八本足の守り神

■ショートシナリオ&プロモート


担当:やなぎきいち

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 72 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月26日〜02月04日

リプレイ公開日:2005年02月02日

●オープニング

●海と山に挟まれた、とある村で──
 その村に、悲鳴が木霊した! 突如現れたソレに、村はパニックに陥った!!
 村長と思しき人物が、村一番の長老の家へと駆け込んだ!
「長老、土蜘蛛様が村へ!」
「聞こえておるよ」
 白い豊かなあごひげを撫でながら、その顔にすら年輪の刻まれた長老が姿を現す。
「やはり、凶事を巻き起こすか‥‥本人に対処させるほか、あるまい?」
「では‥‥!!」
「もともと、有事には贄になるという約束。本人も覚悟の一つや二つ、できておろうて」

●冒険者ギルドINパリ
「お願いします! 村を助けてください!!」
 カウンターに齧りついたのは、見た目10歳を超えたばかりのハーフエルフの少女だった。
「どうしたのかな?」
 ギルド員が、少女の対応に当たる。
「守り神様を、棲み処に帰してあげたいの! でも、一人じゃできなくって‥‥だから、手伝ってください!!」
「ええと、順を追って話してもらっていいかな‥‥?」

 ギルド員が何とか聞き出した少女の話を纏めると、こういうことだ。

 少女の村では、昔、狂化したハーフエルフが惨殺を繰り返すという惨劇が起こった。
 その惨劇を収めたのは、グランドスパイダ──1メートルを超える土蜘蛛である。
 惨劇を起こしたハーフエルフを捕食し、村の近くの洞窟に棲みついた。
 村を含めたその地方では──いつしか、ハーフエルフを捕食するグランドスパイダの噂が広まった。ハーフエルフは土蜘蛛と悪夢を呼ぶ、と。
 しかしその後、グランドスパイダは洞窟近辺を巣として徐々に増え──盗賊や獣に襲われ、巣へと逃げ込んで来た村人を度々助けてたという。
 そんな過去があり、村では、次第にグランドスパイダを守り神として奉るようになった。

 そして、不遇にも生まれたハーフエルフ‥‥悪夢を思い出させる子供を、しかし見捨てる強さもなく、今まで育ててきた村──

「よその村だったら、生まれてすぐに捨てられるか──土蜘蛛様の生贄にされる運命だったの。でも、村の人たちは捨てなくていいって‥‥生きてて良いって、許してくれた」
 少女は涙を零した。
「だけど、やっぱり土蜘蛛様が村へ降りてきて、家畜とか食べ始めちゃって‥‥今まで大事に育ててくれた父さんや、母さんや、村の人にも‥‥恩返しをしたいの」
 小さな手を力強く握り、はっきりと、ギルド員に告げた。
「あたしが呼んでいるなら、生贄になる! グランドスパイダ様を‥‥守り神様を巣まで帰して!! お願い、村を守って!!」

●今回の参加者

 ea6966 アンノウン・フーディス(30歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea9096 スィニエーク・ラウニアー(28歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9655 レオニス・ティール(33歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb0029 オイゲン・シュタイン(34歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb0102 アリア・プラート(25歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0485 シヅル・ナタス(24歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0703 リジェナス・フォーディガール(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 eb0821 カルナ・デーラ(20歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●海と山に挟まれた、とある村で──
「あれが、あたしの村よ」
 さほど大きくない村を示しつつ、依頼人ナスカ・グランテは不安そうに冒険者たちを見た。受けてくれた8人の冒険者のうち、実に5人がハーフエルフなのだ‥‥村人に知れたら、いったいどうなることか。そして、グランドスパイダ様が気付いたら──
 ブルッ、と身を震わせたナスカへ、アンノウン・フーディス(ea6966)がどこか不遜に言い放つ。
「グランドスパイダごときに遅れは取らん、しっかり追い払ってやるさ、『守り神様』をな」
 棘を含んだ物言いに、アリア・プラート(eb0102)が乗り、オイゲン・シュタイン(eb0029)が吐き捨てる。
「守り神様を追い払う村、なかなかイイ響きだよなぁ? ま、テキトーにやってやるよ」
「ハーフエルフなどより、モンスター崇拝者の方が度し難い存在です」
「‥‥」
 自分の家族や村や『守り神』グランドスパイダ様を貶され、ナスカは悲しそうに視線を落とした。それを見て、レオニス・ティール(ea9655)が溜息混じりに言葉を洩らす。
「土蜘蛛が『守り神』で襲われたらハーフエルフを生贄か‥‥。正直どうかと思うけど‥‥。難しい事は置いて、健気に一生懸命頑張っている子を見過ごす事はできないから」
 子供にしか見えないナスカの髪を撫でる。
「あの‥‥貴方が生贄になるのは‥‥ご両親は賛成‥‥‥なされたのですか?」
「もし貴方が不治の病を患っていて、運良く20年も生きて──その事を日々感謝していたら、別れが明日に迫ったからといって、ご両親は慌てる?」
 決死の思いでスィニエーク・ラウニアー(ea9096)が発した問いに、ナスカはどこか悟りきったような顔で答えた。その表情はいっそ清々しいほどで、スィニエークは胸が苦しかった。
「決してあなたが生まれたからこうなったんではないですから。生きることを諦めないでね」
 リジェナス・フォーディガール(eb0703)はナスカを抱き寄せ、励ますように、勇気づけるように、言った。
「とりあえず、避けられるトラブルは避けないとな。面倒は少ない方が良いものだ」
「‥‥そうですね」
(「実家で継母と義理姉に虐められて耳を短くされたんです! とか。うーん、イマイチ‥‥『謎の国の野エルフです!』‥‥いい感じ?」)
 シヅル・ナタス(eb0485)は髪で耳を隠し、狂化対策の白い手袋をしっかりと嵌める。村人とトラブルを起こしている暇はないのだ。スィニエークは小さく頷いてフードを目深に被りなおし、カルナ・デーラ(eb0821)はバレたらどう言い訳をしてやろうか、などと考えながら耳ごとバンダナを巻く。
 トラブルへの対策を取るのは選択肢の1つだ。しかし、トラブルへの対策を取らないのもまた、選択肢の1つである。ハーフエルフであることを隠すわけでもなく、アリアとリジェナスはナスカを守るように颯爽と胸を張って村へと乗り込んだ。

●感動のご対面?
 村の外で待機し、そこから援護するというスィニエークを残して村に入った面々は二手に分かれた。
「これで最後かもしれないなら、ご両親にはしっかり会っておくべきだと思うよ」
 と進言したレオニス、オイゲン、アンノウンの3人が依頼人と共に家に向かっていた。
「父さん、母さん‥‥ちゃんと、グランドスパイダ様は連れて行くから。今まで、どうもありがとう」
「‥‥こんなことになるなら、生まなければ良かったのかもしれないわね‥‥でも、ナスカが生まれて幸せだったわ」
「そうだな。土蜘蛛様のお相手、しっかりと頑張るんだぞ」
 どこか儚い、作られたような家族の笑みを見て、レオニスは自分の思いを吐露した。言葉に棘があるのは承知していたが、どうすることもできない。
「彼女‥‥あなた達の言う『守り神様』を自分が呼んでるなら生贄になるって言ってるけど‥‥いいんですか? 何があろうと‥‥たとえ村で孤立しても、子供を守り通すのが親の役目じゃないのかな? このままだと生贄のためだけに生き延びさせたものだと思うけど」
「それは、親という名を借りたエゴではないかな。一度は諦めた命を20年も永らえさせてくれたことに感謝しているくらいだ、娘の為に──村人全員の命を危険に晒すことはできない」
「レオニスさん‥‥」
 両親が辛さを表情に滲ませたのを察し、娘はレオニスを押しとどめる。しかし、アンノウンもオイゲンも、口を噤む者ではなかった。
「はっきり言おう。こんな守り神様には、私は守られたくは無いな。神と言うものは、こんな貪欲で醜悪で差別をするものではないだろう? ええ?」
「ハーフエルフなどより、モンスター崇拝者の方が度し難い存在です」
(「ここがローマなら、私はハーフエルフを国外に追い出し、領主に話を通した上でモンスター崇拝者に落とし前を付けさせているところですな」)
 ナスカは嫌悪感を露にする二人に、思わず泣きそうになった。
「守り神様がいたから、この村は存在しているの‥‥教会の人には分かってもらえないかもしれないけど」
 少女は両親に抱きつき、精一杯の笑顔を浮かべていってきますと告げると──冒険者を引きずり出し、家を後にした。

 そのころ、依頼人の家を訪れなかったアリア、シヅル、リジェナス、カルナ──差別されることも運命だと割り切らざるを得ないハーフエルフたちは、グランドスパイダとの対面を果たしていた。
「だめだ、やぱり効果はないようだ」
「スィニエーク‥‥ロープで縛るも何も、前衛が足りねぇよ!!」
 アリアは思わず共にいない仲間を毒突いた。シヅルのスリープもアリアのメロディーも、本能だけで動いているインセクト──グランドスパイダには何ら効果を及ぼさなかったのだ。しかもカルナ以外は全員前衛──肉体戦闘向きではなく、そしてカルナ1人で相手をするには、グランドスパイダは少し厄介だった。守り神の牙を夢中で避けたカルナに、リジェナスが激を飛ばす。
「カルナ、牙には毒があるわ! 気をつけて!!」
「つ、次は先に言ってください!!」
 解毒剤の用意をしていないカルナは真っ青になったが、しかし対峙するのをやめるわけにもいかない。
「しかし、思ったほど動きは素早くないのが不幸中の幸いだな」
 シヅルが呟いた。通常、グランドスパイダは地面に穴を掘ってその中で獲物を待ち構える──つまり、動きが素早いはずがなかったのだ。今は蜘蛛より動きが鈍い者もいるが、バックパックをペットに預ければ十分対応できる程度の動きだ。
「──ライトニングサンダーボルト!!」
 遠くから聞こえたスィニエークの声と同時に、グランドスパイダの背後の地面へ雷が突き刺さった!! 鳴り響く轟音!!
 そして逃げ出すグランドスパイダ!!
「ビンゴ!! やっぱデカい音はダメだったな!」
「まぁ、しょせん蜘蛛だものね」
「無駄口を叩いている暇はありません、追いましょう!!」
 スィニエークのライトニングサンダーボルトとアリアのシャドウボムでグランドスパイダの軌道修正を重ねながら、まずは村の外への誘導を完了した。

●一夜のお相手?
「グランドスパイダ様!! こっちよ!!」
 村の外で自己主張をするように飛び跳ねているハーフエルフは依頼人だった。もちろん、彼女1人ではなく、冒険者たちが少し離れていつでも飛び出せるように待機していたのだが。
「ナスカ、危ない! 出てくるんじゃない!!」
 グランドスパイダを追い立てていたシヅルが声を上げた。一直線に依頼人へ向かって進むグランドスパイダ。
「グランドスパイダは牙に毒があるそうです、気をつけてください!」
 カルナは自分が忠告されたことを、忘れる前に皆へ伝えた。勢い良く依頼人へ突進していくグランドスパイダと依頼人の間へ、スィニエークのライトニングサンダーボルトが炸裂する!!
「グランドスパイダも音が苦手なのだな。俺も誘導の補助に回ろう」
 アンノウンがヴェントリラキュイで自分の声を飛ばし、誘導に加わった! レオニスとオイゲンが蜘蛛の左右を挟み、森への逃走を阻む!!
「なんだかジリ貧の予感ですね〜。一晩過ごすのは辛そうですよ」
 前方で入れ替わり囮をする依頼人とアリア、シヅルを警護しながら自らも囮となるカルナ。軽口を叩きながらも、緊張を保ったままの数時間の移動で疲労の色は隠せない。そして威勢の良いハーフエルフたちに、グランドスパイダはなんだかもう夢中、手加減も何もあったものではなく。
「ハーフエルフだから襲われたのではなくて‥‥狂化したハーフエルフが、一番活きが良く見えただけかもしれないわね」
 リジェナスがそんな感想を漏らした。そんな彼女へ、スィニエークがおずおずと意見を述べる。
「あの‥‥やっぱり、ロープで足を縛るとか‥‥足を何本か切って、動き辛くしておかないと‥‥巣まで持たなさそうですよ」
「それが問題よね‥‥」
 リジェナスは少し思案をする。そして、声を張り上げた。
「カルナ、土蜘蛛の気を引いて! オイゲンとレオニスはその隙に土蜘蛛を捕まえて欲しいの、できる?」
「それなら、私が囮になろう。捕まえるのなら、避けるより盾で受け止めた方が、後が楽だろう」
 オイゲンが作戦の修正を主張し、カルナとレオニスに視線を投げかけた。
「無茶でも何でも、やるしかないですからね」
「わかった、それで後の安全性が増すなら‥‥やってみるよ」
「では!!」
 二人が頷くが先か、オイゲンは蜘蛛の間合いに飛び込んだ!! 牙での攻撃を盾で防ぎ、しかし隙を作りグランドスパイダの意識を引き留める。
「今だ!!」
 左右の背後から、カルナとレオニスが力ずくで押さえつける! 足を伸ばせば1メートルにはなるが、普段は大きいとはいえ50センチ程度の蜘蛛だ。しかも、体を押さえつける腕に牙は届かない。
「そのまま抑えていてね。アンノウン、手伝って!」
「何故俺が‥‥」
 リジェナスに名指しにされたアンノウンはどこか不服そうにしながらも、彼女と共にグランドスパイダをロープで縛り上げた。
 6mもあるロープで巻かれ、グランドスパイダはすっかり簀巻きになってしまった。
「あたいたちの苦労はなんだったんだよ」
「まぁ‥‥後が楽になったと思おう」
 アリアの言葉にシヅルは肩を竦めた。

 そして夜は交代で身動きの取れない蜘蛛を見張り、翌朝、ジャイアントスパイダの巣へ辿り着くと──全員の総意の元で、蜘蛛の足を数本切り落とした。

●真実と嘘は何処に?
「さてと。とりあえず洞窟内の穴も外の穴も、目に付く限りはぶっ壊したな」
 アリアが満足気に頷いた。シヅルはナスカの前にしゃがみ込み、同じ目線で語った。
「今回は上手くいったけど、根本的な部分を解決できてない以上、同じような事はまた起きる。君はその時、どうする気だい? また冒険者を雇う? それじゃあ、そのもっと先の未来は? いずれにせよ多少の猶予は出来た。良く考えたまえ」
「その時は、今度こそあたしが生贄に──」
「かーっ!! ンとにお人よしだな、てめぇは」
「‥‥やっぱり生きて少しずつても皆さんに報いてこそ、恩返し‥‥だと私は思います」
 決意を浮かべるナスカにアリアは天を仰ぎ、スィニエークは控えめな微笑を浮かべた。レオニスも、寂しげに微笑んで自分なりの想いを口の端に乗せる。
「あのさ‥‥どんな境遇で生まれても命って大切だと思うんだよね。キミは十分恩を返せてると思うんだ‥‥。だから‥‥あまり生贄になるとか考えないで欲しいな‥‥」
「村の奴らにとっちゃ、てめぇは単なる厄介者。てめぇが戻んねぇところで、土蜘蛛に食われちまったと思うだけ。被害が無くなりゃ、めでたしめでたしさ。奴らの精神衛生のためにも、むしろ戻んねぇ方が良いだろな」
 順に諭され、依頼人の目に迷いが生じた。ハーフエルフには関わるまいと決めてきたオイゲンも、小さな声で告げた。
「君は既に村へ恩を返した。次は君自身のために生きなさい」
「でも‥‥村を出ても、どうすれば良いのか‥‥」
 心を揺るがせる娘に、シヅルがアドバイスをした。
「僕としては君が冒険者になる事をお薦めするよ。君くらいの年の子で冒険者をしてる子も、大勢いるからね」
「だな。パリまでなら送ってやるからさ」
 ニカッと笑ったアリアを見上げ、ナスカは逡巡し──お願いします、と頭を下げた。
「おぅ、任せとけ!」
(「‥‥無意味な妄想と無慈悲な偶然が合わさって悲劇になったいい例だったな。なんともめぐり合わせの悪い」)
 アンノウンは朗らかな空気を背にして溜息を吐いた。

 そして更に翌日。長老の家でオイゲンに説得される村長と長老の姿があった。
「あなた方を守ってくれた土蜘蛛様は、悪しき土蜘蛛との戦いで倒れてしまわれた。恩を返すため、悪しき土蜘蛛を倒すべきではないか? と村人を説得してみるのはどうですかな。その程度の行為であればモンスター信仰ともならず、神もお許しになるでしょう」
「‥‥グランドスパイダ様をお慕いしているのは我々の村だけではないのじゃが‥‥」
「狂化したハーフエルフはともかく──ナスカは良い子でした。あの子の遺志を無駄にしないためにも‥‥努力します」

「ありがとうございました──」
「この子を、よろしくお願いします」
 ただ、カルナによって真実を伝えられたナスカの両親にだけが、秘密裏に見送ってくれた。
 小さなハーフエルフは冒険者に導かれ、新天地へと向かうのだった。
 ──抜けるような青い空の日だった。