【オーガ行進曲】悪魔の遊戯・マリス編
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■ショートシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:5〜9lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 2 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月19日〜08月25日
リプレイ公開日:2005年08月27日
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●オープニング
●二人の少女の秘密の会話
「オーガの面倒見るなんてつまんなァい!」
「つまんなぁいッ!!」
2匹のシフールが木の枝で話していた。
いや、シフールではない。ぴろりんっ♪ と生えた黒いシッポはシフールには生えていないものだから。
不服そうにしていた2匹のシフールもどきは、同時に溜息を吐き‥‥そして同時にお互いに顔を見詰め合った。
「どォせなら楽しくやりたいよねェ?」
「よねェ♪」
シッポがぴろんっと愉しげに揺れる。
よく似た2匹は顔を見合わせ、悪戯を思いついた子供のように、にやりと笑った。
「どっちが人間たくさん殺すか、競争しよっか→?」
「そうしようそうしようっ☆ いやぁん、愉しくなって来ちゃったァ♪」
「負ッけないよ〜!」
「あたしだって!!」
弾けるように2匹は宙を蹴って飛び立った。
──やるからには勝たなくちゃね☆
●ギルドマスター執務室INパリ冒険者ギルド
「よォ、ギルドマスターさん。待ってたぜ」
執務室に戻ったフロランスは自分の椅子に沈むように腰掛け、机の上に足を投げ出している我が物顔のハーフエルフに驚くこともしなかった。
月が覗く窓辺へ背中を預け、ギルドを束ねる女性はハーフエルフへ声をかける。
「そろそろ来ることかと思ったわ。オーガたちの動きの中にデビルの影がちらついているなんて、数ヶ月前と同じだものね」
マント領のカルロス伯爵がデビルやオーガ種、そしてアンデッドなどを従えパリへ侵攻してきたあの事件。多数のデビルがモンスターを煽動し、指揮を取り、根城としたパリ近郊のシュバルツ城から攻め込んできたあの事件は、今なおパリ住民の記憶にこびりついて離れない悪夢だった。
悪夢の再来を憂い月を見上げたギルドマスター‥‥彼女の手元には、悪夢の再来を裏付ける情報が着々と集まりつつあった。デビルに率いられたオーガ種たちがシュバルツ城に向かい行進しているという情報や、それを裏付けるような数多くの依頼。
「彼が兵力を整えつつある‥‥そう考えるべきね」
「話が早くて助かるぜ。ってことで少しばかり冒険者を貸しちゃくれねぇか? 俺と土屋だけじゃちと手が足りそうもなくてな」
──どっかの誰かさんがドジ踏みやがったからな。
時折りドジを踏むのが仮面の怪盗だなどハーフエルフは言わなかった。ギルドマスターも言及しなかった‥‥それはギルドに関係のない事柄であったから。
ギルドにとって意味のあることは、オーガ種は総じて知能は低いが有り余るほどの力があり、攻撃力に優れているということ。そして、狡猾なデビルの指揮下に入り率いられたのなら、その攻撃力は余すことなく脅威となり、とても面倒な事態を招きかねないということ。
決して一枚岩ではない冒険者間の結束が揺らぐ一方で、大きな依頼の失敗や冒険者の派遣されない依頼などが不信感を煽り、パリではギルドの権威が落ちつつある。信用回復のためにも戦果を上げねばならず、ギルドマスターに選択肢は残されていなかった。
「とりあえず、集結しつつあるオーガどもを出来得る限り潰すつもりだ。危険と判断したら退く程度の知能のある奴を頼むぜ」
フロランスの脇をすり抜け、バルコニーから身軽に飛び降りるとハーフエルフ──ファンタスティックマスカレードの仲間、ディック・ダイと呼ばれるその男は夜陰に紛れて姿を消した。
これは重要な戦いであるが‥‥
──恐らく、前哨戦にすぎないのだろう。
髪を結わき直すと、フロランスは静かなパリの夜を背にし、届けられた情報に改めて目を通し始めるのだった。
●マリスの場合
リールから遅れること数日。マリスが出発したのは差すような日差しが姿を消した、星の煌くある夜半のことだった。
「〜ってことでー、人間殺しながらシュバルツ城行っくよーん★」
ぴろんと生えた黒いシッポの愛らしい『シフールもどき』はくるりと宙を一回転♪
彼女が預かったのは1、2、3‥‥ええと‥‥沢山のオーガ!! その中にはちょっと強いオーガが見え隠れ。
相棒リールより遅れたその数日でリール以上のオーガを準備し、数で蹴散らす作戦なのか。
そんなオーガの軍勢に紛れて、オーガへと変身したデビルがいるなんてことはもちろん内緒!! 大丈夫、お馬鹿な人間なんかにわかる訳がない!!
マリスももちろん、変身してこっそりと紛れ込むつもりは満々っ♪
「ちょうど途中に街があるみたいだしぃ、襲っちゃうよ〜?」
「「「「ウォォォォ!!」」」」
イエイッ!! と振り上げたマリスの小さな手に、オーガの拳が呼応する!!
「ボスのためにも良いとこ見せよーねー☆ うちのボスがいっちばーん!! だよねぇっ!?」
「「「「ウォォォォ!!」」」」
まるで姫と取り巻き、吟遊詩人とおっかけ民衆。
吠え滾る声は大地を揺るがさんばかりに轟き、驚いた兎が逃げ出そうとして血気逸ったオーガに叩き潰された。
オーガどもの進軍が予定通りに進んだのなら‥‥結婚式の晩、浮かれきったとある街へと悪夢の軍勢が襲い掛かることになるのだが‥‥住民も、オーガも、シフールもどきですら、そんなことは知らないのだった。
●リプレイ本文
●先を憂う者たち
時間はいくらあっても惜しい‥‥現れたのが数も知れないほどのオーガの大群と知り、依頼を受けた冒険者たちは急ぎ身支度を整える。
時間を無駄にしないためには情報を巧く活用せねばならない。数少ない情報の1つが怪盗の仲間ディック・ダイの把握していた数日前までのオーガ軍の進攻ルートだった。
「シュバルツ城周辺の位置図かなんか、ねぇか?」
ロート・クロニクル(ea9519)の言葉に葉巻の煙を吐きながらディックが取り出した羊皮紙。そこには比較的細やかな地図が記されていた。羽ペンを手に取り、いくつかの位置に×を記す。そして○を1つ。
「こっちは既に襲われた町や村だ。進攻ルートを少し逸らしても襲う傾向があるな。次に狙われるのはこの街だ。これ以降、シュバルツ城へのルート上に村も町もねぇ」
「オーガたちには森も道も関係ないんやなぁ。叩くならその街が一番確実そやね」
オーガたちの進攻ルートを指でなぞりながら呟いたミケイト・ニシーネ(ea0508)の言葉にディックが頷く。
「村人さんたちに避難勧告しなくちゃ! 急げば充分間に合うよ。‥‥信用してもらえるかどうか、ちょっと不安だけど」
「僕も連れて行ってください。一人より二人の方が信用してもらい易いと思いますし」
村への気配りと滲む恐怖の間に挟まれ瞳を潤ませるアルト・エスペランサ(ea3203)にミカエル・テルセーロ(ea1674)はまっすぐな瞳を向けた。戦うのが嫌いでも、戦わねば守れないものもある。
「私も共に向かおう」
小さな二人に打たれたか、それとも不安が残ったか、ガブリエル・アシュロック(ea4677)も同行を申し出た。
罠の構築をしたいレイ・ファラン(ea5225)は、同じく罠の設置をしたいミケイトから余剰のセブンリーグブーツを借り受け、先行することとなった。そしてロートも、罠の設置のための簡易地図作成のために動向を申し出た。
「危険だぞ?」
目を眇めたレイに、望むところだと自嘲気味に片頬を上げて笑みを形作る。
そして6人は、退避勧告をし、オーガ軍を迎え撃つ準備をするため、アリオーシュ・アルセイデスの祈りと勇壮のメロディーを受け、狙われると思しき街へ急ぎ出発した。
●後を支えし者たち
「久方ぶりの依頼はスリル一杯ーってか」
どこか明るく言い放つシェーラ・ニューフィールド(ea4174)、久方ぶりの依頼に興奮しているというよりは、生来の性格の占めるところが大きそうだ。
黙々とヘビーシールドにロープを巻きつけるのはジャイアントの東雲 大牙(ea8558)、その傍らで作業が終わるのを待つのは東雲より頭半分ほど背の高いジェラルディン・ムーア(ea3451)だった。
「それが終わったら、あたしたちも出発だよ! 何トチ狂ったのかは知らないけど、これ以上人々に被害出さない為にも、此処でぶっ潰してやらないとね!」
気合いのジェラルディンに小さく頷く仕事人東雲。
「いっぱいのオーガさんは怖いですけど、‥‥ラテリカ、冒険者ですもの、頑張れるです。誰かが涙を、流さないよに」
自らの内に湧き出す恐怖に打ち勝とうと、ラテリカ・ラートベル(ea1641)が一生懸命紡いだ言葉はどこか歌うように響く。ラテリカも戦うのは嫌いで、例えオーガといえども命を奪うのは嫌──けれど、誰かが涙を流すのはもっと嫌なのだ。
そして東雲の準備が終わると4人はパリを出た。
「あら? ディックさんは、どこでしょう?」
ラテリカが首を傾げた。そう、ディックはいつの間にか姿を消していたのだ。
「戦いになれば合流できるだろう‥‥待たせたな、行こう」
‥‥3人もの女性と行動を共にするのを嫌ったなど、4人の冒険者たちは想像もしていないに違いない。
こうして出発した後発隊と先発隊との僅かな差は、やがて大きな差となった。
●悪意を進みしモノたち
「‥‥見えた、オーガの群れだよ!」
ターゲットであるオーガの群れを先に発見したのは後発隊、ジェラルディンが声を張り上げた。
数十体にも及ぶオーガの群れが、街まであと少しという森の中を進行している!!
「急がなくっちゃ!」
シェーラは歩みを早めた。先発隊・後発隊共に、一度合流し態勢を整えたかった者もいるようだが‥‥街が近く、間にオーガの軍勢を挟んでしまった状況では合流はままならない。
この状況下で、ラテリカのテレパシーを用いて状況を伝え挟撃を成功させるためには、テレパシーを受けることになっているミケイトと術者ラテリカとの距離が100メートル以内でなければならない。数十体にも及ぶオーガの群れを挟むと、100メートルという距離は長いようでいてなんとも短い。
そして、シェーラのファイヤーボムの射程は15メートル。つまり、危険を冒しても出来うる限り近付かねば、確実な連携も効果的な攻撃もできないのだ。
「見渡す限りオーガだらけ‥‥いっそ壮観だな」
東雲が僅かに呆れたように呟いた。ラテリカは小さく震える手をきゅっと握り締め、オーガを見据えた。
「ラテリカたち、風下にいるです。オーガさんたちが、どれだけ臭いを嗅げるか、わからないですけども、少しは安全に、近付けると思うです」
恐怖を振り切るためには行動するしかない。
「何とか間に合ったようだな」
6人総出で、「僕たちお子様ががんばっているんだから、少し手伝ってくれないかな」というアルトの言葉に腰を上げた一部の住民の手も借り、突貫作業で陣営と罠作りの作業が終了したのは2時間前。
「僕達は冒険者ギルドから派遣されてきました。現在、大量のオーガがこの街に迫ってきています。戦える冒険者達が迎撃に向かっているけど、念のため避難してね」
アルトやガブリエル、レイたち先行隊の説得に住民たちは最初耳を貸さなかった。それもそうだろう、オーガどもが近寄っているなどという話は聞かないのだし、信用できるに足る情報もないのだから。
住民たちの態度を変えさせるきっかけになったのは痺れを切らしたミケイトと同調したレイの言葉だ。
「‥‥ここ、任せてもええかな? 時間もないことやし、うちは罠と陣地作り始めるよって」
「俺もそちらに回らせてもらう。退避しない住民の行方より、オーガの殲滅が優先だ。間に合わないなんて許される事態でもないしな」
「‥‥式より大事なことがあるだろう」
そう言って実際に作業を始めた二人、吐き棄てるように言い地形の調査に出たロート。冗談にしては質が悪すぎると揺らいだ思いに止めを刺したのはミカエルの一言だった。
「命あっての街、人がいてこその街、あなた方に被害がないようにしたいんです」
少女と見紛う顔に悲しみを浮かべ、刺繍の入ったローブの袖を強く握り、じっと長を見つめる碧の瞳。疑う余地は残らず、住民たちは女性や子供から避難し始め、男性たちは急ぎ力仕事を手伝い始めたのだ。
出来上がった陣営に佇み、住民たちを巻き込まずに済みそうだと肩の荷を1つ降ろして安堵するガブリエル。
「来よったで!」
どうやらタロン神の試練には、一息つく間も与えられぬようである。
●交わりし敵意と敵意
オーガの群れの中、冒険者たちの耳には届かなかったが‥‥1体のオーガが唸りを上げた。
「おおっと、街はっけーん♪ みんな、準備はイイ〜!?」
「「「ウォォォォ!!」」」
「よーし、それじゃ早速ッッ!! 攻撃、行ってみよ→う★」
「「「ウォォォォッッ!!」」」
手に握った金棒雄雄しく振り翳し、勢い良く駆け出すオーガ軍!!
「ラテリカ、テレパシーはまだかい!?」
「ま、まだですぅ〜」
めそりと涙を浮かべながら、数度目のテレパシーを詠唱する。
『ミケイトさぁぁん』
『ラテリカはん? 近くにおるん? 街にはもうオーガ軍が来よったで!!』
ぱぁぁっ! 花が咲くように明るくなった表情に、魔法の成功を察する3人の冒険者。
『オーガさんの群れの、その後ろにいるです』
『マジかいな!? ほな、攻撃開始するよって、宜しゅう頼むで〜!』
ミケイトの言葉がラテリカの口から告げられるより先に、陣営前面に次々と魔法が発言していく!!
「風よ、猛り狂え。我を遮る愚者を退け、我の進むべき道を切り開け! ──ストーム!」
「いたずらに人の命を奪うなんて、オーガといえども、絶対に駄目ですっ! ──ファイヤーボム!!」
突然の強風に吹き倒されたオーガの眼前で、炎の玉が炸裂する!!
そこへ狙いを定めて射出されるミケイトの矢!!
ロートが連続して詠唱するストームに阻まれ遅々として進まぬ軍勢。だんだんと密集していくオーガ軍へ、ミカエルの唱えるファイヤーボムが、ミケイトの矢が効率的にダメージを与えていく!!
「オーガさんたちの、リーダーさんに当たってくださいです‥──ムーンアロー!」
ラテリカの詠唱したムーンアローが、密集した中の一匹のオーガを射抜いた!!
「‥‥変なのです」
思ったほどダメージが届いていない。‥‥まさか抵抗されたです? オーガさんにですか?
密集するオーガたち、揉み合ううちに入れ替わり立ち代りその位置を変え‥‥ムーンアローに射抜かれたオーガを特定し続けるのは困難だ。
「──ムーンアロー!」
先ほどより少しずれた群れの中心付近のオーガに当たるムーンアロー。
一匹のオーガが後方に位置する4人に気付く!!
「やっと解禁ねっ!! 行くわよっ! ──ファイヤーボム!!」
駆け寄ってくるオーガどもへファイヤーボムを炸裂させるシェーラ!!
「‥‥‥!!」
ヘビーシールドに結びつけたロープの端を持ち、その場でぐるぐると回転しシールドに勢いを付けた東雲、オーガ軍を狙いそのロープを放す!!
──ドゴォッ!!
「さすがに、これだけいると‥‥投げれば、当たるな」
オーガの群れを吹き飛ばし着弾するヘビーシールド!! その攻撃を頭部に受けたオーガは頭部を不自然に陥没させ昏倒、巻き添えを喰ったオーガも屈強な肉体を支える野太い骨に皹を走らせた!
そして左腕にライトシールドを持つ東雲とクレイモアを掲げるジェラルディンは敵勢力へ特攻を掛ける!!
オーガの陣形が、崩れる──‥‥!!
「──ムーンアロー!」
ちくっと痛いらしい、オーガのリーダー。
「ちくちくちくちく、超ムカつく〜!! ──エボリューションッ!!」
オーガを模ったデビルが、表に表れぬ一時的な進化を遂げる。これでもうムーンアローも痛くない。
「お返しだよッ!! ──マグナブロー!!」
地面から突如噴出する灼熱の液体が、ジェラルディンを巻き込んだ!!
「うわあっ!!」
「もういっちょ行くよ〜! ──マグナブロー!!」
「ぐおっ!」
「ぐああっ!!」
振り向きざま、陣営に向かって放たれたマグナブローはレイとガブリエルを巻き込んだ!!
「きゃはっ☆ やっぱり人間って、おバカ〜? あたしがお利口なのかな。マリスすっごーい☆ やーい、バーカバーカ♪」
オーガの姿では飛べず、尻尾の生えたシフールのような姿へ戻ったのはマリスと名乗るデビル。
くるん♪ と宙を一回転し、小馬鹿にしたようにぺろんと舌を出す。
「ほらほら、お留守になってるよん♪」
「うわあっ!!」
陣営に乗り込んだオーガが、詠唱中のミカエルへ金棒を叩きつける!! 吹き飛ばされる、小さな身体!!
「ミカエルさん! ‥‥オーガ達に剣を向けるのは不本意だが、許せ!」
ミカエルへ攻撃したオーガへ、心を裂きながらガブリエルがクルスソードを振るう!!
──シュバッ!!
──ギィン! ギィン!!
空を切り裂く音が、金属のぶつかり合う剣戟が、響く──‥‥
人を愛したオーガの少年。パリの、ドレスタットの‥‥否、国境を越えて多くの冒険者に愛されたオーガの少年。それがとても稀な事例であることは、頭では理解している。神に愛されぬオーガが忌むべき存在だということも。
けれど、ガブリエルは‥‥出来ることならば、オーガへと剣を向けたくはなかったのだ、あの少年のためにも。
「いたた‥‥」
攻撃を受けたミカエルの服装は、到着した時の刺繍入りローブからネイルアーマーへと変わっていた。街の長が、心を揺さぶった人物が殆ど身を守らないであろうローブを身に纏っていることに気付き譲ってくれた、古いデザインのネイルアーマーだ。
「うわぁ‥‥ローブじゃ、危険だったかもしれませんね〜」
「うう‥‥」
涙目になりながら、オーガ軍に油を投げ込み続けるアルト。そこへ飛び込んできたのは後発隊にいたはずのシェーラだ!
「レイさん、助けてっ!!」
戦場を迂回し駆け込んできたシェーラと、彼女を追い現れた、見るからに戦闘慣れした1体のオーガ!
「くっ!!」
金棒の攻撃をサンクト・スラッグで受け流すレイ! 攻撃を返しながらアルトに叫んだ!
「アルト、こっちに投げろ!!」
「えっ? は、はいっ」
投げつけられた油は地面へ転がり、溢れ出した油でオーガ戦士の足を滑らせる!!
そう、レイはアルトが泣きながら闇雲に投げた油が陣営の前に油地帯を作り、結果的にオーガ軍を近付けさせない役目を果たしていたのを見ていたのだ。
「注意力散漫だなっ!」
握る魔剣を振るうレイ!!
身を斬られる激痛に、インプが正体を曝け出し逃走を図る!
「デビル!? 好都合だ、逃がさないぜ!」
ディックとミケイトの放ったのであろう3本のシルバーアローに足止めされたインプ! その皮の翼を切り落とす! 逃げられぬ敵へ止め!
そして飛び込んできたシェーラは、油地帯にファイヤーウォールを発現させた!!
「ミカエル君、手伝ってっ」
頷いたミカエルのファイヤーコントロールで巨大化したファイヤーウォールは、正面からの突破を妨げる!!
「‥‥めんどくさいなぁ。これ以上オーガ減らすわけにもいかないし‥‥仕方ないねっ。行くよ、皆!!」
マリスの一言で、潮が引くようにオーガは去って行った。‥‥しかし、冒険者たちも‥‥追撃するほどの魔力も、体力も残ってはいなかった。
●守られし者たち
激しかった戦闘から一夜。街へ戻った住民たちは、予定より1日遅れた結婚式を開催した。
是非にと招かれ、冒険者たちは祝いの席へ加わり、振舞われた料理に守り抜いた平凡な平和の実感をかみ締める。
「‥‥‥」
ただ1人、加わる気になれず‥‥一歩離れ華やかな一席を外から眺め、死に損なった幸せと生き延びた不幸せの間に挟まれる。
「‥‥結婚式より大事なことって、大切な人と一緒に生きること、ですよね」
誘いに現れた新婦が微笑んだ。その笑顔が、全てが、手放した全てと重なって‥‥頷くことすらできず、胸を締め付ける痛みに苦渋を浮かべ、視線を逸らした。
「これ‥‥大事な人に」
マリア・ヴェールを外し、佇む人物の手に握らせる。
「祝ってください、大切な人と共に歩む日を。貴方達が守ってくれた幸せを‥‥」
願うように頭を下げる女性に、小さく頷きを返した。