水戸大魔海村
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■ショートシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:5〜9lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 85 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:04月15日〜04月24日
リプレイ公開日:2006年05月03日
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●オープニング
●魔海村
豊饒な大地、豊饒な森。
それらに支えられたな肥沃な海。
決して広くはない一角であったが、飢えることを知らない土地──水戸の外れに、その村はあった。
しかし、多すぎる自然の恵みは決して人々の生活を潤すものではなく‥‥
多すぎる恵みは時として、生物を極端に育て上げてしまうのだった。
時として荒々しい姿を見せる大海原、そこを制する村の漁師たちですら音を上げる『恵み』は今年もまた変わらずに振り撒かれている。
そんな環境にもめげず、人間は強く逞しく、強すぎる自然と共存の道を選んだ。
人々はその海を魔海と称し、強すぎる自然に隔離されたその村を魔海村と呼んだ。
●第2巻:大蛙の沼
「今年もまた、ずいぶん暖かくなっできたもんだな、お篠さん」
お篠と呼ばれた女は足を止め、声を掛けた船上の人物を振り返った。
「春が悪い季節と思っているわけではないですけれど‥‥毎年この時期は憂鬱になりますわね」
苦笑を浮かべ溜息を零すお篠。この時期はさまざまな生き物が冬眠から目覚める。もちろん、森の沼にも大蛙が目覚め始める頃合だ。毎年のこととはいえ、出費が痛くないわけではない。村の財政とて、決して裕福なわけではないのだ。物資だけは比較的豊富であるのが不幸中の幸いか。
声をかけた男──漁師の吉っつぁんは大仰に肩をすくめ、それは違うと口を開いた。
「毎年のことなのに、村長の頭はまたえれぇ薄くなっちまったなぁ」
「ええ、まったく。少しくらい慣れという言葉を覚えてほしいものですわ」
やれやれ、と肩をすくめて言い放つお篠の言葉は、やはり身内には手厳しい模様。
「でもよ、また冒険者を手配して退治するんだべ? 俺らが退治してやるってのによ」
「吉っつぁんに何かあったら、誰が漁師の若衆を押さえてくれるんです?」
村のためにも無茶は絶対にしないでくださいね、と念を押して、お篠は海を後にした。
しかし、手を振って見送った吉っつぁんは小さく呟く。
「冒険者は大蟹を喰ってたらしいが、やっぱり大蛙も食っちまうんだろうか‥‥」
大蛙の行く末に、そしてその味に、ちょっぴり興味津々の吉っつぁんだった。
──そしてそれは、好奇心旺盛でわんぱく盛りの吉っつぁんの息子も同じことだったようで‥‥
●リプレイ本文
●江戸より水戸へ
「また随分厄介な依頼だな」
田原右之助(ea6144)は天を仰ぐ。広がる青空がなんだか苛立たしい。生真面目な表情で頷くアフラム・ワーティー(ea9711)も、依頼の重要性を説くように呟きを返す。
「蟹より堅牢ではないにせよ小さき者を飲み込むとは厄介ですね。特に子供達や弱者に被害が及ばない様今回も努めたい所存です」
「問題はそこじゃねーだろ」
突っ込む気力も沸かないか、簗染めのハリセンごと肩を落とす右之助にアレーナ・オレアリス(eb3532)が小さく笑うと、たわわな胸がぱゆんと弾んだ。
「随分と楽しそうだね、右の字。良い調理方法でも考え付いたのかな?」
「蟹には劣りますね、やっぱり、色々と‥‥」
ぬめりを帯びた粘液質な皮膚、張り付いたときのねっとりした感触、そしてどこかグロテスクな姿──ユナ・クランティ(eb2898)は憂鬱な溜息を漏らす。同じようにどこかグロテスクながら、蟹の場合は鼻腔を擽る芳しい香りと思わず垂涎する甘やかな味が記憶の棚から引き出されてくるというのに。
「‥‥え? あの‥‥蛙は、ちょっと‥‥」
「食わず嫌いは駄目だよ〜? ちゃんとボクが煮たり焼いたり美味しく調理してあげるから。新しい喜びが芽生えるかもしれないし、ね♪」
「それは、是非美味しくいただきたいですわ♪」
白い肌をますます青く変えるスィニエーク・ラウニアー(ea9096)へミリフィヲ・ヰリァーヱス(eb0943)が楽しげに手を差し伸べる。その言葉を曲解したか、嬉しそうに満面の笑みを浮かべたのはユナだったりするのだが。
──流石冒険者というか、やはり冒険者というか‥‥
食したことはあるが、好き好んで口にしようという冒険者仲間へ、紅闇幻朧(ea6415)は小さく苦笑した。生憎、口元はしっかりと覆われており、誰もその苦笑に気付くことはなかったのだが──‥‥
「見えてきた、あれが魔海村‥‥マカイ村かぁ。僕たちは西洋槍をひたすら投げまくるとか?」
「ええと、そんなことはないと思いますが‥‥」
「ひたすら投げまくるといえば、翔太殿がなんだかひたすら松明投げていたね、この間は」
結城夕貴(ea9916)の言葉に真面目に首を傾げるアフラム。肩を落としかけたところに投げかけられたアレーナからの言葉に、少女のように表情を綻ばせた。
「──何がそんなに嬉しかったのでしょう?」
そしてやはり、アフラムは首を傾げるのだ。
●魔海村の姫、お篠
──ガア!
走りまわる鴨クルイローに大人しくするよう言い聞かせながら、スィニエークは村人を仰いだ。
「その辺をふらふら歩き回る様でしたら、篭を被せておいたりしてもいいですけど‥‥‥食べないで下さいね? 私の今の家族ですし‥‥」
「冒険者ってのぁ、食料連れてあるくだな‥‥」
「‥‥た、食べませ‥‥家族ですから‥‥」
ふるふると首を振りぎゅっとクルイローを抱きしめるスィニエーク。ぐぇっと潰れるような声を出したクルイローに慌てて手を離すと、村人はそんな様子に思わず噴出した。
「んだば、篭被せといてくれな。子供らにゃ、触らねようによおく言ってきかせどくから」
消え入るような声で礼を述べると、スィニエークは深々と頭を下げ、同じくペットを預けた右之助と共に紅闇の後を追い現地の沼を確認に向かった。明日からはしっかり休まねばならないが、初日はしっかりと現地の確認をしておきたい──露西亜を覆う針葉樹林のように真っ直ぐな少女である。
反対に、村の乙女たちを物色して回る──もとい、情報収集して回るのはユナだった。
「毎年、どうしているのかしら?」
質問と共に品定めするかのように視線が体を舐め回し、尋ねられた少女が恥ずかしげに身を捩った。
「あの‥‥ええっと‥‥」
「そうね、あちらでゆっくり聞かせてもらおうかしら♪」
包むように少女の手を両手で握り、ユナは少女を茂みへと誘った。
◆
依頼人お篠の下へ向かったのはアフラムである。
「例年はどうしているのですか?」
気になるのは皆、同じことのようだ。尋ねられたお篠はきょとんとしながらも穏やかに答えを返す。
「冒険者さんに退治をお願いしておりますわ。放っておくと、村の男衆が退治に行ってしまいますから‥‥」
「その時の冒険者は大蛙を食べたりはしなかったのか?」
「ええ‥‥大蟹を食べたのも皆さんが初めてですわ」
駿馬の鬣を撫でながら、アレーナは肩を竦めた。確かに、大きな姿に見合った大味ではあったが、味自体は悪くなかったというのに──勿体無い。
「この時期に現れて、繁殖をするのですか?」
「繁殖期はもう少し後になりますけれど、概ねそのような具合です。繁殖期まであまり数が残っておりますと、夜な夜な大蛙の鳴き声に悩まされるようになってしまうのです‥‥」
「そして、更に増えてしまうというわけですね」
繁殖力がやたらに強いと言っていた紅闇の言葉を思い出し、アフラムは納得したように頷いた。
「ところで、お篠殿。ものは相談なのだけれどね」
何でしょうか、と居住まいを正すお篠に艶やかに微笑んでアレーナは告げた。
「この駿馬と右の字ののりまきとくろまめを預かってもらえないだろうか」
「‥‥はい」
美味しそうな名前に目を瞬きながらも頷くお篠に、アフラムも申し訳無さそうに付け加えた。
「僕のペガーズも、一緒にお願いします」
●大蛙の沼へ
辺りが闇に閉ざされる頃──視界が制限されるのを嫌い、ユナは胸の谷間から取り出したライトのスクロールを使用した。
「夜行性の蛙を相手にするとはいえ、暗くなってしまっては面倒なだけですからね」
浮かび上がる光球を操り、ミリフィヲやアレーナの視界を確保するように展開する。──男たちのことなど構わないという態度がありありと見て取れる。
「たあっ!」
ミリフィヲの長槍「山城国金房」が大蛙の腹部を掠めるように切り裂く!
「頑張ってくださいね、ミリフィヲさん」
小さく手を振りながら投げられるユナの声援に応えるように、ミリフィヲの槍が眉間に深々と突き立った!
太刀「三条宗近」と小太刀「霞小太刀」を重ねるように構え、硬直した大蛙の背を豪快に捌く──もとい切り裂く右之助!!
「右之助さん、邪魔しないでいただきたいですわ」
「一匹ずつ確実に仕留めないと退治しきらねえじゃねーか!」
「アレーナさんが華麗に仕留めてくださるところでしたのに‥‥ああ、ほら、右之助さん。対岸にまた出ましたわ、早く向かってくださいな」
相手が男性とみれば扱いは格段に落ちる、それがユナである。流石にその性癖を察したのだろう、それでもぶつぶつとボヤきながら右之助は対岸の大蛙退治に向かう。
その視界を二筋の雷光が走る!
──ドォォン!!
進路上の蛙を打ちひしぎながら鳴り響く雷鳴に、奥地まで連れてこられた結城の旋風と微風、紅闇の馬やユナの仔馬も怯えて嘶いた。地を掻く馬たちの蹄の音が響く。
「駄目ですね、明日は必要な荷物だけ抜いて預けてきましょう」
オーラパワーにオーラエリベイションまで付与し万全の体勢を整えたアフラムは何故か今日も皆の尻拭い。馬を宥めながら、馬の周囲に現れる大蛙に形(なり)に似合わぬ痛烈な斬撃を浴びせる。疾走の術を用い遊撃に従ずる紅闇も愛馬のことは気にかけているようで、馬たちの近くに蛙の姿を見咎めれば即座に駆け寄り鋭く忍者刀を一閃させている。
──大蛙たちの警戒音が、一際澄んだ夜空に木霊する!
蛙たちとて馬鹿ではないようで、隙を突いて既に何匹かの大蛙が沼へと身を沈めている。
「蛇君、追い立てておくれ」
森の沼に小舟を運ぶほどの力はなく、当初の予定とはいささか齟齬が生じたものの、アレーナは自ら武器を振るいつつ、ペットの巨大蛇を使い沼への睨みを聞かせていた。頭から一匹丸呑みしたらしく、巨大蛇の胴体は一部不自然なほどに大きく膨れ上がり、未だ息絶えていない大蛙が暴れるのに合わせ大きく鳴動している。
しかし何と言っても夜闇でその存在を際立たせるのは鞭を淫靡に振り回し女王様気分に浸っている獣耳巫女、もとい結城であろう。ピシーン!! パシーン!! と鞭の音を響かせうっとりと目を細めている。
「新しい世界に目覚めそうな予感ー♪」
闇に蠢く鞭が、湿った肌に痕を残す。潰れたような鳴き声は少々耳障りだが鞭の音は結城の耳に甘美に響く。
「あまり遊ぶな、次が来る」
他の箇所に比べ比較的抜けやすいと見たか、姿を現した蛙共へ鎖分銅を巻きつけ至近距離でシュライクを放ちながら紅闇が咎めた。
「ふふ、あなたもその骨のズイまで鞭のヨロコビを教えてあげましょー♪」
「敵を捉え間違えるな。それ以前に──仕事をしろ」
凍てつかせる視線に晒され興ざめしたか、つまらなさそうに溜息を一つ吐くと結城は鞭をよりいっそう撓らせた。
──ビシィィッ!!
本来の音が、大蛙を打ち据えた。
◆
二日目は、昼間は体を十分に休め夜の持久戦に持ち込んだ。体を休めず村の少女たちをハントしていたユナが疲れ果て魔法を放てなくなるという場面があったが、ミリフィヲに窘められる程度で済んだ模様。
「僕、ユナさんの応援も援護も頼りにしてるんだよ。それに、自分の身も守れなくなっちゃうから、きちんと休息は取ってよ。ね?」
そして三日目は、それまでの2日間の罠の成果やそれぞれの戦法を考慮し、より多くの罠を設置すると効率良く大蛙を退治していった。もちろん罠を増やした理由は、かかった大蛙を食材として扱うため──であった。
「まったく、次から次へと良く出てくるよなぁ」
「減らさなかったら、と思うと‥‥ぞっとするね」
流石に抜けきらない疲れに息を荒げ目の下に隈を作りつつも、村長の髪の薄さにもなんとなく納得しながら──新緑に眩しく反射する陽光が辺りに満ちるまで、ただひたすら大蛙を狩り続けたのだった。
●少年、宗太郎
「蛙は確かに喰える。そぉれは間違いない。だがしかし。あんま喰いたいモンでもねぇ!」
それはそうだろう。進んで食べたい食材ならば村人が既に調理しているはずである。
「サバイバルでは蛙も立派な食料源だ。生でも大丈夫だぞ。皮を剥いだ後ろ足が食べやすい」
必要と在らば何でも食す紅闇。足を毟った活き蜘蛛は西洋菓子のような甘い味がする──など今は口にしない方が平和そうである。
「いや、でも食用蛙じゃねーんだから‥‥火はキッチリ通さねぇとヤバいんじゃねぇの? 喰いつけねぇ奴が食うと腹下すかもしれねーからな」
「食わず嫌いは良くないでしょうが、流石に万が一にも毒の成分があるなら危険ですし、毒見は流石に‥‥」
その『万が一』に備えて友人ミケイト・ニシーネが解毒剤を寄越してくれたのだが‥‥使いたくはない、使わずにすませたい、賭けるならもっと別の所で命を賭けたい──アフラムも流石に腰が引けているようだ。
「まあ、そんな役目は紅闇に任せりゃいーじゃん、経験者なんだし?」
「──む?」
紅闇、予想外の展開。宗太郎の輝く瞳にじっと見つめられては拒否もできまい。
「うふふふ、男性陣は立派に期待に応えてあげて下さいね? 『食べたくない』なんておっしゃる人がいると、私、その方にアイスコフィンを使用することになって無駄に魔力を消費しないといけないので‥‥そちらも自然に氷が解けるまでその辺りに放置されるのはおイヤでしょう?」
ユナ、笑顔の脅迫で宗太郎の後押し!! 渋々頷く紅闇に、今度はじっと右之助を見上げる宗太郎。
「宗太郎‥‥そんな期待に満ちた目で見るな」
「右之助兄ちゃんっ」
「あーはいはい、リクエストは何よ?」
すちゃっと調理器具をスタンバイするあたり、しっかりすっかり良いお兄さんである。
味噌味がいい、などとリクエストする宗太郎の言葉にすっかり怖気づいている影が一つ。
「‥‥‥え‥‥冗談じゃ‥‥ないんですか‥‥‥?」
少し血の気の引いた顔を見せるスィニエークとは裏腹に、生き生きとした表情を見せるミリフィヲは勢い良く雪平鍋を振る。醤油と酒をベースにしたソースの味が食欲をそそる──はず。
「えと‥‥‥‥蛙料理だけは‥‥その‥‥ごめんなさい‥‥遠慮、させて下さい‥‥」
しかし、その食欲をそそる匂いにリアリティが増してきたのだろう、怯えた表情を浮かべ小さく震えるスィニエークへ助け舟を出したのはもう一人の獣耳巫女、結城だった。
「カエルは食せば精力大増量、と聞いた覚えがありますし、スィニエークさんに伴侶となる人が現れたら、その時に一緒に食べたらいいんじゃないかな」
可愛い顔をしてさらっと言われた言葉はスィニエークの顔に火を点けた。ユナはころころと笑いながら、真っ赤になって俯くスィニエークの背後からその両耳をそっと塞ぎ、髪に小さく口付けた。
「無理をして食べなくても構いませんわ。殿方が頑張ってくださるようですもの、ね?」
──にっこり☆
幸運にも毒も無く、無事に調理を終えた一同は村人と共に篝火を囲んで祝いの宴を催した。
「やっぱり、何だか大味だな」
「俺ぁ、食ったら死ぬもんだと思ってたが‥‥化け物も食えるもんだなぁ」
村人たちも、しっかり調理された蛙のご相伴に預かり、一度限りかもしれない食を堪能しているようである。
そんな中、料理人たちの腕に舌鼓を打ち、村の若い男たちに料理を取り分けながら、ふと思い出したように語る結城。
「勢力大増量ということは、意中の殿方がいるなら、まずこの手のモノを食べさせればビーストモードになって既成事実作れますね。これで旦那を寝取ったとか聞いたような話しが。恋愛とは戦略と同義‥‥‥奥の深い修羅の道ですよ──あれ、どうしたんですか? 皆さん食べないんですか?」
獣耳の巫女、結城とミリフィヲ。そして村の巫女であるお篠。3人の給仕の意中の者を特定するべく、村の男たちに緊張が走った──もちろん、そんな事を考えて給仕をしていたわけではないのだが‥‥。
◆
一方、吉っつぁんの家には風呂が無いためお篠の家で風呂を借りたアレーナは、体の汚れを落とし体に染み付いた緊張感を解すと夜風を浴びに外へと戻る。
未だ続く宴の輪──その輪の外れで一人、黄昏ている友人に気付いたアレーナは上気した頬のままで声を掛けた。
「どうした、右の字?」
「‥‥‥俺は禿の家系では断じて無い。イケてるメンズの家系!」
バツの悪そうな顔をした右之助の視線の先に村長がいることに気付き、にやっと笑ってその額をぺしぺしと叩いた。
「なんだ、髪のことで悩んでたのか。可愛いところもあるんだねえ♪」
「うるせぇなっ」
「大丈夫、意外に苦労性だしね、禿げるって保証してあげるよ」
「すンな!!」
心に流した滝涙。
月明かりに煌き、天の川に消えた。