティアは、表情には出さなかったものの思わず同情した。宿場町でうるさいほどに賑やかなバードは、確かに迷惑以外の何者でもないだろう。
 しかも、彼の話にはまだ続きがあった。
「チャームやメロディはともかく‥‥た、卵を投げるんです」
「‥‥‥え?」
「俺の愛を受け取れ! と‥‥数少ない聴衆に‥‥」
 大きな街なら酒場や宿屋、公園、街角などで歌うのだろうが、あいにく小さな村にそんな気の利いた場所は無い。
 夜は酒場や宿屋で良いのだろうが‥‥昼間は、その村で『街角』と表現するならば村の外れ、街道が村へ入ってくるまさにその場所。
「店だけじゃありません、村全体の死活問題なのです!!」
 それは大げさかもしれないが、手痛い損害なのは確かだろう。
 しかし、彼らとて迷惑をかけたくてそんなことをしているわけではない。自分達の歌を、愛を、受け取ってほしいだけなのだ。
「‥‥追い出せば良いのですか?」
「はい、お願いします‥‥出来れば、彼らが納得する形で村から出して欲しいんです」
 彼らの条件は、自分達の曲以上に魂のこめられた曲を聞くこと。
 歌いながら、自分達以上の愛を表現するこを。
 そして、愛を受け止めてくれること。
「──歌は魂だ、心だ、そしてノリと勢いだ!! それが彼らの口癖なのです」
 ‥‥こういった依頼は私の担当ではないのだけれど、とリュナーティアは同僚をちらりと見た。しかし、話を聞いた以上はどう足掻こうともリュナーティアが担当だ。
 諦めて内心で溜息を吐くと、依頼書としてまとめ始めたのだった。

●今回の参加者

 ea1585 リル・リル(17歳・♀・バード・シフール・ノルマン王国)
 ea1849 リューヌ・プランタン(36歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2848 紅 茜(38歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5900 ニィ・ハーム(21歳・♂・バード・シフール・イギリス王国)
 ea9114 フィニィ・フォルテン(23歳・♀・バード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0578 ツグリフォン・パークェスト(35歳・♂・バード・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

シルバー・ストーム(ea3651

●リプレイ本文

「♪ 俺を見ろ! 愛を叫べ!」
 馬車を使い一足先に村へ到着した紅 茜(ea2848)とリル・リル(ea1585)が問題の二人組みを見つけるのに、さほど時間はかからなかった。
 いや、全くかからなかった‥‥村に入る前から聞き覚えのない珍しい楽器の音が響いていたし、響き渡る大きなしゃがれ声が出迎えたからだ。声のする方へ向かうと、気合いの溢れる二人組みが熱唱を終えたところだった。
 まばらながらも拍手が沸き、二人の足元へ銅貨が投げられる。
「ふーん、お客さんがいないわけじゃないんだねぇ?」
 リルは茜の肩から顔を覗かせながら首を傾げた。問題の二人は歌が下手なわけでも、楽器が下手なわけでもなく、ただその素行が独特すぎるだけであるようだ。
「はじめまして、パリのショコラガールズ、まねーじゃの紅 茜です。ねぇ、歌の勝負とかしてみる気、ないですかっ?」
 愛の歌の‥‥と続く言葉を口にする間もなく、歌い手のジャパン人が拳を突き上げた!
「勝負!? 受けて立ってやるぜ!!」
「‥‥受けるにしても話ってもんがあるだろう‥‥まぁ、構わないけどな」
 楽器担当のノルマン人は言っても無駄だと知っているのだろう、銅貨を拾いながら肩を竦めるだけだった。
「愛は押し付けるものじゃないし、どれだけ伝えられるかが吟遊詩人の腕の見せ所だもんね〜」
「じゃあ、明日のお昼‥‥場所は、えぇと、村で一番大きい宿の前でいいかな?」
 できるだけ派手に、という相手の言葉に頷くと、茜とリルは早速準備のため走り出すのだった。頑張れ、まねーじゃー!!


 翌日、踊り子の衣装を見に纏った茜は元気よく仲間たちを迎えた。リューヌ・プランタン(ea1849)は茜の服装に我が身を振り返る。
「やはりそれなりに目立つような格好などした方がいいのでしょうか‥‥歌には自信がないですし‥‥」
 けれどリューヌは衣装も礼服も持ち合わせておらず、服は普段着より少し質の良い桃色の服。少し大人しすぎたかと悩む彼女の頭にリルが降りて、鼻歌混じりにオレンジ色の羽をパタパタとはためかせた。
「大丈夫だよ〜、吟遊詩人に必要なのは衣装より歌と音楽! だもん〜♪」
「そうですわ、心のこもった音楽が私たちの全てです」
 愛馬フィンにテレパシーで労いの言葉をかけながら、フィニィ・フォルテン(ea9114)がリルの言葉に微笑みを浮かべて同意した。ツグリフォン・パークェスト(eb0578)は念入りな調整を終えた竪琴をかき鳴らし、満足気に頷いた。
「そう、音楽が全てだから全力で当たらないといけないわよね。あたしの準備はバッチリだけど、皆はどうかしら?」
「僕は大丈夫ですよ。歌も楽器も、しっかり準備しましたから」
 蝶を模した派手な仮面をつけたニィ・ハーム(ea5900)は仮面に隠れない口元に大きく笑みを浮かべて見せた。


 6人が約束の場所へ着くと、二人組みのバードはビシィ!! と指を突きつけてきた!
「はっはっは!! 俺達に恐れをなして逃げ出したかと思ったぞ!」
「まだ時間前ですよね?」
「言ってみただけだ!!」
 ジャパン人の二ィの冷静な言葉に胸を反らしていう二人組み、どこか自慢気なのは何故だろう。
「表現の仕方は人それぞれですし、自由なものですけど‥‥卵を投げるなど『押しつける』やり方は受け入れられません‥‥」
「そう、リューヌちゃんの言うとおりだよっ。吟遊詩人は愛をおしつけたりするものじゃないんだぁ〜!」
 気合い一番、シフール仕様の小ぶりな竪琴を抱えて正面へと飛び出したのはシフールのリル!!
 竪琴をぽろろんとかき鳴らすと、落ち着いた、緩やかな曲を奏で始めた──

『懐かしい キミとの思い出 霞んできて
 忘れたくない 時が止まれば忘れないでいるのかな?』

 切ない歌は自分の抱く恋心を歌った歌だ。彼を見送ってもう8ヶ月‥‥イルカのイーくんにはその後、一度も会えていない。

『儚いぬくもり 手のひらで感じた
 一緒に遊んで 笑ったよね
 今どこにいて 何してるのかな?』

 耳を傾けていたフィニィの胸にもリルの想いが染み渡り、ぎゅっと締め付けられるように痛んだ。

『あたしはこの瞬間 ここで願ってる
 今 とてもキミに逢いたい‥‥』

 涙が頬を伝い、地面に丸い染みが落ちる。
「‥‥うう、イーくん‥‥どうかイルカプディングになっていませんように‥‥」
 恋する聴衆を巻き込み、自らも共に涙する。イルカ肉のプディングはイギリスでもノルマンでもご馳走なのだ‥‥イーくんの人生はとても厳しい。
「イルカプディングか、うん、あれは旨い! この勝負に勝ったら久々に食べるか!!」
「えぇっ!? うわぁぁん、イーくんが〜っ!!」
 よだれを拭う二人組みに、リルの愛、完敗!!
「次はあたしよっ!!」
 ヨロヨロと舞台を降りるリルを抱きとめ、ツグリフォンが舞台へと駆け上がった!!
 念入りに調整した人間サイズの竪琴は、シフールサイズのそれより大きな音で聴衆の耳に柔らかな音色を運ぶ──

『僕は不器用で愚かな男‥‥
 それでもただ‥‥一途にキミを想う
 その温もりを確かめたくて
 そっと身体を抱きしめた‥‥』

 女性のような言葉遣いを忘れさせる、朗々とした低い声。大きく、小さく、切々と愛を詠う。

『ああ不格好でも構わない
 だけどそれでも気付いてよ
 何処までも時を越えて
 ギュッと掴まえていたい
 キミとのココロを‥‥ずっと繋いでいたいから‥‥』

 哀愁の込められた弾き語りは、乙女を想う男性たちの心を揺さぶった。想われる女性たちも甘酸っぱい想いに頬を染める。
「ツグリフォン君、かっこ良かったよ〜!」
 送られる拍手は決して少なくはなかったが、二人組は感じるものがなかったようだ。
「あんたらの曲はなんかしみったれた暗いのばっかだな」
「俺達の曲を聴いて考え直せ!! イエイ!!」
 突然の叫び声を皮切りに、楽器担当の青年がものすごい勢いで琵琶をかき鳴らし始めた!!

『愛はまるで炎のようで 心はただ燃え上がる
 氷のごとく凍みた心 それはそう、もう過去のこと Ja!』

「腕とか攣(つ)らないのかな‥‥」
「そうよねぇ‥」
 あまりの楽曲の激しさにリルとツグリフォンが顔を見合わせる。

『恐れず立ち向かうんだ 愛はそこで待っている
 恐れずに飛び込むんだ 愛は底に沈んでいる』

「沈んだらダメじゃないでしょうか‥‥」
二ィが思わずボソっと呟いたが、二人組には届かなかったようだ。

『温かい心忘れたなら 思い出すまで心燃やせ
 いつかその殻破り捨て 愛が産声上げる日が──
 きっと来るさ!!』

「この悪魔的なまでの激しさは‥‥苦手な方は苦手、理解できない方は理解できない‥‥というところでしょうか」
 フィニィは知らず知らずの内に足でリズムを取り、しゃがれ声に耳を傾けていた。

『俺を見ろ!
 愛を叫べ!
 共に歌え!
 炎が焦げるまで!』

「これが俺の愛だ!!」
 高らかにタマゴを掲げる歌い手!!
「来るかもっ!!」
 茜とリューヌは観客の中を走る!
「俺の愛を受け取れ!!」
 高らかに投げられるタマゴ!!
 放物線を描く白いタマゴはスカートを摘んでフォローに入るリューヌの頭上目がけて降下をはじめ‥‥
「リューヌさん、危ないっ」
 慌ててジャンプした茜の手の中に、タマゴはすっぽりと納まった!!
「あなたの愛! 私が確かに受け取りました!」
「茜ちゃん、かっこいい〜」
 ──ぐしゃっ。
 楽器担当の青年から同時に投げられていた二つ目のタマゴは、歓声を上げながらもとっさに避けたリルと仮面の二ィの間を抜け、ツグリフォンの額に命中していた!!
 ぐっと親指を突き立て、ニカッと爽やかに笑う歌い手。大きく息を吸い、続きを紡いだ。

『太陽のように燃えて 全て燃やし尽くすのが‥‥愛!!』

「あーあ、すっかりタマゴも滴るいぃ男になっちゃったわね。‥‥そんなに愛に飢えているなら、あたしのこの胸板でどーんと受け止めるべきかしら?」
 キラーン!! 一瞬危険な輝きを瞳に浮かせたツグリフォンだが、もちろん、そんな趣味はない‥‥はずである。
 リルがパタパタと羽を動かしながら歌い手の頭に乗っかり、その額をペシッと叩いた。
「お兄さん達、卵投げつけるのはダメだよ〜、貴重なのにもったいない」
 同じように羽を動かして弾き手の肩に立ち、頭に肘をつくニィ。
「それに、食べ物で遊んじゃいけませんって‥‥今どき子供でも知ってますよ?」
「子供以下‥‥」
 謎の二人組、脱落!!
 舞台で頭を下げるニィ、どうやら次は彼の番のようだ。
「じゃ、次は僕ですね。『タマゴの欠片を愛で照らそう』、聞いてくださいね」
 シフールサイズの竪琴をぽろろんと鳴らし、歌い始める。

『星空、浮かぶタマゴの欠片。
 お日様照らす、クリーム色に。
 タマゴを見上げるちっちゃい僕ら。
 だけど僕らは『愛』を知ってる』

 鍛えられた良く響く声は、竪琴の音に乗り静かに広がる。

『タマゴを見上げ歩き続けても、
 はてなく遠いタマゴの光。
 僕らは儚くちっちゃいけれど、
 とてもでっかい『愛』を持ってる』

 月に例えられたタマゴ、タマゴに例えられた月。茜は手の中に納まったタマゴを青い空にかざす。
 タマゴを掲げた茜は、青い空にうっすらと浮かんでいる月に気がついた。
 じっと空を見上げ続ける茜につられ、リューヌも空を、月を見上げた。

『タマゴの下で生まれた奇跡。
 愛する心、全ての人に。
 欠片が照らす、愛する光。
 はてなく光る、タマゴの欠片』

 フィニィは月の歌に身を委ねるように、曲に合わせて体でリズムを取っていた。実は、まだ歌う曲を決めていなかったのだが‥‥幼馴染シルバー・ストームの言葉が耳に蘇る。
(「楽しそうに歌うのが貴方の良いところでしょう? 悔いの残らぬように歌ってきなさい」)
 ニィの曲を聴きながら、フィニィは歌うべき曲を決めた。

『僕らは生きる。タマゴを見上げ。
 欠片と共に、いついつまでも。
 輝くタマゴ、ちっちゃい僕ら。
 愛する心、照らしつづけて』

 ──ぽろろん♪
 竪琴を鳴らして優雅に一礼すると、ニィはフィニィと交代した。
 リューヌも馬から琵琶を下ろし、フィニィの隣で一礼する。緊張するリューヌに、フィニィが微笑を浮かべて囁いた。
(「音は気持ちで奏でる物ですから、いつもと同じ様にやればいいんですよ」)
「ニィさんと同じ、月の歌です。『月のように』‥‥聞いてくださいね」

『♪お陽様の様に 実りを運ぶ 輝きは無いけれど
 夜空に光る あの月の様に 優しく力になりたい』

 ゆっくりと響き渡る歌は、達人と呼ばれる歌唱力を伴っていた。

『お陽様の様に 全てを照らす 輝きは無いけれど
 夜道を照らす あの月の様に 道行く力になりたい』

 一人、また一人と‥‥聴衆は茜と共に月を見上げ、そっと目を閉じる。

『闇夜を照らす 月の様に♪』

 歌の、琵琶の、余韻が引くのを充分に待って──フィニィとリューヌは微笑み合い、茜を招いて3人で客席に礼を示した。
 満場の拍手がショコラガールズとフィニィの3人を包み込んだ。
 否、それは3人だけを包み込んだものではなく‥‥
「シフールの二人も、良かったぞ!!」
「女みたいな兄ちゃん、あの歌、また歌ってくれよ!!」
「タマゴの2人組もな! あんたたち、嫌いじゃないぜっ」
 冒険者6人とタマゴの2人組は一列に並び、割れんばかりの拍手に頭を垂れた。
「月か‥‥あんた達みたいに、もっとスケールのでっかい愛を歌わないとだめだな。完敗だ!!」
「愛に対するその素晴らしいエネルギーは私にとって羨ましくすらあります‥‥」
 リューヌが握手を求めると、楽器担当の青年が握手に応じた。ツグリフォンも歌い手に握手を求め、その二人の手にフィニィが白い手を重ねた。
「良い勝負だったわ。今度は一緒に歌いましょう」
「歌は確かに自己表現の手段ですが、一方的に押し付けてはダメですよね。音楽だけで勝負しても、充分認められると思います」
 リューヌは、相棒の言葉に深く頷いた。
「表現の方法は難しいですけれどきっと貴殿の『愛』を表現する方法はあるはずですから‥‥頑張ってください」
 タマゴの2人組はぐっと拳を握って空に突き上げた!!
「──おう!! 今度会うときは負けない歌を作ってくるぜ!!」
「その前に、今日の記念に‥‥一度、一緒に歌っていかないか?」

 その晩、勝負の会場になった宿には人が溢れた。
 竪琴、琵琶、太鼓、三味線、オカリナ‥‥そして、人の奏でる天より授かりし楽器、歌。
 ──愛の歌が溢れる場所に、争いはない。
 いつか、愛の歌が世界中を包み込む日が来るように‥‥祈りを乗せて。

 歌声は、タマゴのような白磁の月へと夜空を昇って響き渡った。