冒険者って便利屋さん?−世話をしに行く−

■ショートシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや易

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月20日〜08月27日

リプレイ公開日:2006年09月02日

●オープニング

●冒険者ギルドINキエフ
 各国に存在する冒険者ギルドには、常に厄介ごとが持ち込まれている。
 一口に厄介ごとと言っても夫婦喧嘩の仲裁であったり、戦争の戦力要請であったり、種々多様だ。
 そして今日も、厄介ごとが持ち込まれていた──‥‥

「世話をしてほしい、ということかの」
 ドワーフのギルド員は三つ編みヒゲを撫で下ろした。
 ギルド員と向かい合うようにカウンターに陣取っている依頼主は、近隣にある開拓村の男である。
「そうなんだ。森を開拓して、畑を開墾して、それだけならまだしも家を建てかけている現状では、俺たちにはそれ以上手が回らないんだ」
 黒ずんで皮の分厚くなった手を閉じたり開いたりしながら、男は恥じ入るようにポツリと零した。
「飯をやるのは流石に忘れないんだが、遊んでやるなんて時間はないし」
 長老が生きていればな、と悔しそうに漏らす男。家を立てるべく積まれていた丸太が雪崩を起こしたのは不慮の事故だった。下敷きになった長老は村人たちの手当ての甲斐なく命を落とした──家族よりも悲しんだのは、ずっと世話をされていたモノたちだった。
「世話というか、遊び相手をすればいい‥‥ということかのう」
「あんまり我侭放題にされても困る。言うことを聞く程度には躾もしてほしい」
「ふむ」
 ドワーフの無骨な手がさらさらとペンを滑らせる。
 その動きをじぃっと見ていた男は、思いついたように口にした。
「そうだ、読み書きも教えてくれないか?」
「‥‥犬猫や馬に? それは無茶というものだろう」
「誰が犬猫の話をしていたんだ?」
 ドワーフの視線が、羊皮紙からゆっくりと上がっていく。
 依頼人の視線と真正面から交わると──羽ペンから、インクがぽたりと垂れた。
「村のいたずら好きなガキどもだよ、ざっと6人ほど、な」

●今回の参加者

 ea9383 マリア・ブラッド(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9563 チルレル・セゼル(29歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb5604 皇 茗花(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb5612 キリル・ファミーリヤ(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5631 エカテリーナ・イヴァリス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5669 アナスタシア・オリヴァーレス(39歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb5693 ライサ・ミスキナ(23歳・♀・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

アクテ・シュラウヴェル(ea4137

●リプレイ本文

 その日冒険者たちが訪れたのは、未だ発展途上にある比較的小さな開拓村である。
 村の中央で輪切りに切り落とした杉に幼いハーフエルフが腰掛けていた。その、まだ柔らかな金の髪を別のハーフエルフが編み込んでいる。
「目鼻立ちがよく似ていますね。姉妹というのは彼女たちでしょうか」
 日差しを受け輝く金の髪に目を細めながら尋ねたキリル・ファミーリヤ(eb5612)の言葉に軽く頷き、依頼人は年上の少女に声を掛けた。
「皆は?」
「ヘルガが探しに行ってる」
 少女の答えに重なるように、人間の少女が大きな声を上げて戻ってきた。
「だめ、みつからないわー!」
「いないって」
 改めて言った年上のハーフエルフに肩を竦め、依頼人は三人を冒険者に紹介した。
「冒険者のオリガ・アルトゥールと申します、今回は宜しくお願いしますね♪」
 まず最初に挨拶をしたのはオリガ・アルトゥール(eb5706)である。金の髪の隙間から時折り見える碧の瞳が優しげで、目の会った人間の子供が照れたようにぺこりと頭を下げた。
「ヘルガ、7歳よ。よろしくお願いします」
「私はラリサ。よろしくお願いします」
「‥‥」
「私はマリアっていいます。‥‥あなたのお名前はなんていうの?」
 挨拶をしたマリア・ブラッド(ea9383)は、にこりと微笑みラリサの後ろに隠れる少女へ尋ねた。
「アリサってゆーの」
「アリサちゃんね。こんにちは」
「‥‥」
「──アリサ、ご挨拶は?」
「‥‥こんにちは」
 姉に促され、隠れるようにラリサの足にしがみ付いていたアリサがようやく小さく挨拶をした。
「ナイトのエカテリーナ・イヴァリスです。カーチャと呼んでください」
 挨拶をするときは目を見て。そんな基本に忠実にしゃがみこんで挨拶をしたエカテリーナ・イヴァリス(eb5631)。
「カーチャ‥‥?」
「はい、何でしょう?」
 幼い少女の呼びかけに、ぎこちなくにこりと微笑んだカーチャ。その反応にアリサは嬉しそうに照れ笑いを浮かべ──隠れるようにラリサの後ろに引っ込んだ。
「皇・茗花だ。よろしく頼む」
「アナスタシア・オリヴァーレス、通称アンナよね。よろしくね」
「ライサ・ミスキナと申します。よろしくお願いいたしますね」
 皇茗花(eb5604)とアナスタシア・オリヴァーレス(eb5669)、ライサ・ミスキナ(eb5693)が自己紹介を終えたとき。

 ──ヒュッ!

「いたっ!」
 何かがオリガの頭にぶつかった。
「どうしました?」
「今、何かが‥‥」
 キリルの問いかけに首を傾げる事しか出来ないオリガ。
 そのキリルにも何かがコツンとぶつかった。
「っつ!! ──石?」
 ぽとりと足元に落ちたのは小さな石。
「こら! お前ら、何しやがる!」
 依頼人が声を荒げる。彼の視線の先に目を転じたチルレル・セゼル(ea9563)は3人の少年の姿を認めた。
「おっちゃんこそふざけんなよ!」
「そのふよふよしてんのモンスターだよな?」
「冒険者がモンスターなんか連れてくると思ってんの?」
「だからって、他人にいきなり石を投げていい道理はないよねェ?」
 チルレルの言葉は正論だ。けれど正論が必ずしも通じるとは限らない。なぜなら、彼らにとって確かに精霊の輝きはモンスターの妖光以外の何者でもないこともまた真実だからだ。
「恐がらせてしまいましたか? イリヤとチュリーラ、私のペットです。大人しいですし、まだ赤ちゃんなので‥‥あまり苛めないでくださいね」
 二つの光を庇いながら、怒るでもなくにこやかに返すオリガ。小石でも、当たれば命に係わる。生まれたばかりの輝きは決して強くはないのだ。
「エルフがイヴァン、ジャイアントがボリス。そしてリーダー格のハーフエルフがニコラです。すみません、礼儀知らずで」
「それを教えるのも私たちの役目、なのでしょう?」
 ライサの言葉にすまなさそうに小さくなる依頼人。どうやら一番の問題は三人組の対処のようである。

 丸一日を村で過ごしても少年たちの態度は変わらない。石を投げる訳ではないが、三人で消えてしまうのだ。
「もう! やめなさいよ三人とも!!」
「うるせー! ヘルガ、そいつらの手先かよ!」

 ──ドンッ!!
「きゃあっ!」

 ニコラが声を荒げ、呼応してボリスがヘルガを突き飛ばした!
「おっと! 大丈夫かい、ヘルガ。ボリス! 口を出すのと手ェ出すのとは別問題だよ!」
 とっさにヘルガを抱きとめ、チルレルが渇を入れる。
「うっせーよ、ババァ」
「ほぅ。そんなことを言うのはこの口か? ん?」
 むにーっと両頬を引っ張られ顔を歪めるニコラ。彼の処遇はチルレルに任せ、ライサはボリスの前に立った。子供とはいえジャイアントのボリスはライサとさほど身長も変わらない。その少年の目を真正面から、じっと、見つめた。
「貴方の自慢は力ですか、ジャイアントなら同年代の子に比べて力があるのは当然ですよ?」
 ライサの言葉に反抗的な視線を返すボリス。
「‥‥貴方の力はこれからどんどん強くなります。だからこそ、すぐに手を出すなんてことを覚えてはいけない。周りの人を傷付ける力にしてはいけない。本当は、解っているのでしょう?」
「ましてや相手は女の子ですよ、もっと紳士にならなくてはね。そんなことを知ったらウラジミール陛下が悲しまれますし」
 ボリスは二人の言葉に視線を揺るがせた。肖像画でしか知らない国王はとても冷酷な表情をしている。しかし、民を思う気持ちの強い人物だとも聞く。
「あのさ、キリルは‥‥キリルさんはナイトなんだ‥‥でしょう?」
「キリルで良いですよ。はい、ナイトです。神聖騎士ですけれどね」
「俺もさ、ヘルガやラリサたちに優しくしたら‥‥ナイトや神聖騎士になれるかな」
「ふふ、もちろんなれますよ。勉強しないといけないことも多いですけれどね」
「じゃあさ、俺に教えてよ。騎士になるのに覚えなくちゃいけないこと、全部!」
「まずは何よりも、相手を思いやる気持ち‥‥それが大切です。そうですよね、ライサさん」
「ええ。喧嘩も戦争も、誰かが相手を思いやる気持ち忘れた時に起こるのです。人を、周りを思いやる気持ち、それだけはどんな時も忘れてはいけないものです」
 先ほどまでの反抗的な視線とは違う真摯な視線に、ライサは真面目に応えた。
 子供というのはひょんな切欠で成長するのだと、改めて思いながら。
 一人が残ることを選ぶと、他の二人もバツが悪そうにしながらその場に留まった。
「よし、それでは仲直りに縄跳びだな」
「はぁ? 何でだよ」
 イヴァンが眉間を潜める。
「ここに縄があるからだ」
 パッとバックパックからロープを取り出す茗花。
「なんでロープなんか持ってるんだよ」
「縄跳びをしようと思ってな。‥‥これでも昔は縄跳びのメイちゃんと呼ばれていた」
「あはは、嘘くせー!」
「失敬な」
 イヴァンはどうやら茗花を気に入ったようだ。笑いながらもロープの片端をしっかり握る。
「待て、その前に準備体操だ」
 ブーイングを一身に受けながらもしっかりと──どこか華国じみた事前の体操を済ませる。
「やるからには、本気でいきます」
 レインボーリボンできゅっと髪を結い上げるカーチャ。それは彼女が本気になった合図。
「あの、エカテリーナさん。相手は子供ですから‥‥」
「あんまり大人気ないことはするんじゃないよ?」
 ラリサとチルレルの言葉に真剣に頷くカーチャ。
 程なく、ロープが地面を叩く音が軽やかなテンポで流れ始めた──時折り、人を叩く音を織り交ぜながら。
「あの、ライサさん。目が本気ですよ」
「あ‥‥あら?」
 冷や汗を滲ませたキリルに指摘され真っ赤になったライサの足をロープが打ち据えた。

 そんな様子を、一人離れて見守るラリサ。膝に抱えたアリサは小さな寝息を立てている。
「偉いね、いつもアリサちゃんやみんなの面倒を見て」
「そんなことは‥‥」
 マリアの言葉に視線を伏せるラリサ。
「アリサちゃんは私が見てるから、一緒に遊んでいらっしゃい」
「‥‥いい。子供と一緒にいると疲れるから‥‥」
 どうやら背伸びしたい年頃のようだ。
「それじゃ、一緒にお昼を作ってくれないかしら? 人数が多くて、一人じゃ大変なの。アリサちゃんはオリガさんとアナスタシアさんに見ててもらって‥‥どうかしら?」
「‥‥オリガさん、アナスタシアさん。お願い、してもいい‥‥?」
 貰ってきた板にずっと何かを彫ったり書いたりし続けていた二人はラリサの言葉に満面の笑みを浮かべた。
「もちろんです、美味しいご飯ができるのを楽しみにしてますね♪」
「‥‥頑張ります」
 困ったように頷くラリサ。
「あ、でも‥‥泣かれて、困ってしまったら助けて欲しいのね」
「そのときは‥‥呼んでください」
 お願いします、と深々と頭を下げたラリサからアリサを預かって、二人は後姿に手を振った。

 昼食が終わると勉強の時間だ。昼寝の時間を見込んでいたのだが、アリサ以外は昼寝など必要ないようだったので予定を少し繰り上げたのだ。もっとも、初日に全く交流が出来ず遅れが生じていたことを考えれば、寧ろ都合が良かったかもしれない。
「‥‥これは?」
「これを使ってゲームをするのよ。表には絵が、裏には文字が書いてあるからきっと楽しいのね」
 アンナの取り出した木片の山には、確かに絵や文字が記されていた。2日掛かりで作った教材である。
「あ、これ見たことあるぜ!」
 ニコラが示したのは『Haus』の文字。引っくり返すと家の絵が書いてある。
「でも、前に見たのは下にこんな風に書いてあった」
 地面にがりがりと石で書くニコラ。
「惜しいです、一文字違います」
 オリガが枝で正しいスペルを記す。
「でももう覚えたんですね‥‥凄いです」
 昨日掛けられた札は少しだけ。いくつも作る単純作業は正直とても疲れることだったが、どうやらニコラは想像以上に優秀のようだ。
「折角なので、ラテン語とゲルマン語と両方で書いたんですよ」
「ああ、それはいいねぇ。ここはゲルマン語の方が強いけど、ラテン語が必要になる機会も多いだろうからね」
 チルレルが膝を叩いて褒めた。ちなみにオリガにラテン語を教えた教師は茗花である。
「え? まってくれ、家が‥‥?」
「慌てないでください、ボリス。単語の前にアルファベットから覚えていきましょう? 何事も基本は大事ですから」
 ジャイアントのボリスは一歩遅れがち。けれど、騎士になるために必要だと考えたのだろう、真剣な顔で木片とにらめっこをしている。
「ほら‥‥『Boris』‥‥。これがあなたの名前ですよ?」
 ライサが手を取り文字を綴る。ボリスは黙々と、綴られた文字をなぞっている。
「あたしも! あたしにも教えて!」
「ヘルガはね‥‥」
 元気に主張したヘルガにはアンナが文字を教える。
「へっ、つまんね。勝手にやってろよ」
「待って!」
 並べられた木片を蹴り飛ばし、踏み付けて‥‥ライサの静止も無視し、イヴァンはその場を立ち去った。
「八つ当たりはよくないねぇ」
「何だよ、八つ当たりって」
 追いかけてきたチルレルと茗花に冷淡な視線を向ける。
「両親にあまり構ってもらえずに寂しいのだろう?」
「何だよソレ」
 鼻白んだイヴァンの頭をチルリルはわしわしと撫でた。
「寂しいなら寂しいといえば良いのだ。甘えるのは子供の特権だぞ」
 悪戯っ子のような笑みを浮かべた茗花。イヴァンは不貞腐れたようにソッポを向いた。

「オリガ、遊ぼうー!」
「俺たちの秘密の場所に連れてってやんよ」
「他の奴らには内緒だぜ?」
 四日目、ニコラ、イヴァン、ボリスの三人組は朝も早いうちからオリガを連れ出そうとした。目的はイリヤとチュリーラであろう。
 しかしオリガはにこやかにそれを断った。
「残念ながら、今日はかくれんぼだそうですよ?」
「えー、どうしてかくれんぼなんだよ。つまんねー!」
「‥‥好きなんです」
 ぽつ、と呟くカーチャに視線を交し合う三人の少年。やがてニコラが偉そうに踏ん反り返って言った。
「‥‥しょーがねーな。特別だぜ?」
「ありがとう、ニコラ」
「ニコラ、真っ赤よ?」
「何照れてんだよー」
「うっせー!」
「「「にげろー!」」」
 どうやら鬼は自然と決まったようだ。追いかけようとしたニコラは突然カーチャに手を握られて真っ赤になって振り返る。
「なんだよ、逃げられちゃうだろ!」
「きちんと目隠しをして10数えないと駄目です」
 カーチャはどこまでもカーチャだった。
「わかったよっ。でもカーチャも‥‥」
「そうですね、人数も多いですし鬼は二人でもいいと思います。隠れ場所とか、色々教えてくださいね」
 任せとけ、と胸を張るニコラにカーチャは知らず、笑みを零していた。

 遊び、学んだ5日間は瞬く間に過ぎた。朝が来れば村を立たねばならない。
 ──カタ
 夜着に着替えたマリアの耳を、小さな音が打った。顔を上げると扉の陰から金の髪が毀れていた。
「ラリサ、眠れないんですか?」
 マリアの声にビクッと顔を上げたラリサは、切れ長の瞳を揺らした。
「明日‥‥帰ってしまうの?」
 隠しても嘘をついても仕方がない。マリアは頷いた。
「ごめんなさい、そういう約束なの‥‥」
「‥‥そう」
 俯くラリサからはいつもの気丈さは感じられなくて、マリアはそっと立ち上がった。
「いいのよ、甘えても。最後の晩だものね、ゆっくり過ごしましょう。ホットミルクをいれるわね」
 そっと繋いだ手は‥‥まだ、小さかった。

「どうもありがとー!」
 最初に礼を言ったのはヘルガだった。視線を浴び充実した日々はヘルガの輝かしい記憶になるのだろう。
「うえぇぇん!! アリサも行くぅぅ!!」
「アリサ、いい子だから。‥‥さよなら」
 喚く妹を抱き上げて、ラリサは感謝をこめて別れの言葉を告げる。
「‥‥ほら、ニコラたちも。持ってきたんでしょう?」
 少年たちは肘で突き合いながら、後ろ手に抱えていたバスケットを差し出した。
 受け取ったチルリルは、掛けられた布を捲って目を丸くした。ライ麦パンで様々な具を挟んだ弁当が詰められていたのだ。
「これは‥‥」
「ラリサに教えてもらって作ったんだぜ」
「帰りに食べてください」
「でも、バスケットは返せよ。いつでもいいからさ」
 鼻を擦る指は傷だらけで、少年たちの声は虚勢を張っていることがすぐわかる涙声。
「こんなに傷だらけにして‥‥ありがたく頂きますね」
 三人の傷を癒しながら、ライサは
 オリガは子供たちを順番に抱きしめた。
「また必ず会いにきますから」
「ああ、待ってるぜ」
 イヴァンはにやりと笑う。
「今度は本気の私に勝てるぐらい元気で居てくださいね」
 最後に見せられたカーチャの優しい微笑みに、ニコラは力強く頷いた。

 降り注ぐ朝日の中、冒険者たちは村を後にした。
 いつまでも手を振っている、6人の子供たちに見送られながら。

 バスケットの底に隠された木片に気付くのは少し後の話。
 そこには、不器用な文字で三種類の『Danke』が記されていた──