●リプレイ本文
●小さなお人形を作るのです! 〜再〜
「冒険っていうなら、やっぱり行くのは廃墟がいいよねー」
ちま人形の体になる布の手触りを確かめながら、アルル・ベルティーノ(ea4470)さんは機嫌よくにこにこしています。
早速皆でエチゴヤエプロンの先生、フェリーナ・フェタ(ea5066)さんの指導の通りに裁断し──ようとして‥‥
「あたしに反抗するなんて、生意気な布ねっ!!」
ざっくりと、腕になるべき場所まで切ってしまったオイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)さんは思わず布に八つ当たり。その手元には切り損ねた布がたくさんあって、オイフェミアさんの頑張りを伝えています。
「あたしはあたしのやりかたで人形を作るわ。特徴をデフォルメすれば良いのよね」
気合を入れなおしてオイフェミアさんは再び布を手にとりました。そんな様子を眺めながら、ちま雛ちゃんを握った雛菊はくるくると皆の間を歩き回っています。
「今日は、怖いお顔の父様は来ないなの?」
「おじちゃん、ちょっと正義の味方しに行っちゃってね。おばちゃんが代わりにきたの」
首を傾げる雛菊さんの頭をくりくりと撫でながらリュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)さんがにっこりと微笑みかけました。リュシエンヌさんと旦那さんは雛菊さんを自分たちの娘と同じように可愛がっているのです。
「ふわぁ‥‥ありがとなの〜」
ほにゃほにゃと喜んで笑う雛菊さんにリュシエンヌさんは‥‥はー、やっぱりこのくらい小さい子っていいわねぇ、という母性本能とはちょっと違うところを擽られてしまったのでした。
「痛っ!!」
大変! くりくりと撫でられる雛菊さんとほんわかムードを醸し出すリュシエンヌさんに嫉妬した宮崎桜花(eb1052)さんは、余所見をしていたせいで、針で力いっぱい指を刺してしまいました!
「桜花お姉ちゃん、大丈夫よ〜。痛いの痛いの飛んで来いなのー」
パタパタと駆け寄る雛菊さん、見ているだけなのに痛そうです。
「あの‥‥一応、治療しましょうか‥‥?」
その服装が聖職者であることを示しているユキ・ヤツシロ(ea9342)さんが小さく呟くように呪文を詠唱すると、針で刺した傷なんてあっという間になくなってしまいました!
「飛んで来たなの〜! 良かったのよー」
抱きつく雛菊さんへ挨拶とばかりに頬擦りして、ユキさんの方へ雛菊さんを向かせました。
「私の名前はユキ・ヤツシロと‥‥いえ‥‥」
自己紹介をしかけたユキさんが一度言葉を飲み込んで微笑むと、次の瞬間口から零れた言葉はたどたどしいジャパン語に様変わり♪
『八代雪と申します。私の父様は雛菊様と同じジャパンの方だったんですよ。仲良くして下さると嬉しいですわ』
耳に懐かしいジャパン語‥‥雛菊さんはユキさんにぎゅむっと抱きついて、ちょっと涙ぐんでしまいました。
そんな風に雛菊さんが邪魔をしながらも、ちくちくと縫われた布はだんだんちまの形になっていきます。
「ああ、これじゃ駄目ですね〜‥」
切り取った布の大きさが合わず、歪んだちまのお腹から詰めた綿が溢れてしまって、フェイテル・ファウスト(ea2730)さんは思わず苦笑を浮かべました。
「諦めちゃ駄目だよフェイテル。私がちゃんと教えてあげるから、ね?」
「ありがとうございます〜。リーナは優しいですね」
それじゃあ、また1から作り直してみます、と隣にいる婚約者に微笑まれ、フェリーナさんはぽぽぽっと頬を染めました。甘ぁい空気が流れ‥‥
「むー!」
頬を膨らませた雛菊さんが二人の間に割り込み、フェリーナさんの腰にぎゅむっとしがみ付き‥‥挙句の果てにはジトーっとフェイテルさんを睨み上げました。
「リーナお姉ちゃんは雛のなのー! 取ったらメッ!! ってするのねー」
思わぬ独占欲にもめげず、フェイテルさんはにこにこと雛菊さんを撫でました。
「雛菊さんと私は、リーナのことが大好きな仲間なんですね〜。独り占めはしませんから、雛菊さんも私からリーナを取らないで下さいね?」
難しい表情を浮かべ、やがて頷く雛菊さん。締結された妙な協定に、フェリーナさんは少し肩を落としてしまいました。大人な対応は嬉しいけど、フェイテルには独占して欲しいなぁ‥‥なんて、ちょっと複雑な乙女心を見抜き、リュシエンヌさんは口元を綻ばせました。
「あ、そうだ。雛ちゃん、ちょっとお外行こっか」
気を取り直したフェリーナさん、考えていたアイディアを実現しようと雛菊さんを連れて部屋を出‥‥そこにいた王娘(ea8989)さんとドンっとぶつかってしまいました。
「あ、ごめんね‥‥って、娘?」
「いや、その‥‥たまたま! 偶然! 暇ができただけだ! ‥‥本当にそれだけだからな?」
真っ赤になって怒ったように主張する娘さん。俯いてちょこんと抱えたちまにゃんの手をもじもじと弄ると、まるで『入れてー、遊んでー♪』と言うように手が揺れました。
「娘さん、どうぞ空いてる席に。折角ですから一緒に楽しみましょう?」
友人のユキさんに手招きされた娘さんが空いているフェイテルさんの隣の席に座ってしまい、フェリーナさんはがっかり。その上、雛菊さんを連れて行こうとするフェリーナさんを桜花さんが怖い顔で睨んでいて‥‥ちょぴっとだけ、泣きたくなってしまったフェリーナさんなのでした。
●廃墟にお出かけするのです!
二日後‥‥冒険者たちの表情は悲喜交々(ひきこもごも)でした。
とりわけ残念そうなのはフェイテルさんとユキさんです。廃墟に行くことは全員で決めたことなのですが‥‥廃墟に行くためには、ちまのお洋服を諦めなければならなかったからです。
反対に上機嫌なのが桜花さん。意外に器用な雛ちゃんがつきっきりで教えてくれたからです。
「おーかちゃんです、よろしくねひなちゃん」
「よろしくなのー」
雛菊さんはちまひなちゃんにお友達ができて大喜びです。ちまひなちゃんでおーかちゃんに抱きつこうとして‥‥手に握っていたものを思い出しました。
「あ、ユキお姉ちゃん、これあげるなのー」
それはユキさんが着けているものと似た、白いローブです。ただし──ちまサイズ。
「‥‥いいのですか?」
「雛もひなちゃんもお洋服いっぱいもらったなの。だから雛もあげるなのね」
「ふふ、雛ちゃんは優しいですね」
がっかりしていたユキさんの表情が明るくなって、桜花さんも嬉しそうです。
「じゃあ、そんな優しい雛ちゃんに。はい♪」
にっこりとフェリーナさんが渡したのは、黒い髪をした男の子のちま。雛ちゃんは驚いて目を丸くしました──きっと、それが誰なのかひと目でわかったのでしょう。
「雛ちゃんにはお兄さんがいるけど、ひなちゃんにはいなかったでしょ? だから、ひなちゃんにもお兄さんが来てくれたんだよ〜」
名づけて、ちまにいさま☆
一方、もこもこを纏っているのはアルルさんのちま。アルルさんはオイフェミアさんに頭を下げています。
「なんか、色々手伝ってくれてありがと♪」
「おまえが余りにモタついてるから見ていられなかっただけよ」
ちまをどうやってもこもこにするか悩んでいたアルルさんへ、羊毛に布の巻きつけ芯を作り、布を針で寄せて空いた隙間に埋め込む‥‥そんな方法を提案したのです。そのオイフェミアさんが抱いているのは、ちまとはちょっと違うお人形。オイフェミアさんが自分の髪を使い、体型を重視したのっぺらぼうのお人形です。
そのお人形を見た何人かは、『埴輪‥‥』とジャパン特有のモンスターの名を思い浮かべましたが、誰がそう思ったのかは秘密にしておきます、誰も口にしなかったのですから。
「娘さんは、どこに手を加えたのですか?」
来た時のままのほんわかちまを握る娘さんに不思議そうにフェイテルさんが訊ねました。ちらっとフェイテルを見遣り、小さく呟きました。
「見て解らないか?」
「すみません、ちょっと解りません〜」
「そうだろうな、ほんわかちまはほんわかちまのままだ」
「ええっ!? ひどいですー」
無表情のままの娘さんにからかわれたのでしょうか、よろりと大げさによろめき目頭を抑えるフェイテルさんを庇うようにフェリーナさんが小柄な娘さんの額を小突きました。
「フェイテル泣かせたら怒るからね? ふぇいてる、泣かないでー」
ふぇりーなちゃんの小さな手でフェイテルさんの頭を撫でると、フェイテルさんが頬を赤らめちょっと照れました。
「いいわねぇ♪ でも、私たちには負けるけどね」
手にしたちまにいさまをじっと見つめている雛菊さんにそっと触れ、桜花さんは元気良く声を上げます。
「それじゃ、出発しましょう!」
「保存食に、おやつも忘れずにねっ」
「‥‥プリン体型になるぞ、アルル」
●ちまも冒険するのです!
さて、半日‥‥の予定が雛菊さんに合わせたのでもう少しかかってしまいましたが、なんとか到着したのは夜でもないのにおどろおどろしい廃墟です。天気が悪いのもあるのかもしれません、今にも降り出しそうな天気で娘さんはフードを被りなおしました。
「なんか、怖いなの〜‥」
雛菊さんとひなちゃんは、桜花さんとおーかちゃんにきゅむっとしがみつきました。なんだか寂しげな曲まで聞こえてくるようで、フェリーナさんも無意識にフェイテルさんの腕にしがみついています。崩れた窓から入り込んでいる枝がガサガサっと揺れて、おーかちゃんとふぇいてる君が雛ちゃんとふぇりーなちゃんを守るように前に出ました!
「‥‥やめてー、怖いのー」
その時、ちまにゃんがリュシエンヌさんにしがみつきました。リュシエンヌさんのちょっと大きめちま『ちまま』がシフールの竪琴を弾いて雰囲気を盛り上げていたのです。
「あら、バレちゃった? でもムードって大事よね?」
「元気なのはいいけど、怖いのは駄目ー」
「だめです〜」
ちまにゃんとユキちゃんにしがみつかれ、ちままは渋々シフールの竪琴を手放しました。
──ガサガサッ!
また茂みが揺れます。実は皆の後ろでオイフェミアさんが「ちゃんと『モンスター』が現れないと困るからね」とプラントコントロールを使っているのですが、誰も気づいていないみたいです。
ぼとっと落ちてきたトカゲがちまめがけて一直線に進んできます!!
「きゃー!」
「負けないよー!」
弓を構えたふぇりーなちゃん、放った小さな矢が見事にヒット!!
びっくりしたトカゲが一目散に逃げると、後に残った尻尾がぴちぴち跳ねました。
「ふぇりーな様、すごいですー」
ユキちゃんがぱちぱちと拍手し、尻尾が安らかに眠れるようにお祈りを捧げました。
その時です!
「お前たち、気をつけなさい!」
顔のない大きなおいふぇみあさんが、ピッと暗闇を指差しました。そこにはお腹から綿がはみ出したり、首がきちんとつながっていなかったり、顔が歪んでしまったりした‥‥作りかけて諦めたちまたちが倒れています!!
「あんなところにチマの死体が。きっと兇悪な怪物に殺されたのね」
「‥かわいそうです‥‥」
「そうも言っていられないようよ」
その言葉を裏付けるように、ユキちゃんに悲しむ暇を与えないように、ちょろちょろっと現れた3匹のネズミ!!
‥‥本当は、ちまの死体に保存食の残りがちょっとだけ仕込んであるのですが、もちろん内緒です。
兇悪なモンスターに、ちまにゃんが颯爽と立ち上がりました!
「私は武道家だから任せておいて〜。とー!」
得意の足技で攻撃‥‥のはずが、ちょろりと長い尻尾が動きぺしっと叩かれてしまいました。
「にゃ〜〜」
武道家ちまにゃんがあっさり負けてしまった!! ちまたちに緊張が走ります!
「皆、逃げるなら早くー!」
ふぇりーなちゃんが弓を撃ちネズミたちを攻撃します。
「りーな、攻撃するだけが戦いじゃないですよー?」
♪おやすみなさい、今日のあなた
夢で会えたら、会えたなら
月の笑顔と踊りましょう♪
ふぇいてる君のスリープの歌でネズミが一匹、ころんと寝てしまいました。
♪楽しいときは 魔法の輪 回しましょう
くるくる一緒に 遊びましょう 踊りましょう
くるくるくるり 魔法の輪 楽しさ膨らむ 魔法の輪♪
ちままのメロディーの歌でネズミが一匹、楽しそうに近寄ってきます。
「一緒に戦ってー」
もこもこメリーのあるるちゃんが犬を躾けたときのようにお願いしました。
『ちゅう』
ネズミさんも一緒に戦ってくれるみたいです!!
「危ないっ!!」
気が逸れた瞬間、ユキちゃんめがけてネズミが攻撃をしてきました!
「か、齧らないでくださいー!」
ちまのユキちゃんよりユキさんが必死です。
「女性を困らせるなんていけません!」
止めに入ろうとしたふぇいてる君、ズベッ! と転んでしまい、一緒にネズミにかじかじされてしまいました。
「ああ、やめてください〜」
「そこまでよっ!!」
いつの間に着替えたのでしょう、魔法少女のローブを着込んだちまにゃんと娘さんが現れました!!
「実は武道家と言うのは仮の姿‥‥本当は魔法少女マジカル☆にゃんにゃんだったのです! ちまをいぢめる悪い子はにゃんにゃんが許しません!!」
──ピシっ!!
いつもは敵を蹴る足を軸にくるりと一回転して指を突きつけウィンクまでして決めポーズ☆ ‥‥をのはちまにゃんではなく、後ろの娘さんです!
「にゃんにゃんらいらい不思議な力〜」
くるくると踊るとネズミがふらりと魅了されたようです。
「皆、今がチャンスだよ〜」
「皆のためにも‥‥風よ、力をっ! ──ウインドスラッシュ!」
「ちまっこたちはちままが守る! ──ムーンアロー!」
「ひなちゃんには触れさせませんっ、そんな悪い子にはお仕置きです──ライトニングサンダーボルト!」
哀れなネズミは魔法や弓の集中砲火を浴びて、ほうほうの態で逃げ出しました。
「大丈夫ー?」
ふぇりーなちゃんが声をかけ、フェリーナさんが大急ぎで怪我を縫って‥‥いえ、治療してくれました。
「強敵だったねー」
「ねー」
達成感あふれるちまたちの耳に届く、小さな音‥‥聞きたくなかった音。
──カサカサ
「で、出たー!?」
黒く輝く魔物、その名もG!!
「ちまに近寄らないでー!!」
ちまを大事に抱え逃げ惑う冒険者たち!!
──ビシィィ!!
──ドガァァン!!
派手な魔法が飛び交いGが吹き飛びます!! けれど敵は、1匹見たら30匹は現れるもの‥‥次々に現れるGに雛菊さんが叫びました!
「逃げるなのねー!」
「「きゃー!!」」
数分後、埃まみれになって逃げ出した冒険者たちは夜空の下で、ちまを抱えて悔しそうに廃墟を見つめていました。
「恐ろしい魔物でした‥‥」
「いつか必ず倒しましょう、ちまたちの平和のために‥‥」
「‥‥単に近付かなければいいんじゃないの?」
オイフェミアさんの冷静な呟きはリベンジに燃える冒険者たちの耳には、どうやら届いていないようでした。
──そうしてちまたちは、恐怖の大王Gの退治を胸に誓ったのでした。