【オーガ行進曲】腐銀鉱山強奪指令!

■ショートシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月07日〜08月14日

リプレイ公開日:2005年08月15日

●オープニング

●冒険者ギルドINパリ
「はい?」
 ギルド員リュナーティア・アイヴァンは思わず聞き返した。
 それは、マント領の外れにある、とある村を代表してきたという男性の話だった。
「コボルトを鉱山から追い出して欲しいんだが、できるか?」
「それは、あの、コボルトに乗っ取られた鉱山‥‥ですよね?」
「いや、コボルトが切り開いた鉱山だ」
 ‥‥ちょっと待て。
「それは、鉱山乗っ取り‥‥ですか?」
「そうだな、有り体に言えばコボルトの鉱山を強奪してくれ、という話になるか」
 相手はコボルトというオーガ種、ジーザスに祝福されていない種族。
 そんなモンスターから鉱山を強奪することは悪いことではないのだが‥‥何故、敢えてモンスターから鉱山を強奪しなくてはならないのか?
 マント領の特産品が『バックル』だということは有名な話だ。デビル騒ぎの渦中にあったということで、収入の目玉であった観光客が減ってしまったため『バックル』を出荷することに重点をおくようになった‥‥という話も耳に入っている。
 しかし、強奪しなくとも、鉱山があるからこそ金属が手に入り、『バックル』が作られるのであって‥‥強奪する理由が解らなかった。
 ギルド員が事情の説明を求めると、躊躇いもなく男性は口を開いた。
「我々の村には銀の鉱山があるんだが、その鉱山から銀が取れなくなったんだ。今までは観光の補助だったから銀は細々と採取できれば良かったのだが‥‥」
「そちらが主産業になってしまった今では、死活問題ということですか」
 リュナーティアの言葉に、男性が頷いた。
「新たに鉱山を掘るのは金も時間もかかる。そんな中、観光客がコボルトに襲われて、コボルトの鉱山が近くにあることが解ったんだ」
 村人たちがその鉱山を狙うのも、仕方ない話だったのかもしれない。
「コボルトは銀を好むと聞くから、きっと銀の鉱山だと思う。コボルトが腐らせてしまった銀鉱山なら取れるのは腐銀だが、それはそれで使い道はある。難しいことかもしれないが、奪って欲しいんだ」
 それは冗談でもなんでもなく、真剣な依頼だった。
 その鉱山は岩山にあり、岩肌に掘られた入り口は身を隠すところもない。
 働くコボルトたちを戦闘慣れしたコボルトが守っており、旅人は弓で射られたと主張していたという。
「難しい依頼かとは思うんだが、よろしく頼む」
「ところで、報酬の方をまだうかがっておりませんが‥‥」
「コボルトの鉱山が生きていれば多めに払えるんだが、掘りつくされていたり強奪に失敗したりすれば払うことは出来ない」
 死活問題なのだから、それも仕方のない話なのだろう。
 ギルド員は頷くと、依頼書を仕立て上げ、早速ギルド内に掲示したのだった。

●今回の参加者

 ea8558 東雲 大牙(33歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea9457 半身 白(23歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb0631 ヘルガ・アデナウアー(18歳・♀・バード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb2321 ジェラルディン・ブラウン(27歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb2999 ディートリヒ・ヴァルトラウテ(37歳・♂・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb3000 フェリシア・リヴィエ(27歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb3062 ティワズ・ヴェルベイア(27歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●鉱山強奪部隊
「あの騒ぎじゃ、観光で閑古鳥が鳴くのも仕方ないか。‥‥あっ、今の洒落とかじゃないわよ!? ほんとよ、信じてってば!」
 マント領から訪れたという依頼人へ同情していたヘルガ・アデナウアー(eb0631)は自分の口から零れた言葉にあわあわと首を振った。
 その否定を仲間たちが受け入れたかどうかは不明であったが、上級デビルが巣食っていたマント領、観光地であったその領地に残された傷跡は今なお深く、醜いその姿を領民やノルマン国民の脳裏に残しているのは紛れもない事実である。
「それにしても、コボルトから鉱山を奪うなんて‥‥珍しい依頼ね」
 ジェラルディン・ブラウン(eb2321)の言葉は冒険者たちの心を代弁していた。
 コボルトたちから鉱山を奪う──あまり類を見ない依頼に集まった冒険者たちは、ある者は興味深そうに、ある者は意気揚揚と参加した。
 もしこの依頼が『隣の村から鉱山を奪う』という依頼であったのならば権利関係や領地、人道的問題など様々な問題が横たわるのであろうが、コボルトはもともと神の祝福を受けないオーガ種族、人間たちとは相容れない存在であり、率先して駆逐すべき存在である。故に、冒険者という一般から価値観の外れがちな者たちの中に極稀に同情する者がある程度で、容易に受け入れられたようであった。
「なんか面白そうだね! いっちょ頑張るよ!」
 艶やかな雰囲気を醸し出しつつ、ティワズ・ヴェルベイア(eb3062)はどこかゲーム感覚で笑みを浮かべ、その楽しげな言葉と笑顔に、フェリシア・リヴィエ(eb3000)は優しすぎる心を痛めた。
 神の祝福を受けぬ種族に同情するなど、クレリックとしては許されないことかもしれない──けれど、生を受けた命であるというその絶対的な事実、それがフェリシアにとってはとても大事で大切なことだった。
 抱くべきではない想いを口にすることなく瞳を翳らせるフェリシア。 ただ一人、その表情に、その想いに気付いたのは白きハーフエルフの半身 白(ea9457)であったが、言葉はかけずにそっと視線を逸らした。神の祝福を受けぬ種族‥‥それはハーフエルフの白も同じであったから。
「思ったよりも人数が集まったな。しかし依頼が成功するかどうかは微妙なところか‥‥コボルトといえども、敵の数が多いのは侮れないからな」
「それに、コボルトは毒を使うのよね。油断するとどこで痛い思いをするか判らないわよ」
 白の言葉にフェリシアも痛む心を押し隠し、仲間のために知識を提供する。
「奪うのは悪いことだけど、邪悪な怪物をのさばらせておくのもいけない事よね。退治する為にも張り切って行きましょう♪」

●鉱山攻略作戦
 鉱山の入り口は岩肌の露出した山の斜面にある。近付けば身を潜める場所はなく、冒険者たちは少し離れた窪みに身を潜め、入り口の様子を窺う。
「私たちのパーティーは後衛タイプが多く、前衛が二人しかいません。大勢のコボルトに取り囲まれては大変ですし、できれば狭まった場所にコボルトをおびきよせ、少しずつ撃破していきたいところですね」
 ディートリヒ・ヴァルトラウテ(eb2999)は集まった戦力を分析し、小声でそう言った。
「壁になってくれる前衛さんがいないなら、自分達で作ればいいんじゃないかしら?」
 けろっと提案をしたヘルガの言葉に、東雲 大牙(ea8558)も頷き同意を示す。
「出来得る限りは皆を守るが、打てる手は打っておく方が賢明だと思う。‥‥しかし、どうやって作るんだ?」
 東雲の僅かな記憶に、打てる手はない。頭をひねることは苦手だとヘルガに視線を返すと、にっこり笑ったヘルガはいとも簡単そうに簡易陣地を作ると主張した。
 中小の穴を掘り足元をデコボコにすることで戦闘への集中力を削ぐ、柵を設けコボルトの接敵を一時的にでも防ぐ、大きな板を柵の内側に立付けて矢避けに利用する、前衛や囮が素早く穴の上を渡れるように渡し板を用意する──東雲からするとそれこそ魔法のように次々に示される案に、仲間たちは頷き合った。
 もちろん、誘き寄せねば魔法の射程範囲内に敵は来ないだろうし、設営中に敵に狙われる可能性もある。
 けれど、その危険を冒す価値はありそうだ。
「非力な僕にできることは陣地作りの間の警戒くらいかな。岩肌を掘るのも、ちょっと無理だからね」
 苦笑を浮かべ、エルフのティワズが軽く肩を竦めた。さらりと揺れた髪が目を引くのは計算だろうか。
 同じくエルフのジェラルディンが申し訳なさそうに小さく手を上げた。
「‥‥‥‥ごめんなさい、私もそれくらいしかできないわ」
「ごめん、私も。あと、柵を作るときに支えたりとか‥‥それくらいだわ」
 小さく舌を出すフェリシア。そして自然と仲間たちの視線を浴びたヘルガは赤面し、幼い身体を小さく丸めた。
「ごめんなさい、私も力仕事はあんまり‥‥」
「‥‥まあ、これも仕事ですから。適材適所で行きましょう。ティワズさん、ジェラルディンさん、フェリシアさんはコボルトへの警戒を解かないでください。ヘルガさんは陣地作りの指示をお願いします」
 溜息を吐いたディードリヒは荷物のスコップを確認する。岩肌に穴を掘るのは一番の力仕事、東雲に任せるしかなさそうだ。
「私とディードリヒは柵の担当だな」
 彼ら冒険者の最大の救いは、東雲、ディードリヒ、白の誰もが不平不満を漏らす性格ではなかったことだろう。

●鉱山強奪開始!
「見つかった!!」
 岩陰に身を潜めコボルトの視線が逸れる僅かな合間を縫って少しずつ入り口へと近付いてゆく。
 けれど身を潜めることが得意な面々ではなく──見つかったと思った瞬間、コボルトが矢を放つ!!
「危ない!」
 東雲はとっさに両手に持つライトシールドを翳し、狙われたジェラルディンを庇う!!
 ──キィン!
 軽い音を立て、矢が盾で弾かれる!!
 しかし矢の雨は降り止まない!!
「くっ、これでは近付けません!」
 同じようにクルスシールドを翳し仲間たちを背後に庇ったディードリヒ。拙い技術で放たれた矢は盾に弾かれ冒険者の身を傷付けることはなかったが、怪しく滑る鏃(やじり)は毒を塗られていることが一目で見て取れる。
 牛歩の歩みだった進撃は更にその速度を落としたが、一向に減らない矢の雨‥‥動いたのはティワズだった。
「少し派手でも仕方ないよね。風よ、全てを巻き上げろ──トルネード!!」
 詠唱終了と同時にティワズの体が淡い緑の光に包まれ‥‥突如発現した竜巻が、コボルトたちを巻き上げる!!
『ギャアッ!!』
 短い悲鳴を上げ固い岩肌に叩きつけられるコボルト!!
 その隙を逃す冒険者たちではない!
「足元がお留守になってるわよ! ──シャドゥボム!!」
「‥‥ごめんなさいっ、──ホーリー!!」
 ヘルガのシャドゥボムが、フェリシアのホーリーが、射程ギリギリからコボルトたちを襲う!! 影に吹き飛ばされ聖なる光に射られたコボルトたち、よろよろと立ち上がるものの息吐く間もなく駆け寄った白や東雲の攻撃を浴びる!!
 足元を蹴りで払いコボルトを転倒させた白、両手に持つダガーを同時に素早く掠める振るい喉元を掻き切る!!
 大きな足音と共に襲い掛かった東雲はその勢いを足に溜めコボルトを踏み拉くように蹴り付けた!!
 コボルトが吹っ飛ぶ!!
「悪いけれど、邪魔なんです──ブラックホーリー!」
 遅れて発動したディードリヒのブラックホーリーが吹っ飛ばされたコボルトに止めを刺す!
 3匹目のコボルトが東雲の足を狙い襲い掛かる!!
「‥‥足しか使えないと思ったのか?」
 それぞれの手に一つずつ構えたライトシールドでコボルトの頭を叩きつけるように挟み込む!!
 ──ビキッ
 小柄なコボルトの頭蓋が小さな音を立てて軋み、泡を吹いたコボルトは意識を手放した。
「他愛もない、鎧袖一触とはまさにこのことだな‥‥」
 白が感慨もなく、吐き捨てるように呟いた。

●腐銀鉱山潜入
「なんか‥‥手ごたえがないね。こんなものなのかな」
 荷物が重く詠唱に時間が掛かったティワズだったが、何度目かのウィンドスラッシュを唱えるとそう漏らした。
 冒険者たちの姿を認めると逃げ出そうとするコボルトたち。果敢に戦闘を挑んできた『戦闘慣れしたコボルト』、フェリシアによるとコボルト戦士と称されるそうだが、コボルト戦士と思われる個体は2匹だけ。
 天井を気にする東雲の首が痛くなってきたころ、広めの採掘場に辿り着いた。
「‥‥広いわね」
 もっと広く照らし出そうとランタンを高く掲げるジェラルディン。揺らめくその灯りに映し出された採掘場はつるはしや様々な道具が散乱し、彼らの襲来によっていとも簡単に放棄されたような印象を抱かせた。
「逃げちゃったのかな‥‥?」
 ジェラルディンの傍らで、どこかホッとしたようにフェリシアが呟いた。逃げようとしたコボルトをも退治して進んできたその行為に、フェリシアはやはり胸を痛めていた。少しでも多くの命が助かるように、逃げて‥‥不謹慎かもしれないが、フェリシアはそう思わずにはいられなかったのだ。
 しかし、フェリシアの祈りを打ち崩すモノがいた。
『グルルルルッ!!』
 唸りを上げ一匹の貧弱なコボルトが襲い掛かってきた!!
「甘いな」
 軽やかに投げられたナイフを利き腕に受け怯むコボルト!!
 その隙を逃さず、東雲、高さの差を利用し回し蹴りの要領でコボルトの脳天に踵を叩き下ろす!!
『ギャィン!!』
 悲鳴をあげたコボルトに闇雲に振り回された剣が東雲を浅く斬った!
「‥‥ぐ‥」
 じわり、と浮き出す脂汗──教えられずとも肉体が異物の警告を発する。‥‥毒だ。
「東雲さん、こっちへ来てください!! ──ホーリーフィールド!」
「行け、東雲」
 白がコボルトの下半身へ蹴りを浴びせ転倒させる!
「セーラ様の御慈悲が奇跡を与えてくださいますように──リカバー!」
 ディードリヒによって張られた結界の中で、ジェラルディンの魔法が傷を癒す。しかし、肝心の毒に対しては‥‥アンチドートも解毒剤も無い。
「‥‥どれが、必要なのか‥判らなかったんだ‥‥」
 途方にくれるジェラルディンへ、懐から3つの解毒剤を取り出す東雲。彼はコボルトがどの毒を使うのか知らず、エチゴヤで販売している3種の解毒剤を買い揃えてきたのだ。
「‥‥これよ、飲めばすぐに良くなるわ」
 鉱物毒専用の解毒剤を選び東雲へと手渡す。白のナイフがコボルトを切り裂く音が空を切るように細く響く。
 東雲の体から毒が消え去るころには、決着がついているだろう。

●鉱山残党掃討
 東雲の毒が消えると、フェリシアはコボルトの懐を探った。
「コボルトは、解毒剤を持っていることが多いんですよ‥‥っと、あった! はい、東雲さん、お守りにどうぞ♪」
 毒を受けた東雲は僅かに苦い笑みを浮かべて受け取った。そして周囲を見回す。
「陣地を構えるならここが良くないか?」
「そうね、東雲さんも充分に動けそうだし。それじゃ、ここにしましょ」
 他よりは広い空間のあるこの採掘場に、作戦通りの陣地を築くことにした。
 かなりの時間を費やして出来上がった陣地はかなり拙いものであったが、それも仕方ないことかもしれなかった。知識のない東雲、白、ディードリヒの3人が聞きかじった程度のヘルガの知識を頼りに、1本のスコップと6mぽっちのロープしか材料がない状態で作ったのだから。
 しかし、有り合わせの岩片を使って柵の代わりに小さな防壁を作り、岩肌に穴を掘るという作業を黙々とこなされ、見てくれは悪いが機能は果たせる陣地が完成した。
 後は全て、どれだけのコボルトを誘き寄せ、ここで叩けるか──コボルトと作戦との勝負である。
「「せーの‥‥キャァァァッ!!」」
 ──ギィン!! ギギィィン!!
 白のオーラエリベイション、ディードリヒのホーリーフィールドの詠唱が終わるのを待って、ジェラルディンとヘルガが絹を裂くような甲高い悲鳴を響かせる!!
 そしてその隣では、ディードリヒがクルスソードでクルスシールドを打ち鳴らし金属音を響かせる!!

 ──現れたコボルト4体とコボルト戦士2体。
 その程度では、きっちりと陣地を築いた冒険者たちを打ち負かせるはずもなく‥‥
 さほど労せず、現れた6体の息の根を止めた。

 最終日、鉱山を訪れた依頼人は肩を落とした。鉱山は銀鉱脈ではなく銀の液体、腐銀──知識のあるものが水銀と呼ぶものの鉱脈だったのだ。これではバックルは作れない。腐銀で行えるのはメッキを張る作業くらいのものだからだ。
「悪いが、報酬は経費だけにさせてくれ‥‥」
 使い道がないわけではない。しかし、直接収益に結びつくものではなく、依頼人の村はもうしばらく苦難の道を歩むことになるだろう。
 けれど、きっと‥‥コボルトから鉱山を強奪しようとしたその根性で乗り切るに違いない。

「それにしても、コボルトたちはなんで腐銀なんて採掘してたのかしら」
 ジェラルディンの疑問には、コボルトと交流する手段のない仲間たちでは答えは出せなかった。

 ‥‥後に起こる再びの戦乱。
 その軍勢に齎(もたら)されるはずの鉱物毒であったという真実に、彼らが辿り着くことはない。
 そして、軍勢の脅威を大幅に削り取った自分たちの功績に気付くことも──全ての真実は闇の中で眠りに就いたのだった。