無垢なる姫君

■ショートシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:4〜8lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 88 C

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:11月21日〜11月28日

リプレイ公開日:2005年11月29日

●オープニング

●漆黒の小鳩亭
 暗い室内に沈み込むように、一人の女性が佇んでいた。月明かりに霞む星のように静かに静かに、そこに居た。
「ヴェロニカ様‥‥動向が掴めました」
 消息──それはハーフエルフ組織『水蠍』が宿敵としている、ナスカ・グランテの消息に他ならない。思考するアンデッドとしか思えぬ存在と化そうとも、悪夢を見せたハーフエルフとしての過去は消えない。
 水蠍の首魁が第一に挙げた抹殺対象、ナスカ。水蠍の根幹に連なるものとして少女の捕捉に全力を挙げていたレジーナ・ヴェロニカは、その報せに妖艶な笑みを浮かべた。
 けれど、その笑みも腹心からの報告に、霧が夜空を覆い尽くすが如く翳った。
「その村には、まだ幼いハーフエルフがいたはずね? 確か──エルザと言ったかしら」
 村の近辺に姿を隠しているというナスカ。分散している『行商人』のいずれかが、ナスカを連れているはずなのだ──連れられていると言うべきか。
「‥‥前回はハズレだったけれど、今回はどうかしらね?」
 先だって引いた籤はアルジャーンという、水蠍にしてみればスカだった。そろそろ、当たりを引きたいところだ。
 けれど、この籤を前に‥‥水蠍には大きな問題があった。水蠍支援者の裏切り──そして支援者夫人からの接触。夫人の依頼に人手を割かれ、ナスカ迎撃に回す人手がない。報告に訪れた部下には次の仕事がある。支援者の裏切りがなくとも、きな臭い噂がパリに──いやノルマンに滲み出している現状は、ハーフエルフが功を上げ地位を上げる好機だ。手はいくらあっても足りないのだ。
 レジーナ自身も多忙であり、がパリから離れるためには不在を埋めるための準備をする必要がある。
「また、冒険者の手を借りましょうか‥‥」
 ハーフエルフではないものの手を借りることに慣れつつある自分を省み、レジーナは憂いを滲ませた。しかし、背に腹は代えられない。
 ハーフエルフのいる土地で様子を伺う『今のナスカ』が、何も行動を起こさない‥‥そんなことがあろうはずもない。
「とりあえず、シュティール領から早急に何人か呼び戻して向かわせるけれど‥‥それまでの空白の数日間、ナスカが何も行動を起こせないように冒険者を向かわせましょう」
 村に冒険者がいる、それだけで動きはかなり抑制されるはずだ。冒険者が口実もなく村に滞在できるのは数日間だろうが、その数日間があれば水蠍も村に入り込むことができる。難しくはないだろうが、非常に重要な仕事である。
 紅を引いたような紅の唇を細く長い指で撫でながら、レジーナ・ヴェロニカは目を鋭く光らせた。
「それから、両親や村人に悟られることのないように細心の注意を払いながら、エルザの護衛を。ナスカ・グランテの思い通りにさせたら、奥方様も嘆かれるに違いないものね」
 調べれば調べるほど埃の出るナスカ・グランテ。その姿が、手の届くところに揺らめいていた。

●今回の参加者

 ea1168 ライカ・カザミ(34歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea3853 ドナトゥース・フォーリア(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 ea8866 ルティエ・ヴァルデス(28歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea9096 スィニエーク・ラウニアー(28歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9519 ロート・クロニクル(29歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea9655 レオニス・ティール(33歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb0660 鷹杜 紗綾(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2042 ユーニー・ヴェルチ(30歳・♀・ファイター・人間・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

レイジュ・カザミ(ea0448)/ ランディ・マクファーレン(ea1702)/ レイジ・クロゾルム(ea2924)/ ジョシュア・フォクトゥー(ea8076)/ 神楽 香(ea8104)/ 二階堂 夏子(eb1022

●リプレイ本文

●11月の風
 涼風というには少々冷たい風が吹き、ユーニー・ヴェルチ(eb2042)は護身羽織の襟に手を掛ける。11月も終わりのパリは初冬と呼ぶべき寒風で冒険者を苛む。
「ったく、防寒服用意してくれば良かったぜ」
 昼間でこれでは、夜の寒さは骨身に染み入ることだろう。
「あれ? っかしーなぁ‥‥‥」
 ロート・クロニクル(ea9519)はバックパックに腕を突っ込み引っ掻き回している。
「どうしたの?」
 旦那の様子にライカ・カザミ(ea1168)が首を傾げる。バックパックの中が引っ掻き回される心配はしていない、もともと大惨事になっていることを知っているから。
「や、保存食がな〜‥‥用意したはずなんだが」
 バックパックに首を突っ込む勢いのロートに、ドナトゥース・フォーリア(ea3853)がぽりぽりと頬を掻いた。ドナトゥースは全く持っていない訳ではなかったが、手持ちの保存食が思っていたより少なかったのだ。
「あの‥‥少し余分に持ってきましたから、良かったらどうぞ‥‥?」
 おずおずと保存食を差し出したスィニエーク・ラウニアー(ea9096)の腕を止めたライカ、負けじと自分のバックパックから保存食を取り出した。
「あたしも余計に持ってきておりますけれど、夫といえども、仲間といえども仕事は仕事ですわ。もうこんな失敗がないよう、エチゴヤ価格でお譲りさせていただこうと思いますの」

 ──にっこり。

「美人でしっかり者で、いい奥さんだね」
 ぐっと言葉に詰まったロート。肩を震わせ笑いをかみ殺しながら肩を叩くルティエ・ヴァルデス(ea8866)に噛み付かんばかりの視線を送り、財布の紐を解いた。
「ふふ、ロートってばラブラブだね‥‥くしゅ!」
 玩具を見つけた猫のように笑った鷹杜紗綾(eb0660)が次の瞬間に小さなくしゃみを零すと、レオニス・ティール(ea9655)は愛馬から荷物を取り出した。
「これを使うといいよ」
 そういって柔らかなファー・マフラーを紗綾の襟に巻く。ふわふわもこもこの感触にほにゃっと頬が緩んだ紗綾を見て、お姉ちゃんに何かあったら許さないから! と牽制をかけてきた義弟のレイジュを思い出し、ロートは再びバックパックに手を突っ込んだ。手に触れたのは刺繍入りのローブ。
「ほら、ライカ」
 ぐいっと腕を引き、共に一枚のローブを羽織る。
「何も羽織らないよりイイからな」
 その行動にもローブにも愛情が感じられ、見ていた紗綾やスィニーは羨望の滲む視線を逸らす。ユーニーは表情に呆れを滲ませわざとらしく手で顔を扇いだ。
「仲良きことは美しき哉、羨ましいねぇ」
 未だ達されぬ野望を胸に、ドナトゥースは微笑ましい二人を見守った。


●ナスカの狙う村
 まず村に訪れたのはドナトゥースだ。紹介状を手に、村長の家を訪れる。
「ノルマンの農業を発展させるべく村々を回っております。数日なのですが滞在させていただきたく伺いました」
 ありがとう、これなら着けられるわ──そう言って新緑の髪飾りを受け取ったヴェロニカの嬉しさの滲んだ黒曜の瞳を思い出しながら、彼女に頼んでいた偽造紹介状を取り出した。
 いかにも体力のありそうな美しき農夫に手渡された羊皮紙を広げ視線を落とし‥‥目を見開いて羊皮紙とドナトゥースを見比べる。
「‥‥よろしくお願いいたします」
 深々と頭を下げた村長に違和感を覚えたドナトゥースはこそりと羊皮紙を覗き込んだ。
 後で了解を取るから偽造じゃないわよ──悪戯を思いついた子供のように笑ったヴェロニカが記した名前は、フィリーネ・シュティール。シュティール領領主夫人の名だった。
 畑は休む事を知らない。今もレタスに葉キャベツ、ニンジンなどが顔を並べている。
 自由になる時間は少ないかもしれないが、少なくとも村を自由に歩き回ることはできそうだ。
 ──とりあえず、一周して様子を見てくるかな。
 そう歩き始めたころ、別の場所ではボロボロになった服を纏い、引き裂いた布で腕の傷を止血したユーニーが村に足を踏み入れた。突如現れた怪我人に、通りかかった村人が目を見開いた。
「うわあっ!! ど、どどどうしたんですか!」
「いや、ちっとばかしヘマやらかしてな。退治に行ったモンスターに逃げられちまってさ。この村の近くに来てる筈なんだ」
 布で止血をした‥‥風を装った腕を軽く上げ、小さく舌を打つ。何事かと集まってきた村人たちも不安気な表情を浮かべ始めると、ユーニーは安心させるように明るく笑みを見せた。
「まあ、そんなに凶暴でもないし向こうにも手傷は負わせたから村には手は出せないだろけどね。ちょいと治療も兼ねて滞在させてもらうぜ」
 そう語ると少し思案し、仲間が森を捜索してるからじきに退治したって報告が入るかもな、と村に入らない紗綾とレオニスのフォローをした。
 これで村を出ようという村人が減ればナスカ・グランテもより村に入りにくくなるだろう。
 村を見回る代わりに屋根のある寝床を用意してもらう約束を取り付ける辺り、ある種の要領の良さを感じるところである。


●姫君の住む家
 目を輝かせレートンを質問攻めにするロート。依頼の下準備として目を通した報告書──洗礼の洞窟の存在が彼の学者魂を擽ってしまったのだろう。
「実はあたし、結婚したばかりなんですの。もしご迷惑でなければここへいる間この子の面倒を見させて頂けないかしら? 将来にママになる為、今からお勉強をしておきたいの」
 ルティエの腕に抱かれ上機嫌なエルザを眩しそうに見つめながら、ライカはエルフの奥方ルーティエルへ尋ねた。ここにいる口実にはもってこいなのだが‥‥実際はロートの研究にさほど興味のないライカ、こちらも仕事と実益を兼ねようという心積もりのようだ。
「似たもの夫婦だね」
 ルティエの口をついてそんな言葉が漏れた。
 快く了承され、ライカはルティエの腕からエルザを抱き上げる──途端、火が点いたように泣き始めるエルザ!
「エルザちゃん、どうしたのかしら〜?」
 精一杯あやすも、泣き止まない。レートン夫妻にもルティエにも原因は解っているのだが、ライカの頑張りに期待することにしたようだ。エルザを抱き上げず、ルーティエルはルティエへ問いかける。
「お泊めするのはスィニエークさんだけでよろしいのですか?」
「もちろん。僕はテントを持っているし、あちらのご夫婦は同じテントでいいらしいからね」
 実は持ってくると言ったはずのテントも忘れていたロート、ライカにこってりと絞られることになるのだが‥‥それはもう少し先の話。
「でも、彼が滞在してる間は僕も遊びによらせてもらいたいな。なかなか来れないしね?」
「モンスターが近くに来ているのなら、居ていただいた方が心強いですわ」
 学者先生や案内人として村を訪れたとはいえ、彼らは冒険者。信頼できる冒険者であれば、その存在は心強いことこの上ない。
 スィニエーク、ライカに続きルティエもエルザの近辺に滞在する口実を作り上げたようだ。
「で、洗礼を受けて何か変わったことはあるか? まぁ、無いだろうとは思うんだが」
 ‥‥ロートは十二分に滞在する理由があるようである。


●現実を魘す悪夢
 闇の中を鉛色の影が滑るように滑空する。滲むように闇に紛れ判別のつきがたいソレを見分けたのはユーニーだった。
「あぁ?」
 睨み上げるように見据えたソレに対し選んだ得物はシルバーダガー! 殺気を殺して振るった煌きは殺ぎ落とすように薄く首筋を切り裂いた!
「ギ・ヤアアア!」
 ヒトならざる不自然な声──下級デビル、インプだ!
 低く響くだみ声に、テントを張り警戒していたルティエ‥‥とそのテントに間借りしていたロート・ライカが飛び出した!!
 闇に紛れエルザを狙う悪魔たちを巻き込むように、突如巻き起こった暴風が吹き荒ぶ!
「冒険者が現れて慌てました、ってか!?」
「エルザちゃんが起きてしまいますわ、静かになさってくださいません?」
 やんわりと嗜めるライカの腕には安らかな寝顔を浮かべるエルザの姿があった。
「ソンナトコロニ!」
「おっと、やらねぇぜ!」
 ライカ目掛け旋回したインプにユーニーのシルバーダガーが踊りかかる。ざっくりと切り裂かれた腕に悲鳴をあげ距離を取る悪魔。
「稲妻よ響け、安寧を脅かす者へ! ──ライトニングサンダーボルト!!」
 先手必勝とばかりに立て続けに詠唱をするロート、その掌より生まれ出ずる稲妻はインプ目指し闇を裂く!
「後ろも気をつけたほうがいいね」
「きゃあっ!!」
 さらりと言ったルティエはオーラパワーを付与した愛剣を振るう、死角よりライカを狙うインプへ!
 身を捩るライカの腕があった虚空に浮かぶエルザは、咄嗟にライカがファンタズムで作り上げた幻影──微動だにせぬエルザに気付くことなく飛び込むインプたちへ、ユーニーがダガーを叩き込む!
「よき母、よき父になるためにも、子供は命がけで守らなくちゃね、ロート」
 いつか宿る命を愛しむように自分の腹部を撫で、キリッとインプを睨むライカ。
「傷ついたインプに銀色の彩られた安らぎを差し上げますわ──ムーンアロー!」
 吸い込まれるように突き立った月色の矢。追い討ちをかけるべくユーニーは突き立てたままのシルバーダガーを、その卑しき身体を引き裂くように力任せに引き摺り下ろす!!
「デビル‥‥本当に僕にはぴったりのお相手だね」
 その上品な面立ちとは裏腹に容赦なく得物を振るい続けるルティエ。
 デビルは彼が血の呪いに囚われることなく相対することができる、数少ない相手だ。そして、容赦することこそが罪になるであろう相手!
 夜の闇の中で、夜より出でる闇の眷属たちとの戦いは続く。


●ナスカ・グランテと‥‥
 戦いが始まったからこそ村はずれへと元へ赴いた者たち。エルザの護衛ではなくナスカの捕縛、討伐を自らの目的と据えた者たちだ。
 彼らの前へ、小柄な少女が現れる。
「来ると思ったよ、ナスカ」
 赤い髪を風に靡かせ、紗綾がその人影と対峙した。
「一体何をしようとしているの? ナスカをそんな悲しい姿にしたのは、一体誰?」
 紗綾の呟きが夜風に舞う。
「ナスカ、僕たちはキミを救いたい。キミをアンデッドにしたのは誰だい? その目的を知っているのかい?」
 後方を遮るようにレオニスが立ち塞がる。優しさと悲しみを纏った言葉がナスカの耳を擽る。
「‥‥ナスカさんは大切な友人です。だから‥‥それが救いになるなら‥‥二度目の命を奪うことになっても、止めます」
 引っ込み思案のスィニーが口にした力強い言葉は、彼女が胸に抱いた決意は固いことを示している。悲しみを湛えた瞳は揺らぐことなくナスカを見つめる。
 そして全てを見届けるべく、スィニーの隣に佇むドナトゥース。
「敵には何も教えられないの‥‥紗綾さん言ったよね、次に会うときは敵だ、って」
 寂しそうに微笑んで、ナスカは足を止めた。
「エルザが必要なの。邪魔、しないで‥‥」
「それはできない。俺はヴェロニカにあの赤ん坊を守ると約束したんだ」
 酷く利己的で、それゆえに揺るがぬ約束。新緑の髪飾り‥‥芽吹いたばかりの光明を摘み取るつもりは、ドナトゥースにはない。むしろ、ヴェロニカが敵とみなすナスカは相容れない存在である。
 褐色の美丈夫を感情の無い瞳で見上げるナスカ。
「‥‥誰ですか?」
「『水蠍』に与する者さ」

 ──あはははは!!
 ──ギィン!!

 その言葉を聞くや否や、弾けるように笑い出すナスカ! そして飛び出した男のダガーをドナトゥースはナイフの小さな刃でかわした!!
 なおも迫り来る男へスィニーが拘束詠唱からライトニングサンダーボルトを見舞う!!
「守って──‥‥!」
「そっか、じゃあもう全部知っちゃったんだね、あはははは」
 なおも愉快そうに笑うナスカは、冒険者の知っているナスカではない。
「──ッ!!」
 紗綾が霞刀を、レオニスがレイピアを手に取った!!
「ごめんね、ナスカ!」
 息の合った友人同士が絡め合うように武器を振るう!!
 大きく、小さく、ナスカを切り裂く──当然ながら血は流れず、紗綾は瞳を揺らがせた。
 しかし、ナスカは辛そうな素振りすら見せず手にしたダガーで応戦する!
「女の子に攻撃する趣味はないんだけど、悪いね」
 間合いをつめたドナトゥースが掠めるように繰り出したシルバーナイフが月明かりを受けて煌く!
「う、ぐっ!!」
 ──そのナイフを受けたのは何処かから現れた男だった。
「!?」
 突然の闖入者に距離をとる冒険者たち。
 鮮血を滴らせながらナスカと冒険者たちの間に立った男は牽制するように冒険者たちを順に睨む。
「お戻りが遅いと思ったら、こんなトラブルが‥‥お怪我はありませんか」
「大丈夫よ、この身体でいるとレオニスさんも紗綾さんもスィニエークさんも優しいんだもの。身体はひ弱ですごく扱い辛いんだけどね」
「ビフロンス様、お戯れもほどほどに」
「その名前で呼ばないで。せっかく衣装を集めても台無しじゃない。『あたし』はナスカ。ナスカ・グランテよ?」
 少女に視線を投げられ平身低頭の男。その構図がそのまま二人の上下関係を示していた。
「まぁ良い、マリスが贄を手に入れたようだからな」
 鼻を鳴らしたナスカが軽く手を振るうと、何処からともなく4体のインプが現れ‥‥からかうように周囲を飛び始めた。魔力を帯びぬ武器では手も足も出ず、唯一ドナトゥースのナイフだけがインプへダメージを与える!
 レオニスがオーラパワーの詠唱を唱えインプに対抗する手段を得た時には、ナスカも男も姿を消していた。

 ──満月の晩に会おう、そんな言葉を残して。


 ‥‥その後、水蠍の者が訪れるまでナスカやデビルの襲撃は無く。
「きゃはは、だー、だー!」
 女性陣が楽しげに見守る中、男性陣がエルザによって幼子のあやし方や世話の仕方を骨の髄まで叩き込まれた‥‥のは、事後の余談にすぎないかもしれない。