冒険者って便利屋さん? −大掃除−

■ショートシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月13日〜08月20日

リプレイ公開日:2006年08月30日

●オープニング

●冒険者ギルドINキエフ
 各国に存在する冒険者ギルドには、常に厄介ごとが持ち込まれている。
 一口に厄介ごとと言っても夫婦喧嘩の仲裁であったり、戦争の戦力要請であったり、種々多様だ。
 そして今日も、厄介ごとが持ち込まれていた──‥‥

 届けられたのは一件の依頼。
 依頼人は、数日前にも訪れた男、エルフでもハーフエルフでもない、人間である。
 相手をしているのは、こちらも数日前に担当していたドワーフのギルド員。白髪交じりのもっさりしたヒゲを三つ編みにしてすっきり纏めている。
「犬の呪いは解けたのではなかったのですかの?」
「呪いなんか最初からなかったんだ」
 ずいぶんな変わり様であるが、担当ギルド員として報告書に目を通したドワーフはヒゲに隠れた口元をにやりと歪めて笑っただけだった。
「では、『掃除』の依頼ですかな?」
「ああ。大掃除の依頼だ」
 彼はキエフから徒歩1日ほどの場所にある開拓村の人間である。
 その村で暫く前に小さくも痛ましい事件が起きた。開拓に同行させていた犬が腹を切られ、血走った目を剥いて、口から泡を吹いて死んだという事件である。それ以降、森で木の陰や茂みからじっとこちらを見つめている──そんな『犬の呪い』の目撃情報が多数寄せられるという事態に陥り、開拓がすっぱり止まってしまったのだ。
 困った村人たちは冒険者に露払いの依頼をした。
 そして派遣された冒険者たちは犬を殺したのがコボルトであることを突き止め、呪いと思われていたコボルトたちを退治した。しかし同時にコボルトたちが住み着いた廃村を発見したのだ。
 廃村の『掃除』をするには時間が足りず、食料や装備もそれほど整えていたわけではなかったため、開拓村の者たちへ状況を伝えて依頼を終了した──これが前回の顛末である。
「やっぱり、俺たちは自分たちの力であそこまで開いた村を捨てられねえ。森の伐採に向かうときは斧なり何なりを持っているからコボルトに一方的にやられることはねえけど、いつ現れるかわからねえ状況じゃ落ち着いて仕事もできねえしな」
 風で茂みが揺れただけでもコボルトかと警戒するような状況なのだから、再会された開拓のペースも遅々たるものであろう。
「廃村は、見られておらんのですな?」
「ああ。数は多くねえとか聞いたが、見に行ってうじゃうじゃ出てきても困るからな」
 ふうむ、とひとつ唸り。
 ギルド員は羊皮紙にペンを滑らせ始めた。
 そして程なく、ギルドの掲示板に一枚の羊皮紙が掲示された。

 ──廃村に住み着いたコボルトを殲滅してください。

●今回の参加者

 ea9383 マリア・ブラッド(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb4366 ヌアージュ・ダスティ(37歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 eb5292 エファ・ブルームハルト(29歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb5604 皇 茗花(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb5612 キリル・ファミーリヤ(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5631 エカテリーナ・イヴァリス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5669 アナスタシア・オリヴァーレス(39歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb5812 トーマス・ブラウン(36歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●まどろみの月夜
 丸い月が明るく照らす森を風が吹きぬけ、木々の葉が擦れ合う音が重く響く。もう一度風が吹くと、何処かで梟の鳴く声がした。そんな森の中──少し開けた地面にテントが3つ、佇んでいた。その中央では月の銀光に負けじと焚かれた炎が煌々と夜空を焦がす。
 小さな枝をくべ、細身のエルフがまず口を開いた。
「それじゃ、落ち着いたところで改めて自己紹介だね。風系ウィザードのアナスタシア、通称アンナね。よろしくお願いだね」
「アンナですか。私はエカテリーナ、カーチャとお呼びください」
 エカテリーナ・イヴァリス(eb5631)は提案したアナスタシア・オリヴァーレス(eb5669)の明るさを吹っ飛ばす生真面目・ド真面目・大真面目で騎士としての正式な礼をする。そりゃもう、自己紹介を提案したアンナが引くほどに。そして負けず劣らず真面目な表情で自己紹介をしたのはトーマス・ブラウン(eb5812)だった。
「ミーはトーマス・ブラウンでゴザル。廃村に巣食うコボルト退治、このジャパン流剣術の使い手、キャプテントーマスに任せるでゴザル!」
 ちなみにジャパン流剣術とは全くの自称。ジャパン人を眺めたり想像したり妄想したりした産物──言ってしまえば我流である。
「あはは、トーマスさん楽しい性格してるねっ♪ 私はエファ・ブルームハルト、よろしくね!」
 エファ・ブルームハルト(eb5292)に続き他の面々も自己紹介をしたのだが、どうやらアンナ、エファ、トーマス以外の者達は顔見知りであるようだ。
「前回は準備不足でしたから‥‥今度こそ、ちゃんと依頼を全うしたいですね」
「うむ、油断して解毒剤使うハメになった借りを返さねばな。けちょんけちょんにするぞ」
「村人達に安心して開拓に励んでもらえるようにせねばな」
 夜の帳に刺激を与えぬようにか、マリア・ブラッド(ea9383)が小さく呟くと、ヌアージュ・ダスティ(eb4366)と皇茗花(eb5604)が力強く頷いた。応援するように火が爆ぜる。その身体が紅に染まるのを嫌うように、ヌアージュの愛猫マニュエルが小さな身体を毛皮のマントに潜り込ませる。
「オウ! だから村の人に話を聞いても何も知らなかったでゴザルね!?」
「ギルドでその辺りの注意も受けたはずです、キャプテントーマス」
「カーチャさん、その位で。改めて言わなかった僕たちにも非はあるかもしれないですから」
 キリル・ファミーリヤ(eb5612)は言葉のきつくなりがちなカーチャのフォローを選んだ。
「廃村のコボルトを見たのは僕たち冒険者だけです。村の方々はそこに廃村があることも知らなかったようですから、蛮族の村なのかもしれませんね。建国以前のものかもしれません」
「それだけ古ければ、モンスターが住み着いても何ら不思議はないでゴザルな。しからば、ミーたちは正義を断行するまででゴザル! いざ、尋常に!!」
 ──もう、いっそ誰かジャパン語で話してやってくれ。
 誰かが、そんなことを思った。けれどジャパン語も解す茗花が指ひとつ、眉ひとつ動かさなかったところを見ると‥‥おそらく彼女は、ジャパン語で話したところで何も変わらないと踏んだのだろう。
「と、とにかく。明日に備えて早めに休みましょう」
 ドッと襲い掛かる疲労感に耐えながら、キリルはそれでも笑って見せた。
 ちなみに、4人用のテント2つに6人の女性が、2人用のテントに2人の男性が入ることになったのは単純に彼らの力関係によるものだと思われる。


●朝靄の廃村
「さーて、何が見えるかな〜っと♪」
 翌朝、まだ早いうちから冒険者たちは動き出していた。
 朝もやの中、するすると木に登るとエファの眼下に広がる廃村。家の形を保っているもの、風雨に晒され壁が崩れ落ちているもの、屋根が無くなっているもの。屋内にまで雑草が見え隠れし、壁だったものに蔦が絡まっているものもある。踏み固められていたのであろう道だけが面影を色濃く残し、村の形を鮮明にしていた。
 しかし、森の中で荒れ果てたそこは決して攻めやすい土地ではない。
「もともと人が住んでたんだし、そうそう攻めやすい土地ってわけないかぁ」
 小さく息を吐いて、エファは森を‥‥正確にはそこに生える木々に視点を転じた。
「そろそろ風向きが変わるかな?」
 村の全体像を脳裏に焼き付けて、姿の見えるコボルトの数を数えると再びするすると木を降りた。
「どうだったかしらね?」
「えっとね〜‥‥」
 待ち構えていたアンナの質問に小枝を拾い上げるエファ。そしてその小枝でガリガリと地面に見取り図を書き上げる。家だったと思しき建物が中心部に大小合わせて10軒ほど、取り巻くように小さ目の家が10数軒。
「近くに小川でもあるのかな、井戸はなかったよ。残ってるコボルトは、だいたい中心部にいるみたい」
「コボルトの数はどれくらいでゴザルか?」
「ん〜、見えるだけで12匹。その内、5匹が子供みたいだった」
「む、子供か‥‥」
 ヌアージュが眉を顰める。彼女の生業は『子守』、モンスターとはいえ子供を手に掛けることを考えると抵抗もあるのだろう。
「討ち漏らすわけにはいきませんよ?」
「解っておるよ、カーチャ殿」
 相手はモンスターだからな、と言い聞かせるように呟くヌアージュ。追い討ちをかけるように茗花も懸念していることを零す。
「夜になれば外に出ているコボルトも戻るであろうからな」
 住み着いているとはいえ、畑を耕し平和的に暮らしているわけではない。獣や魚、果実などを狩って暮らしているのだ。キリルに拠れば、彼らには罠を使ったり加工したりする程知恵はないという。つまり、その日に喰らう餌はその日に狩ってくるのだ。
「こんなものかしらね」
 村で譲り受けた木の板に村の見取り図を書き写し、地面の絵と見比べながらアンナは満足げに頷いた。詳細は、村に立ち入ってから書き込んでいけば良いだろう。

   ◆

 人気の無い廃村の中、エファはコボルトに見つからぬよう、そして時折り見かける叫ぶキノコことスクリーマーを踏まぬよう気を配りながら廃村を歩く。聞こえるものは森の声と、自分たちの足音のみ。
「なんだか寂しいですね‥‥こういう打ち捨てられた村を見るのは‥‥」
 先を行くエファから離れ過ぎぬよう気をつけながら、マリアが静かに感想を述べると、隣を歩くキリルが静かに頷き返した。
「せめて‥‥どこかで元気に暮らしていてほしいですね。何事も無く、生きることも諦めずに」
「はい‥‥」
 彼女がキリルと共に殿を務めているのには相応の理由がある。片時も離れたくないラブ──ではない、残念ながら。
 この場では彼女の名誉のために伏せさせていただくが──二人の様子にヌアージュも心を砕いているのもまた事実。
 縺れた三角関係──でもない、全く残念なことだが。
 この三人の関係は、後にゆっくり説明する機会が訪れよう──全く残念極まりない。
 さて、足音を忍ばせ周囲に気を配りながら歩いていた冒険者たちは村の中心部に近付いた。2〜3人ずつに別れ、慎重に慎重に物陰へと身を潜めると、アンナが小さく呪文を詠唱する。
「風よ、私の元へ吐息を運んで欲しいね──‥‥」
 風が答えを運ぶより先に、殺気を感じたカーチャがその左腕にレインボーリボンをキュッと腕に結んだ。

 ──そしてそれは、戦闘の始まりを告げるリボンだった。

「マリア・ブラッド、参ります!!」
 幾らか戦闘に慣れたのだろうマリアが名乗りをあげ、コボルトに躍り掛かった! 負けじとトーマスもコボルトに襲い掛かる!!

 ──ザシュッ!!

 殺気を放つコボルトたちに斬りかかる冒険者の目に飛び込んできたのは‥‥背後に庇われ純真無垢な瞳で見上げる、幼いコボルトたち‥‥!
「子供とてモンスターだ、依頼人たちの平穏のためにも‥‥手心を加えるな」
 クールに言い放った茗花の言葉も僅かに揺らいで聞こえたのは気のせいだろうか。

 幼い命も含め、村に巣食うコボルトはブレスセンサーで見つけ出され、一日がかりでその全ての命を絶たれた。


●女王、降臨
「それじゃ、踏むよ?」
 エファは仲間たちに再度の確認を取ると、両耳を塞いで勢いよくスクリーマーを踏みつけた、途端周囲に甲高い悲鳴が轟く!!
 マリア、ヌアージュ、トーマスを前衛に。
 キリル、カーチャを中衛に。
 アンナ、茗花、エファを後衛に。
 散開して身を潜める冒険者たち。さほど間を置かずおびき出されたのは──コボルトが2体、一回り大きなコボルトが2体と、一風変わった装いのコボルトである。
「あれは、まさか‥‥コボルト族長?」
 キリルが呟く。コボルトは族長を中心にコロニーを築くことがあるという話は聞いたことがあるが、実物を見たことは無かった。逆に言えば、族長をどうにかすればこのコボルトの群れはこの地を離れるということだろう。
 近付いてきたコボルトたちへ斬込み隊長・キャプテントーマスが踊りかかる!!
「ミーのジャパン流剣術、受けてみるでゴザル!!」
 何度も言うが『自称』である。

 ──ギィィン!!

「防いだでゴザルか!?」
 目を丸くするトーマス。けれど手を止めている間は無く、合間を縫うようにアンナから支援のライトニングサンダーボルトが撃ち出された!!

 ──バリバリバリッ!!

 二人の攻撃を皮切りに、乱戦の火蓋が切って落とされた!
 しかし身体の大きな2体は相当の使い手であるようで、避けきれずにトーマスが傷を負った!
「空がぐるりと‥‥これは、毒、で‥ゴザルか‥‥?」
 景色が歪む。バランスを崩したトーマスをカーチャが支えた!
「トーマスさん、解毒剤と回復魔法を受けてきてください」
「む‥‥かたじけのう、ゴザル‥‥」
 引いた戦士にアンナが解毒剤を飲ませ、茗花はセーラに祈りを捧げトーマスの傷を回復し、セーラの祝福を授ける。
「これで大丈夫だ。堪え処だ、苦しいと思うが頼む」
「任せるでゴザル」
 セーラの祝福の効果かトーマスの実力か、一匹のコボルトがあっという間に追い詰められていく。

 ──ザシュッ!!

「これでトドメでゴザル! 武士道に背きそうでゴザルが、民の為なのでゴザル!」
 オーラを付与したトーマスの一撃で大きなダメージを被ったコボルトが逃げ出し、それを許すまじとトーマスは背後から切って捨てる。袈裟懸けにされた傷から溢れ出した鮮血はトーマスの隣に立つマリアを紅の道へと導いた。
「おーほっほっほっ!! 踊りなさい! 死の舞を!! そして私に見せなさい! 真っ赤な血を!!」
「キャプテントーマス、マリアさんから離れてください!」
 重力に反しゆらりと揺らぐ髪。そして狂気に染まる瞳。カーチャはトーマスに忠告の檄を飛ばす!
「なぜでゴザル?」
「早く!」
 逃げろと言いつつ二人の間に小柄な身体を割り込ませる!

 ──ギィィン!!

「くっ!」
「あら、貴女がこの身体の疼き‥‥満たしてくれるの?」
 小太刀に止められたノーマルソード、その鈍い輝きをねっとりと舐め上げるマリア。
「最後の一滴まで、搾り取ってあげるわ!!」
「カーチャ殿!」
 ヌアージュが締め上げていたコボルトをマリアに向け突き飛ばす! とっさに振るった一撃が誘った血に興味が移ったのを察し、仲間たちはマリアとの間にコボルトを挟むよう巧みに位置を変えて対処する。
 族長を囲むコボルトたちは流石に腕が立つが、前後を冒険者に挟まれてしまえば勝利への道は閉ざされたも同然。毒を食らうことはあったが、前日の戦利品の解毒剤もあり、前衛を交代するだけの戦力的余裕もある冒険者の有利は揺るがぬように見えた。そんな中、アンナから視線を投げかけられ‥‥僅かに逡巡しヌアージュが道を開ける。そして、その道に追い込むようにエファが立て続けに矢を放つ!!
「逃げるならこちらだぞ‥‥」
 その呟きが通じたわけではないだろうが、そこに意図的に作られた隙間に気付いた族長が叫びを上げた。
『───!!』
『!!』
『!!』
 族長に呼応しコボルトたちが声を上げる。そして──コボルトたちは彼を庇いつつ、逃亡の道を選んだ。どくどくと血を流す仲間の亡骸に悲しみの視線を向け、怨みの篭った視線を冒険者に投げかけながら‥‥全滅ではなく、生き延びる道を選んだ。
「敵はどこなの?! 早く血を見ないと‥‥身体が‥‥身体が疼くのよぉ!!」
「このままでは近づけんな。キリル殿、頼めるか」
「ええ。マリアさん、失礼します」
 哄笑を響かせ両手の剣を器用に操り鋭く繰り出すマリアに武器を持たぬヌアージュは近付くことが出来ない。そしてキリルは、対処法を心得ていた。剣を鞘に戻し抜けぬよう剣帯で手早く縛り上げると、鞘ごと、剣を握る。
 青い瞳が、湖面のように光を反射した。

 ──ガッ!!

 武器を狙って振るわれた一撃は、狙い違わずロングソードを叩き落としていた。
「さすがだな」
「絶対確実ではないのが難点ですけれどね」
 パリーイングダガーを狙った一撃を受けられ、苦笑しつつヌアージュに返す。しかし、キリルの次の一撃にマリアの意識が向いた瞬間、ヌアージュはマリアを羽交い絞めにした!!
「触れることは許していなくてよ!!」
「残念ながら許しを乞わねばならぬ関係ではないのでな」
 ニッと笑いヌアージュはマリアを締め上げた。カランとダガーが落ち‥‥マリアの意識も、闇に落ちた。


●黄昏の廃村
 血のない場所でマリアの回復を待ち、コボルトの後を追わずに廃村へと向かう。
「もうコボルトはいないのね」
 ブレスセンサーにも反応は無く、アンナは仲間たちにそう告げた。確かにコボルトの姿も見えず‥‥冒険者たちの眼前には、コボルトからすらも見捨てられることとなった廃村が広がるばかり。
「一気に片付いたことだけが救いですね‥‥」
 マリアが祈るように手を組みながら呟いた。服が煽られ、風に踊る。
 その頃、ヌアージュは首を傾げていた。
「なぜ打ち捨てられたのだろうな」
「井戸はありませんから、水が原因ではないでしょうね」
 キリルの返事にむうと首を捻る。しゃがみこんでいた茗花は表情を変えず、何かを摘み上げた。
「古い骨だ。村のあちこちにあった‥‥何かがあったのだろうな」
 扉や壁が壊れているのが長い年月に寄るものか、何らかの原因があるものかはコボルトに荒らされた今となっては解らないが‥‥
「しかし、コボルトが住み着くぐらいに森が広い、ということなのだろうが‥‥」
「この国の大半は森だと教えたはずよね。やっぱり聞いてなかったね?」
「いや、そんなことはない。聞いて『は』いたぞ!」
 アンナの言葉にぶんぶんと首を振るヌアージュ。教えを請うたロシアの話、その大部分が右から左に抜けていたなど言えない。
「とりあえず、戻ろう? もう安全だよって教えてあげなくちゃね!」
 元気良く言われた言葉と共に溢れた笑顔。

 ──この笑顔がこれからのロシアの礎になりますように。

 そう願い、アンナは書き上げた廃村の地図を握り締めた。