挑むべき危険〜護衛〜
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:やなぎきいち
対応レベル:1〜3lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 17 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月13日〜01月23日
リプレイ公開日:2005年01月19日
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●オープニング
「はーい、お届けものだよっ! ここにサインよろしく〜」
「お、ご苦労様〜」
商人ヴォルフ・ガードナーが受け取ったのはシフール飛脚の運んできた羊皮紙だ。宛名はガードナー商会代表ヴォルフ・ガードナー。
羊皮紙は途中で開かないように色気の無いリボンが掛けられ、その上から蝋で封がしてあった。封の刻印には見覚えがある──クレメンス・ランカッツァー、ガードナー商会の上客でもある、壮年の薬師が使用している印だ。
「クレメンス? なんだ、また急ぎの注文かぁ?」
薬師クレメンスはヴォルフに言わせると人が良すぎる。病人などを見ると放っておけない性格なので、足りない薬や薬草があればどこからでもシフール便で注文をかけてくる。
そして、こういった性格の者にはありがちな話だが、代金の取り立ても厳しくなく、ボランティアになってしまうことも多々あるようだ。商人としてはありがたい客であるが、友人としては心配の種が尽きないところだ。
呆れながらも乱暴に封を開いて羊皮紙を広げ、文面にざっと目を通す。その表情はだんだんと険しくなっていき──
「ったく、面倒な仕事を!! ぼったくるぞ、あいつ!」
聖夜祭終了早々、忙しいところすみません。
病が蔓延している村を発見してしまいました。治療のため滞在する予定なのですが、手持ちの薬草では追いつきそうにありません。
お忙しいとは存じますが、死亡者も出ていますので、大至急届けてください。
代金は、経費込みでお支払いします。場所は──‥‥
「出発の準備をしておいてくれ。船と馬車もだ。注文と場所はこの手紙に書いてある」
通りかかった部下に羊皮紙を押し付ける。はい、と素直に受け取った部下はさっと文面に目を通し、その顔色を蒼白に変える。
「ヴォルフさん‥‥ここに行く最短距離って、ひょっとして‥‥」
「オーガの巣を抜ける」
「やっぱり‥‥解りました、準備にかかります」
元々は往来の多い街道が走っていた場所だ。そこへ、旅人を狙うゴブリンやコボルト、バグベア、オークにオーガなど、『オーガ』と分類されるモンスターが棲みつき、『オーガの巣』というなんの捻りもないその名前の通り、今や彼らのテリトリーとなってしまった。
しかし、ほとんど使われなくなったとはいえ、『オーガの巣』の中心には今もまだ街道が走っている。
運が良ければ遭遇すらしないだろうが、運が悪ければ取り囲まれて全てを失う。
敢えて危険に挑む必要が、今回に限ってはあるのだった──相手の希望に沿うのも商売なのだから。
「ああ、頼む。俺は冒険者ギルドで護衛の手配をしてくる」
深く溜息を吐いて、ヴォルフ・ガードナーは友人のために店を出た。
●リプレイ本文
●挑むは比類なき悪路
「娘ちん、地面だよー♪」
「見れば分かる」
アーティレニア・ドーマン(ea8370)が王 娘(ea8989)の手を引き、我先にと船を降りた。大量の水に囲まれてどこか落ち着かなかった娘は、アーティレニアの陽気さとは正反対の冷たい言葉を返しながら、内心でほっと安堵の溜息をついた。
パリから二日、慣れぬ船に揺られた一行が降り立ったのは小さな港町である。小さいながらも活気のある街だ。
「ここからは馬車に乗るわけだな。いよいよ正念場というところか」
ギム・ガジェット(ea8602)が唸るように呟いた。表情は普段と変わらず、普段と同じ真面目な反応だが、どこか気合いが滲み出している。
「馬車はどちらに用意しておられますか?」
「あぁ、アレだ」
依頼人ヴォルフ・ガードナーの専属秘書といった雰囲気で付き従っているのはニノン・フリューヴ(eb0508)だ。ガードナーが示した方向には、ガードナー商会のエンブレムの付いた馬車が停車しており、ガードナーの部下が船から降ろした木箱を積み込んでいる。
(「やっぱり‥‥どうやっても『巣』の中で一度はキャンプをしないとダメだね」)
事前に聞いた『オーガの巣』の範囲と今回の道程を照らし合わせ、クライフ・デニーロ(ea2606)は眉をひそめる。
「どうした?」
「いえ‥‥『オーガの巣』の中での夜営は、やはり避けられなさそうなんです」
俯いたクライフと目が合ったオリバー・マクラーン(ea0130)の言葉に、溜息のように答える。決してオリバーの背が低いわけではなく、クライフが人間としては目立って長身なのだ。
「オーガの巣で夜営? 上等じゃない、その為の私達なんですもの♪」
会話を耳に挟んだシアン・ブランシュ(ea8388)があっけらかんと言い放った。深く考えないのは、冒険者としては短所であるかもしれないが、同時にとても大きな長所でもある。
「病人が待っているんだもの、のんびりもしていられないわよね」
マリー・ミション(ea9142)がどこかゆったりと言い、却って急かされた気になったのか、クライフがそそくさと荷台に乗り込んだ。
「そんなにご熱心にどこをごらんなさいますの?」
「や、何だか見られてる気がしてな‥‥」
「お気持ちはわかりますが、外が見えると外からも見えてしまいますから、危のうございます」
オーガの巣に差し掛かってから、ガードナーはそわそわと馬車から身を乗り出して落ち着きがなく、見ているニノンの方が落ち着かない。
一泊の夜営は無事に過ぎ去った。が、クライフの指示でオリバーが撒いた水からは、パッドルワードで多少の情報が引き出せていた。
『小さな鬼が通ったよ、通ったよ。いっぱい、歩いてたよ』
「言葉の通りに取るのでしたら、ゴブリンが近くをうろついていた、というところでしょうね」
「でも、結果的には問題なかったわけだし? あとは一思いに駆け抜けるだけよね」
焚き火を中心に30メートルの円を描くほど水がなく、オリバーは獣道に限定して水を撒いていた。結果的にオーガ族がそこを通り、また、クライフの精神力をさほど無駄にせずに済んだのは幸運だっただろう。
幸運も全て自分たちの実力のうちだとばかりに、シアンはにっこり微笑んで、ギムの手によって補強のなされた馬車は軽快に走り始めたのだ。
「大丈夫、仕事はちゃんとするからねー☆」
不安を隠さないガードナーに馬上のアーティレニアがひらひらと手を振る。シアンがひらひらと手を振り返し、呆れた娘がガードナーごとシアンを馬車に引っ張り込んだ。
(「不安になるのも、わからなくもないが」)
踊り手アーティレニアと馬車を挟んで逆サイドを並走しながら、オリバーは鋭く視線を巡らせる。どこからと特定できるほど強くもないが、オーガの巣に侵入して以来、ひしひしと殺気──いや、悪意のようなものを感じるのだ。まとわり付く、と言っても過言ではない気がする。
最初にソレに気付いたのは、気を取り直して真面目に様子を伺っていたシアンだった。
「出たわ、オークよ!! ‥‥4匹!!」
叫びながら弓を構え、矢を番える!! ギムと娘が弾かれたように馬車の前へ、オークの中へと飛び出した!! オークとしても予想外の襲来だったのだろう、慌てふためき反応が鈍い!
オリバーがオーラエリベイションを詠唱して右へ、七色のリボンをたなびかせたアーティレニアが左に、オークを撹乱するように走る!!
「受けた以上は、確実にいかせてもらう」
「こんなところじゃ死にたくないしねー♪」
抜刀したオリバーの前に立ち塞がるオーク! そこへシアンの矢が飛来する!
「毎度の事ながら、矢の損失って痛いのよね」
「──アイスチャクラ!! シアンさん、使ってください!!」
「あは、ありがとっ!」
揺れる馬車でもしっかりと狙いを定めるシアンへ、クライフがアイスチャクラを託した。ウィザードの作り出した武器を借り、シアンが狙いを定める。一方、ホーリーを詠唱しサポートしようとしたマリーは、その魔法をうまく唱えられないようだ。
「うわっ、こんなに揺れるなんて思わなかった」
「大人しく眠るんだな!」
「鳥爪撃(ニャオ・ジャオ・ジィ)!!」
ギムが続けざまに放つ容赦のない攻撃は、いともあっさりオークの息の根を止め、娘の奥義を喰らったオークは戦意を喪失し逃げ出した!!
「ガードナー様、危のうございます!!」
馬車に乗り込もうとしたオークの鼻面をクルスソードで容赦なく斬りつけるニノン、オークは堪らず馬車から転げ落ちる!!
「あ、ありがとうニノン、助かった」
「このまま抜けて宜しゅうございますね!?」
御者を促し、戦士たちが空けた道を馬車が駆け抜ける!!
「ギムさん、娘さん、乗ってください!!」
クライフが手を差し伸べ、ニノンにマリー、シアンも手伝い、二人を馬車に引き上げた。
──そして馬車は、目的地へと到着した。
●訪れた村で
「‥‥無茶を言ってすみません、ヴォルフ。皆さんもありがとうございます」
壮年の薬師クレメンス・ランカッツァーは、届いた薬草にほっと息を吐いた。さっそく検品を始める薬師に、マリーはそっと申し出た。
「あの、お手伝いできることはありませんか? ここに着くまで、少し病気についても勉強してきたつもりですし、できる限りのことは──」
薬師はその申し出に、すまなさそうな、嬉しそうな、複雑な表情を浮かべた。
「実は、お願いしようと思っていたことがありまして‥‥ちょっとオーガの巣を突っ切ってもらえますか」
「「「はい?」」」
問い返したのはマリーだけではない。冒険者の16の瞳と商人の瞳が薬師を捕える。クレメンスは呟くように洩らした。
「‥‥別の病も併発してしまった子供がいるのです。医師に診ていただかないと‥‥状態も、かなり悪いのです」
幸い、村にはヴォルフがパリから送ったシフール飛脚がまだ滞在している。この飛脚を港町へ先行させ、医師に準備をしてもらい、馬車で病人を搬送すれば間に合うでしょう──クレメンスは事もなげに言い放った。
言葉を失う冒険者達だったが、マリーがほわっと頷いた。
「せっかく薬を届けたんだから皆さんに元気になって欲しいんです。出来る限りのことはさせていただきます」
こうして、一晩体を休めると、一行は港町へ向けてとんぼ返りすることになったのだ──
「悪ぃな、片道のつもりが面倒なことになっちまって」
御者と一緒に馬車の準備をしながら、ガードナーは頭を掻いて謝罪した。
「まぁ、代金はぼったくってやったから! 食費と多少の消耗品、それから報酬の上乗せくらいはできるから、それで勘弁してくれな」
「もともと復路まで含めての護衛だ、気にするな」
オリバーが武具の手入れをしながらそう言った。
「受けた以上は、最後まで付き合うものだしな。何、一日くらい休まず突っ切ったところで──」
「ギム、それはできない」
ウォーアックスを軽々と担ぎ上げたギムに、娘が釘をさした。理由を問う戦士二人に、聞いたことを伝える。
「朝晩、薬草を煎じて必ず飲ませろと、クレメンスが。今、マリーが細かい指示を聞いているが」
「──‥‥ワシは馬車の補強でもするとしよう‥‥」
──そして、まだ日も昇りきらないうちに、馬車は村を出発した。
●2度目の悪路
「はい、薬よ。飲めるわよね?」
「‥‥うん‥‥ケホ、ケホッ」
「大丈夫、ゆっくりで良いのよ」
焚き火を使ってクレメンスの指示通りに煎じた薬湯を、マリーが子供に飲ませていた。程なくして、馬車から子供の寝息が立ち始める。そして、依頼初日に決めたシフトに沿って、一人、また一人と浅い眠りに身を浸してゆく。
その様子を眺めていたオリバーが、ふと小さく漏らした。
「毛布を、余分に持ってきておいて正解だ‥‥何に使うか、わからないものだな」
「子供を預かるなんて、ワシも想像していなかったな」
ギムが皆を起こさないよう、小さく苦笑した。パチ、パチ‥‥と火の爆ぜる音が、冬の澄んだ空気に響く。
他愛もない会話もやがて口を突かなくなり、3人は息を潜めて夜が更けるのを肌で感じていた。
「──‥‥」
ふと、娘が暗闇に視線を向けた。警戒するように、視線だけを。
そして何かを呟いたと思った次の瞬間、淡いピンクの光に包まれた少女が繰り出した細足は、茂みから出てきたものを的確に捉えていた!!
『GRRRR!!』
オリバーとギムが声を張り上げ、仲間を蹴り起こす!!
「敵だ、起きろ!!」
「コボルトだ!!」
そう、茂みから現れたのは犬のような顔をしたオーガ種、コボルトだ。その数は8匹!! 二人が叫ぶ間にも、コボルトは娘に、オリバーに、ギムに、襲い掛かっている!!
──ガキィィン!!
「コボルトとはいえ、油断をする趣味は無いのでな」
怪しい滑りを帯びたコボルトの剣を盾で受けるオリバー。そしてしっかりと、自分の剣を振るう!!
「ちぃっ!!」
舌打ちしたのはオリバーだ! コナン流を操るギムとコボルトは相性が悪い──毒を使うコボルトの剣は、決して無視できる攻撃ではないからだ。
武器を持つ腕を使いものにならなくさせたギムだったが、コボルトの剣をその肉体で受けてしまったようだ──じわり、と額に脂汗が浮かぶ─‥‥
「ギム!!」
「なんの──異国では50体を屠った冒険者がいるとか‥‥この程度で、ワシも負けてられん!」
傷を受け毒を受けて奮い立ったギムが、ウォーアックスを景気良く振るう!! あっさりと額を割られるコボルト!! ついで、オリバーの剣がコボルトの喉元を切り裂いた!!
しかし、倒れたコボルトの後ろから、一風変わった雰囲気を纏うコボルトが2匹、現れた──
「コボルト戦士です!! 戦士としての才覚を持つといいます、ギムさん、オリバーさん、気をつけて!!」
クライフの声を受けて、にやりとギムが嗤った。
「相手に不足はない!」
一方、馬車に向かおうとするコボルトはガードナーの盾を勤めるニノンが必死に防いでいた。いや、ニノンが優勢だ!
「ガードナー様、ギム様がコボルト戦士の相手をなさると仰いますが‥‥!」
「ギムだけじゃないわよ! あたしだって、ちゃんと戦ってるんだからねっ」
アーティレニアはオフシフトを多用し、舞うようにコボルトの剣を避ける! 避けながらも、決して攻撃を忘れているわけではない。
「傷でも残ったら大変なんだから!」
「──ホーリー!! 大丈夫よ、揺れなければサポートもできるもの」
踊り手の相手を攻撃し、援護するのはクレリックのマリーだ。どこかベクトルの違う答えが返ってきて、アーティレニアは戦闘中だが僅かな笑みを浮かべた。
「──アイスチャクラ!」
「矢の本数を気にしないでいいのって、嬉しいわね」
クライフがアイスチャクラで、シアンが弓で、援護射撃を行う。攻撃だけに集中できなくなったコボルトたちはやがて全てが地面に倒れ込んだ。
「ギム、解毒剤よ」
コボルトの懐を漁り、解毒剤を発見したシアンがにっこりと微笑んだ。
──数日後。
港町の療養所でこの夜のことを興奮して語る子供の姿があったとか──