青き蠍に狙われし男
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■ショートシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:08月22日〜08月27日
リプレイ公開日:2005年09月01日
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●オープニング
●狙われし馬車
街道を、人目を気にせずゆったりとパリへ向かって進む2台の馬車があった。
御者たちに指示を出すその馬車の責任者が浮かべているのは、人好きのする、しかし腹の読めない笑顔──商人によく見られる特徴だろう。
ガラガラと車輪が土煙を立ててパリへと到着する。しかし馬車はその動きを止めることなく冒険者ギルドへと向かっていた。
「護衛を、お願いしたいのですが」
責任者の男がギルドの扉をくぐると、エルフのギルド員がカウンターへと誘った。
そして依頼書となる羊皮紙を準備し、情報を聞き出すべく話を促した。
「こちらへどうぞ。護衛と申しますと、どちらまでの護衛になるのでしょうか」
その問いににこやかに返されたのは、訪れる必要を感じさせない場所。危険が危険を呼ぶと思われているあの場所であった。
「ええと、シュバルツ城ですね」
表情を感じさせないことで定評のあるエルフのギルド員リュナーティア・アイヴァンであったが、その目的地に目を見開いた。
その驚きに満足したように頷くと、商人は演技じみた苦い笑いを浮かべて頭を掻いた。
「なにやら物騒だそうで‥‥身を守る術は用意しておかなくては危険ですからね」
「ご存知でしょうけれど、今はモンスターが跋扈(ばっこ)しているという話もありますし、行くこと自体お勧めできません。後日というわけにはいかないのでしょうか」
憂い顔で出過ぎた忠告をしたギルド員を責めることはできまい。
その地は‥‥現在きな臭い噂の立ちこめる渦中となっている。カルロス伯爵が向かっているという話も、デビルやオーガが向かっているという話もある。また一方で、真偽のほどは定かではないが、ブランシュ騎士団が潜入したという話も聞かれる、今最も謎の満ちている土地だ。
好き好んで行くべきではないだろうし、避けられるのなら避けた方が良い土地だった。
「ありがとうございます、けれど大切な契約があるのですよ。商人が商いをふいにするとお思いではないですよね? この商売に命を賭けているわけですから行商など行っているわけですし」
「そこまで仰るからには、大きな取引なのでしょうね」
「企業秘密ですよ」
‥‥それもそうだと苦笑を浮かべるリュナーティア。商人が行商をしていようと、どんな契約を結ぼうと、ギルドとして行うべきは『依頼』された『護衛』を全うするというその一点だけ。
守るべきものは行商人、御者たちと2台の馬車、そして馬車に積まれている荷だという。
もちろん積荷は木箱や布で梱包されており、また分厚い幌をかけられ、中身を見ることは適わない。
「馬車は荷物でいっぱいで冒険者の方に乗っていただく余地はありません。請けていただく方には、馬車と併走できる用意をしてきていただいてください」
護衛として雇ったものを置いていくのは本末転倒だが、ペースを落とすことはできない。
依頼人の希望は無茶な希望ではなく、無茶ではないからこそ満たさねばならない条件だった。
「これでハーフエルフの脅威が薄れれば良いのですが‥‥」
溜息と共に漏らされた小さな呟きを、ギルド員は聞き逃さなかった。
「‥‥ハーフエルフに狙われているのですか? そういう事は先に言っていただかないと困ります」
にこやかな表情を僅かに険しくするギルド員。それもそうだろう、狙われていると知っているのと知らないのとではまったく条件が異なる。
もちろん、その相手に心当たりが有るか無いかというのも同じことだった。
「‥‥えぇ。水蠍と名乗る集団が執拗に付け狙ってくるのです」
じっと見つめられ、観念したように頷く行商人。
水蠍‥‥それはシュティール領を根城に脅威を振りまくといわれる、ハーフエルフの組織である。
近接戦闘を行うファイターからウィザード、バードのような魔法を得意とする者まで幅広く所属しており、対処するのに骨を折る組織でもある。
反面、味方に付ければ心強くもあるが‥‥今は、敵。
存外に難しい依頼となった行商人の話を依頼書として纏めると、リュナーティアは足取りも重く依頼書を掲示するのだった。
●リプレイ本文
●虫の好かぬ依頼人
──ゴトゴトゴトンゴトゴトゴトゴトガタンゴトゴト‥‥
車輪が街道を噛んで回る。
──カポカポカポカポカポカポカポカポ‥‥
馬車を引く馬の蹄と併走する馬の蹄が行進曲を奏でて進む。
馬に乗る冒険者も、セブンリーグブーツを履いた冒険者も、強い日差しにあてられ疲弊気味の様子。
「暑い‥‥」
なんでこう、商人って微妙に怪しい感じが人が多いのかしら‥‥内心でそう呟く青 龍華(ea3665)は敵の目を欺くためにローブに身を包み、自分の想像のウィザードを演じている。馬を軽快に操る辺り、彼女自身も充分に『怪しい』魔術師だ。そのローブは汗を吸いしっとりと湿り気を帯びている。
「ふむ、水蠍か‥‥今回は本物のようだね‥‥さて、どうでる」
龍華が馬車の陰になるように、並んでいたマーヤー・プラトー(ea5254)はさり気なく馬の位置を変えながら油断無く周囲を見回した。
「‥‥なんか色々と厄介な相手みたいだけど、しっかりとやらないとね」
セブンリーグブーツを駆使しながら呟いたのはフィーナ・アクトラス(ea9909)。友人のヴィグ・カノスに調べられたのは、それがハーフエルフの集団であることと、犯罪に手を染めることも厭わない組織であるということ。
「水蠍はハーフエルフの互助組織だそうですよ。1人では生きていくことすら難しいハーフエルフが例え非合法な行為をしてでも生き延びるための組織なのだと聞きました」
護衛を受け持つ冒険者の中でウェルナー・シドラドム(eb0342)が一番水蠍に詳しい。水蠍について口外することは禁じられたが、敵となった以上そんな甘いことは言っていられないと判断したのだろう。水蠍の信頼を得たところで、ハーフエルフではないウェルナーには得るものはなにもない。
「水蠍の‥‥目的は何?」
サラ・コーウィン(ea4567)は小さく呟いた。悪狩人の呼び名を持つサラだったが、ウェルナーの話を聞く限り、水蠍が一概に悪人の集団とも思えず‥‥何か彼らにとって看過できない事柄でもあるのだろうかと頭を悩ませる。
同様にミラファ・エリアス(ea1045)も胸に渦巻く。狡猾そうな雰囲気の依頼人がどうも好きになれないのだ。
(「ハーフエルフの皆さんに狙われても無理のないことをしているのではないでしょうか‥‥」)
依頼人の事情を詳しく訊ねない程度の分別はあるが‥‥それでもどうも好きにはなれそうもなかった。
「きな臭い匂いがしてきているシュバルツ城方面へ行商に行くなんて、よほどいい儲けになるのか、信用第一なのか、それとも別の事情があるのか‥‥」
うむう、と腕を組んで首を傾げるチルニー・テルフェル(ea3448)。依頼人である行商人の謎行動はチルニーの好奇心を擽(くすぐ)って擽ってどうにも我慢ができない。ドンキーの背に揺られ、時々上空からテレスコープで警戒し、荷馬車の幌が揺れればさっと視線を走らせたりしながら、精一杯の我慢我慢☆
「少々胡散臭いものを感じないでもないが‥‥まぁ、依頼人の私事は俺には関わり無いことだ。戦に非合法は付き物だしな」
湖面を思わす青い瞳のアリオス・セディオン(ea4909)は、湖面と同様に乱れることの少ない自制心の強い男のようだ。同じ疑問も抱いているが立場を守ろうとするアリオスの一言に、愛馬白影と初めての旅に緊張を浮かべていた聯 柳雅(ea6707)も抑揚の少ない言葉を吐いた。
「積荷に興味は無いな。それが仕事だから‥‥私の出来る仕事をするまでだ」
「わ、判ってるよ〜! あは、あはは‥‥テレスコープの時間だから、もう行かなくちゃっ」
引きつった笑いを残して上空に逃げるチルニーを見上げ、サーシャ・ムーンライト(eb1502)は小さく溜息を吐いた。ハーフエルフのサーシャにとって、今回の依頼は‥‥心境的にとても複雑にならざるを得ない依頼だったのだ。
こうして、依頼人と冒険者の間に僅かな亀裂を生じたまま、シュバルツ城方面への行程は進んで行く‥‥時折り、敵意のある視線を感じながら。
●謎に包まれし積荷
パリからシュバルツ城までは、直進したのならば片道約半日。追っ手の目を眩ませるためと称して迂回していることから、パリ郊外のシュバルツ城までの間にも関わらず野営が設営されることとなった。
当然、野営は襲撃の可能性が高い。
「10人‥‥3班が適当であろうか」
柳雅の呟きでマーヤーが班を分けた。魔力を回復するには連続した6時間程度の睡眠が必要になる。つまり、2番手になった場合、睡眠が分断されて魔力の回復は難しい。マジックユーザーは2番手には向かないのだ。
あれこれ悩み決まったのは次のようなメンバーでの組合せだった。
1番手:マーヤー、サーシャ、アリオス
2番手:龍華、サラ、柳雅、フィーナ
3番手:チルニー、ウェルナー、ミラファ
冒険者たちは龍華が軽く調理した保存食で胃を満たした。
「こちらでご一緒にいかがですか?」
「いえ、御者たちもおりますし、結構ですよ。皆さんは皆さんで、お話なさりたいこともおありでしょうしね」
ミラファが依頼人へ声を掛けるものの、行商人はにこにこと微笑んでやんわりと断られてしまった。
そして二人の御者と共に馬車から離れることなく食事を採る。
決して馬車から離れない御者、離れる時は代わりに行商人が張り付く。
「なんか、怪しさ大爆発って感じよね」
「フィーナさん、聞こえますよ」
ポソっと口にした一言にウェルナーがそっと言を返した。彼とて同じ、積荷を調べるだけの隙を与えられず、正義感に燃える若い心を抑えきれずにいるのだ。
「‥‥そうね、依頼人を疑っていたら護衛なんてできないわよね」
肩を竦めたフィーナは、龍華の手を掛けられた保存食を口に運び舌鼓を打つのだった。
そして食事も済み、馬や驢馬、馬具の手入れを終えると順次眠りについていく‥‥
「やっぱり気になるなあ」
パチパチと火の爆ぜる音を聞きながらチルニーが呟いた。リヴィールマジックにエックスレイビジョン‥‥ヒントを掴める魔法を習得しているチルニーとしては、そろそろ我慢も限界なのだろう。
既に空も白み、地平の端から太陽が輪郭を覗かせている。同行者が早起きならば、陽光を浴びてそろそろ目を覚ます頃合いであろう。陽光を浴びたジプシーのチルニーは、好奇心の疼きを抑えられなくなっていた。
「‥‥そうですね、僕も少し積荷が気になります。水蠍が何の理由も無く執着するとは‥‥やっぱり、考えにくいです」
少しだけ、と好奇心ではなく正義感と使命感に燃えるウェルナーはチルニーを止めることなく腰を上げてしまった。
「ちょっ‥‥あの、駄目ですよチルニーさん、ウェルナーさんっ」
仲間を起こさぬよう、小さく声を荒げるミルファ。夜が明けるとはいえ未だまだ野営中、いつ敵が現れるとも知れぬのだ。
「もう‥‥」
軽い溜息。乾いた枝を焚き火にくべ、ぐるりと仲間を見回す。変化はない。龍華が寝返りを一つ‥‥何だか漠然とした違和感を覚えたがそれが何なのかは判らず、周囲をゆっくりと見回す。‥‥問題はなさそうだ。席を外した二人が戻るまでの僅かな間を、神経を張っていなければと息を殺した。
●襲撃せし蠍
2台の馬車の陰でこっそりとリヴィールマジックを唱えたチルニー。片方の馬車は‥‥武器、防具、だろうか。細長かったり、いびつだったり、大きかったり、小さかったり。魔法の品が多々含まれているのが判る。そして、もう一方の馬車は‥‥
「う〜ん‥?」
何故だろう、良くわからない。何というか、馬車の荷台全体に魔法がかかっているような感覚だ。
「怪しい、怪しすぎる〜」
どこかわくわくする心を感じながら、チルニーはエックスレイビジョンを唱えた。
「何か、大きな箱がいっぱいだね。寝てるのはこの馬車の御者さんと、依頼人さん‥‥ん?」
見覚えの無い少女が1人──はて、あの少女は誰だろう。薄っすらと目を明け、こっちを‥‥見られた!?
そんなはずは無い、見られているなんて!?
動揺するチルニーに気付かず、片方の馬車を確認したウェルナーがもう1台の荷台を覗こうと──いけない、起きてる人がいるのに!!
『駄目、ウェルナーさん!!』
ハッと口を両手でふさぐチルニー。声が、声が出ない!
そして狙いを定め背後から一直線に矢が飛来する!!
『きゃああっ!!』
「──?」
何か声が聞こえた気がして、ミラファが顔を上げる。見える範囲に異変は無い。変わらず聞こえる仲間達の静かな寝息、そして火の爆ぜるパチパチという音──唐突に、それらの音が、全ての音が、ミラファの耳へ届かなくなった。
『これは‥‥敵!?』
声を上げるもその声が出ない!! そして襲い来る風の刃!!
『起きて、起きてください!! 敵襲です!!』
目に付いたマーヤーのミドルシールドを、拾った石で殴りつける!!
「敵か!?」
飛び起きるマーヤー、柳雅、サラ、アリオス!! そこへ再び襲い来る風の刃!!
「フィーナ殿、サーシャ殿、龍華殿!!」
魔法を使うはずのフィーナ、サーシャ、そしてウィザードに扮していた龍華は目覚める気配が無い!
「ミラファ殿、どうなっている! ウェルナー殿とチルニー殿はどうした!?」
『サイレンスで音を奪われました、二人は馬車を調べに‥‥』
話そうとするも口が動かず、盾を殴った石で地に文字を書き付ける。
「チルニーさん!!」
音で異変に気付いたウェルナーも、背後に倒れ切れ切れな吐息のチルニーを片手で抱き上げる!
「これは‥‥毒矢!? くっ!!」
現れたのは口元を布で覆い、胸に十字を抱いた赤毛のハーフエルフ!! チルニーを地面に寝かせるわけにもいかず、片手で抱いたまま、右手のエスキスエルウィンの牙で刃を受ける!!
「あなた方の目的は何なんですか!?」
同じく胸に十字を抱いた銀髪のハーフエルフの剣をサラ。簡素な鎧に身を包みクレイモアを振るう黒髪のハーフエルフと対峙するマーヤー、どちらも眠る仲間を気にせずに戦うことができず、痛烈な攻撃を受けきるだけで精一杯だ。
『起きて、起きてください!!』
眠る3人を必死に揺さぶるミラファに、3人も目を覚ます。目の前で繰り広げられる戦いに、発生しているはずの剣戟も怒号も会話も何も耳に入らず、状況を悟る!!
『サイレンス!?』
そう、水蠍はマジックユーザーの無力化を図ったのだ! しかしその程度で無力化される冒険者たちではない!
龍華はサラと対峙する銀髪のハーフエルフの背後で延髄へ回し蹴り!! 足を振りぬいた勢いを乗せた拳を右肩へ叩き込む!! そして唯一馬車近辺にて剣を交えるウェルナーの援護へ向かう!!
『元々魔法が専門ではありませんから、あまり関係ないんです。‥‥とお教えしても、聞こえませんよね』
同様にサーシャはサラの援護へと魔力を帯びたショートソードを抜き放つ!
『弓は初めてなんだけど‥‥魔法よりは得意だっていう自信があるのよね』
斧より威力が落ちるのが難点だけれど‥‥フィーナは襲い来た風の刃が放たれた方向をキッと睨む! 常人より優れた視力は詠唱とともにうっすらと緑色に光るハーフエルフ・ウィザードを発見した!! ミドルボウに番えた矢を躊躇わず射出!!
『当たり!! なんだ、意外と簡単じゃない♪』
しかし、ウィザードが一瞬の淡い光とともに余裕をかましたフィーナ目掛けライトニングサンダーボルトを撃った!! 龍華、サーシャが稲妻に巻き込まれる!
『きゃああ!!』
「大丈夫ですか!? きゃあっ!!」
無音のままに電光に打たれる3人。倒れ付した仲間たちに気を取られた瞬間、剣ごと押しのけられたサラの肩口、レザーアーマーの繋ぎ目を縫うように毒矢が突き立つ!! 続けざまに矢を番えるハーフエルフ!
●もう1人の護衛
しかしその矢は発されなかった。
「見つけた‥‥もう好きにはさせん」
パリで待つ恋人と永遠を誓った銀の指輪が燦然と煌く左手、そして龍叱爪が鈍い輝きを放つ右手、柳雅のその2本の腕の軌跡が弓使いを捉える!!
咄嗟に片手で矢を折りナイフのように構える弓使い。投げることも、軟弱ではあるが白兵武器として使うことも可能‥‥毒が塗ってある分、柳雅は避けることしか適わない。
「なかなか考えるな」
その柳雅の視界の隅で動いたのはアリオス‥‥ウィザードへ攻撃を仕掛けたようだ!!
攻撃を喰らいながらも高速詠唱でライトニングアーマーを身に纏い、反撃の態勢を整える魔術師!
形勢は五分と五分‥‥いや、毒された仲間がおり戦士が戦士系ハーフエルフ3名に押されている分、やや冒険者の形勢が不利、といったところか。
──その時、行商人の乗っている馬車の幌が気配なく開いた。現れたのは、一人の少女。
ウェルナー、龍華と対峙していた赤毛のハーフエルフへ背後から忍び寄り、大人とは呼べぬ小さな手で握ったダガーを首筋に当て。
気付かれる前に、のど元を大きく掻き切った!! 噴出す鮮血!!
ダガーを握らぬ手で頭を掴み、ダガーの柄で頚椎を強打!!
──ゴキッ
鈍い音がわずかに響く。
『‥‥貴方は‥‥そんな‥‥』
龍華は我が目を疑った。そこにいたのは‥‥
「‥‥チッ、外れだ。引くぞ!!」
「グッ!! 待ってください、貴方がたの目的は何なんですか!?」
「‥‥」
腹部を蹴り飛ばされ背中から地面へ突っ込んだサラ、戦場を離脱するハーフエルフの背へ叫びを浴びせる!
僅かに振り返り、けれど答えることなく、ハーフエルフは去った。
ストームで転倒させられたアリオス、毒矢を投げられ距離を取った柳雅、力を抜き均衡を失わせることで隙を作らされたマーヤー。冒険者を残し、『外れ』という言葉を残し、ハーフエルフは去った‥‥死亡した『水蠍』のハーフエルフを除いて。
『何で貴女がここにいるの‥‥貴女は死んだはずよ!!』
──アルジャーン!!
龍華の奪われた声は、少女に届くことはなく‥‥龍華を見て一瞬表情を動かした少女は、幌に戻り──以降、パリに戻るまで一度も姿を見せなかった。
『外れ』という言葉は水蠍にとって大きな意味を持っていたのだろう。その後、水蠍の襲撃はなく‥‥
「ありがとうございました。おかげで無事に大口の契約が成立しましたよ。これは少ないですがお礼です、お納めください」
口止めなのか何なのか少なからぬ祝儀を配り、有無を言わさぬ相変わらずの胡散臭い笑顔で、行商人は冒険者に礼を述べてパリを後にしたのだった‥‥