【聖夜祭】呪われし子に祝福を
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■ショートシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 84 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月31日〜01月08日
リプレイ公開日:2005年01月07日
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●オープニング
●パリ、冒険者ギルド
「ゴブリン退治ですか」
エルフのギルド員は依頼書から顔を上げた。
目の前にいるのは依頼人──レートンと名乗る一人の青年だった。
「はい。洞窟にゴブリンが棲みついてしまって。僕一人では手も足も出ないので‥‥」
「そのゴブリンを、聖夜祭中に退治すればよろしいのですか?」
レートン青年は頷いた。
「洞窟は小さいですから、10匹はいないと思います。洗礼に使う洞窟なので、退治は早ければ早いほど助かります」
細々とした質問を繰り返し、エルフのギルド員は必要事項を埋めていく。
「家は、うちで良ければ使ってください。食事はちょっと用意できませんが‥‥」
人が良さそうでおっとりした青年だが、どこか歯切れが悪い。
「何か、仰りたいことがありますか? 依頼として正式に受理してからでは変更できませんよ」
ギルド員が確認すると、青年は事情を語り始めた。
●とある村の集会
聖夜祭最終日──1月6日はジーザスが洗礼を受けた日である。ゆえに、この日に子供に洗礼を受けさせる者は多い。
この村では生まれた翌年の1月6日、子供に洗礼を受けさせるという風習があった。
「では、今度の洗礼の準備をしなくてはなりませんね」
穏やかに微笑む司祭に、村人が眉をしかめる。今年生まれた子供といえば‥‥村はずれのあの子供。
「我々が手伝う必要があるのか?」
そう言い切ったのは村長の息子だっただろうか、雑貨屋だっただろうか。いや、口にしないだけで思いは同じだったかもしれない。
この村で洗礼を行うのは、森を2時間ほど歩いた場所にある小さな洞窟だ。この洞窟の奥に湧く小さな泉で、子供は洗礼を受ける。
その準備として洞窟内を掃除し、清め、灯りを設置し──祝い事の一環として、村を挙げて準備するのが通例なのだ。──が。
今年生まれた子供はただ一人。村はずれに住むレートンの娘、忌むべきハーフエルフだった。
「‥‥俺は最近腰痛が酷くて‥‥手伝いは辞退させてもらいたい」
「子供の調子が悪くて」
「木材の出荷が間に合わなさそうなんだ」
一人、また一人と司祭から視線を逸らしていく。
レートン青年は瞳を曇らせ、司祭は溜息をついた。
「洞窟の準備に手がかかることは、皆さんご存知でしょう。どうにか、協力していただけないですか?」
「レートンが娘に洗礼を受けさせることは自由だ、邪魔もしない。だが、準備の手伝いは‥‥希望者を募った方が波風も立たなくて、お互いの為にも良いだろう」
審判を下したのは村長だった。
──そして、レートン青年は司祭と二人きりで洗礼の準備をすることになった‥‥。
●パリ、冒険者ギルド再び
「ゴブリンを退治しないことには、洗礼の準備ができないんです。何に呪われても、誰に見放されてもいい、僕と妻だけは、娘を祝福してやりたいんです」
レートン青年はそう呟いた。父親として、生まれて間もない娘を見捨てることはできない。
青年はギルド員へ、深々と頭を下げた。
「娘をハーフエルフと知っても、それでも手伝ってくれる──そんな人がいれば、ぜひ、その方にお願いします」
ギルド員はにっこりと微笑んだ。
「では、その条件も加えさせていただきましょう。偏見のない冒険者も数多くおりますから、どうぞご安心下さいね」
●リプレイ本文
●洗礼を行うべき場所で──
「あの洞窟で、本当に間違っていないですか?」
自分の倍近い身長のウォ・ウー(ea6027)を真摯な表情で見上げながら、まだあどけなさの残るテッド・クラウス(ea8988)が真摯な表情で尋ねた。自分たちが身を潜めている木々から洞窟までの距離は10メートルほどで、その間には何もない。あえて『ある』とするならば『空間』であり、おあつらえ向きの『戦場』である。
「ああ、間違いない。レートンが間違えていなければな」
洞窟から注意を逸らさずに、ウーは頷いた。
そう、今のこの場にレートンはいない。
「万一のことがあったら、洗礼どころか、あの子を祝福する者が減ってしまう」
「はい‥‥えと‥‥やっぱり愛してくれる家族の存在は大きいです‥‥きっと、あの子にとっても」
案内を申し出たレートンを、ルティエ・ヴァルデス(ea8866)とスィニエーク・ラウニアー(ea9096)が止めたのだ。
もちろん、森林に強いウーがいたからこそ、レートンもその言葉に甘えたわけなのだが。
「それにしても、遅いです‥‥大丈夫でしょうか」
セフィナ・プランティエ(ea8539)が洞窟に入ったまま戻らない半身 白(ea9457)の身を案じた。彼女が自分自身にかけていったオーラエリベイションはもう切れているだろう。単身進入する白のためにランタンは貸したものの、照明器具を持ちながらの戦闘はなかなか難しいものがあるだろう。
「しっ、剣戟‥‥足音がする。来るわ」
(「さて‥‥これが射撃クレリックとしての最初の活動になるわね」)
耳を澄ましていたフィーナ・アクトラス(ea9909)がハンドアックスをその手に収めて声を上げた。その警告を受けたウーが片手を上げ、洞窟の上で待機しているシモーヌ・ペドロ(ea9617)にも合図をする。
「あたしの役目、重要よね。頑張らなくちゃ」
片言の敬語を忘れて自分に気合を入れる。自分の身長より大きな弓に矢をつがえ、状況を注視する。
シモーヌの黒髪が風に煽られ──
「8匹だ!」
洞窟から飛び出してきた白は声を張り上げた。傷を気にせず洞窟前に広がる空間の中央付近に陣取り、左手のランタンをダガーに持ち替えながら応戦の体勢に移る。
「ご苦労様、白君」
「できるだけ追い払うように努力しましょう!」
ルティエとテッド、耳を隠した二人の騎士があふれ出るゴブリンを迎え撃つべく白の前へ駆け出し、各々の武器を構える。
「──7、8‥‥これで全部か」
そして、ゴブリンが全て洞窟から出たことを確認して、ウーも戦場にその巨躯を現す。
『──!?』
突然現れた、見上げるような背丈の大男に驚いたのか、戦意喪失した3匹が洞窟へ引き返そうとし──
──ヒュ!! ドシュ!!
洞窟に駆け込もうとした一匹の首元へ、狙いすました矢が突き立った!!
『!!』
「洞窟に戻っては駄目デスヨ? 依頼主様の命令なのデス」
矢が狙った場所へ寸分の狂いもなく吸い込まれるのを確認し、次の矢をつがえながら、どうにも慣れない敬語で呟く。
見上げたゴブリンは、シモーヌに気付き、方向転換をして森へと逃げ出した!
「ウー様のおっしゃるとおりなのデスね、ゴブリン怯えると逃げることもありマシタ」
追撃を仕掛けたいところだが、他のゴブリンに洞窟に逃げ込まれては元も子もない。シモーヌは逃げ出した3匹の背中から戦場へと視線を戻した。
ロングクラブを構えたテッドと、メタルロッドを握るウー、日本刀で峰打ちを狙うルティエ。
(「あの子の歓びの日がゴブリンの死の上に成り立つ事になるのは可哀想だから、ね」)
出来るだけ血は流さず、呪われし子の洗礼が祝福されたものになるように、と‥‥それは彼らなりの配慮だった。
「ライトニング・サンダーボルト!!」
スィエニークが緑色の淡い光に包まれ、伸ばした掌から雷光が放たれる!! 鋭い雷光はゴブリン数匹を容赦なく貫き、バシュッ!! と岩壁に吸い込まれた。その傍らでは、セフィナがリカバーを発動させ、白の怪我を癒している。系統の違う白い光が、淡く、やさしく、二人を包む。
突然の魔法に驚き硬直したゴブリンへ、フィーナのハンドアックスが全力投球で打ち出される! その一撃を皮切りに、戦場は混戦の様相を呈していき──
ゴブリンは、レートンの希望通り、命を失うことなく背走していった。
●聖なる儀式のその前に。
「何かお手伝いさせていただけますか?」
「ありがとうございます。では──」
村の教会を訪れたセフィナの好意を、司祭は笑顔で受け入れた。純白の布、銀の燭台に食器、蝋燭‥‥この村での洗礼に必要なものを集めながら、司祭はふとセフィナに尋ねた。
「ハーフエルフは、やはり呪われし子だと思いますか?」
それはセフィナも自問したことのある質問だった。背筋をぴんと伸ばし、真っ直ぐに司祭を見つめ、はっきりした口調で、自分なりに導いた回答を口にする。
「確かに、自然の摂理に反した存在だとは思いますが、それでも、赤ん坊に罪は無いと‥‥わたくし、そう思っておりますわ。洗礼をすることで、神の祝福を得ると共に、信仰の元に生きると誓約することにもなりますでしょうしね」
「私も、そう思っておりますよ。胸を張って言える強さを持ち続けてくださいね、セフィナさん」
「──ええ」
そう、この司祭が辺境の小さな村にいるというのは、ジーザス教の現実のひとつである。
「ちょっと、出かけてきます」
そう言ったテッドに、ウーが同行した。村長の元へ行くと言われたからだ。ルティエは、それは村人に任せるべき問題だと言ったが、テッドには耐えられなかった。
運が良かったのか、村長は家におり、玄関先に顔を出してくれた。
「冒険者の方が、何かご用かな? 何か依頼をしている記憶もないのだが」
皆まで言わせず、テッドはフードを外した。独特の耳が村長の前に現れる。僅かに表情を強張らせる村長と、硬い表情のテッドをウーは心配そうに見比べる。
「行きずりのハーフエルフの言葉など聞きたくないでしょうがひとつだけお願いがあって参りました」
今にも逸らされそうな村長の目をじっと見詰めて、テッドは抱えていた言葉を吐いた。
「全てのハーフエルフを受け入れてくれとは申しません。しかし、せめてこの村に生まれたあの小さな命だけは祝福してもらえないでしょうか?」
「‥‥それが村の火種になるとしてもか? 洗礼間際に、あの洞窟にゴブリンが住み着いたことだって、祝福される資格がなかったからだろう‥‥違うと言い切れるか?」
村長が吐き捨てた言葉に、テッドの瞳が揺れる。たとえ力いっぱい否定し、違うと言い切ったとしても、それを信用させるだけの手札がない。ギュッと拳を握って視線を伏せたテッドを見捨てるように、村長は屋内へ戻った──小さな呟きを残して。
「あの娘が育っていく過程で、村人に認められることがないとも言わないが」
閉じた扉の前で、残された言葉に驚きと戸惑いと少しの笑みを混ぜた複雑な表情を浮かべるテッドに、ウーはフードを被せた。
「良かったな、テッド」
洞窟の清掃に目途がつくと、ルティエはシモーヌとフィーナに最後の仕上げを任せ、レートンの家を訪れた。
「無理に殺さないで下さったんですね。ありがとうございます!」
レートンは報告を聞き、喜んでルティエの手を握った。
「‥‥そうだ、『あの子』呼ばわりは失礼かな。良ければ名前を教えて貰えないかな?」
「‥‥エルザと名付けました」
奥の部屋の扉が開き、現れたエルフの女性がそう答えた。小さな娘をルティエの腕に預ける。
「エルザ──元気の溢れそうな、良い名だね。小さなエルザの人生が幸せで満ち溢れたものとなるように、神と共にある喜びを感じられるように──私も祈らせてもらうよ」
腕の中ですやすやと小さな寝息を立てる騒動の元に、ルティエは自然と笑みを溢すのだった。
●そして、洗礼──
「忌まわしき血を受けし子が、大いなる愛の元──紅き狂気に囚われることなく、幸福な人生を歩みますように。この子の人生に、幸多からん事を‥‥」
泉の清廉な水に純白の布を浸し、赤子の額を撫でる。そして司祭が祝福の言葉を紡ぐ。
「幾多の困難にも負けないように、精霊からの加護がありますように‥‥」
スィエニークも、精霊碑文文字を描き、心からの祝福を送る。
「あの‥‥確かに周りの人からは祝福されないかもしれませんけど‥‥レートンさん達だけは、この子を愛し続けてください‥‥。両親の愛があれば‥‥この子も幸せだと思います‥‥」
私も両親の愛があって幸せに育ちましたから‥‥と、フードを僅かにめくって耳を見せ、控えめな笑みを浮かべた。レートンは力強く頷いた。
「もちろんです。誰に愛されなくても、僕と妻だけは愛し続けます」
洗礼を見届け、白は司祭に尋ねた。
「私のような者でも、洗礼を受ければ、洗礼名と言うものが与えられるのだろうか? ‥‥私に名を与えてくれる神ならば‥‥私は信じてみたい‥‥」
「そうですね、洗礼を受けジーザス教徒になるならば、聖人の名を与えることができます。ですが、成人が洗礼を受けるためには──ジーザス教を学び、ジーザス教徒に相応しい人格であることを認められなければならないのです」
「学び、認められる‥‥」
司祭は微笑みを浮かべ、白の髪を撫でた。
「‥‥教会に通い、ジーザス教を学びなさい。充分な知識を蓄える頃には、司祭にもあなたの人格が伝わり、無事に洗礼を受けられるでしょう」
名を得る望みは、失われてはいない──歓喜に震える心を、白は必死に推し止めた。
そんな白の様子に気付かないふりをしながら、戦場になった洞窟前の広場で祝いの料理を口にしていた。
──ガサッ。
背後の茂みの不自然な音に気づいたのはフィーナだ。振り返ると、シモーヌの矢を受けたゴブリンが様子を伺って‥‥
「えいっ!!」
──ガッッ!!
反射的にハンドアックスを全力投球!! ゴブリンの眉間にクリーンヒット!!
バッタリ倒れたゴブリンに、射撃クレリックを自称する乙女は満足して微笑んだ。
「拾いに行くのは、ごはん食べ終わってからでいいわよね」
食事を満喫した彼女がハンドアックスを拾いに行き──道に迷った詳細は、彼女の名誉のために伏せさせていただきたい。
──呪われし子らに、祝福あれ。