ルシアンからの挑戦状
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■ショートシナリオ&
コミックリプレイ プロモート
担当:やなぎきいち
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月13日〜07月20日
リプレイ公開日:2005年07月21日
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●オープニング
●女商人ルシアン・ドゥーベルグ
「さて、今日もやりましょうか」
暗い部屋に灯りを燈すのは、シュティール領で名を馳せた女商人ルシアン・ドゥーベルグ。やり手の商人たちと対等以上に渡り合うその手腕は女性とはいえ侮れるものではない、と商人ギルドでも顔の効く存在だ。
ランタンの仄かな灯りに照らされた室内で最も目を引くものは、一際大きな机と、その上に載せられた白い布を被せられた何かだった。
一瞬の躊躇いもなく、一思いに布を取り去る!!
ランタンの灯りに照らされ、浮き出すようにそこへ現れたのは、平坦な木箱。
いや、何かの模型のようにも見える。板で仕切られたその木箱は、そう、まるで迷路のようで‥‥
静かに椅子を引き、『迷路』に対峙するかのように腰掛けるルシアン。情熱的な赤毛を掻き上げ、クールな表情に憂いを滲ませた。
「何か、気に入らないのよね」
不服そうに目を眇め、木箱の仕切り板を数枚外す。そして大小さまざまな大きさの板を組み合わせ、取り外し、置いては取り除く。
ランタンの灯りが仄かに照らす静かな部屋に、板が触れ合う音だけが小さく響く。
──その『迷路』はまるで生きているかのように、刻一刻とその姿を変容させていた。
中央の板を指でコツンと弾き、溜息と共に小さく呟いた。
「やっぱり、トラップがないとダンジョンとは言えないわよね」
そう、女商人ルシアンの密かな趣味はダンジョンの設計をすること。
仕事の合間に構造を考え、家事の合間に罠を考え、休日にはドワーフたちとダンジョン作りに精を出す毎日だ。
どれほどの刻が経っただろう。ガタッと椅子を鳴らし、ルシアンが立ち上がった。
「出来た──ふふ、我ながら完璧ね」
そして今日! たった今!! ついに自己満足ダンジョン(模型)を完成させた!!
あとは、ドワーフ職人と共にお手製のダンジョンへ赴き、今日の修正箇所を反映させれば終了だ。
優雅な微笑みを浮かべ、女商人ルシアンは模型にそっと布をかぶせ、ランタンを持って部屋から出ていった。
そして数日後。
朝食に添えられた黒パンをちぎりながら、季節にそぐわない哀愁を漂わせているルシアンがいた。
確かに、ダンジョンは完成した。
しかし、なんの曰くもなく、作られたばかりの真新しいダンジョンになど、冒険者は見向きもしない。
‥‥‥そう、ダンジョンは冒険者が挑んでこそのダンジョン!! 飾り物のダンジョンはダンジョンではないのだ!!
「冒険者にダンジョンに入ってもらうためには‥‥」
黒パンに口付け思案したルシアンは、殊もあろうか、ダンジョン攻略を冒険者ギルドへ依頼したのだった。
「隠した『宝物』を発見して持ち帰れば、報酬は上乗せするわよ」
そして今日、そんな言葉に釣られた冒険者たちがダンジョンに挑む!!
●冒険者ギルドINパリ
「雛菊さんも、一緒に行かれたらどうですか?」
『モンスター』が運び込まれたという話を耳にしながらも、エルフのギルド員リュナーティア・アイヴァンは小さな雛菊へ声をかけた。
「お兄ちゃんやお姉ちゃんたちと、お仕事してみたいのー」
ここ数日、口癖のように呟かれていたジャパンの忍者・雛菊の希望を叶えようと思ったのだ。
──しかし。
「雛、お仕事で忙しいなのよー」
「お仕事ですか? それは残念ですね‥‥どんなお仕事です?」
鎌首をもたげた小さな好奇心を向けられ、雛菊はあわあわと首を横に振った。
「ダメなの!! 忍者のお仕事は秘密なのよ〜。あっ、ルシアンお姉ちゃんが待ってるから、雛もう行かなきゃなのっ!」
誤魔化すように言い残して駆け出した雛菊はお約束のように足をもつれさせて盛大にすっ転び、涙目になりながらギルドを出て行った。
「ルシアンさんとのお約束、ですか‥‥くす、頑張ってくださいね」
とてとてと走り去って行く小さな背中に微笑ましいものを感じながら、ギルド員はその短い休憩時間を切り上げるのだった。
●リプレイ本文
●ルシアン・ドゥーベルグ──抜け目なき女商人
湖の傍らに、石造りの小さな礼拝堂が建てられていた。日々の生活の中で神に祈りを捧げる、そのためだけの小さな礼拝堂──数本の石柱が屋根を支え、ジーザスの像が奉られているだけという、東屋といっても良いほどのとても小さく質素なものだ。
その礼拝堂の前で、女商人ルシアン・ドゥーベルグは冒険者たちを振り返った。
「さて、ここが今回挑んでもらうダンジョンよ」
「ふぅん、ずいぶんと小洒落た入り口ね。手作りっていうからどんな物かと思ったわ」
依頼として数々のダンジョンと関わってきたオイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)は、石柱にすら触れることはせず、用心深くぐるりと周囲を回りながらそんな感想を漏らした。
そもそも、ダンジョンと呼ばれるものは人の手による作品であることが多い。何かを封じるために作られたもの、ただの建物が幾星霜の時を経たもの、モンスターが住み着いてしまった廃墟などはそう呼ばれることが多い存在だろう。
「オイフェミアさん、危ないですよ」
彼女が道中で拾った10フィートほどの棒を押し付けられた宮崎 桜花(eb1052)は、慌ててオイフェミアの後を追い、そして追い越し、自分の身長の倍ほどもある棒で探るように地面を叩いた。
「大丈夫よ、こんな所に罠があれば見つけてくれと言っているようなもの。ダンジョンはそんなものじゃないわ」
叩くなら礼拝堂を叩けと軽く手を振るオイフェミア。
片や、感嘆とも呆れともつかぬ溜息を漏らしたのは風海 華鷹(eb2061)だった。
「なんというか。ダンジョン作っちゃうってすごいよね。しかも、わざわざ冒険者雇って攻略させようっていうんだから。趣味人と言うべきなのかどうなのか」
まぁ、それはそれとして仕事ならきっちり攻略してくるけどね。
「ハーイ皆さま。お荷物はこれで全部デスカ?」
集まった荷物、その消耗品をチェックしながらシモーヌ・ペドロ(ea9617)は同行者たちを見渡した。
「男一人だからと言って力仕事はせんぞ」
シモーヌと目が合った瞬間、レイジ・クロゾルム(ea2924)は嫌そうに渋面を作ってみせた。
「ダイジョブですヨー。自分の分は自分で運ぶデス」
酷使して疲れちゃって、いざって時に使い物にならなかったら困っちゃうしねー、と内心でペロッと舌を出しながらシモーヌはにこにことレイジを宥める。
そしてそれぞれのバックパックを手にする冒険者たち、その中でただ一人、ハルヒ・トコシエ(ea1803)だけが顔面を僅かに蒼白にしていた。
「保存食、足りなかったかも」
「あら、売ってあげるわよ?」
にっこりと、女商人ルシアンが天使のように微笑んで保存食を取り出した。
「3倍の値段で、ね♪」
──合掌。
●礼拝堂より──いざ、ダンジョンへ!
「さて、ここが入り口なのは確実なんだよね」
華鷹が礼拝堂をチェックする。
まだ日の昇り始めた時分‥‥朝風に気分を切り替えて、武器を長い棒に持ち替えた前衛の桜花が安全を確認した東屋を、見回しながらぐるりと歩き回る。
そしてジーザスの像に触れ‥‥眼帯のない目で微笑んだ。
ジーザスの像の台座に触れ、力を加えると──右に回転し、正面を向いていたジーザスの向きが90度変わった。
「動かした跡が残ってたよ。もう少し、判らないように気を使った方が良いかもね?」
金の髪を揺らして微笑みを浮かべた華鷹の足元で、『ゴゴゴゴゴ‥‥』と仕掛けの動く重い音が響き。
ジーザス像がスライドすると、その足元に地中へ続く細い階段が姿を現した。
表情を引き締め、3メートル程の棒を握る桜花がまず階段を下り、2度目の詠唱でライトの魔法を成功させたハルヒ、ランタンを持つオイフェミアの順で階段に足を踏み出した。
●第一階層──最強のモンスター!?
日の差さない地下迷宮は、湖の下に潜ろうとするだけあって、そこに満たされた空気もどこか湿気が多い。
切り出され、敷き詰められた石からもひんやりとした空気が漂い、真新しい迷宮という違和感が多少纏わり付くものの、ダンジョンという雰囲気はしっかり醸し出されていた。
ランタンとライトの光球が頼りなく通路を照らし出す。
「灯り、ちょっとこっちにくれ」
羊皮紙に地下ダンジョンの地図を作っていたレイジが、手元を照らしてくれと仲間に声をかける。羽ペンをインクをつけねばならず、歩きながらのマッピングは難しい。桜花が罠を確認する傍らでレイジが地図を作る、移動中はシモーヌと華鷹が後方警戒、というのがいつしかそれぞれの役割として固定化されていた。
だから、ソレの気配に気付いたのが華鷹だったのは当然だったのかもしれない。
「‥‥何かいる」
第一階層の地図もほとんど出来上がった頃、外に居ればそろそろ景色が夕闇に包まれる時刻。そう呟いたのは華鷹。
ネイルアーマーに仕込んだダーツをそっと手に取り──2本のダーツを右手の指で器用に支えると、振り向きざまに投げた!!
同時にシモーヌも左右の腕を勢い良く振り、袖に仕込んであったダーツが飛び出す勢いを利用して投げた!!
『──!』
「──くっ!」
「──うわっ」
そこに居たのはふわふわモコモコした‥‥ウサギ。二人は咄嗟に指に力を加え、腕の角度を変え、強引にダーツの軌道を逸らす!!
驚いたウサギは一目散に逃げ去った!!
「運び込まれたモンスターはただのウサギだったのでショウカね? それなら危険が少ないので安心デスけれどー」
「そうだな。ダンジョン内に非常食が放たれていると思えば問題ないどころか、ありがたいくらいだな」
バイブレーションセンサーでいつでも探し出してやろう──顎に触れ、ウサギの去った方向を見下すように眺めるレイジ。その背中に鋭い視線が突き刺さった。
「ウサギさんを食べるなんて、駄目です〜!」
「レイジさん、酷いです」
ハルヒと桜花の視線だった。
「おまえたち、いつも食べているのではないの? 美味しいものだと思うけれど」
「それとこれとは話が別ですよ〜」
料理は美味しく戴くが、今問題なのはふわふわもこもこのウサギが危機に立たされているということ!!
‥‥そう、ふわふわのモコモコであるということが重要なのだ!!
「‥‥まぁ、ルシアン様もウサギはお好きなようですシ」
そっとしておいて損はないだろうとシモーヌはレイジを宥めた。その姿はまるで主と専属のメイドのようだった。
●第二階層──待ち受ける罠
「──それでは、降りますね」
階下へと続く階段の前に立ち、相変わらず10フィートの棒を握り締めて、先頭に立つ桜花は仲間たちを振り返る。
そして面々が頷くのを確認し、一歩ずつ階段を下ってゆく。
先頭を行く桜花が第二階層に足を着き、5番目を進むシモーヌが階段に踏み込んだその時だった。
──ガラ‥
「──ぇ?」
声を漏らしたのは誰だっただろう。石段の一角が崩れ‥‥あとはあっという間だった。
──ガラガラガラガラ!!!
「きゃああっ!!」
華鷹一人を第一階層に残し、5人の冒険者と石段だったものは階段の下で一つに纏まっていた。
「‥‥罠、でしょうか‥‥」
「さぁ。強度が足りてなかっただけじゃないの?」
呆れたように返すオイフェミアの視線は、周囲の壁や天井をチェックしていた。この衝撃でダンジョンに影響が出ないとも限らない──幸い、杞憂で終わったようだった。
「これじゃ帰りに困るわね。レイジ、ちょっと手伝いなさい」
「力仕事ならお断りだ」
「ストーンで階段を補強しておくのよ。帰りにまで崩れたら面倒だわ。それとも、頭脳労働まで断るかしら? それならウサギの方が食える分だけマシってモンだけど」
さっさと立ち上がり詠唱を始めるオイフェミアに急かされるように、ハルヒや桜花、シモーヌも立ち上がると階段を少しでも元の状況に戻そうと石を並べ始めた。全員が瓦礫から抜け出すと、華鷹は忍者らしい身軽さで崩れた階段を下り、石を並べる手伝いを始めた。並べられた段にオイフェミアがストーンをかけ、崩れないようにしっかりと補強をする。
「──ストーン」
やらないとは言っていない。そんな不服そうな表情を浮かべつつも、レイジも階段の補強に加わった。
そして階段が何とか階段らしい外観を取り戻すと、冒険者たちは第二階層の探索に乗り出した。
「棒は折れてしまいましたけれど、気をつけて進みますね」
桜花がそう言って間もないうちに。
──足元にぽっかりと口を開けた落とし穴に、見事に落下していくことになるとは誰も思わなかったのだが。
●第三階層──隠れ咲く雛菊
──ボチャン!! ボチャン、ボチャン!!
「うわっぷ‥‥冷たぁい〜っ!」
3人分の水音とハルヒの嘆きが石造りの第三階層に響き渡った。証明がランタンでなくライトだったのは不幸中の幸いと言うべきだろう。
「大丈夫か?」
「えぇ、何とか大丈夫です」
リトルフライのスクロールを使い一人優雅に舞い降りるレイジの他人事のような声に桜花が応じる。
意外に深さのあるその場所は湖から水を引き入れているのだろう、とても冷たい水で満たされていた。
夏にも関わらず桜花とハルヒの唇は青ざめていくが、一人悠々と泳ぐのは寒中水泳という一風変わった趣味を持つオイフェミアだった。
「おまえ、こっちに明かりをよこしなさい。上がれそうよ」
高圧的にも聞こえるが悪意があるわけではないことはこの数日で充分判っている。ハルヒは素直にオイフェミアの泳ぐ方へ光球を飛ばす。
すると、映し出されたのは石畳の敷き詰められた少し広いスペースと、宙に浮く小さなピンクの玉簪(たまかんざし)。
「出たわね、モンスター!!」
愉しそうに声を張り上げ詠唱を始めるオイフェミアに、簪が泣き逃げ惑う。
「いやぁんなの〜!」
「──雛ちゃん!? オイフェミアさん、待ってください!!」
見覚えのある簪と聞き覚えのある声に、桜花は水を掻き分けて進む!!
一向に戻る気配のない仲間たちに華鷹は痺れを切らした。石床の継ぎ目に『ガキィ!!』と忍者刀を突き立て、ロープを固定する。
「はい、これで大丈夫だよ。追おう、シモーヌ」
「えぇ!? 折角濡れないで済んだのに、結局泳ぐのー!?」
思わず素に戻ったシモーヌが嘆きながら不満を零しながらロープを伝い、冷たい水を掻き分けて進むと、そこには対立する仲間たちがいた。
ピンクの玉簪──よく見ると黒装束を纏った小さな女の子で、雛菊と名乗っているようだ──を凛々しく庇う桜花。
「雛ちゃんを虐めるなんて、私が許しません!!」
「聞いても教えないんだ、仕方ないだろう。リシーブメモリーでちょっと頭の中を覗くだけだ、痛くも痒くもない」
そしてスクロールを握り偉そうに言い放つレイジ、面倒臭そうに見守るオイフェミア。
ハルヒが根気強く尋ねても『雛のなの〜、取ったら駄目なのよぅ!』と喚くばかりの雛菊。
平行線を辿るばかりの空間に変化を齎(もたら)したのはシモーヌだった!
「ハァイ、皆さん怖い顔して、どうしたデスカー?」
水から上がったメイドの姿に、雛菊の表情が引きつった!!
ぎゅむっと全身の力を込めてハルヒに抱きつく雛菊! そう、少女は過度のハーフエルフ嫌いなのだ!!
「雛菊ちゃん、あのね‥‥」
怯える雛菊に理解してもらおうと口を開きかけたハルヒを手で制し、華鷹が雛菊を抱き上げた。にっこり笑って語りかける。
「ジャパンの忍者が泣いてもいいのかな? どうしたのか、教えてくれる?」
「雛、泣かないも。でも‥‥悪いハーフエルフが、雛の宝物取りに来たの。雛、ヤだのよ〜!!」
「雛菊ちゃんの宝物?」
子供の喚く声に眉を顰(しか)めていたレイジとオイフェミアは、困惑を浮かべる桜花と目が合った。すると、困ったように二人を見比べる桜花。雛菊を知る彼女だからこそ気付いた、ダンジョンに隠された『宝物』‥‥
「『宝物』は‥‥雛ちゃんの、簪です‥‥」
少女がどれだけ必死にその宝を守り通したか知っている朋友だからこそ、気付けた。けれど、朋友だからこそ‥‥奪うことはできなかった。
「悩むまでもないだろ?」
俯き唇を噛む桜花の脇をすり抜け、レイジはひょいっと雛菊の髪から簪を抜き去った!
ふぁさっ、と黒髪が広がり、同時に泣き声も広がった!!
「雛のなの、取っちゃ駄目なのよー!!」
比較にならない大声に、流石のレイジも思わず雛菊模様の玉簪を突き返した。
抱きしめて宥め、撫でながら髪をまとめて簪をさす桜花。そして理美容用品一式を取り出し、涙を浮かべる雛菊を変身させるべく趣味に走るハルヒ!!
「簪奪う必要なんてないデスよ〜?」
盛り上がる一堂を我に返したのは、迫害されたシモーヌの一言だった。仲間たちの視線を浴び、続きを口にするシモーヌ。
「雛チャンごと連れて行けば良いだけデェス、ふふ、あたしってば頭い〜☆」
「あぁ、そうか。簪『だけ』を持って来いとも言われていないものね」
オイフェミアがぽん、と手を叩いた。ダンジョンから『宝物』を持って帰るのが仕事であって──雛菊から簪を奪うのが仕事ではない。
「雛ちゃんが一緒でも‥‥いいですか〜?」
困惑を浮かべて問うハルヒに、慣れてるからね、とシモーヌはいつもと変わらぬ笑顔で返した。
その笑顔が、現実が、冒険者の胸に小さな棘を刺した。
「あ、ルシアンお姉ちゃん〜。雛、捕まっちゃったなのね」
ダンジョンから連れ出された雛菊は、ルシアンを見るや否や悪びれずそう笑った。
「雛菊さんごと連れて来るなんて‥‥」
愕然とするルシアンだったが、確かにルールは破られておらず、悔しがることしかできない。
しかも、日程的にはまだ半日以上の余裕がある──ルシアンの完敗だった。
「それにしても、モンスター‥‥は平和でいいが、罠は分単純で単調だったな。もっと拘ったものを作ったのかと思ったが」
「よ‥‥予算や強度と折り合いを付けると、これが限界だったのよ!」
「でもね、ダンジョンというものは武人の蛮用に耐えうる強度が必要なの。おわかり? おばさん」
明らかに自分より年上のオイフェミアにおばさん呼ばわりされ‥‥ルシアンはがくりと地に膝を突いた。
「‥‥改良を重ねて‥‥いつか、貴方たちが泣いて降参するようなダンジョンを作ってみせるわ!!」
女商人ルシアン・ドゥーベルグは青空を映す湖に、そう誓うのだった。