洞窟トラブル〜ナンバーズ〜

■ショートシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 30 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月22日〜07月29日

リプレイ公開日:2005年07月31日

●オープニング

●冒険者ギルドINパリ
「お願いします、僕の‥‥僕の羊皮紙を取り戻してきてください!!」
 カウンターで声を張り上げるのは動植物の研究家を自称する青年、クィン・エンディスだった。
「あれが戻らなければ‥‥危険を冒した甲斐が‥‥あぁ、神はなんという試練をお与えになるのか‥‥」
 ブロンドの巻き毛を振り乱し、仰々しく芝居がかった挙動で嘆く。
「大切な羊皮紙なのですか?」
 なかなか肝心の羊皮紙について触れられず、エルフのギルド員リュナーティアがそっと話の続きを促した。
「えぇ‥‥ビリジアンモールドが美しく描けた渾身の一枚なのです‥‥」
「‥‥あぁ、クィンさんは画家さんなのでしたね」
「絵は趣味です。仕事は動植物の研究で‥‥間違えないでください!」
 律儀に訂正するクィンだが、研究素材をみつけても飽きるまで、もしくは羊皮紙かインクが尽きるまでひたすら絵に描き続けるというのは‥‥研究家としてどうなのだろうか。
「その羊皮紙は、どちらで無くされたのですか?」
「ここから2日半ほど歩いた場所にある洞窟です。ええと、シュティール領内になるのでしょうか」
 クィンはそこにビリジアンモールドが生えているという話を聞き、解毒剤片手に写生‥‥否、研究をしていたのだという。
 毒の胞子を噴出するビリジアンモールドだが、対策さえしっかりしてあれば恐れることもない。だから彼は、不気味な石像の立ち並ぶ洞窟でランタンと羽ペンを友達に、自分の欲望の赴くままにビリジアンモールドと向き合っていたのだ。
 のん気なものだと言わないでほしい、モンスターと違って襲い掛かって来るわけではないのだから。

 そう、モンスターと違って‥‥

 だから、襲い掛かってきたのはビリジアンモールドではなかった。
『グ、グ‥‥ガァ、ァ、アア‥‥!!』
「うわぁぁぁっ!!!?」
 腐臭と共に姿を現したのは、どこに潜んでいたのかも判らないズゥンビたち!!
 特に、ズラリと並ぶ牙を持つズゥンビはとてもアンデッドとは思えないスピードで追い縋(すが)り‥‥襲い掛かってきたズゥンビたちから逃げるのに必死で、ふと我に返った時には、着の身着のままとでもいう風体。握り締めていたランタンと羽ペンだけが、クィンの手に残されていた。

 ランタンと羽ペンだけ──つまり、羊皮紙も、インクも、バックパックも、すべてが洞窟の中‥‥

 忘れたい、忘れられない、忘れることの出来ない情景を鮮明に思い出し、クィンは身震いした。無事に逃げ遂(おお)せたのは、単なる運にすぎないのだろう、と思う。
「バックパックには今までに描きためた羊皮紙が入っていて──あ、いいえ、あの、調べてきたデータをまとめた羊皮紙も入っていますけれどっ! ‥‥取り戻せなければ、今までの研究は全て水泡に帰してしまいます‥‥」
 絵にばかり注意が行ってしまって、おそらく学者としてはその辺の冒険者の方が余程詳しいだろうと思わなくもないが、依頼人に貴賎はない。
「では、ビリジアンモールドの発生している洞窟で、ズゥンビたちをあしらいながら羊皮紙を回収する、というのがクィンさんんからの依頼ということで、よろしいでしょうか」
 神妙な面持ちで大きく頷くクィン・エンディス。
「命の次に大事なものを命を守るために置き去りにしてきたのか。それじゃ、命が助かったなら、2番目に大事なものを取り戻すのは当然だよな!!」
「ラクスさん、依頼人の相談を盗み聞きするなんて冒険者としてあるまじき行為ですよ?」
 ズゥンビの名が出たところでもう覚悟はしていたのだろうが、案の定現れたラクス・キャンリーゼにギルド員は顔を顰めた。
 そして、ラクスの傍らに、いつも連れまわされていたスクロール使いの姿がないことに気付き、首を傾げた。
「カルロさんはご一緒ではないのですか?」
「何か、外せない大事な用があるとか言ってたな。まぁ、ズゥンビ程度なら俺一人でも大丈夫だ!!」
「それでは、ビリジアンモールドの分の冒険者を募集しますね」
 アンデッドを呼ぶ男と言われたラクスの無駄に熱い言葉を適当に聞き流し、ギルド員は依頼書を掲示したのだった。
「‥‥でもアレは本当にズゥンビだったのでしょうか‥‥早かったですし、牙なんて‥‥」
 依頼人クィンは小さく呟き頭を捻ったが、その言葉は誰の耳にも届くことなく、淡雪のように掻き消えた。

●今回の参加者

 ea2850 イェレミーアス・アーヴァイン(37歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea2940 ステファ・ノティス(28歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea6894 片柳 理亜(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7431 フィソス・テギア(29歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea8586 音無 影音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9344 ウォルター・バイエルライン(32歳・♂・ナイト・エルフ・ノルマン王国)
 ea9471 アール・ドイル(38歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9909 フィーナ・アクトラス(35歳・♀・クレリック・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

●パリからの出立
「それでは、くれぐれもよろしくお願いいたしますね」
 金の巻き毛を揺らめかせた依頼人クィン・エンディスに念を押され、日数分の保存食を受け取ると、冒険者たちはパリを後にした。
「そこまでしてビリジアンモールドの絵を描くなんて‥‥研究家さんって凄く物好きなんですね‥‥」
「度胸が据わっていると言うのか‥‥大胆だな、依頼人も」
 見送るクィンが小さくなると、ステファ・ノティス(ea2940)がぼそりと呟いた。頷いたのはイェレミーアス・アーヴァイン(ea2850)だったが、その言葉は恐らく、皆の共通した感想に違いない。
 フィソス・テギア(ea7431)は少しだけ眉間にしわを寄せながら、友の言葉に首を傾げた。
「ビリジアンモールドを一体どうすれば美しく描けるのか大いに疑問だが‥‥」
 興味がないわけではないが、とりあえず、今回の依頼には関係ないことだと割り切るフィソス。
「まあ、依頼となれば行くしかあるまい。アンデッドも出ているようだからな」
「洞窟なんてのは何が出て来てもおかしくないからな。ビリジアンモールドまで発生していれば今更驚く事でもないだろう」
 気合いを入れなおすように手袋を嵌めなおし、イェレミーアスは状況に思考を巡らせる。
 ビリジアンモールドの発生した洞窟、徘徊するアンデッド‥‥
「あ、ラクス君の分も綺麗な布を用意しておいたからね」
 片柳 理亜(ea6894)はラクス・キャンリーゼに片目を瞑って見せた。
「布? 何でだ??」
「ビリジアンモールドの胞子対策だよ。毒を喰らったら大変だから、洞窟に入るときにはちゃんと鼻と口を布で覆うんだよ?」
 きょとんとするラクスにピッと指を立て、しっかりと忠告する理亜。初対面でも彼が猪突猛進型だということは肌で感じ取れる。
「はっはっは!! 大丈夫だ、ちゃんと解毒剤を買ってきたからな!!」
「でも、安いものじゃないんだから。使わないに越したことはないんだよ?」
 じっとラクスを見る理亜。じっと見つめ返すラクス。
「ついにラクス殿も恋をするようになりましたか‥‥この調子で情操面でも成長していただきたいものですね」
 見つめあう二人にウォルター・バイエルライン(ea9344)は淡い期待を抱く。
 そんな期待を打ち壊す現実を突きつけるのはアール・ドイル(ea9471)と音無 影音(ea8586)の役目。
「夢は寝てから見ろ」
「ウォルター‥‥現実、見たら?」
 指差し示されて改めて見れば、真っ赤になった理亜にラクスが怒鳴られているところだった。
「お母さんか近所のおばさんみたいって‥‥こんな若い子捕まえて失礼すぎだよラクス君っ!!」
「まぁ、アレがラクスさんなんだから仕方ないわよね」
 慰めるようにポンとウォルターの肩を叩き、フィーナ・アクトラス(ea9909)は楽しげに笑った。
 ラクスの成長は気長に見守るしかないだろう。タロン神の試練という名の導きを与えながら。
「ふふ、手は抜かないわよ」
「楽しそうだね、フィーナ‥‥」
 フィーナの考えていることを悟り、色々な意味での期待を込めた眼差しを送ってしまう影音だった。

●洞穴潜入
「ここですね」
 鼻と口をしっかりと布で覆う。
「そんなものは要らないんだ!!」
「つうか、面倒がかかるのはこっちだ。大人しく──理亜、やっちまえ」
「ありがと、アールさん。これも必要なんだから我慢だよラクス君っ」
 嫌がるラクスもアールが羽交い絞めにし、理亜がしっかりと布を巻くと諦めたように大人しくなった。
「なんだか‥‥馬や犬のような、動物の反応に似ているような‥‥?」
 ステファにこっそり囁かれ、フィソスは溜息と共に大真面目に頷いた。
「動物のようなものだからな、ラクス殿は」
 そんな会話はラクスの耳には届かず、耳にした仲間たちは笑いを堪えるのに必死だったりしたが、フィーナと理亜がランタンを用意すると各々の表情が引き締まる。
 ランタンを掲げる二人を中心に、前列がアールとラクス、その後ろに依頼人から洞窟内の簡単な地図を用意してもらったウォルターと影音。後列がフィソスとステファ、そして殿がイェレミーアスという布陣になった。もっとも、洞穴内は二人しか並べないほど狭くもないようなので、一度戦闘に陥ればあっという間に混戦状態になるのだろうが‥‥
「一番最初にラクスと出会ったのは今年の始め‥‥そう、あのオーガの助命嘆願をやってた時だね‥‥懐かしいな‥‥」
 ランタンの灯りに照らされるだけの暗闇に、過去を想う影音。
「ズゥンビに推定グール、毒の胞子のビリジアンモールド、か」
「あの時はズゥンビにパピヨンでしたね」
 フィソスが昔に記憶を重ね、ウォルターが過去に現状を重ねた。
「敵も状況も、レベルアップしたね‥‥私たちも。やってる事は大して変わらないけど‥‥。ただ、そう、強いて言うなら‥‥最近、血を浴びる機会が増えたかな‥‥」
「それから、流す機会もね」
 うっとりと零す影音に溜息を吐いてフィーナが突っ込む。
「これでも心配するんだから、少しは考えて欲しいわ」
「ごめん‥‥気をつける」
 気をつける気などまったくない口調で返し、影音は天井に視線を転じた。
 球状の苔が固まり3メートルほどに成長したような物体‥‥ビリジアンモールドが、鮮やかなまでの緑色を晒している。
「本当に‥‥どこをどうすれば、アレを美しく描くことができるのか‥‥」
 影音の視線を追ったフィソスが半ば呆れたように漏らした。おぞましいカビの塊にしか見えないのだが、依頼人クィンはどこかに美を感じたのだろう。
「研究家とか画家とか‥‥その感性を否定する気はないが、俺には理解できそうもない」
「私にも理解できそうもありませんね。したくもない、というのが正直なところですが‥‥もう少し先です、そろそろ出てきてもおかしくありませんから気をつけてくださいね」
 イェレミーアスの感想にビリジアンモールドを一瞥し、羊皮紙に目を落としたウォルターは、ランタンの灯りで現在地を確認して注意を促した。
 洞穴への小さな入り口は隠されていたように見つけ辛く、中は入り口からは想像し得ない程度に広い。内部は入り組んでいたが、ズゥンビと『推定グール』に遭遇した場所、そしてそこまでのルートがわかっている以上、フィーナが先導しなければ迷う要素はない。
 隠されたような小さな入り口に広い内部、並べられていたという石像‥‥アールはあまり自然とは呼べないこの洞穴に、何か引っかかるものを感じたようだった。それが何かは判らなかったが‥‥

●ビリジアンモールドと腐乱死体たち
「うわ‥‥ちょっとこれは、流石に酷すぎ‥‥」
 理亜が布で覆った口元を更に手で覆ったのも無理は無い。
 開けたその場所には3メートル程に成長したビリジアンモールドが2塊あり、その他に5メートル程にまで成長したものまでがあったのだ。
「ミドルビリジアンモールドとラージビリジアンモールドですね、きっと‥‥こんなに繁殖したものは見たことがありませんが‥‥」
 記憶の端から引っ張り出してきた名前は、毒の胞子を吐き出すカビ・ビリジアンモールドの正式名称だった。といっても、名称は大きさで分けられているだけなのだとステファは教えてくれた。
「‥‥良くこんな所で絵を描く気になったよね‥‥」
 何だか、胞子が既に飛んでいそうな気がして、理亜は改めて布でしっかりと鼻と口元を覆い直した。
「事後処理も‥‥やるんだっけ‥」
 斬っても血の出るはずのないビリジアンモールドに、処理の退屈さを想像し、影音は小太刀に触れながら呟くのだった。
「なあ」
「ですね」
 アールとウォルターの会話とも呼べない会話にイェレミーアスが割って入る。
「意思が通じ合ってるのは良いことだと思うが、いや男同士なんてまったく羨ましくはないし興味もないが、関係あることなら少し判るように話してくれると助かる」
「アール‥‥お前、そうだったのか」
「何でそうなる!」
 ラクスを捕まえ脳天に拳をグリグリ押し付けるアール。
 肩を竦め、イェレミーアスに説明するウォルター。
「地面や壁を見てください」
 促され、地面に視線を落とし、壁や天井に視線をめぐらせる冒険者たち。
「平らに均された地面、岩を削り凹凸を減らした壁、並べられた石像‥‥つまり、明らかに、人の手が加わっているんですよ。要するに、ここは何らかの目的で人為的に作られた洞穴であるということです」
「だから警戒しとけって言ってたんだよ──チッ、影音!」
 石像の影から現れたズゥンビを一刀両断にし、のそりと動くズゥンビに駆け寄るラクス──止めようにも両手は塞がっていたのだ──に舌打ちをしつつ前衛役の影音へ警告の声を掛ける!
「やっぱり、聞かないか‥‥。うん、解ってるよ、アール‥‥」
 飛び出したラクスに忠告の無意味さを感じながらも、影音は既に、飛び出してきた他のものより動きの素早いズゥンビ『推定グール』の懐へ飛び込んでいる!!
 フィソスは一旦下がりレジストデビル、ステファはグッドラック、フィーナはミミクリーの詠唱に入る!
「彼の者に大いなる祝福を! ──グッドラック!」
「──レジストデビル! ステファは下がれ、援護を頼む」
「わかったわ、フィソス。でもあまり無理はしないでね」
「殿なんて悠長なことも言ってられないな!」
 寄ってくる『推定グール』からの攻撃に、イェレミーアスも仲間を守るためにロングソードを抜き前衛に向かう!!
 現れた腐乱死体たちはそれぞれ小さなプレートの付いた推定グールが3匹、ズゥンビが6匹。影音、イェレミーアス、フィソスが推定グールを抑え、ラクス、アール、ウォルターがズゥンビを無力化していく!!
 懐に入った影音は推定グールのゾロリと生え揃った牙で肩口に噛みつかれた!! そして抱きしめるように腐乱死体へ腕を回す。その身体に触れ、昏い笑みを零した。
「クスッ。心地よい痛み、だね‥‥。‥‥ふふ、お返し‥‥」
 狙い済ました箇所へ小太刀で切りつけ、深く刺し込み‥‥2度噛まれる間に3度斬りつける。
「無理しないでください、影音さん!」
 ステファが声を荒げる。回復させようにも、推定グールの懐に入ってしまっている状態では接触することは困難、つまり回復はできないのだ。
「避ける気が無いのか!?」
 イェレミーアスの言葉は、影音ではなく推定グールに送られたものだ。防御を重視するイェレミーアスとフィソスの戦法、稀に攻撃をしかければそれは全て敵に当たる。避ける意思がないとしか思えない。
「ズゥンビ系アンデッドは皆同じよ、イェレミーアスさん! 避けることなんて考えてないわ、生者に対する捻くれた嫉みと怨みで動いているのよ!」
 隙を見て羊皮紙やバックパックを探しに行くはずが、乱戦状態で身動きの取れなくなったフィーナは言葉と共に、ロープを付けたダガーでイェレミーアスが防ぐ推定グールへ牽制攻撃を放つ!!
 その時、理亜が悲鳴のように高い声で叫んだ!!
「胞子が!!」
 フィーナと同様にアイテム回収のために行動をするはずだった理亜、打ち漏らしたズゥンビの攻撃を武器で受けた彼女が見たものは、ズゥンビが踏みしめたビリジアンモールドからもうもうと胞子が立ち上るその瞬間だった!!
 呼吸もせず、そもそもただの腐乱死体に過ぎないズゥンビは胞子など関係ない。高濃度で立ちこめる胞子は近辺へ飛散し、布と皮膚の隙間から入り込もうとしてくるようだった。
 緊張の走る中、影音の相対した推定グールが崩れ落ちた!! 下敷きになったビリジアンモールドから胞子が飛散する!!
「‥‥あれ、動かなくなっちゃった‥‥やっぱり、死体は駄目だね‥」
「影音さん、一度引いてください!! 回復します!!」
 肩口に幾重にも付けられた噛み傷、食いちぎろうと力を込められ折れた骨、軽症とは呼べない怪我を負う影音は胞子の中心に立っている!! 傷口から胞子が入らないとも限らないと、ステファの声にフィーナが腕を伸ばし影音の首根っこを掴んで連れ戻す!!
「無茶はしない! ラクスさんも一度戻って回復をしなさい!!」
 怪我が回復させると、念のため、ステファは即座に次の呪文の詠唱に入る!!
「不浄なるものよ、消えよ! ──アンチドート!」
 戻らないラクスもフィーナに首根っこを掴まれ、ステファのリカバーを受ける。
「全て忘れて、永遠の眠りに戻れ!!」
 イェレミーアスのカウンターが炸裂、2体目の推定グールもその動きを止めた!!
「戻りなさい、死の床へ! 安らかな闇へ!!」
 ウォルターの攻撃がズゥンビの腹部を粉砕する!!
「ズゥンビ程度じゃつまらねぇんだよな‥‥」
 ウォルターに背を預けズゥンビにシールドソードを振るっていたアール、無傷のまま3体目のズゥンビを撃墜!!
「すみませんね、ズゥンビばかりで」
「こんな所で『呪い』に振り回されるのは御免だからな」
 ここで一度狂化してしまえば致死毒の胞子を吸って死亡するだろうことはアールにも判る。戦いは好きだが、死に急ぎたいわけではないのだ。
 ステファの手が空いたのを確認し、フォローに入ったイェレミーアスに推定ズゥンビを任せるとフィソスが数歩下がった。
「すまぬ、イェレミーアス殿──ゆくぞ、ステファ!」
「ええ、フィソス」
「悪しき者よ、神の裁きを受けよ! ──ピュアリファイ!!」
「邪なる者よ、滅せよ! ──ホーリー!!」
 推定グールの攻撃に合わせ、剣を振るうイェレミーアス!! その剣が切り裂いた大きな傷へ、聖女たちの魔法が吸い込まれるように集約する!!
『グガァァァ!!』
 断末魔の叫びを上げ、最後の推定グールも肉体を崩壊させたのだった。

●伏兵、現る!!
「あった、羊皮紙だよ!!」
 アンデッドたちの身体を踏まぬよう気をつけながら歩く理亜は羊皮紙を発見した。
 そこに描かれているのは、まるで切り取ったかのように本物そっくりのビリジアンモールド。
 そしてフィーナがバックパックを発見する。これを持ち帰れば依頼は完遂だ。
 重い音がしたのは、そんな時だった。
「逃げてください!!」
 叫ぶウォルターの後ろでは金目の物を探していたはずのアールが狂化し、何故か動き出した石像と武器を交え始めていた!!
「ガーゴイル!? アールだけで大丈夫なのか!?」
「アールの攻撃は避けられません、大丈夫です!」
 絶対の信頼を置き、フィーナや影音、フィソスが引き上げるのを見てイェレミーアスも殿としてウォルターと引き上げるのだった。
「何を守ってるんだ、あのガーゴイル?」
「さぁ。明日カビを焼きながら探してみるといいかもね」
 恩を売るべくしっかりと解毒剤を準備して待つラクス、彼の発した疑問に理亜は答えることができなかった。

 ──翌日、カビを焼き払って洞穴を調べたものの何も解らず、プレートと謎を握り締めて冒険者たちはパリに引き上げたのだった。