【鬼種の森・番外】オークの牙痕

■ショートシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 69 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月04日〜05月14日

リプレイ公開日:2005年05月13日

●オープニング

 鬼種の棲む森、オーガの巣と呼ばれる場所がある。
 そんな場所でも、宙に浮いているわけではない以上、どこかの領地に組み込まれているわけで──当然、領主というものも存在する。
 街道が走っている周辺、交易の基盤を中心として住み着いてしまったオーガ種によって領地の交易収入は圧迫され、蹂躙するオーガ種によって近隣の村の生活は脅かされ、しかも繁殖してしまって駆逐もできず、と、領主にとっては頭痛の種でしかありえなかった。

 そして領主はオーガの巣を何とかできないかと思案し、冒険者を雇ってオーガの巣の調査を行ったのだが‥‥住処を荒らされ刺激を受けたオーガ種たちが森から現れ人里を襲撃するという、文字通り藪を突いて蛇を出す惨劇を引き起こし、その勢いは未だ衰えない。
 舞台は、その際にオークに襲撃された村である。

「村長‥‥またオークの陰が‥‥畑を荒らしたようです」
「それから‥‥食料庫の備蓄も、もうさほど残っていません」
「えぇい、常日頃から充分な備えをしておけとあれほど‥‥!」
 非常事態の想定というのは、常時には困難である。馬車がグリフォンに襲撃されたりすることを常々考えている御者がいないのと同じように。
 だが、横たわる現実は変わらない。領主は冒険者を派遣したことでオークが退治されたと判断したのか、増援は送ってはくれなかったのだ──実際は、オーガ種の襲撃が続き、オーク程度に裂く兵力がなかっただけなのだが。
「むぅ‥‥このままでは我々もジリ貧だ」
 増援を送ってくれなかったとはいえ、彼らに頼れるのはやはり領主しかいない。
 冒険者ギルド? 馬車で一日、船で二日、それを往復分という決して安くはない交通費を払うほどの余裕は、村には残されていない。そう、パリは‥‥遠いのだ。
 こうして今日も領主に早馬が出され、領主は冒険者ギルドに依頼をし、ギルドには依頼書が張り出された。

 ──求む、冒険者。
 仕事内容は以下の3点である、気をつけられよ。
 1.パリからの保存食護衛。
 2.付近に住むオークの殲滅。
 3.畑の梳き込み。

●今回の参加者

 ea0277 ユニ・マリンブルー(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea2148 ミリア・リネス(21歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea2850 イェレミーアス・アーヴァイン(37歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea2938 ブルー・アンバー(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3853 ドナトゥース・フォーリア(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 ea7363 荒巻 源内(43歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7431 フィソス・テギア(29歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea7841 八純 祐(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea9711 アフラム・ワーティー(41歳・♂・ナイト・パラ・ノルマン王国)
 eb0342 ウェルナー・シドラドム(28歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

エリシア・リーブス(ea7187)/ 玖珂 鷹明(eb1966

●リプレイ本文

●まずは保存食を護衛する。
「あれが、目的の森?」
「そんなに乗り出したら危ないですよぅ〜」
 パリでの初仕事という軽い興奮も手伝ったのか、馬車から身を乗り出して広がり始めた『オーガの巣』と呼ばれる森に興味を示すユニ・マリンブルー(ea0277)をミリア・リネス(ea2148)が慌てて止める。慌てているようには見えないが、慌てているのである。
「平和だな‥‥」
「見かけだけでしょうけれどね」
 馬車の入り口に陣取りながら、ユニとは対照的に落ち着いた様相で傭兵イェレミーアス・アーヴァイン(ea2850)は少しずつ近付いてくる禍々しい森を見遣った。その視線を追ってウェルナー・シドラドム(eb0342)も森を見る。内部に大きな変化が訪れていることなど感じさせず、森は、以前仕事で訪れたときと何ら変わらない姿で待ち構えている。
 馬車には乗らず、愛馬に跨るブルー・アンバー(ea2938)は周囲を見回した。
「でも、本当に襲撃されないですね‥‥なんだか大人しすぎて気味が悪いですよ」
「ブルー、襲撃を期待しているのか? 襲撃がないならそれに越したことはなかろう? 大事な食料だ、なんとしても無事に村へ送り届けねばならん」
「期待してるわけじゃないんですが‥‥フィソスさんも相変わらずですね」
 同じく愛馬に跨るフィソス・テギア(ea7431)に釘を刺され、ブルーは柔らかな金の髪を揺らして苦笑した。『フィソスさん』と呼ばれ一瞬表情を固くしたフィソスに、アフラム・ワーティー(ea9711)は思わず笑みを浮かべた。
「若いということは、やっぱり良いことですね」
「冷たくも美しい、神に愛されし君‥‥想い人がいるなら妻にするのは諦めるしかないさね」
 飄々と、本気とも冗談ともつかぬ一言を口にしたのはドナトゥース・フォーリア(ea3853)だ。彼の密かな願望を知る人は、この場には居ないようである。
「村が見えてきたぞ」
 先行する八純 祐(ea7841)の言葉に、馬車の片隅で沈黙を守っていた荒巻 源内(ea7363)が初めて動いた──と言っても、進行方向を一瞥しただけだが。

 襲撃されることもなく、無事に保存食を運び込んだ冒険者を村人は諸手を上げて歓迎した。

●村に着いたら工作タイム。
「襲撃にくるオークは3匹なんだって。でも、ウェルナーの話じゃ追い返したオークはもっと多いはずだよね?」
「同じ個体かどうかは、村人では判断がつかないだけじゃないのか」
「あ、そっか。でも『メロディ』で追い返しただけじゃ、効果が切れれば戻ってきても仕方ないよね」
「‥‥よし、トラップは完了だ。すまない、助かった。トラップの場所は他の村人たちにも伝えておいてくれ」
 八純は手伝ってくれた村人たちへ短く礼を述べ、次の指示を出した。以前冒険者の指示でバリケードを作った経験もある村人たちは、設置したブービートラップを満足気に眺めると他の村人へ罠の位置を知らせに散っていった。
 逆に集まってきたのが冒険者たちだ。
「うーん、オークの襲撃によって生活もままならない状況になっているようですね‥‥村人の安全の為にも、早めに解決しなければなりませんね」
「そもそも、農業は国の礎だ。早急にオークどもを駆逐し、村人が安心して農作業に精を出せるようにしなければいかんな。生活のこともあるゆえ」
 被害状況の確認をしたブルーとフィソスは、踏み荒らされ、あちこち掘り返された畑を目の当たりにし、オークを殲滅しなければならない必要性を強く感じたようだ。ウェルナーと荒巻が偵察から戻ると、善は急げとばかり、日の高いうちにオーク退治へ向かうことにしたようだ。
「村のことは俺たちに任せるさー」
「気をつけてくださいね」
 ドナトゥースと八純、そしてアフラムの3人を村に残し、冒険者達は地図と荒巻、ウェルナーの先導で森に入っていった。

●襲撃、オークハウス!
 7人が辿り着いたのは小さな洞窟だ──正確には、少し離れた森の茂み。ここにきて初めて、荒巻が皆の前で口を開いた。
「あれが地図に示された巣穴、先ほど確認した限りでは、オークは8匹だ。俺はオーク戦士の見分けはつかんが、ウェルナー殿は見分けがつくそうだ」
「はい、一度剣を交えましたから間違えません。オーク戦士も一緒にいました」
 ウェルナーは一度、このオークたちとの戦闘を経験している。討ち洩らしたオークが村へ攻撃を続けているなら見過ごすことはできない、と再びこの村に足を運んだのだった。
「闘争意欲を削いでも魔法の効果は一時的、しかも自分達で殺し合いをしてくれるわけでもない。農作物で味を占めてしまったなら、オークの本能がある以上、退治しなければ同じことの繰り返しだろうしな」
 すぐに騎士が来れるほどの余裕がなかっただけだと思っとけ? ウェルナーの肩を叩き、イェレミーアスがニカッと笑った。
「あ、出てきたっ! 先手必勝、行っとくねっ」
 仲間たちの準備があらかた済んでいることを視線で確認し、ユニはミドルボウを引き絞る! 張り詰めた弦から一直線に飛んでゆく矢は、オークの肩口に突き立った!!
『GRUUUAAAA!!』
 血走った目で矢の放たれた方向を睨み、勢いある咆哮を上げるオーク!! 洞窟からは5匹、6匹とオークが次々姿を現した。飛び出そうとしたイェレミーアスをミリアが止める。その手に冒険者の間で愛用されているアイテム、スクロールが握られているのを見てイェレミーアスはミリアの主張を察した。
「広範囲で行きます。下がっていてください──ライトニングサンダーボルト!!」
 おっとりした彼女とは思えない強い口調でスクロールに記された精霊碑文を読み上げると、ジグザグに折れ曲がる雷光が進路上にいたオークを巻き込みながら、洞窟入り口へと伸びた!!
「援護するよ、がんがん行っちゃって!」
 冒険者に気付き鈍重な動きで駆け寄るオークたちへ牽制の矢を放ちながら、両手の塞がったユニに顎で促され‥‥戦士達が走り出した!

●村に居残り‥‥何をする?
「さーて、信じる神は違っても人々を守るのは剣持った者の使命さね。‥‥でもまぁ、警備といってもオークが来なけりゃ時間が余るし、畑を大切に耕すさー」
 日本刀は腰に刺し、村人から借りた鋤(すき)を担ぎ上げたドナトゥース、張り切っているのは久々の本格的な農作業ゆえだろうか。専門的な農作業をこなす美丈夫ドナトゥースに使われる鋤、農耕具なのに妙に輝いて見えるのは何故だ。
「駄目になった麦やオークの糞尿も土と混ぜれば還元される、自然は偉大さね」
「では、僕は食料庫の見える辺りの畑を担当しましょうか」
 言った端から畑を耕し始める胡散臭いエジプト人に苦笑しながら、アフラムも日本刀は忘れず身に着け、慣れぬ農耕具を担ぎあげた。そしてドナトゥースから少し離れた畑の担当になる。
 爪を噛み少し思案した八純も農作業に精を出すことに決めたようだ。
「村人の協力で思ったより早く罠も仕掛け終わったし、俺も畑の方を手伝うとしよう。──仕方がないとはいえ、なんだか働き詰めだな」
 軽く首を回すと八純も鋤へ手を伸ばし‥‥

 ──カラカラカラ

 仕掛けた鳴子が異変を知らせて鳴り響く! 温厚な空気に緊張が走る!!
「向こうだ!!」
 農耕具を投げ捨て、鳴子の仕掛けられた方向へ八純が仲間を誘導すると、そこにはいたのは3匹のオーク!!
「八純さん、村人の誘導を!」
「分かってる! しばらく持ちこたえろよ!」
「了解〜っとか言うは易し行うは難し。ジャパン人はいいこと言うさね」
 マイペースな態度はそのままに、ドナトゥースは日本刀を振るう! 避けられた勢いで身を捩り、オークの振るう槌を避ける!
「持久戦はできません、勢いで押しましょう! ──オーラパワー!」
 アフラムからオーラパワーを受けるや否や、何時の間にか握っていた土を投げつけ目潰しを謀るドナトゥース!
「オークの相手より農作業の方が、人間、大事なもんなのさ!」
 自ら行った目潰しを利用し、ブラインドアタックEXとシュライクEXのあわせ技を放つ!! その一撃は、ただその一撃だけでオークに重傷を与える!!
「さすがですね。はっ!!」
 気合一閃、自分へも同様にオーラパワーをかけたアフラム、オークへ攻撃を仕掛ける!
 村人を教会へと避難させた八純が戻れば、3対3といえども冒険者にかなりの分があった。
 ──3匹目のオークも、やがて、その生命活動を停止させた。

●穴蔵とオークと。
 促されて先陣を切るのはロングソードを煌めかせたイェレミーアス!
「相手が悪かったと思え!!」
 大きな体でフェイントを多用した戦法はオークを惑わし、容赦のない攻撃がオークの体力を削いでゆく!
 追うウェルナーはオフシフトで引きつけたオークを翻弄しつつ、カウンターアタックで後の先を奪う!!
「今度はしっかり片を付けさせてもらいます‥‥森の付近でも、皆が安心して暮らせるように!!」
 攻撃をすればするほどに攻撃を受けるジレンマに、オークが焦れて雄叫びを上げる! しかしウェルナーは自分の戦法で、確実にオークの体力を削ぐ‥‥。
 相手が悪いと思ったか、それとも臆病な性格ゆえに殺気にあてられたか‥‥じりじりと冒険者から離れたオークには、矢とライトニングサンダーボルトが見舞われる! そう、後方からの援護が戦場から離脱することを許さないのだ。
「ふう、解っていても‥‥何だかかわいそうになってしまいますねぇ〜」
「でも、殲滅が仕事だもんね。っと‥‥逃がさないっスよ」
 次第に息が上がってきたミリアは、逃げるオークへ狙いを定めた隣のユニがニヤリと昏く禍々しくさえ思える笑みを浮かべたことには気付かない。
 そして放たれた矢はこめかみに突き刺さり、オークの生命を奪った!!
「こいつ‥‥強い」
 オーク戦士と対峙してしまったのはブルーだった。避けきれぬ痛烈な一撃がブルーを襲う!
「ぐっ!!」
 横殴りの一撃に吹き飛ばされそうになるも、何とか踏みとどまる!! 名と同じ青い瞳を燃やし、負けじと太刀を振るうブルーの一撃! 確かな手応えが、得物を伝う!
「ブルー、援護する!!」
 再び振り上げられるオーク戦士へ横合いから切りつけたのは、彼の背中を護っていたフィソスだ。
「ありがとう! フィソスさんのためにも、これで決める! スマッシュEX!!」
 フィソスが作り出したオーク戦士の隙へ、渾身の力を込めて大きな太刀が振るわれた!!
『GHEEAAAA!!』
 咆哮を上げ、ドウ‥‥ッ! とオーク戦士が地に倒れる。
「‥‥ふっ、やはりそなたは私が付いていなければダメなようだな」
 ブルーの何の気もない一言に、不覚にも僅かに染まってしまった頬を皮肉で隠すフィソス──次の瞬間、影のように現れた荒巻の忍者刀がオークの鼻先で閃いた!!
「‥‥戦闘中だ。貴殿ら、油断をするな」
 舞うは影、残るは屍──イェレミーアスの、ウェルナーの、度重なる攻撃で無数の傷を追ったオークの懐へ、スタッキングで影のようにスッと入り込み‥‥避けきれぬ一撃を振るう荒巻。
 依頼どおりの殲滅をするために、殲滅をする策を練り、殲滅に尽力する──‥‥

 冒険者たちは、その身に浅からぬ傷を負いながらも、オークの最後の一体まで‥‥きっちり、息の根を、止めた。

●そして、地道な農作業。
「助かります」
 仲間たちの手当てをしながら、アフラムは村人へ礼を述べた。
 一行が運んできた木箱の中には、保存食のほかにもいくつかのポーションが納められていた。領主から被害に遭った村への支援の1つらしい。
 村人は快く、そのポーションを冒険者へ提供してくれたのだ。
 アフラムの手当てとポーションとでとりあえずダメージだけは回復させたブルー、さっそく太刀を鋤に持ち替え微笑みを浮かべる。農業を齧ったことがある彼は怪我に障らないよう、冒険者たちの指導を行うことにしたらしい。
「僕は体力だけはありますから力仕事をしたかったんですけれど」
「無理はするな、迷惑だ。──ふむ、しかし、たまにはこうして労働に汗を流すのも良いかも知れぬ」
 興味を示したフィソス、1時間後には早くも後悔しブルーに苦笑されるなど、想像もしていないに違いない。
「くー、力仕事はやっぱ疲れるよー! ‥‥って、あれ? 源内君は?」
 慣れぬ農作業は普段と違う筋肉を使う。それでなくとも力仕事は苦手だというのに。大きく伸びをして背中を逸らしたユニは、仲間の人数が一人足りないことに気付いた。
「任務は完遂した。‥‥影は闇へと消え行くのみ‥‥」
「‥‥農作業したくないだけだったりして☆」
 殺気を孕んで空気が凍った。
「ごはん、できましたよぉ〜♪」
「暖かいうちに食ってくれよ?」
 村の女性たちと一緒に保存食に手を加え炊き出しを行っていたミリアが、イェレミーアスと共に汗かく仲間に声をかけ、凍った空気は無かったことになったようだ。

 農業に汗を流し、
 暖かい食事を口に運び、
 青空の下で笑いあう。

 殺伐とした冒険に流され、いつしか忘れてしまう風景。
 けれど、それは‥‥きっと、全ての原点に違いない。