【秘密のレシピ】新たな味を探して
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■ショートシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:4
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月28日〜06月02日
リプレイ公開日:2005年06月05日
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●オープニング
パリの冒険者たちに愛されている酒場がある。
『シャンゼリゼ』、それがその酒場の名だ。
依頼について夢想する者たち、恋愛の話に興じる者たち、天井付近で楽しげに語らうシフールや目立たぬように片隅で肩を寄せ合うハーフエルフ。記録係について語り合い、曲を奏で、ナンパにケンカ、商売を始めるものまでいるが、それを許容する大らかな酒場。
そんな酒場で古ワイン片手に兎肉の煮込みをつつく冒険者がいた。
顔見知りの冒険者からアンデッドを呼ぶ男という不名誉な肩書きをつけられたラクス・キャンリーゼという20代前半の男だ。
柔らかく煮込まれた兎肉を頬張り、溜息を一つ。
不味くはない、どちらかと聞かれれば皆が旨いと答えるだろう。
──しかし零れるのは溜息。
「ラクス‥‥いったい、何がそんなに‥‥不満‥‥?」
同じテーブルを囲んでいた友人が訪ねた。
「飽きた!! いつもいつも同じメニューしかないなんて、シャンゼリゼは手抜きだ!!」
──スパァァン!!
宙を裂いて飛来したトレイ、ラクスの頭部にヒット!!
「ぐあっ!!」
涙目になりながらトレイを投げた人物を睨むラクス。そう、彼の叫びは不幸にも看板娘アンリ・マルヌ(ez0034)に聞かれていたのだ。
「いつも同じなんて、失礼ですよっ。聖夜祭にはちゃんと特別メニューを用意したじゃないですか」
「そんな昔のことは覚えてない!! っていうか、聖夜祭ってもう半年も前の話だろ」
「ああ、良かった。しっかり覚えてくださっていたんですね」
トレイを拾い上げ、にっこりと微笑むアンリ。
憤慨するラクス、アンリに聞き咎められたのを良いことに、ここぞとばかりに大プッシュ!!
「覚えてるかどうかはどうでもいいんだ! 今! 今のメニューの話だ!! 何か新しいメニューが欲しいんだ!」
「メニューを考えるのって大変なんです! いいメニューを考えてくだされ採用してもいいんですけれど‥‥」
──ちらっ。
わざとらしくラクスを見、そして肩を竦めて盛大に溜息。
「まあ、ラクスさんじゃあ無理ですね〜」
「俺に不可能はない!! やってやるぜ!!」
単細胞ラクス、簡単に着火!!
拳を握り全身で気合いと決意を表明!!
「おい、暇な奴は手伝え!!」
「それ、一人じゃ無理って認めてる‥‥」
「あいつにだけは負けん!!」
──ビシィッ!!
冒険者のツッコミを無視し看板娘へ指を突きつけるラクス!! ‥‥すっかり趣旨が変わっている。
「良いものがあればメニューに加えることも検討しますから、頑張ってくださいね」
満面の営業スマイルを浮かべ会釈すると、アンリは別の客に呼ばれ移動していった。
(「タダで新しいレシピがゲットできれば儲けものですね♪」)
くすっと笑ったアンリの思惑など、ラクスの知るところではない。
──そして今、冒険者の挑戦が始まる。
●リプレイ本文
●受動的レシピ
「ふむ、人数もこれだけおれば、とりあえず用はたりるじゃろう」
「さすがフォルテ、騎士に二言はないって本当だなっ!」
集まった面々の顔を見比べてフォルテシモ・テスタロッサ(ea1861)が頷いた。その傍らで、発声人のラクス・キャンリーゼが騒ぐ。
フォルテシモはシャンゼリゼでワインを飲んでいただけだった‥‥それだけだった。ただ、騒ぐラクスを止めようとしただけだったのだ。
──はぁ‥
諦観の小さな溜息、それは最後の抵抗。しかしラクスには通じない。
溜息を着くのはフォルテシモばかりではない。久しぶりに訪れた酒場で、同様に巻き込まれてしまったレーアリング・ラストロース(eb2201)も同じく溜息を吐く。
「料理の知識はあまり無いので食べ専かもしれません」
「何ィッ!? 試食係は俺の仕事だ!! 俺にこそ、何かを期待するなッッ!!」
ビシィ!! っと指を突きつけ高らかに宣言するラクスに、何かする前からなんだか疲れてしまうレーアリング。
「ラクスさん、ご自分でも少し考えられると良いと思いますよ?」
「それは俺の仕事じゃない」
断言ですか。
諦めの混じったその言葉が口の端に上る前に、パトリアンナ・ケイジ(ea0353)が豪快に笑った。
「あっはっは!! まあ、そういう開き直りが大切な時もあるね!」
バシバシと背中を叩かれ、ラクスは顔を顰めた。
「パティ、ちょっと手加減してくれ! 骨が! 骨が折れる!!」
「ちょっと黙ったらどう? いちいちおまえの大声を聞いてると疲れるのよ」
オイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)が耳をふさぐ。
「だいたい、料理を作らせようっていうのに自分が何もできないなんて迷惑千万な話よ」
「──ごめん、あたしも料理はからきしなんだよ」
「あたしも出来ないわよ。だからデコレーションチーズケーキのデザインを検討してみるつもり」
バツが悪いのか片手を上げて軽く謝罪するパティにオイフェミアは飄々と言ってのける。
「じゃ、あたしも手伝わせてもらおうかね。器用さにはちょいとばかり自信があるんだよ」
手伝ってくれるならありがたいわ、と珍しく微笑むマグマ姫。デコチ同盟、結成!!
そんな会話にアルジャスラード・フォーディガール(ea9248)はぽん、と手を打った。
「既存のメニューのアレンジか、そういうのも面白いな」
提案するメニューを考えていたアルジャ、そのアイディアに少し感心したようだ。
「酒場の新しいメニューかあ‥‥、普段は古ワインしか飲まないんですよね〜‥‥」
もし俺たちのアイディアが採用されたら、今度は俺もシャンゼリゼの売り上げに貢献しないといけませんね──と楽しそうに微笑むのはナロン・ライム(ea6690)。採用しなければ古ワイン生活だという天然のプレッシャーを掛けられ、遠くでアンリが一瞬凍った‥‥のは気のせいかもしれない。
●異国風レシピ
「厨房、借りれて良かったですね〜」
店員を口説き落として厨房の片隅をゲットし、にこにこと上機嫌で調理器具のチェックに余念がないのは道具の良さを見抜く料理人・ナロンその人だ。
「結局レシピ思いつかなかったんだよ、あたしは。ごめん! 代わりに何でも言ってくれ、買出し、配膳、雑用なら何でも請け負うから!」
ギルドを通して請けた依頼とは全く違う話だが引き受けた以上はレシピを提出したかったのだろう。しかし、ギリギリまで考えても何も思い浮かばなかったらしい。
手を合わせるパティの表情には悔恨が浮かんでいるが、一度引き受けた物事に対する真摯な態度は好印象だ。これがギルドの依頼であれば最近下がり気味(?)なパリ冒険者の評価も僅かながら上昇したことだろう。
「あら、あたしの手伝いをしてくれるんじゃなかったの?」
「もちろんあんたの手伝いはするさ。でも、それだけじゃ申し訳ないだろ? あたしに出来そうなことなら何でもするからさ」
「はっはっは!! パティらしくないな! もっと豪快に行こうぜ!!」
「あんたは少し落ち着きな」
──バシッ!
脳天にチョップを喰らいうずくまる男はさておき、さっそく料理にとりかかる。
「僕は先日ノルマンに来たばかりなので‥‥祖国イギリスの家庭料理にしてみました」
「失礼ですが‥‥イギリスの料理はあまり美味しくな──いえ、パリの酒場には合わないのでは?」
「あはは、イギリスの料理は不味いってよく言われてるみたいですね。でも、美味しいものは美味しいんですよ〜」
料理のために動かす手は止めず、ナロンは初めて触れるシャンゼリゼの料理道具を器用に、楽しそうに使いこなす。
軽く焼いた腸詰の上から、小麦粉、卵、牛乳などで作ったヨークシャープティングの生地を流し入れる。
「飲み物も考えたんです。レモンなら手に入りますから、レモン汁を薄めて蜂蜜を加えたレモネードはどうかと思って。お酒が飲めないと、飲み物ってグレープジュースしかないでしょう? 冬場はホットにもできますしね♪」
よほど楽しいのだろう。手も口も止まることをせず、出来上がった生地を普段は主に黒パンを焼いているシャンゼリゼの窯で焼く。立ち上った仄かな香りが鼻腔をくすぐった。
「『トード・イン・ザ・ホール』という料理です。今回はプティング生地自体に挽肉やたまねぎも入れて豪華にしてみました。焼きあがったら上からオニオングレービーをかけていただきます」
「美味いか不味いかは食べてから判断するとしても‥‥匂いは充分美味そうじゃな」
フォルテシモが頬を緩めた。焼き上がりが楽しみである。
●黄色的レシピ
「わしはオムレツでも作ろうかと思ったのじゃが‥‥」
フォルテシモがオムレツと言いつつ手を伸ばしたのはチーズ。四角く賽の目に切ってゆく。
「ただのオムレツというのもつまらんのでな、チーズを入れて『チーズオムレツ』にしてみようと思うのじゃ。味に膨らみも出るしのう」
器を用意し卵に牛乳、白ワインを少量入れてかき混ぜ、塩で味を調えた後、先ほど切ったチーズを加える。
そしてバターを引いたフライパンでふんわりとオムレツの形に焼く。
「もう一つ、『鴨の香草チーズ焼き』というのも考えたのじゃが‥‥パン焼き窯並みの火力の強い窯が要るのでな。自分では作った事が無いのじゃ」
にんにくにローズマリー、オリーブオイル、パン粉を混ぜ合わせた後、細かく刻んだチーズを加える。そして下拵えした鴨肉の中にもチーズを詰め、先に作った香草パン粉を上に乗せ、窯で焼く。比較的、手間のかからない料理と言えるだろう。
そんなことを話している間にオムレツが焼きあがった。
「む、少し焦げてしまったか‥‥」
その辺りはご愛嬌♪ チーズが溶けてフライパンに張り付こうとするのだから、綺麗に仕上げるのは難しい。
そして皿に盛り付け、パセリを添えて出来上がり☆
「時期によってハーブを変えると良いのう」
「じゃ、まずは味見だな!!」
──ひょい、ぱく♪
出来映えを鑑賞する暇(いとま)もなく、現れたラクスのフォークで崩されるチーズオムレツ!!
「ラクス‥‥そこへなおれ!」
「待て、待つんだフォルテシモ!! 早まるな! 包丁はそう使うものじゃ‥‥」
「邪魔をするでない! 立ちはだかるなら、おぬしもまとめて‥‥斬る!!」
「うわぁぁぁっ!!」
調理道具が派手な音を立てて床に散乱したが、アルジャの命がけの仲裁のおかげで厨房に無駄な血が流れることはなかった。
──コブやアザはできあがったが。
●包茹的レシピ
そんな騒ぎを余所に、1人黙々と作業をこなしていたのはレーアリングだ。
小麦粉・タマゴ・塩少々を混ぜて半時ほど寝かせておいた生地を板状に伸ばしていく、単純で地道な作業である。
作業の目処が立つと、料理人ナロンに声をかけた。
「すみませんが、調理は代わってもらえないでしょうか‥‥普段は料理なんてしないものですから」
長身の男が小さくなって口にした願いに屈託のない笑みで快諾するナロン。
「まず、玉ネギ、人参を微塵切りにしてひき肉と炒めてください」
ナロンが材料をみじん切りにしている間に、シャンゼリゼの料理人から料理の基本になるスープを分けてもらう。本当ならここから作る必要があるのかもしれないが、僅かな試食のためには一から作るほどの分量は必要ないようだ。
「このスープにブーケガルニ・豆・マスタードを入れて煮込み、ソースを作ります。煮詰まってきたらブーケガルニを取り出し水分を出来るだけ飛ばしてください。味付けは濃い目にお願いします」
合間に焼きあがった『トード・イン・ザ・ホール』を窯から取り出しフォルテシモに預けたりしながらも調理を続けるナロンの傍らで、板状に伸ばした生地を一口大の四角に切ってゆく。頭にコブを、腕にはアザを作ったラクスが興味津々と覗き込む。
「レーアリングさん、ソース出来ましたよ〜」
「ありがとうございます」
受け取ったソースを生地の中心に乗せ、縁に水をつける。そして同様に切った生地を被せ、中身が出ないように周りをフォークの背でよく押さえる。
「これを茹でてもらえますか? ‥‥ラクスさんもやってみますか?」
「いいのか!?」
じーっとレーアリングの手元を見ていたラクス、嬉々として自分も作業に加わった。アルジャも戦列に加勢する。
「手が足りないようなら遠慮なく呼んでおくれ」
パティの声援を受け、大柄な男性陣がちまちまと作ったものをナロンが次々に茹でていく。
──あっという間に、皿に小さな山が出来た!!
「確か‥‥『ラビオリ』とか言いましたか‥‥うろ覚えなのですが」
「美味いぞ!!」
「自分で作った料理はまた格別だからな」
レーアリングの許可を得てラクスとアルジャは茹で上がったばかりの一口サイズの『ラビオリ』を口に頬張る。二人の口内に幸せが広がった。
●包焼的レシピ
「ナロンに頼もうかと思ってたんだが‥‥やっぱり自分で作った方が楽しそうだな」
一大決心をしたアルジャは大きな器を抱えると、小麦粉と市場で買ってきたそば粉を1:1の割合で混ぜはじめた。塩少々も混ぜ合わせると、牛乳を加えてダマにならないようによく混ぜ、生地に溶かしバターと隠し味のエールを混ぜ合わせて1時間ほど寝かせる。
当然、その間も暇ではない。
肉や魚介類を焼いてみたり、きのこを軽くソテーしてみたり、季節のフルーツやチーズなどを細かく切ったりと具材の準備に余念がない。
本格的な料理はほとんど作らないが、家庭料理ならばアルジャだってお手のものだったりするのだ☆
「良しっ♪」
寝かせた生地を、熱してバターを引いたフライパンで薄く焼く。同じものを2枚作ると、先ほどの具材からそれぞれに適当なものを選んで乗せ、四方を折りたたむようにして包んだ。
「これをもう一度、軽く焼くんだ」
──クレープの包み焼きの完成♪
「命名、『シャンゼリゼの福袋』! いや、本当に福袋を見て思いついたんだ」
皿にはクレープの包み焼きが2つ。中身は食べてからのお楽しみ☆
「面白いな、これは!!」
ラクスはどうやらこの料理が気に入ったらしい。
「面白いだけじゃないんだぜ? クレープ自体は最初から焼いとけばいいし、具材とかも他のメニューから流用が利くから見た目以上にお手軽。何より具が毎回変わるから飽きないだろ、これ」
余った材料を使って作れる料理。なんともシャンゼリゼに優しいメニューである。
●海月的レシピ
「よし、こんなものね」
料理は出来ないが美術のセンスは群を抜いているオイフェミア、参加している冒険者の中で一番器用だったパティの手を借り、料理の得意なナロンも巻き込んで何とか形を作り上げた。
誕生日に注文できる(かもしれない)スペシャルメニュー、デコレーション・チーズケーキの新しいデザインだ!!
「なんだか斬新じゃのう」
フォルテシモが目を困ったように目を瞬く。それも仕方がない。
丸い器を伏せたようなお椀型のチーズケーキの下からは触手のようなものがいくつも出ている。その形状は、まるで海に漂うクラゲそのもの。
「味には拘らなくていいって言ったのに」
「そうもいかないだろ、美味いものってのが条件なんだから」
触手のようなものは乾燥させた果物と、レーアリングの作ったパスタ生地を細長く切ったもの。
そして奮発して砂糖を使ったクッキー
「じゃ、俺が試食を!!」
行儀悪くも勢い良く齧りついたラクスへチーズケーキの反撃!!
「あ───‥‥っちーーー!!! 水! 水!!」
「あっはっは、早速うっかりやさんが引っかかった!」
発案者のオイフェミアは手を叩いて大喜び♪
呆れたように肩を竦めたパティはラクスへ水を差し出した。
「もう少し落ち着けって言っただろ? 年長者の意見は聞くもんだ」
実は、チーズケーキの中には融かしたチーズが仕込まれて、ラクスのようなうっかりやさんが慌てて齧り付くと痛い目に合うようになっている。
‥‥溶けたチーズというのは本当に熱いのだ。うっかりしているとあっという間に火傷である。
「一年に一回しか頼まないものだから、価格は多少高くなっても構わないと思ったのよ。名付けて『全滅チーズケーキ』!!」
「誕生日に1つ、新たな教訓を得るのもイイもんだろ?」
ふたりの女性が作り上げたのは、女性のように甘い顔をした情熱的な罠だった。
「ごめんなさい‥」
底を繰り抜きチーズを仕込んだナロンが小さくなってラクスに謝った。
●シャンゼリゼ的評価
「ちょっと聞きたいんだけどさ、シフールちゃんの通訳がロハなのは何で? いや、助かってるけど、金かかってんだろ? この子らにも」
ずらりと並んだ料理の前へ呼び出されたシャンゼリゼの看板娘・アンリを迎えたのは、料理とは関係の無いパティの質問だった。
「冒険者の皆さんへの先行投資です。利子まできっちり、出世払いで返してくださいね」
──冗談です。
にっこりと微笑むアンリが口にすると冗談も冗談に聞こえないのは何故だろう。
パティは彼女の壮大な人生計画の一端を垣間見たような気がした。
「それはともかく!! さあ、これでどうだ!」
「あら、ずいぶん沢山考えて下さったんですね。全滅‥‥はちょっと縁起が悪いような気もしますけれど、どれもメニューにできそうなものばかりですね」
最近熱狂的なファンによって非公認ファンクラブもできたというアンリ、並ぶ料理を口に運び確認してゆく。
「じゃあ、俺の勝ちだな!!」
──ガッ!!
ラクスのコブへ、トレイが直撃!!
「ぐおおっ!?」
悶絶するラクスを無視し、アンリは冒険者たちへ営業スマイルを向けた。
「でも、メニューは私の一存では決められないので、マスターと相談させていただきますね。もちろん、前向きに♪」
「メニューに載るのを楽しみにしてますね〜♪」
ナロンの言葉は、冒険者たちの総意だった。
そして、メニューとの格闘の日々が始まる。