恋愛トラブル〜ナンバーズ〜

■ショートシナリオ&プロモート


担当:やなぎきいち

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月22日〜01月29日

リプレイ公開日:2005年01月30日

●オープニング

●冒険者ギルドINパリ
 その日、エルフのギルド員が対応したのは、くるくると巻いた天然パーマの愛らしい、20歳前後の女性だった。
 日に焼けた健康的な肌の割には、どこかやつれた印象なのが気にかかる。もっとも、ギルドを訪れる人物は、多かれ少なかれやつれていることが多いのだが。
「‥‥アンデット退治をお願いしたいの」
 縋りつくような視線でギルド員を見つめる女性。落ち着かせるように微笑を浮かべて、ギルド員は続きを促す。
「アンデットですか。どのようなアンデットかわかりますか?」
「腐った死体みたいな‥‥ズゥンビっていうのかな‥‥」
 おぞましい姿を思い出したのだろう、振るえる自分の体をぎゅっと抱きしめた。よほど恐ろしい思いをしたのだろう、力が篭り、指先が真っ白になってしまっている。
「家に、入ってこようとするの‥‥ガリガリと、扉を引っかくのよ」
 思い出したくもないのだが、思い出さないと説明ができない。そのジレンマで激しく頭を振る。
「落ち着いてください、大丈夫ですから。なぜ家に入ろうとしているのか、思い当たる節は──」
「あいつよ。妹に言い寄ってくる、あの男に決まってるわ!!」
 弾かれるように顔を上げ、力強く断言した。あまりの激しさに、エルフのギルド員は思わず硬直した。
「ええと‥‥その方は、例えばウィザードであるとか、錬金術師であるとか‥‥」
「ただの、村長の息子よ! でも妹があいつを振った後から、あれが現れだしたの、無関係のはずがないわ!!」
(「一般人がアンデットを‥‥?」)
 内心で首を傾げたが、それを調査するのも冒険者の仕事のうちだ。依頼を書式に則り羊皮紙にしたためていると──
「ズゥンビ退治なら俺に任せろ!!」
 以前よりどこか自信に満ちた、駆け出しから脱却したばかりの冒険者、ラクス・キャンリーゼが割り込んできた。
 きょとんと目を瞬く依頼人を見、これ見よがしに溜息を吐くと、エルフのギルド員はラクスに言葉を投げかける。
「依頼成立前の交渉はマナー違反ですよ、ラクスさん‥‥それから、安易に受けて後悔しても知りませんよ?」
「困っている女性を放っておけるか! 姉ちゃん、俺に任せておきな!」
「ええと‥‥ありがとうございます‥‥?」
 毒気を抜かれてポカンとする依頼人にギルド員はただ苦笑するしかできなかった。

●今回の参加者

 ea6738 ヴィクトル・アルビレオ(38歳・♂・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 ea8586 音無 影音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9128 ミィナ・コヅツミ(24歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9344 ウォルター・バイエルライン(32歳・♂・ナイト・エルフ・ノルマン王国)
 ea9471 アール・ドイル(38歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9711 アフラム・ワーティー(41歳・♂・ナイト・パラ・ノルマン王国)
 ea9909 フィーナ・アクトラス(35歳・♀・クレリック・人間・フランク王国)
 ea9927 リリー・ストーム(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●日中の調査
「よぅ、揃ったな! こっちが依頼人の妹だ!!」
「よろしくお願いします」
 なぜか取り仕切るのはラクス・キャンリーゼだ。ミィナ・コヅツミ(ea9128)が依頼人の妹に挨拶をする。
「ミィナ・コヅツミです──しっかりお守りいたしますね」
「もてるって大変よね。わかるわ‥‥大丈夫、私はあなたたちの味方よ」
 にっこりと微笑んで依頼人と妹の手を握るのはリリー・ストーム(ea9927)だ。二人は心強そうに手を握り返して頷いた。
「一般人がズゥンビをねぇ‥‥もし本当だとしたら何者かが裏で糸引いてるって事よね」
 フィーナ・アクトラス(ea9909)が音無 影音(ea8586)に囁いた。
「ズゥンビ‥‥この前の事件との関係が、ちょっと気になる、かな」
「──この前の事件?」
 フィーナが怪訝そうに問う。影音は同じようにズゥンビ退治だった以前の依頼を掻い摘んで説明した。ズゥンビの売買が行われているかもしれない、ということも含めて。
 それを聞いていたアフラム・ワーティー(ea9711)が憤慨する。
「財力に物を言わせ周囲の迷惑を全く顧みず、仮にも村を纏める長の息子が、己の私欲で死者を弄ぶのが事実ならば真に嘆かわしい事です」
「死者を冒涜した罪、その重さ。もし話通り村長の息子が元凶であるなら、それをしっかり知らしめねばならんだろうな‥‥」
 ヴィクトル・アルビレオ(ea6738)の呟きにウォルター・バイエルライン(ea9344)が同意を示す。
「とりあえずは依頼人の要求に応えましょう。依頼人方が安眠出来る様になれば村長の息子さん以外の手掛りも聞けるかも知れませんしね」
 フィーナが小さく首を傾げて思案の表情を浮かべ、にっこりと微笑んだ。
「村長の息子さんが犯人だって決め付けたがる気持ちは分からなくもないけど‥‥何にしても証拠は必要よね」
 そして、冒険者たちは日中の調査に乗り出したのだった。

●深夜の警備〜屋外〜
 日も暮れると、空気は氷のように肌を刺す。火を焚き、屋外で待機している面々はといえば‥‥どうも時間を持て余しているようだった。
「ラクス、やるか」
「当然!!」
 筋肉──いや、肉体派のアール・ドイル(ea9471)とラクスの会話は前回会った時と大して変わらない。暇さえできれば模擬戦闘。影音、ウォルターといった前回共にいた人物は取り合わなかったが、ミィナは興味津々だ。
「ミィナ、なんかおもしれぇ武器はねぇか?」
「いろいろありますよ」
 馬に積んだバックパックからフランベルジュ、クレイモア、ラージクレイモア、チェーンホイップ、Gスラッシャー、エロスカリバーと武器コレクションを取り出してみせると、アールはきらりと目を輝かせる。
「無くしたり壊したりは、困りますので‥‥気をつけてお取り扱い下さいね。それから、エロスカリバーは柄を持つと──」
「まぁ、これくらいの重さがあったほうがハンデになっていいだろ」
「あっ!」
 ミィナの注意を聞き流しながらアールはそのうちの一本を手に取った──だが、ラージクレイモアのつもりが、手に取ったのは‥‥ピンクの刀身も艶めかしい、イギリスからの流入品、モラル崩壊の元凶と聖夜祭でも槍玉に上がっていた魔剣──エロスカリバー。そして湧き上がる衝動。
(「ぬ、脱ぎてぇ‥‥!」)
 ラクスと対峙しながら、一枚、また一枚と服を脱ぎ‥‥なぜかラクスも対抗して服を脱ぐ。
「そんなハンデはいらん!!」
 そして上半身をむき出した半裸になると、手は下半身へ伸び──
「な、何してるんですかっ!! アールさんもラクスさんも、服を着てください!! ミィナさん、剣を受け取ってください!!」
 様子を見に来たアフラムが霞を発生させ始めたアールを必死に羽交い絞めにする。
 フィーナは目の前の光景に驚きを通り越して引きつった微笑みを浮かべ、目を逸らすこともできずに様子を眺めている。
 が、その一方でリリーはそんな大騒ぎなど意にも介さず、自分の美肌の維持に神経を使っているようだ。
「やだな〜こんな生活をしてると、お肌が荒れちゃう‥‥」
 ──ある意味、大物。
 なんとか我に返ったアールは、仕切りなおしてラクスと剣を交える。以前より基礎がしっかりしているような印象を受けた──が、まだアールには少し物足りない。
「なぁ、少しは技覚えるとかしねぇか?」
「技?」
「‥‥来たよ、3体っ」
 会話の途中だったが、フィーナの視覚がズゥンビを捕らえた。
「‥‥機会があれば見せてやるよ。きっと、覚える気になるぜ」
 囁くようなアールの言葉を合図に、一同は樽の陰へ、庭木の陰へ、思い思いの場所へと身を隠した。この場はやり過ごし、引き上げるズゥンビを追跡する計画のようだ。
 ゆっくりと、ゆっくりと、依頼人の家へと辿り着いたズゥンビが──扉を掻き殴り始める。

──ガリ、ガリ‥‥ヌチャ、ネチョ‥‥ガリ、ガリ、ガリ‥‥

 爪が腐肉が扉を擦る耳慣れない音が鳥肌を誘う。
 そして──我慢も限界を超えたのだろう、瞳を紅に燃え上がらせ髪を逆立てたミィナが立ち上がり、叫んだ!!
「やっぱり勘弁ならねぇ!! この腐れ―ピ―(自主検閲)―どもがぁ! もっぺん墓穴へ蹴り戻してやるぜぁ! 行け、アール、ウォルター!!」
「‥‥ここで狂化かよ」
「ズゥンビを倒せば戻るでしょう。回復はしてもらえそうですし、手早く倒してしまいましょう」
 後を追うことはできないが、痕跡は残っているだろう。ズゥンビが振り返り自分たちをターゲットとしてしまった以上、戦闘は避けられない。戦士たちは、割り切って剣を抜き放った。

●深夜の警備〜屋内〜
 ズゥンビが扉を掻き叩く音が、脳裏を朽ちさせるように耳に纏わりつく。依頼人の妹が半狂乱になって絶叫を上げた!!
「嫌‥‥もう嫌ァァ!!」
「‥‥‥」
 姉の依頼人も、落ち着かせようと茶を淹れようとするのだが、手が震えて足が震えて立っているのがやっとという具合だ。
「怯える事はない。恐ろしければ目を閉じ耳を塞ぎ、祈りなさい。貴方がたは私達が必ず護るから」
「そうですよ。ボクたちは、そのために来たのですから、安心してください」
 2人を落ち着かせるように声をかけたのは黒クレリックのヴィクトルと小さき騎士のアフラムだ。肩をたたき、そっと手を握って落ち着かせようと真摯な眼差しで見つめる。
(「扉‥‥もつかな‥‥」)
 扉の正面でショートソードを抜き待機しているのは影音だ。
(「スタッキングで懐に入り込んで、スタッキングPA‥‥あっちは知能が無いから、スタッキングから脱出しようとは思わない‥‥はず? タフだから、長期戦になるだろうけど‥‥そう簡単には、当たらない‥‥はず?」)
 内心でどこか心許ない自問自答を繰り返す。ショートソードはスタッキングには不向きであるが、そもそも腐肉を浴びることなど気にするような影音ではない。否、むしろ全身に浴びてしまっても、この手に腐肉を斬る感触を感じたい──と思っているようだ。
 もちろん、依頼人を動揺させるようなことを漏らすような駆け出し以前のミスはしない。
 自分たちを守るために居る──屋内に控える3人の冒険者に依頼人姉妹が少しずつ落ち着きを取り戻してきたとき、怒号が響いた!!
「やっぱり勘弁ならねぇ!! この腐れ―ピ―(自主検閲)―どもがぁ! もっぺん墓穴へ蹴り戻してやるぜぁ! 行け、アール、ウォルター!!」
 ミィナの声だ──そういえば、アンデッドに遭遇すると狂化してしまうのだと事前に申告していた。
「扉を掻く音がしなくなったということは、扉がターゲットではなくなったということですね。ズゥンビは人型の動くモノに攻撃する習性があるはずですから」
「わかった‥‥アフラム、ここは頼むね。扉は、閉じちゃっていいから‥‥」
「安心してください、彼女たちは守りますし──影音さんもウォルターさんも、信頼していますから」
 ウォルターの意見を聞き、影音は小さく頷いた。そして、依頼人たちを守ることを誓うアフラムに薄い微笑を浮かべると、ウォルターと共に屋内から飛び出した!!

●深夜の戦闘
 屋外は既に乱戦の様相を呈していた。
 1体目のズゥンビはアールとラクスが相手をしている。堅実なラクスの攻撃とスマッシュを多用する大技のアールはなかなかコンビネーションが良い。
「ズゥンビ程度じゃ緊迫感の欠片もねぇ。まだラクスの相手の方がマシだぜ」
「一緒にするな!!」
 2体目のズゥンビは狂化し逆上しているミィナを襲っていた。
「死体は死体らしく土に潜ってろ!!」
 果敢にGスラッシャーで応戦するが、いかんせん格闘の経験が足りなすぎるようで、ズゥンビの攻撃が時折ミィナを切り裂いている!! オーラボディを纏ったウォルターがズゥンビに攻撃を仕掛けるのだが、ズゥンビの目標はミィナに固定されてしまっているようだ。
 死肉と化した歯肉を覗かせ、ミィナへ噛み付こうとするズゥンビの懐へ、スタッキングで飛び込む影音!!
「‥‥ミィナ!」
『GRRRR!!』
 飛び込んできた人間に目標を移したズゥンビは影音の肩に噛り付いた!!
「‥‥ふふ‥‥それくらい、痛いうちに入らない‥‥」
 瞳にどこか恍惚とした光を浮かべながら、スタッキングPAでズゥンビを突く!! グチュ、と弾力を失った腐肉の感触──その中に残る神経をブツブツッ!! と断ち切る感触──それを感じ、影音は僅かに満足げな表情を浮かべ、そして次の攻撃を繰り出す!
 3体目のズゥンビはリリーを襲っていた。兄リスターに買ってもらった鎧を信じ、デッドorライブで攻撃を受けながら、その攻撃へのカウンターとしてハルバードでスマッシュを見舞う!!
「寄らないでよねっ、趣味じゃないんだから!!」
 一見細腕だが、リリーの腕から繰り出される斬撃はズゥンビの生命力をたちどころに削ってゆく。腕を切り落とされ、腹を抉られ──
「──ブラックホーリー!!」
 ヴィクトルの数度目のブラックホーリーが炸裂した次の瞬間、ズゥンビはその活動を停止した。
「‥‥ヴィクトル君、別に私、1人でも大丈夫だったわよ」
「その割には、息があがっているようだがな。ところで、フィーナは」
 どこか粗暴に見えてしまうヴィクトルだったが、仲間を想う気がないわけではない。見当たらないクレリックを探して視線を巡らせる。
「戦闘になってすぐ走っていったわよ。ズゥンビにやられたわけじゃないわ」
 フィーナは数時間して戻ってくるのだが、それはまた後の話。
「‥‥ウォルター、前と同じプレートだよ」
「こっちにもあったぜ。やっぱ、この前のズゥンビと関係あるのかねぇ?」
「だろうな。126、127、128‥‥か。とりあえず、村長の息子が情報を握っていそうですね」
 回収したプレートをチェックするウォルター。
「ラクス殿、前回のプレートを持っていますよね。これも一緒に保管してください──重要な役目ですよ」
「あぁ」
 どこか空ろな表情で受け取り、バックパックへしまうラクス。
(「技、か──‥‥」)

●翌朝の状況検分
「ズゥンビが現れるときに、人がいたのよ」
 日が昇ってから、フィーナは改めて事情を説明した。彼女は、ズゥンビが少なかったため、依頼人の家の周囲に怪しい人物がいないかを慎重に探して回っていたのだ。そして怪しげな人物を見つけ──
「後を尾けてったの。そしたら!! ビンゴ! 村長の家に行ったわよっ」
「フィーナさん‥‥事前に一言言っていただきたかったです。心配したんですよ」
「あはは、アフラム君ごめんね〜」
「あの男‥‥許さないんだから!」
 リリーは村長の息子を思い出して怒りを露にしていた。自分に惚れさせて屈辱的な振り方をすれば、ターゲットが依頼人の妹からリリーに変わるのではないかと、礼服のドレスを着て誘惑に行ったのだ。
 結果は惨敗で、リリーはプライドをいたく傷つけられていた。どちらが好みだったとか、そういう話ではなく──礼服のドレスを片田舎の村で着ていたため、警戒されてしまったことが敗因だったようだ。
 半分私怨だったのだが、リリーの怒りは一同のモチベーションを上げたようだ。
「二度とそんな報復はしないと誓っていただいて、依頼人さんと妹さんへ謝罪をして頂かないといけませんね」
 アフラムは率先して村長宅へと歩いていった。

「あ、腐肉‥‥じゃないですか、これは」
 フィーナがぐっと沸きあがる衝動を堪えながら指摘する。村長宅の裏口に手形のように残された跡からは腐臭がした。
 では行くか、とヴィクトルが玄関の扉を叩く。お手伝いさん、といった風情の中年女性が出てきたので村長の息子に会いたい旨を伝えていたとき──
「ぎゃああああっっ!!」
 男の声が響いた!! お坊ちゃま!! と中年女性の顔色が変わったところをみると、村長の息子の悲鳴だったのだろう。
「失礼!!」
 ヴィクトルとウォルターが屋内に飛び込んだ!! 1階の角の部屋が、息子の部屋だという女性の説明を受けて、その部屋へ飛び込む。
 ──鼻を突く、血臭と死臭、そして腐臭‥‥
「ズゥンビ!!」
「くそっ!!」
 ウォルターが日本刀を抜き放ち、斬撃を浴びせる! 追って飛び込んできたフィーナが豪快にハンドアックスを投げる!!
「ウォルター君、避けて!!」
 影音がウォルターと肩を並べてショートソードを振るう。そしてヴィクトルの魔法が襲い掛かり──
「──ブラックホーリー!!」
 ズゥンビ1体と冒険者8人では、結果は火を見るより明らかで、あっという間に動かない遺体となったのだった。
「ミィナ君、リカバーを!!」
「意味ねぇよ、ヴィクトル。リカバーで治せる傷かどうかくらい、てめぇも見りゃわかンだろ?」
 再び狂化したミィナは冷たく言い放った。確かに、首筋を喰いちぎられかけた息子にはもう死が迫っている。
「ズゥンビは貴殿が手に入れたものだな」
 ヴィクトルに問いかけられ、息子は力なく頷いた。ウォルターが、気になっていることを尋ねる。
「教えてください。錬金術師から手に入れたのですか?」
「‥‥行、商‥‥人‥‥」
 濁った目でそれだけ伝え、息子は事切れた。ミィナが吐き捨てるように言った。
「へっ、てめぇがズゥンビにならない程度には冥福を祈ってやるよ」
(「──不謹慎だけれど、なんだか勝ち逃げされたようで納得がいかないわ」)
 リリーは内心で溜息をついた。見つけた売買契約書には、息子の名前とサイン、4つの数字──それだけしか、記されていなかった。
「結局‥‥何も、分からなかったね」
 影音が呟いた──事件は片付いたが、真相は未だ、闇の中である。