冒険者って便利屋さん? −虫退治−
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■ショートシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:7〜13lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月30日〜09月06日
リプレイ公開日:2006年09月09日
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●オープニング
●冒険者ギルドINキエフ
何とも言えない匂いを放って、彼はギルドに入ってきた。彼の耳はハーフエルフであることを示していたから、誰も何も言わなかったけれど。
「こんにちは。冒険者を何人か借りたいんだけど、いいかい?」
ああ、何故わしの鼻は詰まっていないのか。冒険者時代に自慢だった嗅覚が今は恨めしい。さりげなくギルドから出て行った数名は、おそらく嗅覚の鋭い者たちなのだろう──ドワーフのギルド員は心の中で思った。
「もちろん、それが仕事ですからな。どんな仕事をさせたいので? 薬草摘みの護衛ですかな?」
そんな言葉が出たのは、鼻を突く匂いが薬じみたものだったからだ。良くも悪くも鋭い嗅覚である。
「いや、それは必要ないよ。欲しいのは、虫を追い払ってくれる冒険者なんだ」
ひょいと肩を竦めたハーフエルフの肩で柔らかな茶色い髪が揺れる。
「僕は医者の真似事もしているけれど、薬学者でね。まあ色々な薬を調合したり、植物の薬効を調べたりするのが専門みたいなものなんだけど」
その匂いだけでとてもよく解ります。周囲にいた誰もがそう思った。
「今調合してる薬がちょっと匂いを発するんだよね。それがどうも、虫を刺激するらしくてさ。家の周りに虫が集(たか)って仕方ないわけ。それで、ちょっと虫を払ってもらいたいなと思って」
「虫の嫌う薬を焚けばよろしいのでは?」
「それが調合中の薬に影響を与えないとは限らないだろう?」
これだからドワーフは、とは彼は言わなかった。けれど、態度が、雰囲気が、そんな言葉をかもし出している。
「もう少しで一区切りつきそうなんだ。だから、長期間拘束するつもりはないよ。そうだなぁ──往復込みで7日間くらいでどう? 長引きそうなら改めてお願いにくるよ」
「では、そのように手配しましょう」
無骨な手が器用に几帳面に文字を綴る。
「その虫というのはどのような?」
「僕の趣味じゃないなんだか派手派手しい蝶とか、でっかいカマキリとか。夜中にはがっつんがっつん家に何かぶつかるし、もう集中できないったらないんだよ」
「ああ、なるほど。そんな『虫』ですか」
「心当たりがあるの? さすがギルド員やってるだけのことはあるね」
「誉められるほどのことでもありませぬよ。して、調合はご自宅で?」
「うん。屋敷の裏手の離れでね。えっと、僕が用意すればいいのは部屋と食事かな? 邪魔さえしないでくれるなら離れには2、3人なら泊められるよ。あとは、屋敷に部屋を用意させるね。庭にテント張りたいっていうならそれでもいいけどさ」
「部屋と食事の心配をしなくていいとは、冒険者も喜びましょうな」
手続きを進めるために腰を上げようとした三つ編みヒゲのギルド員を手で制し、依頼人は最後に不可避の注文をつけた。
「まだ大事なことを言っていないよ? 僕は暗いところが駄目なんだ。虫が寄ってくるかもしれないけど、夜も明かりは絶やさないからね?」
じっと見つめる依頼人アルトゥール・ラティシェフの目力の強さに、ギルド員は一つ頷きを返した。
●リプレイ本文
●シルクのスカーフ
「予想以上ですね‥‥」
「何が?」
ローブの襟元をしっかりと寄せた宮崎桜花(eb1052)へジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)が不思議そうに尋ねた。
「朝晩の冷え込みが、です」
「ああ、もう毛布じゃ厳しいよね。9月末にはもう、寝袋でも寒くて眠れないと思うよ」
言っておけばよかったね、とジェシュは無邪気に笑った。そして10月中旬には、屋外に置いた水が凍るようになるのだ。キエフの冬は長い。
「冬が厳しい分、冬以外は虫達が纏めて沸きますわよね」
レティア・エストニア(ea7348)の言葉に、しみじみと離れを眺めつつヴィクトル・アルビレオ(ea6738)も呆れたように溜息を1つ。
「‥‥しかも、この立地条件ならなおさらだな」
「森のお側ですと、危険な虫以外でも厄介ですわよねぇ。本当に、どんな隙間からでも入り込んで来ますもの」
セフィナ・プランティエ(ea8539)の言葉にシルフィリア・カノス(eb2823)も深く頷いた。
「痒くなるような虫もいますし、大変ですよね。どうにか出来ると良いのですが」
「どうにかなるよ、シルフィちゃん。そのために来たんじゃない♪」
森が近付きローサ・アルヴィート(ea5766)は普段に輪を掛けてテンションが高い。
けれど、そこには問題の臭いが漂っていた。腐り醗酵したゴミの膿んだ汁を濃厚な果汁と混ぜ、人肌に暖めてもこんな臭いにはなるまい‥‥マクシミリアン・リーマス(eb0311)は困惑気味だ。
「‥‥虫を惹きつける臭い、か〜」
「昼は蝶とかまきりで夜中はがっつん虫、確かに大変だな」
シュテルケ・フェストゥング(eb4341)、勝手に命名★
「しかも馬鹿でかかったり、毒持ったりとか、眩暈起こしそうなぐらいよね‥‥」
厄介な話だと思ったのか臭いに中てられたのか、青龍華(ea3665)も珍しく疲れた表情を浮かべている。漏らされた言葉を受けて、ヴィクトルは思案していた虫たちの正体を口にした。
「蝶が龍華嬢の懸念通りのパピヨン、巨大なカマキリがジャイアントマンティス、がっつん虫がブリットビートルというところだろう」
「がっつん虫、浸透しちゃったみたいだね」
マックスにくすりと笑われて自分の言葉に気付いたのだろう、ヴィクトルは唯でさえ恐ろしい顔を歪めた。なんだか手配書にありそうな顔に、シュテルケは気を引き締めた。
「では、毒を浴びたり吸ったりしないようにしなくてはなりませんわね」
レティアの言葉に、めいめい懐やバックパックから取り出す──ハンカチーフ、エチゴヤ手拭い、端切れ。対応の確認に訪れた依頼人が驚き目を丸くした。おそらく、手拭いに。
「余らせてるスカーフを差し上げるよ。薬も必要ならボクが作ったものを使えばいい」
「アル君、太っ腹ね☆」
「たかがシルクのスカーフや解毒剤程度で賞賛されたくないけれどね」
シルクのスカーフも薬も高いのに──肩を竦めたアルへと向けられた龍華の非難混じりの視線を遮るように射線上に滑り込み、ヴィクトルは人数分のスカーフを頂戴した。そして改めて挨拶をすませると、離れから距離をおくかのように早速準備に取り掛かった。
●その名は──
「こんなものかな」
ジェシュの言葉にレティアが頷いた。当初は離れを沢山のアイスコフィンでドーム状に覆おうとしたのだがフライングブルームに跨った状態では他の行動が行えず、依頼人も常に離れにいるわけではなく、何より離れといえども貴族サイズで予想以上に大きく、危険そうな数箇所に限定し展開したのだ。
「実験中に屋根に上られたら気が散るだろう」
そんなことも解らないのかと言わんばかりのアルに口を尖らせたジェシュだったが、後ろからヴィクトルに口をふさがれた。
「アルさん、虫寄せの罠を作りたいんだけど実験中の薬と同じ臭いのするものがないかな」
「下手に薬草を使われたりするより安心だしね、心遣いに感謝するよ。さすがハーフエルフは機転が利くね」
マックスの提案に微笑んで頷くアル。失敗したものならと提供された薬に、彼がキエフで安く買い求めた腐りかけの果実を混ぜる。
「穴、掘ったぜ」
「こっちも大丈夫です」
シュテルケと桜花が中心となって掘った二つの穴。それにシルフィや女性陣が浅く水を張り、薬を塗した果実を置き、周囲の草を刈って縁に松明を仕掛ける。これらはパピヨン用の罠だ。
「あとはカマキリ用だな」
「罠の名前は『カマキリホイホイ』と『蝶々ホイホイ』ね? はい、決定。変更不可!」
「センスがいいな」
ローサと談笑しつつ穴を掘るシュテルケ。体長3mのカマキリ用となれば深さも広さも半端なものでは足りない。汗を拭い、気になっていたことを尋ねた。
「カマキリは草を食べる虫を取ってくれるありがたい奴だから農家では大事にするんだけど、パピヨンを餌にしてる可能性はないのか?」
「主な食料は小動物だから、その可能性は少ないだろう」
「それじゃ、同じ餌だとあんまり意味ないかもしれないなー」
そう苦笑したシュテルケの考えが杞憂でないことを祈った。
「森の把握なら任せといて、期待に応えてあげよう♪」
そう言ったローサへ夜番の者達が同行するのを見送った直後だ。
「来ました、パピヨンです!」
こまめに離れを見回っていたシルフィが飛来する極彩色の虫を発見した!
依頼人より譲られたシルクのスカーフでしっかりと口元を覆う。
「これって盗賊とか泥棒っぽいな」
まだ三度目の依頼はシュテルケにとって新しいことの連続のようだ。楽しそうに言い、剣を抜いた!
「聖なる母よ、害なさんとするものたちを拒みたまえ──」
窓辺と仲間へホーリーフィールドを展開したシルフィは、目を疑った。パピヨンが結界に侵入したのだ!
「パピヨンは臭いに惹かれて飛んでいるだけ‥‥ということかな」
慣れぬ手付きでシールドソードを繰り出しながら、マックスがそう分析した。敵意のない者にホーリーフィールドは効果を示さない。
「雪よ風よ、厳しさを纏って吹き飛ばせ──」
ジェシュのアイスブリザートがマックスの罠に群がるパピヨンを一網打尽にする!
「裏手にも!!」
桜花の声が響く! 休む間を与えぬかのように虫たちは離れに群がる。
「これだけ群がれば確かに邪魔でしょうね」
シルフィはホーリーフィールドを更に数箇所に展開する。パピヨンは防げなくとも、冒険者の血を吸おうとする虫たちが近寄れないことに気付いたのだ!
「実質的な戦闘力は無くても、やれる事は探せば結構あるものですね」
「何がやれるかじゃなくて、やれることをどう活かすかだよね」
ジェシュが実年齢相応に大人びた微笑を浮かべた。
「っと、おいでなすったようだな」
ソニックブームでパピヨンを粉砕したシュテルケが表情を強張らせた。ジャイアントマンティスが臭いに惹かれて飛来したのだ!
「くぅっ!!」
マックスが構えたシールドソードに鎌が振り下ろされる!!
「下がってください!」
庇うように桜花が飛び出した!!
「シルフィさん!」
「はい!!」
シュテルケに請われホーリーフィールドを詠唱する!
「ありがたい! まだ死にたくないしね」
剣で鎌を受ける!! 虫の割りに重い一撃は後衛に控える3人であれば大惨事になることは目に見えている。しかし窓は一つではない。
「向こうにも虫が!」
「僕が行くよ、あれくらいなら一人でなんとかなるし」
駆け出したジェシュ、他の窓に近付こうとしたパピヨンや小虫をアイスブリザードで吹き飛ばす!
「きゃああ!!」
「桜花さん!」
数合目を剣で防いだ桜花の視界をカマキリの口が塞いだ!!
「こんなの聞いてないぞ」
目の前で飲込まれた桜花の姿に、ぼそりとシュテルケが呟いた。齧られたのだろう、少女の血が飛び散っている。
「くっそ、鎌から落とすか!」
「援護します!」
ギリギリまで近付いて高速で詠唱したシルフィのコアギュレイトがカマキリを呪縛する!!
「悪く思うなよ!」
付け根から鎌を切り落としたシュテルケは、大きく膨らんだ腹に剣を差し込んだ!
──ズル‥‥
「父なるタロンよ、我が身に奇跡を──」
マックスがミミクリーで伸ばした腕で桜花を引きずり出す!
「大丈夫ですか?」
「ええ」
リカバーを受けた桜花は礼も短くシュテルケのサポートに駆け出した!
コアギュレイトの効果が切れる頃には、大きなカマキリの死体が転がっていた。
「これで終わりじゃありません。頑張りましょう」
一番の打撃を受けた桜花の言葉に、一同は再び気を引き締めた。
●蝶々とガッツン虫
「お腹が減ってはなんとやらって言うじゃない? はい、セフィナちゃんもヴィクトルさんも食べて食べて♪」
友人イリーナの用意した蜜菓子をバスケットから取り出すローサ。蜜の優しい甘みがひと時の癒しと──
「ローサさん!」
「うん?」
残念ながら、レティアの言葉より現れた極彩色の蝶が、蜜に惹かれてバスケットへ飛び込む方が早い!!
「あたしのお菓子ーー!!」
哀れ蜜菓子燐粉塗れ。毒を帯びた蜜菓子を悲しげに見つめるセフィナ。せっかく、お茶も用意したのに‥‥
警戒態勢をとりながらもしょんぼりするセフィナに、龍華の闘志がめらめらと燃え上がる! オーラエリベイション、オーラパワーを唱えた龍華が攻撃に転じる!
「よくも女の子を泣かせたわね!」
「誰も泣いてないよ龍華ちゃんっ」
「心の涙が見えるのよっ!!」
龍叱爪でパピヨンを叩き潰すように切り裂く!!
「手応えがないわね〜」
拍子抜けした龍華。切り応えがなかろうと何だろうと、燐粉を撒き散らしながらパピヨンは無数に舞う。蝶々ホイホイの明かりに照らされ闇夜に浮かぶ極彩色の蝶の群れ。夢のように美しい光景は、悪夢のように禍々しい。
「むー、ここまで多いとは思わなかったかな。というか、これどんな臭いなのよ!」
ローサが突如切れた。ぶっちゃけ、八つ当たり。食べ物の恨みは恐ろしい。
パピヨンの間を縫って飛ぶ羽虫や小さな甲虫はこの際スルー。実害のあるものから倒していかねばならないからだ。
「セフィナさんの意見もジェシュファさんの意見も、多少なりとも聞いてもらえたのが救いですね」
窓枠沿いに漏れる明かりは黒い布に遮られ、パピヨンは侵入することも叶わない。そしてフリーズフィールドは、窓へ達する虫の量を確かに制限していた。
そんな中──‥‥
「きゃあっ!」
「レティアちゃん!!」
一瞬の攻防が悲劇を招いた。
──ボチャン!!
「大丈夫か?」
暗闇を覗き込み、ヴィクトルが手を差し伸べた。
「‥‥ええ、何とか」
その手を掴み、引き上げられるレティア。素人同然の足取りで何とかパピヨンの襲来を避けたレティアは不運にも蟷螂ホイホイに落下し‥‥果物まみれ水まみれ。
「レティアちゃんが蝶々ホイホイになっちゃったね」
「臭いもベトつきも気になりますが‥‥‥凍えし地の雪よ、吹き荒び薙ぎ払え──」
レティア目掛け飛来したパピヨンの群れへ、強力なアイスブリザードを見舞う!!
「効率が上がりましたわ」
「こりゃ負けていられないわ」
苦笑するレティアへ返し、薔薇の瞳は真面目にパピヨンを狙って──2本の矢を放つ!
「父なるタロンよ、自由なるモノへ試練を──」
「皆様を助ける力をお貸しください──」
白と黒のホーリーが蝶を撃つ!
「ヴィクトルさん、デスは試されませんの?」
「虫にも多少なりとも魔力がある‥‥先日書物でそんな記述を見たのだ」
そして、パピヨンには彼の放てるより強力なデスでも効果がない魔力があった。小さな虫が多くなれば使うつもりだが、今使うつもりはない。
「魔力がもったいないですものね」
「残念ながら、な」
再び魔法を撃つヴィクトルの長身の向こうに、小さな何かをみた。
「あちらから虫が」
猛スピードで飛来したのは3cm程の虫は魅惑の臭いを撒き散らすレティアへ突撃した!
「──!!」
鳩尾に突撃した虫に吹っ飛ばされるレティア!
「レティアさん!」
「気をつけろ、ブリットビートルだ。感覚を研ぎ済まして居場所を掴むのだ!」
高速のビートルは視線に頼るばかりでは攻撃どころか防御もままならない。戦闘力は並みの冒険者以上、数メートルの距離から高速で飛来する一撃は戦士たちの使うチャージングに匹敵する効果を持つ。
「リカバーが効かない?」
セフィナはより深い祈りを捧げ、セーラの奇跡を願う。その間にも先頭に立った龍華ががっつん虫の攻撃を何度もその身に受けていた。
「ブンブンブンブン飛び回るなーーッ!!」
セフィナの声に、龍華のイライラは臨界点を突破! 龍華の華麗な飛び回し蹴り──空振り!!
「あああっ! もう、むかつくーーーッッ!!」
とりあえず手近のパピヨンを鷲掴みにして握り潰してみても、そのイライラは晴れるものではない。
「あたしが撃つ!」
数度目にヒットしたローサの矢は硬い外殻に跳ね返された。何度も外殻の隙間を狙い、やがて射た矢が当たってビートルは鋭さを幾分鈍らせた。しかし未だ素早い攻撃‥‥それを自らの身に誘き寄せ、レティアが高速詠唱を駆使してアイスコフィンを放ったのは空も白み始めた頃だった。
「甘く見ていたな」
氷漬けになった虫を見下ろしてヴィクトルは汗を拭った。既に皆、満身創痍。
「一匹とは限らないのですわよね‥‥」
「とりあえず今日はゆっくり休んで体力と魔力の回復を図りましょう。まだあと4日残っていますから」
レティアの言葉に一同は深い溜息を漏らした。
●荷物とペットと愛情と
「私は虫は苦手ではありませんが‥‥これだけ集まると、流石に‥‥ですわね」
ヴィクトルが地道に箒で掃き寄せ山になった虫にレティアが嫌悪の色を浮かべた。
「‥‥水でも浴びたい気分ですわね」
髪の毛に臭いがついているような気がして、セフィナは思わず遠い目をしてしまった。燐粉がついている可能性があるため、臭いは嗅いでいない──臭くてもショックだし。そんなセフィナをもふりと抱きしめ、龍華はほうと溜息一つ。
「背中は流してあげるわよ。悶絶する睡眠時間ともお別れだしね」
虫たちの屍骸を処分したら帰路に着く。
「また、歩くんですね‥‥」
「うわぁ‥‥」
歩くのもままならぬほどの荷物を背負って来たシルフィとジェシュはげんなりと肩を落とした。ジェシュに至ってはまだ50%程度の命令しか聞かない、歩かせることすら困難なウッドゴーレムを連れている。ラティシェフ家へ予定通りに訪れることができたのは睡眠時間を削り、休憩もとらずに移動したからだ。
「帰りは言うこと聞いてくれるといいわね」
ぽむ、と肩に手を置いた龍華をうるりと潤んだ瞳で見上げた。
「荷物だけなら、皆の馬で手分けすれば何とかなるだろうか‥‥」
「すみません、よろしくお願いします」
やれやれと溜息を零したヴィクトルへぺこりと頭を下げたシルフィ。お互い様ですからと微笑んだセフィナは「エクラ、よろしくお願いしますわね」と愛馬を撫でた。
キエフへの道は、果てしなく遠い──‥‥