うるふる☆パニック
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■ショートシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:6人
冒険期間:06月13日〜06月20日
リプレイ公開日:2005年06月21日
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●オープニング
山間部を通る抜け道がある。何の変哲も無い山道だ。
山賊が出るという話も聞かず、目的地によっては街道よりも大幅に時間を短縮できる。
比較的安全ではあるが、山道ゆえに何の準備もなく通ることもできない。
そんなお気楽な山道だが、実は周辺につがいのオオカミが棲みついている。しかし、山道を通る者たちはさして恐れてもいないようだった。
「あのオオカミたち、保存食をたんまりとやったら襲ってこなかったぞ」
「襲われたゲイツは保存食をやらなかったらしいな」
「あいつ、ケチだったからな」
そう、ヒトを襲うと保存食、干し肉が貰える、という微妙に餌付けをされ‥‥いや、妙な知恵をつけた夫婦オオカミだ。
保存食を多めに持っていけば無事に通ることができるため、急ぎの旅人や冒険者には重宝されている。
そして春先、オオカミは保存食を今までより多く持っていくようになった。
「どうも、子育て中みたいだ。俺が通った時はもこもこした子オオカミを連れていた」
「だからか‥‥いつもより殺気立ってるのは」
「この時期、子育ての真っ最中だからな‥‥暫くは気をつけるしかないか」
この程度で冒険者ギルドへ依頼が来るものではない。
被害は更に拡大したのだ。
「では、人を襲ったそのオオカミたちを退治してほしい、ということではないのですね?」
エルフのギルド員、リュナーティアが念を押した。依頼人の男性がこくこくと頷く。
「オオカミたちがいるからこそ山賊も寄り付かなくて助かってるんだ。オオカミを退治されたら困るんだよ」
「オオカミを退治せず、山道に平穏を取り戻せ、と‥‥いうことですか?」
依頼人の男性は再びこくこくと頷いた。
「オオカミが荒れている原因は、予想がついてるんだ。どうも、旅の冒険者が子オオカミを襲ったらしくてさ。だから、きっと回復させてやれば大人しくなると思うんだ」
では、クレリックを中心に声をかけますね、と微笑むリュナーティアに依頼人はぶんぶんと頭を振った。
「とんでもない! オオカミに狙われてるのはクレリックだよ! たぶん、クレリックが子オオカミに怪我をさせたんだと思う」
オオカミがクレリックを敵視しているのならば、接触を必要とするクレリックのリカバーは難しいかもしれない。
一瞬、困惑の表情を浮かべたリュナーティアへ依頼人は哀願する。
「雪みたいに真っ白な子オオカミが足を引きずっているのは見てて忍びないんだ。親に似ず綺麗な体毛で生まれてきたのにな‥‥泥だらけになってさ」
「真っ白、ですか?」
ギルド員は僅かに眉間にしわを寄せた。白い動物といえば、今、ギルドで最も注意されている存在である。怪盗は何故か生け捕りを目論んでいるようだが、冒険者ギルドとしてはインプであれば当然抹殺対象である。
「そうなんだ。すっげーキレーでさー! あんな子供を襲った奴の顔が見たいよな」
恐らく、本当に純白で本当にふわふわでもこもこで、とても愛らしいのだろう。
子オオカミを回復させることが依頼なのだが‥‥ギルド員は困惑を隠せなかった。
なぜなら、冒険者ギルドとしては──ノルマンはパリの平穏の為に、デビルから『婚約指輪』を取り戻すことを指示しているからだ。
冒険者たちの苦労を思い、リュナーティアは小さく息を吐き、物陰からじっと見ていた雛菊に気付くことなく依頼書を掲示した。
●リプレイ本文
●まず立ちはだかる問題‥‥それは空腹?
「流石に空腹は誤魔化せませんね‥‥」
盛大な腹の虫と共にまず音を上げたのは1日分のゴールドフレークしか準備していなかったネフェリム・ヒム(ea2815)だった。
共に4日分の保存食しか持ち合わせていないアンジェリカ・リリアーガ(ea2005)とマーカス・グローウェン(ea7714)も不安気に荷物を確認する──何度確認した所で、保存食が増えるわけでもないのだが。
「仕事は7日間なんだから、しっかり7日分用意して来ないと駄目なんだな〜☆」
にぱっと笑いそう主張するケヴァリム・ゼエヴ(ea1407)の荷物には6日分の保存食しか用意されていない。
「よろしければ、僕の保存食食べますか〜? あまりお役に立てそうにないので、保存食だけは沢山買ってきたんですよ〜。狼さんの分が無くなっちゃうんですけれど‥‥」
バックパックに詰め込んだ保存食を取り出しながらも僅かに思案の色を残すミカエル・テルセーロ(ea1674)に、リュヴィア・グラナート(ea9960)が所持している保存食を提供した。
「私も余分に持ち合わせている分を提供しよう。狼には強烈な匂いの保存食など良いのではないか?」
「強烈な匂いの保存食なら、僕も持っていますよ〜。どうぞ♪」
快く提供したエリシア・リーブス(ea7187)と共にフィニィ・フォルテン(ea9114)が自分の保存食を差し出そうとした時、茂みが揺れた!! アンジェリカの視界の隅で見え隠れする雛菊模様の玉簪(たまかんざし)‥‥を挿した、ジャパン人の少女・雛菊。見ないフリ見ないフリッ!! と無視を決め込む覇王アンジェリカを他所に、にこにこと話しかけるミカエル。
「お嬢ちゃんどうしたの? ここらへんは危ないからお家に帰らないと駄目だよ〜」
「お嬢ちゃんじゃないの! 雛は雛なの!!」
頬を膨らませた雛菊へ、フィニィが優しく微笑んだ。
「あら? 雛菊さんもオオカミさんに会いに行くんですか?」
「忍者は目的をバラしちゃいけないのよ〜? だから、狼さん見たいのも内緒なのっ」
人差し指を立ててしーッ!! っと注意する雛菊。その小さな体から、盛大に鳴り響く腹の音。
「小さくてもその心意気は一人前じゃな」
雛菊を膝に据わらせたマーカスは譲り受けたばかりの保存食を小さくぷっくりとした手に握らせた。
「雛菊の分を含めると‥‥ありったけの食料が必要になるな」
全員の食料を数え直し、リュヴィアは苦い笑みを浮かべた。フィニィが次々と枝葉をくべて、焚き火が昼間のように周囲を照らし出していた。
●山道侵入!!
エリシアの馬と犬を村へと預けると、冒険者たちは山道を歩き始めた。
「これ、雛、大人しくせい! こっちへ来んか!」
「ヤなの! マーカスおじちゃん、お髭がちくちくなのよ〜っ!」
あまりに頻繁に転倒する雛菊を見ていることができず抱き上げようとしたマーカス。その腕をするりとすり抜け、あらぬ方向へ走ろうとする雛菊! そして足がもつれ、また転倒!!
「雛ちゃん、危ない!!」
引きとめようと果敢に飛び込んだケヴァリムごとごろごろと草の上を転がる雛菊。二人を足して倍にしたほどの長身を誇るネフェリムがケヴァリムと雛菊をまとめて抱え上げた。
「足元には気をつけてくださいね? 転ぶだけでも怪我はするのですから」
「はぁ〜い‥‥。ガルゥお兄ちゃんも、どうもありがとなの〜」
フィニィのドンキーに乗せられ、マーカスにため息を吐かれ、フィニィとエリシアに苦笑され、アンジェリカにつつかれ、ミカエルに心配をかけ、雛菊はようやく大人しくドンキーに揺られ始めた。
「‥‥雛菊さんっ!!」
ドンキーに乗せても時々転がり落ちる、それはそれで稀有な才能かもしれない‥‥。
ケヴァリムの招いた青い空の下、ゆっくりと時間が流れた。
●狼現る‥‥白きちび狼の謎。
山道に踏み込みどれだけの時間が経過しただろうか。
「‥‥来ました。インプじゃないと良いんだけどね〜‥‥」
狼の放つ殺気にまず気付いたのはエリシアだった。傷つけてはならない、けれど決して弱くはない相手の気配。一行の間に緊張が走る。
けれど、気配はすれども姿は見えない。
深まってゆく緊張感に、フィニィがワイナモイネンの竪琴を取り出した。琴線に触れ、そっと爪弾く。
月のように静かな調べに乗せて、歌姫フィニィの美声が染み入るように森へ広がって行く。
──♪ 琴の調べに誘われて あつまれ森の仲間たち
歌声の力か、それとも竪琴の魔力か。姿を隠していた2匹の狼が姿を現した。
その後ろから、ふわふわもこもこのチビ狼たちが姿を見せる。
ミカエルは保存食を取り出し、アンジェリカと共に狼が食べやすいように広げてゆく。
マーカスは狼が襲い掛かってきた時に備え、ウォーアックスを握り締めた。
──皆仲良く輪になって 陽気にお話しませんか
同じく鳴弦の弓を構えたエリシアの肩口から、ケヴァリムが飛び出した!!
「俺のふわもこ狼ちゃんだっ♪」
異国の言葉で狼の名を持つ『ふわもこの友』ケヴァリム、ふわもこの中でも最も目がないのが狼だった。
耳を傾けるちび狼の元へ飛来し、そっと柔毛に抱きついた!!
「はぁ〜‥‥幸せ‥‥♪」
──今日はケンカはなしにして 一緒に楽しく遊びましょ
「‥‥ふわぁ‥‥可愛いの〜」
そして最後に姿を現したのは、足を引き摺った白いちび狼。フィニィにまるごとオオカミさんを着せられた雛菊はうっとりと白い子供を見つめた。
ドロテー・ペローが調べた『襲われたクレリックが身に着けていたもの』を極力排除した服装でそっと白いふわもこチビ狼に歩み寄るケヴァリム。
──歌の調べに誘われて あつまれ森の仲間たち♪
白き子狼にリカバーを唱えるため、片膝をつくネフェリム。
そっと手を差し伸べ‥‥リュヴィアの声が響いた!!
「ネフェリム殿、インプだ!!」
リュヴィアの細い指に嵌っている指輪、その石の中に封じられた蝶が勢い良く羽ばたいている!
白い子狼が飛び退り、狼たちが我に帰った!!
●打倒、小悪魔!!
番(つがい)のオオカミがわが子を守るために動いた!!
「くっ!!」
ネフェリムの脇腹へ、雌オオカミが果敢に牙を立てる!!
しかしネフェリムはその牙を振りほどく前にしなければならないことがあった。
「ふわもこちゃんっ!?」
「ミート、ガルゥ君を!!」
ふわふわモコモコのちびオオカミ、しかしそれも野生の獣。まだ小さき牙がケヴァリムに突き立つ寸前、ネフェリムの鷹がケヴァリムに突っ込んだ!! 鷹の足に服を捕まれ、僅かに動いたケヴァリムの体──しかしちびオオカミの牙を避けるにはそれで十分!!
避けたケヴァリムへなおも襲い掛からんとする小さなオオカミをミカエルが抱きしめる!!
「いたた‥‥僕は怪我しても‥‥‥皆に怪我をさせるわけにはいかないんだ‥‥君たちのためにもインプを倒すから‥‥」
小さな牙を受けるミカエルの体も小さい。けれど溢れる優しさと愛情で、必死にチビ狼を宥める。
「イエーイ☆ 正体がインプなら、ふわモコでも子供でも容赦しなくていいよねっ!! ライトニングサンダーボルトぉぉっ!!」
保存食を投げ捨てながら高速で詠唱された呪文が雷光を呼び白いチビもこへ襲い掛かる!!
「キャンッ!!」
子狼の悲鳴に雄オオカミが飛び出そうとするが、達人級の実力を誇るマーカスの殺気に当てられ、ただ睨み合うことしかできない!!
「デビルなら、これでどうですっ!?」
エリシアが鳴弦の弓にぴんと張られた弦を爪弾いた!! 波紋のように広がる音に、白いチビもこの動きが鈍った!!
「大人しくしてください、傷つけたくないんです‥‥──スリープ」
フィニィの魔法でネフェリムに襲い掛かっていた雌オオカミがコトン、と眠りに落ちた。
フィニィお姉ちゃんの奮闘を見た雛菊、自分も役に立とうと決意!!
「雛も戦うのっ!!」
ドンキーから下りようと小さな体で足掻く雛菊、その体をリュヴィアの操る蔦が絡め取った!!
「いやーんなのー!!」
「悪いな。だが怪我をさせるわけにはいかないんだ」
ケヴァリムがフェリーナ・ファタから教えられた薬草も、リュヴィアと探した薬草も、もう役には立たない。
「邪悪なるものに手加減はいたしませんよ。──ホーリー!!」
動きの鈍った白いチビもこへ、聖なる攻撃魔法が吸い込まれる!!
堪らずインプが変身を解いた!!
「貴様等の手に掛かってタマルかよぉぉ!!」
鉛色の翼で羽ばたき、中空で体勢を立て直さんとするインプ!! しかし冒険者たちの攻撃はインプに『エボリューション』を唱えさえる暇を与えない!!
「も一丁〜☆ ライトニングサンダーボルトぉぉ!!」
アンジェリカの電光が空を切る。
「──ホーリー!!」
ネフェリムが聖なる魔法で攻撃を仕掛ける!!
「──ローリンググラビティ!!」
リュヴィアがスクロールに記された魔法を読み解く!!
波打ち際を浚う絶え間ない波のように次々に襲い来る魔法、そして耐えることなく鳴り響く『鳴弦の弓』の弦に行動を阻害され、羽を拭き飛ばされ、インプは再び地へ墜ちた。
そこへ、ネフェリムの腰から抜いたシルバーダガーを構え、マーカスが歩み寄る!!
「これが止めじゃ!!」
インプの首筋を、体重を乗せ渾身の力を込めた一撃が断ち切った!!!
「‥‥貴様等に‥‥渡して、たまる、カ‥‥」
呟きながら鉛色の肌を持つ悪魔は、塵となり風に流されて、消えた。
そして、銀色の指輪が1つ‥‥‥ころん、と地面に転がった。
●依頼失敗、そして‥‥
「俺たちはあんたらに、子オオカミを直してやってくれって頼んだよな!?」
村人たちの怒りも最もだ。子オオカミを殺したのならオオカミたちは人間を襲うようになるかもしれない。気を静めさせるためにありったけの保存食を置いては来たものの、決めるのはオオカミたちだ。山道を離れ、どこか遠くへ移り住んでしまうかもしれない。
それはどちらも、山道を脅かす存在に他ならない。
「でも、デビルだったんです‥‥」
「なら死体を見せてみろよ!!」
インプと呼ばれるデビルだったとは言っても、殺してしまえば死体の残らないのがデビルである。つまり、デビルであったことを証明することができない。
──どんな事情があろうとも、依頼の不達成に変わりはないのだ。
「申し訳ありませんでした‥‥」
冒険者たちは依頼人に頭を下げ、足取りも重くパリへと戻った。
「依頼は失敗だ、すまない」
リュヴィアがギルド員リュナーティア・アイヴァンへ頭を垂れた。
「でも、これってギルドで回収命令が出てた指輪だと思うんだよね〜」
「インプが持ってたんだけど、違うかな?」
アンジェリカとケヴァリムがギルドのカウンターへ置いたのは、確かに冒険者の手によってマント領へ護送された『婚約指輪』に他ならなかった。
「お疲れ様。依頼は達成できなかったようだけれど、コレが手に入ったのならお咎めはなしにしましょう」
『婚約指輪』と引き換えに手当てを支給し、疲れを癒すよう労いの言葉を残し、ギルドマスターは執務室へ引き上げた。
依頼が重要でないとは言わない。けれども、パリを恐怖に叩き込んだあの軍勢、そして手には負えない程の上級デビル。
「──この選択が正しかったのかどうか‥‥時が経てば判ることでしょう」
パリの街へ消えてゆく冒険者をバルコニーから密やかに見送る。呟かれた言葉は夕闇に染まり始めた街へと吸い込まれ、消えた。