ねずねず☆パニック

■ショートシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 46 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月01日〜06月08日

リプレイ公開日:2005年06月09日

●オープニング

 記憶に新しいはずのパリ近郊シュヴァルツ城での激しい攻防戦、禍々しいそれを忘れようとするかのように、パリの住民は記憶に塵を積み始めていた。
 首謀者であるはずのカルロス伯爵は逃亡中、彼の窮状を救った上位デビル・アンドラスもその姿を闇に沈めている──故に、パリの冒険者ギルドも月道や王城他の重要な施設と同様に警備を厚くしていた。ギルドを束ね指揮を執るという重責を担うギルドマスターの執務室も当然厳重な警備が敷かれている。
 しかし、世に『完璧』というものは殆ど無く──今日もまた、厳重なはずの警備を物ともせず、ギルドマスターの執務室へ侵入を果たした者がいた。
 怪盗ファンタスティック・マスカレード、その人である。
「また何か、人手の必要な事態でも起きたのかしら?」
「麗しき御仁へ愛を囁きに‥‥と言って欲しかったかね?」
「前回のような厄介事よりは断るという選択肢がある分だけ、まだ嬉しいわね」
 招かれざる客ですまんね、と肩を竦める仮面の怪盗。招かざる客であり決して認めることはないが、ギルドの一歩、二歩、いや三歩は先を行くその的確な情報はフロランスにとって貴重な判断材料であることは否めなかった。
「伯爵が取り寄せた婚約指輪に興味があるようだね」
「──まさか」
 ギルドでも上層部しか知らないが、一連の騒ぎに関連し、伯爵から出された依頼郡の調査を行っている。護衛までつけて取り寄せた『婚約指輪』は今回の騒動に措いて重要な存在である可能性が指摘されているところだ。報告書では湖に沈んだと記載があり、先達て回収を指示したところである。
 怪盗と仲間たちの実力は報告書の僅かな記述でも充分に示されているが、人数にすれば僅か4名。相手が何者だろうとも、集団ならば殲滅には時間がかかる。
「群れはあらかた退治し追い詰めたのだがね、残念ながら数匹のインプが擬態して逃げたのだよ」
 デビルが擬態でき得るのは生物のみであり、インプは姿を隠すことができない。そしてデビルの姿で行動し冒険者に発見されるリスク──全てを鑑みた時、少しでも無事に伯爵の下へ辿り着こうとしたならば動物に擬態するしかない。
 普段黒に近い鉛色の皮膚をしているため、インプはその単純な思考で白い動物に化ければ発見されないと思ったのだろう。白いカラスなどは目立って仕方ないはずだが、そこまで考えていないに違いない。
「動物に関係する依頼は注視しましょう。指輪は発見次第回収させます。詳細はその後に」
 重要なアイテムを有益に使いたいのは怪盗一味もギルドも同じ。諍いの種には覆いを被せ、再び懐疑と打算を孕んだ一時協定が秘密裏に締結された。


 6月初旬は麦の収穫期である。
 パリから徒歩で2日ほど行った場所にある村でも、もちろん6月は麦の収穫期だ。ゆえに、この時期は穀物庫に保管されている麦も残りが少なくなる。しかし、残り少ない麦に心許なくなることはない。畑では麦穂が日々頭を垂れ、村人たちの心は収穫のその時に向けて踊っているのだから。
 けれど、何事もなければ、こうして領主の館に村人が訪れる必要はなかった。
 項垂れる村人は、領主へ救いを求める眼差しを送る。
「このままでは、税を納めることはもちろん、来年一年間の食料を備蓄することも叶いません。それどころか、このまま大群が居着けば疫病の発生も‥‥お願いします、ジャイアントラットを駆除してください!」
 そう、収穫期を目前とした村を襲い、村人が領主ヴィルヘルム・シュティールの館を訪れなければならなくなった原因はジャイアントラットの大群だった。
 残り少なくなった備蓄庫を襲い、頭を垂れ始めた稲穂を食い荒らす。
「捕らえようにも動きは素早く、夜行性で明かりの元へは殆ど出てきません‥‥我々だけではどうしようもないのです」
 ‥‥村人にとっては死活問題だ。病に蝕まれた体を押して話を聞いていたヴィルヘルムは咳き込みながら村人へ尋ねた。
「その中に、普段は見ない白黒模様のジャイアントラットがいたのだね?」
「はい。黒に近いグレーから、白としかいえない物まで色合いもさまざまでしたが、確かに白黒のジャイアントラットが」
「‥‥ふむ」
「珍しい動物がいれば報告をと常より伺っておりましたので、こうしてわたくしも共にご報告に上がった次第です」
 領主の質問へ村人の代わりに答えたのは、領主から村へ派遣されていた教師だ。病弱な領主の代わりに手足のように、時には目や耳となって方々の村へ送り込まれている雇われ見識人、彼が珍しいと判断したのならソレは本当に珍しいものに違いない。
 唐突に咽るように咳き込み、気遣う奥方を手で制してヴィルヘルムは一つ頷いた。
「では、私の名で冒険者ギルドへ依頼を出そう。税に関しては全てが片付いた後、収量等を見て対応する」
 こうして領主を通じ、冒険者ギルドへジャイアントラット駆除の依頼が出されたのだった。
 新米ギルド員フランツ・ボッシュは動物関連の依頼ということで嬉々として受けたのだが、依頼書を見た冒険者は渋面を作った。
「白黒のは生け捕り?」
「インプの可能性もあるんだろ?」
「明かりをつけたら寄ってこないのに、どうやって見分けろと?」
「その辺りは、皆さんの知恵次第ですね」
 にっこり笑ってさらりと言ってのけるギルド員、果たしてこの依頼の難度を承知しているのだろうか。
 依頼書がかさりと乾いた音をたて、揺れた。

●今回の参加者

 ea0280 インシグニア・ゾーンブルグ(33歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea7780 ガイアス・タンベル(36歳・♂・ナイト・パラ・イスパニア王国)
 ea8539 セフィナ・プランティエ(27歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea9096 スィニエーク・ラウニアー(28歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9909 フィーナ・アクトラス(35歳・♀・クレリック・人間・フランク王国)
 eb0142 鳳 萌華(36歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0694 ハニー・ゼリオン(43歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

ふぉれすとろーど ななん(ea1944

●リプレイ本文

●到着、麦畑に囲まれた村★
 村に向かう一行の眼前に姿を現したのは太陽を受けて金色に輝く、広い広い麦畑。そして端から1kmほど行った所に一団となった家がある──目的地の村だ。
「うっわー、すごい広いね!!」
 すっげー、と鼻の穴を膨らませて興奮を隠さないのはマート・セレスティア(ea3852)。実際の年齢の半分どころか3分の1程度にしか見えないが、精神年齢も同程度らしく子供そのものだ。
「ちょっと、本気‥‥?」
 マートと反対にフィーナ・アクトラス(ea9909)はにこにことしたその表情を引きつらせた。
「ネズミは‥‥穀物庫だけじゃなくて、確か‥‥畑の麦も食べてしまって、困っているのですよね‥‥?」
 この畑全てを守るんでしょうか‥‥?
 困惑の表情を浮かべるスィニエーク・ラウニアー(ea9096)は思わずフィーナとマートの顔を見た。
 道中の実験でミミクリーがリヴィールマジックに反応することは判った。けれど、スクロールがあろうともこの広さではとてもカバーし切れない。
「でも村の方々は麦の収穫前にとても困ってるんでしょうしね。村の皆さんのためにも、頑張りましょう!」
 一瞬麦畑に圧倒され、呆然としてしまったガイアス・タンベル(ea7780)も持ち前の明るさで笑顔を取り戻した。
 頑張ればきっと村人たちが喜んでくれるはず。その笑顔をみるために、ガイアスは頑張るのだ。
「うーん、これが全部花畑だったら蜂蜜たんまりなのに。何でこんないい時期に麦なんだろうね」
 忌々しげに呟くのは養蜂家のハニー・ゼリオン(eb0694)。憤慨しているのだろうが、ヴェールの向こうの表情よりも、蜂のような眼や触覚の付いたプレートヘルムばかりが気になってしまうマートとセフィナ・プランティエ(ea8539)にはいまいち良く判らない。
 ただセフィナが思うことは‥‥愛猫レーヌを留守番に置いてきて良かった、ということだけだ。きっとハニーを見て怯えただろうから。
「蜂蜜などと考えていられるのも今のうちだけだろう。ネズミで済めば御の字なのだからな」
 斬り捨てるように呟いた鳳萌華(eb0142)にインシグニア・ゾーンブルグ(ea0280)が頷いた。
「村人はインプの可能性など知らないだろう。万が一にもインプがいれば、気付かれる前に退治しなくてはならないだろうな」
 そう、冒険者やブランシュ騎士団を擁するパリですら混乱の渦に叩き込んだデビルだ。自衛の策などあってないような村がパニックになるのは簡単な事。
「ま、頑張ろうよ。ねっ!」
 ハイテンションで仲間を振り返ると、マートは麦畑に駆け込んでいった。

●いざ、決戦! の前に準備☆
「松明、いくつか用意してきたから使ってくれ」
 狩猟用の罠を作っていたインシグニアは、ふと思い出したように荷物から松明を取り出した。
 このジャイアントラットの群れは明るいところに出ないという。罠を作って誘い込むためには明かりは効果的のはずだ。
「わたくしの松明も使ってくださいませ」
「あの‥‥私も、松明‥‥用意しましたので‥‥」
 セフィナとスィニエークも同様に荷物からありったけの松明を取り出した。16本の松明、これだけあれば充分に作戦の一環として使うことができる。
 そして保存食は、駆除の囮用とは言っても既にラットの被害を受けてる村から出してもらうのには躊躇いを感じてしまったフィーナ、セフィナ、鳳から10日分集まった。
 もっとも、不足していた仲間に譲ったため作戦に使えるものは9日分なのだが。
「麦畑は広いですから、匂いが強くなるように‥‥村の方にも、手伝ってもらって‥‥少し、手を加えましょう」
 保存食を提供したフィーナはマート、ハニー、ガイアスと一緒に、作戦や罠の設置や地形の確認、巣穴探索などを兼ねて村や畑を歩きに出ている。
 スィニエークの傍らで保存食から取り出した干し肉を炙って香りを出していた鳳は、強くなってきた匂いを確認しながらぽつりと呟く。
「正確な数もわからないジャイアントラットが相手、しかもあのように広い麦畑では、いかに優れた罠であろうとも焼け石に水なのだろうな」
「焼け石に水でも、無意味ではありませんもの。退治も捕獲も頑張らなくてはなりませんしね」
 にっこりと微笑みながら借りた荷車に白黒ネズミ用の檻を乗せるセフィナ。
 白黒ネズミがインプでなければ新種かもしれません、と逸り躍る心が止められないのだろう。
「そうだな。確実にこなすためにも、僅かでも成功率は上げておくべきか」
 いくらあっても足りない準備時間を無駄にしないためにも、作業のスピードを速めた。

●戦慄、ねずねず集団★
 松明や篝火が暗い夜空を明るく染め上げる。
 村は暗がりを嫌うかのように暖色に彩られ、村人たちは灯りを絶やさぬよう数名ずつに分かれて寝ずの番だ。
 一方、麦畑は冒険者たちによって明暗の縁がきっちりと分けられていた。
 意図的に暗さを残されたのは仕掛けられた罠の周辺。麦畑を見渡せる高台があったのなら、罠に誘導するように灯りが設置されているのが見て取れただろう。
 その罠はマートの案で既に荒らされた一枚の畑へと誘うように設置されている。畑には当然ながら匂いを放つよう調理された保存食や残飯が散らされている。
 踏み荒らしても問題がない畑、安心して戦える場所というのは重要だ。
 麦畑に身を潜め、
「こっちは昼間働いて夜は巣箱で寝てるからねずの番とはつらい」
「あはは、ハニーさんお上手ですね」
 ぼそりと呟くハニー。それが洒落だと通じたのだろう、ガイアスが小さく笑った。
「それでも、見つけた巣穴は燻しましたから、だいぶ減っていると思いますよ」
「まあね。白黒のが一緒に死んでたら領主は泣くだろうけど」
「いや、確認した死体の中には入っていなかった。恐らく生きているだろう」
 そう返した鳳は珍しく頬を歪める。覗いた巣穴から蛙が飛び出してきた情景が脳裏から離れないようだ。
 その時、フィーナのほほえみが凍りついた。遠方の麦が揺れ、その足元の暗がりに蠢くジャイアントラットを発見したのだ!!
「来たわよっ。マート君、インシグニアさんとスィニエークさんに伝えて!」
「マーちゃんだってば」
 不服そうに不貞腐れるマートに、思い出したように微笑みながら再び頼む。
「マーちゃん、お願いできるかしら」
「おっけー♪ 楽しくなってきたねっ、ひゃっほー!!」
 願ったとおり愛称で呼ばれ機嫌を直したマートは飛び上がって全力で駆け出した。
「それじゃ、よく見えないけど、頑張ってねず公退治といこうか」
 ミミクリーを唱えるフィーナと剣と盾を構えるハニー、その眼前の草が揺れ、数匹のジャイアントラットが飛び出した!!

●捕獲、白黒ネズミ☆
「いた、白黒っ!!」
 ヘキサグラム・タリスマンの形成する結界を抜けて仕掛けられた餌までたどり着いたジャイアントラットの中に、他とは明らかに違うツートンカラーのジャイアントラットを発見した!!
 体は白、目の周りが愛嬌のある垂れた黒ブチ、耳と四肢、そして尻尾も黒。思わず触れたくなる愛らしさを振りまいている。
「うわ、本当に白黒だね!! 可愛いかも!!」
 発見するや否や大はしゃぎのマートを他所に、魔法少女のローブをはためかせ、突如くるくると踊り始めるフィーナ!
「フィーナさんっ!?」
「落ち着け!!」
 突然の奇行に目を丸くする仲間たちの視線を浴びて決めポーズ☆ フィーナがあと11歳若ければ魔法少女のローブはその特殊効果を発揮し、見る者全ての行動を止めたことだろう。
 そして、今。
 別の意味で硬直する仲間たちがいた。
「えええっ!? 絶対止まると思ったのにーっ!!」
「歳を考えろ!!」
「ちょっと、それって失礼じゃないかしらっ!? って、逃がさないわよ!!」
 表情を変えず、しかし思わず剣を取り落としそうになりながら発された鳳の実も蓋もない言葉に憤慨するフィーナ。うにょん、と伸ばした手で白黒ジャイアントラットを取り押さえた!!
「あはは!! フィーナ姉ちゃんって見てて飽きないねっ!」
 暴れ引っ掻き齧りつく白黒ジャイアントラットからの攻撃を受けながらも、大笑いするマートと協力し、用意された檻へ閉じ込めることに成功した。
「攻撃を覚悟してのことなら、初めから捕まえれば良かったのだと思うが」
 冒険者たちが一瞬硬直したその隙を突いて逃げ出そうとするジャイアントラットへ日本刀を振り下ろしながら鳳が小さく呟いた。

●打倒、白ネズミ★
「そちらにも! 逃がすわけには参りませんわ。──ホーリー!!」
 セフィナのホーリーが混乱に乗じて逃げ出そうとするジャイアントラットを捕らえた!!
『──!!』
 仰け反りのた打ち回るジャイアントラット!!
「‥‥どうしたのでしょうか」
 明らかに今までのジャイアントラットより過激な反応に魔法を放ったセフィナも戸惑いを隠せない。
 同じく後方で仲間の支援を行っていたインシグニアの矢がジャイアントラットに突き立つ!
 しかし、手応えほどのダメージを与えていないようだ。目を凝らしたインシグニアが叫ぶ。
「──スィニエーク、セフィナ!! 矢の立ったジャイアントラットを狙え!! 白い、インプだ!」
「──ライトニングサンダーボルト!」
「──ホーリー!!」
 ラットの見分けはつかず細い矢が突き立った程度のラットも良くわからないが、インシグニアの指が示す方向で蠢く白い(らしい)ラットへ向けて、仲間の間を縫うように高速で唱えられた魔法の輝きが伸びる!
「ガァァッ!! こんな所で‥‥邪魔しヤがってェェ!!」
 鉛色のインプに戻り、闇に乗じて逃げようとするも‥‥視力に優れたフィーナやマート、インシグニアからは逃れられない!!
「デビル相手なら容赦しないわよ!」
 ──ブンッ!!
 ブレーメンの名を冠した魔法の斧を渾身の力を込めて投げるフィーナ!!
「グガァッ!!」
 斧は皮の翼を突き破って背中に突き立った! 叫びを上げて落下し始めたインプへ、鳳が突っ込んだ!!
「依頼を失敗させる気はない‥‥──ファイヤーバード!!」
「グアアアア!!」
 落下したインプがエボリューションを唱える間を与えず、ハニーのロングソードが空を切る!
 ジャイアントラットよりインプを優先した冒険者に囲まれ、再び逃げ出すことも叶わず傷だらけになったインプへ、ガイアスがシルバーダガーを付き立てた。
「不幸を喜ぶデビルを野放しにはしておけないんです!」
「──‥‥」
 何かを言いかけたインプは、しかし声を発することなく塵と消えた。

●殲滅、ねずねず軍団☆
「‥‥やりましたね‥‥」
 白黒ジャイアントラットは捕獲成功、インプは無事退治♪ 素晴らしい成果に頬を緩めたスィニエークの視界で蠢いたのはジャイアントラット!! しかも4匹!
「──ライトニングサンダーボルト!!」
 緩めた頬を引きつらせて高速詠唱!! しかしスィニエークの精神力は度重なる魔法とスクロールの使用で底を尽いていた!!
 飛び掛るジャイアントラット×4!!
「危ない!!」
 踊るように飛び跳ねて戦場を行ったり来たりと楽しんでいたマートがスィニエークを全力で押し倒した!! ラットたちの牙が空しく宙を裂く!
「あの‥‥えっと‥‥ありがとうございます‥‥マートさん」
「ちっちっち、マーちゃんだよ♪」
「‥‥ま、マーちゃん‥」
 引っ込み思案なスィニエークには、愛称で呼ぶことは恥ずかしすぎたようだ。桜色に染まったスィニエークの頬を楽しそうに覗き込むマート☆
「そんな余裕はない、協力しろ!」
 ファイアーバードで闇を裂いて一直線に飛来した鳳がラットを吹き飛ばす!!
 ソルフの実を噛み砕き強引に飲み込んだスィニエークは、味方を傷付けないように注意を払いながらライトニングサンダーボルトを放った!!
 瀕死のラットが焼け焦げる!!
「‥ネズミは‥‥‥可愛くない‥‥と言うより怖いです‥‥‥特に、今回は大きいですし‥‥」
 肉の焦げる異臭が漂う中、スィニエークは小さく呟いた。黒いフードが風に流され、銀の髪が零れ落ちる。
 セフィナは初めて、スィニエークのことを怖いと思った──しかし、その感情を吹き消すほどにジャイアントラットが襲い来る!
「少しは減っているのでしょうか──ホーリー!」
「増やしているわけではない、減っていなくば困る──ファイアーバード!」
 効果の切れた魔法を唱えなおし、鳳は新たなジャイアントラットへ突っ込んでいった。

 やがて闇を裂き太陽が顔を出し‥‥血を流しながら、大量の死骸の中に佇む冒険者たちを暖かく照らした。
「ああ、蜂たちが働く時間になってしまった‥‥結局ねずの番か」
 零したハニーの不気味なプレートヘルムがきらりと輝いた。
「さあ、帰る前にこの死骸を片付けましょうか!」
 爽やかな達成感を溢れさせながら、満面の笑みで振り返ったガイアスの一声に‥‥冒険者たちは深く溜息を吐いた。
 穏やかな陽光の元‥‥穏やかではない肉体労働が開始されるのだった。