【王都侵攻】忌まわしき血の宿敵
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■ショートシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 71 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:08月29日〜09月03日
リプレイ公開日:2005年09月09日
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●オープニング
●漆黒の小鳩亭
漆黒の小鳩亭、その一角に設けられた一室は店主の認めた人物しか扉を潜ることのできない部屋だった。小さな窓からでは姿の見えぬ月を見上げ、黒髪の女性は憂いを浮かべていた。
──まさか、冒険者を雇うなんて、ね。
追い詰めたはずの男はシュバルツ城へ赴いた。おそらく、無事に契約を交わしてしまったはずだ。
交わされた契約に基づき、彼らは金額に見合った数量の荷を運んでくるに違いない。否、契約が成立することを見越して運搬を行っているはずだ。彼は‥‥彼らはそういう人物だ。
彼らがアンデッドを売買していようと、そのアンデッドが暗雲渦巻くシュバルツ城へ運び込まれようと、そんなことは妖艶なこの女性にとってはどうでも良い、些細なことにすぎない。
彼女にとって重要なことは、男たちがナスカ・グランテと接触をしているという事実。
ナスカ・グランテ‥‥それは禁忌となりつつある名前、血の呪いに負け一般人を惨殺したハーフエルフの名前である。オーガや暗殺者ですら救おうとする気風のあるノルマンで、しかし同様の罪を犯したハーフエルフに救いはなく、賢明なる領主の判断で処刑された。それがハーフエルフの立場であり、彼らに突きつけられる事実。
──しかし、ナスカ・グランテは‥‥デビルの魔法を操る少女として、人々の前に再び姿を現した。
ハーフエルフの互助組織である『水蠍』や、女王の名で呼ばれる妖艶なる女性レジーナ・ヴェロニカにとって‥‥それは悪夢に他ならない。迫害されしハーフエルフがデビルと手を組んだ‥‥そんな噂が流れてしまっては、影になり日向になり闇と社会に紛れ込んで生きようとするハーフエルフたちにとって、計り知れない悪影響を与えるだろう。
一度は死んだ少女。その存在自体が同胞に仇なすものとなったナスカ・グランテを、水蠍は再び闇に沈める道を選んだ。
レジーナ・ヴェロニカは視線を落とした。傷を負った仲間が蹲(うずくま)る‥‥ナスカ・グランテに連なる行商人の一人を襲う作戦に加わり、数日前にパリを出立したハーフエルフの一人だ。相手が冒険者を雇わなければ、充分に目的を果たして来たはずだ。
「もう一度、チャンスはもう一度あります、レジーナ様」
「解っているわ。納品の機会を叩きましょう──今度はこちらが冒険者を雇って、ね」
ハーフエルフのために動く冒険者がどれだけいるかは解らない。けれど、悪夢の再来を防ごうとする冒険者は少なからずいるだろう。
「そうね、とりあえず‥‥動かせそうな場所から攻めましょうか」
●冒険者ギルドINパリ
翌日。
交易商ヴォルフ・ガードナーと女商人ルシアン・ドゥーベルグとの連名で、冒険者ギルドへ依頼書が掲示された。
「シュバルツ城へ向かう、ある行商人の身柄を拘束して欲しいんだ。もちろん、積荷には手をつけるんじゃねぇぞ?」
新進気鋭と評される豪快な中流商人と、悪辣なまでの手腕と特異な趣味で一目置かれる女商人ルシアン・ドゥーベルグ。彼らの連名ということは、その上に位置するものからの指示に違いない、そう判断したギルド員リュナーティアはできるだけ詳しい経緯を聞かせて欲しいと二人の商人を正面から見据えた。
「商人ギルドにちょっとしたタレコミがあってな」
「どうも、色々と問題のある商品を扱っているようなのよ。けれど、裏付けの無い状況で商人ギルドが表立って動くわけにいかないでしょう?」
もし何も問題がなければ二人の商人の独断先行だったと切り捨てられることは、ギルド員の目から見ても火を見るより明らか。それでも名を貸したということは、事実であった場合に彼らに齎される利回りがそれだけ大きいということだろう。
幾つか言葉を交わすとギルド員は強張った面持ちで一度席を離れ、二人の商人を別室へと通した。
その部屋で二人を待っていたのはパリの冒険者を束ねるギルドマスター、フロランス・シュトルーム。
「詳しく聞かせていただけるかしら」
形式ばった挨拶もそこそこに話を促すギルドマスター。ギルド員がギルドマスターへ話を通したのには訳がある──商人たちが追い求める『行商人』をシュバルツ城まで護衛するという依頼を数日前に取り扱ったばかりだからだ。『行商人』が『シュバルツ城』へ運び込もうとしている『よろしくない商品』‥‥その内容如何によっては、冒険者ギルドの磐石が揺らぎかねない。
「運び込まれるもの‥‥平和を脅かすものなのでしょう?」
「まあ、平和的なものではないのは確かね」
女商人ルシアンが赤い癖毛を揺らし頷く。二人の女性が腹の探りあいを繰り広げようとするのを邪魔したのはガードナーだった。
「奴が売り歩いているがアンデッドだという話があるんだ。ズゥンビやらグールやら色々いる中の何を売ることになったのかは知らねぇがな」
「商売っ気がないわね、相変わらず。まあ、そういうことでね。そんな『商品』を本当に扱っているなら、商人ギルドとして制裁をしないといけないわけ」
呆れながらもルシアンが明かした手札にフロランスは手を伸ばした。
「そういうことなら協力しましょう。パリの平和のためですから、見返りはいりません」
冒険者ギルドが関わった状態でアンデッドがシュバルツ城に現れたら、どんな風評が流れるか知れたものではない。そしてアンデッドを購入した人物次第では‥‥安置された聖櫃が奪われかねない。
商人ギルドは制裁を加えたいだけだろう。平和を脅かす印象を植え付けるのは商売に悪影響を与える。しかし戦争が利潤を生むのは事実であり、だからこそ商人ギルドは入手経路を『情報』として売ることはあったとしても、叩き潰すことはしないはずだ。僅かに残る隙にしっかりと食い入るように、フロランスは提案し、それは受け入れられた。
「それじゃ、お互い頑張りましょう、パリの平和のために」
仰々しく芝居がかった所作でガードナーと共に立ち上がり、部屋を出ようとしたルシアンは‥‥思い出したように振り返った。
「ただ、2人ばかり同行するわ。情報提供者‥‥利害の一致する人だとだけ言っておきましょうか。詮索はしない方がお互いの身のためね」
ルシアンはにっこりと微笑み、ガードナーを追い立てるように部屋を出て行った。
一人残されたフロランスの溜息が、かすかに響いた。
●リプレイ本文
●火急の依頼
「ち、ちょっと待ってくれる?」
「‥‥笑えない冗談ですね」
フィーナ・アクトラス(ea9909)の笑顔が凍りつき、ウェルナー・シドラドム(eb0342)が陰りの差した顔を顰める。
「クス‥‥フィーナ、追ってる相手に協力してたなんて‥‥素敵すぎるよ‥‥」
愉しそうに昏い笑いを浮かべる音無影音(ea8586)へ、にっこりと満面の笑みを湛えたままバックパックから無造作に取り出した豪華な聖書を投げつけようとしたフィーナはその行動を取りやめた。痛い思いをさせても喜ばれては頭にくるだけ。そしてラクス・キャンリーゼこそ居ないものの、影音、ルティエ・ヴァルデス(ea8866)、そしてアール・ドイル(ea9471)という‥‥惨事と呼んでもよい事態を招いた面子がそろい踏みしてしまっているのだ。油断して以前の依頼の二の舞を演じるわけにはいかない、と気を引き締める。
「アンデッドを売る行商人‥‥やっぱり、プレートの着いたアンデッドなのかな‥‥なら‥‥今までの謎に迫る、千載一隅のチャンスかもね‥‥」
ナンバーの振ってあるプレートを付けられたアンデッド、通称『ナンバーズ』。売られ、買われていくアンデッドの謎は未だ解決の糸口すら掴めていなかった。
「それにしても‥‥アンデッドの輸送に、売買ですか‥‥穏やかではありませんね」
シャルロッテ・ブルームハルト(ea5180)が漏らした溜息に合わせて、たわわな胸が弾んだ。髪を掻き上げる本多桂(ea5840)が僅かに逸らした胸は、残念ながらさらしに阻まれ弾むことは無かったが。
「冒険者を謀(たばか)って悪魔と手を組むなんて、きっちり仕返しをしておかなければならないわね」
ジャパンの巫女という職業はクレリックのようにアンデッドやデビルを滅ぼすべき職業らしく、桂の瞳には気合いが漲っていた。
「そして勝利の美酒に酔いましょう!」
そっちか。
「まあ、自分たちにはない力を利用しようとする発想は好きですわね」
キラ・ジェネシコフ(ea4100)の漏らした呟きはごく数名の非難の視線を招いたが、本人は柳のごとく風のように受け流す。
「早く追わないと、追いつくものも追いつかなくなってしまいますわよ?」
クスッと笑うキラに更に言葉を返す者はなく、先行する馬車を一刻も早く射程圏内に捕らえるため、移動手段を整え早々にパリを出発した。
「っと、その前にエチゴヤ寄って保存食買わねぇと」
「そんなの、皆から貰えば良いわよ。行きましょ、アールさん」
「‥‥自分が出すとは言わないんだね‥‥」
アールの腕を引くフィーナへボソッと呟いた影音。その影音も実は食料を買っていないのだが、食事の時分までそのことには気付きそうもない──恐らく、皆が余剰分から保存食をひねり出すのだろう。
●荷馬車追跡
パリから離れようというところで、レジーナ・ヴェロニカ(ez1050)と一人のハーフエルフが冒険者たちと合流した。
「あなたは!」
「彼は、ウィザードのクレイよ。ブレスセンサーとライトニングサンダーボルトの使える風使いのウィザード、ご希望通りでしょう?」
「サイレンスにストームも使いますよね、クレイさんは」
ウェルナーとフィーナの淡々とした瞳がクレイを射る。彼には痛い目に遭わされたばかりだ。
「悪かったわね、私たちもナスカ・グランテを探すのに躍起になっていたものだから。けれど、敵に容赦をしないのはお互い様よね?」
「‥‥何が‥いえ、何で『ハズレ』だったんですか? 水蠍は何を知っているんです?」
ハズレだったからあの依頼は成功した。してしまった。ウェルナーはプライドに賭けた責任感に圧されたか焦燥に苛まれるように問いただす。けれど、何度問いかけても、質問を変えても、時間をかけても、女王の名を冠された女性はゆっくりと首を横に振るばかり。
「まだ早いわね‥‥確証がないことは言えないわ」
情報が正しいかどうか‥‥それは確かに重要であったが、それが供されぬことで失敗する可能性を看過することができず、水蠍に対し神経を尖らせるウェルナーへキラが静止の声を上げる。
「細かいことは後で行商人に聞けば宜しいでしょう。今ここで押し問答をして疲れを背負う必要はありませんわ」
「キラ君の言うとおりだよ、ウェルナー君。それに‥‥ほら、そろそろ追いつくようだしね?」
ルティエが上空を示す。いつの間にやらカラスというよりはジャイアントクロウと呼ぶべきサイズの鳥影と化したフィーナが、偵察に赴いた上空を旋回し合図を送っている。
「‥‥なんだか‥‥シュバルツ城まで、休憩するつもりはなさそうですね」
シャルロッテの言葉に仲間たちは覚悟を決める。シュバルツ城までは片道半日、契約を締結する時とは異なり、納品の日時が指定されていないのであれば、一日も、一刻も早く納品するようにと指示を受けているのだろう。ここ数日、カルロス元伯爵が再び起こした反乱‥‥その報は冒険者たちも耳にしている。凶行を食い止めるべく尽力している多くの仲間たちの為にも、万一にも戦場へ合流させるわけには行かぬのだと解っていた。けれど、出来れば休憩時を狙いたかったのが事実だったのだ。
「ま、仕方ねぇだろ。こっちの都合なんざあちらさんにゃ関係ねぇんだ。とっとと捕まえに行こうぜ」
短く刈り上げた髪を乱雑に掻きながらミミクリーを解いたフィーナが服を着るのを待ち、二手に別れてペースを上げると静かに馬車を追い抜いた。
●荷馬車襲撃
「フンッ!!」
「悪く思うなよ!」
フィーナの投じたブレーメンアックスが一台の馬車と馬を繋ぐロープを断ち、地面に突き立つ!!
同時に、道の反対から急襲したアールの勢いを背負ったシールドソードが一台の馬車を引く馬の足を根元から分断するように叩き斬る!!
2台の馬車が止まり、続く2台の馬車も巻き込まれるように移動を止めた。そしてルティエの足も止まる。
「ちょっと加減してほしかったね‥‥」
沸き立つ血に苦笑を浮かべるルティエ。次第にその笑いが強張ったものになり、やがて恍惚としたものへと変わってゆく‥‥オーラエイベイションで士気を上げてはいたものの、ざわり‥‥と粟立つ肌、ふつふつと逆立つ髪、そして‥‥次第に瞳に集まる血の滾(たぎ)り、沸き立つ狂化のうねりの前には木の葉のように殆ど意味をなさない。
「ふふ‥‥可哀想だけれど、仕方ないよね、もう生きていけないんだから」
四肢の一つを失い転倒し、だくだくと血を溢れ血溜まりを広げながらヒューヒューと荒い息を立てもがく馬。その首筋に日本刀を当て、ゆっくり恐怖を味わわせるように切れ込みを深くする。ルティエのその日本刀が首筋から抜き放たれると、抑えを失った鮮血が動脈から噴出した。
「どうか安らかに」
酷薄な笑みを浮かべながら死にゆく馬の頭部を踏み躙り次の獲物を探して戦場を一瞥する紅き瞳の騎士。
一瞬悲しげな表情を浮かべたレジーナ・ヴェロニカだったが、クレイの始めた詠唱で我に返る。
「襲撃だ!!」
ロープを断たれた馬車の御者が叫び、1頭の馬を失った御者が馬車から飛び降りる!!
フォローに入ろうとした桂の瞳に映ったのは戦場へ降り立ち御者の懐に入り込む影音と、彼女が突き立てた小太刀!
「‥‥あれ、デビルだった‥? 残念‥‥」
奏でられぬ鮮血に落胆しつつ、ダメージを与えなかった小太刀に御者の正体を薄々悟る。
「御者はデビルのようです! 気をつけてください!」
馬脚を現し影音に爪を振るおうとした御者をワイナーズ・ティールで切りつける桂は仲間にも注意を喚起する!!
「呼吸音が‥‥馬車の荷台にそれぞれ、御者以外に1人ずつ乗っています」
全体を見渡し敵も味方も全てに目を光らせていたキラ、クレイの言葉を戦場に響かせる!
「順番に下がってください、レジストデビルでサポートしますっ」
シャルロッテが懸命に慣れぬ仕種で声を張り上げる。相手がアンデッドであればまだしも、デビルとなれば相応の対策が必要となる。クレイのライトニングサンダーボルトで半ば強引に隙を作ると影音とウェルナーが下がり、レジストデビルの魔法を受けながら‥‥ウェルナーはサンクト・スラッグの名を持つデビルスレイヤーをバックパックから取り出し、エスキスエルウィンの牙を影音へ放った。
「使ってください、一応デビルにも効果があるはずです」
「ん‥‥ありがたく借りるよ」
そうこうしている間にも荷台から人間らしき人影が姿を現す。馬を失った馬車からは‥‥行商人らしき男と、ハーフエルフの少女が飛び降りた!!
●現れしナスカ
レジーナ・ヴェロニカがスクロールを開き、同時に異変を感じたキラが飛び出す!
「シャルロッテさん、デティクトアンデッドをお願い!」
声を張り上げるように頭が回ったのはフィーナだ! ブレスセンサーで反応があったのは各馬車の二台に『1人ずつ』だったはず。しかし今、行商人が飛び降りた馬車からは、ナスカ・グランテも飛び降りた‥‥数が合わない。
「セーラ様の加護を受け死の安らぎを得ることを知らない者に導きを与えん──デティクトアンデッド!」
荷台には多くの反応があるが、これは積荷のアンデッドに違いない。御者に扮したデビルも当然反応がある。そして、ナスカ・グランテにも。
「ナスカさんに反応があります!」
「ナスカ・グランテは呼吸反応がありません!」
セーラの使徒としてシャルロッテが毅然と張り上げた声、同時に響くクレイの声!
「どういうことだ?」
思考が状況についていかず、とりあえず馬車の車輪を叩き壊しながらアールは眉間にシワを寄せた。エスキスエルウィンの牙を振るう影音にも事情が飲み込めず、肩を竦める。シャルロッテの話ではナスカ・グランテはデビル魔法を使うはず。デビルである可能性は高かったが‥‥デビルであるなら呼吸反応はあっても良いはずだ。
「ナスカ・グランテはデビルに傅(かしず)かれるアンデッド、ということかしらね。デビルと契約されても迷惑だけれど‥‥そんなハーフエルフがいると知れたら困るのよ、他の子が迷惑を蒙るわ!」
「お逃げください!!」
スクロールにより発動したプラントコントロールによって操られた植物がナスカ・グランテを捉えようと蠢き、行商人はナスカを突き飛ばした!!
「こちらへ!!」
馬も車輪も無事だった馬車の荷台から降りた行商人と似た服装をした男が、ナスカの手を引いて馬車へ招く!
御者が鞭を当て、動き始めた2台の馬車。
その馬へ、車輪へ、ルティエとアールが狙いを定める!!
「お願い、『退いて』‥‥『動かないで』」
高速詠唱を用いてナスカ口にした言葉は二人に強制力を働かせた!
「アールさん、ルティエさん!」
「フォースコマンド? ナスカ・グランテ‥‥貴女はデビルの力を得た者なの?」
去りゆく馬車にヴェロニカが呟いた。
追おうにもデビルどもが一台の積荷を解き、ズゥンビが、グールが荷台から溢れ、追撃など出来る状況ではなかった。
「‥‥纏めて潰してやる」
溢れた敵と煮え湯を飲まされた怒りとでアールの狂気も封を解かれる。
「殺させるわけにはいきませんの。怨みや悲しみで囚われた愚かな者よ。大いなる父の元へ向かうがいいですわ」
プラントコントロールからは解放されたものの、行商人を取り囲むアンデッドから守るべくキラは聖剣アルマスを振るう!
しかし敵の数が多く、行商人は無抵抗のままズゥンビの攻撃をその身に受け続ける!
「貴方たちの目的は何? プレートのついたアンデッドは貴方の商品なの?」
結果的に再び行商人を守る形で斧を舞わせながら、フィーナは行商人を問いただす。
「ええ、あれは我々の商品‥‥ナンバリングした方が、管理が楽なんですよ。目的なんて、お金のほかに何があるというのですか?」
凝りもせず腹の読めぬ笑みを湛えたまま、行商人はいつもと変わらぬ口調でそう応じた。
「我々って‥‥仲間がいる、ってことかしら?」
アールとルティエが向き合うことの無いよう命がけで気を使いながら、聞こえた言葉に桂が問い返す。
「えぇ、あのお方を連れて行ったのも仲間ですから。‥‥あの方をお慕いする者は少なくないのですよ」
それが、行商人の最後の言葉になった。
インプに振るわれたアールの凶刃の前に身を躍らせ、行商人は乱戦の中、それ以上の言葉を漏らすことを嫌った。
やがて冒険者以外に動くものがいなくなり‥‥狂化が解けるのを待ち、馬を失い車輪を破壊された馬車に四苦八苦しながら回収した積荷を依頼人の下へ届けるべくパリに引き返した。
「勝利の美酒どころか、苦い酒になってしまったわね」
予定より二日ほど早くパリに戻ったヴェロニカは、酒を煽る桂に小さく言葉を送った。
アンデッドは棺桶ごと然るべき調査を行った後に教会へと引き渡され、ジーザスの御許へ送られることになるという。
‥‥シャルロッテは、その一点についてだけ胸を撫で下ろし、無事にジーザスの御許へ辿り着けるよう祈りを捧げた‥‥。