花霞、朧月
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■ショートシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:5〜9lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 85 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月31日〜11月09日
リプレイ公開日:2005年11月11日
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●オープニング
その情報は気紛れに齎(もたら)された。
けれど、その男を突き動かすには充分すぎる情報だった。
「すみませんが、至急人を集めてください! ──いや、少数で構いません」
ギルドのカウンター越しに身を乗り出してギルド員へ詰め寄った男は、発した言葉をすぐに改めた。
押さえきれず隠し切れない動揺の色に、詰め寄られたエルフのギルド員リュナーティア・アイヴァンは思わずまじまじと男の顔を見つめた。
エルフ特有の整った顔立ちで正面から見つめられ、男は我に返ってその表情を赤らめたのは──赤面性と友人にからかわれるレイ・ミュラー(ez1024)だ。
青年が落ち着いたのを確認して微笑むと、話を促した。
「少人数で良いのですね。どのような依頼になりますか?」
「‥‥‥要人の護衛、です」
穏やかなリュナーティアの言葉に少々思案の沈黙を敷き、紡がれた言葉。それはリュナーティアを思案に突き落とす。
「‥‥要人の護衛をレイさんが個人的にご依頼ですか?」
問い返すのも当然だろう。要人の護衛であれば、然るべき立場の者が然るべき情報を持ち依頼に来るのが常。
騎士とはいえ、現在は冒険者に身をやつしているレイならば、個人で護衛を依頼するのではなく、要人本人なり要人に関わる人物なりの耳に入れるのが筋であろう。
そのうえ、この依頼が要人にとって益となるのかならぬのか。それ1つ取っても、ギルドにとっては重大な問題でもある。
そして、本来取るべき手段を取らない理由。相応の理由でなければ、いかにレイが信頼されていようとも社会通念上犯罪とされる行為に手を染めないとも限らず、おいそれと受諾できる問題ではない、可能性もある。
「要人であるならば、身を護るための相応の手段をお持ちかと思いますが」
「その手段が策略や謀略に劣るという可能性はなくならないものですから」
無視できないけれど信用も出来ない情報なのだと読み取り、リュナーティアは溜息混じりに頷いた。
「非合法な手段は困ります、それだけはお忘れにならないでくださいね」
「ありがとう、リュナさん」
「フィリーネ様ですか?」
レイが慌てるなど、騎士の恋愛中のシュティール領領主ヴィルヘルム・シュティールの奥方、フィリーネ・シュティールの事以外にありえなかろう。
図星をさされ再び赤面するも、難しい内容に頭に上った血もすべて落ちてしまったようだ。
軽く頬を叩いて自分を落ち着かせると、レイは改めてリュナーティアと向き合った。
「フィリーネ様のお命が狙われている、という情報が‥‥噂程度なのですけれど、届いたんです。ただの噂なら構わないのですが‥‥内容が内容ですから」
それを口にしたのが噂好きのシフール1人なら気にもしなかっただろう。
けれど、己の立場‥‥ひいては同胞の立場を危うくすることを極端に嫌う女性から聞かされた、その事実は意外に重くレイを締め付けているようだった。
「命を護ると申しますと、長期の護衛になりそうな気がするのですが──」
期限を設けない依頼は受けられないと暗に示すリュナーティアに、レイが頷く。
「数日後、フィリーネ様が城下町へ視察に向かわれます。狙われるならその期でしょう。ですから、せめてその日まで」
「承りました、それでは依頼書を作成させていただきますね」
報われない想いに振り回されるレイ。
僅かな哀れみを抱き、リュナーティアはペンを走らせた──
●リプレイ本文
●噂
「フィリーネ様が狙われてるって? レイさん、それって本当!? あんな優しくて立派な人、狙うなんて許せないっ」
扉を開けるなりシャフルナーズ・ザグルール(ea7864)はレイ・ミュラー(ez1024)に詰め寄った。ドッペルゲンガーの悪夢から解放されてまだ日も浅いフィリーネ・シュティール、彼女の心を安らがせないつもりなのだろうか。
「裏付けはありませんから本当だとは言い切れません。けれど、噂で聞き流すには少々不穏すぎますから‥‥徒労に終わってしまったら申し訳ないのですが」
「徒労で済めば、それに越したことはありません。ところでレイさん、その『噂』について詳しく聞かせてもらえますか」
気遣いは無用だと話を切り、城戸烽火(ea5601)は依頼の元となった噂についてレイに尋ねた。
その話から全てが始まっている。真偽も含め、検証は必要な行為だった。
「それは私も聞いておきたいですね。そのような噂は耳にしたことがありませんので」
香椎梓(eb3243)も小さく頷く。聞いたことがないのは梓だけではない、顔を突き合わせて話してみればここに集ったレイ以外の誰もがそんな噂を聞いたことがない。
「最初は、黒い髪のシフールがそんな話をしていたのです。これでフィリーネが死んだらヴィルヘルムは──そんな話でした」
自分たちが企んでいるかのような物言いに眉を顰め直接問い正すと、シフールはフィリーネ暗殺計画に荷担しないかという話を持ちかけている会話を漏れ聞いたのだと言った。
「その後‥‥シュティール領主夫妻に恩義のある人物からも『フィリーネ様が狙われているらしい』という話を聞き、万一のためにシュティール領へ赴こうと思ったのです」
「信用できるのか?」
沈黙を守っていた男、イェレミーアス・アーヴァイン(ea2850)が口を開いた。重い口調は情報源に対して疑いを抱いているためか。
「無条件で信用できる相手ではないのですけれど、領主夫妻に関して不利になるようなことだけはしない相手です」
そこで口を閉ざしたレイだが、仲間達の視線に晒されて零れた溜息と共に呟くように告げた。
「ハーフエルフのみで構成されている組織『水蠍』──アルヴィーゼさんは名前を耳にしたことがあるかもしれませんね。その組織の幹部と目される女性です」
「聞いたことはあるね〜。でも、犯罪組織なんて信用しちゃっていいのかい? 恩義があるっていっても、そんなことに囚われるような連中だと思う?」
「夫妻に何かあった時に困るのは彼らですから」
すっぱりと言い切ったレイに混ぜっ返そうとしたアルヴィーゼ・ヴァザーリ(eb3360)はつまらなそうに目を細めた。
水蠍と名乗る集団が単なる犯罪組織ではないことはハーフエルフの中にまことしやかに流布する話。それをレイが知っているとは思わず、玩具を取り上げられたような感覚に陥ったのだろう。
どんな関係があるのか知らないが、ただ恩義といわれるより信用できると判断したのだろう、イェレミーアスは纏う空気を和らげた。
「確かに暗殺としては視察のタイミングが狙いやすいかもしれませんが、その時と限ったものではないでしょうから先行できる者は先に向かいましょう。領主夫人の護衛‥‥重要なお役目ですね、気を引き締めて臨みましょう」
一刻も早く到着するべきだというブルー・アンバー(ea2938)の発案に誰も反対するはずもなく。徒歩のイェレミーアスはドンキーしか連れていなかったシャフルナーズと共に後発組となった。シャフルナーズがいれば城内に入ることは可能だろうから、と。
●視察
シュティール城は大きくもなく、特段美しくもない。強いて特色として挙げるのであれば、使用人や侍女たちが活き活きと働いていることか。
病弱な領主は相変わらず具合が悪いと言って伏せっている。
「城の中は安全と思いますが‥‥」
仲間達の言うとおり、警備をするのならそれに越したことはない。その甲斐あってか、視察前にフィリーネが狙われることはなかった。
「視察って、どこへ行くんですか?」
「城下町の市場を見たいのです。ガーランド領へ続く街道が使えるようになって、以前より活気付いてきたようなので」
何軒かの商家を訪ね、市場を見て歩く‥‥それが今回の予定。フィリーネだけではなく商家の都合もあり、日程を変更することは叶わない。
「やはり、危険なのはここですね。必ず、お守りします」
ブルーさん、それはレイさんの台詞! シャフルナーズの心の声はブルーには届かず、レイは苦笑して頷いた。
●罠と罠
「っく、ひっく‥‥うう‥‥」
何事もなく視察を終え──日差しが傾く頃合、今だ賑やかな市場にできた人だかりの1つから、小さな泣き声がこえた。
子供の泣き声を看過できるフィリーネではなく‥‥2、3冒険者と言葉を交わすと、人だかりを為していた1人の男に気軽に尋ねた。
「どうかなさいましたか?」
途端、フィリーネの前に道が開いた。男が、周囲の領民が、口々に伝える──迷子だ、と。
「泣かないでくださいな、お父さんかお母さんは一緒ではないのですか?」
ぷるぷる、と首を振る少女。
「ほら、泣かない泣かない、ね?」
あやすようにそっと抱き上げたフィリーネ‥‥その瞳が驚愕に見開かれる!! そっと触れた自分の首筋──そこに突き立つ、雛菊柄の玉簪。目を転じれば、欧州らしい面立ちだった少女はジャパン人の面立ちに変わり微笑んでいた‥‥人遁の術だ!!
「お命、頂戴なの〜‥‥あれ?」
フィリーネだったはずの人物は、気付けば女性の忍者──城戸になっていた。
そう、人遁の術を使えるのは城戸だけでも、敵の忍者だけでもない。人だかりを警戒して身代わりとして進んだ城戸の警戒は効を奏したが、泣く子供が暗殺を請け負った忍者だとまでは警戒していなかった。襲撃か遠方からの狙撃による暗殺と想定していた冒険者たちのミスだ。
「どぉして雛の邪魔するなのー!? メッってするなのよ!?」
少女が城戸の首筋からさっと簪を抜く!! 簪と小さな傷口を繋ぐ血が宙に赤い筋を残す。噴出す血液が周囲に緊張と混乱を招く中、激昂した少女が振るう簪の赤い煌きは眼窩を狙い──‥‥
●追撃
再び振るわれる一撃を邪魔するが如く、突如轟く悲鳴!!
「うわああ、化け物だ!! 逃げろ!!」
「逃げろー!!」
「きゃああああ!!」
城戸の応援に向かおうとしたシャフルナーズとアルヴィーゼだが、咄嗟にフィリーネの左右で臨戦体制に入る!!
そして城戸の眼前に飛び出した男が忍者を抱え、一目散に駆け出した!!
「‥‥させな、い‥」
懸命に投じた手裏剣は、けれど痛みで照準を狂わせ男たちにかすらない。
男と少女を守るように、更に2人の増援が群集の中から飛び出してくる!!
「くそ、第2陣か!?」
想定していた第2陣の襲撃かそれともフェイクかと警戒しつつ剣を抜き放つイェレミーアス!
「行ってください、あの子は僕たちが追います!!」
周囲に散る護衛の騎士たちに叫ぶと、ブルーはイェレミーアスを誘い逃げる敵を追って駆け出した!!
「人の命は弄んで良いものではないぞ!」
「そんなこと‥‥ッ!!」
言いかけて口篭もる襲撃者! その言葉を裏付けるように、振るわれる刀は反されている。しかし、襲撃者に情けは無用!!
──ギィン!!
ジャパンと西洋の剣が火花を散らす。
──ギィン!!
殺気を感じぬ刃に戸惑いながらも、襲撃者を追い詰める梓。
一方、ブルーも小柄な人影に剣を振るう! けれど襲撃者の軽い身のこなしはブルーの攻撃をすれすれでかわした。
「‥‥何故フィリーネ様を狙うんですか!」
「さあな」
返ってきた声は子供のものと言っても過言ではないほど高く、そして幼さを感じさせる女性のもので──ブルーの切っ先が困惑に揺らぐ。
しかし、先頭を行く男は子供とはいえ1人の人間を抱えている──その間は徐々に縮まって行き‥‥
──ドォォン!
●治療
「城戸さん!」
フィリーネが静止を振り切って駆け寄った。シャフルナーズとアルヴィーゼが慌ててフィリーネを影にするように立つ。
溢れる血を手で押さえ、出血に遠退く意識を意志の力で引きとめながら懐を弄(まさぐ)る城戸。
フィリーネは城戸の手を押さえ、自らの携帯品を取り出した──リカバーポーションだ。
「飲めますか?」
シャフルナーズが城戸を支え、フィリーネが口元で容器を傾け流し込むと──こくり、こくりと嚥下した。
込められた魔法で傷口が塞がると即座に立ち上がる城戸、けれど傷は塞がっても流れた血が戻るわけではなく、ふらりとバランスを崩し──再びシャフルナーズに支えられる。
「無理しちゃだめだよ」
「でも、捕まえないと‥‥目的が‥‥また、狙われるかもしれません‥‥」
休息を欲する身体に鞭打ち、仲間の静止も振り切ってなおもフィリーネのために進もうとする城戸を抱きしめ唇を真一文字に結ぶ陽光の踊り手。
騒ぎの中を一陣の風が吹き抜けると、思い立ち顔を上げた。
「アルヴィーゼさん、この辺の地図、頭に入ってる?」
「多分、キミよりはね」
「先回りして!」
「あのねぇ‥‥どれだけ路地があると思ってるのか、聞かせてもらえる?」
「諦めなければ可能性はなくならないわよ!」
確かに、諦めれば可能性はそこで潰える。しかし‥‥
「フィリーネさんはどうするつもり? 1人で守れるかい?」
「大丈夫ですわ、アルヴィーゼさん。守ってくれる友人もおりますから」
人ごみに紛れ自分を守ってくれている友人たちとそっと視線を交わして微笑む。フィリーネは知っているのだ、目的は違えども、この暗殺を止めようとしている者が他にもいることを。
その中に自分や領地を守ってくれた友たる冒険者が何名も含まれていることを。
「──大丈夫ですわ」
力強い信念を持った微笑みに気おされるように頷いて、アルヴィーゼは駆け出した!
●伏兵
──ドォォン!
「うわっ!!」
「くっ!」
少女を追うブルーの足元でファイヤートラップが作動、イェレミーアスをも巻き込んで瞬時に炎が吹き上げる!!
「きゃはは、ダッサーい★ ダサいのって見るのも嫌だよねぇ〜‥‥ってことで吹っ飛んじゃえ──マグナブロー!!」
突如現れた黒髪のシフールが詠唱し、地面から炎が吹き上げた!!
「ちっ、やりすぎだ茉莉!!」
襲撃者の小柄な少女が舌打ちをするが、そんなことでシフールは止まらない!
「茉莉より黒くなっちゃえ〜♪ もいっちょ行くよォ、──マグナブロー! ドッカーン☆」
「目的がフィリーネ様なら、一般人を巻き込まないで下さい!」
合流した梓が剣を振るう! 辛うじて触れた切っ先が、人間相手にはありえない打撃を与えた!
「いったーい!!」
「あなたは‥‥まさか、デビルですか!?」
「当ったり前じゃん、こんな可愛いシフールがいると思ってるワケ? っていうか、何なのアンタ。ムカつく〜っ!!」
くるんと宙で一回転☆ すると、お尻から鏃のような黒い尻尾がぴろん♪ と顔を覗かせた。
「デビルに嫌われても、痛くも痒くもありませんよ」
「あんたも死んじゃえ! ──マグナブロー!!」
怒りに満ちた炎が梓を舐める。肌が焼ける痛みを堪え、更に剣を振るう梓! 死に物狂いで避けるデビルへ、飛来した銀の儀礼用短剣が突き刺さる!! ──とさっ、と‥‥投じた城戸が地面に倒れた。
「アタシが相手したげてるからって、調子に乗らないでよねッ!」
深々と突き立った短剣を抜きゴミのように放り投げると、そのまま手の届かない高度まで飛び上がる。
「──デビルが、何のようでフィリーネ様を狙うんですか」
「ん〜、愉しいから?」
明らかに嘘だとその表情が物語っている。会話のついでにマグナブローを仕掛けることも忘れない。宙を泳がれればいかな聖剣「アルマス」といえどもデビルを捕らえることはできず、歯軋りするばかりだ。
「今度会ったらきっちりし返してやるんダカラ〜! ベーだ!!」
ぺろんと舌を出し、そのまま宙を切って飛び去るデビルを、冒険者たちは見送るしかなかった。
「くそお! 追いましょう、イェレミーアスさん!」
「追いつかない、諦めろ! 怪我人の手当てが先だ!!」
冷静に周りを見渡すと巻き添えを喰らった一般人の呻き声が、泣き声が、辺りに満ちていて‥‥何より追撃を断念したイェレミーアスの白くなるまで握り締められた拳が無念さを示していて、ブルーは頷くことしかできなかった。
●休息
「路地を押さえるにはやっぱり人海戦術だと思うな」
夫人の私室で振舞われたハーブティーを嗜みながら、アルヴィーゼはそんな感想を零した。
負け惜しみではなく、本当にそう思った。彼は郊外に抜ける路地が広範囲にカバーできるポイントを押さえていた。けれど、それを感付かれ‥‥
「シド、そっちは回り込まれた、こっちだ!!」
そんな男の声が聞こえた方向へ駆け出したが、網の目のように走っている路地はともすれば自分の居場所がわからなくなる程で、襲撃者たちを捕らえるには至らなかった。決してアルヴィーゼの落ち度などではない。
「とりあえず、初撃は凌いだ。これからますます攻撃の手が厳しくなるだろうが‥‥」
しかし事実とわかった以上、これからはシュティール領の騎士が警護を固くするだろう。イェレミーアスは、自分の仕事が終わりに近付いていることを感じた。
「城の騎士たちも警備体制を組みなおしているそうですよ。明日には新しい布陣で警備ができそうです」
安堵させるようにブルーが微笑んだ。当面は夫人の外出予定もなく、レイも満足そうだ。
そんなレイにこっそりと耳打ちするシャフルナーズ。
「もう私に取ってもフィリーネ様は大切なお方。だから守るのに報酬は要らないよ♪」
「いえ、でも私の気持ちが」
「いいっていいって♪」
「そういう訳には‥」
回を追うごとに徐々に大きくなる会話に、フィリーネがクスクス笑い出した。
「依頼として出していたのですね。それなら、今回は私からのお礼ということにさせてくださいな」
「そんな、申し訳ないですから!!」
がくがくと首を振ったシャフルナーズを梓がやんわりと止めた。
「高貴の人には立場というものもありますから、甘んじて受けた方が良いと思いますよ」
恐れ多くもフィリーネのベッドに就かされた城戸はそんな会話を聞きながら、柔らかいベッドで居心地悪そうに寝返りを打った。
──誰が、一体、何のために‥‥
まだ『悪巧み』は終わっていない、そんな気がした。
●‥‥‥
明かりのない部屋に1人の男とシフールがいた。
「失敗したみたいだな?」
「ご、ごめんなさい」
「‥‥まぁ、失敗してもいいように計画を立てていたから大丈夫だろう」
「しかし、そろそろ成功の報告が聞きたいところだな」
ビクッと震える茉莉を冷たい手が優しく撫でる。
差し込んだ月明かりに照らされ、城の主──ヴィルヘルム・シュティールが微笑んだ。